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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科44巻12号

1989年11月発行

雑誌目次

特集 胆嚢癌の外科

EDITORIAL

著者: 小山研二

ページ範囲:P.1713 - P.1714

 胆嚢癌のイメージは,ここ10年で著しく変わった.1981年に胆道癌取扱い規約が制定され,それとほぼ同時期に超音波検査法が確立された.さらに,肝区域の概念が臨床応用され,CUSAが一般化されるなどの診断,治療の一大変革が起こった.筆者はちょうどその頃,胆道癌の勉強を本格的に始めたという事情もあり,この大きな波の記憶は鮮明である.
 最初にやったことは,それまでの胆嚢癌症例を規約に従って再整理,再分類することであった.その過程で,手術記録や標本の記載が意外に不完全,不明確であることを知ったり,記載の量と有用な情報の量とはまったく無関係であることも認識したのであった.何例かは,病理組織標本を作り直す必要があり,ホルマリンの刺激に涙を流しながら探した.整理不十分と言えばそれまでだが,お目当の胆嚢を見つけ出した時の喜びは大きかった.この時期には,全国各地でこんな作業が行われたに相違ないことは,それからしばらくして多くの施設から自験例の胆道癌取扱い規約に基づいた分析の報告が続いたことから明らかである.深達度と予後,stage決定因子など共通した分析に基づく学会発表や論文が多かったが,その一つ一つが新鮮で,異なる施設間での比較ができることは大きな進歩であった.当時筆者は東北大学第1外科で佐藤寿雄教授のもとにいたが,教室の症例の分析からいくつかの報告を行っている.それらを振り返ってみた上で現在の問題点について述べてみたい.

胆嚢癌手術に必要な局所解剖—特にリンパ管系について

著者: 佐藤健次 ,   佐藤達夫

ページ範囲:P.1715 - P.1722

 癌手術に最も必要なリンパ管系の局所解剖について,教室の剖出所見の示説を中心にして大要を述べた.胆嚢のリンパ管が胸管に達する経路は左右2系に大別される.右側系は総胆管に沿って膵後面に下行するのみならず,膵頭後面で門脈下端付近にあるリンパ節を介して,左腎静脈上下の高さにある大動脈大静脈間リンパ節へ達する.左側系は固有肝動脈に遡行して腹腔動脈根部を経て,左腎静脈上下の高さの外側大動脈リンパ節に注ぐ.

胆嚢癌の進展度診断—術前・術中診断の信頼度

著者: 横溝清司 ,   中山和道 ,   城谷徹郎 ,   有田恒彦 ,   青柳明彦 ,   大山和彦

ページ範囲:P.1723 - P.1729

 切除可能であった胆嚢癌の50例を対象に,その進展度診断について検討した.術前の各種画像診断の組み合わせにより,正しく胆嚢癌と診断しえたものは32例,64%である.進展度診断についてみると,リンパ節転移では転移陽性の21例中9例,42.9%,肝内直接浸潤は同様に15例中13例,86.7%,胆管側浸潤は8例中6例,75.0%に診断しえた.術中USによる胆嚢壁の層構造から胆嚢癌の壁深達度診断について検討したところ,m,pm癌とss癌の鑑別,ss癌とse,si癌との鑑別は可能と思われた.また肝内直接浸潤についても肝床部の境界エコーと肝床部の腫瘤像から検討し,組織学的に肝内直接浸潤を認めた全例に診断しえた.

早期胆嚢癌(m,pm)の治療方針

著者: 吉田奎介 ,   塚田一博 ,   白井良夫 ,   内田克之 ,   黒崎功 ,   武藤輝一 ,   渡辺英伸

ページ範囲:P.1731 - P.1736

 早期胆嚢癌88例の治療成績は単純胆摘例を含めて累積5年生存率は100%であり,リンパ節転移,脈管侵襲もみられなかった.しかし,文献的にはpm癌に脈管侵襲陽性例や単純胆摘後再発例があり,また術前・術中の癌深達度判定は必ずしも容易でないことから,早期胆嚢癌と思われても①肝床切除と2群リンパ節郭清を,またssまでの浸潤が疑わしい場合には②肝床・肝外胆管合併切除+2群リンパ節郭清を付加すべきである.術後組織学的に癌と診断された場合,m癌で切除断端に癌遺残がなければそのまま経過観察,pm癌では条件が許せば二期的に②の術式を追加するのが望ましい.

ss胆嚢癌の治療方針

著者: 梅北信孝 ,   松峯敬夫 ,   丸山嘉一

ページ範囲:P.1737 - P.1742

 胆嚢癌においてm,pm癌の予後は良好で,単純胆摘でもほとんど再発をみないが,se,si癌は拡大手術を行っても予後不良である.この中間のss癌は拡大手術によって予後の改善が見込まれるため,最近これに対しいかなる術式が適切か議論されているが,一定の見解はないのが現状である.本稿ではss癌の進展形式,予後を規定する因子,切除術式などについて自験例を本邦報告例と併せて検討し,ss癌の予後向上のために,どのような手術術式が適切であるかを考察した.またssをperimuscular layerによりさらにssm,sssの2層に分けることの有用性を強調した.

