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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科43巻7号

1988年06月発行

雑誌目次

特集 鼠径ヘルニアの診療

鼠径部の局所解剖

著者: 矢野博道 ,   小村順一

ページ範囲:P.1007 - P.1013

 鼠径ヘルニアの根治手術に必要な鼠径部の局所解剖を,手術の手順に従って,初心者にも理解し易いように記述した.成人,小児のいずれの場合でも,まず,適当な手術案内人(外鼠径部ヘルニアの手術では鼠径靱帯,内鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアではiliopubic tractとCooper靱帯)を確認した後,手術を先に進めるようにすると間違いが少ないと考える.一般に,合併症を起こし易い部位は鼠径管の内側に集中しているので,この部位の解剖を熟知し,外側から鼠径管を遊・剥離するように心掛けると合併症は防止できると考える.

乳幼児鼠径ヘルニア

著者: 北村享俊 ,   菅沼靖 ,   佐藤恭信 ,   宮内勝敏

ページ範囲:P.1015 - P.1021

 小児の外科症例中最も多い鼠径ヘルニアは,小児外科施設のみならず一般外科施設でも日常診療の対象となっている.手術適応と手術時期の決定に当り,嵌頓と本症の自然治癒を無視できない.今日の小児外科のレベルから乳幼児の鼠径ヘルニアは安全確実に手術できるので,本症と確診されれば手術適応ありとしてよい.一般的には生後3ヵ月以降の予定手術が妥当である.手術術式は本症の病態から考え鼠径管の形成術は不要であり,ヘルニア嚢の十分な高位結紮のみで不足なく,Potts手術が適している.1例の再発をみたが,これは不十分な高位結紮によるものである.術後反対側鼠径ヘルニアの出現はGoldstein test施行により著明に減少した.

女児鼠径ヘルニアの特徴と治療

著者: 秋山洋 ,   高松英夫 ,   野口啓幸 ,   田原博幸 ,   安達康雄

ページ範囲:P.1023 - P.1028

 近年,小児外科の発展に伴い小児の鼠径ヘルニアに対して積極的に手術療法が行われるようになってきた.このためにかつて頻度が少ないといわれてきた女児鼠径ヘルニア症例が増加の傾向にあり,その発生頻度についてもほぼ男児と同頻度ではないかと推測される.女児鼠径ヘルニアは男児に比し右側よりも左側に多くみられ,また両側例が多いといわれている.また女児の消化器脱出による嵌頓症例は男児に比し少なく徒手整復も容易で緊急手術となる例は少ないが,滑脱型卵巣脱出例が若年児に頻度が高く,時に脱出卵巣が循環障害壊死に至ることもある.
 女児鼠径ヘルニアの手術術式は基本的には男児鼠径ヘルニアと変わるものではなく,鼠径管の形成を必要としないPotts法が現在広く行われているが,ヘルニア嚢に接して存在する円靱帯の処理,卵管,卵巣を中心とした女性性器滑脱型ヘルニアに対する手術に特徴がある.
 今回は鹿児島大学附属病院小児外科において3年8ヵ月間に経験した小児鼠径ヘルニア576例の経験例を中心にして,女児鼠径ヘルニアの特徴について考察を加えて報告する.

成人鼠径ヘルニア

著者: 黒須康彦

ページ範囲:P.1029 - P.1038

 鼠径部の局所解剖と著者が現在行っている手術を中心に,一般成人の鼠径ヘルニアについて簡単に解説した.
 まず,鼠径部の局所解剖に関しては,横筋筋膜およびそれと密に関係する組織(腹横筋腱膜弓,腸恥靱帯,恥骨靱帯)を中心に解説した.次に,手術に関しては,その基本は,外鼠径ヘルニアではヘルニア嚢の高位結紮切断と内鼠径輪の縫縮であり,これに対して内鼠径ヘルニアでは鼠径管後壁の補強であることを強調し,この際,外鼠径ヘルニアに対する鼠径管後壁補強は,将来発生することが予想される内鼠径ヘルニアに対する予防的処置として付加していることを述べた.さらに,手術適応,麻酔などに関しても若干触れた.

