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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科41巻12号

1986年11月発行

雑誌目次

特集 MOF患者のArtificial Support

MOF患者の管理—最近の考え方と問題点

著者: 平澤博之 ,   菅井桂雄 ,   稲葉英夫 ,   小高通夫 ,   田畑陽一郎 ,   磯野可一

ページ範囲:P.1625 - P.1633

 MOF患者の管理は多彩なアプローチが必要であるが,原因病態に対する抜本的治療,mechanical support,immunomodulation,nutritional support,cellular support等に分けて考えるべきである.MOF患者の救命率を改善するためには,肺,肝,心等に対するより完成度の高いmechanical support法の確立,代謝動態をふまえた上でのmecha—nical support及び各種の侵襲により普遍的に発生する細胞障害への対策等が必要である.

呼吸不全の治療—とくに人工呼吸器の使用法

著者: 天羽敬祐

ページ範囲:P.1635 - P.1639

 呼吸不全はMOFで最も多く発生する臓器障害であり,その治療は全身管理の一部として行うという認識がとくに大切である.つまり他の臓器不全の治療と平行して行う.MOF時の呼吸不全に対しては,人工呼吸の他に免疫学治療や薬物療法あるいは血液浄化法などさまざまなアプローチが行われているが,現時点での主力はやはり,人工呼吸である.ここでは人工呼吸の施行に際しての実際面を主に解説を行つた.

肝不全に対するSupportive Therapy

著者: 森本泰介 ,   浮草実 ,   嶌原康行 ,   上山泰男 ,   山岡義生 ,   小澤和恵

ページ範囲:P.1641 - P.1648

 多臓器不全(MOF)においては,肝不全を中心とした代謝動態の失調がその引き金となる.肝不全に対する補助療法として,人工肝臓の開発に向けての種々の試みがなされているが,現時点では確立された治療方法はない.今までに行われて来た肝補助療法の概略を述べるとともに,肝不全のメカニズムを分析し,現在我々が試みているmeta—bolic liver supportの理論,臨床応用および将来への展望について述べる.

MOF患者の血液浄化法

著者: 長沼信治 ,   佐々木優里 ,   江良和雄 ,   鈴木利昭 ,   寺岡慧 ,   太田和夫

ページ範囲:P.1649 - P.1656

 血液浄化法は,各種代謝不全臓器メカニカルサポートとして,血液中の病因物質を除去するという外科的発想の治療手段である.その使用では,その有効性と安全性を熟慮する必要がある.最近では,すでに不全臓器をもつ患者に,外科手術を要する場合が増加してきているが,術中,術後の不全臓器のメカニカルサポートとして,選択の幅が増えた血液浄化療法を有効に使用し,これらの患者にも安全に手術が行えるようになつてきた.

DIC対策

著者: 柴忠明

ページ範囲:P.1657 - P.1663

 MOF患者におけるDIC対策について述べるとともに,MOFとDICの関連についてふれた.さらに消化器外科領域における症例を呈示し,治療の実際を解説した.MOFにおけるDICは増悪因子として予後を左右する.DIC対策の基本は基礎疾患の除去にあり抗凝固療法下に手術を施行することも稀ではない.そしてハイリスク例における早期からの抗凝固療法はDICの発生防止に有用である.

感染症対策としての免疫療法

著者: 加藤雅人 ,   鳥巣要道

ページ範囲:P.1665 - P.1672

 多臓器不全(MOF)は複雑な病態を示し,時間とともに不可逆的な進行をみる予後不良な疾患である.本症の治療とりわけ感染症対策には多角的なsupportが要求される.最近本症の根底に生体防御機構の破綻の存在が明らかとなり,このものの修復および賦活に免疫療法が期待を集め登場してきた.
 本療法はいわゆる生体防禦機構障害 感染症 各臓器不全の悪循環を断ち切ることにその主眼をおくものであり,本療法の理論的背景とその実際を述べてみよう.

栄養管理の実際

著者: 西正晴 ,   權雅憲 ,   印牧俊樹 ,   渡辺直 ,   日置紘士郎 ,   山本政勝

ページ範囲:P.1673 - P.1679

 多臓器不全(MOF)患者の治療においては原疾患・障害臓器の管理感染対策,栄養管理が主要な部位を占めており,栄養管理は蛋白異化の軽減,創傷治癒の促進,免疫能・血清蛋白の改善,全身筋力の維持などの面から極めて重要である.
 栄養管理にあたつては不全臓器相互間の有機的関連を把握した上で必要十分量の栄養投与と各障害臓器の治療を目的とした栄養組成の選択を行うべきである.

