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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科43巻4号

1988年04月発行

雑誌目次

特集 外科診療における酸塩基平衡の異常

酸塩基平衡:データの評価

著者: 諏訪邦夫

ページ範囲:P.443 - P.451

 酸塩基平衡のデータ評価に際してpH, Pco2,HCO3-,BE(Base Excess)の4つのパラメーターに限定する方法を概観した.4者間の関係をグラフを使用して詳細に考察した.まったく同一の内容を表わすのに3つの座標軸の取り方があるが相互に変換が可能なこと,見慣れないグラフでもちょっとした努力で理解できること,などを説明した.
 炭酸ガス平衡曲線のpHとPCO2の関係,Pco2とHCO3-の関係を直線近似で簡単に覚える方法を述べた,またBEの簡単な計算法も記述した.
 酸塩基平衡は基礎の事実をしっかり覚えて頭に入れればこわくはない.

診断と治療の実際—呼吸性の異常

著者: 三毛紀夫 ,   島田康弘

ページ範囲:P.453 - P.458

 酸塩基平衡異常のなかの呼吸性の異常について症例を呈示し,その病態,治療の概略を述べた,臨床上は単純な呼吸性の異常のみならず,代謝性の異常・代償を伴ったものが多くあり,個々の症例においてその病態の把握が重要である.治療は原因の除去が主で各々で異なる.また,臨床上でのモニタリングについても説明を加えた.

診断と治療の実際—代謝性の異常

著者: 大村昭人

ページ範囲:P.459 - P.465

 外科診療では手術の対象となる疾患自身により,あるいは呼吸器,循環器の合併症により,さらに麻酔,手術という大きな侵襲が加わることにより,比較的急激な酸塩基平衡の異常を呈し易い.これに対する迅速な診断と治療が患者の予後に大きく影響することはいうまでもない.本稿では外科診療で特に周手術期に良くみられる代謝性の異常について,見なれないノモグラム等を用いないで,血液ガスの結果のみから診断,治療することに重点をおいて解説した.

診断と治療の実際—熱傷

著者: 前川和彦 ,   杉本勝彦 ,   高橋真理

ページ範囲:P.467 - P.473

 重症熱傷患者で比較的よく遭遇する酸・塩基平衡の異常は,受傷直後の熱傷性ショック期の代謝性アシドーシスと,晩期に敗血症を合併した時の代謝性アルカローシスである.この代謝性アシドーシスは熱傷性ショックによる循環不全が原因で,アニオンギャップの増加を伴い,乳酸アシドーシスが本態である.輸液によりショックからの離脱をはかることが大切で,重炭酸ナトリウムのoverzealousな投与は避けるべきである.熱傷患者の敗血症期によくみられる酸・塩基平衡の異常は代謝性アルカローシスである.これについての臨床家の関心は低い.その発生にはいくつかの要因が関与していて,多くはCl抵抗性アルカローシスのようである.

診断と治療の実際—腎不全

著者: 上田大介 ,   田島惇

ページ範囲:P.475 - P.480

 外科診療で問題となる急性腎不全では,すみやかに原因検索を行うとともに,適切な対症療法により全身状態の改善を図る.
 透析療法は,主に腎前性と腎性の急性腎不全に対して適応になる,腎後性腎不全の治療は,尿路の閉塞を解除することである.近年endourologyの進歩により安全に腎後性腎不全の治療ができるようになった.
 透析患者の手術では,手術前後の十分な透析が必要である.このためには出血傾向に対し,無ヘパリン透析の施行が重要である.また術後の抗生剤投与は,適切な投与方法と投与量が望まれる.

