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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科44巻10号

1989年09月発行

雑誌目次

術中トラブルの予防と対策 甲状腺・上皮小体手術

甲状腺の手術にあたって

著者: 藤本吉秀 ,   三村孝 ,   的場直矢

ページ範囲:P.1274 - P.1279

瘢痕を美しくするように心がけよう
 的場(司会)甲状腺や上皮小体の手術で起こり得るトラブルや合併症はたくさんありますので,これらをいかにして避けて安全に手術すればよいかご経験をもとにお話しいただければ幸いです.
 最初に,アプローチ上で,注意すべきことはどんなことでしょうか藤本 まず甲状腺の手術が他の臓器の手術と違う点は,甲状腺は外から見えるところにあることです.特に若い女性の場合,手術瘢痕を非常に気にされます.これは若くなくても,また男性でも気にされる方がありますので,傷をきれいにすることをまず第一に考えます.

術中の脈管損傷

著者: 藤本吉秀 ,   三村孝 ,   的場直矢

ページ範囲:P.1280 - P.1285

 的場 それでは次に脈管系のいろいろな副損傷について伺いたいと思います.これはおそらく甲状腺癌の場合の問題で,バセドウ病の場合にはほとんど問題にならないと思いますが,術中の頸動脈損傷というのはあり得るのでしょうか.

上皮小体の問題

著者: 藤本吉秀 ,   三村孝 ,   的場直矢

ページ範囲:P.1286 - P.1290

 的場 甲状腺の手術では上皮小体がやはり大きな問題の1つです.これはできるだけ保存すればいいわけですが,癌などの手術では保存できないこともあります.一般に,バセドウ病や良性結節を手術するときには,必ず保存するのが原則だと思います.4個あるから1個残せばいいというものでもありませんし,また,いつ反対側の手術をしなければならないかわからないわけですから.まず上皮小体の確認をすることは大事ですが,どうやって確認したらいいでしょうか.

注意すべき神経損傷

著者: 藤本吉秀 ,   三村孝 ,   的場直矢

ページ範囲:P.1291 - P.1298

反回神経の損傷
 的場 それでは次に神経のことに移りたいと思います.頸部,甲状腺の周囲には,いろいろな神経があるわけですけれども,まず反回神経ではどういう問題がありますか.
 三村 若い先生に手術をやってもらうときには,とにかく反回神経にだけは気をつけるようにといいます.反回神経を確認できない場合は,何も切るなと.あのへんを探していきますと,小さな血管が切れて出血することがありますが,たいてい押さえていれば止まってしまいます.あわてて止めると反回神経を一緒につまむことが結構多いので,反回神経を見つけるまでは何もつまむな,切るな,結紮するなといっているんです.

胸鎖乳突筋の扱い方

著者: 藤本吉秀 ,   三村孝 ,   的場直矢

ページ範囲:P.1299 - P.1299

 藤本 それから甲状腺の分化癌で,内深頸リンパ節は,外国ではあまり一所懸命郭清しないようですが,日本ではよくやりますよね.実際,患者さんが手術後に医者以上に触診が上手になって,小さいリンパ節をよく見つけて来られます.現実にはそんなに心配する病的状態だとは思わないのですが,とる以上はきちんととりたい.それで,胸鎖乳突筋を切るか切らないか.私は前にリンパ節が激しく腫大していた症例でやむを得ず切ったことがあるのですが,後で縫うと筋肉が硬くつっかい棒みたいに突っ張ってしまった経験が一,二あったものですから,原則として筋肉を切らないでやっているわけです.しかし,信州大学あたりでは原則として切ってやっているようです.石垣先生は鎖骨の付着部の近くで切ってやられるということを学会で話しておられましたね.
 三村 この間も再発例でもどうしても切らざるを得ないものがありました.あとで丁寧に縫うのですが,ちょっと力を入れたら縫ったところがすぐ切れてしまうんです.浸潤があるようなところは削っても,できるだけ切らないで残した方がいいと私は思います.

気管への対処法

著者: 藤本吉秀 ,   三村孝 ,   的場直矢

ページ範囲:P.1300 - P.1302

 的場 それでは気管の方にいきましょう.気管は偶発的に損傷するということも少ないし,もし仮に手技上,穴を開けても大して問題がないのですけれども,実際に浸潤があるときの処置が問題になります.
 藤本 甲状腺の乳頭癌をあまり経験なさっていない外科の先生の場合,癌が気管にガチッとくっついていたり,その後ろ側の食道の壁にくっついていると,もうこれは手術不能だと判断をされることが多いんです.おまえのところではこういうのでもやるか,という相談を受けることがあるのですが,喜んでやりますよといいます.乳頭癌というのは確かにくっつくのですけれども,くっついたからといって,決してそんなにinoperableということはありません.

食道の問題

著者: 藤本吉秀 ,   三村孝 ,   的場直矢

ページ範囲:P.1303 - P.1305

 的場 次に食道の損傷ですが,食道に浸潤があるものを食道壁を切除していて偶発的に穴があいてしまうことがあるようですね.
 藤本 食道内腔まで癌が浸潤しているのをその部分を切ってとって縫うと,縫合不全が100%近く起こっておりました.それで必ずドレーンを入れておき,縫合不全が起こっても,食道の穴の大きさよりも皮膚の大きさを大きく切っておけば下から肉芽が上がってきて必ず治ると思っていたんです.最近,形成外科の先生の手術を見ていて考え直しました.細い縫合糸を使って丁寧に縫うとちゃんと一次的に治るんです.

縦隔内操作について

著者: 藤本吉秀 ,   三村孝 ,   的場直矢

ページ範囲:P.1306 - P.1308

胸膜を破ったとき
 的場 その次は鎖骨上窩の郭清で胸膜に穴をあけることがありますが,これはどうしていらっしゃいますか.
 三村 胸膜は縫っています.

