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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科40巻12号

1985年11月発行

雑誌目次

特集 肝硬変合併患者の手術と管理

肝硬変合併患者の評価と術前管理

著者: 兼松隆之 ,   古川次男 ,   杉町圭蔵

ページ範囲:P.1483 - P.1486

 肝硬変合併患者の術前評価は,一般肝機能検査と共に,特にICG R15を重視している.その適応限界は,(1)肝葉切除ICG 20%以下,(2)小範囲肝切除ICG 35%程度まで施行可,(3)肝切除以外のmajor surgeryは,ICG 35%が限界.高度肝障害例では,肝循環測定により適応を決定する場合もある.肺機能は,closing volume/vital ca—pacity 30%以下,functional residual capacity-closing capacityで負の値をとるものでは,術後肺合併症を来しやすいので,術前後にかけて厳重な呼吸管理を要する.肝硬変合併患者は低栄養状態にあることが多く,その評価法と改善のための手段の確立が望まれる.

術中管理と手術方針—食道癌手術

著者: 村上卓夫 ,   石上浩一 ,   岡正朗 ,   正木康史 ,   清水暢 ,   林弘人

ページ範囲:P.1487 - P.1492

 食道癌症例は,比較的高齢者が多く,また合併疾患を有していることが多い.切除再建食道癌277例について,術前検査より臓器別機能異常例をみると,肺機能異常43.5%,心電図異常33.9%,肝機能異常15.2%,腎機能異常15.2%で,全く異常の認めなかつたものはわずかに4.0%にすぎなかつた.
 肝硬変合併食道癌は10例3.6%であり,Child分類Aが2例,Bが5例,Cが3例で手術死亡はChild Cに多かつた.肝硬変症例で早期死亡群と耐術群において,術前の肝機能検査についての比較では,とくにCh-E値およびAlbumin値において早期死亡群が有意に低値を示していた.術中出血量では,肝硬変合併症例が,肝機能異常症例よりも出血量が多く,とくに食道静脈瘤合併食道癌症例に出血量が多いことより,十分な注意を要す.
 術後腹水においては,肝硬変症例に術後腹水の流出が多く,とくに肝硬変合併食道癌例では,リンパ節郭清や迷切の髭響により,食道静脈瘤手術のそれより多かつた.術後肺合併症においては,肝硬変症では肺内シャントの開大などにより術後肺合併症が高率で,しかもリンパ節郭清にともなうリンパ流の遮断及び迷切による影響が老えられる.
 以上のことより,肝硬変合併食道癌例の手術においては,術後予後からみた術前評価を検討して手術適応を決め,手術に関しては,手術時間,出血量を少なくし,リンパ節郭清にさいしては,迷走神経枝の損傷をさけ,リンパ管は確実に結紮することが望ましい.

術中管理と手術方針—食道静脈瘤手術

著者: 深澤正樹 ,   二川俊二 ,   杉浦光雄

ページ範囲:P.1493 - P.1498

 肝硬変合併食道静脈瘤に対する経胸的食道離断術における手術方針の決定には,予防,待期,緊急手術ともに総ビリルビン値,血清アルブミン値を主な指標とし,Child分類やKICG値を参考にしているが,近年,肝癌合併食道静脈瘤症例の増加や内視鏡的硬化療法の導入などによつて治療方針が複雑化していることから,現時点における教室での考え方を述べた.
 術中管理の要点として,呼吸の点からは本法に比較的多い無気肺の予防,循環系の問題として術中血圧維持や新鮮血輸血の必要性,麻酔の面から肝に比較的負担のかからないと思われる硬膜外麻酔併用のGO+Ethraneの採用などについても簡単に触れた.

