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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科4巻9号

1949年09月発行

雑誌目次

麻醉

無痛法(麻醉法)の必要と發達

ページ範囲:P.445 - P.448

 外科の進歩を促した最大の要素としては,常に3つのものが拳げられている. 即ち止血法,無痛法及び消毒法である. 止血法は今日では極めて纎細な脳血管などの出血を止める高週波電気凝固法,生理的機序に類する人類フィブリン(fibrin foam)とトロンビンとの應用,消毒法には化膿菌を制圧する各種有力な合成殺菌剤(スルフォンアミド剤等)及び抗生物剤を以て從耒の物理的或は藥物的消毒法を補う手段が用いられて耒ておる. しからば無痛法に就てはその進歩発達は何うであろうかというと,今日に於ても絶対に満足且つ理想的の方法は未だない. 殊に單一の麻醉法を以てしては決して満足に行われるものはないのである. しかし徐々に各種の努力,即ち藥物の改良,新裝置の発明,実施方法の進歩,種々の補助手段の考案等によつて進歩発達しつゝある. 外科医殊に日常診療に忙殺されておる者は時に無痛法の必要の根本の理由とその進歩の過程にある現状を靜かに省みてそれ等を考察することは患者の幸福のみならず,無痛法の発展を促す上に甚だ重要なことであろう.
 一般に医療上現在痛みつゝある疼痛に対しては,これを緩解し或は除去する鎮痛剤或は麻藥が使用される. しかし外科医が施す無痛法の必要はそれとやや意味を異にして,外科的治療を施す目的の手術の疼痛を除くものである. 根本の差異は手術によつて附加する新しい疼痛或は苦痛を除くものである.

開頭手術に於ける麻醉及び麻痺法

著者: 田中憲二

ページ範囲:P.449 - P.451

1. 緒言
 開頭手術に際しては古くから局所麻痺を行うべきか,全身麻醉を採るべきかは種々其の利欠点から論議せられ,各自の好むところによつて固執する傾向があつた. 欧州ではヴァンサン,フェルスター等は局所麻痺法を推賞したのに反し,アメリカ大陸では主として全身麻醉法が使用されていた. 其の主なる理由とするところは,長時間にわたつて手術を行う際には中途で局所麻痺が効を失つて疼痛を覚えて不穏状態に入り或は数時間同一位置におかれるための苦痛,忍耐力の消失或は手術操作に対する精神的負担等があげられている.
 しかし現在ではこうした方法を固執することはなく各麻痺法麻醉法を適宜自由に合併し,一方では患者に対する精神的,肉体的苦痛を軽減し,他方手術者が少しの焦燥感もなく落ちついて手術を進行し得るような方法がとられている.

胃手術に於ける無痛法

著者: 大井實

ページ範囲:P.452 - P.457

 手術における無痛法は広い意味での術前・中・後処置であり,かつ他の処置法の援助によつてその充分なる効果が期待できる. 次にいかなる部位の手術に当つても無痛法全般にわたる智識を前提として無痛法が選ばれる. 從つて胃手術における無痛法のみを切り離して述べることは不可能であるが,一應その線に沿つて述べてみる. 便宜上,現在の私が胃手術に際して原則としていかなる無痛法を採用しているかをまず述べてみよう.
1) 手術前夜(胃洗滌後に)に睡眠剤経口的投與(ふつうはバルビタール酸誘導体0.5グラム)

腎臟手術に於ける麻醉法

著者: 落合京一郞

ページ範囲:P.458 - P.462

 腎及び上部尿管手術に於ける麻醉法は大体上腹部臟器手術の場合と同樣で,以下に述べるような種々の術式が應用され得る. 何ずれの方法にも一長一短があり,凡てを同一麻醉法で終始することはいうまでもなく無理である. 從つて個人的な條件と腎手術に於ける特殊性とを考慮した上で,実施者の習熟した麻醉法を主とし個々の場合に應じ適宜の術式によればよい. また時には他の方法を併用せねばならぬこともあり,手術中直ちに他の麻醉法に移行し得る準備が必要なことは一般外科の場合と同樣である. 腎手術に於ける特殊性とは凡よそ次の諸点である. 腎は深い部位にあり從つて無痛的にこゝへ到達するには相当広範囲の麻醉か必要である,手術としては腎剔除術が多く從つて殘存腎に凡ての負担がかゝる,本邦では腎結核が大部分を占め從つて活動性の肺病巣を有するものが少くないことなどである. なお手術々式や病変の程度で異るが,腎剔除術としての所要時間は20-40分前後で1時間を越えることは比較的少ない.

