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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科41巻6号

1986年06月発行

雑誌目次

特集 外科患者・薬物療法マニュアル Ⅰ.術前・術後管理における薬物療法の実際

バセドウ病手術

著者: 小原孝男

ページ範囲:P.664 - P.665

□術前管理における薬物療法
 1.甲状腺機能の正常化
 甲状腺機能を正常化するために用いられる薬剤をまとめて表1に示した.

甲状腺癌手術

著者: 小原孝男

ページ範囲:P.666 - P.667

□術前管理における薬物療法
 1.甲状腺機能異常の管理
 ほとんど大部分の甲状腺癌患者は正常機能を有するが,それを確かめる意味で血中T3,T4,TSHなどの測定を行う.甲状腺機能が正常範囲であれば,特別の処置を必要としない.
 橋本病などを合併し,機能低下が認められる時には,術前2〜4週間チラージンS 50〜150 μgを分1で投与しておく.

上皮小体手術

著者: 小原孝男

ページ範囲:P.668 - P.669

□術前管理における薬物療法
 1.原発性上皮小体機能亢進症
 血清Ca高値の補正
 通常は特別の処置を必要としないが,血清Caが14〜15 mg/dl以上の高値を示す高Ca血症クリーゼの際に問題となる.
 高Ca血症クリーゼの患者では,まず,生理食塩水輸液により脱水の補正をはかる.

乳癌手術

著者: 榎本耕治

ページ範囲:P.670 - P.671

 乳癌の術前・術後に投与する薬剤は手術侵襲に対する全身管理を目的とするものと,合併症の予防を目的とするものと,乳癌の補助療法として投与されるものとがある,補助療法として投与される抗癌剤は副作用が強く術後管理を難しくさせているものがある.ここでは一般の術前・術後管理の他に,poor riskの患者の場合の注意点と乳癌の補助療法の三点について記した.

肺癌手術

著者: 前田昌純 ,   南城悟

ページ範囲:P.672 - P.673

□術前の管理
 1)慢性閉塞性肺疾患を合併することが多いので,術後肺合併症の予防のためビソルボン(6錠分3/日),ダーゼン(9錠分3/日)等の喀痰融解剤とブリカニール(6錠分3/日)等の気管支拡張剤を投与する.喀痰の多いwet caseでは体位ドレナージ等の理学療法が重要である.気管・気管支形成術を行う場合には術前3日間ペニシリン系またはセファロスポリンの抗生物質を投与する.
 2)循環器系,消化器系の合併症については本特集別稿を参照のこと.

縦隔腫瘍手術

著者: 門田康正

ページ範囲:P.674 - P.675

 縦隔腫瘍は多彩である.Hormonal substanceを分泌するfunctioning tumorや特異な合併症を有するtumorがあり,これらに対しては特殊な薬物療法を考慮する必要のあるものがある.
 従つて術前にfunctioning tumorであるか否か,特異な合併症がないかどうかを明らかにしておかねばならない.

重症筋無力症

著者: 門田康正

ページ範囲:P.676 - P.677

 重症筋無力症はしばしば胸腺腫を合併する.しかし術前術後の薬物療法に関しては胸腺腫の有無により区別する必要はない.

後天性心疾患の開心術

著者: 細田泰之 ,   大瀬良雄

ページ範囲:P.678 - P.680

□術前管理における薬物療法
 1.投与薬
 後天性心疾患の診断のもとに外科へ入院する患者の大多数は既に内科において諸検査がなされ,治療薬(表1)の投与が開始されている.手術を前提とした場合にこれら治療薬のうち術前に漸減または中止,変更を必要とするものがあるので注意を要する.

食道癌手術

著者: 杉町圭蔵 ,   桑野博行

ページ範囲:P.681 - P.683

□術前管理における薬物療法
 1.食道癌にともなう全身的異常の補正
 一般に食道癌患者は,入院時すでに低栄養状態の場合が多く,その的確な把握と補正が必要である.具体的には,毎食ごとの食事の質と量,1日尿量,尿比重の測定,さらにHb,Htの測定を行い,1日尿量1,000 ml以下,比重1030以上のときは脱水を考えて糖質電解質補液の点滴静注で尿量を1,500 ml以上とし,貧血があれば,これに加え輸血を開始する.また極端な通過障害者には中心静脈栄養または栄養瘻造設を行う.栄養瘻造設の場合,術前照射例には照射前に造設し,予定再建臓器が胃なら空腸瘻,結腸なら胃瘻がよい.

門脈圧亢進症手術

著者: 杉町圭蔵 ,   北野正剛

ページ範囲:P.684 - P.685

□術前管理における薬物療法
 1.全身状態の改善
 貧血 急性出血例で問題になることが多い.新鮮血,または,濃厚赤血球と新鮮凍結血漿を用いHt.30〜35%以上に改善しておく.
 低栄養・低アルブミン血症 基礎疾患として肝硬変症が存在することが多いため,この補正が必要である.プラスマネート,アルブミン製剤の輸注,高カロリー輸液などを行う.

胃・十二指腸潰瘍手術

著者: 松原要一

ページ範囲:P.686 - P.687

□術前管理における薬物療法
1.待期手術
 抗潰瘍薬物療法 難治性あるいは狭窄のある合併症性の潰瘍が待期手術の適応となるが,手術日まで2週間以上あることがほとんどなので,術前管理として酸分泌を強力に抑えるH2受容体拮抗剤が主として投与される(表1).これは患者の自覚症状を軽減し術前の不安感を除くだけでなく,潰瘍周囲の炎症を抑え術中操作を容易にし,また狭窄症状を改善することもあつて迷走神経切離術や小範囲切除術など胃機能を温存する術式の選択を可能にし,BillrothⅠ法再建も容易となる.
 全身管理 良性疾患なので時間的余裕があれば十分諸検査を行い,必要ならば合併疾患の治療を行い全身状態を改善してから手術を行う.

胃癌手術

著者: 島津久明

ページ範囲:P.688 - P.691

□術前管理における薬物療法
 1.胃癌に伴う機能的異常の補正
 脱水,電解質異常
 幽門狭窄を伴う患者で問題になることが多い.
 一般に脱水症はNa欠乏性(低張性)と水欠乏性(高張性)に2大別されるが,実際には両者の要素をもつ混合性脱水症が大多数を占める.

潰瘍性大腸炎

著者: 伊原治 ,   大原毅

ページ範囲:P.692 - P.693

□術前管理における薬物療法
1.保存的治療薬について
 1)保存的治療薬としてはprednisolone(以下PS)とsalicylazosulfapyridine(以下SA)が主として用いられる.
 2)激症型における緊急手術以外はPSから離脱しておくことが望ましい.離脱方法は図のごとくで,30〜40mg/日の内服または点滴静注から開始して2週間で5mgずつ漸減していく.毎週2回ずつ血沈と血算をチェックする.下血が再発すれば再び1段階元にもどして漸減する.

大腸癌手術

著者: 宇都宮譲二 ,   中井亨 ,   太田昌資

ページ範囲:P.694 - P.696

□術前管理
 1.腸管清拭法
 大腸手術にあたつては著しく多い腸内菌量(1010/g)を術中にminimumにすることが要点であり,そのために機械的および化学的処置を併用する.
 機械的処置 ①Brown法:多量の水分と塩類下剤を腸内に充し,これを刺激性下痢により一気に排出させる.②EDを5日間投与すると糞便量,菌量ともに減少する.低栄養状態の患者に適するが,これのみでは不十分である.

肝切除術

著者: 小山研二 ,   鈴木克彦

ページ範囲:P.698 - P.700

 肝切除術の術前・術後管理,特に薬物療法について肝硬変合併例を中心に述べるが,その大要は表1のごとくである.いうまでもなく肝硬変合併例では,綱内系・凝固系機能を含めた肝予備力の術前評価を十分に行うとともに呼吸・循環機能,腎機能についても検討し,riskに応じて手術適応と術式を選択することが重要であり,これは薬物療法に優先するものである.

