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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科45巻12号

1990年11月発行

雑誌目次

特集 癌手術の補助療法—現状と展望

甲状腺癌手術の補助療法

著者: 山下共行 ,   藤本吉秀

ページ範囲:P.1707 - P.1714

 甲状腺癌に対する補助療法として,放射線療法,化学療法,ホルモン療法があげられる.放射線療法には,外照射治療と内照射治療(放射性ヨード治療)がある.外照射は術後ルーチンの補助療法として行われることはほとんどなく,甲状腺未分化癌,悪性リンパ腫や乳頭癌,濾胞癌,髄様癌の転移例,浸潤例に対して用いられる.放射性ヨード治療は,ヨードを取り込むという甲状腺に特異的な性質を利用して,131Iを病巣に集積させて治療する方法で,前もって甲状腺全摘と,内因性TSHの上昇という前処置を要する。症例によっては完全寛解をうることができる.化学療法も術後ルーチンの補助療法としては行わず,外照射と同じく適応のある症例に用いられる.ホルモン療法は,内因性TSH分泌を抑制する量の甲状腺ホルモン剤を投与する方法で,広く行われているが,その臨床的有用性については依然Controversialである.

肺癌手術の補助療法

著者: 大田満夫

ページ範囲:P.1715 - P.1722

 肺癌切除例の生存率が低いのは,不顕性の遠隔転移(微小転移巣)が多いためと考えられ,補助療法が必要である.小細胞癌の治療成績は化学療法の進歩で向上し,外科切除は局所再発の防止に役立つ.adjuvant surgeryの適応はⅠ・Ⅱ期例である.非小細胞癌では,切除術が最良の治療法であり,次に放射線がくる.化学療法,免疫療法の力はまだ弱い.adjuvant chemoimmunotherapyが明らかな延命効果を有するとの成績はまだ得られていない.neoadjuvant therapyは切除率を上げるが,延命効果については検討中である.adjuvant radiotherapyの効果も明らかでない.肺癌手術成績の向上は,主に抗癌剤,化学療法の進歩にかかっている.微小転移巣の制圧さえできれば,切除成績は一挙に向上するであろう.

乳癌手術の補助療法

著者: 泉雄勝

ページ範囲:P.1723 - P.1731

 癌の治療を局所的治療と全身的治療に分けると,乳癌の場合には前者の治療として手術療法と放射線照射が,後者として化学療法とホルモン療法が行われる.非進行癌においても,中心となる根治手術の(前)後にこれらの治療が,病期など癌の進展の程度に応じて適用されている.化学療法は近年作用機序の異なる多剤併用療法の形で,長期反復して投与される.ホルモン療法は抗エストロゲン剤であるtamoxifenがホルモン依存性のある症例に加えられるというのが現状である,実際の適用に当ってはER(estrogen receptor)の+,−や閉経前後などで治療計画は組み換えられる.局所進行乳癌の場合には,術前治療から術後追跡期間までを含む,系統的な上記の各種療法の組み合わせ(集学的治療計画)がより濃厚に施行されている.

食道癌手術の補助療法

著者: 実方一典 ,   西平哲郎 ,   森昌造

ページ範囲:P.1733 - P.1740

 食道癌の遠隔成績を向上させるために,外科的治療に加えて放射線療法,免疫療法,化学療法などの補助療法が施行されている.多くの施設で採用されて来た術前照射の効果が疑問視されるようになり,近年,術前照射は,術前診断にて切除不能の他臓器浸潤があると判定された症例に対してのみ施行されるようになり,補助療法の主流は術後合併療法になって来た.われわれは手術時に判明した癌腫の進行度に応じて各症例ごとに術後合併療法を選択し施行している.本稿では,われわれが施行している術後合併療法とその遠隔成績を中心に,食道癌手術補助療法の変遷と現況,および今後の展望について述べた.

