icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科45巻13号

1990年12月発行

雑誌目次

特集 進行癌の画像診断—治癒切除の判定をどうするか

胸部食道癌

著者: 掛川暉夫 ,   山名秀明 ,   藤田博正

ページ範囲:P.1847 - P.1854

 食道癌の術前診断として,従来は食道造影と内視鏡検査が主体であったが,最近では超音波内視鏡やMRIなどの種々の新しい画像診断装置も応用されるようになり,術前に可能な限り正確に病態を把握し,手術適応や治療方針,さらには手術術式を決定して手術に臨むようになってきた.これらの診断器機を駆使することにより,大半の症例は術前に治癒切除が可能か否かの判定が行われるようになってきている.しかし,現在の新しい診断装置は存在診断が主体で,質的診断を下すまでの機種はなく,そのためには的確な診断技術と読影力を養う必要がある.また,最新の診断器機と熟練した診断技術によっても,明確に診断をつけかねる症例があることも事実である.そこで,術前診断のみにとらわれることなく,術中においても種々の診断器機を応用し,より正確な診断が下せるよう常に努力する必要がある.

胃癌

著者: 古河洋 ,   平塚正弘 ,   岩永剛 ,   今岡真義 ,   福田一郎 ,   石川治 ,   甲利幸 ,   北村次男 ,   竜田正晴 ,   田中幸子 ,   藤田真

ページ範囲:P.1855 - P.1860

 胃癌の非治癒因子として,OW/AW, P, H, N, S, M(遠隔臓器転移)を取り上げ,その術前画像診断の可能性について検討した.OW/AWについては色素内視鏡などによる粘膜面からの詳細な検討により,M(+)(肺,骨)は術前一般検査や骨シンチにより診断が可能である.H(+)については超音波,CTなどでよく診断される.P(+)の判定は困難であるが,腹水は超音波,CTでよく診断される.N(+),特に大動脈周囲リンパ節は,超音波,CTである程度の大きさ(1cmくらい)であれば診断可能である.S3もCTで診断可能である.
 非治癒因子の多くは術前診断可能であるが,腹膜転移はまだ十分とはいえなかった.

直腸癌

著者: 北條慶一 ,   赤須孝之 ,   馬島亨

ページ範囲:P.1861 - P.1865

 従来の諸検査に加え,超音波エコー,CT scan,MRIなどの画像診断により,骨盤内隣接他臓器または骨盤壁への進展,リンパ節転移,特に大動脈周辺,肝,肺などの遠隔転移の有無をある程度術前に知ることができ,治癒的切除の可否がかなり判定できるようになった.一方,外科術技も進歩し,かつては切除不能とされた進行癌でも,膀胱をはじめ隣接臓器,血管や仙骨の合併切除が安全にできるようになり,切除不能と判定されるものは少なくなった.しかし,これらの画像診断でも炎症あるいはdiffuseな癌細胞浸潤の判定は必ずしも決定的とはいえず,また,完全切除が不可能でも大腸癌ではreductionsurgeryの意義もあり,それゆえ高度の進行癌といえども最初から切除不能と判定せず,あくまでも開腹したうえで最終判断がなされるべきであろう.

肝細胞癌

著者: 野口徹 ,   原田晴久 ,   幕内雅敏

ページ範囲:P.1867 - P.1874

 進行肝細胞癌の画像診断に際しては,まず肝の解剖および脈管系のvariationを把握しておく必要がある.そのうえでUS, CT, MRI,血管造影および核医学検査などを行うが,存在診断にはUSやCT(単純+造影)が,質的診断にはUSやdynamic CTに加えMRIや血管造影さらに核医学検査が,娘結節の検出にはLipiodol CTやMRIや血管造影(DSA)が有用である.画像診断の結果が治療法を選択する決め手となるので,それぞれの画像での特徴的な典型像を十分理解しておかなければならないが,いたずらに多くの画像診断を行うのでなく,適切な診断法を選んで施行すべきである.