胆道癌手術

著者: 小山研二 ,   川村隆彦

ページ範囲:P.701 - P.703

 胆道癌のうち胆管癌は閉塞性黄疸を伴つていることが多く,この場合PTBD等を施行し,総ビリルビン値を5 mg/dl以下にしてから二期的に胆管切除術や膵頭切除術を施行するのが一般的である,また胆嚢癌に対してはしばしば広範なリンパ節郭清を伴う肝の区域(部分)切除を行うなど,胆道癌の根治手術の侵襲は大きく,術式も多様である.したがつて,その術前・術後の薬物療法には,術式に関係しない共通の事項と,術式による特殊性とがあり,前者を中心に述べ,後者にも少し触れたい.

胆石症手術

著者: 柿田章 ,   佐治裕

ページ範囲:P.704 - P.705

 胆石症手術の薬物療法は,術前では胆石発作を抑制して胆嚢浮腫を改善し,もつとも良い状態で待機手術を行うための鎮痙剤,鎮痛剤があり,また,細菌感染の予防あるいは治療のため抗生物質が使用される.
 また,術後には,胆汁うつ滞防止のため,利胆剤を用いることがあるが,その他は,特殊な場合を除き他の消化器手術と異なる点は少ない.

膵癌手術

著者: 永川宅和 ,   小西一朗

ページ範囲:P.706 - P.707

 膵癌に対する根治手術としては,膵頭十二指腸切除術(P.D.)と膵全摘術(T.P.)があり,それぞれ門脈合併切除を伴う場合と伴わない場合がある.さらに,郭清の程度により標準郭清術と拡大郭清術に分けられる.教室では,膵癌の外科的治療成績向上のため1973年末以来,拡大郭清の方針をとり,5年以上生存例も数例みられるようになつた.本稿では,以下,膵頭部癌における門脈合併切除を伴う拡大郭清P.D.に対する術前術後の管理を含めた薬物療法について述べる.

脾摘術

著者: 梅山馨

ページ範囲:P.708 - P.710

□術前管理における薬物療法
 脾摘の対象となる疾患は脾破裂,原発性脾腫瘍を除いては慢性炎症,自己免疫,門脈循環異常など多彩な病因による脾腫,さらには腎移植,胃癌などのリンパ郭清などである.
 これら疾患では副腎皮質ホルモン,イムランなどの免疫抑制剤,抗腫瘍性剤,放射線照射などの長期治療が行われている例が多いことを念頭におく.

動脈血栓症手術

著者: 草場昭

ページ範囲:P.711 - P.711

□急性動脈閉塞症の手術
 1.術前管理における薬物療法
 脱水の補正
 5%糖液,120 ml/hr,点滴静注.
 尿量増加をはかり,30分間尿量が30ml以上になるようにする.尿量増加が得られれば,点滴静注の速度を80ml/hrにおとし,手術の準備を急ぐ.

深部静脈血栓症手術

著者: 草場昭

ページ範囲:P.712 - P.713

□深部静脈急性血栓症の手術
 1.術前管理における薬物療法
 2次血栓の形成,進展の防止.ヘパリン50mg静注.
 緊急手術(血栓除去術)の適応ありと診断した場合はウロキナーゼの投与は行わない.

副腎摘出術

著者: 町田豊平

ページ範囲:P.714 - P.715

□Cushing症候群
 本症の病因として,①下垂体よりのACTH分泌過剰による両側副腎皮質過形成,②副腎腫瘍(腺腫,癌),③異所ACTH産生腫瘍によるものがあり,その診断がまず必要である.次に副腎皮質腺腫に対し,患側副腎摘出術を行つた場合を例にして述べる.

前立腺癌手術

著者: 町田豊平

ページ範囲:P.716 - P.716

□術前管理における薬物療法
 1.前立腺癌治療法
 前立腺癌の治療法は,早期癌に対する根治的療法と進行癌に対する内分泌療法を主体とする姑息的療法がある.
 前立腺全摘出術は骨盤内尿路手術であるが,比較的侵襲は大きい.また前立腺癌に対する内分泌的手術治療(抗男性ホルモン療法)として,除睾術が行われるが,この手術自体は単純な手術である.

腎・尿路結石手術

著者: 町田豊平

ページ範囲:P.717 - P.718

□術前管理における薬物療法
 1.疼痛発作のみられるとき
 患側腰背部の疼痛が鈍痛ならブスコパン®錠か,複合ブスコパン錠®6T/分3の内服,疝痛発作時では,ブスコパン®20mgを20%糖20 mlに,あるいは同40 mgを500 mlの生理食塩水で点滴静注する.患部の温湿布は痛みの軽減によい.
 疝痛発作が続くときは,ペンタゾシン30mgの筋注か静注,あるいはときにオピアト10〜20 mgの筋注を必要とする.

痔核手術

著者: 岩垂純一

ページ範囲:P.719 - P.720

□術前管理における薬物療法
 1.術前合併症の管理
 貧血 貧血の原因が痔核からの出血によるものと考えられる場合は,Hb 59/dlなどの重症貧血例であつても,原則としては術前輸血を行うより手術を先行させる.
 貧血による目まい,息切れなどの症状が強く手術侵襲に耐えられそうもない場合は術前輸血を行うが,その際は1日量200cc以上を輸血による心不全を考慮して,ゆつくりと4時間以上かけて行う.

小児悪性腫瘍

著者: 牧野駿一 ,   中條俊夫 ,   橋都浩平 ,   上井義之

ページ範囲:P.721 - P.722

 数多くの小児悪性腫瘍の中から,ここでは神経芽腫,ウィルス腫瘍,横紋筋肉腫,Yolk sac腫瘍,悪性リンパ腫について,主として抗腫瘍剤療法について述べる.
 進行性,つまり病期の進展した悪性腫瘍患児に対しては,入院後直ちに手術を施行しようと試みても,外科的に腫瘍切除不能の場合が少なくない.こうした患児に対しては,現在,術前に抗腫瘍剤療法を施行し,腫瘍の縮小を待つて外科的治療を行う待期手術(delayed primary operation)が最近試みられている治療法式である。

Ⅱ.救急患者の薬物療法

心肺蘇生

著者: 橋本保彦

ページ範囲:P.724 - P.725

□心肺蘇生術中の薬物投与
 心肺蘇生術の基本救命処置(Basic Life Support:BLS)として,気道の確保,人工呼吸,体外心マッサージが行われるが,これらの処置と同時に使用され,心拍再開までに第一に選択されるべき薬品を表1に示す.
 体外心マッサージ中の低心拍出量,換気血流比の異常による低酸素血症は,嫌気性代謝による代謝性アシドーシスの原因となり,救急薬物の効果や除細動に抵抗を示す.したがつて,心肺停止時には一刻も早く100%酸素を吸入させ,組織の酸素化を改善させる.

出血性ショック

著者: 石山賢

ページ範囲:P.726 - P.727

 Hypovolemic shockの原因としては,各種出血(外傷,消化管出血など)と急性脱水(熱傷,その他)があるが,急性脱水については別項に譲り,主として出血性ショックについて述べる.出血性ショックでは,止血操作が最も肝腎で,これに成功しないと薬物療法の意味が全くない.酸素投与も必須であり,時には人工呼吸器による呼吸管理が必要となる.

心原性ショック

著者: 宮本晃

ページ範囲:P.728 - P.728

 心原性ショックとは心臓のポンプ失調による重篤な循環不全状態であり,米国National Heart and Lung Instituteの診断基準を表に示す.
 救急患者で心原性ショックを呈する疾患の大部分は急性心筋梗塞症である.

薬物性ショック

著者: 相川直樹 ,   若林剛 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.730 - P.731

 薬物性ショックにはアナフィラキシーによるショック(anaphylactic shock)と薬物本来の作用が過剰に出現した時のショックがある.

