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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科40巻6号

1985年06月発行

雑誌目次

特集 がん・画像診断の死角

食道

著者: 掛川暉夫 ,   幕内博康 ,   磯辺真 ,   岩本元一

ページ範囲:P.9 - P.35

はじめに
 食道癌の診断にはX線検査と内視鏡検査が,今もつて最も信頼のおける検査法であり,特にルゴール染色などに代表される色素内視鏡検査を行えば,今や上皮内癌の診断も可能となつてきた.しかし食道癌の治療に携わるわれわれ外科医にとつては癌の診断のみならず,術前に腫瘍の伸展の範囲,外膜浸潤の程度やリンパ節転移,血行性転移の有無などの情報を基に,手術適応の有無や手術術式,術前合併療法などの選択を的確に判断する必要があり,従来,術前のスクリーニング検査として血管造影やリンパ管造影などが合わせて行われてきた.一方,CT,超音波検査などをはじめとするME(Medical Engineering)機器の飛躍的進歩には目をみはるものがあり,最近では超音波内視鏡やNMR-CTなども出現しその確立が期待されている.またこれらの画像診断法には非侵襲的な検査であるという共通した長所を持ち,術前のスクリーニング検査として適切であり,血管造影などの侵襲的な検査法の地位は次第に低下している.

胃・十二指腸

著者: 比企能樹 ,   三重野寛喜 ,   嶋尾仁 ,   大井田正人 ,   副島愼一 ,   草野正一 ,   村田晃一郎

ページ範囲:P.37 - P.61

はじめに
 胃がんの診断技術は,わが国は世界に先がけて1953年より胃二重造影法をとり入れ,これとほぼ平行して,胃内視鏡の発達により,小さな病変でも発見できる時代になつてきた.
 とはいうものの,日常の臨床で,殊に外科医の立場で,手術を前提とした診断となると,単なる存在診断のみではすまされなくなる.すなわち,病変の部位,大きさ等の性状は勿論のこと,この病変が,胃の壁外にどの様な変化をおよぼしているか? 全身的にどの様な変化をきたしているか? 転移がないか? など,相対的な見方が要求される.

小腸

著者: 福島恒男 ,   土屋周二

ページ範囲:P.63 - P.68

はじめに—小腸の場合—
 小腸の癌はきわめて少なく,全腸管癌の約1%を占めるにすぎない.発生部位としては十二指腸がほぼ半数を占め,残りの約半数が空腸と回腸から発生する.空腸と回腸の発生頻度を比較すると約2:1で空腸に多い.また空腸を上,中,下部と3等分するとほとんどが上部空腸に発生する.一方,回腸も同様に上,中,下部と3等分するとほとんどが下部回腸に発生する.このことから,少なくとも小腸の癌を疑つた場合には空腸上部か,回腸下部に注目する必要があろう.
 また,小腸には癌だけでなく,adenoma,polyp,lipoma,myoma,fibroma,angiomaなどの良性腫瘍やlymphosarcoma,leiomyosarcomaなどの肉腫,転移性腫瘍などもあり,これらとの鑑別診断も重要である.

大腸

著者: 大木繁男 ,   土屋周二

ページ範囲:P.70 - P.87

はじめに—大腸の場合—
 がん画像診断の死角という題で今度企画が組れたことは今まさに画像診断の急速な進歩が起こりつつある現在,時宜を得たものであろう.最近はまた本邦においても大腸癌の著しい増加もあり大腸癌の診断や治療法が外科医の関心の的となつている.
 ところで,ここで「画像診断の死角」という主題の死角とは何か,その語義を調べてみたい.広辞苑によれば鉄砲の射程内であるが他物の障害及び鉄砲の構造上どうしても射撃し得ない区域,遮蔽物のためある角度から見ることができない地点となつている.そこで大腸の画像診断において死角とは何かと言えばそれぞれの検査法で見ることができない範囲,診断困難な部分さらに拡大解釈して比較的見落としやすい盲点と理解してよいと思う.しかし例えば下血の症状があり大腸癌と疑つて注腸X線検査をするときその存在診断は外科医にとつてそれ程困難なことはない.それでは一体大腸癌はその存在診断だけで良いであろうか.最近では大腸癌の手術でも癌に対する根治性を少しでも向上させるために広範なリンパ節郭清を行うことも一般的なことになつている.隣接臓器へ浸潤する癌ではこれらの臓器の合併切除や骨盤内臓器全摘術も行われている.一方直腸癌では癌の根治性だけでなく排便,排尿機能や男性の性機能を温存する手術も工夫されている.そこでいろいろの手術術式を選択するためにも大腸癌の検査では予後を左右する因子をできるだけ多く詳しく術前に診断できることが理想である.