胆嚢癌肝浸潤例の肝切除術式

著者: 角田司 ,   小原則博 ,   古賀政隆 ,   塩竃利昭 ,   寺田正純 ,   瀬川徹 ,   松元定次 ,   元島幸一 ,   井沢邦英 ,   土屋凉一

ページ範囲:P.1743 - P.1749

 進行胆嚢癌の肝内直接浸潤に対する手術術式に関して自験例をもとに検討した.教室では胆嚢癌の肝内直接浸潤例には原則として肝区域切除術を標準術式としており,肝床浸潤型では肝切除断端(−)が得られたが,肝門浸潤型や肝床肝門浸潤型では肝切除断端が陽性となる症例が存在しており,更なる拡大手術の必要性が示唆された.しかし,これらの症例では他の進展様式,とりわけリンパ節転移をn2以上に認める症例が多く,再発形式では膵頭十二指腸周囲リンパ節や肝十二指腸間膜再発が多かった.これらに肝拡大右葉切除を選択した場合,根治手術とするためには膵頭十二指腸切除と大動脈周囲リンパ節郭清の付加も必要であり,手術侵襲が過大となり,その適応は限定されるものと思われた.また如何なる手術術式でも外科治療にはおのずと限界があるのも事実であり,進行胆嚢癌にどこまでの拡大手術が必要かは手術侵襲の兼ね合いもあり,今後の検討課題である.

胆嚢癌のリンパ節郭清—膵頭十二指腸切除術の意義

著者: 吉川達也 ,   羽生富士夫 ,   中村光司 ,   吾妻司 ,   小川佳子 ,   竹田秀一 ,   平野宏 ,   今里雅之

ページ範囲:P.1751 - P.1757

 自験胆嚢癌切除例のうちリンパ節転移の有無が検索できた123例について検討し以下の結果を得た.1)深達度ssでは56.8%に,seでは77.3%にリンパ節転移を認めた.また,ssでは転移陽性例の47.6%が,seでは同じく86.2%がn2以上に転移していた.2)リンパ節転移の有無別に生存率をみるとn(+)群は有意に不良であった(P<0.001).3) R2以上郭清例のうち,n2以上の症例を膵頭十二指腸切除術(以下PD)(+)群とPD(−)群に分け生存率を比較するとPD(+)群で有意に良好であった(P<0.05).4)n (+)例の再発様式をみると,PD(−)群ではPD(+)群に比し2群までのリンパ節再発を含めた局所再発が多かった.以上より,深達度ss以上ではPDを積極的に適応し徹底したリンパ節郭清を行うことが必要であると考える.

胆嚢癌切除後の補助療法

著者: 小倉嘉文 ,   楠田司 ,   松田信介 ,   水本龍二

ページ範囲:P.1759 - P.1767

 教室で経験した胆嚢癌69例中切除例48例を対象として,術後の補助療法の効果を検討するとともに,1985〜1988年度における厚生省胆道癌研究班の研究成果から,胆嚢癌に対する集学的治療の成績を検討した.補助療法の効果をみると,非治癒切除例で放射線治療兼免疫・化学療法を併用することにより延命効果が認められた.胆嚢癌の治療成績を向上させるためには局所再発を防止することが必要であり,これには十分な切除と放射線治療の併用が重要である.また肝転移や腹膜播種に対しては化学療法の併用が必要となるが,使用薬剤の作用機序を十分に考慮して選択する必要がある.またさらに効果的な補助療法を開発するためには,多施設共同のprospective studyを行うことの必要性が指摘される.