術中管理と手術方針—胃癌手術

著者: 武田仁良 ,   山名秀明 ,   橋本謙 ,   荒木恒敏 ,   掛川暉夫

ページ範囲:P.1499 - P.1502

 肝障害の終末像である肝硬変を合併した胃癌手術では,手術侵襲に伴い各種臓器に与える影響は大きい.特に肝予備能でICG消失率の経日的変化では一般に術直後が最も低下するが,肝正常群の開胸のみの肺癌手術では13%低下,胃癌では23%低下し,術後14日目には両者とも術前値まで回復していた.一方,肝硬変群では門脈圧亢進症に対する開腹のみの直達手術で34%,胃癌で35%と著明に低下し,両者とも術後14日目でもわずかに回復したに過ぎない.
 肝硬変合併胃癌に対しICG消失率,ICG-Rmaxを中心に肝予備能からみた手術適応につき,手術方針,術式選択,麻酔,術前後の管理につき報告する.

術中管理と手術方針—胃・十二指腸潰瘍手術

著者: 青木照明 ,   稲垣芳則 ,   佐々木謙伍 ,   岩崎貴 ,   森川洋一 ,   関口更一 ,   長尾房大

ページ範囲:P.1503 - P.1507

 肝硬変症,とくに門脈圧亢進症を伴つている肝硬変症では胃・十二指腸において胃壁の循環動態の変化,防御因子の低下などにより胃内病変は多彩であり,急・慢性潰瘍が約40%に合併していた.また肝硬変性門脈圧亢進症の出血例の1/3は胃内病変よりの出血である.合併胃・十二指腸潰瘍は原則的には極力,保存的に加療すべきであり,止血不能の出血例は手術時期を失することなく緊急手術を行わねばならないが,食道静脈瘤が併存する時,全身および肝の病態,食道静脈瘤への対策を十分考えねばならない.57例の手術を行つたが,十二指腸潰瘍は食道静脈瘤の直達手術で十分の治療効果があつたが,胃潰瘍は,発生部位による術式選択に一層の検討が必要であつた.

術中管理と手術方針—腹部大動脈瘤手術

著者: 佐藤紀 ,   多田祐輔

ページ範囲:P.1509 - P.1511

 肝硬変症に腹部大動脈瘤を合併することは比較的稀であるが,この合併に遭遇した場合,両疾患の生命予後を勘案して手術適応を決定する必要がある.すなわちChild B,Cの肝障害のある患者に対しては症候性の瘤のみを手術適応とするべきである.術式は一般の腹部大動脈瘤と異なる点は少ないが,出血量を減少させるためにwoven graftを用いる,また瘤周囲の剥離を最小限にとどめる,等の配慮が必要である.術中術後の管理の上では低血圧,低酸素血症を避け,また十分量のカロリーを経静脈的に投与するように心がけるべきである.

術中管理と手術方針—肝癌手術

著者: 中西昌美 ,   五十嵐究 ,   佐藤直樹 ,   佐野秀一 ,   内野純一

ページ範囲:P.1513 - P.1518

 肝癌の切除率の向上は,近年の画像診断の進歩によるところが大であるが,併存病変としての慢性肝炎,肝硬変症によりその切除量は大きく制限される.多くは中等度以上の肝障害例であり,術前の病態把握は術中・術後管理および手術方針に直接関与するもので,慎重な検討と判断が重要である.
 手術方針としては術前の肝予備能などを参考に術中の肝肉眼的所見,腹水のcontrolの状態,その他総合的に決定されなければならず,また術中管理は術前の代謝変動の把握を十分に行つたうえで,麻酔医ともよく協力して行うことが肝要である.

術中管理と手術方針—胆石症手術

著者: 今岡洋一 ,   松代隆

ページ範囲:P.1519 - P.1523

 肝硬変に続発する胆石は主に非炎症下に生成されるもので,黒色石が多く,大部分が胆?結石である.無症状あるいはこれに近いものでも,突然急性胆嚢炎に移行することもあり,手術をすすめるべきである.代償期の肝硬変であれば,多少の肝予備力の低下があつても胆摘,胆管切開などは安全に行い得ることを強調した.
 一方,炎症下に生成されるビ石を誘因として発症する胆汁性肝硬変では,種々の付加手術を要する場合が多い.この際,肝葉切除などは肝障害が軽度でも侵襲が過大となることがある.胆汁性肝硬変合併時には,まずPTCSや胆管外瘻による結石の除去を試み,肝の病態を正確に把握した上で,最小の手術侵襲による根治手術を行うべきである.