肝臓

著者: 伊藤徹 ,   針原康 ,   三條健昌 ,   出月康夫 ,   万代恭嗣

ページ範囲:P.89 - P.105

はじめに
 超音波断層法(US),コンピュータ断層撮影(CT)の進歩に伴つて肝疾患に対する画像診断は様相を一変しつつある.肝腫瘍の存在診断を目的とした肝シンチグラフィーは特殊な例を除いては不要のものとなりつつあり,血管撮影(SAG)も単なる腹腔動脈造影だけでは,US,CTで得られる所見以上のものが少ないため,超選択的造影やpharmacoangio—graphyが要求されるようになつている.
 一方,US,CT,SAGともに,肝腫瘍の存在診断・質的診断・部位診断に関して,診断能には差がありそれぞれに死角とも表現されるべき問題点がある.そこで今回は主として肝癌の診断,手術適応の決定という面から,これら各種画像診断の死角ともいうべきものをとり上げつつ,各診断法が何を目的とした検査であるべきかを論じてみたい.

胆道

著者: 二村雄次 ,   早川直和 ,   長谷川洋 ,   神谷順一 ,   磯谷正敏 ,   岡本勝司 ,   高江洲裕 ,   岸本秀雄 ,   中山隆 ,   塩野谷恵彦

ページ範囲:P.107 - P.126

はじめに
 胆道の画像診断法には超音波検査(US),コンピューター断層撮影(CT)が最も非侵襲的であるために第一選択に用いられる場合が多いが,胆道癌の診断にfirst choiceにCTを行うことは少ない.USは存在診断法を画期的に発展させてきた.胆道造影法には間接造影法と直接造影法とがあるが,USの発展にともない胆道癌の診断に間接造影法が行われる頻度は減少しつつある.直接造影法には内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)と経皮経肝胆管造影(PTC)とがあるが,無黄疸例にはERCPを先に行うが,黄疸例の特に胆管炎を併発している場合にはERCPは禁忌になる場合があり,PTCから直ちに経皮経肝胆管ドレナージ(PTCD)を行うようになつてきた.直接胆管造影で得られた胆管像でもERCPとPTC,あるいはPTCとPTCDとでは造影能に差があり,それぞれの長所,短所のあることを念頭に置いてX線像を検討しなければならない.
 しかし,直接胆管造影を相当詳細に行つても内側区域枝,尾状葉枝,外側前枝は造影されない場合が多く,ここがPTC,ERCPの死角となる.

膵臓

著者: 宮下正 ,   塩田昌明 ,   内藤厚司 ,   鈴木敞 ,   戸部隆吉

ページ範囲:P.127 - P.149

はじめに
 消化器外科領域の臨床に携わる者にとつて,形態学的診断法はかつてないほど豊饒な時代となつた.主題である膵臓に関する画像診断法をほぼその登場順に眺めると,上部消化管透視—低緊張性十二指腸造影,胆道造影,膵シンチグラフィー,血管撮影(SAG),逆行性膵胆管造影(ERCP),超音波断層法(US),コンピューター断層撮影(CT)の多きに至り,今またNMR-CTも実用化の兆しをみせている.
 もちろん,時代の変遷とともに,これらの評価も一定ではなく,たとえばつとには膵シンチグラフィーや低緊張性十二指腸造影なども,その後の有力な診断法の登場によつて意義は大幅に減じている.