カラーグラフ Practice of Endoscopy 食道内視鏡シリーズ・ⅩⅣ

EUSによる良性疾患の診断

著者: 村田洋子 ,   吉田操 ,   井手博子 ,   鈴木茂

ページ範囲:P.1709 - P.1711

 食道良性腫瘍のうち,内視鏡超音波(EUS)が最も有用である疾患は粘膜下腫瘍である,今回は,その粘膜下腫瘍診断を中心に述べる.EUSにて診断可能な項目は,①粘膜下腫瘍と壁外性圧迫との鑑別,②腫瘍の壁内局在診断,③腫瘍の大きさの測定,④特徴的な内部エコー,境界エコーより質的診断が可能な腫瘍がある,の4点である.

表紙の心・23

リヨンのオテル・ディユ病院—教会の入口

著者: 大村敏郎

ページ範囲:P.1767 - P.1767

 絹織物が有名で,古くからわが国と関係の深い大都市リヨンには,町の西側にフルビエールの丘という高台があって,そこから見下すと,ふもとには古いリヨン地区と呼ばれる歴史的な屋並みが見られ,その向うにソーヌ川が左から右へ流れている.それと並んで川の水こそ見えないがもう一本ローヌ川の両岸に並ぶ樹々が帯状をなして見える.ローヌ川はスイスからアルプスの水を集めて流れ出し,ジュネーブの辺ではレマン湖となり,南ヨーロッパを潤す豊かな流れである.2つの川は町はずれで合流してローヌ川となり地中海へ向う.2つの川に挾まれたローヌ川沿いの所にリヨンのオテル・ディユ病院が黒い姿でそびえている.
 今の場所に定着したのは12世紀末だが,貧しい旅人や巡礼の援助のためにフランク族の王シルドベール(Childbert)が病院を作ったのは6世紀中頃で,パリのオテル・ディユより古いことがリヨンの人々の自慢である.
 これは16世紀にフランソア・ラブレー(FrançoisRabelais,1494〜1553)の働いた病院であり,それらの歴史をとどめる博物館にはいろいろな興味ある展示物が集められている.

研修医セミナー 一般外科手術記録の書き方

Lesson11 腹会陰式直腸切断術(その1)(Abdominoperineal Resection)

著者: 小越章平

ページ範囲:P.1771 - P.1773

Ⅰ.記載のポイント
 1.麻酔・体位。 2.腹部皮膚切開。 3.腹腔内所見。癌主病巣および他臓器浸潤,転移の有無。 4.血管処理の範囲。腸管切除範囲。 5.側方リンパ節郭清。 6.会陰操作。 7.人工肛門造設。 8.閉腹,会陰部ドレーン。 9.患者の状態ならびに結び。

心の行脚・2

葉隠私観(2)

著者: 井口潔

ページ範囲:P.1774 - P.1775

格を離れたる,一段立ち上りたる姿
 葉穏を一貫して流れるものは「格を離れたる,一段立ち上りたる姿」である.それが高踏的観念論ではなく,常住坐臥の中に極めて自然に調和して表現されているところに葉隠の葉隠たる特長がある.
 葉隠精神を「恋死」に譬えているところなどまさにユニークである.そして庶民的である.

文献抄録

食道癌の危険因子—喫煙,飲酒,食生活,職業環境との関連

著者: 北川雄光 ,   安藤暢敏

ページ範囲:P.1776 - P.1776

 食道癌の発生頻度には,地域差,性差,人種差などがあり,種々の危険因子の存在が従来より指摘されている.本研究は,喫煙や飲酒,食生活,職業上の暴露環境を中心に検討を行ったcase-control studyである.Los Angeles在住の20〜64歳までの食道癌患者について,組織学的確定診断のついた時点で,その近隣居住者から年齢,性,人種の適合した対照を選び,それぞれ患者群,対照群とし,両者にインタビュー調査を施行した.1975年1月から1981年3月までの調査期間内にリストアップされた488例の食道癌患者のうち所在の不明な例や調査を拒否した例を除く275例とその対照群が研究対象となった.
 従来行われた多くの疫学調査結果と同様に,本研究においても喫煙は食道癌の危険因子であった.禁煙を実行した群は,持続的喫煙群に比して危険度は低く,また,1パック/日以下の群は2パック/日以上の群に比して危険度は低かったが,2パック/日の群と3パック/日以上の喫煙群の間に有意差はなかった.飲酒も危険因子となりアルコール摂取量との相関も認められた.ビール,ワイン,スピリッツ(ウオッカ,ジンなどの強い酒類)それぞれが独立の危険因子となるが,同一のエタノール量で比較すると,スピリッツが最も危険度が高くビールが最も低かった.食生活については,各種食品を摂取する頻度をカテゴリー化して調査した.

