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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科42巻1号

1987年01月発行

雑誌目次

特集 今日の肺癌治療 '87

定型的手術術式とその成績

著者: 須田秀一 ,   仲田祐

ページ範囲:P.17 - P.23

 1952年より1985年までに東北大学抗酸菌病研究所外科において,肺切除を施行した肺癌症例は1,291例あつた.組織型別内訳は扁平上皮癌602例,腺癌518例,小細胞癌67例,大細胞癌52例であった.これらの5年生存率は各々46.2%,45.4%,27.6%,14.0%で後者で予後不良であつた,病期は,初期の10年間はⅢ期症例が過半数を占めていたが,ここ数年ではⅠ期症例が過半数を占めるようになつた.生存率はⅠ期,絶対的治癒切除で予後良好であつたが,病期が進んだ症例や絶対的治癒切除以外の症例では予後不良であつた.これらに対してはより効果的な補助療法も必要である.

肺癌に対する拡大手術の現況—リンパ節郭清の立場から

著者: 広野達彦 ,   小池輝明 ,   山口明 ,   滝沢恒世 ,   大和靖 ,   相馬孝博 ,   古谷克雄 ,   江口昭治

ページ範囲:P.25 - P.29

 リンパ節転移に対する拡大手術の現況を,胸骨正中切開による左肺癌の縦隔リンパ節郭清例,および斜角筋リンパ節転移陽性例について検討し述べた.胸骨正中切開による郭清リンパ節転移陽性例は8例(34.8%)で,長期生存は術後3年9ヵ月生存中の1例のみであつた.斜角筋リンパ節転移陽性例に対する手術は,非手術例とくらべ良好な成績は得られなかつた.通常の郭清範囲をこえた部位へのリンパ節転移に対する拡大手術の意義はあまり期待しえない現況である.

肺癌に対する隣接臓器合併切除例の検討

著者: 中川健 ,   松原敏樹 ,   木下巌 ,   西満正

ページ範囲:P.31 - P.40

 隣接臓器合併切除肺癌症例のうち,合併切除臓器に癌浸潤の及んでいた101例を対象とし,その成績から手術適応を中心に検討した.
 相対的治癒ないし相対的非治癒切除が期待できる場合は,隣接臓器合併切除は積極的に行うべきであり,特にリンパ節転移の明らかでない扁平上皮癌例は良い適応と考えられた.これに対し腺癌例の予後は不良であった.合併切除臓器では胸壁切除例に長期生存例が多かった.

再発肺癌の手術適応と予後

著者: 土屋了介

ページ範囲:P.41 - P.45

 切除肺癌の5年生存率は30ないし40%にすぎず,再発転移によつて亡くなる症例が多いが,中には再発が胸郭内局所のみに限局している状態で発見され,再手術によつて再度根治できる症例もある.このような症例では再手術のための手術手技や術後残肺機能の低下による術中術後の管理の困難さはあるが,再切除後の5年生存率は41%と良好であり、再発時の慎重な病態の把握と術式の選択によつてさらに適応を増やし成績を上げることが期待される.

Adjuvant Surgeryの現況

著者: 大田満夫 ,   原信之 ,   一瀬幸人 ,   本広昭 ,   竹尾貞徳 ,   三宅純 ,   田中希代子 ,   大津康裕 ,   緒方充彦 ,   近藤宏二 ,   馬場郁子

ページ範囲:P.47 - P.51

 肺小細胞癌治療の主役は多剤併用化学療法で,50%のCRが得られるようになつた.しかし胸腔内再発がもつとも多く,この局所再発の防止には,肺切除術がもつとも有効で,切除例での局所再発は35.3%と低かつた.このため,adjuvant surgeryの成果が期待された.しかし,われわれおよび諸家の報告より.現在の化学療法の力では,遠隔転移再発の壁は厚く,adjuvant surgeryの適応は肺小細胞癌のⅠ・Ⅱ期例までであり,N2例にはないと考えられる.

