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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科43巻12号

1988年11月発行

雑誌目次

特集 Drug Delivery Systemを利用した癌治療

EDITORIAL

著者: 高橋俊雄

ページ範囲:P.1713 - P.1714

 P.Ehrlich(1889)は,病原微生物にのみ毒性を示し人体細胞には毒性を持たない薬剤による化学療法の概念を初めて医学に導入し,その後,細菌感染症の治療は飛躍的に進歩した.抗癌剤においても癌細胞だけに毒性を示し正常細胞には毒性を及ぼさない薬剤,すなわち,癌選択毒性のある薬剤の開発のために,これまで膨大な化合物あるいは天然物質のスクリーニングが行われてきた.しかし,未だこのような理想的抗癌剤は見出されていない.近年,多くの薬剤が開発され,癌細胞に対して優れた効果を持つ薬剤もあるが,同時に正常細胞にも強い障害を及ぼすため臨床的に投与が制限されたり,時にはこの副作用のため患者の予後に重大な影響を及ぼすこともある.そこで,既存の抗癌剤を癌の主病巣や転移巣にできるだけ選択的に投与し,正常細胞にはできるだけ薬剤を分布させない工夫を行うことにより,副作用を少なくして多量の抗癌剤を投与して癌化学療法の効果増強を図ろうとする試みがなされるようになった.これが癌のターゲティング療法(targetingchemotherapy)である.この用語は最初Gregoliadis(1973)がリポソームを用いて標的へのターゲティングの可能性を示したことから始まった.

アンギオテンシン併用癌化学療法

著者: 涌井昭 ,   星正彦

ページ範囲:P.1715 - P.1721

 アンギオテンシン(AII)併用癌化学療法は腫瘍血管の機能特性に基づきdrug delivery systemを巧みに利用した癌化学療法である.すなわち,AII昇圧で腫瘍組織の血流量を選択的に増加させることにより,抗癌剤の腫瘍組織への選択的亢進を図るものである.著者らはこれを臨床応用し,これまで,頭・頸部癌で90%,乳癌で71%,胃癌で41%,膵癌で33%の高い奏効率を得たが,非小細胞肺癌,結腸・直腸癌では20%台にとどまった.今後これらの低奏効率腫瘍に対する抗癌剤の選択とともに,本療法の効果をさらに高めるため,腫瘍組織に到達した抗癌剤をより長く局所に留まらせる臨床的対策の開発が必要と考えられた.

リピオドールを用いたターゲティング療法

著者: 今野俊光

ページ範囲:P.1723 - P.1732

 固型腫瘍の治療においては,腫瘍局所にのみ制癌剤を集めることができれば,制癌剤による副作用軽減はもちろんのこと,抗腫瘍効果を増強させ得ることは容易に想像できる.
 油性造影剤であるLipiodol ultrafluidは動注されると腫瘍新生血管内外に長く停滞することを初めて見出し,このLipiodolの腫瘍内に選択的に停滞する性質を利用したターゲティング療法を試みたところ,目的としたターゲティング療法の成立が認められるとともに著明な抗腫瘍効果の増強と副作用の軽減が得られ,臨床的にその有用性が確認されたので報告する.さらに,Lipiodolをキャリアーとして用いたターゲティング療法における薬剤剤型上の必要条件について併せて報告する.

Degradable Starch Microsphere(DSM)の臨床応用

著者: 藤本茂 ,   小池正造 ,   遠藤文夫 ,   橘川征夫 ,   水谷正彦 ,   奥井勝二

ページ範囲:P.1733 - P.1740

 消化管原発悪性腫瘍よりの切除不能肝転移12例に対して,45±5μmの直径を有するdegradablestarch microsphere(DSM)とmitomycin C(MMC)の併用肝動注を行った.DSMは血中アミラーゼにより分解・消失するが,その直径より肝細動脈に塞栓を形成してarteriolar spaceにMMCを貯留させ,そのT/2は約30分と考えられる.DSMの1回投与量は600〜900mg,MMCの平均総投与量は35.5±21.3mgであり,CR1/12例,PR4/12例,MR2/12例(58%)に認められた.動注前3.0ng/ml以上の血中CEAを示した11例中7例(64%)において50%以上の下降を見た,副作用としては,一過性の悪心,嘔吐,発熱などを認めた.さらに,DSM投与による肝内微細循環の変動を検索し,その抗腫瘍効果について概説した.

