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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科44巻6号

1989年06月発行

雑誌目次

特集 胃癌治療の最近の話題

胃癌根治手術の成果と今後の課題—国立がんセンター外科25年間の成績

著者: 丸山圭一 ,   平田克治 ,   岡林謙蔵 ,   笹子三津留 ,   木下平

ページ範囲:P.743 - P.749

 国立がんセンター設立後25年間の胃癌外科手術法の変遷と治療成績を検討した.初発胃癌5,921例を対象に,5年毎の5期に区切ってStageの変遷をみると,Stage Ⅰは27%から53%に増え,Stage IVは逆に30%から18%に減少し,また早期癌も19%から48%に大幅に増加して,診断の進歩を反映していた.5生率は全体では41%から69%に,Sage Ⅰは85%から93%に,Stage Ⅱは57%から83%に,StageⅢは33%から50%に向上した.この向上は十分な断端距離,近位切除から全摘に,積極的な合併切除,膵頭膵尾授動下の後腹膜の徹底的な郭清,開胸下の広域手術など,手術の拡大によって達成された.

胃癌拡大根治手術の評価

著者: 太田惠一朗 ,   西満正 ,   中島聰總 ,   梶谷鐶

ページ範囲:P.751 - P.758

 胃癌に対する手術は,その進行程度に応じた"適正手術"であることが望ましい.進行胃癌に対する拡大根治手術も,その意味で合理的拡大手術であるべきであろう.他臓器合併切除やStage IV胃癌について,主として予後の点から拡大根治手術の評価を行った.進行胃癌に対する他臓器合併切除や拡大郭清は,結果的に相対非治癒切除可能な場合,その意義は認められる.

術後のQuality of Lifeからみた胃癌手術のあり方—とくに栄養障害の面から

著者: 佐藤薫隆 ,   為我井芳郎 ,   井出道也 ,   向井佐志彦

ページ範囲:P.759 - P.767

 [目的]胃癌手術後の長期生存例(5年以上)に対して,quality of lifeを栄養障害の面から術式別に検討した.[方法]幽切58例,胃全摘58例,噴切9例を対象とし,貧血,低蛋白血症,消化吸収試験,小腸生検,術後愁訴を検索した.[成績]いずれの項目でも,異常例の頻度は胃全摘>噴切≧幽切であった.再建術式別では,胃全摘でB-Ⅱ法>空腸間置法であった.文献的にはRoux-Y法≧空腸間置法,幽切でB-Ⅱ法≧B-Ⅰ法であった.小腸生検では絨毛の萎縮,膜酵素の低下があった.吸収不良症候群の発生は胃全摘後で,B-Ⅱ法>空腸間置法であった.[結語]長期的に栄養障害の面からみると,胃全摘より部分切除がよく,食物が十二指腸を通る再建術式が望ましい.

噴門部の血流支配とリンパ流からみた噴門部癌の術式

著者: 沢井清司 ,   萩原明於 ,   谷口弘毅 ,   下間正隆 ,   高橋俊雄

ページ範囲:P.769 - P.775

 術前の血管造影と微粒子活性炭CH40の術前点墨法により噴門部の血流とリンパ流を詳細に観察し,正確な局所解剖に立脚した噴門部進行癌の合理的な手術術式を開発した.①左下横隔動脈の食道噴門枝は52%の症例で存在し,存在する場合のみ噴門から左下横隔動脈に沿うリンパ流を認め,左下横隔動脈の根部切離による郭清を要する.②左下横隔動脈の起始部は腹部大動脈65%,腹腔動脈32%,左胃動脈2%の頻度であり,起始部変異に応じた郭清法が必要である.③左肝動脈から分岐する副左胃動脈は17%の症例で認めた.この場合には噴門から肝十二指腸間膜に向うリンパ流を認めNo.12の郭清が必要になる.④CH40によるリンパ流の観察では噴門からNo.16に向うリンパ流は豊富であり,食道に浸潤した進行噴門癌にはNo.110,111を含むR2+No.16郭清を行うべきである.