術後補助療法の現況—化学療法の立場から

著者: 澤村献児 ,   森隆

ページ範囲:P.53 - P.57

 肺癌術後成績の向上を阻むものは術後再発,特に遠隔転移で.その制圧には化学療法が必要と認められながら,従来の試みは無効であつた.
 最近小細胞癌に対する化学療法の進歩に伴い,術後化学療法の効果が確認され予後も飛躍的に改善した.非小細胞癌にも有効性が見られだし,今後に希望がもてるようになつた.しかし副作用も強く術後化学療法の研究は,今後に残された大きな課題である.

術後補助療法の現況—免疫療法の立場から

著者: 三谷惟章 ,   島津久明

ページ範囲:P.59 - P.64

 肺癌の術後補助療法としての免疫療法の効果を我々のOK-432を用いた成績ならびに文献成績から検討した.免疫療法は比較的早期の肺癌に対しては有効であり,その効果は薬剤.投与経路および投与量よりもむしろ投与期間に関係が深いと考えられる.一方,進行肺癌に対する効果は賛否両論があり,現状では断言できない また非手術例に対しては免疫療法による延命効果は期待されない.免疫療法の効果をより高めるためには至適投与の基礎的な検討が必要である.

術後補助療法の現況—放射線療法の立場から

著者: 高木巌 ,   国島和夫 ,   陶山元一 ,   篠田雅幸 ,   横山隆 ,   住吉健一 ,   紺谷桂一 ,   安川浩文 ,   渡辺浩行 ,   吉田穣 ,   森田皓三

ページ範囲:P.65 - P.71

 pN2切除例に対する術後縦隔照射の治療成績をもとに,術後照射の可否を,またパンコースト肺癌不完全切除例に対する術後外照射に密封小線源を併用した治療成績をもとにpT3不完全切除例に対するlocal control率向上への工夫を述べた.
 前者には自験例では無効であり,文献上は賛否両論がある.症例数の多い数施設共同での十分検討されたcontrolled randomized trialが待たれる.
 一方,後者は生存率の向上はみられていないが,全例腕神経叢症状の消失がみられ,quality of lifeの向上に有用であつた.

Endoscopic LASER Surgeryの現況

著者: 加藤治文 ,   酒井治正 ,   斉藤誠 ,   早田義博

ページ範囲:P.73 - P.78

 レーザー技術の急速な進歩に伴い,経内視鏡的レーザー治療法が広く行われるようになつた.これは大きく2つに大別する事ができる.1つはNd-YAGレーザーに代表される高出カレーザーであり,腫瘍による気道閉塞の救急治療等に効果を上げている.一方,悪性腫瘍の光線力学的治療に用いられるアルゴンダイレーザー等の低出力レーザーの開発も進められた.これら内視鏡的レーザー治療の現状を示すとともに,現在の問題点と将来の発展について考察する.

カラーグラフ 乳腺疾患の外科病理・1

乳房原発悪性B細胞性リンパ腫—髄腔内浸潤合併例

著者: 山科元章

ページ範囲:P.13 - P.14

 悪性リンパ腫がリンパ節外に発生することは,さまざまな臓器において多くの例が報告されている.乳腺にも,比較的少ないが,節外リンパ腫の発生がみられ,本邦では田仲らが1983年に73例を集計している.
 悪性リンパ腫の診断は,臨床的にも,病理学的にも困難な例があるが,とくに乳腺においては乳癌と混同されやすい臨床病理所見から鑑別診断の問題となる例が少なくない.ここに免疫組織化学的に確認された乳腺のB細胞性リンパ腫の1例を供覧する.

文献抄録

十二指腸カルチノイドの臨床病理

著者: 山科元章

ページ範囲:P.80 - P.80

 Von Recklinghausen氏病は優性遺伝でひきおこされる家族性の神経外胚葉系疾患である.本症は近年,遺伝子欠損による発生段階の神経堤細胞の迷入・分化不全に基づいて発現するものと理解されている.臨床的には,本症の徴候には,カフェオレ斑や多発性神経線維腫がよく知られているが,その他に,発育不全・奇形合併・神経内分泌系腫瘍などがおこりうる.
 さて,神経内分泌系腫瘍のなかでは,褐色細胞腫が著明な頻度でVon Recklinghausen氏病に合併するが,消化管のカルチノイド腫瘍も高頻度で併発が認められる.とりわけ,一般のVon Recklinghausen氏病でない患者においては,消化器のなかで十二指腸にカルチノイド腫瘍が発生するのは5%以下のまれな現象であるが,Von Recklinghausen氏病患者では,カルチノイド腫瘍は,そのほとんどが十二指腸あるいはファーダー氏乳頭周辺組織に発生するという特徴がある.

