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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科45巻11号

1990年10月発行

雑誌目次

特集 保存的治療の適応と限界—外科から,内科から 食道アカラシア

外科から

著者: 磯野可一 ,   碓井貞仁 ,   神津照雄

ページ範囲:P.1323 - P.1327

 食道アカラシアは「下部食道噴門部の弛緩不全による食物の通過障害や,食道の異常拡張などがみられる機能的疾患」1)で,食道全域にわたる神経・筋の機能異常,Auerbach神経叢の神経節細胞の変性あるいは消失がみられ,その成因,病態は複雑多岐にわたっている.発生頻度は10万人に1〜2人で,年齢層は若年者から高齢者におよび,男女比は女性に若干多い.
 臨床症状は嚥下障害,胸骨後部痛,圧迫感,嘔吐,逆流などで,しばしば冷水の過飲や過食などにより症状が誘発される.嚥下障害の程度は日によって異なり,普通食が摂取できる一方で,水も通らないことも起こりうる2).悪心を伴わずに嘔吐することが多く,吐物は通常,遊離塩酸を含まない.食道癌と異なり,栄養状態は通過障害があるにもかかわらず一般に良好であるが,病悩期間の長い例では体重減少,低栄養状態に陥る例もある.

内科から

著者: 杉村文昭 ,   松尾裕

ページ範囲:P.1328 - P.1331

 本症は,器質的にはなんらの狭窄原因がみられないのに,食道の正常な推進的蠕動運動と噴門の哆開現象の欠如により,食道下部から噴門部の頑固で持続的な機能的通過障害と口側食道の高度の拡張を来す,神経筋疾患の一種である.病理学的所見としては,Rakeによって初めて記載された下部食道筋層内Auerbach神経叢の神経節細胞の変性ないし消失が一般的に認められているが,それらがどうして起こるのかという病因の本質については,1672年Willisによって本疾患が最初に報告されて以来,今日なお不明である1〜3)
 男女比はほぼ同率であり,比較的若年者に多くみられ,徐々に発症し,経過は長い4).嚥下障害の程度が日によって異なり,液体より固型物のほうが通りやすい傾向があり,冷たいものより温かいもののほうが通りが良い.夜間就寝後に嘔吐が起こりやすい.胸骨後部痛もみられる.嚥下困難が長期間持続するにもかかわらず割合に栄養状態がよく,体重減少も軽いのが特徴的である2,5)

コメント

著者: 幕内博康 ,   三富利夫

ページ範囲:P.1331 - P.1333

 食道アカラシアは,中枢から末梢の壁在神経叢にいたる迷走神経の障害によって発生すると考えられている.このため,食道の運動機能のうえで最も重要な,蠕動運動と下部食道括約帯の嚥下性弛緩が障害され,嚥下障害が出現する.食道アカラシアの治療としては,保存的治療と手術的治療に大別され,保存的治療としては薬物療法と拡張術がある,良性疾患であるから保存的治療を原則とすべきであるが,それにも限界があり,どうしても手術の適応としなければならない症例もある.臨床経過,臨床所見,検査所見からみた保存的治療の適応を述べ,保存的治療の合併症とqualityof life,長期予後,さらには保存的治療の限界について言及したい.

逆流性食道炎

外科から

著者: 遠藤光夫

ページ範囲:P.1335 - P.1339

 逆流性食道炎は,胃食道逆流によって起こるとされ,正常の下部食道から噴門にかけてみられる生理的逆流防止機構の低下と関係が深い疾患である.
 従来より本疾患は,欧米諸国に比べ,東洋人や黒人には少ないとされ,わが国でも,これまでそれほど多い疾患ではなかった.かつて狭窄を生じたもので,食道癌の鑑別疾患として考えられる程度にすぎないこともあった.しかし,日本人の高齢化と,食生活の欧米化とで,最近,わが国でも本疾患が増えてきて,その対策についても関心がもたれるようになった.

内科から

著者: 関口利和 ,   堀越勤 ,   茂木文孝

ページ範囲:P.1340 - P.1343

 わが国でも,1980年代に入ってからヒスタミンH2受容体拮抗剤が消化性潰瘍に汎用され,逆流性食道炎に対しても使用されるようになった.それまでの本疾患の保存的治療は,制酸剤と消化管運動改善剤(beth-anechol,metclopramideなど)との併用が主流であったが,臨床効果は思わしくなかった.
 1976年にcimetidineが発売され,H2受容体拮抗剤の第1号として,急速に世界中に広まった.逆流性食道炎に対する治療成績も,Behar1)やWesdorp2)らによって良好な成績が報告されている.以後,ranitidineについても,famotidine, roxatidine, nizatidineについても,逆流性食道炎に対する短期治療は,症状の速やかな消失と内視鏡所見の顕著な改善を認め,その有用性は実証されている.

コメント

著者: 森昌造

ページ範囲:P.1343 - P.1344

 逆流性食道炎は,欧米においては頻度が高いので,臨床的,基礎的報告が多い.食道疾患についての成書をみても,Reflux Esophagitis, GastroesophagealReflux(GER),Hiatal Herniaに関する記述の占める割合が多く,海外での学会の食道に関する演題数の比率に関しても同様である.これに反し,わが国では,食道疾患といえば食道癌がまず頭に浮かぶように,食道癌に関する論文は非常に多いものの,逆流性食道炎に関するものは比較的少なく,一般的なレベルとしては欧米に数段遅れをとっているのが現状であろう.しかし,高齢化社会を迎え,また食生活の欧米化,肥満傾向などのためもあって,最近わが国でも本疾患が増加しつつあり,本症に対する関心も高まってきている.また,食道内圧検査,24時間食道内pH検査,内視鏡検査などの進歩と,優れた薬剤の開発により,最近,本症に関する診断と治療は急速に進歩しつつある.
 今回は,逆流性食道炎の保存的治療の適応と限界について,内科側からは関口先生が,外科側からは遠藤先生が,それぞれの立場から考えを述べておられる.多数の経験をもつ両先生の論文を読んで感じることは,この問題に関しては内科と外科とでの際立った対立的な意見はみられないということである.経験の少ない筆者としては,勿論,本疾患の治療に対して独自の見解をもっているわけではないが,2,3感じたことを述べて責を果たしたい.

食道・胃静脈瘤

外科から

著者: 小林迪夫 ,   御手洗義信 ,   吉田隆典

ページ範囲:P.1345 - P.1348

 食道静脈瘤はその基礎に肝障害を有するため,いったん出血すると止血に難渋し,肝不全に移行する危険も大であるので,その予後はきわめて不良といえる.最も確実な止血法は手術療法であろうが,出血時の緊急手術は患者リスクの面で危険が大きく,できるだけ保存的に処理し,止血後,待期的に手術を行う心構えが,外科としての治療の原則であろう.
 今回は,門脈圧亢進症研究会によって行われたさまざまな角度からの全国集計成績や,文献的考察などをもとに,緊急出血例,待期・予防例に分けて各種保存的治療と手術療法とを対比し,内視鏡的硬化療法(以下,硬化療法)を中心とする保存的止血法の適応と限界,さらには,外科治療を含めた集学的治療について考えてみたい.

内科から

著者: 谷川久一 ,   井上林太郎 ,   豊永純

ページ範囲:P.1349 - P.1353

 食道静脈瘤に対する内視鏡的硬化療法(EndoscopicInjection Sclerotherapy;以下EIS)の歴史は古く,1939年のCrafoord1)の報告まで遡る.わが国では1978年,高瀬ら2)により開始されたが,その間,各施設で手技,使用薬剤に多少の差異はあるが,静脈瘤に対する1つの治療法として確実に発展し,一応完成の域に達した.
 EIS導入の当初は,まだ外科療法が主流であり,緊急例,手術不能例,手術拒否例など手術に代わる次善の策として考えられていた.しかし,EIS手技の確立とともに内視鏡機器の進歩と普及,硬化剤研究の進歩により,緊急例に対しては既に第一選択の治療法となり,その適応は予防例にまで拡大され,食道静脈瘤硬化療法研究会の全国アンケート調査でもEIS施行例の45%を予防例が占めるにいたっている3)
 しかし,食道・胃静脈瘤は肝硬変症に合併する副病変であるための治療限界があり,また種々の未解決の問題をかかえているのも事実である4).本稿では,教室の成績を中心にEISの問題点を明らかにし,緊急例,待期例,予防例別にその適応と限界について述べる.

コメント

著者: 出月康夫

ページ範囲:P.1354 - P.1355

 食道・胃静脈瘤の治療は今世紀に入って始められたが,幾多の変遷を経て今日にいたっている.すなわち,1920〜1940年代までの初期の直達手術,内視鏡的硬化療法,1945〜1960年代までの門脈減圧手術,1960年代後半から今日までの直達手術と選択的シャント手術,さらに1970年代からの硬化療法の再登場と大きな変遷がある.とくに1980年代に入ると,内科医,内視鏡医の積極的参加によって内視鏡的硬化療法の普及はめざましく,これによって,食道・胃静脈瘤治療の動向は再び大きく変わることとなった,硬化療法が本格的に再登場して10余年を経て,これに対する評価,適応と限界も次第に明らかになりつつある,
 今回,外科医の側と内科医の側から硬化療法を中心とする保存的治療の適応と限界について,それぞれの立場から現時点における考え方が示されたが,多少のニュアンスの差はあるが一致する点も多く,それほど大きな隔りはないように感じられた.

食道表在癌

外科から

著者: 鍋谷欣市 ,   加来朝王 ,   小野沢君夫

ページ範囲:P.1357 - P.1360

 食道癌の治療は,主として外科的切除が第一選択とされている.その治療成績は,手術手技の向上,術前術後管理の進歩,さらに放射線・化学療法など集学的治療の併用によって徐々に向上しつつある.長期生存例の増加には早期食道癌の発見が関与し,さらに治療成績を向上させるためには,外科的治療,保存的治療を問わず食道癌の早期発見が最大の課題である.
 さて,食道癌の保存的治療は癌進行度と全身状態によって選択される場合が多く,一般には,進行癌で根治性が低い症例に対して,quality of lifeの面から症状の改善と延命を期待して行われることが多い.

内科から

著者: 小黒八七郎

ページ範囲:P.1360 - P.1364

 食道癌の内視鏡的治療は,高度進行食道癌による狭窄解除の対症的治療と食道表在癌(superficial eso-phageal carcinoma;以下SECと略す)の内視鏡的根治的治療とに分けられ,後者にはレーザー照射が主として行われている.
 SECでリンパ節転移があるものの予後は不良であるため,早期食道癌の定義1)にはリンパ節転移のあるものは除外されている,SECを内視鏡的に根治的に治療するためには,その詳細な深達度とリンパ節転移の有無の適応の診断が前提となる.