原発性上皮小体機能亢進症の手術の問題点

著者: 藤本吉秀 ,   三村孝 ,   的場直矢

ページ範囲:P.1309 - P.1312

 的場 それでは上皮小体の手術の方に移りたいと思います.上皮小体の手術のいろいろな合併症はほとんど甲状腺と共通していると思います.しかし,上皮小体の手術をする人は甲状腺外科の知識だけでは不十分で,上皮小体の局所解剖の知識を十分にもっている必要があります.とくに上皮小体の位置にいろいろなvariationがあること,数は必ずしも4個とは限らないことなどです.日本では旭中央病院の登先生が詳しく調べていますが,屍体でみて4腺のものは82.9%,5腺以上が9.3%もあるとのことです.上皮小体の手術で一番のトラブルは病変がどこにあるかわからないときだろうと思います.最近は超音波とか,T1-Tc subtraction scintigraphyなどで術前に占拠部位がかなりわかっておりますが,それでもなおかつわからない症例もあるようです.その場合はどういう方針でいったらよろしいでしょうか.

甲状腺癌の中途半端な手術は禁物

著者: 藤本吉秀 ,   三村孝 ,   的場直矢

ページ範囲:P.1313 - P.1313

 藤本 話が甲状腺の癌に戻りますが,いっぺん他の病院で手術を受けて,その後にリンパ節転移が出てきたから何とかしてくれといってこられる患者があります.その場合,手術をさせていただいて感じることですが,これは外科医に共通していることかもしれませんが,自分がいつもやっているところはわりあい十分に摘除や郭清をやるんだけれども,あまりやりつけないところの手術はつい遠慮がちになってしまうと思うのです.どうしてもリンパ節の郭清の範囲が狭いんです.そのために再発してくるんです.乳頭癌は取り残しがあると必ず出てきますから,ですから,十分解剖を頭においていただいて,飛ぶと思われる範囲はとっておかないと郭清にならない.中途半端に手をつけられると,癒着で後の手術が困ってしまう.むしろ全然手をつけないほうがかえっていいくらいです.
 三村 全部ではないですけれども,ほとんどは郭清したところは大丈夫だと思います.先ですね,出てくるのは.

食道手術

気管・気管支の損傷

著者: 森昌造 ,   鶴丸昌彦 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.1316 - P.1318

 武藤(司会) 今日は食道の手術,特に胸部食道癌根治手術を中心にお話しいただきたいと思います.食道の手術は,お腹を開いたり胸を開いたり,頸部の操作があったりで,侵襲も大きいし,しかもなかなか見えにくい,操作しにくい場所がありますので,いろいろなトラブルが起きることもあるわけです.
 食道の手術のやり方にはいろいろありますが,胸部食道癌の場合,まず最初に開胸して,胸部操作が終わってから開腹と頸部操作に移る.あるいは順序はその逆のこともあります.部位別に順を追ってお話しいただきたいと思います.もちろんトラブルが起きてからの対処法も重要ですが,トラブルが起きないようにするにはどういう注意が必要かということもお話しいただければと思います.

動脈損傷の防止法

著者: 森昌造 ,   鶴丸昌彦 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.1319 - P.1321

大動脈を傷つけないための注意
 武藤 次に胸部大動脈ですが,これは気管と並んで重要な臓器です.動脈への浸潤をみていく時に,術前の検査所見である程度わかりますが,もし一所懸命とろうとして,あるいは剥離しようとして動脈を損傷することがあるかどうか.あった場合にどうすればいいか,鶴丸先生,いかがでしょうか.
 鶴丸 私たちのところではまだ経験がありません.しかし,合併切除の可能性は常に頭に入れてやっております.気管と同じように剥離層をある程度外膜のところで鈍的に剥離していきますと,大動脈の壁が非常に白く光って剥がれる層があります.そこで,できるだけ鈍的に指で少しずつ感じをみながらいくのですが,もし大出血が起こった場合には,とにかくまず指で押さえて,コントロールする.そして出血部を指で押えながら周りを攻めていって,姑息的になっても腫瘍をとりあえず除去して,その後に出血を止めることに専念したいと思っています.もし,それで他の因子が問題なくて,大動脈はそこの部分切除だけですめば,周りの肋間動脈を外して,大動脈をフリーにして,partialclampをかけてパッチを当てるということまでは準備をしてやっております.

食道周辺の神経を損傷しないための注意

著者: 森昌造 ,   鶴丸昌彦 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.1322 - P.1326

 武藤 食道を剥離する場合,その脇を迷走神経の本幹も通っていますし,左右反回神経もあるわけですが,右開胸で入りますので,右の反回神経を特に注意することになります.左の方は比較的損傷しないと思うのですが,この迷走神経本幹をやむを得ず切らなければならない場合もあるかと思います.しかし,普通はまず残すことができるだろうと思います.一方,右の反回神経は特に右側上縦隔の最上部近くにありますので,この部のリンパ節の郭清の時に損傷する可能性があります.まずこれらを損傷しないための注意,また,損傷した場合の処置についてはいかがでしょうか.

胸管の取扱い上の注意点

著者: 森昌造 ,   鶴丸昌彦 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.1327 - P.1330

 武藤 次に早期癌の場合は,胸管周囲のリンパ節の郭清は必ずしも行うわけではないと思いますが,かなり進行した癌の場合には,当然のことですが,胸管を合併切除する.特に胸管の周囲のリンパ節に転移がある場合,胸管と一緒にリンパ節を郭清するわけです.その際,わかっていてきちんと切ればいいのですが,切らないつもりでいて切ってしまった,切ってしまったが切離端がどうもはっきりしないという場合があるかもしれません.そういう時,先生方はどうしておられるか,もちろん,胸管を確認する方法もどんなふうにすればいいか,いかがでしょうか.

肺を損傷したとき

著者: 森昌造 ,   鶴丸昌彦 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.1331 - P.1333

 武藤 次は肺の損傷ですが,結核やその他いろいろの既往があって,癒着する場合があります.特に強い胸膜の癒着があって,剥離するような時に損傷することもありますし,時には肺に浸潤があるような場合,部分的ならとってしまうわけですが,一緒に腫瘍,浸潤もとることもありますので,肺を一部削りとるとか,あるいは損傷した時,先生方はどう処理しておられますか.