感染性ショック

著者: 相川直樹 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.732 - P.733

1.原因・病態
 外科患者にみられるseptic shockは敗血症,膿胸,化膿性胆管炎,腹膜炎などの重症感染症に合併する.
 グラム陽性菌の産生する外毒素,グラム陰性桿菌の菌体成分である内毒素(エンドトキシン),細菌の増殖による内皮の破壊などにより種々の異常がおこる.

中毒

著者: 当麻美樹 ,   鵜飼卓

ページ範囲:P.734 - P.737

□重金属,強酸・強アルカリ中毒
1.重金属中毒
 キレート剤の使用法 重金属中毒時には,特異的な拮抗剤が著効を示す場合がある.しかしながら,これらの拮抗剤も適切な対症的生命維持療法や毒物の排除が行われなければほとんど無意味なものとなる.
 ①Dimercaprol(British anti lewisiteバル®):金,ヒ素,水銀中毒時に筋注にて用いる(表1).

意識障害—プライマリーケアとして

著者: 小濱啓次

ページ範囲:P.738 - P.739

 意識障害を示す疾患には,表に示すように各種の疾患がある.それゆえ,意識障害患者の薬物療法は,意識障害を生じた原因疾患を鑑別診断した後に開始するというのが原則と思われる.しかしながら,意識障害の原因疾患が究明されるまで薬物療法を行わないというわけにもいかないので,ここでは,意識障害患者に対して一般的に行われる薬物療法について簡単に述べる.

熱傷

著者: 八木義弘

ページ範囲:P.740 - P.740

 救急疾患として熱傷を取り扱う場合にはその主眼はショック対策である.したがつて本稿ではショック期およびそれに続くショック離脱期における薬物療法に限定して述べる.

日射病,熱射病,急性脱水

著者: 高橋宏 ,   島崎修次

ページ範囲:P.742 - P.743

 日射病,熱射病等のいわゆる暑熱障害は明確な定義がなされていない.そこで,筆者は暑熱障害の総称を温熱卒中と名づけ,病態,治療上から表1のように分類している.

急性腹症

著者: 柵瀨信大郎 ,   牧野永城

ページ範囲:P.744 - P.745

□術前管理
1.輸液
 急性腹症患者では嘔吐,腸管内腸液貯留,腹膜炎などにより循環血液量(細胞外液量)が減少しており,重篤となればショックに陥ることもある.いたずらに手術を急げば,麻酔導入時に血圧低下をきたし危険である.患者が来院したら診断と平行して輸液を開始し,細胞外液量を補正してから手術にもつてゆくことが重要である.

呼吸困難

著者: 高橋宏 ,   島崎修次

ページ範囲:P.746 - P.748

 呼吸困難は「息をするのが苦しい」という患者の自覚症状で,表1に示したようにさまざまな原因で起こる.したがつて,まず原因を鑑別し,それに応じた治療を行わなければならない.そのためには種々の検査が必要であるが,特に重要な胸部X線のチェックポイントの例を表2に示した.呼吸困難に呼吸不全(動脈血液ガス分析でPaO2<60 mmHg,PaCO2>50 mmHg,pH<7.20(FiO2=0.21)となり,生体が正常な機能を営めない状態)を合併しているか否かの判断は重要であるが,その鑑別診断その他の詳細については成書を参照されたい.
 ここでは一般的呼吸管理と,われわれが救急の場で遭遇することの多い慢性閉塞性肺疾患(COLD);肺水腫,過換気症候群,仮性クループの治療例をあげる.

無尿,乏尿

著者: 高橋宏 ,   島崎修次

ページ範囲:P.749 - P.751

 一般に尿量500 ml/日以下を乏尿,100 ml/日以下を無尿という.乏尿,無尿の原因は表1のように3つに分かれる.なお,特殊な型に非乏尿性腎不全(non-oliguric renal failure)がある.これは利尿は得られているが,BUN,クレアチニン等が上昇し,本体は表1の②と変わらない.ただ糸球体濾過率と尿細管再吸収量に差があるだけである.水・電解質異常は伴いにくいので管理はしやすい.
 ここでは表1の①②について述べる.重要なことは①の状態が24時間持続すると②に移行するので,①の原因除去は早期に行い利尿処置をとる必要がある.②に移行すると透析療法等を行つても腎機能回復に1カ月以上かかるし,場合によつては慢性腎不全に移行してしまう.

Ⅲ.検査,保存的処置と薬物療法

EST

著者: 山川達郎 ,   三芳端

ページ範囲:P.754 - P.755

□EST施行前の患者の管理
 ESTは,内視鏡下に十二指腸乳頭開口部をパピロトームに高周波電気を通電し切開し,胆道系疾患の診断・治療に応用するものであるが,手術に耐えられない重篤な急性閉塞性化膿性胆管炎症例などの非手術的治療法として施行されることもあるので,その施行に当たつては慎重でなくてはならない.
 全身状態のよい遺残結石や単純な乳頭狭窄症例に適応する場合には,血算,血液凝固学的検査,血液生化学的検査,心電図,薬剤アレルギーの有無(造影剤,抗生剤)などをroutine検査として行つているが,前述した重症胆管炎例や黄疸遷延例では,ショック,消化管出血,腎不全,DICなどを併発しやすいので,血小板数,FDPの増加,血漿フィブリノーゲンの減少,プロトロンビン時間の延長などの凝固学的検査やBUN,尿量,PSP値,血清クレアチニンなど腎機能検査も症例によりチェックする必要がある.また脱水,電解質の是正もむろん大切なことである.

PTC-D

著者: 跡見裕

ページ範囲:P.756 - P.757

1.PTC-Dについて
 従来のX線造影下法に代わり,超音波映像下法(US PTC-D)が主流となりつつある.後者は,①X線被曝が少ない,②手技が容易,③門脈穿刺を避けることができhemobiliaが少ない,④造影に伴う胆道加圧を避けることができる,などの大きな利点を有しており,PTC-Dの手技やその管理も比較的容易になつたとされる.しかし,対象となる患者はショック準備状態ともいえる閉塞性黄疽・胆管炎を合併していることが多く,容易に重篤化する病態を内在しているといえる.したがつて本法施行時の薬物療法も,主としてこれらの病態に対応したものとなる.

食道静脈瘤硬化療法

著者: 川崎誠治 ,   三條健昌 ,   出月康夫

ページ範囲:P.758 - P.759

□硬化療法施行前における薬物療法
 1.肝障害に伴う問題点
 腹水 肝障害が強く手術不能の症例には,腹水を有するものが多い.このような症例は,硬化療法時の送気により術後腹部膨満の愁訴が強くなり,時として呼吸抑制,換気障害があらわれることもある.したがつて,術前に電解質異常に注意しつつ利尿剤(ラシックス20mg/日,ソルダクトン100〜200mg/日)を静注あるいは輸液に加えて点滴静注し,腹水を可及的にコントロールする.
 凝固能の障害 プロトロンビン時間40%以下の凝固系の障害が高度と思われる症例に対しては,輸血路確保の意味も含めて硬化療法前および施行中に凍結血漿4〜8パックをゆつくり輸注し,凝固因子の補給をはかる.

内視鏡的ポリペクトミー—胃

著者: 比企能樹 ,   嶋尾仁

ページ範囲:P.760 - P.760

□術前管理
 術前の一般検査として血算,血小板数,生化学,出血・凝固時間,血液型は調べておく必要がある.
 通常点滴は必要ないが,ポリープの大きい場合は出血時のルート確保の意味で施行することが望ましい.

内視鏡的ポリペクトミー—大腸

著者: 長廻紘

ページ範囲:P.761 - P.761

 ポリペクトミー(大腸)において薬物療法が必要となるのは,①腸の蠕動を抑える.②出血に対して(予防と止血),などがある.