コメント

著者: 掛川暉夫

ページ範囲:P.1364 - P.1365

 食道癌は,他の消化管癌と同様に治療の原則は外科的切除である.しかし,本疾患の外科的治療は生体に多大な侵襲をもたらし,術後も非生理的な状態におかれることとなるため,種々の問題が多い疾患の1つである.そこで,保存的治療により治癒せしめることが可能となれば,このうえないことである.通常,保存的治療の対象となる食道癌は,きわめて早期の癌腫か,もしくは外科的治療に耐えられない症例のいずれかということになる.後者はquality of lifeを考慮した状態で,いかに延命効果を得るかということが主体であり,今回の“保存的治療の適応と限界”というテーマが意図するものからはずれるが,それでは前者に対しては保存的治療によりどの程度の治癒が期待されるのかということが問題となる.
 早期の癌種とは,通常,粘膜下層までにとどまる癌腫をいうが,食道癌においては,この深達度のみにより早期癌とすることには問題があり,これにリンパ節転移の有無を加味して判定するように規定されている.つまり,食道癌取扱い規約によると,粘膜下層までにとどまる癌腫を表在癌とし,この表在癌の中でリンパ節転移のないものをstage 0癌(早期癌)と規定している.

胃・十二指腸

外科から

著者: 長町幸雄

ページ範囲:P.1367 - P.1372

 消化性潰瘍の治療に占める外科治療の割合は減少の一途をたどっている,H2受容体拮抗剤(H2拮抗剤)や胃粘膜防御因子増強剤の出現により,潰瘍の保存的治療の成績が従来に比べて飛躍的に向上した結果と考えられる.保存的治療の患者数が増加した理由を外科側からみると,相対的手術適応例を薬物治療で激減させたためであり,穿孔,出血,幽門狭窄などの絶対的手術適応例が減ったわけではない1).むしろH2拮抗剤の出現により,その適切な維持治療法を誤まると消化性潰瘍の手術例が増加する可能性もある.潰瘍の外科治療の適応と選択は,従来の常識から律しきれない新時代に入ったといえる.教室の消化性潰瘍に対する治療方針は,穿孔例および止血困難な動脈性出血例以外は保存的治療を行っており,再発をくり返す難治性潰瘍で社会的適応と考えられる特殊例しか手術を行っていない.
 本稿では,これらの最近の消化性潰瘍の保存的治療の経験をもとに,保存的治療の適応と限界を考えてみる.

内科から

著者: 武藤信美 ,   椎名泰文 ,   谷礼夫 ,   三輪剛

ページ範囲:P.1372 - P.1377

 胃・十二指腸潰瘍の基本的な治療は,薬物療法を中心とした保存的治療とされている,従来,穿孔,大量出血,狭窄,難治性などの合併症を伴う場合,外科的治療の適応とされていたが,最近これら合併症に対する保存的治療の適応と限界は変わりつつある.特筆すべきは,H2受容体拮抗剤などの強力な酸分泌抑制剤の登場や,内視鏡的治療の進歩などにより,大量出血例でも保存的治療が可能になってきたことである1).本稿では,これらを中心として概説する.

コメント

著者: 武藤輝一

ページ範囲:P.1378 - P.1379

 胃・十二指腸潰瘍の臨床,研究の両面においてたゆまぬ努力を続けておられる三輪 剛教授御一門の武藤信美氏による原稿と,外科医として胃・十二指腸潰瘍の臨床,研究を生涯の努力目標の柱として10年間で1,000例を越える患者さんに接してこられた長町幸雄教授の原稿を拝読させていただくことができた.私のごときものにお二人のお考えに対し批判を加える資格はないが,外科教室入局以来満35年,胃・十二指腸潰瘍の臨床,研究に興味を持ち続けてきた一外科医の感想として,私なりの考えを申し上げたい.

早期胃癌

外科から

著者: 比企能樹 ,   嶋尾仁 ,   小林伸行 ,   三重野寛喜 ,   榊原譲

ページ範囲:P.1381 - P.1384

 早期胃癌の外科的手術成績は,例外なく良好であり,いずれの施設で行われた場合でも普遍的に満足すべき結果が得られるようになった.したがって,これ以上の成績を上げるために他の方法を考える必要はないのではないか?との考え方も当然存在する.と同時に,さらに考え方を発展させるならば,これだけ優秀な成績が得られる要因はなにか?を考えてみる必要がある,早期胃癌の場合には,リンパ管侵襲,脈管侵襲の点において,癌の非再発要因のうえで有利な条件があることがあげられる.とすると,早期胃癌の外科的治療に必ずしも,広範なリンパ節郭清を伴う胃切除術を行う必要があるであろうかという問題提起がなされることは当然である.
 この考え方をもとに,外科的な治療法として,早期胃癌の縮小手術1)が行われるようになった.これをつきつめていくならば,すなわち,胃癌の局所切除の考え方が成り立つことになる.

内科から

著者: 大柴三郎 ,   平田一郎

ページ範囲:P.1384 - P.1388

 消化器癌の治療は早期発見,早期手術につきる.このことは早期胃癌に関しても例外ではない.しかし近年,X線,内視鏡など胃癌診断学の目覚ましい進歩により,径数mmという微小胃癌が稀ならず診断されるようになってきた.そこで,最近の早期胃癌治療に対する考え方は,病巣の性状に応じて術式のうえでは縮小手術が提唱され1),さらに保存的治療の可否をめぐるところまで進展してきている.早期胃癌の保存的治療に対し,最近多くの関心がもたれ,学会でもよく取り上げられるようになってきた.高齢化社会に伴う高齢者早期胃癌例の増加もこれに拍車をかけているように思われる.また,高齢者に限らず重篤合併症による手術不能例に対しては,このような保存的治療法の確立が切に望まれる.
 さらに前述したごとく,診断技術の向上による微小胃癌症例数増加の現況を考えると,“早期胃癌治療=外科切除”という原則論を再評価することはきわめて有意義なことと考えられる.実際このような観点から,早期胃癌の保存的治療に関する委員会が組織され,現在全国レベルでの検討が始められている.

コメント

著者: 高橋俊雄

ページ範囲:P.1388 - P.1390

 近年のわが国の早期・進行胃癌を含めた全胃癌の手術後5年生存率は70%以上という施設も少なくない.この世界に誇るべき成績をつくりだした最も大きな理由は,手術によってほぼ確実に根治できる早期胃癌の増加がまずあげられる.すなわち,早期胃癌=外科手術という図式がもたらした結果である.
 しかし,近年の内視鏡的治療の進歩は,この図式をあるいは変更するかも知れない勢いである.早期胃癌の内視鏡的治療が本当に外科治療に匹敵するだけの遠隔成績が得られるならば,患者にとってこれほどの大きな恩恵はない.しかし,外科治療を行えば根治できた早期胃癌を安易に内視鏡的治療を行ったために,患者を再発死に追いやるようなことは,決して許されるものではない.このような観点から,早期胃癌の内視鏡的治療の適応と限界については,内科側,外科側双方が十分納得できる規準が必要であろう.

癒着性イレウス

外科から

著者: 恩田昌彦

ページ範囲:P.1391 - P.1395

 癒着性イレウスの治療方針については,従来より,早期に外科的治療を行うべきであるとする考えと,なるべく保存的治療で非観血的にイレウスの解除を図ろうとする2つの考え方があったが,近年イレウスの病態生理が解明されるとともに,診断技術の急速な開発,さらには中心静脈栄養法をはじめとする全身管理の向上など治療法の長足の進歩発展に伴い,まず吸引減圧を中心とする保存的治療を試みることがより一般的になってきている1〜3)
 しかしながら,非観血的な保存的治療を行う場合になによりも大切なことは,緊急に外科的治療を必要とする絞扼性イレウスを見逃したり,イレウスが解除しないまま時間が経過して,あたら患者を危険な状態に陥らせることがないよう心がけることである.

内科から

著者: 細田四郎 ,   中條忍 ,   辻川知之

ページ範囲:P.1395 - P.1398

 癒着性イレウスは主に小腸・大腸の先天性癒着,炎症性癒着,手術後癒着などによって起こり,臨床上問題となるのはほとんどが開腹術後の癒着性イレウスである.これは機械的イレウスの発生原因の約6割を占めており,とくに成人の小腸機械的イレウスの大半を占めるといっても過言ではない.また,癒着性イレウスには単純性と絞扼性があり,それぞれの治療方針は大きく異なっている.癒着性絞扼性イレウスは緊急手術を要し,癒着性単純性イレウスは保存的治療の適応となりうるが,臨床上,単純性か絞扼性かの鑑別診断に苦慮することも少なくない.
 今日,IVHによる栄養管理や減圧チューブの改良に伴い,癒着による単純性イレウスの死亡率は減少し,また手術される症例も以前より少なくなりつつあるが,保存的治療が長期化する症例や,再発をくり返す症例では,その手術適応をいかに決定すべきかが新たな問題となっている,

コメント

著者: 島津久明

ページ範囲:P.1398 - P.1400

 一般に,機械的イレウスは単純性イレウスと絞扼性イレウスに大別される.癒着性イレウスの大多数は単純性イレウスであるが,一部に絞扼性のものも含まれる.本増刊号の主題は「保存的治療の適応と限界」であるが,癒着性イレウスの場合,適応に関しては,まず異論がない.すなわち,単純性癒着性イレウスであれば,全例にまず保存的治療を試みるのが原則であり,その成功率も高い.しかし一部には,これによってなかなか改善が得られないために,やむなく外科的治療が行われることもある.これに対して,絞扼性イレウスであることが強く疑われれば,早急に外科的治療を実施すべきであり,その遅れは高率に死の転帰に導く危険性を秘めている.そこで問題は,恩田・細田両教授が指摘されているように,まず第一に単純性イレウスと絞扼性イレウスの鑑別診断を的確に行うことである.第二には単純性イレウスであることが明らかになった場合に,保存的治療の限界をどのように判断し,どのような時点で外科的治療の実施を決定すべきかが重大な問題になる.さらに,再発性癒着性イレウスに対する手術適応の問題がある.以下に,これらの点について私見を混えて述べることにしたい.

Crohn病

外科から

著者: 馬塲正三

ページ範囲:P.1401 - P.1407

 Crohn病は今なお原因不明の炎症性腸疾患であり,成分栄養療法の導入によりかなり改善が認められるようになったものの,なお難治な疾患である.
 全身性疾患と考えられ,口腔より肛門にいたる全消化管をおかす疾患であり,その他にも各種の腸管外症状が知られている.