開腹操作のときの注意とコツ

著者: 森昌造 ,   鶴丸昌彦 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.1334 - P.1336

 武藤 次は開腹操作についてですが,切開法は多少違うかもしれませんが,まず上腹部を中心の正中切開でいく場合,たとえば,開胸操作を右開胸で行って,そして体位を変えて,仰向けにしてお腹の操作をするわけです.その場合に,先ほどのお話と関連しますが,左側の胸膜に穴が開いている.実際には下縦隔のところで穴が開きやすいわけで,blunt dissectionの場合にもときにあるかもしれませんが,これもそのままでいいでしょうか.
 鶴丸 これも先ほどとほとんど同じですが,ただ,注意しないといけないのは,私どもは普通は腹部にはドレーンを入れないのですが,たとえば何かの加減で膵を合併切除したとか,ドレーンを入れなければならない場合,ドレーンからエアが入ってくることがあります.その場合には,たとえばお腹の方から,横隔膜その他で穴があった場合には,できれば修復した方がいいということです.特に私たちのところでは胸骨後経路の再建ですので,hiatusあたりは必ず締めますが,その時に注意して縫うようにしています.

頸部操作のときの注意

著者: 森昌造 ,   鶴丸昌彦 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.1337 - P.1340

 武藤 次に頸部操作ですが,食道の代用になるものを頸部まで持ち上げて,普通はそこで吻合することが多いのですが,その時に頸部のリンパ節郭清,最近は両側の頸部も郭清することが行われまして,3領域の郭清ということになっているのですが,その場合にも,丁寧にやればやるだけ,多少合併症も起こるのではないかと思います.太い動静脈は心配ないと思うのですが,反回神経とか,気管の問題があります.まず迷走神経本幹と,両側の反回神経が出てきますが,どんな注意をして郭清をされるか,また間違って切ってしまうのは,どんな場合でしょうか.

乳癌手術

皮膚切開—出来ばえと見ばえ

著者: 泉雄勝 ,   霞富士雄 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.1342 - P.1345

 阿部(司会)乳房は他の個体維持のための臓器とは違って,種族保存のための臓器です.外科侵襲からみますと,手術による全身への影響が比較的少ない臓器ということになろうかと思います.すなわち,他の臓器では全身,および局所に対するトラブルが問題になるでしょうが,乳房の場合には,局所におけるトラブルが話の中心になると考えられます.そこで,乳癌の手術に話を絞ってまず第一に,皮膚切開皮切の部位あるいは皮膚の損傷という面から術中トラブルとして,どんなことが起こりやすくて,どんなことに注意したらいいかといったことをお教えいただきたいと存じます.

切除範囲と皮膚弁の作り方

著者: 泉雄勝 ,   霞富士雄 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.1346 - P.1350

阿部 切除範囲と皮膚弁の作成法,皮膚弁縫合線にかかる緊張とを総合的に判断しながら術式の改良が進められていると思うのです.その点についてのご意見は?
 泉雄 要因は3つあるんです.切除範囲を広くすると後で寄せなくてはいけない.寄せる時に皮弁が厚いか薄いか,それで植皮がどの程度になるかということですね.

静脈の損傷とその対策

著者: 泉雄勝 ,   霞富士雄 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.1351 - P.1352

 阿部 次に静脈の損傷ですが,損傷するのは再発の時とか,放射線をかけたものをもう1回再発で手術する場合で,普通はあまり経験されないでしょうね.

動脈損傷の予防策

著者: 泉雄勝 ,   霞富士雄 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.1353 - P.1356

 阿部 次に動脈の場合ですが,大体静脈系から前面に出てきていますから,そのそばには動脈があるだろうと予想してかかっていますよね.
 泉雄 腋窩動脈本幹は腋窩静脈の後ろにあるので,前面はそんなにタッチしませんね.下面の方だけですから,あまり問題はない.それと,動脈は血が噴いてきますから静脈よりかむしろ止めやすいですね.

機能温存と根治性とのコントラバーシー

著者: 泉雄勝 ,   霞富士雄 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.1357 - P.1363

intercostobrachialis は切るか温存するか
 阿部 では,今度は神経にいきましょう.神経は最近modifiedを非常にやられておりますが,intercostobrachialisは霞先生のところでは温存されますか.
 霞 一応原則的には切っております.

胸膜損傷の防止と対策

著者: 泉雄勝 ,   霞富士雄 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.1364 - P.1365

 阿部 次は胸膜の損傷ですが,これは普通の胸壁を電気メスでガリガリやっても,肋間の筋肉を破って胸膜を損傷することはないでしょうね.
 霞 Halstedの手術では腋窩の郭清が終了して,大胸筋はpars sternalisから切り始めるのですが,第1肋骨の付着部から始まって,ザーッと少し調子に乗ってやり出すと,胸郭の彎曲を考えに入れないと第2肋間で電気メスが先に進み過ぎてパッと肋膜に孔があくことがあります.些細なことですけれども,やった本人は愕然とします.

生検—採り方と判定に伴う問題点

著者: 泉雄勝 ,   霞富士雄 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.1366 - P.1369

 阿部 次に生検の問題に入ります.生検をやって,こちらが肉眼的に癌だと思ったけれども,病理でセーフ,乳腺症だといってきた.私は「おかしいではないか」と病理まで走っていって,ここを見てくれといったわけです.結局,テクニシャンの方がある部分を切り出したが,病理医は同じ腫瘍の中の癌のない部分のプレパレートを見せられたのです.
 泉雄 それは術直前の生検ですか.

肺・縦隔手術

開胸操作時の事故と対策

著者: 山口豊 ,   吉村博邦 ,   吉竹毅

ページ範囲:P.1372 - P.1376

 吉竹(司会)肺・縦隔の手術では,成書あるいは雑誌等にスタンダードの方法はきわめて正確に書かれていますが,疾患の軽重を問わず,あるいは手術に熟達した先生方が手術されても,たまに手術の途中にトラブルが起こります.ところがそういうトラブルについては普通の成書には詳細な記述がほとんどありませんので,起こった時非常に困ることがあり,下手をすると致命的にもなります.今日は,この方面のベテランの先生方に,今までのご経験を元にしていろいろお話しいただきたいと思います.

血管の損傷とその対策

著者: 山口豊 ,   吉村博邦 ,   吉竹毅

ページ範囲:P.1377 - P.1386

鎖骨下動脈を損傷したとき
 吉竹 さて,癒着の次に問題になるのは血管の損傷ですね.ベテランの先生でしたら,どこに血管が走っていて,どうなっているかということがよくわかっており,それを保護的に処理されますけれども,ただ必ずしもうまくいくとは限らないとも思います…….
 昔から問題になっておりましたのは,第一肋骨を切除する時の鎖骨下動静脈の損傷です.これは肺の手術そのものではそう問題になることはありませんが,昔,胸郭形成術をやった患者の第一肋骨の処理で時々損傷することがあります.損傷した時の修復のノウハウを,吉村先生からお願いします.