ブロンコスコピー

著者: 雨宮隆太 ,   於保健吉

ページ範囲:P.762 - P.763

 本邦で行つているブロンコスコピーは97%以上が局所麻酔下に施行する気管支ファイバースコープである.気管支ファイバースコープの挿入法1)は気管チューブ使用,直接経口的,直接経鼻的とあるが,使用する薬物に差異はない.

TAE

著者: 田中佳代 ,   山田龍作

ページ範囲:P.764 - P.765

□TAEの対象となる疾患
 悪性腫瘍(肝癌,腎癌,肺癌,その他)
 出血(喀血,消化管出血,胆道出血,性器出血,骨盤骨折)

ERCP

著者: 大橋正樹 ,   大井至

ページ範囲:P.766 - P.766

 ERCPを施行するにあたつては,検査前,検査中,検査後にわたりさまざまな合併症の可能性があり,発生すればそれに応じた処置,治療が必要となる.

Ⅳ.併存疾患をもつ外科患者の薬物療法 1.術中の合併症

低酸素症hypoxia

著者: 古賀義久

ページ範囲:P.768 - P.771

 手術中に発生する合併症の病態は多彩であり,その重篤なものは低酸素症(hypoxia)を招くこともまれではない.しかも一旦hypoxiaに陥ると,しばしば不可逆性となり,ひいては生命をおびやかす結果ともなる.したがつて術中の合併症としてhypoxiaに注目することは重症合併症の全身管理的見地から意義が大である.
 Hypoxiaを原因別に分類すると表1のようになる.このうち本稿では,比較的発生頻度は少ないが重篤なため特に専門的な知識を必要とし,薬物療法上興味のもたれる①気管支痙攣,②空気栓塞,③悪性高熱症について概説を試みる.

2.脳・神経系

発熱

著者: 米倉正大 ,   寺本成美

ページ範囲:P.772 - P.773

□基本事項
 1)発熱は生体の防御反応の一つであり,この原因究明の努力を怠ることなく解熱に対処することを基本とする.
 2)長時間の発熱は,体力の衰弱,脱水による電解質異常など二次的にさまざまな障害が生体に起こつてくるため,すみやかにこれに対処する.

術後疼痛

著者: 米倉正大 ,   寺本成美

ページ範囲:P.774 - P.774

□基本事項
 1)痛みがあまり激しくならないうちに鎮痛処置を講ずることが望ましく,早めに処置するほど鎮痛薬の投与量も少なくてすむ.
 2)術後痛は麻酔覚醒後数時間が最も激しく,約12時間でピークに達し,以後次第に軽減してくる.これ以上持続する疼痛は創部痛以外のことも考え気を配る.

興奮・不眠

著者: 柳田尚

ページ範囲:P.775 - P.775

□基本事項
 1)興奮,不眠の原因を検索すること.
 2)術前に用いた薬物と術中,術後に用いる薬物との関連性を考慮すること.

けいれん

著者: 川添太郎 ,   重松俊之

ページ範囲:P.776 - P.777

□基本事項
 1)けいれんが真性てんかんによるか,種々の原因により生じる二次性けいれん(症候性けいれん)であるかを診断し,薬物療法が行われているかを確認しておく.
 2)術中,術後を通じて抗けいれん剤の血中濃度が一定に保たれるよう維持をはかる.

精神的障害

著者: 橋本肇 ,   山城守也

ページ範囲:P.778 - P.779

□精神障害者の術前・術後
 1.基本事項
 1)精神障害者の手術は決して危険ではない.

3.心・血管系

狭心症

著者: 元山幹雄 ,   村山正博

ページ範囲:P.780 - P.781

□基本事項
 1)手術中に生ずる血圧変動,過度の補液,薬剤の影響などにより心筋酸素需要供給の不均衡が生じやすいので,個々の患者の狭心症重症度を十分に把握しておく.
 2)不安定狭心症の手術Riskは高いので緊急手術を除き原則として治療により症状が安定してから手術を行う.

不整脈

著者: 元山幹雄 ,   村山正博

ページ範囲:P.782 - P.783

□基本事項
 1)治療を必要とする不整脈か否かを鑑別する.すなわち術中の血行動態に悪影響を及ぼすもの,心室頻拍など危険な不整脈につながるものは術前に治療を行い,また術中も十分な管理を行うべきである.
 2)器質的心疾患が基礎にある不整脈は不整脈管理のほか,原疾患の治療も十分に行わなければならない.

心筋梗塞—急性・陳旧性

著者: 田中政 ,   新谷富士雄

ページ範囲:P.784 - P.786

□基本事項
 1)急性,陳旧性を問わず,心筋梗塞患者の手術は危険度が高いことを十分認識しておくこと(麻酔,手術方式の検討).
 2)術中,術後を通じて循環動態の安定をはかり,心筋梗塞の再発を防止する.

うつ血性心不全

著者: 田中政 ,   新谷冨士雄

ページ範囲:P.787 - P.788

□基本事項
 1)原因疾患(高血圧症,弁膜疾患,先天性心疾患,虚血性心疾患,心筋症)のいかんを問わず,うつ血性心不全の存在下での手術は非常に危険を伴う.
 2)術前に,できる限り十分な時間をかけて,うつ血性心不全の治療をまず行うことが必要.

心筋症

著者: 田中政 ,   新谷冨士雄

ページ範囲:P.789 - P.789

口基本事項
 1)特発性心筋症は心室コンプライアンスの低下を特徴とする原因不明の疾患である.現在のところ,これと言った治療方法はない.
 2)したがつて,治療は対症的療法となる.

高血圧

著者: 猿田享男

ページ範囲:P.790 - P.791

□基本事項
 高血圧患者の手術に際しては,術前に高血圧の原因およびその重症度を明らかにし,特に冠不全など臓器障害の進行した高血圧や褐色細胞腫や原発性アルドステロン症などある種の二次性高血圧では,術前処置が重要である,軽症高血圧では特別の処置を必要としないが,中等症・重症高血圧では,150〜160/90〜100 mmHg程度に血圧をコントロールしてから手術することが好ましい.

低血圧

著者: 猿田享男

ページ範囲:P.792 - P.793

□基本事項
 1)手術に際して低血圧の原因が,本態性か,二次性かにより大きく異なる.通常本態性低血圧では,治療が必要となることは少ない.
 2)術前において二次性低血圧が疑われた際には,その原因を究明して治療し,その後に手術にもつていくべきである.

静脈血栓症

著者: 江里健輔

ページ範囲:P.794 - P.795

□基本事項
 1)発生原因(手術,分娩,外傷,長期臥床,腹腔内腫瘍など)を究めること(原因不明なもの40%).
 2)治療は原因除去を優先する.

4.呼吸器系

ARDS

著者: 石田詔治

ページ範囲:P.796 - P.798

□基本事項
 1) ARDSの発症に補体系,血液凝固線溶系,血管作動性物質の関与が考えられている.
 しかし,確認されたわけではない.したがつて特異的な薬物療法はない.

術後肺炎

著者: 石田詔治

ページ範囲:P.799 - P.800

□基本事項
 1)感染経路として,血行性,呼吸療法に伴うもの,誤嚥があるが誤嚥が最多.
 2)上部消化管の術後に好発.

慢性肺気腫

著者: 佐々木孝夫

ページ範囲:P.801 - P.803

□基本事項
 1)慢性肺気腫は,肺胞の破壊を伴う終末細気管支以下の気腔の異常な拡大である.
 2)病態生理上,肺弾性圧の減少による不可逆性呼出障害と動脈血ガス異常の2点を特徴とする.

気管支喘息

著者: 北村諭

ページ範囲:P.804 - P.805

□基本事項
 1)まず喘息発作が気管支喘息か心臓喘息かを鑑別する.
 2)喘鳴があり,近医で気管支喘息として診断・治療されていても,気管内腫瘍,気管気管支結核,Wegener肉芽腫症などの場合もありうる.