胆道癌

著者: 川原田嘉文 ,   岩崎誠 ,   山本敏雄 ,   岩田真

ページ範囲:P.1875 - P.1884

 今回,進行胆道癌の画像診断による局所浸潤の進展度診断と治癒切除の判定について検討した.腫瘍の存在ならびに質的診断はUS, CT,さらに直接胆道造影により可能である.胆管癌,胆嚢癌ともに,壁深達度がss以上では治癒切除率は低率である.最近の画像診断法の進歩により,局所浸潤の進展度診断の正診率も向上してきているが,いまだに壁深達度ssとseとの鑑別も困難である.
 画像診断からみた治癒切除の判定はm,pm癌を見出すことは勿論であるが,まずS0の進行癌を見出すことが重要である.

CT,血管造影からみた膵癌局所治癒切除の可能性

著者: 羽生富士夫 ,   今泉俊秀 ,   松山秀樹

ページ範囲:P.1885 - P.1891

 膵頭部膵管癌切除例68例の連続性進展に関して,進展度と教室の基本術式による膵周囲切離,剥離面(EW)を検討し,さらに血管造影,CTによる進展度診断能を検討した,以上から術前の血管造影,CTから肉眼的治癒切除可能性の判定を試みた.教室の基本術式を前提とした治癒切除可能性を血管造影,CTから判定すると,主要動脈浸潤A(+)例ではほとんどが癌遺残となり,A(−)例ではRpがEWに最も重要で,CTでRp0であればほぼ100%EW(−)となり,Rp1でもEW(−)の可能性は大きい.しかし,Rp2では約半数の症例で,Rp3ではほとんどの症例で明らかな癌遺残に終わると考えられた.

カラーグラフ Practice of Endoscopy 胃・十二指腸内視鏡シリーズ・Ⅸ

上部消化管出血に対する内視鏡的マイクロ波凝固法

著者: 永井祐吾 ,   谷村弘

ページ範囲:P.1841 - P.1845

 われわれは食道静脈瘤を除く上部消化管出血の止血には内視鏡的マイクロ波凝固法(EMCT)を第一選択としている.
 その理由は,①自己誘電加熱によって凝固するため組織が炭化せず,これが早期に脱落することによる出血や穿孔の危険性が少なく安全であること,②組織刺入法と接触法が選択でき処置が容易であること,③直径2.4mmの電極基部の圧迫止血効果もあり,直径2mmまでの動脈性出血にも有用であること,④さらには,マイクロ波自体の抗腫瘍効果が期待でき,悪性腫瘍からの持続性出血にも適応があることなどが挙げられる.

海外トピックス

米国の医療現場で見たこと,感じたこと

著者: 貞広荘太郎

ページ範囲:P.1892 - P.1893

 本年9月初めから10月半ばまで,米国ミネアポリスのミネソタ大学大腸外科ならびにボストン郊外のレイヘイクリニック(Lahey Clinic)医療センター大腸外科を訪問し,その臨床現場を体験した.私は卒後14年目の消化器外科医であり,大腸肛門疾患を専門にしているが,一般病院に勤務しているため,大腸肛門以外の消化器疾患の診療にも携わっている.留学の経験はなく,日本のシステムの中で教育され,現在は次の世代を教育する立場にある.短期間の訪問ではあったが,“純和風”の私にとって米国の医療現場には驚く事,感心する事が多々あり,そのいくつかを述べてみたい.
 ミネソタ大学の大腸外科はDr.Goldbergを中心に10人のスタッフと4人の臨床フェロー(卒後5年間一般外科のトレーニングを終了後,1年間フェローを勤めると大腸外科医の資格が取得できる)から成り,ミネアポリス市内の15のオフィス(外来診療所)と10以上の病院に分かれて活動していた.1カ所で外来・入院患者の診療を行っていると考えていた私には驚きであった,自分のオフィスに来た患者に手術が必要な場合には,患者の加入している健康保険(保険の種類,保障される病気の範囲は非常に複雑で,保険の種類によって入院する病院が制限される場合がある)および住んでいる地域により入院する病院を決め,その病院と手術の日時などについて契約していた.したがって,1人の外科医は通常数カ所の病院で手術を行うことになる.

