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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科43巻3号

1988年03月発行

雑誌目次

特集 手術と輸血—最近のトピックス

血液製剤の種類—製法,特性,用途

著者: 坂本久浩

ページ範囲:P.305 - P.319

 現在の輸血療法は従来の溶血,発熱,蕁麻疹等の同種抗原抗体反応によるものの他に,非A非B型肝炎ウイルス,ATLA, AIDS, CMV等の血液を媒介とするウイルス性感染症の増加,新鮮血による致命的なGVHRの発生等,極めて副作用,合併症の多い危険な治療法であることが明らかとなって来ている.近年,血液製剤は成分輸血の推進によりほとんどが赤血球,血小板,血漿及び血漿分画製剤にそれぞれ分離されており,輸血効率と血液の有効利用に関しては優れているが,成分製剤の組み合わせによる輸血単位数の増加や1人の感染血液から2〜3人の患者へウイルスを移入することになり,輸血後感染症の防止には極めて不利である.輸血の適応を厳密に考慮して不必要な輸血を控え,必要な時には全血を積極的に利用すると共に,手術に当たっては自己血輸血の利用を考慮し,輸血の安全性を向上させることが現在最も必要である.

外科手術における血液製剤の使い方—全血,濃厚赤血球,新鮮凍結血漿,アルブミン,血小板

著者: 湯浅晋治

ページ範囲:P.321 - P.330

 輸血療法は全血輸血から成分輸血へと転換されたが,現在それら血液成分のアンバランスな使用が問題になっている.輸血用血液の大半を使用する外科ではこの点どうであろうか.一昨年厚生省から血液製剤の適正使用のガイドラインが示されたが,貴重で有限な血液を有効に利用するには,まず輸血の中心となるべき赤血球輸血の適応の拡大であり,また血漿製剤であるアルブミンや新鮮凍結血漿の適正な使用である.

輸血とHLA

著者: 松木一雅 ,   十字猛夫

ページ範囲:P.331 - P.335

 輸血におけるHLA抗原系の臨床的意義について概説する.HLA抗原はヒトの主要組織適合性抗原で,赤血球抗原系に続いて輸血の分野では重要な意義を有する.とくに血小板輸血においては,不応症となった場合HLA抗体の存在を考えるべきであり,抗体が存在する場合はHLA適合血小板の輸血が有効である.また,最近注目されている輸血後GVHの背景には供給者と受血者の間のHLAの不適合が存在すると考えられている.

輸血と肝炎

著者: 片山透

ページ範囲:P.337 - P.343

 現在の我が国では,血液センターでのHBsAgプレチェックがかなり効果を挙げてはいるものの,輸血後B型肝炎はまだ0.3〜0.5%程度にみられるし,病原体ならびにその関連抗原抗体が未確定の非A非B型肝炎の発生は20%にも達するという報告がある.またその防疫対策としては,GPT正常値のものを輸血するという方法が採られているに過ぎない.
 輸血後肝炎の診断自体についても,B型肝炎は輸血前と肝炎発症直前・直後のHBsAgあるいは1gM-antiHBcを検査することで可能であるが,非A非B型肝炎の診断は,いわゆる吉利班の判定規準またはこれを改変した1〜2の基準に基づいて,GPTをマーカーにして,疑診ならびに確定診断として下している.
 輸血後B型肝炎の対策としては,HBsAgの検査法の変更か,antiHBcの併検が,非A非B型肝炎対策としてはGPTの標準値を20〜25K.U.に引下げることが検討されつつある.

輸血とATL,AIDS

著者: 前田義章 ,   深田謙二 ,   中野康子

ページ範囲:P.345 - P.350

 HTLV−1の輸血感染は現行の抗体スクリーニングでほぼ完全に防止し得る.欧米各国でもHTLV−1のスクリーニングに向けて,我国に追随する動きがある.もはや我国ではHTLV−1感染対策は家族内感染とくに母乳による母児感染をいかに行うかにしぼられている.
 一方,HIV抗体検査は現状では不十分なところがあるためHIV抗原検査をはじめ,これを補うための方策がいろいろ試みられている.