診断と治療の実際—小児

著者: 藤原孝憲

ページ範囲:P.483 - P.495

 小児外科で問題になるような酸塩基平衡異常が起こる症例は,新生児外科で最も多くみられる.ここでは新生児外科の対象となる横隔膜ヘルニアの症例,胃破裂の症例の2症例について,実際の酸塩基平衡,血液ガス,血清電解質諸値,人工呼吸条件などの経緯をまず示した.次に手術前,手術中,手術後に分けてそれぞれ問題になるポイントについて検討を加え,実際の症例にみられた酸塩基平衡,血液ガスなどの所見から症例の検討も行った.特に手術前,手術後に生じやすい病態に重点を置き,入院時の状況,原疾患が抱える問題,呼吸障害,循環障害,感染,術後の胎児循環持続症(POFC)などと酸塩基平衡,血液ガスなどとの関係について述べた.

カラーグラフ Practice of Endoscopy 胆道内視鏡シリーズ・Ⅶ

肝内結石症に対する術後胆道鏡(その2)—症例を中心として

著者: 山川達郎

ページ範囲:P.437 - P.440

1.Tチューブ瘻孔を介しての胆道鏡
 Tチュ輸ブ瘻孔からのアプローチがなされる症例の多くは,術前あるいは術中の検査で肝内胆管に狭窄がないか,あっても軽度と判定された症例や,総胆管結石という診断のもとに手術が行われ,のちのTチューブ造影で発見されたものである.

表紙の心・4

コルドリエ通りと外科史

著者: 大村敏郎

ページ範囲:P.451 - P.451

 外科医たちの作った建物が医学部として使われ,内科医も外科医も同じ教育機関から育つようになったので,医学部館の前の道は医学校通り(rue école de médeci-ne)と呼ばれて今日に至っているが,以前はこの道の医学部と反対側・南側に面していたコルドリエ修道院の名をとってコルドリエ通りと呼ばれていた.コルドリエ修道院の歴史は1230年までさかのぼる.
 今月の表紙はコルドリエ通りが主役である.この道が外科史にとって重要な意味をもっているからである.この表紙の鳥瞰図は1734年のものであるが,左の端にサン・コーム教会の塔が見える.左上方のアルプ通りは現代の盛り場の一つであるサン・ミシェル大通りに相当する.外科医組合がサン・コーム教会に本部を置いたのは1260年頃のことである.以後約500年の間,外科医たちは医学部出身の医師たちとの葛藤の歴史をくりひろげるのである.

イラストレイテッドセミナー 一般外科手術手技のポイント

Lesson11 胃切除術におけるリンパ節郭清

著者: 小越章平

ページ範囲:P.499 - P.505

 消化器外科手術の教科書をみて,胃癌手術に関して欧米と日本に大きな差がみられることに研修医諸君はとまどうであろう。それはリンパ節郭清に対する考え方の差であるといってよい。わが国では1960年頃から予防的リンパ節郭清術(prophylactic lymphadenectomy)の概念が導入され,1965年に組織された胃がん研究会を中心にして,胃がん取扱い規約のもとにリンパ節郭清の重要性が広く認識された。その結果それ以前の2倍以上の生存率向上をみたという。
 しかし,最近化学療法や免疫療法の重要性もうたわれるようになり,すべての症例に対して画一的リンパ節郭清を広範に行うことに対する疑問も出されている。