カラーグラフ 胆道疾患の外科病理・16

膵・胆管合流異常

著者: 杉原順一 ,   川口勝徳

ページ範囲:P.1619 - P.1622

はじめに
 従来,膵・胆管合流異常症は先天性胆管拡張症に合併した病変で,本邦における報告は欧米に比し多く,拡張症の成因との関連から論議されてきたが,近年胆管の拡張を伴わない合流異常が注目を集めている1).合流異常症と発癌に関しては本稿では触れず,癌を合併しない合流異常症の切除例の病理学的所見を中心に検討を加えた.
 症例は胆管の拡張の程度により軽度(症例1),中等度(症例2),高度(症例3)の典型例(表)を対象とした.

原典を繙く・19

エドゥワルト・バッシーニ著—「そけいヘルニアの治療について」の翻訳を終えて

著者: 山内英生

ページ範囲:P.1681 - P.1685

はじめに
 Bassini,E.著Ueber die Behandlung des Leisten—bruches.(Arch Klin Chir 40:429-476,1890.)の訳出を終え,本手術法が完成された19世紀後半における時代的背景,術式の生れた過程,手術成績,さらに術後の再発などについて著者が所属する国立仙台病院外科での成績も参考にしながら振り返つてみたい.

文献抄録

食道癌切除標本の食道短縮

著者: 小沢壮治

ページ範囲:P.1685 - P.1685

 食道は切除や固定により切除前に比べてかなり短縮し,新鮮標本を伸展させても元の長さには戻らない.切除断端から腫瘍までの長さは生体内の方が切除や固定後よりも長いが,腫瘍自体はあまり短縮しない.これまでに食道癌症例の非癌部食道の正確な短縮率は報告されていない.また食道癌の手術では切離線を決定することが重要である.本研究では,食道癌の切除材料を用いて種々の部位で生じる短縮率を定量することを目的とした.
 〔方法〕香港大学外科にて手術を施行した55例の胸部食道癌切除例を対象とした.術中周囲組織からの授動がすんだ食道に滅菌テープを当て,触診で決めた腫瘍の上縁下縁よりそれぞれ口側および肛側切離線までの長さと腫瘍長径を計測した.次に摘出食道を切開し,口側および肛側の切除断端までの長さと腫瘍長径の3部分を計測した.そのうち43例は最大伸展状態で,12例はホルマリン固定後の状態でも計測した.各部位の短縮率は生体内の長さを対照として算出した.

Spot

ヨーロッパ諸国における膵移植の現状

著者: 窪田敬一

ページ範囲:P.1686 - P.1688

はじめに
 近年,アメリカ,ヨーロッパ諸国を始めとする先進国において,Ⅰ型糖尿病患者の数は増加する傾向にあり,その治療法のひとつとして膵移植は大きな役割を担いつつある1)
 最近,私は,ヨーロッパの膵移植を行つている主要施設を訪問し,最新の膵移植の現状を学ぶ機会を得たので,誌上を借りて紹介する.

My Operation—私のノウ・ハウ

内鼠径ヘルニア根治手術

著者: 大谷五良

ページ範囲:P.1689 - P.1692

適応と手術
 内鼠径ヘルニアはほとんどの症例が40歳以上で,成人〜高齢者に発生するが,保存的治療法では治ることがないから,全例が原則的に手術適応である.但し社会的な適応の面ではいくつか考慮されるべき点があり,ねたきりの老人,ほとんど自力で歩行できない症例などは当然手術適応からはずれる.また重症な疾患を合併している場合も同じであるが,例えば心臓弁膜症などが手術によって治り,心不全が消失すれば改めて手術適応となる.年齢のみで手術適応からはずすことはない.自力で食事,洗面,排便,歩行など日常の生活ができ,また自ら病気を治す意思をもつていれば80歳でも90歳でも手術適応となる.
 内鼠径ヘルニアは従来我国では極めて稀とされていたので,60歳以上の一般外科医の中では,内鼠径ヘルニアの手術を経験したものは比較的少ない.しかし最近7年6カ月の三井記念病院外科における40歳以上の鼠径ヘルニア402例についてみると,内鼠径ヘルニアは内外合併型を含め27.8%にも達している.したがつて決して稀にしか遭遇しない症例でないので,再発の少ない安全な手術法を心得ておく必要がある.

画像診断 What sign?・42

Mesenteric and omental infiltration

著者: 佐藤豊

ページ範囲:P.1693 - P.1693

 消化管の粘膜性病変はバリウムなどによる消化管造影検査によつて描出されるが,腸間膜あるいは大網の病変は腸係蹄の開離や腸管壁の鋸歯状の不整などの間接所見としてみられるにすぎない.CT検査はこれらの管外性病変を直接描出し,その正確な進展範囲を診断するために有用である.腸間膜あるいは大網はCT上,腸管と腸管の間隙に脂肪濃度の構造として描出されるが,これらに腫瘍性あるいは炎症性の浸潤がおこると,び漫性にエックス線吸収値の高い部分がみられるようになる.これらの変化をきたしやすい原因として,腫瘍性疾患では胃・膵臓などの消化管の癌,子宮・卵巣の癌,あるいは悪性リンパ腫などが挙げられ,塊状の腫瘤を形成する場合にはomental"cake"と称されることもある.また炎症性疾患としてはクローン病,膵炎,消化管穿孔などが挙げられる.なお正確な診断のためには,CT検査前に経口および注腸による消化管造影剤の十分な投与が必要である.