術後管理の工夫

著者: 上山泰男 ,   浮草実 ,   田中純次

ページ範囲:P.1525 - P.1530

 肝硬変合併患者の術後の病態はおのおのの症例,および時期によりことなり,術後の肝のredox state(NAD/NADH)を血中で反映するケトン体比(acetoacetate/β-hydroxybutyrate比,正常値,糖負荷時0.7以上)の変化として表現される.この低下につれて術後合併症の頻度が増し,0.4以下では多臓器障害に至る,redox stateの低下は肝のみならず,全身性の代謝失調,各臓器の機能障害を包括しているものであり,術後管理の目的はこの低下を防止し,上昇を計ることである.この観点より具体的治療法について述べた.

カラーグラフ 胆道疾患の外科病理・4

リンパ濾胞性胆嚢炎

著者: 武藤良弘 ,   仲間ベンヂャミン ,   出口宝

ページ範囲:P.1479 - P.1481

リンパ濾胞性胆嚢炎とは
 通常の慢性胆嚢炎とは異なり,粘膜固有層にリンパ濾胞(lymph follicles)の形成がみられる胆嚢炎はchole—cystitis lymph-follicularis,chronic follicular chole—cystitis1-3)と呼ばれている.このリンパ濾胞形成の程度は症例によりまちまちであるが,胆嚢全体に,すなわちいずれの組織切片にもリンパ濾胞形成がみられるものをリンパ濾胞性胆嚢炎と定義し,胆嚢の一部にリンパ濾胞形成がみられる症例や不完全なリンパ濾胞形成例は除外した.

出血との闘い・局所止血法の歴史・5

18世紀以降の止血法の発展

著者: 安藤博

ページ範囲:P.1531 - P.1533

 先に4回にわたり18世紀初頭までの止血法の発展について筆を進めてきた.今回は近代外科の基礎が築かれる18世紀の止血法,とくに止血器具の変遷について述べてみたい.
 フランスの外科アカデミー(Academie de Chi—rurgie)の初代院長であり,解剖学的基礎教育の重要性を主張したプティ(Jean Louis Petit,1674〜1750)は,1718年に出血を軽減するために動脈を圧迫するネジ巻きコンプレッサーを開発し,その器具にターニケット(Tourniquet)の名称を付けている.

文献抄録

腹部大動脈再建術後に合併する虚血性大腸炎

著者: 岩田憲治

ページ範囲:P.1534 - P.1534

 左側結腸の虚血は,腹部大動脈再建術後のまれな合併症であるが,死亡率は高く,75%で,大動脈術後死亡の約1/4を占める.この病態を理解するために共同研究を行つた.
 対照 全デンマークの血管外科施設での1975年〜1981年までの腹部大動脈再建術3,092例中,虚血性大腸炎は23例,うち17例が全層壊死,6例が粘膜壊死であつた.年齢は53〜76歳,平均67歳,男女比1:2,全例血管造影と術中精査で,腸間膜動脈内腸骨動脈の開存を確認した.基礎疾患は大動脈腸骨動脈閉塞例12例,大動脈瘤11例(うち破裂性7例)の計23例である.

画像診断 What sign?・32

Presacral spaceの開大(widening of the presacral space)

著者: 佐藤豊

ページ範囲:P.1535 - P.1535

 骨盤内腫瘤を鑑別する場合の基本的な鑑別点は,腫瘤の占拠部位が直腸の後側(retrorectal)か,膀胱と直勝の間のダグラス窩かを決定することにある.retrorectal massの代表例は小児にみられる仙尾部奇形腫であり,バリウム注腸の側面像で仙骨と直腸の間の軟部組綱presacral spaceの開大がみられる.その他の鑑別診断としては表にあげる疾患群が考慮される.