肺高血圧

著者: 前田如矢

ページ範囲:P.806 - P.806

□基本事項
 1)基礎疾患は多種.病態・重症度も多様.
 2)成因が不可逆性の器質性病変(先天性心疾患,後天性心弁膜症,心外疾患)による場合,病変は進行性で,改善を期待できない.

肺血栓塞栓症

著者: 長田博 ,   川上義和

ページ範囲:P.808 - P.809

□基本事項
 1)原則として肺血栓塞栓症の急性期には手術を行わない.とくにARDSを呈する多発性肺微小血栓塞栓症患者の手術は危険性が高い.
 2)抗凝固療法の中断による血栓塞栓症の再発および手術に伴う新たな血栓塞栓症の発生に注意する.

5.消化器系

逆流性食道炎

著者: 平嶋毅

ページ範囲:P.810 - P.811

□基本事項
 1)食道裂孔ヘルニアに合併した逆流性食道炎は,その他の消化器疾患で開胸または開腹した際,食道裂孔ヘルニアに対する根治手術を併せて行い下部食道接合部の機能回復を計る必要がある.
 2)食道裂孔ヘルニアが手術適応を必要とするほど高度であれば,これに対する根治手術が選択されなければならない.

胃 十二指腸潰瘍,ストレス潰瘍

著者: 中村紀夫

ページ範囲:P.812 - P.815

胃・十二指腸潰瘍
□基本事項
 1)胃・十二指腸潰瘍を有する患者は,他の外科手術により,潰瘍の急性増悪が起こり,出血および穿孔を来たすことがある.
 2)潰瘍に伴う貧血,通過障害に伴う低蛋白血症を有することがあり,これの対応を考慮する.

ダンピング症候群

著者: 亀山仁一 ,   石山秀一 ,   塚本長

ページ範囲:P.816 - P.817

□基本事項
 1)胃切除例で食後20〜30分,あるいは2〜3時間後に冷汗,動悸,眩暈,顔面紅潮,熱感,全身倦怠,胸内苦悶,悪心,嘔吐,下痢などの症状を呈する.前者を早期,後者を後期ダンピング症候群という.
 2)早期ダンピング症候群の成因については,①小腸拡張,蠕動亢進説,②循環血液量変動説,③血管作動性物質説,④血糖変動説,⑤自律神経失調説などがある.

クローン病,潰瘍性大腸炎

著者: 倉本秋 ,   伊原治 ,   大原毅

ページ範囲:P.818 - P.819

□基本事項
 ストレスなどによる潰瘍性大腸炎の発病・再燃はよく知られているところであり,クローン病の治療にも精神的・身体的安静が第一である.したがつて,併存疾患としてクローン病,潰瘍性大腸炎をもつ症例では,不安や緊張の除去のため,医師・患者の信頼関係の上にたった指導と助言が肝要である.

盲管症候群

著者: 大原毅 ,   倉本秋 ,   伊原治

ページ範囲:P.820 - P.821

□基本事項
 1)盲管症候群の本態は腸内細菌異常増殖症候群(bacterial overgrowth syndrome)であり,大球性貧血や脂肪便などの主徴で知られている.その原疾患を表に示した.ここではblind loopとblind pouch(図)を有する狭義の盲管症候群を主体に述べる.
 2)blind loop症例では吸収不全,栄養障害が起こりやすい.一方,blind pouch症例では吸収不全は比較的少なく,腹痛・腹部膨満などの腹部症状が多く,潰瘍・出血・穿孔を起こすこともある.

便秘と下痢

著者: 立川勲

ページ範囲:P.822 - P.823

□基本事項
 1)一般に便秘と下痢は便通異常として捉えるが,器質的疾患を鑑別することがまず必要である.
 2)内科的な肝・膵・内分泌・代謝性・神経疾患と便通異常の関連を考慮する.

麻痺性イレウス

著者: 立川勲

ページ範囲:P.824 - P.825

□基本事項
 1)麻痺性イレウスで最も多い原因は急性化膿性腹膜炎である.
 2)開腹手術後の他に腹部外傷,急性膵炎,骨折,腸間膜血管閉塞,脳溢血などがその原因として挙げられる.

6.肝・胆・膵

慢性肝炎・肝硬変

著者: 大西弘生 ,   武藤泰敏

ページ範囲:P.826 - P.828

 肝臓は生体内で最大の実質臓器であり,また大きな予備能力を有している.しかし,慢性肝炎,肝硬変などの肝障害患者は,この肝予備能の低下を認め,手術侵襲により,術後肝機能の悪化,あるいは肝不全に陥ることがしばしば認められる.したがつて,これら患者の手術にあたつては,一般肝機能以外に可能な範囲で種々の検査を施行し,その原因と病態を把握し,術後肝不全の防止につとめる.

劇症肝炎・肝性昏睡

著者: 冨田栄一 ,   武藤泰敏

ページ範囲:P.829 - P.831

□基本事項
 1)劇症肝炎そのものが致命的疾患であり(生存率20〜30%),緊急を要する場合以外は原則として肝機能の回復後に手術を行う.
 2)劇症肝炎は多臓器不全(MOF)の状態にあることが多いので,術中・術後共全身管理に細心の注意を払う必要がある.

腹水

著者: 岡部和彦

ページ範囲:P.832 - P.834

□基本事項
1.腹水の成因と性状
 1)成因:肝疾患に伴う腹水は,肝硬変,Budd-Chiari症候群や悪性腫瘍でみられる.肝硬変に合併する例が圧倒的に多い.肝硬変による腹水の成因は,①後類洞性門脈圧亢進に伴う肝うつ血,②低アルブミン血症による膠質浸透圧の低下,③二次性高アルドステロン症,④抗利尿ホルモン(ADH)の血中増加,⑤近位尿細管でのイオン・水再吸収の亢進などである.それらのうち,①による肝リンパ液の腹腔内漏出が主な成因である.
 2)性状:漏出液で,一般に淡黄色透明である.蛋白濃度は,平均2.0g/dlであるが,その幅は0.6〜6.0g/dlと大きく,細胞成分は少ない.細菌性腹膜炎の合併例では,腹水は混濁する.乳糜腹水は,主に悪性腫瘍によるリンパ管の圧迫・浸潤により生じ,乳糜状で混濁し,トリグリセリド含量が多い.癌性腹膜炎では,血性腹水や,腫瘍細胞を認めることがある.

急性ウイルス肝炎

著者: 古田精市 ,   清沢研道

ページ範囲:P.835 - P.837

□基本事項
 1)術前肝障害の存在は,手術による肝障害の増悪を来たすことが多く,かつ術後創傷治癒の遷延・合併症の併発をみ,時には肝不全に陥り死の転帰をとる場合もあることを銘記すべきである.
 2)現在の肝障害が急性ウイルス肝炎であることの確認(慢性肝疾患,アルコール,薬剤の関与の否定)とA型,B型,非A非B型の型別診断を行う.

薬物性肝障害

著者: 藤沢洌

ページ範囲:P.838 - P.839

□基本事項
 1)薬物性肝障害は化学物質との接触暴露や医薬品の服用によつて発症する肝障害であつて,薬物あるいはその代謝中間体が直接肝に作用して肝障害を惹き起こす中毒性肝炎toxic hepatitisと,薬剤アレルギーに起因して発症する薬剤起因性肝障害drug induced liver injuryに大別されるが,通常の医薬品による薬剤性肝障害は後者のアレルギー機序によるものがほとんどである.
 2)一般に薬剤やその代謝中間体は低分子であるため,それ自体は抗原性を示さないが,肝細胞蛋白と結合して不完全抗原ハプテンが生じ,特定の個体に非自己の抗原としての認識が成立すると,肝を主座とする免疫反応—遅延性アレルギー反応—が起こり,薬剤過敏性肝障害が発症すると理解されている.