Invitation 第29回日本消化器外科学会総会 見どころ,聴きどころ

消化器外科学の進歩と,手術療法の適応判断

著者: 山本貞博

ページ範囲:P.81 - P.82

 第29回日本消化器外科学会総会は,昭和62年2月26(木),27(金)の両日,名古屋市において,名古屋観光ホテル(A),愛知県文化講堂(B),愛知県産業貿易館(C)の3ヵ所12会場で開かれます.
 消化器外科学をめぐる環境の変化はきわめて急速で,内部では診断学治療学の目覚しい進歩によつて技術的な不可能領域は次第にせばめられ,外には高齢化社会が押し寄せています.F.Baconによると"It is as naturalto man to die as to be born"と言われたのでありますが,生きている限り死を自然として受容しにくいのが欲望であります.今回は,消化器外科の進歩と,特に手術療法の適応判断という古来の主題を,現在の環境の中で取り上げさせてもらいました.

連載 My Operation—私のノウ・ハウ

成人の外鼠径ヘルニア根治手術

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.85 - P.90

●適応と手術
 手術適応に関しては,成人の場合特に難しい問題はない.もはや自然治癒の可能性はほとんどなく,あるのは嵌頓の危険だけだから手術の禁忌となるような合併症がないかぎり,ヘルニアの存在が診断されたら,手術適応となる.高齢者,その他,リスクの高い患者でも,よほどのことがなければ,局所麻酔で手術できる.
 外鼠径ヘルニアの原因は,背景に先天性の腹膜鞘状突起の開存があつて,そこに反復する腹圧上昇や加齢による組織の弾力性減退などの後天的要因が加わつておこるとされる.
 著者の手術は,この疾患の背景にある腹膜鞘状突起の開存とその結果であるヘルニアサックの高位結紮切断と再発を防ぐための内鼠径輪縫縮に主眼をおく.女性の場合には子宮円索をヘルニアサックとともに切断して,内鼠径輪を完全に縫合閉鎖する.ヘルニアも長い年月をへたもの,巨大なもの,特にそれが老人などで組織の弾力性低下などが加わつていると思われる場合には,内鼠径輪の拡大とともに鼠径管後壁の脆弱化がみられることもあり,そのときは鼠径管後壁の補強を行う.その方法としては,Iliopubic tract repairを行つている.

臨床研究

80歳以上の高齢者胃癌手術例の臨床病理学的検討

著者: 松下昌裕 ,   蜂須賀喜多男 ,   山口晃弘 ,   磯谷正敏 ,   看橋宏之

ページ範囲:P.91 - P.95

はじめに
 最近の高齢者の増加に伴い,80歳以上の高齢者の胃癌患者に遭遇することも多くなつてきた.われわれは,80歳以上の高齢者胃癌に対しても積極的に手術を行つてきたが,これらの手術例につき臨床的病理学的に検討し,術前のrisk factorと治療方針につき若干の知見を得たので報告する.

外科医の工夫

開放療法による陥入爪の手術治療

著者: 米田敬 ,   中島龍夫 ,   沢田幸正 ,   吉村陽子 ,   加藤一 ,   中西雄二 ,   榊原章洋

ページ範囲:P.97 - P.100

はじめに
 陥入爪は爪縁の炎症により爪が皮下にくいこむ疾患であり,一時的には抜爪や爪切りなどで症状を軽快させることはできるが,変形した爪の発育に対する根本的な手術治療が行われないかぎり,再び同様な症状を起こすことが多い.そのため.陥入爪の根治術としては,従来,labiomatriectomyを基本とした種々の変法が行われ.それなりに良好な手術成績が報告されている1-7).しかし,爪縁と爪を直接縫合する方法では,術後創内に血腫を形成する恐れがあり.疼痛が強く,長期間の安静を必要とする.また,閉鎖療法であるため.感染を起こしている場合には炎症がおさまるまで手術を延期する必要があつた.我々は,このようなlabiomatriectomyの欠点を改良するため,創の縫合を行わず閉鎖創のままで治療を行う開放療法を考案し.これまで,過去3年間に123症例に対して治療を行つてきたが,良好な結果を得ているので,術式とともに手術成績について報告する.