内科から

著者: 朝倉均 ,   滝沢英昭 ,   笹川哲哉

ページ範囲:P.1407 - P.1411

 Crohn病は昭和30〜40年代にはかなり珍しい疾患と思われていたが,昭和50年代から典型的なCrohn病が10〜20歳代にみられるようになり,特定疾患の医療費受給者が4,000〜5,000人に達している.
 本疾患は原因不明で,主として若い成人にみられ,線維化や潰瘍を伴う肉芽腫性炎症性病変からなり,口腔から肛門までの消化管のあらゆる部位に起こりうるが,主に回腸より大腸右半に多く,小腸大腸型44%,小腸型28%,大腸型28%で,アメリカでも本邦でも同様の傾向である1)

コメント

著者: 土屋周二 ,   福島恒男

ページ範囲:P.1411 - P.1413

 すでに内科と外科の権威がそれぞれの立場から保存的治療の適応と限界について述べておられるように,Crohn病は,現在では保存的治療でも,外科的治療でも完全治癒を期待することはできない.
 個々のCrohn病患者に対して最善の治療効果を与えるためには,内科医と外科医が協力し合い,治療計画を立てて,さらに新たい治療方法を考えていかなければならない.

潰瘍性大腸炎

外科から

著者: 武藤徹一郎 ,   斉藤幸夫 ,   鈴木公孝 ,   沢田俊夫 ,   永井秀雄

ページ範囲:P.1415 - P.1420

 潰瘍性大腸炎の外科的治療のタイミングが本邦でまじめに論じられるようになったのは,1980年代になってからであり1,2),それ以前は,内科的治療でお手上げとなった症例に,外科的治療が最後の手段として選ばれるという傾向が強かった.本症は,内科と外科の専門家が協力して治療にあたるべきであり,保存的療法の限界も,両者が合議のうえで決めるのが妥当と思われる.
 本稿では,外科の立場から,本症の保存的治療の限界についてのわれわれの考え方を述べたい.

内科から

著者: 井上幹夫

ページ範囲:P.1420 - P.1423

 潰瘍性大腸炎(UC)の治療では内科的治療が中心に行われるが,患者の救命や社会生活の確保,長期予後の面から外科手術を必要とするものが少なくない.厚生省特定疾患研究班における16施設の集計1)では,1975〜1986年の手術例は241例で,このうち152例における手術理由は,重症(29%),およびこれに中毒性大腸拡張症(5.3%),穿孔(4.6%)などの合併を起こしたものが合計39.4%,主とたて難治によるものが56.5%,癌化およびdysplasiaによるものが3.9%である.これは,UCに対する外科適応の現状を示すものであろう.また,この集計では,外科手術を受けたものの大部分の97%が全大腸炎型であったこと,および,手術例の約25%が発病後1年以内,27%が1〜3年の患者で,手術は比較的早期のものが多いことが示された.
 UCは大腸の疾患であるので大腸全摘を行えば根治する疾患であるが,従来の大腸全摘・回腸瘻造設術では永久的人工肛門が残るだけでなく,種々の術後障害を伴いやすく,このことが外科手術をためらう大きな原因であった.しかし,最近多く行われるようになった回腸肛門吻合術では自然肛門機能が残存し,かなり良好なquality of lifeが得られており,この点では手術の決定が比較的容易に行われるようになった.

コメント

著者: 白鳥常男

ページ範囲:P.1423 - P.1425

 このテーマについては,長い間,内科と外科の間で論議されてきたが,保存的治療の適応の限界について合意ができても,実際には必ずしも外科側の納得のいくものではなかったように思われる.それには,それなりの理由ともいうべき難しい問題が存在しているものと思われる.内科治療も進歩し,外科治療にも安全性とQOLの確保がみられるようになった現在,この問題を取り上げる意義は大きいものと思われる.

消化管ポリープ・ポリポーシス

外科から

著者: 吉雄敏文

ページ範囲:P.1427 - P.1430

 ポリープという名称は,上皮成分からなる肉眼的な限局性粘膜隆起として,非上皮性のものを含まないという定義もあるが,臨床家にとっては,肉眼的にそれを見分ける手段をもたない以上,粘膜から限局性に隆起した病変をあらわす臨床的な名称という立場をとりたい.隆起の原因が粘膜上皮の増殖によるものであれ,粘膜下腫瘍によるものであれ,周囲の平坦な粘膜から隆起しているものはすべて臨床的にポリープと総称されるものとして,以下の記述をすすめる.
 ポリープの治療方針の決定は,その組織学的な検索を待たなければ行うことができない.生検診断によってはじめて治療方針が決定できる.ポリープ病変の中でも部位によって組織像は均一ではなく,種々の組織像の混在が考えられる.従来のbite biopsyに代わって,なるべくポリープ病変全体を摘除(ポリペクトミー)たて,病変全体の組織学的検索を行うというのが最近の基本的な考え方であろう.

内科から

著者: 丸山雅一

ページ範囲:P.1431 - P.1436

 本稿では,「保存的治療」を内視鏡的治療と解釈し,その適応と限界について筆者の考えを述べる.また,消化管の範囲は,胃と大腸に限定する.

コメント

著者: 宇都宮譲二

ページ範囲:P.1437 - P.1439

 この問題について,丸山雅一氏は内視鏡医の立場から,吉雄敏文氏は外科医の立場から,それぞれまことに適切なる考察を最も新しい情報に基づいて余すところなく示されているので,私がこれに意見を加える余地はほとんどないと思われるが,立場上いくつかの点について思いつくままに私見を述べる.
 消化管ポリープの概念:消化管病変としてのポリープの定義は,かつてはそれを取り扱う人の立場,例えば臨床家と病理学者により多様であり,長く混乱が続いたために,ポリープの癌化という命題を必要以上に複雑にしてきた.しかし,研究の進歩とともに認識が深まり次第に統一した見解に達しつつあるが,なお多少不統一の部分を残している.大腸ポリープの定義は「肉眼的粘膜の限局性隆起の総称」という日本大腸癌研究会の提案はMorsonらの欧米の考えを踏襲するものであるが,それ以前に,胃ポリープは「粘膜上皮の異常増生に基づく胃内腔への突出」と第53回日本消化器病学会総会により提案されている.これによると非上皮性腫瘍,粘膜下腫瘍は除外されており,同じ消化管でありながら定義にこのような食い違いがあることは,学徒に混乱を与えていることは否定しえない.後者は内視鏡学の発達期における勢いを感ずるが,勇み足の感がある.

痔核・痔出血

外科から

著者: 高野正博

ページ範囲:P.1441 - P.1446

 生来痔核を生じる傾向がある人は,青年期〜壮年期にかけて,外的要因が加わるにつれて痔核が増大し,脱出傾向が出てくるとともに症状を伴うようになる.
 従来から痔核の治療方針としては,Ⅰ度—保存療法,Ⅱ度—外来処置,Ⅲ〜Ⅳ度—手術療法と分けられている.これは現実に則した分類であるといえる.しかし痔核の場合は,肛門の衛生によって症状をコントロールできる,保存療法がかなり効を奏する,度数が進んでも症状がそれほど強くならない症例も少なくない,癌化の可能性がない,などの理由から,その治療は患者の希望にそって行われることが多く,この点で他の疾患とは治療の適応が異なっている.この論文では,このような問題を中心に,痔核の発生と経過,保存療法・外来処置,保存療法の限界などについて述べていく.

コメント

著者: 隅越幸男

ページ範囲:P.1446 - P.1448

 痔核は日常数多くみられる疾患であるが,直接生命にかかわる心配がないため,軽く考えられがちで,患者も肛門からの出血,疼痛,腫脹,脱出などの症状があれば,まず市販の坐薬や軟膏を使用して,その場をすごしているのが実状である.
 痔核の治療はまず痔核の本態を知り,長い間にどのような変化をして進行するかを正しく認識することが必要である.

肝嚢胞

外科から

著者: 内野純一 ,   佐藤直樹

ページ範囲:P.1449 - P.1454

 各種画像検査の急速な進歩と普及により,肝内の小さい腫瘍性病変が鮮明に描出できるようになった.
 充実性腫瘤は,発見後,肝癌,血管腫などとの鑑別を要するが,嚢胞性腫瘤ではその明瞭な画像から良性の先天性嚢胞と診断できるので,さらに検査を追加することは少ない.しかし,この嚢胞がその後どの程度まで増大し,いつ何を契機として臨床上問題となってくるのかは,必ずしも明確にされていない.
 肝嚢胞の分類には,発生原因に基づくもの(Sonn-tag, Henson1),Debakeyら),病理形態学的に分けたもの(Jonesら2))などがあるが,本稿では寄生虫性肝嚢胞と非寄生虫性肝嚢胞の2つに大別して,それぞれの保存的療法の適応と限界を述べる.

内科から

著者: 斎藤昌三 ,   山口嘉和

ページ範囲:P.1454 - P.1457

 肝嚢胞は,超音波によるスクリーニング検査で発見される頻度は0.35〜1.26%であり,そのうち多発性肝嚢胞の占める割合は55.6〜75.9%である1).小さな嚢胞は無症状であり治療の必要はないが,腹部膨満などの症状が強い場合や他臓器の圧迫症状を伴う場合は治療が必要となる.
 従来,多くは外科的治療が行われてきた.また,侵襲の少ない方法として,超音波ガイド下または腹腔鏡下に穿刺排液する方法が行われ,臨床的に十分な緩解期間を期待できるという報告もある2).しかし,単なる穿刺排液のみでは,短期間内に嚢胞液の再貯留をみることが多く,十分な治療効果はみられないことが多い.Sainiら3)は,2年以内に100%の再発をみたと報告しており,われわれの経験でも,穿刺排液後2〜3ヵ月以内に嚢胞の再腫大による症状の再発をみることが多かった.

コメント

著者: 小山研二

ページ範囲:P.1458 - P.1459

 肝嚢胞の治療についての,外科の内野氏,内科の斎藤氏の論文を読ませていただき,筆者のこれまでの経験に基づいて,2,3の問題点を指摘したい.

原発性肝癌

外科から

著者: 滝吉郎 ,   山岡義生 ,   嶌原康行 ,   森敬一郎 ,   小澤和恵

ページ範囲:P.1461 - P.1464

 肝動脈塞栓術(TAE)や腫瘍内エタノール注入(PEIT)などの保存的療法の進歩により,肝癌の予後は著しく改善されてきたが,肝切除が肝癌治療の第一選択であることは論をまたない.われわれは,ミトコンドリア機能を中心とした肝予備力評価法と適切な術前術後管理を確立し,その結果手術適応が拡大し,従来では切除不能と思われた症例にも積極的に手術を行い,手術成績も向上してきた1〜4).最近5年間の肝癌肝切除症例290例の累積生存率は,1年76%,2年64%,3年55%,4年42%,5年34%である.
 しかし,このように積極的外科治療をめざしてきた当教室においても,種々の理由で手術を断念せざるをえない症例もあり,これには病状に応じた保存的療法を行っている.そこで,積極的外科治療を遂行してきた施設として,肝癌に対する保存的療法の効果と限界について検討を加えた.