胆嚢摘出後困難症

著者: 鈴木範美

ページ範囲:P.840 - P.840

□基本事項
 1)胆石症などの良性胆道疾患に対して胆嚢摘出術施行後も術前と同様の愁訴が続くか,または新たな愁訴が出現して治療の対象となる場合,これを胆嚢摘出後困難症(以下本症)と定義する.本症は,したがつて胆道手術後の愁訴例すべてを指すのではなく,胆摘後再び胆道系に起因する症状を呈する症例のみを包括するものと考える,なお,本症には類似の名称が多数あり,それぞれその概念に微妙な相違がある.
 2)本症は胆摘後の種々の病態の総称であるから,その病態の解明が大切であり正確な診断が下される必要がある.

急性膵炎

著者: 斎藤洋一

ページ範囲:P.841 - P.843

□治療目標
 ①膵の安静・外分泌抑制
 ②補液並びに電解質の補正

慢性膵炎

著者: 斎藤洋一

ページ範囲:P.844 - P.845

□治療目標
 ①疼痛対策
 ②内分泌機能脱落補填

7.腎・尿路系

急性腎不全

著者: 内田久則 ,   丸茂文昭

ページ範囲:P.846 - P.849

□基本事項
 1)急性腎不全とは,一般には腎前性,腎性,腎後性と分けることが多いが,正確には腎実質に障害をきたしているものを言い,すみやかに回復する腎前性高窒素血症,原因除去で治癒する腎後性閉塞,腎炎のような実質の炎症などは含まない.
 2)急性腎不全で,透析療法が必要となれば,ブラッドアクセスあるいはペリトニアルアクセスが必要である.いずれも,局所麻酔で安全に形成できる.

慢性腎不全

著者: 内田久則 ,   丸茂文昭

ページ範囲:P.850 - P.850

□基本事項
 1)慢性腎不全を合併した患者の手術は,急性腎不全患者の手術に比べ,まだ比較的安全である.手術の危険性は残存腎機能によつて異なる.筆者らは,①クレアチニンクリアランスが30ml/分以上であれば,一般の患者と同じく手術を行い,②10〜30ml/分では術後透析療法を併用することもあり,③10ml/分以下ではルーチンに血液透析を行いながら,手術を行つている.
 2)慢性腎不全合併例の手術の一般的注意としては,時間を短く,必要最小限の操作に限ることである.

ネフローゼ症候群

著者: 藤井一史 ,   小林豊 ,   丸茂文昭 ,   内田久則

ページ範囲:P.852 - P.853

□基本事項
 1)ネフローゼ症候群は病因により原発性糸球体疾患による一次性(原発性)と二次性(続発性)に大別される.本稿では腎機能正常の一次性ネフローゼ症候群例の対策について述べる.
 2)術中,術後を通じて循環動態の安定をはかり,不必要な水およびNa投与は避ける.

腎性・腎血管性高血圧症

著者: 多田祐輔

ページ範囲:P.854 - P.855

□基本的事項
 1)腎性高血圧症を併存法として持つ患者を手術する場合,術中,術後の左心負荷を軽減する目的で血圧をコントロールするが,血圧にばかり目を向けてこれを下げすぎると,術後思わぬ腎機能低下をみることがある.ことに腎実質性の腎性高血圧,両側性の腎血管性高血圧症の場合は注意を要する.
 2)したがつて,尿量の減少をまねかない程度,血中クレアチニン,BUNの上昇をまねかない程度に血圧をコントロールするが,一般的には収縮期160〜180mm—Hg程度,拡張期100mmHg以下にコントロールできればよいと考えるべきである.

前立腺肥大

著者: 小川秋實 ,   平林直樹

ページ範囲:P.856 - P.856

□基本事項
 1)前立腺肥大があつても一般外科手術に支障はない.
 ただし,前立腺肥大に基づく慢性腎不全があるときは,緊急手術を必要とする場合を除き,数カ月間の尿道留置カテーテルにより腎機能が改善してから手術を行う.

膀胱炎

著者: 小川秋實 ,   平林直樹

ページ範囲:P.857 - P.857

□基本事項
 1)急性膀胱炎があるときは,緊急手術を除き,外科手術は避ける.多くの場合は薬物療法で1週間以内に改善するので,その後に手術を行う.
 2)慢性膀胱炎は,膀胱に結石,腫瘍,残尿,結核などがあって生じるもので,薬物療法では改善することは少なく,耐性菌感染をもたらすだけのことが多い.

8.血液疾患

貧血

著者: 高橋隆一

ページ範囲:P.858 - P.859

□基本事項
 1)内科医,麻酔科医と密接な連携を保ち,より安全な状態で手術に臨むことが重要で,そのためには貧血に対する治療および管理を内科医が行うことが望ましい.
 2)術前の血色素値は,原則として10.0g/dlを維持するようにする.出血が持続している症例,術中多量の出血の可能性のある症例などの場合には12.0g/dl以上に維持するのが安全である.

溶血性貧血および溶血

著者: 高橋隆一

ページ範囲:P.860 - P.861

□基本事項
 1)内科医,麻酔科医と密接な連携を保ち,より安全な状態で手術に臨むことが重要で,そのため溶血性貧血に対する治療および管理は内科医が行うことが望ましい.
 2)術前の血色素値は,原則として10.0g/dlを維持するようにする.しかし,溶血が持続している症例,溶血が増強するおそれのある症例(発作性夜間血色素尿症など)では12.0g/dl以上を維持するのが安全である.

顆粒球減少症・血小板減少症

著者: 高橋隆一

ページ範囲:P.862 - P.864

顆粒球減少症
□基本事項
 1)内科医と密接な連携を保ち,術後感染症の予防および治療の可能性を検討して手術の適否および時期の決定に慎重でなければならない.
 2)顆粒球数が500/μl以下の場合には術後感染症を合併しやすく,その治療も容易でないため原則として手術を行うべきではない,緊急手術を必要とする場合には,顆粒球輸血,抗生剤および静注用γ—グロブリン製剤などのできる限りの予防策を講ずる.

DIC

著者: 間邊俊一郎 ,   松田道生

ページ範囲:P.865 - P.867

□基本事項
 1)術前からDICと診断されうる症例については,DICを惹起した基礎疾患(表1)を踏まえ,可及的,DICの改善に務める.
 2) DICは手術がほぼ禁忌と推定され,したがつて,その手術適応は絶対的適応であることを要する.

血友病および類縁疾患

著者: 山口潜

ページ範囲:P.868 - P.869

血友病
 先天性血液凝固異常症として最も代表的なものは第Ⅷ因子欠乏症(血友病A)と第Ⅸ因子欠乏症(血友病B)で,いずれも伴性劣性遺伝形式によつて伝承される.
 これらの血友病患者は血中因子濃度が極端に低下していても出血症状が顕著でない場合には凝固因子の継続補充は行わない.最近は血友病患者の自己注射が保険適応になったため,過剰投与が行われている場合があり,連日投与による悪影響の発現の可能性もよく患者に知らしめる必要がある.第Ⅷ因子・第Ⅸ因子の半減期は,それぞれ半日ないし1日であるが,手術などで血中凝固因子レベルを正常かまたはこれに近くまで上昇させるためには,1日1〜2回の補充療法が必要となる.

9.外科的感染症

肺化膿症

著者: 藤本幹夫

ページ範囲:P.870 - P.871

□基本事項
 1)かつては,肺膿瘍と肺壊疽にわけられていたが,篠井が両者をまとめて肺化膿症と命名して以来,一括して呼ばれるようになった.
 2)発生機序から早田はa)気管支性感染,b)血行性感染,c)外傷性感染,d)隣接臓器より波及,e)既存肺疾患に併発,の5つにわけた.このうちa)が最も多い(41.0%).

腹膜炎

著者: 谷村弘 ,   斎藤徹

ページ範囲:P.872 - P.873

 腹膜炎の治療は原発巣を除去する開腹手術という外科的操作と薬物療法とに分けられ,さらに薬物療法には①感染症そのものに対する化学療法と,②二次的全身状態に対する薬物療法とがある.