胃癌手術の補助療法

著者: 高尾尊身 ,   島津久明

ページ範囲:P.1741 - P.1747

 胃癌手術の補助療法について,その変遷,現況および展望を概説した.本邦ではいくつかの全国的な臨床研究班が組織され,臨床比較試験による術後化学療法が行われてきた.その結果,MMCと5—FUを中心とした併用化学療法が最も効果があり,免疫賦活剤の併用は生存率の延長に寄与していることが判明した.しかしながら,これまでの補助療法では限界があり,最近では新たな補助療法が多く試みられている.たとえば,CDDPを中心とした多剤併用化学療法,効果増強あるいは多剤耐性の克服を目的としたBiochemical Modulation併用療法,なかでもターゲティング療法は局所効果が高く,肝転移や腹膜播種を伴う症例の手術適応が拡大され,今後さらに発展していくと予想される.

大腸癌手術の補助療法

著者: 加藤知行 ,   平井孝

ページ範囲:P.1749 - P.1758

 大腸癌手術の補助療法について,prospective controlled studyを中心に,内外の報告をreview した.補助化学療法は,欧米では5-FUとMeCCNUを,本邦ではMMCとフッ化ピリミジン系経口剤を使用したものが多いが,standard therapyとなり得るほど明らかな有用性を示したものはない.補助免疫化学療法で5-FU+Levamisoleの有効性を示した報告が注目される.局所療法としては最近,5-FUの門脈内持続投与が行われだした.直腸癌では,放射線術前照射の有用性はほぼ確立している.しかし,術中・術後照射も含めて放射線療法は局所再発率の低下はみても生存率の向上に結びつかないことも多く,今後も照射法の検討が必要である.

肝臓癌手術の補助療法

著者: 藤元治朗 ,   岡本英三 ,   山中若樹

ページ範囲:P.1759 - P.1764

 1989年末までに当教室で経験した590例の肝細胞癌治療例を対象に,その遠隔成績より肝切除を軸とした集学的治療につき検討した.著明な門脈内腫瘍塞栓や肝内転移巣を伴う絶対非治癒症例に対しても減量切除と肝動脈結紮術,エタノール注入などの集学的治療にて延命効果が期待し得る.術後の再発巣に対しては,その再発病態に応じた各種治療法の組み合わせにより良好な予後が得られる.

胆嚢・膵臓癌手術の補助療法

著者: 加藤道男 ,   宮崎直之 ,   石田常之 ,   齋藤洋一

ページ範囲:P.1765 - P.1776

 胆嚢癌と膵癌治療の概要と外科治療成績の分析から癌手術の補助療法の必要性について検討した.そのなかで,補助化学療法としては有効率の高い薬剤を選択すること,さらには交差耐性を示さない抗腫瘍剤を併用することが望ましいと考えられた.また,化学療法と放射線療法の両者を施行することにより,腫瘍の遠隔転移再発と局所再発を制御できる可能性を考察した.そして術後遠隔成績の向上には,集学的治療の一環として今後補助療法を積極的に試みるべきとの考えを述べた,

カラーグラフ Practice of Endoscopy 胃・十二指腸内視鏡シリーズ・Ⅷ

ヒータープローブ法による胃・十二指腸出血に対する内視鏡的止血法

著者: 田辺聡 ,   横山靖 ,   小泉和三郎 ,   木田光広 ,   西元寺克禮 ,   比企能樹

ページ範囲:P.1701 - P.1704

 近年,上部消化管出血に対する各種内視鏡的止血法の進歩はめざましく,エタノールなどの薬剤局注法,熱により蛋白凝固を起こし止血をはかるマイクロウェーブ,レーザー法などがあげられる.同様に熱による蛋白凝固で止血する方法としてヒータープローブ法が開発され,良好な成績を得ている.
 今回はヒータープローブ法の止血成績,止血手技などについて紹介する.