内科から

著者: 塩山靖和 ,   佐藤守男 ,   野村尚三 ,   寺田正樹 ,   津田正洋 ,   山田龍作

ページ範囲:P.1464 - P.1467

 肝細胞癌に対する治療成績は,エコー,CTなどの画像診断の発達,外科的肝切除技術の進歩とTAEの普及1)が相まって,近年めざましく改善されてきているが,他の固形癌に比べてまだまだ不良である.本稿では,切除不能肝細胞癌を中心に,各種保存的治療の適応と限界について述べる.

コメント

著者: 山本正之 ,   菅原克彦

ページ範囲:P.1467 - P.1469

肝癌治療における“保存的”療法の意義
 臨床例における治療効果を論じる場合には対照症例群が必要である.肝癌でも,その自然史(natural his-tory)が最も基本的な対照群となりうる.しかし,肝癌治療のようにその診断,治療手段の両方で急速な進歩(図)を遂げつつある分野においては,natural history自体普遍性は少なく,historical controlのレベルにとどまることを念頭におかなければならない.とくに,肝臓外科医の立場から言えば,内科サイドの保存的(非切除的)治療成績の比較に使用される肝癌切除後治療成績が,外科医の自負する最も最新の外科治療成績に比して過去のものであるというジレンマは多い.その逆もまた然りであろう.
 早期発見により,肝切除を含む早期治療が原則であるには違いはないが,どの程度を早期とし,どの程度であれば肝切除が可能であるかを,共通の基盤で判定することは容易ではない.また,肝切除不能と判断して保存的治療を行うと規定しても,内科医のみでは不可能であろうし,外科医のみでも現時点では偏りが生じる.保存的治療とされている治療方法においても,interventional radiologyの応用によるTAE, BOAI,皮下埋め込みリザーバーを介した chemoemboliza-tionなどと経口的抗癌剤投与では生体侵襲度は大きく異なる.

転移性肝癌

外科から

著者: 岡本英三 ,   山中若樹

ページ範囲:P.1471 - P.1476

 転移性肝癌の治療に対して肝切除が一般的に行われるようになったのは20世紀後半で,それまでは消化器癌肝転移例のnatural historyはきわめて短いものであった.一昔前までは,肝転移があれば手術適応無しとさえ判断されていたほどである.しかし,肝転移の早期診断の進歩,肝切除術の安全性の向上に伴い切除療法が行われるようになった現在,とくに大腸癌孤立性肝転移に対し,切除と非切除の効果を radomizedprospective studyで比較することはもはや道義的に許されないほど切除予後がより良好であることは周知の事実である(図1)1,2).しかるに,最も切除適応の多い大腸癌をみても,その15〜30%は肝転移を来すものの,肝切除の適応となりうるのはわずかその約1/4にすぎず3),残りは本稿のテーマである保存的治療に頼らざるをえないのが現状である.これらのことを認識したうえで,非切除療法の適応,限界,現況について述べていく.

内科から

著者: 青山圭一 ,   佐々木博

ページ範囲:P.1476 - P.1481

 転移性肝癌の治療法においては,肝切除という外科的治療を選択するか,化学療法を中心とする保存的治療を選択するかが1つの問題点である.さらに,保存的治療を選択する場合においてはいかなる治療法を用いるか,およびterminal stageに近い症例に対しどこまで治療を行うべきかなどが問題点となる.
 本稿では,富山医科薬科大学開設以来の10年間の第3内科における転移性肝癌症例の治療の現状を示し,そのなかにおける著効例などを紹介する.次に,これらの症例に触れながら,文献的に近年における治療法の変化や傾向をふまえて,保存的治療の適応と限界について述べる.

コメント

著者: 水本龍二 ,   田矢功司

ページ範囲:P.1482 - P.1484

 岡本論文,青山論文から明らかなごとく,現時点における転移性肝癌の治療方針,とくに保存的治療の適応および限界に関しては,総論的には外科,内科の立場からのcontroversyはほとんどない.なぜなら,転移性肝癌に対して唯一治癒を期待できる治療法は手術療法(肝切除術)のみであり,保存的治療は延命効果は得られても治癒は期待できないという点で一致しているからである.したがって,今回のテーマである保存的治療の適応と限界に関しても,その裏に手術療法(肝切除術)の適応と限界という問題が密接に関与しているが,これらに関しても岡本,青山の意見はほぼ一致している.そこで,本コメントでは重複を避け,転移性肝癌に対する治療法の変遷と現状について文献的に考察する,

胆石症

外科から

著者: 松代隆 ,   徳村弘実

ページ範囲:P.1485 - P.1489

 最近まで開発された胆石症の治療法をみると,経口的胆石溶解療法に始まり,内視鏡的乳頭切開術による切石術(EST),術後胆道鏡検査による切石術(POC),経皮経肝性胆道鏡下切石術(PTCS-L),胆嚢結石症に対する経皮経肝性胆嚢鏡下切石術(PTCCS-L),さらには体外衝撃波破砕療法(ESWL)が登場するにいたり,胆石症の治療は切るか切らざるかの時代を過ぎ,これらの治療法をいかに適応するかの時代に入ったように思われる.多くの施設で,それぞれ独自の見解に基づいて治療を行っているのが現状であろう.
 筆者らは,これまで胆石症の外科治療に際しては,胆石の種類によりその成因がまったく異なることを念頭において治療方針をたてることが最も肝要であることを強調してきた1),すなわち,コレステロール胆石(コ石)と黒色石は胆嚢で生成されるので,胆嚢を摘出し,胆管内胆石を除去すれば,胆石再発の危険はまずない.これに反し,ビリルビン・カルシウム石(ビ石)では,胆石が生成される大きな原因である十二指腸乳頭炎(乳頭炎)に由来する胆汁うっ滞を除去しなければならない,このために,ときには単なる胆管ドレナージにとどまらず種々の付加手術が要求される.このことは,胆石症にいかなる治療法を選択するかを考える際にも最も重要なことと思われる.

内科から

著者: 岡田周市 ,   大藤正雄

ページ範囲:P.1489 - P.1493

 超音波をはじめとする画像診断の発達,集団検診や人間ドックの普及,さらには人口の高齢化などにより,近年,胆石症が増加している.また,体外衝撃波結石破砕療法や内視鏡的胆石除去術など,胆石症に対する保存的(非手術的)治療法の最近の進歩はめざましく,胆石症の治療に大きな変化をもたらしている.しかし,胆石症の病態は多様であり,個々の症例に対し手術療法を含めてどのような治療法を選択するかについて,十分に一致した見解が得られない場合がある.そこで,現時点における胆石症の保存的治療の適応と限界をさまざまな観点から検討し,明らかにするものである.

コメント

著者: 佐藤寿雄

ページ範囲:P.1494 - P.1495

 胆石症はわが国でも最近増加の傾向にある.東北大学病理部の調査によると,1958年から67年の,主に昭和30年代の10年間では,剖検例の胆石保有率は4.3%であったが,その後の1968年から77年では5.3%,さらに最近の10年間では実に7.7%と,20年前の約2倍に増加している.その中で,胆石症に対し種々の保存療法が開発されるにいたった.今や胆石症に対する保存療法は,各国でもトピックスの1つであるといってよい.今回は胆石症に対する保存療法の適応と限界について,内科側,外科側から,それぞれ見解が出されている.依頼に応じて双方の見解に対して考察を加えてみたい.

急性胆嚢炎

外科から

著者: 武藤良弘

ページ範囲:P.1497 - P.1500

 細菌性急性炎症を保存的に治療した場合,罹患臓器に急性炎症の後遺的変化を残すことなく治癒するのが一般的である.ところが,急性炎症の原因が機械的刺激や化学的刺激の場合は罹患臓器に後遺的変化を残し,臓器の変容を来して急性炎症は終焉することが多い.通常の急性胆嚢炎は原因がこの後者によるものであり,胆石嵌頓による胆嚢管閉塞という機械的刺激により急性炎症がもたらされるため,急性閉塞性胆嚢炎(acute obstructive cholecystitis)1)と呼ばれる.したがって,急性炎症の保存的治療では,その治癒成績を罹患臓器に後遺的変化を残すことなく健常に復する治療(完全治癒)と,後遺的変化を残したまま,急性炎症の症状や所見の鎮静化や正常化をはかる治療(不完全治癒)とに大別できよう.
 急性胆嚢炎の保存的治療は,罹患臓器の治癒という観点からみたら上述の不完全治癒に相当するが,ここでは急性胆嚢炎の保存的治療で急性炎症症状の消失と所見の正常化をもって臨床的治癒とみなすことにする.そして,保存的治療とは“解熱鎮痛剤+抗生剤±胆嚢ドレナージ”とし,外科的治療とは“胆嚢摘出術”とした.

内科から

著者: 千葉俊也 ,   松崎靖司 ,   田中直見 ,   大菅俊明

ページ範囲:P.1500 - P.1503

 近年,急性胆嚢炎の予後は著しく向上した.その要因として,診断技術および保存的治療の目覚ましい進歩があげられる.すなわち,診断技術面においては,直接胆道造影の経皮経肝胆道造影法(PTC)や内視鏡的膵胆管造影法(ERCP),超音波断層法(US),X線CTなどの新しい診断技術の導入・改善であり,治療面においては,超音波映像下経皮的胆嚢ドレナージ法(PTGBD)の普及および化学療法の発展である.
 しかしながら,急性胆嚢炎症例の90%以上は胆石を保有しており,最終的には外科的治療が要求されることが多く,またときに穿孔性胆汁性腹膜炎や急性閉塞性化膿性胆管炎などを生じ重篤になることも少なくない.そこで,その手術適応および手術時期の判定が非常に重要な問題となる,急性胆嚢炎患者は最初に内科を受診することが多いのが現状である.したがって,われわれ内科医にとって急性胆嚢炎に対する保存的治療の適応とその限界,手術時期の判定はきわめて重要なことと考えられる.