マイクロカプセルを用いたターゲティング療法

著者: 加藤哲郎 ,   佐藤一成 ,   阿部良悦

ページ範囲:P.1741 - P.1747

 マイクロカプセル化抗癌剤(MC)の動注法は細動脈塞栓を介したターゲティング療法であり,従来の動注療法に比して明らかに高い治療効率をもたらすことが実験的・臨床的に示されている.本法は選択的動脈カテーテル法が可能な各種腫瘍を治療対象とすることができ,1978〜1986年の集計では759症例に適用された.治療回数は1〜3回(症例の70%で1回),91%の症例でMMC-mcが使用された.全体の奏効率(CR+PR)は25%であったが,40cm2以下の腫瘍では36%,前立腺癌と膀胱癌では56〜57%であった.重篤な合併症は稀で,安全性は高いとみなされた.肝癌,腎癌,膀胱癌において,本法単独または他療法との併用による延命が示唆された.

活性炭吸着抗癌剤

著者: 萩原明於 ,   高橋俊雄 ,   沢井清司 ,   岩本昭彦 ,   米山千尋 ,   近藤慎治

ページ範囲:P.1749 - P.1754

 活性炭吸着抗癌剤は,微粒子活性炭に多量の抗癌剤を吸着させた剤型である.本剤型は抗癌剤を一定の濃度に調節しながら放出する性質(濃度調節的成分徐放性)や,リンパ指向性と全身への薬剤成分移行の軽減,癌の腫瘤表面への付着性を持つ.マイトマイシンCを用いた腹膜播種性転移に対する体腔内投与では,毒性はマイトマイシンC水溶液の約1/5,局所的治療効果は3倍で,臨床的にもヒト癌性胸・腹水や,胃癌の腹膜播種の予防と治療に効果を認めた.リンパ節転移に対しては,ペプロマイシンやマイトマイシンCを吸着させて局所投与し,動物実験で水溶液抗癌剤に比較して有意に治療効果が増大した.臨床的には食道癌や胃癌に対して使用し,有効であった.

抗癌剤封入リポソームを利用したターゲティング療法

著者: 熊井浩一郎 ,   高橋孝行 ,   壷内泰二郎 ,   鈴木啓一郎 ,   平畑忍 ,   石引久弥 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.1755 - P.1764

 抗癌剤の腫瘍到達性向上と抗腫瘍効果増強を目的として,リポソームという人工脂質膜小胞を薬剤キャリアーとして用いたDDSの研究を行っている.リポソームの低毒性という共通の性質に加え,以下の3特性をDDSに利用している.1)脂質であるリポソームのリンパ組織指向性を利用し,アドリアマイシンを封入したLip-ADMのリンパ節転移治療効果増強を転移モデルで確認し,内視鏡下局注の臨床応用を行った.2)リポソームの相転移特性を利用し,42℃で薬剤を放出する温度感受性TS-Lip-ADMを作成し,腫瘍局所加温併用による効果増強を実験的に確認し,臨床応用を試みた.3) Lip-ADMに抗ヒトAFPモノクローナル抗体およびそのFabフラグメントを結合させたLip-ADM=Ab,Lip-ADM=Fabのターゲティング効果増強をin vivo実験で確認し,肝動注による肝転移治療への臨床応用を実施した.