四肢手術に於ける麻醉法

著者: 石原佑

ページ範囲:P.463 - P.468

A.まえがき
 今回四肢手術に於ける麻醉法に就ての執筆を依頼されたが,今更事新しく麻醉の要領,方法の細部を列記,詳述するには当らないと思う.何故なら,外科総論,其他外科医の参考書を飜けば,何時でも理解出耒ようからである.唯実地診療,即ち実際手術に直面した場合に,多少の注意事項,乃至要領の本筋がある事は言うまでもない事で,私は其辺に重点を置いて2,3の事項を述べ,諸家の参考に供し度いと考えるものである.
 四肢手術の麻醉法であるから,脳,脊髄,内臟手術に対する麻醉に関しては,全部省略する主旨であるが,内容中に稍々関聠する所がある場合もあり得るであろう.又私自身は純粹の整形外科の立場にあるけれども,皮膚科,外科等の領域に関係もある事は否めない.

バセドウ氏病並に甲状腺中毒症手術前準備としてのThiouracil

著者: 木村政一 ,   渡邊仁 ,   植草爲松 ,   三條恒夫

ページ範囲:P.469 - P.472

 甲状腺疾患に於て從耒諸学者の研究対象となつているのは主としてバセドウ氏病及び甲状腺中毒症であり,又本疾患の研究対象たる理由の主なるものは特有なる術後バセドウ反應に在る. 術後バセドウ反應を軽減することは即ち本疾患の外科的治療成績を向上せしめることであると云う意味に於て,Plummer & Boothbyによつて提唱された微量沃度投與による手術前処置は特筆すべき叢績である. しかし乍ら微量沃度投與による手術前処置を行つても尚重篤なる術後バセドウ反應を耒すことは稀ではなく,時としては死の轉帰を採る事すらある.
 Thiouracilは1943年以耒Astwood等により本疾患の手術前処置の目的のみならず,保存的治療の目的にも推奨されている藥剤であるが,其の誘導体なるMethylthiouracil,Propylthiouracil等と共に術後バセドウ反應を著しく軽減せしめると言われている.

年少者の手術時無痛法—特に脊椎麻醉法について

著者: 島田信勝

ページ範囲:P.473 - P.475

 年少者の手術時無痛法として吸入麻醉法が一般に普及されていることは周知の事実である. 近時亦オウロパン・ソーダやチクロパン・ナトリウム等が殊に若年者の靜脈内注射による短時間麻醉法として一部に應用され比較的良好な成績をあげていることも一般に認められていることゝ思う. 然し此等も手術時無痛法の見地から考えるならば夫々一得一失があつて勿論完全な麻醉法として一律には論じ得ないことも從耒多くの文献が述べている所である. 又甲斐,小西(日本臨牀外科医会雜誌,第5回,10号,昭17年)両氏は70例の年少者にバルビタール,パピナール併用による基礎麻醉の臨牀的研究を発表し,優秀例は47例で6歳以内のものには殊に有効であることを述べている.
 余等は年少者に脊椎麻醉を施行し,その成績に就いては数回発表しているが,此等の成績を一括して述べてみる. 尚年少者の本麻醉法に就いての発表は比較的少いが,本邦に於ては室田,宮城,岩本,七田,森岡,橋本,馬場等の経驗例がある.

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第4囘日本腦・神經外科研究会次第

ページ範囲:P.468 - P.468

日時 昭和24年10月30日(日曜日)午前8時30分
会場 名古屋市昭和区鶴舞町(市電大学病院前下車)   名古屋大学医学部講堂

前頭葉皮質下切離法

著者: 竹林弘 ,   神吉達 ,   半田二郞 ,   木全弘水

ページ範囲:P.476 - P.480

1. 緒言
 我々は前頭葉皮質下切離法(Prefrontal Subco—rtcotomy or Corticoleucolysis)に就て第62回近畿外科学会,脳研究第1卷,第48回日本外科学会及び第3回脳神経外科研究会に於て既に発表したが,今回は主として手術法に関して述べる事とした.

血液銀行と其の必要性に就て

著者: 井上權治

ページ範囲:P.481 - P.483

近着のアメリカ文献を繙いて見ると,外科,特に内臓外科領域に於て輪血が頻繁に,而も從耒吾々が考えも及ばなかつた樣な大量に使用されている事に気が付く. Whippleが最近40年間に於ける外科治療学の劃期的進歩の原因と思われるものを,種々の項目に分類して合衆國に於て指導的立場にある外科医の意見を求め,多数の返答を綜合した所,各項目の重要性は,次の樣な順序となつてゐる. 即ち
 (1)輸血,(2)術前術後処置,(3)栄養学的研究及び麻醉法,(4)蛋白,体液,電解質の研究,(5)化学療法(6)新技術

赤血球調節に関する頸動脈毬機能に就て

著者: 深町信一

ページ範囲:P.484 - P.486

1. 緒言
 私は昭和20年以耒当科に於て頸動脈毬剔出術を受けた各種疾患200余例の手術前後の血液像を詳細に且つ系統的に観察し他の無菌的手術とは異なり毎常赤血球の増加等一定の変化が血液像に現れる事を確認した. この事は既に学会の席上で又誌上で幾度か発表し各方面で多数の追試もなされているが元耒頸動脈毬はC. Heymans以耒化学的呼吸調節器管なりとして,血液ガス並びに血中の諸種化学物質を感受し主として,外呼吸の調整を司り更に血圧調節を行う. 器管なりとされて現在に至り,血液像ことに赤血球との関係については全く等閑に附せられて耒た. 私はこの術前術後の血液像ことに,赤血球数の変化から頸動脈毬には外呼吸の調整と共に風土順應作用のひとつである赤血球の増減には一定の関係ある事を推察し次に述べる実驗方法を考案しその実驗成績から頸動脈毬の赤血球調節機能と毬を起点とする赤血球調節反射の求心性往路の存在を確認しその大要をここに記載し諸賢の御批判を仰ぐ次第である.

