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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科41巻8号

1986年07月発行

雑誌目次

特集 重症患者の輸液・栄養

重症患者の麻酔中輸液

著者: 増田忠訓 ,   池田和之

ページ範囲:P.1113 - P.1119

 近年外科領域における重症患者の管理には目覚ましい進歩が認められる.この進歩に寄与しているいくつかの因子のなかで,麻酔学の発達とともに輸液療法の進歩の占める割合が極めて大きい.
 特に重症患者の手術時には,その病態による体液失調に手術・麻酔による体液変動が加味され,極めて複雑な様相を呈することが多い.さらに重症患者ではしばしば誤つた輸液療法により重篤な合併症を引き起こすことがある.
 本稿では重症患者の麻酔中の輸液について各臓器別に述べてみたい.

外傷・熱傷患者の輸液・栄養

著者: 長谷部正晴 ,   小林国男

ページ範囲:P.1121 - P.1127

 重症外傷・重症熱傷患者に対する輸液・栄養管理について述べた.
 急性期におけるいわゆるfluid resuscitationとしては熱傷ショック期の輸液療法が重要であり,治療の理論的根拠となる病態とともに詳述した.
 有効な栄養治療を行うために,著者らは種々の検討を重ねているが,ここではとくに至適投与熱量の問題に焦点をあてた.間接熱量測定法により患者のエネルギー基質に対する利用能を知ることは,投与量の過不足を最小とし,より安全な栄養治療を行ううえで有用な手段と考える.

食道癌術中・術後の輸液・栄養

著者: 安藤暢敏 ,   篠沢洋太郎 ,   大島厚 ,   大高均 ,   田村洋一郎 ,   棚橋達一郎 ,   北野光秀 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.1129 - P.1135

 食道癌手術により循環動態は大きく変動し,手術操作が広範囲に及ぶため術直後には予想以上にhypovolemiaとなり,高齢者や術後腎機能低下例ではその傾向がより顕著である.さらに2病日後半から4病日にはrefillingのために逆にhypervolemiaとなり,肺内シャント率が増加して低酸素血症が遷延する.したがつて術中は12 ml/kg,hr,0〜1病日には2.5〜3.0 ml/kg,hrの十分量の輸液を行い,3〜4病日には1.5ml/kg,hrに輸液量を制限する.術後のみならず術中からも血漿製剤を併用し,術直後の血漿膠質浸透圧の低下を防止する.4病日には蛋白代謝が同化相へ移行する可能性があり,この時期にfull strengthへcalorie upするTPN管理により,窒素平衡を早期に正へ転換し得る.

肝切除の術中・術後の輸液・栄養

著者: 山本正之 ,   木嶋泰興 ,   長堀薫 ,   藤井秀樹 ,   菅原克彦

ページ範囲:P.1137 - P.1144

 基質代謝,体液の血管内外移動は肝のエネルギーレベルの変化と密接に関係している.エネルギーレベルが大きな変動を示さない時--耐糖能異常がない時には特別な処置は必要としない.耐糖能異常が存在する場合,5%ブドウ糖液による輸液を行うが,輸液量はしぼる.経口開始とともに,高蛋白価,高カロリー食にて肝再生促進をはかる.術後経過中に耐糖能が急に悪化する場合には膿瘍等の感染源があると考え,発見除去に努める.投与カロリーをさげて,浸透圧,血糖の制御可能となる時期を待つ.

膵切除術後の輸液・栄養

著者: 藤田秀春 ,   桐山正人 ,   高野直樹 ,   八木雅夫 ,   小西一朗 ,   竹下八洲男 ,   永川宅和 ,   宮崎逸夫

ページ範囲:P.1145 - P.1150

 膵切除のうちでも,広範なリンパ節郭清,神経叢切除,血管合併切除を伴ういわゆる拡大手術では,術後集中的な管理が要求される.早期からの適切な高カロリー輸液と血漿製剤の併用が,異化の抑制と低蛋白血症の改善,循環動態の安定のために有用である.経口摂取に移行する前に経腸栄養を行うことによつて,高カロリー輸液期間の短縮,経口栄養移行後の栄養状態の低下防止が可能である.退院後は持続する消化吸収障害のため,栄養不良状態を引き起こすことが多いので,きめ細かい観察が必要である.