座談会

外科臨床における腫瘍マーカー—適応,限界,将来

著者: 森武貞 ,   高橋俊雄 ,   小島治 ,   高見博 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.1537 - P.1544

 癌診断のうえで,多く臨床的に使われるようになつた腫瘍マーカー,そして最近,"ミサイル療法"として有名になつたモノクロナール抗体を用いての癌治療など,腫瘍マーカーの最前線と将来について,その理論的背景,研究上のご苦労などを中心に話しあつていただいた.

講座 腫瘍マーカー—適応と限界・7

消化器内分泌腫瘍

著者: 黒田慧 ,   森岡恭彦 ,   豊島宏

ページ範囲:P.1545 - P.1549

はじめに
 消化器内分泌腫瘍は複数のホルモンを産生するmix—ed cell typeが多い.その多くはホルモン過剰症状を示さない無症候性腫瘍にとどまるが,一部は産生ホルモン中,生物学的活性の強いホルモン(原因ホルモン)の作用によつて特有の臨床症候(図1)を呈する(症候性腫瘍と呼ばれる).
 無症候性,症候性を問わず,腫瘤が産生するホルモンは,腫瘍の存在や手術後腫瘍遺残の有無,腫瘍再発を示す最も有用なmarkerとなる.

腹部エコー像のPitfall・16

腹腔内Echo Free Spaceと小児腹部疾患

著者: 松田正樹 ,   井上健一郎

ページ範囲:P.1551 - P.1553

この患者の診断は
症例1 56歳 男性 主訴:腹部膨満感
症例2 5歳 男児 主訴:血尿

My Operation—私のノウ・ハウ

虫垂切除術

著者: 浅野哲

ページ範囲:P.1555 - P.1558

適応と手術
 急性虫垂炎は発生頻度が高い急性疾患であり,虫垂切除術が治療手段となる.本術式は外科医の初歩の手術手技とされ研修医などの若手の修練の対象となることが多い.しかしその正確な診断と治療は必ずしも容易ではなく,熟練した外科医も難渋することがある.
 診断においては絶対的根拠となる臨床所見と検査方法はない.典型例では比較的容易であるが,小児や高齢者にしばしば見られる非典型例ではかなり困難であり,多くの疾患と鑑別しなければならない.急性胃腸炎,急性回腸末端炎,右結腸憩室炎,メッケル憩室炎,尿管結石,女性では子宮附属器炎,子宮外妊娠,小児では腸間膜リンパ節炎,高齢者では結腸癌などを検討し,それぞれを除外しながらいずれも相当しない場合を急性虫垂炎とする除外診断法を用いる.手術適応においては,過去では腹膜炎を合併しやすい危険度を考慮するために,右下腹部痛を訴える患者に急性炎症所見が乏しいにもかかわらず不必要な虫垂切除術が行われた傾向が見られた.しかし現在では軽症には抗生剤により治療しうるし,重症には術中術後の管理により適切に処置しうる.また虫垂切除術後の腸瘻形成,癒着イレウスなどの合併症を無視できないので,手術適応が巌しく検討されるようになつた.

