icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科41巻3号

1986年03月発行

雑誌目次

特集 糖尿病合併患者の手術と管理

糖尿病患者の病態生理—手術と関連して

著者: 後藤由夫 ,   鈴木研一

ページ範囲:P.281 - P.286

 糖尿病はインスリン(作用)不足による糖代謝異常を主たる病因とする多彩な病態群である.インスリン効果が極度に低下しているときには蛋白代謝,脂質代謝の異常も高度となり,負の窒素平衡による蛋白崩壊,脂質分解によるケトーシスも起こつてくる,一方,手術侵襲,麻酔などのストレスはインスリン分泌を柳制し,インスリンと拮抗するホルモンの分泌亢進を来たす.言いかえれば,糖尿病の病態に類似した代謝状態におかれることになる.したがつて糖尿病患者においては外科手術は,その代謝異常を増強し顕性化することになる.糖尿病の代謝異常の程度を良く反映するのは血糖値とケトーシスの有無である.手術の条件下でもこの2つは極めて重要な治療上の指針である.

糖尿病患者の評価と手術適応

著者: 赤木正信 ,   前野正伸 ,   三宅孝 ,   山崎洋二 ,   木原信市

ページ範囲:P.287 - P.294

 糖尿病患者の外科手術にあたっては,糖代謝および脂質・蛋白代謝障害を評価し,その代謝障害の是正を行う.一方,糖尿病患者では主要臓器の機能的・器質的変化,感染巣の合併が多い.この臓器障害は糖代謝の是正だけで改善できる場合とできない場合とがある.これらの状態を確実に把握し,その術前評価,手術適応決定を行う.また糖尿病患者では術後の合併症も多く,その検索および対策を怠つてはならない.手術後死亡例の多くは,術前合併症の再燃,増悪を術後早期に起こしており,この点への留意と対策とを常に心がけることが必要である.そのほか,糖尿病の罹病期間および治療の有無も術前評価の有用な資料となる.

糖尿病患者の術前・術後管理—わたしはこうしている

著者: 小越章平

ページ範囲:P.295 - P.298

 糖尿病患者の外科手術の機会は多い.術前のブドウ糖負荷試験により耐糖能を知ることが必要であるが,最近は,むしろ積極的に術前から高カロリー輸液を施行して,術後にもしトラブルがおこつた際に備える方法がとられている.また以前のように,術当日に糖質何グラム,インスリン何単位ということはせず,高カロリー輸液の濃度を下げるか,一般輸液維持液に変えて血糖をチェックしながら手術を終える.術直後あるいは感染等の合併症の際の外科的糖尿の発現には注意する.インスリンの持続注入併用の高カロリー輸液は,糖尿病管理の一大進歩といわれ,糖尿病患者に限らず重症患者の管理に不可欠のものとなつた.われわれの方法を中心に述べる.

糖尿病患者の術前・術後管理—私はこうしている

著者: 大柳治正 ,   斉藤洋一

ページ範囲:P.299 - P.304

 一般的な糖尿病患者の術前には,糖負荷試験による血糖管理の状態と,血管病変を主とする合併症の把握が大切である.コントロールの必要な時は,投与カロリーを下げるのではなく,糖質も投与しながらレギュラーインスリン注射を行い,1日尿糖10g以内に管理する.術後も頻回に血糖・尿糖,尿比重や滲透圧を測定し,糖質投与量もあまり減らさず,レギュラーインスリンで管理する.TPNも糖質の併用や脂肪乳剤使用を考えながら積極的に行う.ケトアシドーシスや高滲透圧性非ケトン性昏睡の時は,それぞれの病態に応じたインスリン投与とともに,等張性生食投与を中心とする脱水の管理が大切であり,ケトアシドーシスの時はそれにグルコース投与を考える.