多臓器不全患者の輸液・栄養

著者: 平澤博之 ,   佐藤二郎 ,   稲葉英夫 ,   菅井桂雄 ,   橘川征夫 ,   田畑陽一郎 ,   小高通夫 ,   磯野可一

ページ範囲:P.1151 - P.1157

 多臓器不全(MOF)患者のエネルギー代謝をindirect calorimetry法で測定したが,MOF患者はhypermetabolicであつた.しかしその程度は基礎代謝量の1.4〜1.5倍であり,従来の報告より低値であった.一方累積エネルギー代謝が−10,000 kcalを越えた例は全例死亡したので,エネルギー消費量にみあうエネルギー量を投与するのは不可欠であり,その方法としては中心静脈栄養法(IVH)が第一選択である.
 しかし動脈血中ケトン体比からみて肝細胞内エネルギー代謝が低下している例では,投与された糖が利用されない可能性があり,肝細胞内エネルギー代謝を改善する必要がある.また腎不全をも合併した例では持続的血液濾過(CAVH)を併用しIVHを行うべきである.

カラーグラフ 胆道疾患の外科病理・12

胆嚢腺扁平上皮癌

著者: 松峯敬夫 ,   広田英夫 ,   前田秀一 ,   福留厚 ,   青木幹雄 ,   瀬戸輝一

ページ範囲:P.1109 - P.1111

腺扁平上皮癌と扁平上皮癌
 同一癌巣内に,腺癌と扁平上皮癌の像を併存する癌は,一般に,腺扁平上皮癌(adenosquamous carcinoma)と呼ばれている.
 比較的稀なtypeであり,胃や腸にみられる機会はごく少ないが,胆道では,はるかに高率に発生するといわれ1),胆嚢癌における筆者らの検索でも,31例中7例,22.6%に腺扁平上皮癌が見出されている(表).このような癌巣中に占める腺癌と扁平上皮癌の比率はさまざまであり,時として,100%近く扁平上皮癌成分により占められることもあるが,純型の扁平上皮癌(squamous cell car—cinoma)とみなし得るものは極めて稀である.

原典を繙く・16

そけいヘルニアの治療について(その2)—エドゥワルト・バッシーニ(王立パドゥワ大学 臨床外科教授)

著者: 山内英生

ページ範囲:P.1161 - P.1164

 私はここに提案する方法に従つて262例のヘルニアの手術を行つた.この方法は1884年以来私が使用している最終的なものである.この262例のうち251例には還納性のものと非還納性のものがあり,11例が嵌頓ヘルニアであつた.
 手術の結果について報告する前に術式の記載を先に行うべきであろう.後天性外そけいヘルニアの場合次のような方法で行つている.

画像診断 What sign?・38

"filiform" polyposis

著者: 佐藤豊

ページ範囲:P.1169 - P.1169

 "filiform" polyposis(糸状ポリポーシス:filiはラテン語のfilum=糸)は1974年Appelman1)によつて慢性期の潰瘍性大腸炎の所見として記載されたが,大腸クローン病,大腸結核,大腸ベーチェット病などの,広範な大腸粘膜の炎症を伴う大腸炎の慢性期に非特異的におこることが知られている.注腸所見は長さ2〜15mm,通常5mm以下の細長い陰影欠損が潰瘍を伴わない結腸粘膜を背景に多発性に観察される.この細長い陰影欠損像は,直線状で有茎性ポリープの柄のようにみえるもの,放射状を呈するもの,あるいは樹枝状分枝を示すものなどが混在している.これらは急性期にみられた広範な潰瘍面を背景に島状にとり残された浮腫状結腸粘膜(pseudopolyposis)に上皮の再生が加わつたものと考えられている2)."filiform" polyposisは悪性化することはなく,家族性ポリポーシスなどとの鑑別を要する.