高齢者鼠径ヘルニア—その問題点と治療のポイント

著者: 大澤二郎 ,   東出俊一 ,   田中誠 ,   伊東正文 ,   白波瀬功 ,   網政明 ,   篠田正昭

ページ範囲:P.1039 - P.1048

 高齢者人口の増加に伴い,70歳台,80歳台の高齢者ヘルニア手術例が増加している.高血圧,糖尿病,心肺疾患などの合併症の多い高齢者では身体主要臓器の機能的予備力の低下がみられ,術中,術後の一寸のミスが致命的な不幸を招くことになりかねない.
 したがって,術前の十分なリスク判定とその対策を講ずる必要があり,麻酔法の選択も手術の成否を握る重要な課題である.ヘルニア手術法も侵襲の最も軽い術式が理想的であるが,術後の愁訴,社会復帰の遅延,再発などの問題を含む術式は推奨できない.過去7年間に私どもの施設で行った157件の高齢者ヘルニア手術経験をもとに,その問題点と治療のポイントについて考えてみた.

嵌頓ヘルニア

著者: 三重野寛治

ページ範囲:P.1049 - P.1055

 大腿鼠径部の嵌頓ヘルニアは日常遭遇する機会の多いもので,大学病院でもある当教室でも成人のヘルニア302例中21例(6.9%)を経験している.腸切除になったのは外鼠径ヘルニアより大腿ヘルニアの方が多い.
 急性に嵌頓がおきた場合,特別の禁忌でない限り一応taxisをやってみる.還納できない時は緊急手術になるが,それは小児より高齢者の大腿・鼠径ヘルニアに多い.
 USやCTの発達で嵌頓内容も判別できるようになり,絞扼腸管か否かの情報も得られる.
 観血的に還納後の根治術式は再発率の少ない慣れた術式を選択すればよい.
 ヘルニアに起因する死亡例は幼児または高齢者の嵌頓ヘルニアであることも事実である.

再発ヘルニア—原因と治療のポイント

著者: 柵瀬信太郎

ページ範囲:P.1057 - P.1069

 再発ヘルニアの原因は,1)前立腺肥大症,慢性閉塞性肺疾患,便秘などの術前合併疾患の有無,2)コラーゲン代謝異常,3)内鼠径輪縫縮不全,4)ヘルニアサック高位結紮不全,5)合併ヘルニアの見逃し,6)不適切な組織を用いた術式,7)縫合部への過緊張,8)術後創感染などがあり,これらの原因のいくつかが相重なって再発が起こってくる.
 治療にあたっては,個々の症例で何が原因であったのかをよく考え,原因に見合った手術を行うことが最も大切である.術式は通常の標準術式の基本と全く変わるものではないが,症例によってはpreperitoneal approach, prosthesisを用いた補強が適している場合もあり,これらの術式についても理解しておく必要があり解説を加えた.

大腿ヘルニア

著者: 饗場庄一

ページ範囲:P.1071 - P.1079

 慣習的に鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアとは区別されている.しかしながら解剖学的にも臨床的にも,大腿ヘルニアは第3の鼠径ヘルニアあるいは鼠径部ヘルニアとして扱われるべきである.
 私どもの施設で16年間に手術を行った大腿ヘルニアは66例で,同期間の鼠径ヘルニア1,175例と比較すれば少ない頻度であり,鼠径部ヘルニアとしてみた場合では5.3%である.
 従来,わが国では大腿ヘルニアは極く少ないといわれてきたが,年齢構成の高齢化に伴って鼠径ヘルニアと同じように増加してきている.自験例での大腿ヘルニアは86.4%までが中年以降とくに老人の女性で占められ,嵌頓の頻度も高い.そこで自験例を中心として大腿ヘルニアの臨床を検討した.

カラーグラフ Practice of Endoscopy

胆道内視鏡シリーズ・Ⅸ

経皮経肝的胆管鏡(その2)—症例を中心として

著者: 山川達郎 ,   平井淳

ページ範囲:P.1001 - P.1004

 経皮経肝的胆管鏡は,肝内結石の治療になくてはならない武器の一つであるが,総胆管遺残結石のあるものにおいても本法を必要とする場合がある.