胆道感染症

著者: 玉熊正悦

ページ範囲:P.874 - P.875

□基本事項
 1)胆道感染症とは主に急性胆嚢炎と急性胆管炎をさすが,それに派生した胆汁性腹膜炎や肝膿瘍なども含まれる.
 2)原疾患は胆石症と胆道系腫瘍が主であるが,胆道系と腸管との吻合後上行感染や,術後壊疽性胆嚢炎,iatrogenicではcholangiovenous refluxによるsepsisなどもある.

外傷・熱傷後感染症

著者: 相川直樹 ,   石引久弥 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.876 - P.877

□感染症の種類と原因菌
 1)損傷臓器に発生する感染症としては,外傷創・熱傷創の感染症などの表在性感染症,骨髄炎や内臓破裂に伴う腹膜炎などの深部感染症がある.
 2)外傷・熱傷の治療中に非損傷臓器に発生する感染症として,呼吸器感染症,尿路感染症,静脈炎などもしばしば見られる.

破傷風,ガス壊疽

著者: 中村功

ページ範囲:P.878 - P.879

□基本事項
 1)破傷風はClostridium tetaniの,ガス壊疽はCl—ostridium perfringensその他の産生する強力な毒素による重篤な中毒性疾患である.
 2)両疾患とも適切な治療を早急に開始しないと急激に増悪し,ほとんど致命的である.

結核

著者: 小山明

ページ範囲:P.880 - P.882

 近年,結核は減少したが,なお多数の患者がおり,また一度感染すると発病の危険は長期間存続し,年齢の高齢化や各種疾患に伴う免疫力の低下によつて発病,増悪をみることがある.ここでは外科患者の併存疾患としての肺結核の薬物療法について述べる.他臓器の結核に対する処方も同じと考えてよい.

真菌感染症

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.883 - P.883

□基本事項
 1)わが国における真菌感染症ではカンジダ症・クリプトコッカス症・アスペルギルス症・ムコール症が特に重要な真菌症である.
 2)真菌症を合併している症例は,全身状態が不良であることが多く.外科的治療を行うのは困難である場合が多い.

10.術後感染症

創感染

著者: 由良二郎

ページ範囲:P.884 - P.885

□基本的事項
 術後感染のなかで創感染の占める頻度は約50%で,とくに創が汚染される可能性の強い準無菌手術(消化管などの管腔臓器の手術)や汚染手術(感染手術)では,その頻度が高く,それぞれ5%,15%前後の発生率である.また,無菌手術では2%に発生する.
 創感染の発生を予防するためには,第一に手術手技の基本に忠実であること,第二に術野の消毒,予防的抗生剤の投与,第三に宿主の局所ならびに全身状態を改善することが大切である.

腹腔内感染症

著者: 由良二郎

ページ範囲:P.886 - P.888

□基本的事項
 術後腹膜炎は腹腔内の炎症性疾患のみならず,各種臓器に対する手術後に発生する腹腔内感染(intraabdomi—nal sepsis)であり,その治療にあたつては留意すべきいくつかの問題点がある.
 1)各種のグラム陰性桿菌を中心とした消化管内細菌による複数菌感染である,

敗血症

著者: 藤本幹夫

ページ範囲:P.889 - P.889

□基本事項
 1)術後敗血症は手術それ自体が誘因となる場合と手術に付随する術前・術後の管理上の医療行為に関連して発症する場合がある.
 2)抗生剤の発達,普及によつて大腸菌,肺炎桿菌,緑膿菌,エンテロバクターなどグラム陰性桿菌や真菌による敗血症が増加している(Litton,Feller,石山ら).

呼吸器感染症

著者: 藤本幹夫

ページ範囲:P.890 - P.891

□基本事項
 1)術後呼吸器感染症には開胸後にみられる胸腔内感染症(創感染)と非開胸術後に発生する術後肺炎(創外感染)に大別される.
 2)術後肺炎とは無気肺,誤嚥,呼吸障害症候群(AR—DS)などから進展して細菌感染を併発した続発性気管支肺炎のことである.上腹部手術後に発生しやすく,腹部手術の3〜6%にみられる.

尿路感染症

著者: 小川秋實 ,   平林直樹

ページ範囲:P.892 - P.892

□基本事項
 1)術後の尿路感染症は,手術時の尿道留置カテーテルに基づくものと,術前から存在する尿路異常または手術時の尿路損傷が原因になつているものがある.
 a)カテーテルに基づく尿路感染はカテーテルを抜去すると自然に消褪することがほとんどである.

11.代謝・栄養障害

栄養障害

著者: 岡田正

ページ範囲:P.893 - P.898

 栄養障害は蛋白栄養障害と各種栄養素の異常・欠乏とに区分されるが,ここでは臨床的に重要な前者について述べる.
 栄養障害は一般には"stressed"の因子が強い急性栄養障害と"starved"の因子が強い慢性栄養障害の2つに区別される.両者の区別は明確ではなく,一般にみられる栄養障害には程度の差はあれ両因子がそれぞれ関与している.以下,両栄養障害を対比させながら併わせ述べる.

脂肪吸収障害

著者: 大柳治正 ,   斉藤洋一

ページ範囲:P.900 - P.901

□外科領域で遭遇する脂肪吸収障害
 脂肪便steatorrheaが吸収不良症候群malabsorptionとほぼ同義語に用いられるほど,脂肪吸収障害は消化吸収不良症候群を示す大部分の疾患で存在するといわれている.Bockusの成書にも吸収不良症候群の一般的な分類は脂肪吸収が障害される部位によつて行われている(表).しかし,多岐にわたる脂肪吸収障害の原因疾患も,外科患者に限定すればかなり少なく,びまん性腸疾患や膵液,胆汁の分泌障害あるいは胃腸管切除後の障害などが主である.

ビタミン異常

著者: 柏崎修 ,   久保宏隆

ページ範囲:P.902 - P.903

□基本事項
 1)各種病態下でのビタミン異常について注目されるようになった.
 2)術後のビタミン代謝について,また,各ビタミンの生理作用,欠乏症について概要を把握する(表1).

微量元素異常

著者: 柏崎修 ,   久保宏隆

ページ範囲:P.904 - P.905

□基本事項
 1) Fe,Cu,Zn,Mn,I,Ca,Cr,Se,Mo,Snの10種類が必須微量元素として認められている.
 2)極微量で生体内の物質代謝に密接に関与している.

糖尿病,HHNKC

著者: 板倉丈夫

ページ範囲:P.906 - P.906

糖尿病
 糖尿病(DM=Diabetes Mellitus)はインスリンの絶対的あるいは相対的不足に基づく代謝異常である.インスリンはすべての代謝において中心となるホルモンであり,その不足は高血糖,さらには糖尿病性昏睡などの血糖異常をきたすだけでなく,栄養代謝の障害により創像治癒遅延や感染に対する免疫能低下などをきたす.また,長期に糖尿病に罹患している例では血管性病変,神経性病変を合併している場合も多い.このことは臓器の機能障害を伴うことだけでなく,血管性病変の進行は消化管吻合部の縫合不全の要因となることも知られており,手術法の選択,術後管理にも大きく関与してくる.

痛風

著者: 板倉丈夫

ページ範囲:P.907 - P.907

 痛風はプリン代謝異常に基づいた高尿酸血症をきたし,急性関節炎発作ならびに痛風発作を特徴とする.
 プリンは生体での合成,食物中のプリン体ならびに組織中の核酸の分解により供給される.プリンは代謝され最終的に尿酸となり,腎臓より約2/3,腸管より約1/3が排泄される.尿酸の生合成増加による血中尿酸の上昇を代謝性痛風とし,尿中への排泄障害によるものを腎性のものとされているが,実際には両者を原因とするもの,すなわち混合型が約半分を占めている(図).

12.水電解質・酸塩基平衡異常

脱水症

著者: 遠藤昌夫

ページ範囲:P.908 - P.909

□基本事項
 1)病歴,現症から脱水の質と量を的確に判断する.
 2)術前における脱水は,これを完全に是正する.