コメント

著者: 寺田正純 ,   土屋凉一

ページ範囲:P.1504 - P.1506

 急性胆嚢炎の治療方針に関しては,緊急的に胆嚢摘出を行うべきという意見と,内科的治療(輸液,抗菌剤,胆嚢ドレナージ)にて急性炎症期を回避し,待機手術にもっていくべきという意見に分かれている.それぞれ理由があるが,前者では急性期手術でも死亡率は低いこと,患者の入院期間,費用が少なくてすむことなどがあり,後者では患者の全身状態を改善せしめうること,技術的困難さや出血を伴う急性期の手術を避けうること,術前に胆道系および他臓器の十分な検索が行えることなどである.いずれにしろ,手術の必要性に関しては異論はなく,また両者間に手術成績の差はない.
 一方,近年の各種画像診断や胆道感染に有効な抗菌剤の発達により,急性胆嚢炎は内科的疾患として初期に発見され,早期に治療が開始されるようになったため,それ自体は恐ろしい疾患ではなくなった.しかし,症例によっては胆嚢周囲膿瘍,胆汁性腹膜炎,膵炎,肝膿瘍,敗血症などの合併症をひき起こし,高齢者やリスクの高い患者ではショック,DIC(汎発性血管内凝固症候群),MOF(多臓器不全)など重篤な病態へ移行する可能性があるので注意が必要である.千葉氏らの論文も武藤教授の論文も,このような臨床症状の推移やUS所見を重視し,胆嚢穿孔が示唆される症例では緊急手術の適応であるとした.

急性膵炎

外科から

著者: 松野正紀 ,   武田和憲

ページ範囲:P.1507 - P.1510

 急性膵炎は,絶食と点滴だけで治癒するごく軽症のものから多臓器障害や敗血症を合併し死亡率のきわめて高い重症型まで多岐にわたる.入院時は軽症と思われても,数日で病態が悪化し重症に移行することは日常の診療でしばしば経験することである.したがって,急性膵炎を治療する場合には,臨床症状,生化学的検査,画像診断の経時的変化に留意し,重症化の兆しが見えたら外科的治療も念頭に置かなければならない.

内科から

著者: 吉田憲司 ,   竹内正

ページ範囲:P.1510 - P.1514

 急性腹症の中でも急性膵炎は内科的な管理が重要な疾患の一つである.多くの急性腹症が緊急手術を要するのに対し,急性膵炎は多くの場合,内科的管理,治療が奏功する,ここではわれわれの経験した重症急性膵炎例をあげ,その内科的管理の重要性について述べてみたい.

コメント

著者: 宮崎逸夫

ページ範囲:P.1514 - P.1515

 所謂,急性腹症の多くは緊急な外科的治療の対象となる.ところが急性膵炎は急性腹症の1つとして扱われるが,必ずしも外科的治療の対象とはならず,まず保存的治療を行い,そのまま回復に向かうものが少なくない.したがって,急性腹症とはいえ,急性膵炎は病状経過中に保存的治療を続行するか,手術的治療に踏み切るのか迷うところである.
 急性膵炎の中に発病早期から,手術的治療の対象とすべき症例もあり,保存的治療の適応と限界を論ずるとき,手術的治療の適応という立場から考えた方が問題点をはっきりさせうると思われる.

慢性膵炎・膵嚢胞

外科から

著者: 鈴木敞 ,   村上卓夫 ,   浜中裕一郎 ,   岡正朗 ,   内山哲史 ,   川村明

ページ範囲:P.1517 - P.1522

 慢性膵炎は良性疾患であるので,まず内科医による治療が先んずるべきことに異論はない.また膵嚢胞も一部の腫瘍性のものを除けば,緊急事態に陥った場合は別として,早急なる手術を要することは比較的少ない.とはいうものの,病態によってはいずれも時宜を得た外科的療法に移行せねばならないタイミングがある.この手術に踏み切るのはいかなる時期であるかについては,内科側と外科側との間のみならず,外科医同士の中でも微妙な見解の相違がある.また手術適応ありと決まっても,ではどういう術式が最も望ましいのかとなると,これまた確たる鉄則が厳存するわけではない.
 企画の趣旨に従って,慢性膵炎を論ずるべく,保存的治療を中心にすえて外科の立場から上記周辺に可及的に迫ってみたいが,命題に呈示された「保存的治療の適応」なる概念は,悪性疾患に対してではなくてこの良性疾患に適用すべく,やや違和感がつきまとうのを禁じえない.特に良性疾患を長期間にわたって保存的に治療する機会に恵まれない外科医にとって,さらにまた「保存的治療の限界」なる語感も,引き続き「外科的治療の適応」へと煮詰めていった方が理解しやすいようにも感ぜられる.

内科から

著者: 川茂幸 ,   本間達二

ページ範囲:P.1522 - P.1528

慢性膵炎
 慢性膵炎は進行性の病気と考えられるが,現在ある障害に対する処置,将来起こりうる機能不全の予防の2点に関して,保存的治療か外科的治療か選択を迫られることになる.内科医の立場からはできる限り保存的治療を重視し,手術適応を厳格に考えたい.一般的に考えられている手術適応は表1のごとくである.各項目に関し自験例に即し検証する.また近年,内視鏡的治療法や超音波破砕法などが開発され,従来手術適応と考えられていた症例にも応用されるようになってきた.この面からも考察したい.

コメント

著者: 斎藤洋一 ,   竹山宜典

ページ範囲:P.1528 - P.1533

 慢性膵炎は,良性疾患とはいうものの膵の線維化を主体とした進行性の病変であり,その成因や発生機序も今なお不明な点が多く,またその治療成績も必ずしも良くない.本症の病態は複雑多彩であり,内科的あるいは外科的治療手段の選択に当たって必ずしも一律に論じられないところがある.
 ここでは自験例の概要を述べると共に,厚生省難治性膵疾患研究班による全国集計や研究治動の実績をふまえて,前二篇の論文に若干追加する.

特発性血小板減少性紫斑病

外科から

著者: 平出康隆 ,   二川俊二

ページ範囲:P.1535 - P.1538

 特発性血小板減少性紫斑病 idiopathic thrombocytopenic purpura(以下ITP)は,その病態として,自己免疫機序が想定されており,治療としては,副腎皮質ホルモンを中心とした薬物療法と脾摘術がある.ITPは,急性型と慢性型とでは年齢,経過,予後などに大きな差がみられ,急性型は,主として小児にみられ,自然治癒例が多く,一方慢性型では20歳台の女性に多くみられるが,寛解率が低く,再発再燃を繰り返すものが多い.本稿では,ITPの治療の主体である副腎皮質ホルモンを中心とした薬物療法から,脾摘の適応を考慮する際に,その効果,寛解率と共に問題となる手術合併症を中心に述べる.

内科から

著者: 柴田昭 ,   帯刀亘

ページ範囲:P.1538 - P.1542

 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は抗血小板自己抗体による血小板減少に基づいた出血を主要症状とする疾患である.この疾患における外科的治療(=摘脾)は副腎ステロイド療法に次ぐ第二選択の治療法であり,原則的にはその他の内科的治療に優先して選択されるため決してfinalな治療法ではない.

コメント

著者: 梅山馨

ページ範囲:P.1542 - P.1544

 ITPは急性型と慢性型があるが,主として問題になるのは慢性型のITPである.慢性型のITPは比較的若年女性に多く,発症より6ヵ月以上にわたり血小板減少が持続し,著明な出血傾向がみられ,内科的治療に難渋することも多い.
 今回,本誌の特集で内科側から柴田,帯刀および外科側から平出,二川らにより詳細に述べられているが,触れられていない点も含めて若干コメントしてみたい.

閉塞性脳血管疾患

外科から

著者: 吉本高志

ページ範囲:P.1545 - P.1548

 現在,閉塞性脳血管疾患に対する治療は内科的保存療法が一般的である.脳動脈の閉塞を除去する外科手術や,人工的に側副血行路を作成するバイパス術などの外科的治療は存在するが,一定の評価を得るには至っていない.
 保存療法の実際については省略するが,脳虚血により発現する神経細胞の障害壊死を最小限に止めること,それに引き続いて起こる脳浮腫および出血性梗塞などの病態を抑制し病巣の拡大を防ぐこと,積極的な全身管理により合併症を予防すること,再発の予防,などである.

内科から

著者: 岡田靖 ,   藤島正敏

ページ範囲:P.1548 - P.1552

 閉塞性脳血管疾患(脳動脈閉塞症)に関する二大手術として,頸動脈内膜剥離術(carotid endartere-ctomy;CEA)と頭蓋外—頭蓋内動脈吻合術(extra-cranial-intracranial bypass surgery:EC/IC)があげられる.これらは脳梗塞の予防的手術として定着していたが,後者は国際共同研究により,予防効果なしと報告され1),この発表を機に手術を控える風潮にある.一方,CEAについても現在までに全世界で100万例以上の手術が行われてきたが,当初の有効性の検討が不十分なため,現在,北米とヨーロッパでrandom-ized control studyによる見直しが行われている状況にある.本特集のテーマは保存的治療の適応と限界であるが,ここでは内科の立場から逆に脳動脈閉塞症における外科的治療の可能性について考えてみたい.

コメント

著者: 米川泰弘

ページ範囲:P.1552 - P.1555

 吉本および岡田らにより保存的治療の適応と限界について重要な指摘がなされた.吉本は1983年に報告された脳虚血症例のretrospective cooperative studyより中大脳動脈閉塞症例をpick upしてその予後を解析した.その結果,運動障害のgrade 2を可逆性の一応の目安とし,特にgrade 3から2への悪化時には急性期の可及的速やかな血行再建を提唱している.
 岡田らは急性期の血行再建術の問題点,危険性を指摘しつつも,確かに急性期の血栓溶解法による血流再開により良好な転帰をとった症例を提示している.また同じく急性期の虚血性脳浮腫ないしは出血性脳梗塞に対する保存的治療の限界を指摘し外科的減圧術の効果に言及している.また慢性期の血行再建術についても,

バセドウ病

外科から

著者: 菅谷昭 ,   増田裕行 ,   飯田太

ページ範囲:P.1557 - P.1560

 バセドウ病は,その病因として,現時点では自己免疫異常,すなわち,甲状腺濾胞細胞膜のTSH受容体関連抗原に対する甲状腺刺激性自己抗体による自己免疫疾患としてとらえられ,近年,臨床的ならびに基礎的立場より多彩な研究が展開されつつある1)。しかし,なおいくつかの未解決な問題点が残されており,また治療法に関しては,特別目新しい変化もなく旧態依然たる状況である.
 従来より行われている三大治療法,すなわち抗甲状腺剤治療,放射性ヨード(131I)治療,外科的治療は,本疾患の発症機序を免疫異常によると考えている限り,残念ながらいずれも対症療法であり,その目的とするところは,本症の臨床的寛解をいかに効率よく導くかにあると思われる.周知のごとく,各治療法にはそれぞれ長所と短所があり,最終的にどの治療法を選択するかは,多くの場合,治療にあたる医師の臨床経験や判断,および所属する医療機関の治療能力に基づいているのが現状である.