表紙の心・6

聖コームたちの脚移植手術

著者: 大村敏郎

ページ範囲:P.1048 - P.1048

 今年に入ってわが国でもにわかに臓器移植の気運が亢まってきた.外科的な手術手技と免疫学的な裏付けがそろい,臓器の提供者と社会的な同意が得られれば,再び移植を進めるカギは外科医の手にもどって,外科医の決断にかかってくるのではないだろうか.
 歴史的にみて移植が登場してくるのは医学書ではなく,中世の聖人伝である「黄金伝説」の方が先である.それによれば6世紀のローマで足にひどい潰瘍を作って悩んでいた寺男の所へ,ある晩聖コーム(St.Côme)と聖ダミアン(St.Damien)の2人が夢枕に立って,この足は取り換える必要があるといって,その日に埋葬したムーア人の死体から足をとってきて付けかえてくれた.翌朝起きてみると潰瘍はなくなっていた.念のために掘りおこしてみた昨日の墓地には,片足のないムーア人の死体の横に潰瘍のある足が置いてあったという.ムーア人は肌が黒く,ローマ人は白かったから,移植片はくっきりと色が違い,移植を強調することになったのだろう.「黒い脚」という伝説になっている.

Caseに学ぶ 一般外科医のための血管外科応用手技・13

術中血管損傷の処理

著者: 安田慶秀 ,   田辺達三

ページ範囲:P.1081 - P.1085

はじめに
 血管外科の進歩に伴い,今日ではほぼ全身における各種血管病変に対して血行再建術を中心とした修復手術が積極的に行われている.一方,一般外科領域においても術中における血管とのかかわりは多くなってきており,なんらかの方法で血管を処理しなければならない機会も増えてきている.腸管虚血をきたす腹部内臓血管の血行障害や門脈圧亢進症に対するシャント手術などでは,もちろん血管外科の技術が要求されるが最近では悪性腫瘍に対する広範リンパ節郭清,拡大合併手術が盛んに行われ術中血管損傷の機会も増加しており,一般外科領域の手術に対する血管外科手技の導入がますます必要となってきている1)
 本稿では術中血管損傷に対する血管処理の基本について述べるとともに,応用の実際の自験例を提示する.

イラストレイテッドセミナー 一般外科手術手技のポイント

Lesson13 甲状腺切除術

著者: 小越章平

ページ範囲:P.1087 - P.1091

 甲状腺疾患は、体表面近くにあるために触診しやすく穿刺生検も比較的簡単であること、また各種の機能検査法が確立しているために診断はかなり正確に出来る。しかし、手術適応については特に良性疾患の場合慎重でなければならない。また悪性の場合は、乳頭腺癌(papillary adenocarcinoma)が70%前後をしめるものの、その組織型の違いにより増殖進展の程度から予後まで異なり全く別の疾患を思わせることもある。しかし、全体的には放射線療法などにもよく反応するものが多く他臓器の悪性腫瘍に比較すれば予後は良いものが多く、そのため5年生存率より10年生存率が問題とされる。

文献抄録

原発性胆汁性肝硬変および原発性肺高血圧症に対する肝心肺移植

著者: 中安邦夫

ページ範囲:P.1092 - P.1092

 肝移植の進歩に伴って,これまで肝臓と心臓,肝臓と腎臓,肝臓と膵臓などの同時移植が報告されているが,今回は肝・心肺同時移植例が報告された.
 症例は,35歳女性で1978年より原発性胆汁性肝硬変症による黄疸と掻痒症を認めていた.1984年には,さらに肺高血圧症,右心不全症状が加わったため,King's College Hospitalに入院した.1986年11月には,肺機能,肝機能ともに悪化し,高度の食道静脈瘤も認めたため,心肺肝同時移植の適応と判断された.

Report from Overseas

50例のBuerger病に対する自家遊離大網移植術—成績と手技に関する検討

著者: 陳立章

ページ範囲:P.1095 - P.1100

はじめに
 Buerger病は末梢血管に好発し,わが国では頻度の高い疾患であるが,その病因はなお明らかではない.従来より腰部交感神経節切除術,血栓内膜摘除術,バイパス手術などが主として施行されているが,広範囲閉塞や膝窩動脈以下の閉塞の治療は多くの困難な問題を含んでいる1,2).われわれは1982年10月より1986年6月までの期間に顕微鏡下における自家遊離大網移植術を50例に施行して良好な成績を得ているので,その成績および手技について報告する.