手術手技

胸筋温存乳房切断術—手術手技および神経温存を中心に

著者: 西亀正之 ,   山根基 ,   片岡健 ,   久代淳一 ,   土肥雪彦 ,   江崎治夫

ページ範囲:P.1695 - P.1698

はじめに
 診断法の進歩や検診の普及等により乳癌の発見も早期症例が増加している.このようなことから,手術方法も定型的乳房切断術や拡大乳房切断術症例は漸減し,縮小手術の方向に変化しつつある.われわれは非定型乳房切断術をAuchincloss法1)に準じた手術法で大小胸筋温存手術を行つている.また1983年から肋間上腕神経を温存する方法を施行して来た.今回,われわれの行つている胸筋温存手術の手術手技および神経温存法について報告する.

臨床報告

足関節以下への血行再建術の2例

著者: 桜井恒久 ,   仲田幸文 ,   向山博夫 ,   塩野谷恵彦

ページ範囲:P.1699 - P.1701

はじめに
 慢性の閉塞性動脈疾患による下肢虚血に対して,いわゆるlimb salvageのために下腿動脈にまで至る血行再建術を行うことは現在では一般的な術式となつている1).しかし,下腿3動脈がすべて閉塞している場合,足関節を越えて足部に至るまでの血行再建術は従来は手術適応と考えないことが多かつた.最近,我々はこのような下腿3動脈が閉塞していた2症例に対して足関節を越える血行再建を行つたので報告し,同時に末梢下腿動脈への血行再建術,いわゆるdistal tibial bypassにおけるpedal archの意義を文献的に考察した.

空腸原発の髄外性形質細胞腫の1例

著者: 高尾仁二 ,   酒井秀精 ,   苔原登 ,   岡田喜克 ,   岩崎誠 ,   五嶋博道

ページ範囲:P.1703 - P.1707

はじめに
 骨髄以外に発生する形質細胞腫は,髄外性形質細胞腫と呼ばれ,その約80%は上気道・口腔に発生し,消化管原発例は稀である.我々は,小腸不完全閉塞で空腸部分切除術を施行し,組織酵素抗体法により髄外性形質細胞腫(IgA—χ type)と確認した症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

膵および肺に転移した乳腺葉状嚢胞肉腫の1例

著者: 中原錬三 ,   福嶋久夫 ,   鈴木勝一 ,   吉田衛 ,   渡辺治 ,   登内彰 ,   中井啓之 ,   二村雄次 ,   中山隆 ,   多田豊曠

ページ範囲:P.1709 - P.1713

はじめに
 乳腺葉状嚢肉腫(Cystosarcoma Phyllodes)は,比較的稀な疾患である.主たる遠隔転移は肺及び骨とされているが,我々は,定型的乳房切断術後約11ヵ月で膵および肺に転移した乳腺葉状嚢胞肉腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

CT検査で特徴的所見の得られた胃切除後腸重積症の1例

著者: 菊池誠 ,   長堀順二 ,   平田勝 ,   朝田農夫雄 ,   柴崎正幸 ,   紙田信彦

ページ範囲:P.1715 - P.1717

はじめに
 腸重積症は,胃切除後の合併症としては比較的まれであるが,最近われわれは術前CT検査で特徴的所見の得られた胃切除後腸重積症の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

胃癌乳腺転移の1例

著者: 立花進 ,   浅野雅嘉 ,   宮喜一 ,   日野輝夫 ,   古市信明 ,   三沢恵一 ,   須原邦和 ,   笹岡郁乎

ページ範囲:P.1719 - P.1722

はじめに
 乳腺に発生する悪性腫瘍は,ほとんどが原発性で一般に悪性腫瘍の乳腺転移は比較的稀とされている.我々は最近,胃癌からの転移と考えられる1例を経験したので報告する.

遺残坐骨動脈瘤破裂の1治験例

著者: 佐原達也 ,   加藤量平 ,   長谷川恒雄 ,   内木研一 ,   数井秀器 ,   土岡弘通

ページ範囲:P.1723 - P.1727

はじめに
 下肢動脈の発生段階において,胎生3ヵ月まで下肢の血行を担うのは,膀動脈,内腸骨動脈に連続する坐骨動脈であり,これが遣残した例が遺残坐骨動脈である.一般に,浅大腿動脈は未発達で,下腿以下はこの動脈により血行を受けることが多い.本症の臨床例の報告は本邦で約10例と少ない.我々は,遺残坐骨動脈瘤破裂の1例を経験したので報告する.

追悼

故卜部美代志教授を悼む

著者: 斉藤漠

ページ範囲:P.1728 - P.1728

 去る9月13日,金沢大学名誉教授卜部美代志先生が,心筋梗塞のため逝去された.
 享年78歳であつた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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