シリーズ・がん集学的治療—いま,放射線療法は・4

胃癌の術中照射

著者: 高橋正治 ,   芝本雄太 ,   阿部光幸 ,   戸部隆吉 ,   稲本俊

ページ範囲:P.1559 - P.1563

はじめに
 放射線治療の適応は,基本的には正常組織の障害が許容しうる線量(耐容線量)と,がん病巣を致死に導きうる線量(致死線量)との比によつて決定されるといえよう.胃癌の場合には,致死線量が病巣周囲の正常な胃や小腸,大腸,あるいは腎,脊髄などの耐容線量よりもはるかに大きいので,従来,放射線単独治療の対象となることはまれであつた.しかし,致死線量は腫瘍の大きさに依存し,腫瘍容積が小さくなるにつれて,致死線量は減少することが知られている1).さらに,耐容線量の低い消化管などの正常組織を照射野外にはずし,なおかつ脊髄などの被曝線量を減らすことができれば,致死線量を安全に照射することが可能となり,胃癌に対しても放射線治療は適応になりうるであろう.
 一方,早期診断が可能で,正診率の高い胃癌では,手術の根治性が高いものの一つに挙げられているが,それでも限界がみられるようである.たとえば,施設によつて異なるけれども,表に示すように,治癒切除率は切除可能例の66〜70%,また手術可能例の41〜60%にすぎない2,3).大血管や周囲組織に病巣が残存する非治癒切除のみならず,顕微鏡レベルの病巣遺残が疑われる治癒切除例においても,放射線治療を追加することによつて手術の根治性をさらに高め,手術の適応を拡げることができるかもしれない.

臨床研究

血行再建を伴つた悪性腫瘍広汎合併切除の経験

著者: 清水康廣 ,   久保義郎 ,   岡野和雄 ,   松前大 ,   今脇節朗 ,   今吉英介 ,   金藤悟 ,   清水信義 ,   内田發三 ,   寺本滋

ページ範囲:P.1565 - P.1571

はじめに
 今日,腫瘍外科の一般的趨勢は,より根治性を高める目的で,根治的広汎切除を行う傾向にあり,進行性悪性腫瘍で隣接臓器に浸潤の及んだ症例に対しても,それらを腫瘍とともに積極的に合併切除する傾向がみられる.
 とくに最近における血管外科の進歩,発展とその普及にともない,従来は根治手術の適応外とされていた主要血管への浸潤を有する症例に対しても,主要血管を合併切除し,血行再建が行われ始めている.

食道癌術中大量コロイド輸液の意義

著者: 北野光秀 ,   安藤暢敏 ,   大上正裕 ,   棚橋達一郎 ,   山本裕 ,   池端幸彦 ,   小沢壮治 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.1573 - P.1578

はじめに
 食道癌根治手術は開胸開腹という外科的大侵襲に加え,高齢,重要臓器の予備力の低下,低栄養などの生体側の不利な要因もあり,術後に呼吸不全,循環不全などの致命的な合併症に陥る危険性が比較的高い.教室では10年来,Swan-Ganz catheterおよびレスピレーターによる呼吸循環管理を施行してきたが,食道癌術後循環動態の解析の結果,多くの症例が術直後にhypovolemiaに傾くことが判明した.したがつて術中には10 ml/kg/hr以上,術当日から術後1病日には3.0〜3.5 ml/kg/hrと十分にhydrationを行い,逆にrefilling期の3〜4病日には1.5ml/kg/hr以下に制限する輸液管理を施行してきた1)
 しかし,その輸液内容は術後にはコロイド輸液を併用したが,術中は電解質輸液のみであつたため,術後早期の膠質浸透圧低下による悪影響として,肺間質浮腫や低酸素血症の遷延化が危惧された.そこで術中よりコロイド輸液を比較的大量に使用し,その有効性や問題点につき検討した.

臨床報告

気管原発腺様嚢胞癌の1治験例

著者: 安部彦満 ,   石田薫 ,   佐藤信博 ,   玉沢佳之 ,   中村隆二 ,   村上弘二 ,   森昌造 ,   近芳久 ,   高山和夫

ページ範囲:P.1579 - P.1583

はじめに
 気管原発の悪性腫瘍は比較的稀なものとされ,そのなかでも気管腺様嚢胞癌は数少ない.また,気管という特殊な発生部位を考えると治療上の問題点も少なくない.最近我々は上部気管に発生した腺様嚢胞癌の1症例を経験した.そこで,自験例を加えて文献的に調査し得た58例の気管原発の腺様嚢胞癌の本邦報告例について臨床的検討を加え報告する.