臨床研究

術後の組織学的検索によりはじめて診断された胆嚢癌症例の検討

著者: 山口晃弘 ,   蜂須賀喜多男 ,   磯谷正敏 ,   加藤純爾 ,   神田裕 ,   松下昌裕

ページ範囲:P.1103 - P.1110

はじめに
 胆嚢癌は消化器癌のうちでも極めて予後不良な癌腫の1つで,術後の5年生存率は5%以下とするものが多く,本邦における集計では癌が胆嚢筋層を越えて進展すると,根治手術を行ってもその5年生存率は30%に満たないと報告されている1).腹部超音波検査(US)やcomputed tomography(CT)の普及した今日でも,胆嚢癌の術前診断は困難な症例が多く,このことが予後不良となる大きな要因でもある.一方良性の胆嚢疾患として手術をされ,術後の組織学的検査によりはじめて胆嚢癌と診断される症例は術前,術中に癌と診断された症例にくらべ予後が良好で,5年以上生存例はこのような症例に多いとの報告もみられる2)).そこで著者らは自験例のうちから摘出標本でも癌と診断できず,組織学的検索によりはじめて胆嚢癌と診断された10例を検討したので報告する.

臨床報告

肺癌からの小腸転移巣穿孔の1例

著者: 黒柳裕 ,   西村正士 ,   岡本勝司 ,   藤岡進 ,   堀尾茂生 ,   吉田カツ江

ページ範囲:P.1111 - P.1115

はじめに
 原発性肺癌は血行転移を生じるさい癌細胞が直接大循環系に散布されるため,全身のいかなる臓器にも転移を起こす可能性がある.一般に脳,肝臓,腎臓,骨などへの転移が多いとされている.腸管への転移は少なく剖検例での転移頻度は4.4%〜12.7%とされ,転移巣の切除例の報告はわずかである.われわれは肺癌の小腸転移巣による小腸穿孔例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

浅大腿・膝窩動脈閉塞を伴う大腿深動脈瘤破裂の1手術例

著者: 安原洋 ,   重松宏 ,   尾野雅哉 ,   杉山正則 ,   森岡恭彦

ページ範囲:P.1117 - P.1121

はじめに
 末梢動脈瘤は大動脈瘤に比し発生頻度が低く,なかでも大腿深動脈瘤はまれとされる.今回われわれは浅大腿膝窩動脈閉塞を伴った大腿深動脈瘤破裂例を経験し,下肢血流を得るために大腿深動脈の血行再建を必要としたので報告する.

急速に拡大した右内腸骨動脈瘤の1治験例

著者: 遠藤将光 ,   佐藤日出夫 ,   浅井徹 ,   松村正己 ,   小林弘明 ,   関雅博 ,   木谷正樹 ,   能登佐

ページ範囲:P.1123 - P.1125

はじめに
 内腸骨動脈瘤は発生頻度が低く,またその解剖学的位置のため腹壁からは触知しがたいため診断されにくく,破裂を契機に診断される場合が多い1).今回われわれは末梢の閉塞性動脈硬化症(以下ASO)の増悪により,偶然に急速な拡大を確認し得た内腸骨動脈瘤を経験した.内腸骨動脈瘤の瘤拡大に関する報告は見当たらず貴重な症例と思われ,その成因,手術適応などについて若干の文献的考察を加えたので報告する.

胃良性間葉腫の1例

著者: 朝田農夫雄 ,   三浦和夫 ,   紙田信彦 ,   岡崎護 ,   木嶋泰興 ,   小河原忠彦

ページ範囲:P.1127 - P.1129

はじめに
 近年,胃の診断技術の進歩により,胃良性粘膜下腫瘍の報告が多くなってきている.その中では平滑筋腫,リンパ腫,脂肪腫,神経鞘腫などが多く,良性間葉腫は極めて稀である.われわれは胃粘膜下腫瘍の診断で手術を行い,病理組織学的検査にて良性間葉腫と診断された1例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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