臨床報告

3重複癌術後10年を経て発症した横行結腸癌の1例

著者: 和田浩一 ,   和田孝次 ,   辻秀男

ページ範囲:P.101 - P.104

はじめに
 悪性腫瘍に対する診断技術の進歩及び治療成績の向上,さらに平均寿命の延長に伴い重複癌症例は増加傾向を示しているが,4重複癌症例は今だ少ない.今回私共は,他院で同時性及び異時性3重複癌の根治術を受けた後,10年を経て発症した横行結腸癌の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

異時性破裂をきたした両側性膝窩動脈瘤の1例

著者: 中村俊一郎 ,   近藤治郎 ,   熊本吉一 ,   松本昭彦

ページ範囲:P.105 - P.108

はじめに
 末梢動脈瘤のうち,膝窩動脈瘤は本邦では大腿動脈瘤についで多く1),破裂例は少ないと言われている.今回われわれは,時期を異にして発生した両側性破裂性膝窩動脈瘤に対して、異なる2種の人工血管による血行再建術を施行した症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

咳嗽発作を主訴とする頸部迷走神経鞘腫の1例

著者: 近藤和也 ,   森本重利 ,   露口勝 ,   田中直臣 ,   大和秀夫 ,   惣中康秀 ,   和田大助 ,   倉立真志

ページ範囲:P.109 - P.113

はじめに
 頸部迷走神経に発生する神経鞘腫はまれである.最近われわれは,咳嗽発作を主訴とする左頸部迷走神経由来の本腫瘍の1例を経験したので報告するとともに,本邦で報告された44例の集計を行い.若干の文献的考察を加えた.

S状結腸腹膜垂炎の1例

著者: 清水輝久 ,   伊福真澄 ,   黒岩正行 ,   山田卓史 ,   岡田代吉 ,   高木雄二 ,   高田俊夫 ,   橋本芳徳 ,   窪田芙佐雄

ページ範囲:P.115 - P.118

はじめに
 腹膜垂が炎症を起こすことは知られているが,本邦では報告が少なく,非常に稀な疾患である.腹膜垂炎は虫垂炎や憩室炎などとの鑑別が容易でなく,術前に診断を下すことは困難であるが,日常の診療上,腹膜垂に関連する病態についても理解を深めておくことは重要なことである.最近我々は急性虫垂炎の診断のもとに開腹したところ,S状結腸腹膜垂炎であつた1例を経験したので報告する.

高齢者膵頭部小膵癌の3切除例

著者: 山本英夫 ,   七野滋彦 ,   佐藤太一郎 ,   秋田幸彦 ,   加藤岳人 ,   金井道夫 ,   片山信 ,   三浦由雄 ,   乾和郎 ,   二村雄次

ページ範囲:P.119 - P.123

はじめに
 最近の内視鏡的逆行性膵管・胆管造影(ERCP),超音波断層検査法(US),コンピューター断層撮影(CT)などの画像診断の発達・普及に伴つて小膵癌の報告が増加してきており,膵癌の切除率も向上してきたとは言え,まだ満足すべき予後は得られていない.今回我々は高齢者の小膵癌を3例経験し切除しえたが,全例再発により死亡し,小膵癌といえども予後は決してよくないことを知つたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

不完全型胆嚢捻転症の1例

著者: 太田哲生 ,   素谷宏 ,   魚岸誠 ,   杉山和夫 ,   神野正一 ,   鈴木正行

ページ範囲:P.125 - P.128

はじめに
 胆嚢捻転症の本邦報告例は,1932年横山1)の報告をもつて嚆矢とし,これまでに160余例を数える.しかし,その大部分は胆嚢捻転の程度が180°以上の完全型胆嚢捻転症例であり,180°未満の不完全型胆嚢捻転症は稀で,しかも術前に診断しえた症例は皆無に近い2)
 今回,著者らは腹部超音波検査,経静脈性胆道造影検査(DIC)および内視鏡的逆行性胆道造影検査(ERC)にて診断しえた不完全型胆嚢捻転症の1例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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