豊胸術後両側乳癌の1例

著者: 下間正隆 ,   大槻鉄郎 ,   本田光世 ,   清木孝祐 ,   藤井宏二 ,   高橋滋 ,   泉浩 ,   加藤元一 ,   竹中温 ,   沢井清司 ,   新畑宰 ,   徳田一 ,   山本実 ,   原田稔

ページ範囲:P.1585 - P.1588

はじめに
 豊胸術後乳癌には診断,治療の困難性や豊胸術と乳癌発生の因果関係の有無など種々の問題が含まれている.
 最近,著者らは異物注入による豊胸術後23年目に左側の乳癌,24年目に右側の乳癌を認めた豊胸術後両側乳癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

成人におけるDysphagia lusoriaの1手術治験例

著者: 村上卓夫 ,   石上浩一 ,   正木康史

ページ範囲:P.1589 - P.1594

はじめに
 異形鎖骨下動脈により,食道・気管が圧迫されて呼吸障害,嚥下困難をきたす症例は,乳幼児においては比較的多く報告されている.成人における異形右鎖骨下動脈による嚥下障害をきたす例は,乳幼児のそれに比べて稀である.またその治療に関しても,成人では乳幼児の場合と異なつて,異形右鎖骨下動脈の結紮,切離のみでは,上肢の壊死や虚血による前腕の脱力感,間歇的疼痛,またsubclavian steal mechanismによる二次的な脳症状を呈することがある.
 われわれは成人男性で,嚥下障害を主訴とし,術前の諸検査でdysphagia lusoriaと診断し,手術による血行再建により治癒した症例を経験したので若干の考察を加えて報告する.

食道癌肉腫の2手術例

著者: 布施明 ,   亀山仁一 ,   豊野充 ,   松本修 ,   鈴木康之 ,   塚本長

ページ範囲:P.1595 - P.1599

はじめに
 癌肉腫は同一腫瘍内に癌腫の組織と肉腫様の組織をもつ特異な腫瘍であり,食道に発生する癌肉腫はきわめて稀である.我々は以前"真の癌肉腫"1例を経験し教室の豊野ら1)が報告しているが,今回さらに"いわゆる癌肉腫"1例を経験したので,これら2例につき文献的考察を加え報告する.

中結腸動脈瘤破裂の2例—報告例の集計と文献的考察

著者: 宮地正彦 ,   蜂須賀喜多男 ,   山口晃弘 ,   広瀬省吾 ,   深田伸二 ,   鈴木雄彦

ページ範囲:P.1601 - P.1607

はじめに
 腹部内臓血管動脈瘤は稀な疾患であるが,動脈撮影の技術の進歩とともに,その報告例は増加してきている1).しかしながら,そのほとんどは臨床症状を伴わないために術前診断は難しく,動脈瘤破裂により発症し,急性腹症として開腹され,本疾患と診断されることが多い.われわれは腹部内臓血管動脈瘤の中でもとくに稀な中結腸動脈瘤の破裂による腹腔内出血をきたした2症例を経験したので文献的考察を加え報告する.

盲腸憩室炎を契機に発見された虫垂憩室の1例

著者: 田中忠良 ,   大西博三 ,   兼定博彦

ページ範囲:P.1609 - P.1612

はじめに
 虫垂憩室は比較的まれな疾患であるが,欧米では1974年の時点ですでに1,300例以上の報告がみられ1),憩室炎による急性虫垂炎に酷似した臨床症状の発現ならびに重篤な合併症の発生によつて注目されている2).他方,本邦では佐藤ら3)によれば1984年現在で41例の報告がみられるに過ぎず,とくに術前診断例はわずかに2例である.われわれは盲腸憩室炎患者にみられた虫垂憩室の術前診断例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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