ナトリウム異常

著者: 斎藤英昭

ページ範囲:P.910 - P.911

□基本事項
 1)ナトリウムは細胞外液の主要な陽イオンで,そのほぼ2/3を占める.
 2)ナトリウムは主に細胞外液量や血清浸透圧の維持に重要である.

カリウム異常

著者: 斎藤英昭

ページ範囲:P.912 - P.912

□基本事項
 1)カリウムは細胞内液の主要イオンである.
 2)体内総カリウム量は3,500mEqで循環血漿中の全カリウム量は1%以下に過ぎない.このため血清K値の評価には慎重を要する.

カルシウム異常

著者: 斎藤英昭

ページ範囲:P.913 - P.913

□基本事項
 1)カルシウムの99%は骨に,残りの1%のみが体液に存在する.
 2)正常血清カルシウム濃度は10±1 mg/dlで,その半分は血清アルブミンに結合し残る半分は遊離型あるいはカルシウムイオンとして存在する.従つて血清アルブミンの増減が血清カルシウムの増減に反映する.

リン異常

著者: 真島吉也

ページ範囲:P.914 - P.915

□基本事項
 血清無機リン正常値は,成人では2.5〜4.5mg/dlで,小児では4.0〜70mg/dlである.リンはあらゆる食品に含まれているため,通常の食生活を行うかぎり1日1〜1.5g摂取され,摂取量に不足はないはずである.一方,あらゆる栄養素を静脈内投与するのが基本となる高カロリー輸液では,当然のことながら十分量の静脈内投与を行う必要がある.しかし,Dudrickらがブドウ糖とアミノ酸をエネルギー源とする高カロリー輸液を開発した当時の輸液処方では,リンは血清中の無機リン値を参考にして必要に応じて投与する要素の一つにあげられていた.しかし,その後,リンの投与を怠ると血清無機リン値の低下と筋力の低下,知覚障害,痙攣,昏睡などの臨床症状が生じることが知られるようになり,リンの添加は高カロリー輸液処方では欠くことのできないものと.なつた.高カロリー輸液時のリン投与に関しては多くの報告がなされている.一方リンの代謝異常には血清リン値が高値となる高リン血症もある.本稿では種々の原因によるリン代謝異常についてふれると共に,特に高カロリー輸液時のリン投与量についてを述べる.

アシドーシス

著者: 佐野敏郎 ,   島田康弘

ページ範囲:P.916 - P.917

□基本事項
 1)呼吸性および代謝性アシドーシスの鑑別を正しく行うこと(表1).
 2)アシドーシスの原因を正しくとらえ,治療の方針を確立する(表2).

アルカローシス

著者: 佐野敏郎 ,   島田康弘

ページ範囲:P.918 - P.918

□基本事項
 1)呼吸性および代謝性アルカローシスの鑑別を正しく行うこと(表).
 2)アルカローシスの原因を正しくとらえ,治療の方針を確立する(表).

SIADH

著者: 小野寺時夫

ページ範囲:P.920 - P.921

 脳疾患で発生する低Na血症の中で,ADHの不適分泌,とくに過剰分泌によると考えられているものをいう.

Ⅴ.注意すべき状態の患者の薬物投与

腎機能不全患者

著者: 大坪修 ,   出川寿一

ページ範囲:P.924 - P.927

□基本的事項
 1)腎機能不全患者においては,薬物の排泄が障害されるので,体内蓄積によりその薬物の副作用がより強く出現する.したがつて,薬理作用,副作用に精通しておくこと.
 2)腎機能不全患者に薬物を投与する場合は,必ず,その薬物が腎で排泄されるものか,肝で代謝されるものかを確認しておく必要がある(表1,2,3).

肝機能障害患者

著者: 加納隆 ,   武藤泰敏

ページ範囲:P.928 - P.929

□基本事項
 1)術前の肝障害の程度および手術侵襲の程度ならびに手術の緊急度を十分認識した上で麻酔薬その他の薬剤の投与計画を立てる.
 2)術前に投与しようとする薬剤の代謝経路および薬剤性肝障害の発現頻度を十分検索しておく.

小児

著者: 大川治夫 ,   澤口重徳

ページ範囲:P.930 - P.931

□基礎的事項
 1)小児では年齢因子が大きい.
 対象疾患,薬物反応,薬用量が大きく異なる.

高齢者

著者: 林四郎

ページ範囲:P.932 - P.933

□基本事項
 1)高齢者では術前から臓器機能低下,合併症を伴いやすく,術後の合併症の発生率も高い.
 2)手術前・中・後を通して,循環動態の安定を保ち,気道の清掃,無気肺の防止,適正な輸液量,十分な尿量の確保に留意する.

妊娠・授乳時

著者: 佐藤和雄 ,   馬場一憲

ページ範囲:P.934 - P.936

□基本事項
 生殖可能年齢の女性を診る時は常に妊娠の可能性を考慮する.
 大部分の薬剤は胎盤を容易に通過するため妊婦または妊娠の可能性のある婦人に対する薬剤投与には常に胎児への影響を考慮する必要がある.

精神異常,痴呆

著者: 南野壽重

ページ範囲:P.938 - P.939

□はじめに
 精神医学は内科の一分科であり,薬物療法が重要な治療手段であることは言うまでもない.それゆえ,「薬物投与の注意と禁忌」に関しては,精神科でも,種々の配慮がなされてきている.本題の「注意すべき状態の患者」とは「外科医が精神医学的注意をすべき状態の患者」の意味だと思える.近年,高齢化時代を迎え,アルツハイマー病や脳動脈硬化症など痴呆例が増加しており,これら高齢者の精神障害例には,薬物投与時,副作用や禁忌に対する配慮が特に望まれる.
 今回外科医が診療実際上,精神医学的配慮が必要になる場合を想定し,薬物療法を中心に,略述した.

アルコール依存症患者

著者: 石井裕正 ,   重田洋介

ページ範囲:P.940 - P.941

□基本事項
1)アルコールは,肝ミクロソーム薬物代謝系に影響  し,長期大量飲酒で酵素誘導現象を生じ,薬物代  謝の亢進または遅延が起こり薬効に影響をおよぼ  す.
2)患者の血中にアルコールが証明される時期と,「し  らふ」の時期とではその薬物代謝能に差がある.  すなわち,血中にアルコールが存在するときには  薬物の代謝が遅延し,常習飲酒家が「しらふ」で  血中にアルコールが存在しない時には代謝が亢進  する1).この事をよく確認して薬剤の投与量を決  定する必要がある.

ステロイド剤投与中の患者

著者: 土肥雪彦 ,   表原多文

ページ範囲:P.942 - P.944

□基本事項
 1.ステロイド剤は,きわめて応用範囲の広い薬剤であるが,また副作用も多い薬剤であることを十分認識しておく.
 2.長期間ステロイド剤投与を受けている患者では,その投与を中断すれば離脱症候群(withdrawal syn—drome)・副腎不全状態を惹起する.ステロイド剤投与中の患者に対し,外科手術を施こすような場合,原則としてステロイド剤を現状維持または増量する.いきなり中止してはならない.

正しいオーダーと処方箋の書き方

著者: 田中美雄

ページ範囲:P.945 - P.947

□はじめに
 疾病を治療していく上に医薬品に係る薬治療法が最も大きい比重を占めていることは医療関係者ならば誰も否定できないことと思う.今日のように健保適用収載品目だけでも15,000余,市場に流通しているものを加えると数万といわれる医薬品を効率よく使用していくためには,それぞれの施設で工夫をこらしたシステムを作り管理しているものと思われる.
 そのシステムに多少の差はあるにせよ医薬品の範疇に入るものは薬局(薬剤部または薬剤科)が品質はもちろん,員数管理等購入計画から施用(消費)に至るまで管理を行つている.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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