糖尿病患者の麻酔

著者: 北村俊治 ,   沼田克雄

ページ範囲:P.305 - P.309

 手術侵襲により糖質代謝は大きく影響を受け,糖尿病患者の麻酔管理はketo—acidosisやangiopathyの合併症を予防する点でも重要である.頻回に血糖尿ケトン体,電解質をチェックし,血糖値<250mg/dl,尿ケトン体陰性,正常範囲の電解質となるように,インフュージョンポンプによるインスリン持続注入とグルコース輸液を行い,糖質の代謝されやすい状態をつくる.手術前後を通じて血糖値を急激に変動させないこと,麻酔の導入・維持をスムーズに行うこと,術後管理について主治医に申し送ることが大切である.各施設に合つた糖尿病の術中管理のプロトコール作成が望ましい.

糖尿病と膵移植

著者: 水戸廸郎 ,   江端英隆 ,   古井秀典

ページ範囲:P.311 - P.316

 1966年12月,ミネソタ大学で初めて行われた膵臓器移植は,1984年6月までに454人の糖尿病患者に対し485回の移植が行われた.移植成績も上昇し,1年機能膵は29%となつた.一方,ラ氏島同種移植は166例に行われたが,機能したという報告はない.
 膵移植は糖代謝是正のみならず糖尿病二次病変の改善をも目的としている.膵臓器移植は膵管処理法に苦心を要したが,膵管充填法の開発により普及し,最近ではより生理的な膵管空腸吻合が用いられ成績も向上している.また部分膵より全膵さらには十二指腸を含む全膵の移植も行われるようになつてきている.HLA matchingとの関係はliving rel—ated donorを用いた成績より検討され,両者の密接な関係が判明してきた.CsAはAza,Steroidとの3者併用の有効性が示されてきた.ラ氏島移植は動物実験において画期的な方法が開発され,ヒトにおけるラ氏島単離法の開発が急務である.

カラーグラフ 胆道疾患の外科病理・8

胆嚢の良性上皮性腫瘍

著者: 伊関丈治 ,   高見実 ,   伊藤徹 ,   出月康夫

ページ範囲:P.277 - P.279

良性上皮性腫瘍の分類
 従来,胆嚢の良性上皮性腫瘍として腺腫があげられてきた.腺腫は乳頭状ないし腺管構造からなるポリープ状の隆起性病変と規定される.1)しかし肉眼的に隆起が軽度であるか隆起を示さない腫瘍性病変も腺腫に含めるとする見解もある.2)著者は肉眼的に隆起が明瞭な良性の腫瘍性病変と,肉眼的に隆起が明らかでない中等度ないし高度の異型上皮からなる腫瘍性病変は,その組織像も異なることから別個に扱い,前者を腺腫,後者を異型上皮巣と呼称することが適切ではないかと考えている.異型上皮からなる病変がすべて腫瘍性病変であるとは限らない.しかし,そのなかには異型性が強く,癌との境界領域病変とみなさざるをえないものがあり,それらは良性上皮性腫瘍に含めることが妥当と思われる。

クリニカル・カンファレンス

糖尿病合併外科患者の手術,管理に難渋した症例

著者: 松原要一 ,   杉山貢 ,   日置紘士郎 ,   平田幸正 ,   近藤芳夫

ページ範囲:P.317 - P.330

 糖尿病を合併した患者の手術時には,術後管理等多くの問題点がある.今回は代表的症例をとりあげ,この点を詳しく検討していただいた.また内科の立場からも深くつつこんだ意見が出された.

プラクティカル チューブオロジー・4

チューブの縛り方,固定の仕方(その1)—太いシリコンチューブの固定

著者: 長谷川博

ページ範囲:P.333 - P.333

 太くて柔らかいシリコンチューブの固定には,絆創膏を巻きつけてもシリコン本来の性質で接着が効かない.糸で縛るとくびれて細くなるが,それでもなお,ずれないとは限らない.また,針をつき通して固定すると裂け切れてしまう.そこで最も固定がよいと著者が思つているのは次の2つの方法である.