癌細胞の抗原に対するモノクローナル抗体の応用

著者: 谷内昭 ,   高橋徹 ,   今井浩三

ページ範囲:P.1765 - P.1770

 近年のバイオサイエンスの進展を念頭におきつつ,癌細胞の抗原にむけられたモノクローナル抗体の応用という観点から最近の進歩をまとめた.制癌剤とモノクローナル抗体の結合は比較的長い歴史を有するが,最近はこれが臨床に応用されつつある.また,細胞にインターフェロン処理をしてある種の腫瘍抗原の発現を増強させたり,bispecificなモノクローナル抗体を利用する方法が考案されている.さらに最近,抗イディオタイプ・モノクローナル抗体も作製されつつあり,今後の癌治療に新しい展開が期待される.

最近の話題—Immunotoxin

著者: 上田政和 ,   清水信義 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.1771 - P.1774

 Immunotoxinとは細胞表面抗原に特異的な抗体に毒素を結合させたものであり,ある特定の細胞を選択的に殺すことができる.現在immunotoxinを制癌剤や拒絶反応に対する免疫抑制剤として利用する研究がすすめられている.われわれは扁平上皮癌で高率に過剰発現しているEGFレセプターに対するモノクローナル抗体(B4G7)と植物毒であるgeloninとのconjugateを作成し,扁平上皮癌に対する新しいターゲティング療法の開発を試みており,conjugateの効果をin vitro, in vivoで検討したので,その成績を中心に,immunotoxinの概要,現在の研究状況,臨床応用を交え,今後の展望を述べる.

最近の話題—薬剤耐性とカルシウム拮抗剤

著者: 鶴尾隆

ページ範囲:P.1775 - P.1779

 多くの抗癌剤に抵抗性を示す多剤耐性細胞の膜にP—糖タンパクと呼ばれる特異的タンパクが発現する.P—糖タンパクは抗癌剤を細胞外に排出する機能をもつことが推定されている.細胞レベルのDDS研究に興味深いタンパクである.カルシウム拮抗薬は多剤耐性細胞からの抗癌剤の排出を阻害することによって耐性を克服する.カルシウム拮抗薬のターゲットはP—糖タンパクであると考えられる.カルシウム拮抗薬の抗癌剤膜輸送の阻害機能も,細胞レベルでのDDSを考える上で興味深い.

カラーグラフ Practice of Endoscopy 食道内視鏡シリーズ・Ⅱ

生検と切除標本

著者: 板橋正幸 ,   広田映五 ,   張霖

ページ範囲:P.1707 - P.1710

 本稿では生検の採取と切除標本の取り扱い上における注意点,および病理医からの臨床医へのお願いなどを述べさせていただく.

Caseに学ぶ 一般外科医のための血管外科応用手技・18

術後感染による仮性肝動脈瘤破裂の処置

著者: 熱田友義 ,   伊藤紀之 ,   子野日政昭 ,   加藤紘之 ,   田辺達三

ページ範囲:P.1781 - P.1784

はじめに
 消化器手術後に発生する仮性肝動脈瘤の主な原因は膵液瘻と縫合不全・感染によるものと思われ,その破裂による大量出血の予後は極めて不良である.多くの膵液瘻は自然閉鎖するが,これに不適切なドレナージが加わると,時にこの重篤な合併症を惹起することがある.近年,膵頭十二指腸切除症例や胃癌手術時の膵合併切除症例の増加に伴い膵液瘻発生頻度も多くなり,さらに腹部臓器癌手術の際のリンパ節郭清に伴う血管外膜剥離による血管壁露出と感染により,仮性肝動脈瘤が増えているものと思われる.この出血に対し,最近とみに発達・普及の著しいinterventional angio-graphyによる出血部位,出血原因の早期確認,適切な動脈塞栓術で良好な成績を収めている施設も多くみられるようになった1).われわれは6例の感染に起因する仮性肝動脈瘤破裂を経験しているが,この動脈瘤は限局した部位にとどまらず,瘤状変化が速やかに広範囲に拡がる印象をうけている.したがって,肝動脈瘤切除,肝動脈結紮,適切なドレナージによる感染対策が必要な症例に遭遇することがある.最近,inter-ventional angiographyで出血をコントロールしたうえでこれらの手術操作を加え救命しえた2例を経験したので,そのポイントについて述べる.