気管支断端の処置

著者: 山口豊 ,   吉村博邦 ,   吉竹毅

ページ範囲:P.1387 - P.1391

癌の浸潤が気管支断端に及んでいたとき
 吉竹 今度は気管支の問題に移りましょう.気管支の場合は,出血というような,今すぐ処置しなければならない問題ではないのですが,術後の経過が問題になってくることがあります.手術をしていまして,術前診断よりも予想以上に病変が広がっていることがよくありますね.癌の手術の場合には,気管支断端の浸潤がプラスの時,切り上げるか,他の方法にするかということについて1つの方針が必要だと思いますが,いかがですか.
 吉村 原則はもちろん腫瘍から2cm離すとかいわれていますけれども,実際には,特にsleeve resectionの場合にはギリギリで切っているのが実情ではないかと思うんです.そこで陽性であった時にどうするかということですが,単純な葉切の時に陽性であればもちろんsleeveにするなり,あるいは二葉切除するなり,機能が許せば全摘ということもあると思います.実際にはたとえ断端陽性でも,断端の創治癒そのものは問題ないようですので,ギリギリの場合はしょうがないので,そのままにして,あと放射線をかけるような方針にしています.

胸腔内異物の処置

著者: 山口豊 ,   吉村博邦 ,   吉竹毅

ページ範囲:P.1392 - P.1394

 山口 これは全然別な話ですけれども,ある患者がひどく臭い痰が出るというんです.ガーゼを葉間に置き忘れていたんですね.それが気管支壁を穿破して,気管支鏡でのぞいてみますと何か線維質のものが見え,鉗子で引っ張ると線維がとれてくるんです.これはいかんということで,CTをとってみるとガゼオーマの場所は前方でしたので,前方から軟骨を切除して開胸し,アプローチしていきました.玉になったガーゼが出てきて,ガゼオーマの大きさのデッドスペースができてしまったんです.その場合もやはり大胸筋をもっていって,先ほど申し上げたように,筋肉弁を固定してデッドスペースを充填しておきましたら,きれいに治ってしまいました(図7).つい3カ月位前にも同じような手術をやりましたけれども…….
 吉竹 充填術にはいろいろの方法があって興味深いですね.

肺切断面からの空気のリーク

著者: 山口豊 ,   吉村博邦 ,   吉竹毅

ページ範囲:P.1395 - P.1397

 吉竹 次に気腫性の変化の強い老人の肺の場合,区切面,あるいは肺切面の切断面から空気のリークということがあります.この時リークを止めるのに難渋していいかげんにしたままですと,術後気胸,皮下気腫が起きます.こういう時の処置はどうしたらいいか.先ほどのアロンアルファの問題もこれに引っかかってきますが,吉村先生からお願いします.
 吉村 最近,葉間分葉不全にはよいステープラーができました.特に老人性の気腫性の変化が強い時には,一見剥げそうにみえても,肺門の根元のところだけ剥がしましたら,後はけちけちしないで,ステープラーを使うようにしています,あまり一気にたくさんかんでしまいますと,あとでしばらく経ってからはずれたりすることもあるので,3回か4回に分けて使うようにしています.

横隔神経の損傷

著者: 山口豊 ,   吉村博邦 ,   吉竹毅

ページ範囲:P.1398 - P.1399

 吉竹 直接の障害というのはそんなに致死的になることはありませんが,その中で横隔神経の損傷ということがあります.これにはいろいろな処理が行われますけれども,いかがでしょうか.
 山口 片側だけだったら,私は切りっ放しでそのままにしておきます.しかし時に横隔神経を剥離していて,そこに浸潤が残るようであれば別ですけれども,そうでなくて,神経鞘が切れて中の線維だけが裸になっていることがありますね.そういう時には,なるべく神経鞘を縫い合わせるようにします.片側だけだったらその必要はないかも知れませんが.

癌が反回神経に浸潤しているとき

著者: 山口豊 ,   吉村博邦 ,   吉竹毅

ページ範囲:P.1400 - P.1400

 吉竹 次に,その近くを走っています反回神経の損傷ですけれども,これは左側が主ですね.右側はそんなに多くはないでしょう.
 吉村 右の上縦隔を郭清する時には,右も注意が必要ですね.

合併症のある患者の場合

著者: 山口豊 ,   吉村博邦 ,   吉竹毅

ページ範囲:P.1401 - P.1402

 吉竹 他臓器合併症,例えば急性心筋梗塞とか,脳塞栓とかいろいろありますが,そういう合併症のあるケースについてお話しいただきたいと思います.

胃・十二指腸手術

リンパ節郭清中の事故と対策

著者: 岡島邦雄 ,   丸山圭一 ,   島津久明

ページ範囲:P.1404 - P.1415

 島津(司会)胃・十二指腸の手術は,消化器外科の中で一番ポピュラーな手術で,皆さんが日常的にたくさんやっておられますし,しかも上手にやっておられますので,術中トラブルとして大きく取り上げるほどの問題は,そんなにはないように思います.強いていいますと,胃自体に関する手術操作よりも,胃以外の周囲の臓器を誤まって損傷して困ったという問題の方がむしろ多いのではないでしょうか.特に最近では,胃・十二指腸の手術といいますと,どうしても胃癌の手術が中心になりますが,胃癌手術の性質上,起こりうる問題点を整理してみますと,1つには,リンパ節郭清の操作中に生じるもの,第2には胃の切離操作と,その後の処理に関連する問題,そして第3には切除後の再建に関連する問題があると思います.そこで,一応これに沿って進めさせて頂きます.
 最初に,リンパ節郭清操作中に何らかの支障が起こった場合の対策についてお伺い致しますが,まず肝十二指腸間膜内の郭清中に誤って総胆管の損傷を起こした時には,どのように対応されるでしょうか.