内科から

著者: 和泉元衛 ,   長瀧重信

ページ範囲:P.1560 - P.1564

 バセドウ病の病因は自己免疫説が現在有力であり,この点に関する多くの研究が行われてきている.しかし,その発生の機序については不明な点が多い.
 自己免疫疾患の治療法は現在免疫抑制剤がよく用いられている.これは各自己免疫疾患,特異的な自己免疫応答だけを抑制するのではなく,すべての免疫応答を抑制するために,それだけ生体に種々の影響を及ぼす.

コメント

著者: 藤本吉秀

ページ範囲:P.1564 - P.1566

バセドウ病は甲状腺専門医に治療を受ける のが望ましい疾患である
 コメントの冒頭にこのような標題を掲げるのはよくないことかもしれないが,内分泌学会や甲状腺の学会で,甲状腺の専門医と自他ともに許す第一人者が皆そう広言してはばからないのだから,そう言ってもよいのだろうと思う.
 その理由は,①やはり専門医が治療すると,内科的治療であろうと外科的治療であろうと,あるいは131I療法であろうと,経験の多くない医師に比べ成績に格段の差がつく.②どんな治療法をとるにしても,一旦治ったようにみえても何時また再発してくるかわからない.菅谷先生ら,和泉先生らがともに記されているように,バセドウ病は今日自己免疫疾患の一種と考えられ,しばしばその体質は遺伝するほど頑固なものである.③薬物療法で一旦治ったようにみえた患者の中から,何年か経て甲状腺機能低下症を起こしてくるものがある.外科治療や131I療法後には,機能低下を起こすものが決して少なくない.そうしたことを前提として行われる治療法であるともいえる.甲状腺機能の異常は,若年婦人では妊娠に関係して重大な問題であり,それ以外の人でも決して放置してよいことではないので,結局一旦治療を引き受けた以上は一生その患者とつき合うくらいの覚悟が必要である.

二次性(腎性)上皮小体機能亢進症

外科から

著者: 冨永芳博 ,   高木弘

ページ範囲:P.1567 - P.1571

 慢性腎不全患者の長期延命に伴い,様々な合併症が指摘されている.二次性(腎性)上皮小体機能亢進症(2°HPT)を中心とする腎性骨異栄養症(ROD)も深刻な合併症の一つである.通常,血液透析導入前より2°HPT, RODに対する内科的治療は開始されるが,上皮小体摘出術(PTx)を必要とする高度な2゜HPTも少なからず存在する.今回,2゜HPTの発生機序を概説し,その各段階での内科的治療を述べた後,高度な2°HPTの診断,内科的治療の限界,われわれのPTxの適応について述べてみたい.

内科から

著者: 鈴木洋通 ,   猿田享男

ページ範囲:P.1572 - P.1574

 二次性副甲状腺機能亢進症は腎性骨異栄養症の中でも線維性骨炎を引き起こす主病因である.腎性骨異栄養症は線維性骨炎と骨軟化症とに分類されるが,臨床上は混在する症例も多くみられる.臨床症状(表1)としては,骨痛,多発性骨折,異所性石灰沈着,皮膚掻痒症などがあり,この中でも二次性副甲状腺機能亢進症と強く関連しているのは,異所性石灰沈着と皮膚掻痒症である.これらの骨病変の発展を防ぐために二次性副甲状腺機能亢進症を内科的,外科的に治療を行う必要がある.
 内科治療を行う際には,その指標となるのは臨床症状以外では生化学検査が重要である.生化学検査は,表2にまとめたように,血清カルシウム,リン,さらにマグネシウム,アルカリフォスファターゼ,血清副甲状腺ホルモン(PTH),1,25(OH)2 D3がある.この中で,カルシウム,リン,アルカリフォスファターゼではPTHや1,25(OH)2D3と比し簡単に測定でき,かつよりよい指標となりうる.

コメント

著者: 田島知郎 ,   飛田美穂 ,   佐藤威

ページ範囲:P.1575 - P.1577

 二次性(腎性)上皮小体機能亢進症(2°HPT)に対する治療は,腎性骨異栄養症(ROD)の病態解明が進み,活性型ビタミンDアナログ(D3)の活用によって変貌しつつある.多様な病態それぞれが個々の症例でどの程度に関与しているかを把握した上で,各種の保存的療法をどう勘案させ組み合わせるかの工夫が大切で,それだけに保存的治療の限界の判断は画一的には下し難く,上皮小体手術適応についてもより慎重なものが求められる.本稿では鈴木・冨永両論文の内容を踏まえ,RODの病態を整理し,D3を中心にした薬物療法の有効性について論述し,これらに基づいて保存的療法の限界と手術適応を考察するが,手術術式の違いがその適応にも微妙に影響するので,術式にも言及してみたい.

乳癌

外科から

著者: 霞富士雄 ,   坂元吾偉

ページ範囲:P.1579 - P.1583

 乳癌の根治的療法は言うまでもなく,今日に至るまで乳房切除術であることに変わりはない.乳癌の原発部分からの進展は症例によってさまざまであって,この無秩序に対しては乳房切除と,主として腋窩リンパ節の郭清は避けられない方法として永い間広く受け入れられてきた.しかし,乳癌は根治させたいが乳房は失いたくないとして,乳房を愛惜する気持ちは患者であれば誰もが抱く女性としての心からの叫びであろう.欧米では女性の乳房に対する認識が日本におけるよりも一段と強く,このために乳房温存療法が昔から根強く潜在的に行われ続け,近年,Halstedのradicalmastectomyがmodified radical mastectomyにとって代られた1970年代後半になって俄かに顕性化してきた.そして心配された予後については,mastectomyとほぼ同等のものが得られるという,これまでの経験では想像されなかった事実が判明してきている.この乳房温存療法はわが国では一般化していないが,欧米で成功裡に経過しており,わが国では乳癌が急増しつつある現況を基として,患者側からの乳房を温存することに対する要望,quality of lifeの主張が一段と高まっている1)

内科から

著者: 大川智彦 ,   喜多みどり ,   田中真喜子

ページ範囲:P.1584 - P.1587

 乳癌手術の縮小化による乳房温存療法は患者のquality of lifeを守ろうとする考え方から,わが国においてもようやく本格的に取り入れられようとしている.乳房温存療法は乳房温存術(partial mastectomy,quadrantectomy, wide excision, lumpectomy etc.)と照射を相補的に用いることにより乳癌の根治を図ろうとするようなものであり,世界的にはほぼ確立してきている1,2).今回は,その適応と限界,特に局所再発について考察し,本法の有意性について述べる.

コメント

著者: 阿部令彦

ページ範囲:P.1587 - P.1588

 乳癌の保存的治療とは,conservative therapy forbreast cancerを意味する.その目的は,乳房を温存し,かつmodified radical mastectomyと同様の治療成績をあげることにある.また,この目的を達成するための具体的目標として,原発病巣周辺を含めてこれを切除するが,乳頭・乳房の大部分を温存する術式および腋窩リンパ節に対する郭清またはサンプリングを行うか,あるいは照射療法を行うなど腋窩リンパ節に対する処置が行われる.このような原発腫瘍と腋窩リンパ節に対する外科的治療法は,breast preservingmethodと呼ばれる治療法に包括される.元来,癌に対する手術を縮小させて,生存率,健存率を向上させることは不可能に近いが,これらの術後成績を低下させることなく手術を縮小することが可能であるならば,それに越したことはない.手術という外科療法発展の歴史を眺めれば明らかなように,患者の安全性,疾患の根治性,手術後遺症の軽減一機能の回復・温存の順に達成目標は進展してきたのである.特に近年ではneedに応じて発展してきた社会における技術革新が,それ自体独り歩きをし,社会環境,経済に重大な影響を及ぼすようになり,生存の科学が注目され,人間の尊重が改めて問われるようになった.このような風潮のなかで医療においても患者のQOLが重視される時代を迎えている.

心筋梗塞

外科から

著者: 細田泰之

ページ範囲:P.1589 - P.1593

 急性心筋梗塞に対する緊急ACバイパス術の施行および適応に関しては種々論議のあるところである.その理由は,急性心筋梗塞という刻々と変化するダイナミックな状況においては,侵襲的な血行再建が時間的制約のために必ずしも壊死に陥りつつある心筋を救い得ず,むしろ開心術という大きな侵襲により心機能の低下をもたらしたり,更にタイミングを誤所謂と壊死領域における再灌流が出血性梗塞を生じ,所謂reper-fusion injuryによる心筋障害により梗塞領域のむしろ拡大悪化をもたらす危険があるためである1,2).一般に症状の発現より6時間以内に再灌流が達成されればよいと経験上言われており3),実験的にも梗塞発生後4〜8時間以内に再灌流が起こるならば良い結果が得られると言われている4).しかし,実際には個々の症例において正確に梗塞の発現時間を知ることは困難であり,一概に6時間といっても閉塞冠動脈領域における側副血行の状況は千差万別であり,決して一様なものではない.更に突然予告なく心筋梗塞が発生することが多いが,患者が自宅なり仕事場より循環器専門医の所に運ばれ心臓カテーテル検査を受けて確定診断を得てから,心臓外科チームにより外科的に冠血行再建が達成されるまでの過程は必ずしもスムースには行かない.以上のような理由などにより,急性心筋梗塞に対する緊急ACバイパス術は手術の危険も高く,成績が悪く広く一般化されなかった.

内科から

著者: 延吉正清

ページ範囲:P.1593 - P.1600

 急性心筋梗塞症の治療法は,Rentrop1)による血栓溶解療法(ICT)の導入以来,このICTやPTCAなどのinterventional therapyが広く行われて,この数年間,急性心筋梗塞症の治療方法は一変したといっても過言ではない.また,一部では緊急外科手術も行われている.
 このように,心筋梗塞症の場合,急性期にはinter-ventional therapyの導入による治療効果の有用性と,陳旧性心筋梗塞症の場合には保存的療法の問題点がどこにあるかを筆者は内科側から検討したので報告する.