手術と自己輸血

著者: 高折益彦

ページ範囲:P.351 - P.356

 自己輸血法には手術前数週間〜数カ月にわたり自己血を集収,貯蔵して用いる貯血式,手術直前,一度に大量採取して用いる希釈式,そして出血した血液を吸引,再調整して用いる回収式の3種がある.これら3法それぞれには特色があり貯血式は適応症例に富み,希釈性は使用する血液の正常性に優れ,回収式は緊急性に優れている.より良く,かつ効果的な自己輸血の実施はただ一法にのみ頼ることなく他法を巧みに組入れ実施することである.

人工血液—とくに修飾ヘモグロビン溶液について

著者: 関口定美 ,   伊藤敬三

ページ範囲:P.357 - P.362

 血液の有する総ての機能を代替する真の意味の人工血液を存在しない.すでにフルオロカーボンが知られているが,その酸素運搬能,生体内蓄積性から一般の輸血に応用されるには至っていない.また期限切れ血液を溶血し,赤血球膜成分を除いたstroma free hemoglobinの応用もみられたがP50が低いこと,生体内半減期が著しく短いことなどの欠点があり,最近はこの欠点を改善すべくヘモグロビン分子を化学修飾した修飾ヘモグロビン溶液が人工赤血球として注目されている.ヘモグロビン修飾法は数多く存在し,その有効評価は困難であるが,今後規格の一定した修飾ヘモグロビン溶液により評価をおこない臨床応用に向けることが必要である.われわれは年間250万単位に達する非使用赤血球の有効利用の立場からPEG-PLP-Hb溶液の調整を試みており,輸血をめぐる総合的課題として今後の修飾ヘモグロビン溶液の早期実用化を期待している.

Editorial

手術における血液製剤投与の新しい考え方

著者: 遠山博

ページ範囲:P.301 - P.304

はじめに
 「手術と輸血」という特集にあたり,それに関連を持つと考えられる新しい知見の若干を手短くまとめてみたい.

カラーグラフ Practice of Endoscopy 胆道内視鏡シリーズ・Ⅵ

肝内結石症に対する術後胆道鏡(その1)—手技的事項を中心として

著者: 山川達郎

ページ範囲:P.295 - P.298

 肝内結石症は,結石が存在する拡張部と病変開口部の狭窄を含めた切除により,また肝切を適応できない場合には,狭窄部を切除して胆汁のうっ滞を解除するドレナージ手術により根治が期待できるとされている.しかし病変部位とその拡がり,患者のリスク,その他(表1)の如き要因により,術前に確診し得た症例でも結果的には理想的な治療法がなされていなかったり,また不可能であることもあって,術後胆道鏡は本症の治療上必須の武器と認識されるにいたった.
 切石術に用いられる胆道ファイバースコープの挿入経路には(1) T-tube瘻孔,(2)肝管空腸端側吻合により形成される盲管空腸瘻のほかに,病態によっては経皮経肝的胆管ドレナージ(Percutaneous TranshepaticBiliary Drainage-PTBD)により形成される瘻孔などがあり,これらは単独で,あるいは重複してその目的に使われる.

表紙の心

初代王立外科アカデミー会長ジャン・ルイ・プティの横顔

著者: 大村敏郎

ページ範囲:P.335 - P.335

 パリの旧医学部講堂の正面に5人の横顔のレリーフがついている.5人とも外科医である.その右端にあるのが初代王立外科アカデミー会長になったジャン・ルイ・プティ(Jean Louis Petit,1674-1750)の像である.
 他の4人は13世紀のピタール,16世紀のパレ,18世紀のマレシャルとラ・ペイロニーで,パレを除くと英米系やドイツ系の新発見を中心にした医学史の中ではあまり重視されていない.したがってわが国では蔭がうすいが,外科医の歴史を考える上には欠くことの出来ない人々である.