胃の切離操作に際してのトラブル

著者: 岡島邦雄 ,   丸山圭一 ,   島津久明

ページ範囲:P.1416 - P.1419

胃の亜全摘で残胃の色が悪くなったとき
 島津 それでは第2番目の胃の切離操作,あるいはその後の処置に関連した問題に移りたいと思います.先ほど丸山先生からもちょっとお話が出ましたが,胃の亜全摘を行いまして,残胃の色が悪くなった場合,それをすぐに断念して全摘に切り替えるか,あるいは残しておいても大丈夫かどうか.岡島先生,いかがでしょうか.
 岡島 私は今まで2例ばかりあります.ちょうど吻合が終わった時に,ほっとして気がついてみれば,残胃がチアノーゼとなって,非常に色が悪い.1例はそのままにして結局,残胃の壊死を起こしました.1例では,その時引き続いて全摘をしました.その判断には残った血管がどの程度あるかということの確認が大切だと思うのですが,残胃がチアノーゼになっている時は,動脈の流れの問題だけではなくて,静脈還流が悪い.静脈還流が悪い時には消化管壁は,あとに浮腫がくるし,oozingがくる.それで結局は循環が悪くなるということが起こってきますから,おかしいと思ったら,やはり残胃を切除した方がいいと思います.

全摘・亜全摘後の再建に際してのトラブル

著者: 岡島邦雄 ,   丸山圭一 ,   島津久明

ページ範囲:P.1420 - P.1424

 島津 それでは第3番目に,全摘,亜全摘の両者を含めまして,切除後の再建に関連した問題についてお願いしたいと思います.まず丸山先生は,全摘の場合の再建にEEAをお使いになっていますか.
 丸山 半々くらいです.

その他

著者: 岡島邦雄 ,   丸山圭一 ,   島津久明

ページ範囲:P.1425 - P.1427

ドレーンによる事故
 島津 その他には何か問題はありませんか.
 丸山 ドレーンによる事故が結構ありますね.ドレーンの材質,あるいは構造,それから入れる場所,先端の位置,そういうことに十分気をつける必要がありますね.先端の位置がよくないと有効でありません.正確に設置するために,壁側腹膜の下をくぐらせると,位置と方向をかなりコントロールできます(図8).

小腸・大腸手術

腸のviabilityの判断

著者: 土屋周二 ,   小平進 ,   牧野永城

ページ範囲:P.1430 - P.1433

 牧野(司会)今日のテーマは小腸・大腸手術の術中トラブルですが,まず第一にお伺いしたいのは腸のviabilityの判断,つまり腸管が生きているか死んでいるかということの判断です.特に絞扼性イレウスで嵌頓,捻転,腸間膜動静脈の血栓症などがある場合にみられる腸管の壊死状態,本当に死んでいるかどうか,切るべきかどうかの判断ですが,先生方は現実にどのように対処しておられますか.土屋先生,まず皮切りにお願いします.
 土屋 常識的には従来いわれているように腸管の色調の変化や温度とか,腸間膜の動脈の拍動などによって判定すると思います.あやしいものでは温かい生食水をひたした布をかけ,ある程度時間をおいてもう1回みることも奨められています.客観的な判定法としては,ドップラーの血流計だとか,フルオレッセイン螢光色素などを注入して,そこに血流があるかないかをみるなどいろいろな方法が提唱されておりますので,そういうことを行うのも1つの方法かと思います.

腸に壊死がある場合,切断線をどこにおくか

著者: 土屋周二 ,   小平進 ,   牧野永城

ページ範囲:P.1434 - P.1434

 牧野 次に腸の切断線の決定という問題に移らせていただきます.つまり,絞扼性イレウスなどで腸に壊死がある場合,壊死に陥っている部分からどのくらい離したところでお切りになるかですが,小平先生いかがですか.

Crohn病の場合

著者: 土屋周二 ,   小平進 ,   牧野永城

ページ範囲:P.1435 - P.1438

 牧野 壊死でなくて,例えばCrohn病の場合に一体どこまで切るか,何を判定材料にして切断線を決めるかですが.
 小平 私のところでは,必要最小限度にとる方針でやっています.小腸でも大腸でも同じです.成書にはよく術中に内視鏡をやって,非常に早期の病変があるところも含めて全部とると書かれているのもありますが,私たちの手術の適応ではCrohn病は病変部,すなわち出血とか狭窄とかの悪さをしているところを最小限にとる方針ですから,小病変を残すことがあるかもしれません.小腸などでは潰瘍部が腸間膜の脂肪組織の肥厚みたいな感じで外からはっきりわかりますから,大きな潰瘍があるところは一緒にとれる範囲であればとりますが,あまり細かいことには眼をつぶるというか,余分にとらない方針です.

潰瘍性大腸炎の場合

著者: 土屋周二 ,   小平進 ,   牧野永城

ページ範囲:P.1439 - P.1440

 牧野 次に潰瘍性大腸炎に移りましょうか.外国では特に全摘total colectomyをやる人が多いのですが,日本では比較的腸を残す人が多いのではないでしょうか.先生方はどうされてますか.

腸管内の出血源がわからないとき

著者: 土屋周二 ,   小平進 ,   牧野永城

ページ範囲:P.1441 - P.1444

 牧野 吻合線の問題はこのくらいにして,次は腸管内の出血に関してですが,小腸と大腸があります.小腸の場合にはMeckelがあるし,腺癌でもリンパ腫でも出血します.小さな平滑筋腫で出血してびっくりすることもあります.Crohnももちろん出血しますし,血管腫は出血してもなかなか触ってわからないものがあります.それから最近よく文献にはA-V malformationというのが出ておりますね.
 普通の出血病巣はお腹をあけて,触診と指診で大体病巣はわかるものですが,わからないものがたまにあり,時に困ることがあります.

切除した大腸ポリープに癌が見つかったとき

著者: 土屋周二 ,   小平進 ,   牧野永城

ページ範囲:P.1445 - P.1447

再開腹してポリープをとった場所がわからないとき
 牧野 次に大腸のポリープが癌であったという問題に移らせていただきます.例えば1cmのポリープを大腸ファイバースコープでとってみると,sm癌が見つかったという場合ですが,そのとき開腹するしかないのか.また開腹してとる場合に,元の場所がわからないということもあり得るのではないかと思うのです.
 土屋 幸いにしてまだそういう例はありませんが,わからなければ,大体そこと思う所を切開して,よく探し,時には反転したりしてみます.それでもどうしてもわからなければ,おおよその所を非直視下に切除するよりしょうがないと思います.smにいっている程度であれば,粘膜の襞の集中だとか,ちょっと瘢痕ができているとかでわかる場合が多いと思います.点墨か,何かしておけばいいと思います.