Caseに学ぶ 一般外科医のための血管外科応用手技・11

肝切除を伴う上部胆管癌根治術(Ⅱ)—肝左葉切除術および中心部肝切除術

著者: 加藤紘之 ,   田辺達三

ページ範囲:P.507 - P.513

はじめに
 近年,上部胆管癌に対し肝切除を伴う根治的切除手術が行われるようになってきたが,術式の選択,とくに左右どちらの肝葉を切除すべきかの議論は多い.再建の容易さと根治度の高さでは拡大右葉切除を基本術式とすべきことに異論はない.高度黄疸の持続,繰り返す胆管炎のため肝予備機能が予想以上に低下している症例が多く,できるだけ肝容積を残して術後の肝不全に備えたいが,これに対しては前号で述べたごとく内側区域上半部の温存などの工夫がなされている.その意味では肝左葉切除は切除肝容積が比較的少なく安全性は高い反面,再建の困難性がある.特に胆管拡張の著明でない例では根治性を追求して末梢胆管へ進むほど切離後の前後区域枝胆管が分離してしまうし,胆管壁の支持性も弱く,安全確実な胆道再建に最大の注意を払わねばならない.
 一方,胆管炎の持続や高齢などのため肝予備機能の改善が得られず肝葉切除が無理と判断される症例も多い.このような場合には従来の肝門部切除術を拡大した中心部肝切除術が適応される.これは内側区域および右前区域の各々下半部を切除することによって,より末梢まで胆管とその周囲肝実質を切除して局所浸潤に対処しようとするものである.やや術野は不良であるが,尾状葉全切除も可能である.本稿ではこれらにつき症例を中心として手術のコツを述べる.

手術手技

食道癌術後縫合不全に対する吻合部バルーン拡張術の治療効果について

著者: 安永敏美 ,   山内皓 ,   福山訓生 ,   加川隆三郎 ,   沖村英二 ,   金井陸行

ページ範囲:P.515 - P.518

はじめに
 食道癌根治術後の食道胃吻合部縫合不全は,外科医にとって不愉快な合併症の一つであり,全身管理に難渋することもしばしばである.
 われわれは食道胃吻合部の縫合不全の結果生じた頸部瘻孔に対し,吻合部狭窄が原因で瘻孔が難治性になっているのではないかと考え,バルーンカテーテルを用いて縫合不全部吻合口の拡張を図ったところ,瘻孔は急速に閉鎖し縫合不全が治癒することを認めた.その後3例の追試を行ったが,いずれも予想以上の治療効果を示したので報告する.

臨床研究

術後高カロリー輸液における血清アルカリフォスファターゼ値の検討—とくに輸液組成を中心として

著者: 奥野匡宥 ,   頼明信 ,   長山正義 ,   池原照幸 ,   梅山馨

ページ範囲:P.521 - P.525

はじめに
 高カロリー輸液(total parenteral nutrition,以下TPN)が普及するとともに,TPN施行に伴う肝機能検査上の異常,とくに胆汁うっ滞(TPN associatedcholestasis)が指摘されている1〜4).この合併症は,とくに小児や未熟児では胆汁うっ滞性の黄疸を呈する例が多く,なかには肝癌の発生もみられている5).一方成人では臨床検査上一過性の肝諸酵素値の異常が観察されるにとどまることが多く,しかも可逆性の変化であるとされている6〜9).しかし稀に胆汁うっ滞性の黄疸を示す例6,7)や非可逆性の肝障害に至る例8)もみられる.
 この胆汁うっ滞の成因に関しては種々の検討にもかかわらずなお明らかでなく6〜9),予防および治療対策も明確ではない.
 今回著者らは,同一疾患患者に対してほぼ同程度の手術を施行し,術後にTPNを行った症例を対象として,臨床検査上胆汁うっ滞の鋭敏な指標とされる4,10)血清アルカリフォスファターゼ値の変動と,各症例の術後TPN組成との関連について検討した.

臨床報告

直腸Crohn病の1例

著者: 久世真悟 ,   蜂須賀喜多男 ,   山口晃弘 ,   磯谷正敏 ,   神田裕 ,   加藤純爾

ページ範囲:P.527 - P.530

はじめに
 Crohn病は消化管のあらゆる部位に発生するが,多くは回腸,結腸で,直腸に病変の限局したものは稀である.最近我々は直腸に狭窄を示し,著明な多発性痔瘻を伴ったCrohn病の1例を経験したので報告する.