研修医セミナー 一般外科手術記録の書き方

Lesson1 一般的注意(つづき)

著者: 小越章平

ページ範囲:P.1785 - P.1787

E.手術手技に関する術語
1)器具類 the surgical instruments(一般外科で多用するもの)
 ①メス類 the scalpel,the operating knife
  円刃刀 the round edged scalpel,尖刃刀 the sharp pointed operating knife 差換刃 the replaceable knife blade

老医空談・3

外科医の鬼手

著者: 斉藤淏

ページ範囲:P.1788 - P.1789

 鬼手とは囲碁将棋の奇抜な手のことだが,むごたらしい手術をする外科医を鬼と見立て,その手技を超人的と高く評価してこの字を当てたのでしょう.ヨーロッパの昔の外科は下賤の者のすることと見下げられていたのと異なり,日本の外科医者は古くから神仏の使者のように崇拝されていたのである.鬼手の字は仏心の二字とそろいで使われることが多い.私に贈られた色紙をみると,大僧正も名書家も,ペアで書いている.敬いと諭しの意味があると考えて大切にしております.
 外科医を名医扱いにした言葉にはほかに刀圭家と国手がある.前者は刀と薬匙からとった医術にかかわる古語だが,これはいただけます.後者は,医政や国政を論じ奔走している先生方に献上しておきたい.昔の外科医にも国手の名に相応しい名医はあったが,今日の外科は片手間でも立派にやり通せるとは絶対に考えられないから返上したい.しかし鬼の手はいただいておきましょう.

文献抄録

胎児肝補助移植—腹腔内モデルでの機能評価

著者: 広部誠一

ページ範囲:P.1790 - P.1790

 同所肝移植において大きな問題にdonorの供給不足があげられるが,特に小児において深刻である.その供給源として無脳児に注目し無脳児の肝移植への利用のために,本来の肝臓を残し胎児肝を異所移植するモデルを考案した.donorに胎生135〜140日の胎児羊を用い,recipientに5〜8週の子羊を用いた.胎児は子宮切開にて採取し,臍帯静脈にカニュレーションする.下大静脈を右房近くで切断し急速脱血させるとともに,臍帯静脈より乳酸リンゲル液を持続注入する.肝下部大静脈を腎静脈分岐部上部で切断.門脈,総胆管を結紮切断.肝動脈は大動脈まで剥離し大動脈を含めて切断し,そして肝臓を摘出し冷却する.recipient側は,本来の肝臓を温存し胎児肝移植する空間を作るために右腎を摘出する.また右腎動脈,下大静脈,門脈を露出し,総胆管はカニュレーションして外瘻化する.胆嚢は摘出する.胎児肝補助移植の方法は,まずdonorの肝部下大静脈とrecipientの肝下部大静脈との間に5〜7cm長の側々吻合を施行.肝動脈の吻合は,donorの肝動脈茎を有する大動脈部をrecipientの右腎動脈部へ端側吻合する.門脈系は,donorの臍帯静脈とrecipientの門脈を端側吻合する.donorの胆嚢にカテーテルを挿入し外瘻化する.host本来の肝機能を低下させるモデルとして,host本来の肝臓の総胆管を閉鎖させることも試みた.