米國外科

ページ範囲:P.490 - P.492

THE JOURNAL OF THORACICSURGERY
 V. 18. No. 2. April 1949.
1.  The Malignant Nature of Bronchial Ade-   noma, Alfred Goldman M. D.………………137

集会

ページ範囲:P.496 - P.498

 東京外科集談会 第479回 昭和24.6.18.
1. 原発性十二指腸癌の1例          東大清水外科 高橋澄
 69才 男子 十二指腸下行部に於げる腫瘍のため胃塞腸吻合術を行い術後肺炎のため死亡せるものの剖瞼に於て乳頭部上方2cmの部に円柱上皮癌の発生を確めた. 腸管粘膜咬k皮よりのものである.

どんな手術時無痛法が一般に行われているか?

ページ範囲:P.499 - P.499

 本誌が麻醉特集号を刊行するに当つて現在我が國の外科医がどんな手術時無痛法を採用しておられるかを知ることも,非常に一般の参考になると考えましたので500余名の方々に次のような問いを郵送しました.
 次の手術には如何なる(イ)麻醉法及び(ロ)術後の鎭痛法を用いられていますか.

第2囘胸部外科學會演題

ページ範囲:P.501 - P.503

日時 昭和24年10月16日(日)・17日(月)9時
場所 京都大学医学部外科整形外科講堂

外科醫のノート

尿道の損傷

著者: 金子榮壽

ページ範囲:P.487 - P.488

 損傷を尿道に受けた場合に,患者が泌尿科を先づ訪れるのは,寧ろ稀であつて,その多くは取り敢えず外科を訪ねるものである. 殊に骨折等の合併症があれば,尚更のことである.
 故に,泌尿科医は,損傷を受けた直後の症例を診ることは比較的稀である. 多くの場合が,尿道損傷の跡始末特に損傷治療後の尿道狹窄症に就て相談をうけることが多い.

外科と病理

潜伏梅毒患者に發生した胃癌

著者: 石井良治

ページ範囲:P.488 - P.489

 入院後潜伏梅毒及び総腸間膜症を証明した胃癌患者に全身療法とマハルゾールによる駆梅療法を施行し,一般状態恢復後胃腸吻合術を行い術後順調に経過したが抜糸後急劇に惡化し,遂に術後12日目に死亡し,翌日病理解剖を行つた症例である.

最近の米國外科

長管骨の大なる分裂骨折片の脈管欠損性壊死,他

著者:

ページ範囲:P.493 - P.495

 コンピァー氏は,大腿骨々頭が大腿骨頸部の関節嚢内骨折或は関節脱臼轉位によつて壊死に陷り,又小さい骨,例えば足根骨,手根骨の舟状骨或は月状骨,更に中足骨の末梢端の骨端部が無菌性壞死も起すが,これ等は何れも外傷後に続発する骨の無菌性壞死の最も通常認められる場所であることを指摘している.又Phemister氏は距骨体部が骨折或は骨折脱臼後に壞死に陷り,又長管骨もその分裂骨折に於て大なる骨片が壞死することを記述している.しかし長管骨骨幹部の外傷性壞死の臨床上の重要性は,從耒多数の整形外科医からは余り認められなかつた.
 コンピアー氏は大なる長管骨の分裂骨折の定型的経過の症例報告をしている.大腿骨,脛骨,上膊骨或は前膊骨の何れか1つ骨が周囲の軟部組織より分離して,その結果血液を供給する栄養血管,骨幹端血管,骨膜血管が骨片から分離してしまうことがあるが,その樣な場合には分裂した骨片,時としてはその2つの大骨折片の両端がその生活力を失つて,そのままの自家移植骨片と同樣の状態になる.

新医療法の解説

輸血に関して醫師の準備事項の基準,他

ページ範囲:P.500 - P.500

 厚生省では輸血の用に供する血液の純潔を確保すると共に,傷病者のために血液を提供する者の健康を保護し,國民医療上輸血の適正を期するため医師法を改正したのであるが,改正医師法第24條の2及ひ改正歯科医師法第23條の2の規定に基き,輸血に関し医師(歯科医師も含む以下同じ)の準拠すべき事の基準が,厚生省告示で今回次のように定められる事になつた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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