甲状腺

著者: 河西信勝

ページ範囲:P.151 - P.165

はじめに
 各種臓器における腫瘍の中で,甲状腺腫瘍は乳腺腫瘍とともに体表に近く位置し,原則として触診が可能な数少ない腫瘍の一つである.このため,各種補助診断法の研究が遅れた.しかし近年,"適切な術前診断は適切な手術を導びくために,必要欠くべからざるものであり,適切な術前診断は適切な手術の一部である."とする考えが定着し,補助診断法に対する研究は急速に発展した.著者に与えられた主題である"甲状腺"に関する画像診断として現在広く用いられているものに,1)甲状腺シンチグラフィー(131I,123I,−99mTc),2)甲状腺X線診断法(頸部単純X-P,軟X線撮影,Xeroradiography),3)超音波診断法,4)甲状腺リンパ管造影法,5)甲状腺血管造影法,6) CT,7)腫瘍特異的シンチグラフィー(201Tl,67Ga)などがあげられる.
 これらの検査法は,触診と甲状腺シンチグラフィーのみにたよつていた時代から,腫瘍の質的(良性・悪性)診断を中心とする甲状腺X線診断,腫瘍特異的シンチグラフィーへの移行と見ることができるが,これらの質的診断法に対する評価はいまだ一定ではない.

乳房

著者: 深見敦夫 ,   霞富士雄

ページ範囲:P.167 - P.191

はじめに
 われわれの施設では,乳房疾患の診断には触診を主とし,マンモグラフィーと超音波を補助診断として結論を導き出すよう努めており,それ以外の補助診断法は積極的にはとり入れていない.針生検,生検等の観血的診断は3者の総合診断でどうしても統一的な解答が得られない場合に限つて施行している.時代の趨勢からみて生検の比重が増加してくるであろうが,日本は米国とは社会情勢は異なつており米国の様な補助診断法をほとんど重視しないで生検一辺倒な思考方法は決して診断学の進歩といえるものではなく,われわれは生検をしないですむ努力を最大限払うことが診断学の進むべき道と考えている.
 本項では3つの診断法,といつても触診は経験と個人差,主観による事が大きいため,ここでは触れない事とし,マンモグラフィーと超音波についてそれらの死角を中心として利点,欠点を述べる.

著者: 雨宮隆太 ,   於保健吉 ,   永井完治 ,   鍾富明 ,   高倉英博 ,   平良修 ,   早田義博 ,   山田隆一 ,   大多和正樹

ページ範囲:P.193 - P.219

はじめに
 肺癌には種々の組織型があり,その各々が特徴的な増殖進展形態を示す(表1).組織型による相違は発生部位,気管支肺胞系の既存構造に対する侵襲態度のみならず転移様式にも相違がみられるので,これが診断法,治療法,予後の違いにもかかわつてくる.肺癌の組織型による増殖進展様式の差は胸部X線写真1),胸部CT,気管支鏡所見2)などの画像診断所見の差として表示される.一方,現時点では肺癌の術前の確定診断率は99%前後3)であり,確定診断の90%以上が気管支ファイバースコープ2)を用いての検査である.
 肺癌は胸部X線写真や喀痰細胞診で異常を指摘され,気管支鏡的に採取した組織や細胞で確定診断される.肺癌を診療する外科医は内科系診断医と異なり,肺癌発見時より手術適応の有無と手術方法の選択を考慮して進展度に対する検査を同時に進めなければならない.肺癌の予後を左右する最大の因子は「組織型」と「治療時の病期」4)である.肺癌の手術にあたつてはこの2つの因子を常に考え,肺動脈と肺静脈を剥離して結紮切離可能であるか否かを検討することからはじまる.肺は実質臓器であり,切除後の肺の増生はありえないため,術前の手術方法(切除範囲)の検討が重要である.本文では術前の組織型診断,手術適応の有無と手術法の選択を中心に一般病院で行われている画像診断法の死角について症例を提示しながら述べることにする.

骨盤腔内臓器

著者: 作山攜子

ページ範囲:P.221 - P.241

はじめに
 骨盤腔内臓器は膀胱を除き,男女によつて包含されている臓器が異なつており,取り扱う科も外科はもちろん,内科,泌尿器科,産婦人科など,多岐にわたつている.しかし骨盤内腫瘤性病変を主訴として来院した場合には,精査を目的として放射線科に画像診断が依頼されることが多い.今回は病変の起源臓器が不明の骨盤内腫瘤性病変について,単純写真,超音波断層,CT,RIシンチグラフィ,血管撮影などの各画像診断の進め方,各modalityの適応,画像的特徴,その死角などについて述べることとする.
 画像診断とは多岐にわたる検査手段より,最も適切な方法を組み合わせ,患者に対しては少ない侵襲で,しかも短期間で診断し,治療方針を決定するためのものである.したがつて,検査をすべて行うのではなく,どの順序で検査を行うか,またどの段階で検査を終了するかが最も決断を要するところである.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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