一般外科医のための形成外科手技・11

筋肉弁と筋皮弁を利用した再建法—1.胸壁・乳房の再建

著者: 山田敦

ページ範囲:P.1779 - P.1787

はじめに
 胸壁(乳房を含む)に原発または転移浸潤した悪性腫瘍,高度の放射線潰瘍,胸骨や肋骨の骨髄炎などの外科治療にあたっては,大きな軟部組織欠損あるいは胸壁の全層欠損を生じるため,解剖学的欠損と機能欠損の両面を考慮した一期的再建が必要である.特に胸壁全層欠損では表面の被覆だけではなく胸腔の密閉(pleural sealing)と胸郭の支持が同時に求められることが多いので,従来は再建が容易ではなかった.しかし,近年の形成外科領域での筋皮弁の概念の発展により,種々の筋肉弁あるいは筋皮弁を利用するとほとんどの症例に対して一期的再建が可能になっている1〜3).この皮弁の利点である良好な血行,豊富なボリューム,広範囲の可動域を利用すると,支持性のみならず胸腔の密閉が確実に得られるので胸壁の再建には最適のものといえる、胸壁の再建に用いられる筋肉は大胸筋,広背筋,腹直筋,外腹斜筋,僧帽筋などがあげられるが,前三者が好んで用いられる.また広背筋や腹直筋皮弁ならびにtissue expanderとシリコン・バック・プロテーゼを利用して乳癌切除後の乳房再建も組織欠損に応じて種々の方法が選択できるようになっている.

胆道手術の要点—血管処理からみた術式の展開・1【新連載】

胆道手術に必要な局所解剖と血管損傷時の対処法

著者: 加藤紘之 ,   下沢英二 ,   児嶋哲文 ,   田辺達三

ページ範囲:P.1789 - P.1792

はじめに
 胆道の手術は比較的古くから行われてきたが,その今日的課題は依然として山積している.胆嚢・胆管結石症の頻度はむしろ増加しており,従来手術が困難とされた胆管癌に対しても積極的な取り組みが行われつつある,この背景には超音波装置,CTスキャン,ERCP,PTCなどの画像診断法の進歩・普及が大いに寄与しており,疾患・症例によっては非手術的な治療法も開発されて順次取り入れられつつある.このような傾向に伴って,外科医に今日要求される課題は,良性疾患に対してはより安全で侵襲の少ない手術であり,一方,悪性腫瘍に対しては手術侵襲との兼ね合いの上に立って根治性の高い手術をさらに追求することである.手術の基本として局所の外科解剖を十二分に理解することがこれまで強調されてきたが,特に胆道系手術では,脈管,胆管とも複雑に走行し,肝臓と密接な相関関係を示し,それらの変異も多いことから,この点を常に認識し直して日々の治療にあたる必要がある.

臨床研究

胸部食道癌術後の反回神経麻痺の検討—両側麻痺と片側麻痺の比較

著者: 北村道彦 ,   西平哲郎 ,   樋口則男 ,   森昌造

ページ範囲:P.1793 - P.1795

はじめに
 食道癌の手術は近年拡大する傾向にあり,これに伴い呼吸器系合併症の発生も増加している.特に反回神経麻痺の発生は,喀痰の排出に必要な気道内圧の上昇を来すことができないことや誤嚥しやすいことなど,主に呼吸器系の面でハンディキャップを背負うこととなる.今回,われわれは,一定の治療方針で手術が施行された最近の食道癌の症例を対象とし,反回神経麻痺の発生状況を検討し,特に両側麻痺と片側麻痺の比較を行ったので報告する.

臨床報告

高頻度ジェット人工換気法が著効を呈した術後重症呼吸不全の2例

著者: 篠田雅幸 ,   高木巌 ,   陶山元一 ,   芹沢清人 ,   北逵光史郎 ,   吉岡洋 ,   波戸岡俊三 ,   濱田正勝 ,   國島和夫 ,   山田二三夫 ,   安江満悟

ページ範囲:P.1797 - P.1800

はじめに
 呼吸不全に対する人工呼吸法としての高頻度人工換気法(high-frequency ventilation:HFV)は,従来の人工呼吸法の成績を大きく上回るものではないと一般的に評価されており,その適応も次第に明確になってきている1〜9).最近われわれは,通常の人工呼吸と高頻度人工換気法のうちhigh-frequency jet ventilation(HFJV)の重畳法を試みたところ,多量の気道内分泌物の排出とともに急速な改善をみた原因不明の術後呼吸不全および術後重症肺炎の2症例を経験したので,文献的考察とともに報告する.