大動脈周囲リンパ節郭清の手技と臨床的意義

著者: 米村豊 ,   宮崎逸夫

ページ範囲:P.777 - P.784

 胃癌大動脈周囲リンパ節(No⑯)有転移36例を中心に,No⑯の郭清の手技・臨床的意義について検討した.No⑯郭清を行った症例でNo⑯に転移をみた症例の5生率は16%(5生例4例)であり,No⑯郭清は郭清効果ありと考えられた.No⑯郭清の適応となる症例は進行胃癌で第2,第3群リンパ節転移を有する例,およびC領域でNo②に転移のある例と考えられた.No⑯の郭清範囲は胃中・下部・全体癌では重点的郭清は不可能で,大動脈裂孔から下腸間膜動脈根部付近までの大動脈周辺リンパ節すべてを郭清すべきである.胃上部癌では特にNo⑯左側を中心とした郭清が重要である.また胃上部癌ではNo(8p),胃中・下部・全体癌ではNo⑫⑬⑭(8p)に対する重点的R3手術を併施しなければならない.

スキルス胃癌の集学的治療

著者: 古河洋 ,   平塚正弘 ,   岩永剛 ,   今岡真義 ,   福田一郎 ,   石川治 ,   甲利幸 ,   佐々木洋 ,   大東弘明 ,   亀山雅男 ,   柴田高 ,   小山博記

ページ範囲:P.785 - P.790

 Borrmann4型胃癌(B−4癌)に対する治療成績はこれまでほとんど改善されたことがなかった.B−4癌は単に進んだ癌ではなく,独特の性格をもった治療困難な進行癌である.われわれは,B−4癌の特徴から考えた新しい集学的治療法—拡大根治手術(左上腹内臓全摘+Appleby手術)+免疫ホルモン化学療法—を最近施行し,stage Ⅱ-Ⅲにおいて3生率でよい成績をおさめている.拡大手術(LUAE+Apl)を施行するにあたっては適応例を選ぶことや,術前血管造影をすることなどの注意が必要である.今後さらにB−4癌の治療成績を向上させるためには,stage Ⅳに対する手術を縮小して,むしろ有効な併用療法を開発施行することが大切であると考える.

胃癌の制癌剤感受性に関与する因子

著者: 前原喜彦 ,   坂口善久 ,   楠本哲也 ,   穴井秀明 ,   鴻江俊治 ,   楠本宏記 ,   是永大輔 ,   岡村健 ,   杉町圭蔵

ページ範囲:P.791 - P.796

 制癌剤感受性試験:SDI法とSRC法による感受性結果から,胃癌組織の制癌剤感受性に関与した因子について解析した.他臓器の腫瘍(大腸癌,悪性リンパ腫)との比較により,腫瘍原発臓器の違いによる感受性の差異,原発巣,転移巣の間の感受性の差異が明らかとなり,disease-orientedなregimenの検索の必要性が示された.また,低分化癌,DNA aneuploid type, DNA合成系酵素が高い胃癌組織は感受性が高く,いわゆる予後の悪い症例にこそ積極的に化学療法を行うことが重要であると考えられた.

胃癌肝転移の切除および動注療法の効果

著者: 北村正次 ,   荒井邦佳 ,   吉川時弘 ,   神前五郎

ページ範囲:P.797 - P.804

 胃癌1,880例のうち手術時肝転移が認められたⅢ例(5.9%)を対象として,肝切除および動注療法の成績とその意義について検討した.
 肝切除はH18例,H21例の計9例に行われたが,2年以上の生存例を認めなかった.再発形式は6例が肝再発であり,H1といえども転移巣は潜在的に多発性であることを示しており,術中エコーによる小病巣探査が重要と考えられた.胃切除・動注(+)群の予後は胃切除・動注(−)群よりやや良好であった.また胃非切除・動注(+)群の予後は胃非切除・動注(−)群より有意に良好であった(P<0.01).したがって胃癌肝転移の治療法としては,胃原発巣には根治的切除を可及的に行い,特にH1に対しては肝切除を行い,同時に肝動脈にカテーテルを挿入しAngiotensin IIあるいはDSM等を併用するなど,効果増強を目的とした投与方法の工夫が必要と考えられた.