臨床研究

乳腺腫瘤の超音波診断への多変量解析の応用の試み

著者: 速水啓介 ,   大城久司 ,   貞本誠治 ,   山中啓司 ,   沖元達也

ページ範囲:P.1793 - P.1795

はじめに
 日本超音波医学会医用超音波診断基準に関する委員会が乳腺超音波断層法(以下,乳腺エコーと略す)の診断基準案を公示している1)(表1).この7つの所見のうち,縦横比の値に関してはまだ議論の余地があるが,今後ともこれに則ったエコー所見の記述が臨床の場でなされることと思われる.これらの所見から,その乳腺腫瘤が良性か悪性かを診断する際に統計学的手法を用いるなら,多変童解析のうちの数量化理論II類がモデルとして適用される2,3).本研究では,その数量化理論Ⅱ類を用いることにより良性悪性の鑑別診断における正診率が向上するか,また鑑別のためには7つの所見のうちどの所見がどの程度重要なのかを検討した.

消化管カルチノイド—種瘍径とリンパ節転移からみた治療方針

著者: 別府真琴 ,   福崎孝幸 ,   三谷和弘 ,   藤本憲一 ,   谷口積三

ページ範囲:P.1797 - P.1801

はじめに
 消化管カルチノイドは,最近の診断技術の進歩ならびに本症に対する認識の高まりにより,術前に比較的早期に診断される機会が多くなり,治療法の選択に対して問題が生じつつある.すなわち早期の小病変に対して,悪性腫瘍として本症を扱い癌に準じた手術をするべきか,それとも良性腫瘍と捉え局所切除のみでよしとするか議論の余地が残されている.従来よりカルチノイドの腫瘍径とリンパ節転移との間には密接な関係があることが報告されている1,2).しかしながら,リンパ節転移が少数例ながらみられるようになる1cm前後の小腫瘍に対して,いかなる手術術式を選択すべきか判断に苦慮するところである.そこで著者らは消化管カルチノイド6例の経験と本邦報告例の検討から,手術術式の決定に役立つべき方針を考察したので述べる.

糖尿病による難治性足部潰瘍を合併した閉塞性動脈硬化症例に対する治療経験—血管柄付遊離皮膚移植併用について

著者: 明元克司 ,   富川正樹 ,   宮沢秀樹 ,   横川雅康 ,   北沢慎次 ,   上山武史

ページ範囲:P.1803 - P.1806

はじめに
 慢性下肢動脈閉塞症に対する血行再建の進歩はめざましく,その治療成績は安定かつほぼ満足すべきものとなっている.しかし,閉塞性動脈硬化症(以下ASOと略す)は高齢者に多く,種々の併存症を伴っており,なかでも糖尿病の合併頻度は約20%と高く糖尿病性皮膚潰瘍合併例も少なくない.今回われわれはASOに合併した糖尿病性microangiopathyに起因する難治性足部潰瘍例に対して,下肢血行再建と血管柄付遊離皮膚移植を二期的に行い,完治せしめたので報告する.

臨床報告

いわゆる肺癌肉腫の1例

著者: 伊藤達朗 ,   奈良坂重樹 ,   柴野良博 ,   遠藤秀彦 ,   八重樫雄一 ,   冨地信和

ページ範囲:P.1807 - P.1811

はじめに
 一般にいわゆる癌肉腫(so-called carcinosar-coma)と呼ばれるものは,癌細胞,特に扁平上皮癌が肉腫様変態を示して増殖する癌腫の一組織であり,真の癌肉腫とは異なるものである.肺においても,いわゆる癌肉腫は発生するがその頻度は稀であり,報告例も少ない.今回われわれは,いわゆる肺癌肉腫と診断し得た1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

胃重複症の1手術例

著者: 石川啓 ,   酒井敦 ,   富田正雄 ,   下田穂積 ,   津田暢夫 ,   野口哲彦

ページ範囲:P.1813 - P.1816

はじめに
 消化管重複症は全消化管のいずれの部位にも発生するが,特に回腸に多く,胃に発生することは比較的稀である.われわれは最近3歳6ヵ月女児の胃重複症を経験し,本邦および欧米における報告例について若干の検討を加えたので報告する.