My Operation—私のノウ・ハウ

胆摘,総胆管切石,T字管設置術

著者: 小山研二 ,   田中淳一

ページ範囲:P.1171 - P.1175

適応と手術
 胆嚢摘出術(胆摘術)は,胆嚢結石,胆嚢炎,胆嚢腫瘍など胆嚢自体に病変のある場合に適応となるのはいうまでもない.ほかに,胆管切石術,胆道再建術,内胆汁瘻造設術,乳頭形成術などのさいにも行われる.これらの手術により上行感染が生じやすいため予防的にも広く行われる.
 胆管切石術は胆管(多くは総胆管)を切開して胆石を摘出するが,時に結石は肝内に及んだり,胆管末端に嵌頓していて摘出に難渋することもある.結石を完全に除去するためには慎重な触診,チューブを経由しての胆管内洗浄と造影および内視鏡的観察下の摘出も重要な手技である.また,術前の超音波検査,DIC,ERCP,PTCにより結石の存在部位のみでなく,肝内外胆管の狭窄,拡張の有無など胆道系の状態を十分に把握しておくことが不可欠である.そして,それにもとづいて理にかなう術式を検討し予定しておくことが重要で,術中の所見で術式を決めようという安易な態度は望ましくない.

境界領域

遊離腹直筋皮弁による大きな頭皮・頭蓋欠損の被覆

著者: 宮本義洋 ,   児玉安紀 ,   高橋博之 ,   岡野伸二 ,   矢村宗久 ,   栗栖薫

ページ範囲:P.1177 - P.1181

はじめに
 これまで頭部の被覆について種々の方法が報告されてきている.しかし,その再建は極めて難しく多くの手術回数を必要とした.近年,微小血管吻合による遊離皮弁移植が可能となり,やつと再建可能症例の拡大と一期再建に道が開けたといえる.
 この論文では遊離腹直筋皮弁で一期再建に成功した4症例の報告をし,その長所と欠点について討論する.

臨床研究

外科的に治療したExulceratio simplex(Dieulafoy)5症例の検討

著者: 原田雅光 ,   森本重利 ,   田中直臣 ,   惣中康秀 ,   武原正夫 ,   住友正幸 ,   善成雅彦 ,   倉立真志 ,   森住啓

ページ範囲:P.1183 - P.1188

はじめに
 Exulceratio simplex(以下,Esと略す)は,1898年Dieulafoy1)により,胃上部噴門下の小さな粘膜欠損部で,その深部の粘膜下を走る異常に太い動脈の破綻により大出血を起こす疾患として命名されたものである.われわれは,1980年より1984年までの5年間に,上部消化管大量出血にて外科的治療を行つた53例中5例にこの疾患を経験したので報告する.

インスリノーマ患者の術中管理—ぶどう糖の持続点滴と血糖連続測定装置の有用性

著者: 戸塚芳宏 ,   津田一男 ,   高田尚文 ,   堀真也 ,   上平敦 ,   田中彰 ,   山内教宏

ページ範囲:P.1189 - P.1192

はじめに
 インスリノーマ患者の術中管理上,最も大切なことは低血糖の防止であり1-6),このため,術前,術中,術後に血糖を繰り返し測定して,血糖をコントロールすべくぶどう糖を一定の速度で投与するのが一般的である.しかし,術中の低血糖発作に対しては,グルカゴンを使用する方がよいという意見もある1)
 今回,われわれはインスリノーマ患者に対して,術中および術後の血糖連続モニタリングによる血糖管理を行うとともに,術前,術中,術後に計4回のグルカゴン負荷試験を行い,グルカゴンに対する血糖とインスリンの反応を調べて,グルカゴンの投与が術中の低血糖の管理に有用であるか,また,グルカゴンに対する血糖の反応が術中の腫瘍摘出の指標となり得るか否かを検討したので報告する.