イラストレイテッドセミナー 一般外科手術手技のポイント

Lesson10 胃腸吻合術

著者: 小越章平

ページ範囲:P.365 - P.372

 胃腸吻合、腸々吻合は消化管手術の基本であることは言うまでもない。しかし、この基本にしても各施設で色々の万法がやられており、手技の一致をみることはない。一つの基本手技を身につけて、それを基準にして他の方法を見る目を養えばよい。
 最近は良質の吸収性の合成糸が盛んに使用されている。われわれもこれを、とくに全層縫合に使用することが多い。従ってここでは、この点を考慮して連続縫合による胃腸吻合法を述べる。

Invitation 第88回日本外科学会総会"見どころ,聴きどころ"

将来をみすえた特別パネルディスカッション「日本外科学会のこれから」に期待

著者: 武藤輝一

ページ範囲:P.373 - P.375

はじめに
 第88回日本外科学会総会を4月20日(水),21日(木),22日(金)の3日間,新潟市に於て新潟県民会館,新潟市公会堂,新潟市音楽文化会館,新潟市体育館,オークラホテル新潟,新潟グランドホテルにおける13会場で開催することになりました.
 昭和23年春,恩師中田瑞穂先生が新潟市において第48回日本外科学会総会を主宰されましてから丁度40年を経て,再び新潟の地に皆様をお迎えし,第88回日本外科学会総会を開催できますことを教室の人達と共に大変光栄に存じております.

Caseに学ぶ 一般外科医のための血管外科応用手技・10

肝切除を伴う上部胆管癌根治術(Ⅰ)—拡大肝右葉切除術

著者: 加藤紘之 ,   田辺達三

ページ範囲:P.377 - P.382

はじめに
 上部胆管癌に対する根治的切除術は近年ようやく定着しつつある新しい領域の手術である.従来,肝門部は外科医の聖域といわれ容易に踏みこめない解剖学的複雑性を有する部位とされたが,血管外科的手法および肝切除術式の工夫が加えられた結果,積極的アプローチが試みられるようになった,その結果これまでの肝門部切除術では切除が困難であった肝内胆管浸潤例に対しても一側,あるいは一部の肝切除を行うことによって,より根治度の高い切除手術が可能となってきた.もちろん病変の局在,肝病態あるいは手技の工夫によって肝門部切除術が適応される症例もあるが,本稿では拡大肝右葉切除を伴う根治的切除術式につき述べ,次稿では肝左葉切除および中心部肝切除を伴う根治術の要点を述べる.

臨床研究

消化器病変を伴う腹部大動脈瘤の治療—自験7例の検討

著者: 松本賢治 ,   山田公雄 ,   戸倉康之 ,   猪原則行 ,   長谷川時生 ,   深瀬達

ページ範囲:P.383 - P.389

はじめに
 近年,社会の高齢化に従い腹部大動脈瘤(Ab-dominal Aortic Aneurysm:以下A.A.A.)に消化器病変を合併することも稀ではなく,特に悪性疾患に伴う症例が注目されている.しかし,その治療方針については1967年,Szilagyiらの報告以来1),いまだ定説がなく苦慮するのが現状である.最近われわれは消化器病変を伴うA.A.A.7例を経験し,各症例につき検討したので文献的考察を加え報告する.

術中胆道損傷症例の検討

著者: 牛島聡 ,   若狭林一郎 ,   杉山茂樹 ,   廣瀬宏一 ,   村田修一 ,   清崎克美

ページ範囲:P.391 - P.395

はじめに
 術中胆道損傷は胆のう摘出術などの上腹部手術に際して稀に経験する合併症であり,損傷の発見が遅れたり修復処置が不適切であった場合,後日治療に難渋する胆道狭窄を生じる.最近10年間に経験した胆道損傷7例について検討を加えたので報告する.