直腸癌手術のときのトラブル

著者: 土屋周二 ,   小平進 ,   牧野永城

ページ範囲:P.1448 - P.1452

 牧野 それでは,次に直腸癌に話を進めさせていただきます.まず誰でも直腸癌で困ることというと,sacralis mediaからの出血とか,尿管損傷です.出血で苦労なさったことはないでしょうか.

腸閉塞の手術後,腸を戻すのが大変なとき

著者: 土屋周二 ,   小平進 ,   牧野永城

ページ範囲:P.1453 - P.1454

 牧野 腸閉塞の手術の後,腸をお腹に戻して閉腹する際に,腸が拡張していて大変だということがかつてはよくありましたが,これで苦心されたことはないでしょうか.
 小平 小腸の拡張で閉腹するのに苦労しそうなら,まず減圧しております.

虫垂手術・その他

著者: 土屋周二 ,   小平進 ,   牧野永城

ページ範囲:P.1455 - P.1458

虫垂がみつからないとき
 牧野 それでは最後に虫垂にいきましょう.虫垂炎の手術は,初心者でも若い医師でもどんどんやっておりますけれども,案外トラブルがある手術です.まず虫垂がなかなか見つからない場合があります.特に妊娠している患者の場合にいくら探しても見つからない.そんな経験はないでしょうか.
 小平 確かに見つけにくいことはあります.非常に見つけにくかったというケースとしては,妊娠時のほかに,定型的とまでいかなくても,腸回転異常症で盲腸が上腹部の方にある場合がありました.症状から推して虫垂が普通にあるような感じで開けてしまって,見つからずに創をどんどん大きくしてしまいかねません.ただ,見つからなかったら,創を大きくすることにあまり躊躇しない方が,お腹の中を掻き回すよりはいいだろうと思いますね.

肝臓手術

出血の予防と対策

著者: 小澤和恵 ,   島村善行 ,   出月康夫

ページ範囲:P.1460 - P.1472

 出月(司会)肝臓手術のときの術中トラブルといいますと,一番問題になるのは出血だろうと思います.そこで話の糸口として,先生方の今までの肝臓の手術で,一番たくさん出血した例というのはどのくらいなんでしょうか.その点小澤先生いかがですか.

胆汁漏れの予防と対策

著者: 小澤和恵 ,   島村善行 ,   出月康夫

ページ範囲:P.1473 - P.1476

胆汁漏れをどう防ぐか
 出月 それから細い胆管からの胆汁の漏れについてですが,先生方は全部結紮していかれますか.
 小澤 私自身は胆嚢をとるときに胆管断端を長めに必ず残しておいて,閉腹前に,そこからインジゴを肝内外の胆管に逆行性に流入して,肝断端などからインジゴの流出があるかないかを確認します.胆管が見つかれば,プロリンで纏絡縫合して,胆汁漏れを防ぐという手だてをとっています.

手術侵襲と予後

著者: 小澤和恵 ,   島村善行 ,   出月康夫

ページ範囲:P.1477 - P.1477

 出月 手術侵襲と予後の問題について,小澤先生.
 小澤 手術侵襲そのものが予後を決定するのだということを,これからはとくに重要視していくべきだと思うのです.そうしないと現在の壁を破ることができないと最近実感しているんです.これは肝切除のみならず,肝移植の問題でもはっきりしてきております.極端ないい方をしますと,術前の肝機能評価が悪くても,術中侵襲を非常に軽くすれば治癒することが可能な時代に今はなってきているのです.出血を伴うトラブルも,このような手術侵襲という面から考えるべきだと思われます.

肝移植テクニックの導入

著者: 小澤和恵 ,   島村善行 ,   出月康夫

ページ範囲:P.1478 - P.1479

 小澤 私たちは現在,大きな肝癌の場合には必ず術中に肝臓を冷やすようにしております.そしてバイオ・ポンプを回します.移植のテクニックですが,そうしますと,血中ケトン体比の低下時間が大体1時間以内におさまり,この間に血管などの吻合,切除が全部終わってしまいます.普通の定型的な手術でそれをやれば,血中ケトン体比の低下はおそらく4時間くらい続くはずです.
 出月 日本ではまだ肝移植ができませんが,小澤先生がいわれるように,肝移植のテクニックはいろいろな意味で肝臓外科に応用できます.しかもそれによって肝臓に対する侵襲を減らして,生体に対してプラスすることが十分可能だろうと思います.今後,術中の出血を防ぐとか,予めうっ血を防ぐとか,portalpoolingを塞ぐためのバイパスとかを積極的に利用する方向にいくと思いますが,他にも具体的に術中トラブル防止に役立つことがあればお願いします.1つはバイパスの問題ですね.これは先生のところではactiveで…….

併用療法と肝切除

著者: 小澤和恵 ,   島村善行 ,   出月康夫

ページ範囲:P.1480 - P.1483

 出月 最近ではTAEなどの普及もあり,他の治療をやったあとに切除するケースが増えていると思うのですが.
 島村 肝動脈塞栓療法やエタノール局注療法がかなり効果を上げておりますので,私どもでも,術前・術後併用療法としてこれらと肝切除療法を組み合わせて,適応の拡大に努力をしております.そういった意味で,図11に示すように,肝動脈内にTAE可能なカテーテルを挿入して肝切除をする,絶対的非治癒切除術を積極的に行っています.

その他の術中トラブル

著者: 小澤和恵 ,   島村善行 ,   出月康夫

ページ範囲:P.1484 - P.1487

肝静脈から下大静脈に入っている腫瘍栓
 小澤 術前の画像では肝静脈がなかなかわからないことが多いですね.開腹してみると中肝静脈から左肝静脈の合流点ぎりぎりまで腫瘍栓をつくっていて,驚くことがあります.そういう経験はありませんか.
 島村 ありますね.