肝動脈塞栓療法(TAE)と肝切除術にて治療した幼児の肝芽腫—完治したと思われる1例

著者: 水野良児 ,   山崎洋次 ,   安川繁博 ,   祐野彰治 ,   桜井健司

ページ範囲:P.1817 - P.1820

はじめに
 成人の肝癌に対する肝動脈塞栓療法(transcatheterarterial embolization,TAE)の効果はすでに認められている1,2).一方,小児では肝癌自体が少なく,その効果に関しては検討段階であると思われる.
 今回,切除不能であった肝芽腫にたいしてTAEを実施したところ著明な腫瘍の縮小がみられたため,二次的に肝切除に成功し,その後の化学療法も終え,治療開始後2年以上経過し再発の認められない症例を経験したので報告する.

後腹膜漿液性嚢腫の2例

著者: 矢野一麿 ,   森田純二 ,   白井治 ,   高槻春樹 ,   仁木俊助

ページ範囲:P.1821 - P.1825

はじめに
 後腹膜漿液性嚢腫は比較的稀な疾患であり,本邦報告例は25例となっている.近年画像診断の進歩により腹部の嚢胞性病変の存在診断は容易になってきたが,後腹膜嚢腫は腎,副腎などの後腹膜臓器や卵巣,腸間膜などの腹腔内臓器に発生する嚢胞性疾患との鑑別は必ずしも容易ではない.最近われわれは若年女性に発症した後腹膜漿液性嚢腫の2例を経験したので報告する.

虫垂絨毛腺腫の1例

著者: 石井芳正 ,   関川浩司 ,   円谷博 ,   野水整 ,   土屋敦雄 ,   阿部力哉

ページ範囲:P.1827 - P.1830

はじめに
 虫垂原発の腫瘍は稀であり,術前に診断されることは少ない.多くの場合,急性虫垂炎として虫垂切除がなされ,組織学的検索により初めて腫瘍の診断を得ることが多い.
 今回,われわれは急性虫垂炎の診断にて虫垂切除を行い,組織学検査で初めて虫垂絨毛腺腫と診断された86歳女性の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

鼠径ヘルニア,心室中隔欠損症を合併した幼児期睾丸性女性化症候群の1例

著者: 川田哲嗣 ,   河内寛治 ,   小林博徳 ,   森田隆一 ,   萩原洋司 ,   北村惣一郎

ページ範囲:P.1831 - P.1833

はじめに
 睾丸性女性化症候群(testicular feminization syn-drome:TFS)は,外生殖器上女性型を呈するが,腹腔内または鼠径部に睾丸を有する疾患である.多くは,原発性無月経を主訴に思春期以降に見つけられることが多い.今回われわれは,最初,心室中隔欠損症根治手術時に両側外鼠径ヘルニアと診断したが,偶然行った染色体検査をきっかけにTFSを合併していると診断し,後日同時期にヘルニア根治術,除睾術を行った女児例を経験した.女児鼠径ヘルニア根治手術において,稀ではあるが本疾患の合併も注意すべきことと思われ,ここに文献的考察を加えて報告する.

表紙の心・11

リスフランの墓

著者: 大村敏郎

ページ範囲:P.1811 - P.1811

 前回のギヨーム・デュプユィトラン(Guil-laume Dupuytren, 1777-1835)のいたオテル・ディユ病院はセーヌ川の川中島シテ島にあったが,川を挟んだ左岸の少し上流にあるピティエ(Pitié)病院には外科医としてジャック・リスフラン(Jacques Lisfranc,1790-1847)が活躍していた.このピティエ病院と精神神経領域で有名なサルペトリエール(Salpêtrière)病院は隣りあわせで大きな病院地域を形成している.その西側の道は病院大通りと呼ばれている.
 リスフランはデュプュイトランのことを「川向の肉屋の親父」と呼び捨てにして,技のよいことは認めながら,人格的には尊敬できないことを明らさまにして敵愾心をもやしていたようである.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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