典型的内分泌症状のみられなかった副腎皮質癌の1例

著者: 足達明 ,   溝口実 ,   岩井壽生 ,   柳瀬晃 ,   周山秀昭 ,   神代正道

ページ範囲:P.531 - P.534

はじめに
 副腎皮質癌は極めて稀な疾患であり,アルドステロン,コーチゾール産生癌の頻度は,その中でもさらに少ない.また副腎皮質癌のステロイド産生は,その種類,分泌量,生物活性の程度により内分泌症状を呈さないこともあり,早期診断が不可能なため,巨大な腹部腫瘤として発見されることも多い.
 今回著者らは,四肢脱力感,発熱,不整脈などの症状を有し,内分泌検査にて血中アルドステロン,コーチゾールの高値を示した,副腎皮質癌の1例を経験したので報告する.

3歳男児の胆嚢結石の1例—5歳以下胆石症本邦報告集計19例の検討

著者: 苔原登 ,   五嶋博道 ,   山崎芳生 ,   太田正澄 ,   大橋直樹 ,   草川雅之

ページ範囲:P.535 - P.538

はじめに
 胆石症は,成人においては日常的な疾患であるが,小児における胆石症は比較的稀な疾患である.最近われわれは,3歳男児の胆嚢結石の1例を経験したので,これを報告するとともに,自験例を含めた5歳以下胆石症の本邦集計例について本症の臨床像および発生誘因などの知見を報告する.

後腹膜脂肪腫の中に併存した後腹膜悪性線維性組織球腫の1例

著者: 篠崎登 ,   安川繁博 ,   竹村隆夫 ,   氏家久 ,   斎藤玻瑠夫 ,   桜井健司

ページ範囲:P.539 - P.542

はじめに
 悪性線維性組織球腫(malignant fibrous histiocytoma:以下MFH)は軟部組織に発生する腫瘍の中では脂肪肉腫と並んで発生頻度が高い.ただ後腹膜原発のMFHの本邦報告例は比較的少なく,臨床的にも深部のため術前診断が困難で予後が悪い.
 今回われわれは腹腔内の脂肪腫と後腹膜の巨大な脂肪腫の中に併存した後腹膜原発と考えられるMFHの摘出後,2年1ヵ月再発なく生存している症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

放射線照射後に発生した甲状腺腫・乳癌の1例

著者: 内田賢 ,   南雲吉則 ,   篠崎登 ,   細谷哲男 ,   蛯名大介 ,   桜井健司

ページ範囲:P.543 - P.546

はじめに
 放射線が医療の診断や治療にはたす役割は近年ますます高くなりつつある.それに伴い放射線被曝の問題についても現在では十分考慮がなされているといってよい.しかし,かつて頸腺結核や皮膚疾患,血管腫,甲状腺疾患などに放射線照射がさかんに行われた時期があり,現在になってそれらの後遺症,とくに発癌が問題になってきている. 著者は右頸部および右腋窩のリンパ節結核に対し放射線治療を行い,照射野内に甲状腺腫および乳癌が発生した症例を経験したので文献的考察を加え報告する.

Von Recklinghausen病に合併した同時性胃膵重複癌の1例

著者: 伊東文明 ,   福島駿 ,   広津明 ,   吉田力 ,   葉倫健 ,   富田裕輔 ,   星子勝 ,   弓削静彦 ,   久保保彦 ,   向坂健男 ,   中原俊尚

ページ範囲:P.549 - P.553

はじめに
 Von Recklinghausen病(以下R病と略す)は皮膚にみられる色素斑(café au lait spots)と末梢神経に発生する結節性腫瘤を主病変とし,さらに中枢神経系腫瘍の発生や癌病変,骨病変などを伴う遺伝性疾患である.今回われわれは,R病に胃癌と膵癌を伴った1症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

大量下血をきたした脾動脈瘤破裂の1治験例

著者: 里見昭 ,   森田孝夫 ,   石田清 ,   岡村維摩 ,   川瀬弘一 ,   松木盛行

ページ範囲:P.555 - P.558

はじめに
 脾動脈瘤破裂の予後は悪く,約10%は重篤なショックもしくは死に至ると言われている.われわれは結腸へ破れ,消化管出血をひきおこしたが血管撮影で診断,手術にて救命できた本症の1例を経験した.今回,特に破裂例を中心に若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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