肝外傷の問題点

著者: 小澤和恵 ,   島村善行 ,   出月康夫

ページ範囲:P.1488 - P.1488

 出月 第一線の病院で問題になるのは外傷だろうと思いますが,その時のトラブルには出血と胆汁漏れの2つがあります.特に問題になるのは,大静脈が裂けていて出血を止めにくいケースだろうと思いますが…….
 小澤 外傷でそういう例にはまだ会つたことがありませんので…….

胆道手術に伴う損傷

著者: 小澤和恵 ,   島村善行 ,   出月康夫

ページ範囲:P.1489 - P.1489

 出月 肝臓手術自体の問題からはそれますが,胆道系の手術,胆摘や特に胆嚢癌の手術で,胆嚢床を少し深く一緒にとろうとして出血させたり,胆管を傷つけたりすることがあると思います.拡大胆摘のような場合の出血はあまりご経験ないでしょうか,門脈系が多いと思うのですが.
 小澤 胆管を大きく切除して4本の胆管と空腸を吻合する場合に,血管の走行が邪魔になって,止血しながら縫わなければならないことがよくあります.時に肝静脈を傷つける.そういう時の出血は,出血そのものは小さくても,吻合するときは非常に苦労することが多いですね.

術後のトラブルあれこれ

著者: 小澤和恵 ,   島村善行 ,   出月康夫

ページ範囲:P.1490 - P.1495

3区域切除後,再発が散布性に起こったとき
 小澤 拡大切除する場合に一番怖いのは,例えば右3区域切除例で,比較的小さい残肝が急速に再生するような場合に,再発が散布性に2ヵ月以内におこる症例です.アンギオでは満開の梅の花のようにみえます.年に1〜2例は必ず経験しますね.肝の再生増殖と同じような因子が関係しているのだと思うのです.逆に残肝がわりに大きな場合は経験しないものですから,拡大手術をしていく際に,3区域やれば根治性があると思っても,lateralが小さい場合にはグッと後退して右葉切除にとどめております.機能的には取れても,やはりそういう梅の花のような形に再発しますと,もうどうしようもありませんので.そのへんを事前に予知あるいはコントロールする方法はないものかと悩んでおります.
 島村 私も以前に何例かありました.特に,HBウイルス・キャリアーの若年者ではそのような傾向がありますね.進行肝癌にはほとんどの症例に肝動脈挿管していますので,全身状態が改善してきたならば,少なくとも1ヵ月以内にそれを介してリピオドールを注入するようにしています.

胆道・膵臓手術

正常胆管の損傷

著者: 宮崎逸夫 ,   尾形佳郎 ,   小山研二

ページ範囲:P.1498 - P.1504

 小山(司会)まず胆道手術の場合のトラブル対処法について伺いたいと思います.そのうちでも,胆嚢摘出術から始めますが,これは外科医が比較的初心の頃に行う手術であるとともに,脈管がかなり複雑に走行している場所の手術ですから,いろいろなトラブルがあると思います.それも初心者がわからなくて陥るトラブルと,かなり慣れてわかっている方でも,なおかつ陥るトラブルとがありますが,最初に一般的に起こりやすいトラブルをとりあげて,それについての対処法をお聞きしたいと思います.それからトラブルを起こさないためにどんな注意が予め必要かについてもお話しいただければと思います.

拡張胆管の損傷

著者: 宮崎逸夫 ,   尾形佳郎 ,   小山研二

ページ範囲:P.1505 - P.1509

拡張した下部胆管の損傷
 小山 次に拡張した胆管の場合,特に下部の方の損傷についてですが,例えば胆管の十二指腸側にブジーを通したら胆管を破ってしまった,そういう場合の処理の仕方はいかがでしょうか.
 尾形 私が経験した1例は総胆管結石の症例で,結石除去後の胆道内圧測定で内圧が高いため金属ブジーを挿入したところ膵後面に出てしまったというので,手術場へ呼ばれたことがあります.Kocherizationを十分にし,止血後Tチューブを入れて対処しました.この場合に注意しなければいけないのは,膵管を損傷してないかどうかの確認です.膵管損傷の恐れがあったら,十二指腸をあけて,膵管へチューブを通すなり,膵管造影するなりした方がいいと思います.私はそもそも金属ブジーを使用することには反対で,もし総胆管内をさぐりたいならネラトンなど軟らかいものを使用するように言っております.通常は,総胆管結石除去後は胆道鏡で内部を見ることを必ず行うように指導しています.

胆嚢管などの損傷

著者: 宮崎逸夫 ,   尾形佳郎 ,   小山研二

ページ範囲:P.1510 - P.1512

炎症高度で胆嚢管が千切れたとき
 小山 胆摘中に,炎症の高度の胆嚢管が千切れてしまった場合,宮崎先生はどうされますか.
 宮崎 胆嚢管でなくても,胆嚢そのものも残してくるくらいですから,特に問題はないと思います.それから炎症高度の場合ですが,胆嚢管がずっと伴走している場合がありますね.それをずっと追っているうちに,先がわからなくなって千切れてしまったことがあります.それでも問題はありませんでした.

肝動脈などの損傷

著者: 宮崎逸夫 ,   尾形佳郎 ,   小山研二

ページ範囲:P.1513 - P.1516

肝動脈を損傷したとき
 小山 それでは,肝動脈の損傷についてはいかがでしょうか.例えば胆嚢摘出の時に肝動脈の右枝を完全に切ってしまう,あるいは固有肝動脈を切ってしまった場合にどうなさいますか.
 宮崎 本当は縫合すればいいのでしょうけれども,昔はそのまま縛ってしまいましたね.

再手術・その他一般的注意

著者: 宮崎逸夫 ,   尾形佳郎 ,   小山研二

ページ範囲:P.1517 - P.1519

再手術の場合の到達経路
 小山 胆道系の再手術でトラブルが起こりやすいことはないでしょうか.
 宮崎 再手術の場合,たいがい肝臓が覆いかぶさって,癒着しています.特に前回の手術で胆管を離断した場合など,到達経路がなかなか難しいのです.術者によってそれぞれ得手不得手があって,右外側からいった方がいいという方もありますが,私は真正面から入っていきます.一番近いという考えからです.ただ,血管をまず確かめてから,真正面から入ってくわけです.