Invitation

第86回日本外科学会総会 見どころ,聴きどころ—現代外科学の進歩における分化と綜合

著者: 長尾房大

ページ範囲:P.334 - P.336

はじめに
 第86回日本外科学会総会は,4月2日(水),3日(木),4日(金)の3日間,東京都港区の芝公園を中心とした,東京プリンスホテル,郵便貯金ホール,同会館,ABC会館,日本女子会館,東京慈恵会医科大中央講堂における11会場において学術集会を開催することとなりました.
 奇しくも,1964年恩師大井実教授が第64回日本外科学会総会を主催されてから22年,その時も準備期間が1年という慌ただしいものでしたが,今回も,全く同様な状況下での開催となりました.

My Operation—私のノウ・ハウ

結腸右半切除術

著者: 高橋孝

ページ範囲:P.337 - P.343

適応と手術
 結腸の血管支配の基本構造はつぎのように理解されている.まず,腸管に平行して走る辺縁動静脈があり,これと2つの血管系の根部,すなわち,上腸間膜血管系の根部と下腸間膜血管系の根部とが,合計5本の主幹動静脈でむすばれている.(数本のS状結腸動静脈は1本として数える)
 動脈と静脈とはほぼ伴走しているが,各血管系の根部においては,互いに異なつた走行を示している.

Topics・3

NMR imaging(MRI)の臨床応用—肝・胆道,肝門部・膵・脾

著者: 宮川昭平 ,   眞野勇 ,   吉田英夫 ,   五島仁士

ページ範囲:P.345 - P.348


 肝は呼吸運動のため,輪郭も内部構造も鮮明には描出されず,脂肪肝,肝硬変なども形態的にも緩和時間情報の点でも診断困難である.硬変肝に発生する肝細胞癌も,中心壊死部で緩和時間の延長が認められるものの,図1のごとく肝外に膨出した腫瘍部分と硬変部分とで信号強度の差を認め難い,転移性肝癌は肝辺縁部において描出され易く,T1計算像によつてT1値をデジタルで示し,ヒストグラムやプロフィル表示などの画像処理をおこない,T1緩和時間が健常部より延長している例を供覧する(図2).またパルス系列を変え,T1およびT2緩和時間計算像をつくつた転移性肝癌の症例を示す(図3,4),肝でよく描出されるのは脂肪腫や海綿状血管腫であり,嚢胞もX線CTと同様に鮮明に認められる.

臨床研究

十二指腸潰瘍に対する選択的近位迷走神経切離術の評価

著者: 板東隆文 ,   豊島宏

ページ範囲:P.349 - P.354

はじめに
 選択的近位迷走神経切離術(以下SPV)は機能的にも形態的にも魅力的な臓器温存術式でHolle1)が臨床応用を始めてから既に25年が経過し,prospective studyによる遠隔成績が多数報告されているが,その評価は欧州と米国と日本では著しく異なつている.最近の全国集計2)をみても,本邦では他の術式と比較して再発率が高いことから,SPVは十二指腸潰瘍に対する標準術式として確立していないのが現状といえる.そこで,non—randomized retrospective studyであるが,当科における最長13年,最短2年の術後遠隔成績をもとに迷切術,特にSPVの現時点での評価を検討した.

臨床報告

食道胃接合部に発生し,馬蹄型を呈した平滑筋腫の1例

著者: 藤井康 ,   片岡誠 ,   橋本隆彦 ,   成瀬正治 ,   佐本常男 ,   渡会長生 ,   林聰一 ,   山本純 ,   榊原堅式 ,   深尾俊一 ,   正岡昭

ページ範囲:P.355 - P.358

はじめに
 平滑筋腫は消化管に発生する良性粘膜下腫瘍としては最も高頻度に見られるが,いわゆる食道胃接合部(以下,ECJ)に発生した報告例は少ない,一方,本疾患がECJに発生した場合,馬蹄型,ドーナツ型等の特異な形態を採る頻度が高いことは,極めて興味深い.われわれは過去4例のECJ発生平滑筋腫を経験したが,内1例にこの興味深い形態を認めたので,症例を供覧し,併せて本邦ECJ発生平滑筋腫報告例を集計し,その形態的特徴を中心に,若干の考察を加えた.