臨床報告

盲腸周囲ヘルニアの2例

著者: 加藤純爾 ,   蜂須賀喜多男 ,   山口晃弘 ,   磯谷正敏 ,   深田伸二 ,   石橋宏之

ページ範囲:P.1193 - P.1196

はじめに
 内ヘルニアはまれな疾患でイレウス全体のわずかに1%を占めるのみであるが1),その中でも盲腸周囲ヘルニアは非常にまれである.
 最近われわれは盲腸周囲ヘルニアによりイレウスをきたした2症例を経験したので報告する.

乳癌に重複した肝原発扁平上皮癌の1例

著者: 石川信也 ,   菊池友允 ,   芳賀駿介 ,   松本紀夫

ページ範囲:P.1197 - P.1199

はじめに
 肝原発悪性腫瘍のなかでも扁平上皮癌は,きわめてまれとされている1-7).今回,われわれは,右乳癌に重複した肝原発扁平上皮癌を経験したので,若干の考察を加え報告する.

高齢者小網嚢胞の1例

著者: 成田達彦 ,   大高克彦 ,   竹島英介 ,   榊原聡 ,   遠山道正 ,   片岡将

ページ範囲:P.1201 - P.1203

はじめに
 網膜にみられる嚢胞はまれであり,中でも小網嚢胞の報告例は非常に少ない.また,その多くは小児例である.最近,われわれは70歳男性の小網嚢胞の1症例を経験したので報告する.

後腹膜滑膜肉腫の1例

著者: 山口明夫 ,   広沢久史 ,   桐山正人 ,   上野桂一 ,   宮崎逸夫 ,   小田恵夫

ページ範囲:P.1205 - P.1209

はじめに
 滑液嚢,腱鞘,関節などの滑液組織から発生する滑膜肉腫は主に四肢にみられることが多く,後腹膜に発生することは極めて稀である.私どもは後腹膜に巨大なのう胞形成をみた滑膜肉腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

急性門脈血栓症の1症例

著者: 村田宣夫 ,   杉山明徳 ,   小林国力 ,   南智仁 ,   増子宣雄 ,   佐藤富良 ,   小野寺時夫 ,   矢沢知海 ,   水口国雄

ページ範囲:P.1211 - P.1215

はじめに
 門脈完全閉塞が急性に生じた場合,劇的に全身状態の悪化を招き,ショックに陥る1).緊急の救命手段が講じられねばならないが,その診断・治療は極めて困難である.
 著者らは扁桃腺炎で感染が始まり,化膿性門脈炎を経て急性門脈閉塞症に至つたと考えられる症例を経験した.本症例で急性門脈閉塞症の促進因子として肝硬変症が認められているが,さらに糖尿病,ヘモクロマトージス等も認められた.症例の大要を記すとともに,最近の諸家の報告を基とした文献的考察を加え報告する.

横行結腸軸捻転症の1例

著者: 朝田農夫雄 ,   飯塚秀彦 ,   長堀順二 ,   橋本英樹 ,   菊池誠 ,   紙田信彦

ページ範囲:P.1217 - P.1219

はじめに
 本邦においては大腸軸捻転症はS状結腸に圧倒的に多く,横行結腸には極めて少なく1%前後といわれている1).われわれはこのような横行結腸軸捻転症の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

潰瘍性大腸炎の術後,空腸に壊死性動脈炎を伴つた1剖検例

著者: 加藤光保 ,   沢井高志 ,   京極方久 ,   伊東正一郎 ,   望月福治 ,   斎藤善広 ,   林哲明 ,   山崎匡

ページ範囲:P.1221 - P.1226

はじめに
 潰瘍性大腸炎(以下UC)は,その病因として免疫異常も考えられている疾患であるが,合併症として血管炎を伴つたとする報告は少ない.今回,われわれは重症のUCで死亡した患者で,剖検時空腸に壊死性動脈炎を認めた症例を経験したので,その成因について,若干の考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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