コメント

著者: 川島康生 ,   中埜粛

ページ範囲:P.1601 - P.1602

 急性心筋虚血に対する治療内容は,近年,内科側における血栓溶解療法(ICT)1)や経皮経管的冠動脈形成術(PTCA)の普及2),さらに外科側における手術成績の向上3)や補助循環法の進歩4)などにより大きく変遷してきた.特に最近,心筋梗塞急性期における緊急ICTやPTCAの導入により梗塞後早期の心筋のre-perfusionが可能となり,これにより救命される症例が増加しつつあることは周知の通りである.豊富な経験を有される延吉先生の論文において,このことは如実に示されている.
 急性期心筋梗塞に対する治療の最大の目的は,可能な限り早期に冠血流を再開することにより閉塞冠動脈領域の心筋壊死を救い,また,心筋梗塞の拡大を防止することにある.急性期心筋梗塞における心筋のsal-vageは一般に発症後3〜6時間以内が限度とされており,かつ左室機能の回復程度は冠血行再建に要するまでの時間に依存するとされている5).そのために緊急冠動脈造影を施行後,まず内科的にICT およびPTCAによる閉塞冠動脈の再灌流を図り,残存病変に対し不安定狭心症に準じてA-Cバイパス術を施行することが多い.この点に関して順天堂大学胸部外科の細田先生の論文の中で明確な治療方針が示されており,準緊急あるいは待期的手術によって良好な結果が得られている.

感染性心内膜炎

外科から

著者: 川副浩平 ,   藤田毅

ページ範囲:P.1603 - P.1607

 感染性心内膜炎(infective endocarditis:IE)は,その根底となる重症感染症,弁膜の破壊に基づく進行性心不全,および疣贅による塞栓症の3つが互いに絡み合って複雑な病態を呈する難治性感染症である.本症の治療の基本が適切な抗生剤投与による感染の制御にあるとはいえ,内科的治療が困難であったり,重篤な合併症の発生が予想される場合は早期の外科治療を必要とする.
 しかしながら本症においては,この「内科的治療が困難」であるという判断,あるいは「重篤な合併症の発生を予測」することが必ずしも容易ではなく,実際の臨床の場では実に様々な病状に対して外科的治療が行われている.ただ外科医からすると,優れた抗生剤が数多く市販され,開心術が安全に行われるようになった今日でも,本症の死亡率あるいは重篤な合併症の発生率が依然として高いのは,外科的治療導入のタイミングにも問題があるように思われるのである.そこで本稿では,IEにおける単独内科的治療の適応と外科治療の導入の適応について,外科医の立場から解説する.

内科から

著者: 山崎純一 ,   小竹寛 ,   真柴裕人

ページ範囲:P.1607 - P.1611

 感染性心内膜炎(infective endocarditis:IE)は病原微生物の心内膜・弁膜感染により生じる心疾患であり,心病巣から敗血症を生じ,全身に多彩な臨床症状を呈する.近年,IEの予後は化学療法と心臓外科手術の進歩に伴い著しく改善を認め,また,心不全・脳塞栓が感染死・細菌性ショックにかわり死因の大多数を占めるに至っている.したがって,IEの治療は化学療法や心不全に対する薬物療法などの保存的治療を基盤とするのはいうまでもないことであるが,これら二大死因を減少させるため,適切な時期に外科療法を考慮することが肝要である.本稿では自験例を示しながらIEの保存的治療の限界について述べてみたいと思う.

コメント

著者: 南雲正士 ,   相馬康宏 ,   井上正

ページ範囲:P.1612 - P.1613

 感染性心内膜炎に関する保存的治療の適応と限界について,内科から山崎氏,外科から川副氏の論文を拝見し,本症の病態と治療を考える上で大いに参考になった.山崎氏の報告した2症例は,感染活動期の内科的治療に抵抗性の心不全,心エコー検査での疣贅と重症僧帽弁逆流を手術適応としている.また,川副氏は,感染性心内膜炎の病態と治療法の選択をきわめて明瞭に図示している.われわれも両氏にほぼ同感であるが,従来より関心を持っている問題であるので,教室での手術経験例をもとに,内科治療の限界と外科治療の適応について考えてみたい.
 教室での過去10年間の感染性心内膜炎に対する手術例は延べ39例である.このうち,natural valveendocarditis(以下NVE)は33例で,心内パッチ感染1例を含めたprosthetic valve endocarditis(以下PVE)は6例であった.手術死亡は,NVEの2例(6%),PVEの3例(50%)でPVEの手術成績は不良であった.NVEとPVEでは,その病態,内科治療の限界,手術適応など種々異なる点がある.そこで,主としてNVEについて考えてみる.

自然気胸

外科から

著者: 大畑正昭

ページ範囲:P.1615 - P.1620

 自然気胸は原発性気胸と続発性気胸に分けられ,前者は限局性の胸膜直下気腫性肺嚢胞に関連して起こることが一般に認められている.一方,続発性気胸の原因は原疾患によって多彩である1).いずれにしても,肺胸膜の破綻によって空気が肺実質から胸腔内に漏出することで気胸が発生することには変わりはない.したがって,気胸の治療の本質は,気漏を閉鎖して肺を膨張させ,しかも再発を防止することにある.その両者を満たす治療手段が気胸の根治的治療法であり,現在のところ開胸手術が選択される.しかし,合併疾患や機能的,年齢的要因などによって手術が好ましくない症例も多いし,いわゆる保存的治療によって半数の症例は再発をみないことから,自然気胸の治療は個々の症例でもっとも適した治療法を選択すべきであろう.その意味において,外科の立場から自然気胸に対する保存的治療法の役割と限界について論じてみたい.

内科から

著者: 武野良仁

ページ範囲:P.1620 - P.1624

切るべきか,切らざるべきか
 自然気胸治療の現場において,外科的治療か内科的治療かという問題は絶対避けて通れない切実な問題のひとつである.
 パターンⅠは当センターを実際に訪れた気胸患者の病歴抜粋である.どれも皆,治療方針の決定がそう簡単にはいかないものばかりである.しかし,これを要約すれば「内科的にも治るが再発の可能性がある.外科的に処置できるなら,それに越したことはない」といったパターンになろうか(パターンⅠ).

コメント

著者: 於保健吉 ,   中村治彦

ページ範囲:P.1624 - P.1625

 自然気胸の治療方針については従来からさまざまな意見がある.もちろん,びまん性肺疾患が原因となった気胸や,低肺機能,全身状態不良,手術拒否などの理由で手術が必然的に禁忌となる症例は,保存的治療に専念する以外に選択の余地がなく,一方,長期肺虚脱のため臓側胸膜が肥厚し再膨張に剥皮術を要する症例,重篤な血気胸例,ドレナージやその他の保存的療法が無効に終わった症例などが手術の絶対的適応となることに異論はないと思われる.しかし,日常遭遇する自然気胸の大多数の症例は保存的療法も手術療法もどちらでも選択し得る症例であり,これらの症例に対する治療法が論議の対象となっている.
 自然気胸に対する各種治療法の適応を根治性という点に着目して比較すると,手術療法後の術側再発が5%以下であるのに対して,保存的療法後の再発は25〜50%と報告されており,明らかに前者の成績が優れている.何にもまして根治性が優先されるべきであるという治療哲学のもとに,保存的治療には重きを置かず,初回発症時から一貫して手術を第一選択として行っている施設もみられる1).また,予防的観点から10歳代の症例や対側にブラを認める20歳代の症例に対しては胸骨正中切開で両側開胸し,健側肺をも検索し,両側のブラを同時に切除する方式を採用している施設もある2).この場合,手術侵襲は一側開胸より大きくなるが,患者は健康な若年者が多いためか,重篤な合側症はみられないという.

転移性肺癌

外科から

著者: 神頭徹 ,   人見滋樹

ページ範囲:P.1627 - P.1631

転移性肺癌における保存的療法,外科的療法の位置づけ(図1)
 今日,悪性腫瘍一般に対する治療のstrategyは,最も強力な治療を初回治療時に集学的に行うことである.
 固形癌における最も確実な局所療法は手術療法であり,疾病のstageによって治癒を期待でき,また比較的進行例に対しても種々の治療法と併用して行われている.たしかに,睾丸腫瘍や骨肉腫などに対する近年の化学療法の進歩には注目すべきものがあるが,固形癌一般の治療において,現時点ではなお,治癒的手術が施行できたか否かは,明らかに患者の予後に反映されてくるのである.したがって,固形癌に対し外科的療法以外の治療が適応となる場合というのは,一般に,外科的療法の適応限界を越えた進行例であることを意味し,それ自体すでに良好な予後を期待し難いことを示している.

内科から

著者: 小川一誠 ,   松岡明

ページ範囲:P.1632 - P.1635

 転移性肺癌に対する治療方法は,手術,放射線,化学療法の3つの方法があり,原発腫瘍の臓器の特異性,あるいは拡がりの程度により治療方法を選択する.
 化学療法を選択する場合は,原発臓器に対して,第一選択で投与する方法を行い,もし無効ならば,そして可能ならば第二選択の方法を行う.

コメント

著者: 石原恒夫

ページ範囲:P.1635 - P.1636

 ここに特集された「保存的治療の適応と限界」というテーマは良性疾患では取り上げやすいと思うが,悪性疾患に対しては如何なものであろう.
 一般に悪性疾患に対する治療法の中でもっとも信頼に足るものは外科であり,ついで放射線治療であり,そのあとに化学療法が続き,免疫療法は最下位にランクされている.しかし,こうしたランクをつけてみても信頼度の高い外科治療の成績ですら頭打ちの感がある.十年一日のごとく早期癌の発見が題目のように提唱されているが,それでも進行癌で発見されるものが大部分である.近年,集学的治療がしきりに叫ばれているのは,癌に取り組む人達にとって,それが現状を打開するための最良の策とみえるからである.転移性肺腫瘍における保存的治療の適応と限界について,内科という立場に忠実に化学療法を述べ,外科という立場であるが故に外科的治療を中心に述べている二つの論文には,こういう問題の取り上げ方の難しさがでていた.

原発性肺癌

外科から

著者: 小林俊介 ,   藤村重文

ページ範囲:P.1637 - P.1641

 肺癌は進行度が早く,予後の悪い疾患であり,なるべく早期に発見し根治手術を行っていくのが原則である.したがって,原発性肺癌と診断された場合,根治的な意味での保存的療法の施行は一般的ではない.たとえ,早期肺癌であろうとも,明らかに肺癌と診断され,部位診断がなされた場合,切除可能であれば積極的に切除していくのが一般的な考え方である.この意味で,肺癌の保存的治療法は現在のところ手術適応外とみなされた症例に行う消極的な意味合いしかもっていないのが現状である.
 しかし,一方,肺小細胞癌が内科的治療のみによって完治が得られるようになったように,肺癌の保存的治療の進歩も著しいものがみられる.従来の切除一辺倒から,手術に適材適所有効な内科的治療法を組み合わせた集学療法をいかに行っていくかが現在の肺癌治療の課題であり,また将来の肺癌治療の必然的な趨勢であろうと考えられる.