漿膜露出胃癌のip-two route chemotherapy

著者: 高尾尊身 ,   徳重正弘 ,   帆北修一 ,   前之原茂穂 ,   愛甲孝 ,   島津久明

ページ範囲:P.805 - P.810

 漿膜露出胃癌の治療成績向上のためには,腹膜播種の予防と治療に関する対策の確立が急務である.本稿では,この目的に対して現在著者らが実施しているCDDPの腹腔内投与とその拮抗剤sodiumthiosulfateの全身投与によるip-two route chemotherapy(ip-TRC)の理論,方法,現在までに得られている成績,問題点などについて述べた.その正当な評価のためには,さらに今後の検討が必要であるが,1つの有効な治療法として位置づけされるものと期待される.そのほか,同時に検討を行っているEtoposide,THP-ADM,CDDPの3剤による腹腔内多剤併用療法(ip-ETP)についても紹介した.

再発胃がんの治療

著者: 新本稔 ,   和田務 ,   河野和明 ,   向田秀則 ,   佐伯和利 ,   戸井雅和 ,   佐伯俊昭 ,   平井敏弘 ,   服部孝雄

ページ範囲:P.811 - P.815

 再発胃がんの治療として再手術の適応となるものは,主に残胃再発,吻合部再発や,イレウスによるものなどである.再発形式としては腹膜再発が多く,そのような症例においては化学療法が対象となる.あらゆる再発形式に対して制がん剤の全身投与が行われるが,肝転移症例には肝動注が,また腹膜播種例には大動脈亜選択的動注も試みられている.腹水を伴うような症例ではOK-432などのbiologi-cal response modifiersの腹腔内投与も併用する集学的治療が行われている.さらに,開腹時採取された腫瘍より制がん剤感受性試験を施行し,感受性陽性薬剤を使用することも試みられていることについて述べた.

カラーグラフ Practice of Endoscopy 食道内視鏡シリーズ・Ⅸ

内視鏡超音波検査—リニア型(その1)

著者: 神津照雄

ページ範囲:P.736 - P.739

Ⅰ.基本的事項
 超音波内視鏡が臨床の場に登場してから8〜9年が経過した.当初からの超音波内視鏡の狙いは図1に示すような発想からであった.すなわち洞窟の中に入り,壁の向こうには何が存在しているのか,どういう性状をしているのか,そしてどこの部分の壁を掘ればその目的物に到達できるのかがわれわれの最も知りたい事項であり,開発,改良を重ね現時点に至った.
 本稿ではリニア型超音波内視鏡による食道疾患について述べる.機種としては周波数7.5MHz,EPE703-FL,東芝SSA-100Aを日常使用している.

座談会

専門医制度と外科学会

著者: 武藤輝一 ,   島津久明 ,   小山研二 ,   出月康夫 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.816 - P.822

 阿部(司会) さる4月の外科学会総会(1988年)で武藤先生が"日本外科学会のこれから"というパネルディスカッションを組まれて話題を呼びました.そこでまず武藤先生に,認定医・指導医制度の概略とこれからの見通しといったあたりからお願いします.

研修医セミナー 一般外科手術記録の書き方

Lesson8 胃全摘術(Total Gastrectomy)

著者: 小越章平

ページ範囲:P.823 - P.830

Ⅰ.記載のポイント
 1.麻酔。 2.皮膚切開。 3.開腹時所見。 4.癌主病巣ならびにリンパ腺転移,他臓器浸潤・転移,腹膜播種など。 5.胃全摘出術.再建方法。 6.ドレーン,閉腹。 7.患者の状態,結び。

一般外科医のための形成外科手技・6

瘢痕の治療

著者: 鳥居修平

ページ範囲:P.831 - P.837

はじめに
 組織に損傷が加われば必ず瘢痕を残して治癒する.その瘢痕にもほとんど目立たないものから,整容上問題となる程度の瘢痕,かゆみとか拘縮などの機能障害を伴う瘢痕,腫瘍のように増大してくる瘢痕(いわゆるケロイド)などさまざまである.またそれは時間の経過とともに変化する.したがって,外科医にとって瘢痕の自然経過および治療について理解しておくことは重要である.本稿では瘢痕の治療について述べる.