縦隔に発生したyolk sac tumorの1例

著者: 林正修 ,   鈴木正臣 ,   鈴木幾夫 ,   高橋一郎 ,   佐々木信義 ,   水野武郎

ページ範囲:P.359 - P.363

はじめに
 Yolk sac tumorはTeilum1)により提唱された,悪性度の高い,胚細胞由来の腫瘍である.主として性腺部に好発するが,性腺外でも仙尾部,後腹膜,縦隔など正中線に近い部位に発生し,また血清α—fetoprotein(AFP)が異常高値を示す特徴を有する.
 今回,われわれは縦隔に発生し,病勢の経過とともに血清AFP値の動向を追跡できたyolk sac tumorの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Cantrell症候群の1例

著者: 吉田節朗 ,   加藤哲夫 ,   蛇口達造 ,   半田真一 ,   萱場広之 ,   小山研二

ページ範囲:P.365 - P.368

はじめに
 Cantrell症候群は,1958年Cantrellら1)により報告された胸腹壁形成不全で,臍帯ヘルニア,胸骨下部欠損,横隔膜部分欠損,心膜部分欠損および何らかの心奇形を伴う奇形群である.その後Duhamel2)はCantrell症候群の成立過程に関し,胎生学的解釈を試み,胎生3〜4週頃に腹壁発生の原基として生ずる4枚の皺壁のうち頭側皺壁の形成不全により,これら一連の胸腹部発生異常は説明可能とした.
 本症候群は比較的稀であり,1982年の山本3)の集計によると,本邦例は30例に過ぎない.

突然の呼吸困難で発症した幼児Bochdalek孔ヘルニアの1例

著者: 藤井一郎 ,   北村元男 ,   広瀬周平 ,   高橋健治 ,   間野清志 ,   寺崎智行

ページ範囲:P.369 - P.372

はじめに
 新生児早期より発生する先天性後外側横隔膜ヘルニア(Bochdalek孔ヘルニア)は,小児外科において最も緊急度の高い疾患のひとつである.特に生後24時間以内に発症した患児では予後不良である.一方,この時期を無症状に経過し,乳・幼児期,学童期になつて発症する場合もまれながらある.これは"Acquired"congenital diaphragmatic herniaとも表現されるが,新生児発症の場合に比べて発症メカニズム・症状・予後などにいくつかの特異な点を有している.
 今回われわれは,4歳6ヵ月までまつたく無症状のまま順調に発育した女児が,突然の呼吸困難で発症し,X線検査で診断,手術にて全治せしめた1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

肺にcoin lesionを呈した犬糸状虫症の1例

著者: 森﨑太 ,   太田保 ,   太田卓 ,   日伝晶夫 ,   吉原久司 ,   惣路照道 ,   山脇泰秀 ,   武田譲 ,   林一彦 ,   間野正平

ページ範囲:P.373 - P.376

はじめに
 犬糸状虫の人体寄生例は稀ではあるが,近年,軟部組織および肺の寄生例が米国を中心に多く報告されている1),本邦においては22例が報告されており2),これからも発見頻度が増加してくると思われる.われわれは胸痛を主訴として来院し,諸検査の結果,肺癌の疑いにて切除したところ犬糸状虫症であった症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

肝部下大静脈閉塞症の1治験例

著者: 丸橋和弘 ,   高田泰次 ,   森本秀樹 ,   秋田利明 ,   小林彰 ,   加藤佳典 ,   千葉幸夫 ,   石原浩 ,   谷川允彦 ,   村岡隆介

ページ範囲:P.377 - P.382

はじめに
 肝部下大静脈閉塞症とBudd-Chiari症候群は同義語として用いられているが,本来BuddとChiariの報告したものとは病理学的に区別するべきものであろう.本邦で報告されているもののほとんどは肝静脈閉塞を何らかの形で伴つている下大静脈閉塞であり,欧米のそれらとは趣を異にする.今回,われわれは胆石症を合併した経過の長い肝部下大静脈閉塞症に人工血管による下大静脈—右房(IVC-RA) bypass手術を施行した1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?