小腸大量出血—自験6例と本邦報告110例の検討

著者: 渡辺幸康 ,   豊島宏 ,   板東隆文 ,   磯山徹

ページ範囲:P.397 - P.404

はじめに
 小腸出血は全消化管出血の2〜5%1,2)を占める稀な疾患であるが,大量出血例が多く,術前診断が困難であり血管造影により初めて診断されることが多い.また従来より小腸出血例では術中病変同定が困難であることが指摘されてきたが,小腸出血例の臨床像を分析した報告は少なく1,3),術中検査法4)の適応も未解決な点が多い.我々は自験6例と過去12年間の小腸出血本邦報告110例を集計し,小腸出血をきたす疾患の特徴と術中検査法(特に術中血管造影)の意義について検討したので報告する.

境界領域

肥満と麻酔

著者: 重松俊之 ,   川添太郎

ページ範囲:P.405 - P.409

はじめに
 正常より20%体重が超過していると心疾患および脳血管疾患で死亡する率はそれぞれ40%,50%ずつ増加し,4.5kgの体重過剰は1日25本の喫煙に相当するという1).さらに肥満患者は呼吸機能に異常を持っていることが多く,また循環系に関しても高血圧症,心電図異常,虚血心などを合併していることが多い.このような患者に外科手術を行った場合,術後の肺合併症が多く静脈血栓症や肺梗塞の発症率も高い.麻酔を行う場合,技術的な面も含めて特異的な注意も要求される.本稿では肥満患者の外科手術の術前,術中,術後を通して麻酔管理上の種々の問題点について述べる.

臨床報告

穿孔をきたした小腸クローン病の1例と本邦報告例の検討

著者: 杉本貴樹 ,   高橋信之 ,   永井公尚

ページ範囲:P.411 - P.415

はじめに
 クローン病は回腸末端部を好発部位とする原因不明の慢性肉芽腫性腸疾患であり,近年本邦でも増加傾向にある1).今回われわれはクローン病としては非常にまれな合併症である穿孔をきたした症例を経験したので,本邦報告例の検討を加え報告する.

膵原発と考えられる神経節腫の1例

著者: 桑田克也 ,   米山千尋 ,   北村和也 ,   佐々木義文 ,   石井孝 ,   蒲池正浩 ,   渡辺信介

ページ範囲:P.417 - P.420

はじめに
 膵原発の神経原性腫瘍は極めて稀である.著者らは6歳男児で,腹部腫瘤を主訴として来院し,手術を施行し,膵原発と考えられる神経節腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

胆嚢癌合併Mirizzi症候群の1例

著者: 原川伊寿 ,   蜂須賀喜多男 ,   山口晃弘 ,   磯谷正敏 ,   加藤純爾 ,   神田裕 ,   松下昌裕 ,   小田高司 ,   久世真悟 ,   真弓俊彦 ,   村上文彦 ,   中野哲 ,   山田由美子

ページ範囲:P.421 - P.424

はじめに
 Mirizzi症候群は胆嚢頸部や胆嚢管に嵌頓した結石や炎症性変化により総肝管に狭窄,閉塞のみられるものをいう.Mirizzi症候群と胆道悪性疾患との鑑別診断の重要性はよくいわれているが,胆嚢癌を合併したMirizzi症候群の報告は非常にまれである.最近われわれは胆嚢結石によるMirizzi症候群に胆嚢癌を合併した1例を経験したので報告する.

文献抄録

壊死性腸炎における腸瘻造設術—手術法と閉鎖時期についての分析

著者: 星野健

ページ範囲:P.420 - P.420

 壊死腸管切除および腸瘻造設は壊死性腸炎に対して行われる標準的な手術法である.二つの異なった腸瘻造設法の結果を比較するために,壊死性腸炎に対して腸瘻造設および閉鎖術を施行した100例について検討した.
 対象はAlbuquarqueのNew Mexico大学小児外科(1976年7月〜1986年10月)と,AtlantaのGrady Memorial病院およびHenrietta Egleston小児病院(1980年7月〜1986年6月)の二つの共同研究施設で得られた症例で,腸瘻造設の部位は空腸10例,回腸75例,大腸15例.腸瘻造設法は,separate stoma(以下separate法)が50例,Miklicz法が39例,Hartmann法が10例,loop colostomyが1例であった.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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