表紙の心・18

パリの新医学部館のレリーフ「王の手」療法

著者: 大村敏郎

ページ範囲:P.838 - P.838

 パリには医学部が10ある.市中の大病院で10の病院群を作り,それぞれに基礎の講堂や実習施設を作って分割したものであるが,元は1つの学部であった.
 臨床教育の方は市中の病院が主体だった.特にアンテルヌ(interne)制度は選抜試験に合格した優秀な学生が学生時代から病棟配属になって専門医への道を歩みはじめ,将来の指導的な地位をめざすというエリート育成の教育システムだった.

臨床研究

80歳以上の高齢者消化器手術例の検討

著者: 金子徹也 ,   西村興亜 ,   貝原信明 ,   古賀成昌

ページ範囲:P.839 - P.843

はじめに
 近年,術前術後管理の進歩とともに手術適応が拡大され,消化器手術例中,80歳以上の高齢者の占める割合は年々増加傾向にあるが,高齢者では加齢に伴う生理的老化,病的老化や生体反応の低下,併存病変もあり,術後合併症の発生頻度が高く,一旦陥ると重篤化しやすい.
 今回,われわれは教室の最近5年間の80歳以上の高齢者消化器手術例につきその術前所見と手術,ならびに術後経過を検討した.

臨床報告

孤立性内腸骨動脈瘤破裂例の1治験例

著者: 村岡幸彦 ,   岩井武尚 ,   井上芳徳 ,   木下晴之 ,   桜沢健一 ,   佐藤彰治 ,   遠藤光夫

ページ範囲:P.845 - P.847

はじめに
 内腸骨動脈瘤は,その解剖学的位置関係からとくに診断がつきにくく,かつ骨盤内で拡大していくために周囲臓器に対する圧迫,癒着などにより多彩な臨床症状を呈することが知られている.腹部大動脈瘤と併存したり孤立性に存在することが知られているが,ともに破裂して初めて診断がつくことも稀ではない.
 今回われわれは孤立性内腸骨動脈瘤の破裂例を経験したので考察を加えて報告する.

乳腺アポクリン癌の1例

著者: 桑名三徳 ,   宇都宮俊介 ,   泉喜策 ,   氏原一 ,   宮崎純一

ページ範囲:P.849 - P.852

はじめに
 乳腺のアポクリン癌は,アポクリン化生を示す癌細胞が優位を占める乳癌で,汗腺癌とも呼ばれ,比較的稀な疾患である10).今回,われわれは83歳女性のアポクリン癌症例を経験したので報告する.

食道癌術後に発生した良性気管支狭窄の1例

著者: 八柳英治 ,   横山康弘 ,   平田哲 ,   植田守 ,   久保良彦 ,   村岡俊二

ページ範囲:P.853 - P.856

はじめに
 近年,食道癌根治術の安全性は向上してきている.しかし,郭清の拡大と徹底化が唱えられ,さらに手術適応も拡大される傾向にあるため,合併症の種類と発生頻度が減少してきているとは決していえない.その中で気管気管支合併切除を伴わない食道癌術後の良性気道狭窄の報告例は極めて少ない.今回われわれは,術後右中間気管支幹に良性狭窄を来し,気管支形成術を必要とした症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

十二指腸水平脚に発生した原発性十二指腸癌の1例

著者: 紫藤和久 ,   篠田徳三 ,   佐野義明 ,   柿崎眞吾

ページ範囲:P.857 - P.860

はじめに
 原発性十二指腸癌は稀な疾患とされてきたが,近年内視鏡,低緊張性十二指腸造影などの普及により発見報告例が漸増している.今回われわれは十二指腸水平脚の原発性十二指腸癌を切除しえた1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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