鎖骨下動脈閉塞症に対する腋窩—腋窩動脈バイパス術の経験

著者: 秋元直人 ,   長田一仁 ,   平山哲三 ,   山口寛 ,   石丸新 ,   古川欽一

ページ範囲:P.1801 - P.1804

はじめに
 鎖骨下動脈近位部の閉塞によって,脳や上腕の循環障害を来すsubclavian steal syndromeは,1960年Contorni1)により報告されて以来,その病態,治療に関心が寄せられ,外科的にも諸種の血行再建法が試みられている.最近では経胸郭内血行再建術よりも経胸郭外的アプローチによるバイパス術が,主に侵襲の少なさから試みられるようになってきている.著者らは,本症候群に対して3例の腋窩—腋窩動脈バイパス術を経験し良好な術後経過を得たので,本術式の方法,適応などについて若干の文献的考察を加えて報告する.

食道癌に対する血管吻合を伴う有茎空腸による再建法

著者: 手取屋岳夫 ,   川浦幸光 ,   佐々木正寿 ,   村上望 ,   宗本義則 ,   岩喬

ページ範囲:P.1805 - P.1808

はじめに
 1957年Seidenberg1)が下咽頭頸部食道癌に対して遊離空腸移植再建法を行い良好な成績を報告したが,技術的問題点が多く一般化するには至らなかった.しかし,血管外科の進歩につれ,生体に侵襲が少なく術後縫合不全や消化管機能低下の少ない本法が見直されつつある.当科ではこれまでに16例の食道癌患者に対して遊離空腸移植再建術を施行し良好な成績を得た.その応用として,胸部食道癌症例に対して有茎空腸を用い,その先端の血流保持のため血管吻合を施行する再建法を行ったので報告する.

乳腺原発Malignant Fibrous Histiocytomaの1例

著者: 森俊治 ,   安藤幸史 ,   古田凱亮 ,   磯部潔 ,   宮田潤一 ,   笠原正男

ページ範囲:P.1809 - P.1813

 Malignant fibrous histiocytoma(以下MFH)は軟部悪性腫瘍の中で最も頻度が高く,四肢,後腹膜腔に好発する.しかし,乳腺原発MFHはきわめて稀で本邦では11例(自験例を含む)の報告をみるにすぎない.当院で乳腺原発MFHの1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

貧血,低蛋白血症を伴い十二指腸球部に脱出したⅠ型早期胃癌の1例

著者: 辻仲利政 ,   南屋昌彦 ,   渡瀬誠 ,   宮田幹世 ,   小川道雄 ,   森武貞

ページ範囲:P.1815 - P.1818

はじめに
 幽門輪を越えて十二指腸球部に嵌頓した胃隆起性病変の報告1)は比較的少ないが,幽門閉塞に基づくballvalve syndrome2)を呈すること,胃X線検査上十二指腸球部腫瘍との鑑別が必要となることなど,この病態についての理解が必要である.われわれはI型早期胃癌が十二指腸球部に嵌頓し,貧血と低蛋白血症を合併した症例を経験したので報告する.

高齢者の上行結腸にみられた消化管重複症の1例

著者: 原淳二 ,   石川恒夫 ,   武藤良弘 ,   外間章 ,   奥島憲彦 ,   名嘉梧平

ページ範囲:P.1819 - P.1822

はじめに
 消化管重複症は全消化管に発生する比較的稀な先天性奇型性疾患であり,大多数の症例は乳幼児期に発見され,成人期に発見される症例は比較的少ないといわれている.最近,筆者らは87歳の女性にみられた上行結腸の消化管重複症を経験した.本症例は消化管重複症としては本邦最高齢と考えられる.そこで,自験例を報告し,若干の文献的考察を加える.

気腹像を呈した肝膿瘍の1例

著者: 笠普一朗 ,   山下紀夫

ページ範囲:P.1823 - P.1826

はじめに
 われわれは,コントロール不良の糖尿病患者に発生した自然気腹像を伴う化膿性肝膿瘍の1症例を経験した.膿瘍内ガス像や自然気腹像を伴う肝膿瘍は比較的稀であり,若干の文献的考察を加え報告する.

膵腫瘍を疑わせたparagangliomaの1例

著者: 西亀正之 ,   加藤良隆

ページ範囲:P.1827 - P.1830

はじめに
 高血圧発作を伴うparagangliomaの診断は比較的容易であるが,臨床的に高血圧発作を示さない症例の術前診断は困難なことが多い.最近われわれは,術前に高血圧発作の既往のない心窩部腫瘤を主訴とし,膵頭十二指腸切除を行った症例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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