研修医セミナー 一般外科手術記録の書き方

Lesson12(追加) 膵頭十二指腸切除術(Pancreatico-duodenectomy)

著者: 小越章平

ページ範囲:P.1779 - P.1784

 以前の連載で落ちていた,膵臓ならびに肝臓手術の記録の書き方を2回に分けて述べる。

心の行脚・14

けたはずれの人生

著者: 井口潔

ページ範囲:P.1785 - P.1786

 少し固い話が続いたので,軟らかい話をさせて頂こう.数年前,朝日新聞に「けたはずれの人生」という見出しで次のような記事が出ていた.素人がれっきとしたオーケストラの指揮をしたという話.マーラーの交響曲第2番“復活”の演奏会が新日本フィルのオーケストラで東京で開かれたとき,その指揮者はギルバート・キャプランというアメリカ人だった.キャプラン? ギルバート? こんな演奏家は聞いたこともない.それもそのはず,この人は音楽家ではなく,ニューヨークの金融専門の月刊誌の社長だったのである.このキャプラン氏,若い頃マーラーの2番を聴いて眠れぬほどの感動を受け,以来この曲だけでよい,これを指揮してみたいと思い続けていたようだ,そして,実際に夢の実現にとりかかったのが40歳を越えた上記演奏の3年ほど前で,プロを先生としレコードに合わせて指揮の稽古に励み,アメリカ交響楽団を借り切って練習に入り,とうとう公演までこぎつけたという.以来,1曲だけの指揮者となった。この間,この作品の演奏会を追って世界各地15の都市を飛び,これにつぎこんだ費用はためて60億円という.
 どのような出来ばえのものであったのかは知らないが,なにしろこの大曲にして難曲を暗譜してプロのオーケストラを指揮するのだから,その冒険心は大したものである.

一般外科医のための形成外科手技・23

顔面腫瘍の診断と形成外科的手技

著者: 梁井皎

ページ範囲:P.1787 - P.1793

はじめに
 一般外科外来において,顔面腫瘍の症例に遭遇することは少なくない.顔面腫瘍のうち,皮膚科専門医の手に委ねたほうがよいものがあり,また,顔面腫瘍の大きいもの,あるいは悪性腫瘍については,形成外科専門医に紹介するのがよいと思われる.しかし,顔面腫瘍の大部分のものについては,その診断は容易で,形成外科的手技について多少の心得があれば,一般外科外来で十分に対処することができる.
 本稿では,顔面腫瘍の診断と形成外科的手技の概略を述べ,代表的な症例を供覧する.

膵臓手術の要点—血管処理からみた術式の展開・5

膵頭十二指腸切除術後の再建法と合併症対策

著者: 加藤紘之 ,   田辺達三 ,   下沢英二 ,   児嶋哲文 ,   奥芝俊一 ,   中島公博

ページ範囲:P.1795 - P.1797

1.再建法の工夫と選択
 膵癌の根治性を求めた広範な郭清手術によって引き起こされる消化吸収機能の低下は大きく,慢性的栄養障害はその後の日常生活の苦痛はもちろん,時には生命予後そのものに影響を与えかねない.

Spot

アンブロアズ・パレ400年祭を巡って

著者: 大村敏郎

ページ範囲:P.1798 - P.1799

 「今から399年前の今日,アンブロアズ・パレはパリで死にました.」という書き出しの手紙がフランスのラヴァル市の考古学と歴史の学会から私の所へ舞いこんできたのは今年の年賀状の束と一緒にであった.送信の日付は1989年12月20日というパレの命日を選ぶ心憎い配慮がされていたのである.
 すでに昨年6月から「アンブロアズ・パレ400年祭記念会」の実行委員会が日本で発足しており,東大第1外科の森岡恭彦教授を会長に,実務に入る前に委員会の中でパレに関しての勉強会を重ねていた.委員会は外科と医史学とフランス医学の3部門から有志が集まって構成されており,親密な雰囲気と,パレに対する熱情のこめられた密度の濃い集会であった.