膵臓の損傷

著者: 宮崎逸夫 ,   尾形佳郎 ,   小山研二

ページ範囲:P.1520 - P.1527

切離面に膵管が見つからないとき
 小山 次は膵臓に移らせていただきます.膵臓の手術では最も一般的な膵尾側切除ですが,まず,膵切離面に膵管が見つからない場合はどうしますか.
 宮崎 わからないという場合ですが,これの処理法には実は変遷がありまして,昭和30年代の本庄先生の頃は膵管も膵も全体を縛ったんです.しかし,最近はみんな膵管を縛って断端を縫合閉鎖しています.

血管手術

動脈剥離・露出操作中のトラブル

著者: 田辺達三 ,   多田祐輔 ,   松本昭彦

ページ範囲:P.1530 - P.1533

 松本(司会)血管の手術は一般外科でも非常に大事な領域になってきていますが,一応基本手技を修得されている方でも,トラブルに当たっては他の手術では考えられないような対処方法の必要なことが多くあります.今日はそういう方のために,その道のエキスパートとして田辺教授と多田先生をお招きし,いろいろお話をうかがいたいと思います.
 まず動脈を剥離し,露出させてそれを遮断する操作中のトラブルからお話しいただけますか.たとえば動脈瘤あるいは閉塞性動脈疾患の手術中に,十分に剥離・遮断するゆとりがないうちに動脈瘤の破裂が起こったり,あるいは動脈に損傷を来して大出血が起こることが時にありますが,そういう時にどう対処なさいますか.田辺先生,いかがでしょう.

再手術例における剥離の注意点

著者: 田辺達三 ,   多田祐輔 ,   松本昭彦

ページ範囲:P.1534 - P.1535

 松本 初回手術例はどんな手術でもそれほどトラブルは起こらないと思いますが,再手術例が血管外科の分野でもだんだん増えてきております.それをいかに安全かつ確実にやるかですが,再手術例での剥離で注意する点としてはどんなことがあるでしょうか.

動脈遮断のときのトラブル

著者: 田辺達三 ,   多田祐輔 ,   松本昭彦

ページ範囲:P.1536 - P.1541

動脈硬化性病変や炎症性病変が強いとき
 松本 さて,動脈が剥離されて,いよいよ遮断をして手術に移るわけですが,健常な動脈であれば問題がなくても,最近では日本人にも動脈硬化性の病変や炎症性病変が非常に強い人があります.注意して遮断鉗子をかけても,なおかつその部分の内膜が断裂したり亀裂が入ったりし,鉗子を外して初めて気がついたりするわけです.吻合が完了してから,あるいは内膜剥離を行ってpatchgraftをやったところで気がついたような場合,どんな注意をしたらいいでしょうか.
 多田 まず大動脈の場合ですが,それがどういう状況下で起こるかを考えますと,1つは触診で大動脈の石灰化や粥腫様の変化が強い場合ですし,もう1つは血圧が非常に高い場合です.こんなときには大動脈鉗子による動脈損傷が起こりやすいわけで,血圧については麻酔医に依頼して降圧剤で下げることが必要です.

血栓内膜摘除のときのトラブル

著者: 田辺達三 ,   多田祐輔 ,   松本昭彦

ページ範囲:P.1542 - P.1548

内膜摘除が思わず遮断鉗子のところまでいってしまったとき
 松本 血栓内膜摘除術は最近は以前ほど汎用されませんが,症例によっては非常に有利かつ確実な方法ですし,また場合によっては是非ともやらなければならないことがあります.そこでたとえば,大腿深動脈を血栓内膜摘除して,パッチ・グラフトをおき血流を増やしつつ,末梢血行再建をやる場合です.病変が限局していれば,ここまでで血栓内膜摘除は終わりという判断ができますが,心の中でそう思いつつも思わず遮断鉗子のかかっているところまでいってしまうことがありますね.そうすると,内膜の固定はできないし,そのまま放っておくわけにもいかない.また,動脈がかなりひどい時には切り離しただけで,何ら固定しなくても済むこともある.その辺の判断はいかがでしょうか.
 多田 血栓内膜摘除は,限局した病変に対しては術前にどこからどこまでと決めてやるべきです.たとえば腸骨動脈の場合,この部分までと決めていた範囲でその中枢側,末梢側端を鋭的に血栓内膜を離断して血栓内膜摘除をし,末梢側を内膜固定すればいいのです.実際にやってみますと,遮断した状態でみますから不十分なような気がして,先生がいわれたようにズルズルと行ってしまいがちですが,予め範囲を決めて,これ以上は行わないという決意が必要と思います.もしそれ以上必要とする状況なら,それはむしろバイパスの適応なんです.

解離性大動脈瘤の手術の場合

著者: 田辺達三 ,   多田祐輔 ,   松本昭彦

ページ範囲:P.1549 - P.1551

 松本 以前日本では,解離性大動脈瘤はきわめて少なく,かついったん起こったら救命がきわめて困難な病気とされておりました.しかし最近では診断技術が発達したこともあり,また動脈硬化性病変が欧米人なみにひどくなってきたこと,高血圧患者が多くなったことなどがあり,日常どこでも見られる疾患になりつつあります.しかも早く処置をすると救命し得ることが多く,場合によっては保存的治療の方が安全だともいわれていますが,この手術に伴うトラブルについて伺ってみたいと思います.

血管吻合・縫合時のトラブル

著者: 田辺達三 ,   多田祐輔 ,   松本昭彦

ページ範囲:P.1552 - P.1560

末梢血行再建のバイパス・グラフトには何を使うか
 松本 血管の手術の仕上げとして吻合・縫合操作があり,簡単な手術野で確実に吻合ができる場合には誰がやっても仕上がりは同じですが,時にいろいろ思わぬトラブルが起こってくることがあります.末梢の血行再建,バイパス・グラフトの場合には,おおむね静脈グラフトを第1選択になさると思いますが,その点はいかがでしょうか.
 田辺 大腿・膝窩動脈バイパスについては,最近は代用血管移植後の開存率が上がってきていますので,静脈グラフトが使えない場合は,above kneeであればゴアテックスあるいはダーディック・グラフトを使っています.しかしbelow kneeとか大腿・脛骨動脈バイパスには静脈グラフトが優れているので,少なくとも膝関節をまたぐ部分から末梢は自家静脈を使って,長さが足りなければ上の方はcomposite graftをという考え方でやっています.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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