内科から

著者: 青柴和徹 ,   金野公郎

ページ範囲:P.1641 - P.1645

 原発性肺癌に対する治療手技は年々確実に進歩しつつあるとはいえ,その治療成績は必ずしも満足しうるものではない.事実,5年生存率にしても約15%にすぎず,さらに年間約32,000名もの症例が本症によって死亡している現状でもある.
 肺癌の基本的な治療方針は病期,組織型および患者の全身状態を総合判断し決定されることは無論のことである.

コメント

著者: 山口豊

ページ範囲:P.1646 - P.1647

 肺癌における保存的治療の意味するところは,非観血的な治療,すなわち抗癌剤による化学療法,放射線療法を行うか,これら治療による副作用によるマイナス面を考慮した患者のquality of life(以下QOLと略す)を保つ治療をいうと考える.
 本稿では,保存的治療の適応と限界について述べられた内科,外科側のそれぞれの意見にコメントを加えながら,筆者の考え方を述べることにする.

賢血管性血圧高症

外科から

著者: 岩井武尚

ページ範囲:P.1649 - P.1653

 賢血管性高血圧症は,その原因から推察できるように若年者から高齢者までの幅広い年代に発症し,診断が確定すれば外科的治療をまず念頭に入れるべき疾患群と考えられる(表1).しかしながら,種々の事情,特に診断の遅れや経過観察という理由,またはハイリスクのために内科のみで治療が行われたり,経皮的血管拡張術(PTA)に治療方針を委ねて外科医の前に現われることのない症例も少なくないと思われる.
 一方,外科医の側にも問題がないわけではない.手技的失敗,手術タイミングの遅れ,患者のfollow-upの悪さなどにより重篤な合併症の出現をみることもあり,われわれの側にも反省すべき点が依然残されている.したがって,この疾患は内科,外科,そしてPTAを行う放射線科と3科が絡んだ病気であることをよく認識するとともに,内科や放射線科の後始末をするのが外科でないことだけはきちんとさせておくことが大切であろう.

内科から

著者: 中村仁 ,   松尾博司

ページ範囲:P.1653 - P.1656

 腎血管性高血圧症(renovascular hypertension,以下RVH)とは腎動脈になんらかの原因で狭窄病変が生じた結果,腎の灌流圧が低下し,レニン分泌が亢進して高血圧を発症する疾患である.狭窄を来す原因としては,中高年者では動脈硬化症(atherosclerosis,以下AS),若年者では線維筋性異形成(fibromusculardysplasia,以下FMD),若い女性では大動脈炎症候群のことが多い.

コメント

著者: 上野明

ページ範囲:P.1657 - P.1658

 近年における腎血管性高血圧(以下RVH)に関しては,大きく分けて二つの問題があるといえよう,一つは概念的問題で,腎動脈狭窄と高血圧の発症,維持機構に関する主として生理学的捉え方の問題であり,一つは腎動脈狭窄によるその側の腎の運命に関する主として病理学的捉え方の問題である.これは古い話であるGoldblattの病理学的見解とSmithの生理学的見解の差が内容を変えて臨床面において持続しているものといえる.

下肢血行障害(ASO,Buerger病)

外科から

著者: 江里健輔 ,   大原正己

ページ範囲:P.1659 - P.1663

 いかなる疾患であれ,「手術すべきか,すべきでないか」は常にcontroversialな議論となる.この問題は内科的あるいは外科的治療の進歩に依存するので,議論が時とともに変遷するのは当然であろう.下肢血行障害治療法選択も例外ではない.ただ,慢性下肢血行障害の治療が患者の生命予後に直接関与することは少なく,quality of lifeの向上,肢切断の予防に関与する面が大であることが他の疾患と根本的に異なる.したがって,慢性下肢血行障害—閉塞性動脈硬化症ASO,閉塞性血栓血管炎TAO—の治療法選択には本症の自然歴をも十分理解しなければならない.本稿では慢性下肢血行障害のうち,主として間歇性跛行を呈するASOについて,保存的治療の適応と限界を当教室の成績を踏まえて血行再建術と対比しながら論じたい.

内科から

著者: 田村康二 ,   浅川哲也

ページ範囲:P.1664 - P.1667

 下肢の血行障害は動脈系疾患と静脈系疾患に大別されるが,臨床的には機能的障害が強いため動脈性疾患が重要視されている.下肢動脈の血行障害も急性および慢性疾患に大別される.急性動脈塞栓症ないしは血栓症の急性動脈閉塞症は本稿では省略するが,動脈閉塞による阻血症状が軽微であるか重篤な合併症のないかぎり,発症後6時間以内といういわゆる“goldenperiod”に手術することが第一選択であろう.

コメント

著者: 矢野孝 ,   塩野谷恵彦

ページ範囲:P.1667 - P.1669

 慢性動脈閉塞症の症状は,動脈閉塞の状態(閉塞の部位,程度,拡がりなど)と,動脈閉塞に伴って発達してくる側副血行路の代償能力によって左右される.Fontaine分類は代償状態に基づく重症度分類として把えられ,Ⅰ期:動脈閉塞は完全に代償されている.Ⅱ期:負荷(歩行など)により代償不全を生じる(間歇破行).Ⅲ期:安静時にも代償不全がある.Ⅳ期:壊死を生じる.の4期に分けられている.Ⅰ期では動脈閉塞が完全に代償されて原則的には無症状であるが,わが国では冷感・しびれ感をあてて臨床的な意味づけを行っている.

下肢静脈瘤

外科から

著者: 小谷野憲一 ,   阪口周吉

ページ範囲:P.1671 - P.1674

 下肢静脈瘤といえば,通常は原発性静脈瘤(primaryvaricose veins)のことを指し,本稿もこれを対象として述べる.本症に対する根治的療法は,その病因からみて外科手術以外にはなく,保存療法だけで本症を完治させ得るものではない.しかし,手術には自ずからその適応があり,適応から外れた場合に保存療法が果たす役割は無視できない.本稿では,下肢静脈瘤に対する保存的療法の役割と限界,手術に踏み切るタイミングを中心に,外科的立場から本症の治療方針について述べる.

内科から

著者: 廣田彰男

ページ範囲:P.1674 - P.1677

 静脈瘤の病態は大小伏在静脈や穿通枝の静脈弁機能不全が主体である.したがって,これまで静脈瘤は外科的疾患として把えられてきた.しかし,近年,内科医でも施行可能な硬化療法が行われるようになったこともあり,保存的療法と外科的療法の適応範囲が変化してきたように思われる.
 以下,静脈瘤の治療法の概略と硬化療法を中心とした保存的療法の適応,限界について述べる.

コメント

著者: 田辺達三

ページ範囲:P.1677 - P.1679

 下肢にみられる静脈瘤には種々の病因によるものがあるが,下肢静脈瘤といえば最も多くみられる表在静脈の弁機能障害によって生ずる原発性(一次性)静脈瘤をいう.本症は決して稀な疾患ではないが,欧米とは異なり一般の関心は低く,的確に治療法が選択されているとはいえない状況にある.すでに指摘されているごとく,本症の治療法として保存療法,硬化療法,手術療法があるが,特に根治的療法である静脈抜去術すら適切に施行できる施設が限られているのも現状であろう.本症は慢性疾患で長期間にわたって漸次増悪することから,保存的治療の意義も決して少なくない.

前立腺肥大症

外科から

著者: 藤田公生

ページ範囲:P.1681 - P.1684

薬物療法の限界と手術の適応
 前立腺肥大症で薬物投与を行っていた患者さんの手術にいつ踏み切るか.その指標はいくつかある.

内科から

著者: 山中英寿 ,   今井強一 ,   鈴木和浩

ページ範囲:P.1684 - P.1688

前立腺肥大症の発生
 前立腺は男性副性器のひとつであり,主にテストステロンによって,その生理機能および形態は維持されている.加齢に伴い血中テストステロン濃度が低下するにつれて前立腺は萎縮していく.ヒトにおいては本来の前立腺が萎縮しはじめる中年になると尿道内腔に接した特定部位より前立腺肥大結節の増殖が始まる.この部位をMcNealはtransition zone(TZ)と名付けている.transition zoneは前立腺腺性部分の約5%を占めている1)(図1).早い人では40歳台後半よりこのtransition zoneに前立腺肥大結節の増殖の兆しが出現し,加齢とともにその頻度を増していく.
 われわれは1981年より群馬県内市町村にて前立腺検診を施行しているが,表は1981年より1985年までに行われた16市町村の検診の結果である.5年間に検診を受けた者は5,770名であった.そのうち39.4%に前立腺肥大の所見が認められている.このうち,鶏卵大以上の肥大結節を触知し,排尿困難も高度であり,ただちに治療を必要とする者が全受診の6.2%にみられた.この結果は60歳以上の男性高齢者の3人のうち1人に前立腺肥大結節がみられることを示しており,前立腺肥大とは男性の生理的老化現象の一つであり,前立腺肥大結節があることのみで本人に侵襲のかかる積極的治療を選択してはならないことを示している.

コメント

著者: 町田豊平

ページ範囲:P.1688 - P.1689

 前立腺肥大症に対する治療法の変遷は,特に今世紀になって著しい.専らカテーテルによる導尿法によって尿閉をしのいできた旧い時代から,今世紀になると開腹摘除する手術法が確立し,さらに1930年代からは経尿道的な前立腺切除術が急速に普及しはじめ今日に至っている.こうした手術法の普及とその治療成績の向上は,前立腺肥大症の基本治療がすべて手術的治療であるという考え方を一般化させた.しかし,最近前立腺肥大症の発症機序が次第に解明されるに至り,さらに肥大症が良性疾患であるという再認識から,保存的治療法としての薬物療法が改めて見直されてきている.現今の前立腺肥大症に対する治療法をまとめると別表のようになる.
 前立腺肥大症に対する保存的治療には,薬物治療と導尿法(排尿管理)があるが,一般的には薬物療法が中心である.ただ薬物療法には有効性の確証もなく多くの薬剤が古い時代から今日まで使用されてきたが,客観的に縮小効果のみられるものは,最近のアンチアンドロジェン剤のみである.それも平均縮小率は30%以下であり,かつ長期の服用が必要となる,そのため,前立腺肥大症の治療剤としてはなお限界が存在する.アンチアンドロジェン剤以外の薬物でもその効果がありとされるのは,前立腺に対する直接効果というよりも,全身的,心因的あるいは症状に対するものであり,肥大症の症状の変動も自覚症に影響を与えていると思う.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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