臨床報告

食道平滑筋肉腫の1例

著者: 永安武 ,   母里正敏 ,   重松授 ,   榊原幸雄 ,   田中富雄 ,   北出公洋 ,   秋山元 ,   田頭坦 ,   古谷敬三

ページ範囲:P.1801 - P.1805

はじめに
 食道平滑筋肉腫は非常に稀な腫瘍で,発生頻度は食道悪性腫瘍の約0.1〜2%を占めるに過ぎないといわれている1).著者らは今回下部食道平滑筋肉腫の1摘出例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

先天性胆道拡張症に合併した特発性胆道穿孔の1例

著者: 井上啓爾 ,   小原長生 ,   日高修 ,   瀬川徹 ,   江藤敏文 ,   沢田敬

ページ範囲:P.1807 - P.1810

はじめに
 小児における特発性胆道穿孔は非常に稀な疾患である1).特発性胆道穿孔は先天性胆道拡張症に合併することが多く,穿孔の原因として胆管膵管合流異常との関連が指摘されている2).今回,われわれは3歳の女児で先天性胆道拡張症に特発性胆道穿孔を来した1例を経験したので報告する.

腸腰筋膿瘍に続発した感染性動脈瘤の1例

著者: 菊地廣行 ,   前山俊秀 ,   佐藤孝臣 ,   神保雅幸 ,   大原到 ,   岡崎肇

ページ範囲:P.1811 - P.1813

はじめに
 感染性動脈瘤は感染により形成される比較的稀な動脈瘤であり1),しかも非感染性動脈瘤に比し破裂の危険性が高いといわれている2).しかしながら,本疾患の診断および形成過程を臨床的に同定することは困難なことが多いと思われる.今回,われわれは起因菌 K.pneumoniaeの腸腰筋膿瘍から形成された,右総腸骨動脈感染性動脈瘤を経験した.ここに文献的考察を加え報告する.

肺癌小腸転移による腸重積の1例—本邦報告64例の検討

著者: 森本芳和 ,   山崎元 ,   山崎芳郎 ,   坂本嗣郎 ,   桑田圭司 ,   小林曼

ページ範囲:P.1815 - P.1819

はじめに
 近年,肺癌は急激な増加傾向にあり,他臓器癌に比べしばたば早期に遠隔転移を起こす悪性度の高い癌の1つである.肺癌の遠隔転移臓器としては,肝,骨,副腎,脳などが多く,小腸への転移は稀である.今回われわれは,腸重積により発症した肺癌小腸転移症例に対し,小腸転移巣切除後,二期的に肺原発巣を切除しえたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

直腸colitis cystica profundaの1例

著者: 巾芳昭 ,   久米田茂喜 ,   岩浅武彦 ,   井之川孝一 ,   堀利雄 ,   牧内正夫 ,   松田至晃 ,   中村喜行

ページ範囲:P.1821 - P.1824

はじめに
 深在嚢胞直腸炎は,直腸粘膜が粘膜下層に迷入し嚢胞を形成する稀な良性疾患であるが,臨床的,組織学的に悪性疾患と誤診されうる疾患といわれている.しかし,本疾患の臨床像,組織像は特徴的であり,その特徴さえ認識していれば診断は容易である,最近,われわれは深在嚢胞直腸炎の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する,

回盲弁の寄生虫性好酸球肉芽腫による腸重積の1例

著者: 金定基 ,   三井毅 ,   浅田康行 ,   飯田善郎 ,   三浦将司 ,   藤沢正清

ページ範囲:P.1825 - P.1828

はじめに
 われわれは,回盲弁の好酸球性肉芽腫を先進部とする腸重積を呈し,その肉芽腫内にアニサキス幼虫と考えられる虫体を発見した症例を経験した.最近,腸アニサキス症の報告が増加しているが,著者らの検索した限りでは,このような症例はなく,極めて珍しい症例と考えられたので若干の考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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