研修医セミナー 一般外科手術記録の書き方

Lesson13(最終回) 肝右葉切除術(Right Hepatic Lobectomy)

著者: 小越章平

ページ範囲:P.1895 - P.1899

Ⅰ.記載のポイント
1.麻酔。
2.皮膚切開。
3.開腹時所見。
4.癌主病巣。
5.肝臓部分切除。
6.ドレーン,閉腹。
7.患者の状態,結び。

心の行脚・15

臓器移植—人間学からの私見

著者: 井口潔

ページ範囲:P.1900 - P.1901

 脳死は個体死か? 然り.脳死の判定は誤りなくできるか? できる.臓器提供について家族の同意があり,移植希望のrecipientがあり,移植医による十分なinformed consentがなされているなら,臓器移植の推進に何の異論もないはずなのに,依然として社会の合意性等に低迷がみられるのはなぜだろうか.この点について,今,話題の心・肝・腎等の臓器移植に必ずしも限定せず,これからの胎内診療,胚移植,ヒト・ゲノムプロジェクト等の先進医療技術,あるいは医学以外の先進技術の問題を含めて,私見を申し述べてみたい.

膵臓手術の要点—血管処理からみた術式の展開・6

慢性膵炎の手術

著者: 加藤紘之 ,   田辺達三 ,   下沢英二 ,   児嶋哲文 ,   奥芝俊一 ,   中島公博

ページ範囲:P.1903 - P.1905

はじめに
 慢性膵炎に対する手術は疼痛の除去を主目的として行われるが,その適応を決めるにあたっては外科医のみならず,内科医,精神科医との協力体制のもとに合議されるべきである1).また,術後の社会復帰などについて,ケースワーカーとの連絡も密にしておく必要がある.
 胆管狭窄,膵仮性嚢胞,動脈瘤,門脈閉塞などの合併症を有する場合は,疼痛の有無にかかわらず,手術あるいは他の治療法の適応を判断することになる.

一般外科医のための形成外科手技・24

耳下腺部の手術と顔面神経の処理

著者: 波利井清紀

ページ範囲:P.1907 - P.1913

はじめに
 一般外科医のための形成外科手技シリーズを本誌に連載してすでに24回になる.この間,できるだけ形成外科専門医以外の外科医にも役立ちそうな手術手技や治療法を紹介してきた.
 本連載の冒頭でも述べたように「形成外科はできるだけ組織をatraumaticに扱う」点で,基本的な手術用器具,縫合糸の類なども一般外科のものとは異なっているが,「手術を行う」という実際面においては多くの共通点がある.また,両科でそれぞれに同一の疾患の治療も行われることもあるが,案外一般外科医が不得意とするものに神経に対する処理がある.これは神経が圧挫や牽引といった外力により容易に麻痺を起こすので,気がつかないうちに麻痺を起こすといったにがい経験を持つためであろう.
 ここでは両科にまたがって治療される耳下腺の腫瘍や外傷と顔面神経の処理を例にとり,末梢神経に対する形成手技を紹介する.

臨床報告

後腹膜黄色肉芽腫の1例

著者: 金丸洋

ページ範囲:P.1915 - P.1918

はじめに
 黄色肉芽腫は,肺・腎・脾・虫垂・卵巣・肝・膀胱・胆嚢および後腹膜などに発生する腫瘍で,多彩な組織学的所見を示す.後腹膜における報告例は少なく,特徴的臨床所見を欠くため術前診断が難しい.多くは良性であるが,再発死亡例の報告もあり,注意が必要である.
 今回,後腹膜に発生した黄色肉芽腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

胸部中部(Im)食道に発生した原発性腺様嚢胞癌の1例

著者: 木之下藤郎 ,   吉中平次 ,   今村博 ,   森永敏行 ,   草野力 ,   馬場政道 ,   福元俊孝 ,   島津久明

ページ範囲:P.1919 - P.1923

はじめに
 腺様嚢胞癌(Adenoid cystic caacinoma)は唾液腺,上気道,乳腺などにみられるが,食道発生はきわめて稀で,内外の文献をあわせても54例の報告をみるにすぎない.また,食道の腺様嚢胞癌は唾液腺のそれに比べ,組織学的にも臨床的にもはるかに悪性度が高いとされ,このことにも関連して,従来もっとも支持を得ていた食道固有粘液腺やその導管上皮から発生するという考えに対し,最近では,被覆扁平上皮由来説や上皮基底層あるいは類似の未分化な細胞由来とする説もみられ,いまだに発生母地に関する定説がない。報告例の多くはStage Ⅲ,Ⅳの進行した段階で治療され,広範な血行性,リンパ行性転移で死亡している.
 今回,深達度が粘膜下層にとどまる,比較的早期の本症1例を経験した.典型的な篩状構造(cribriformpattern)と同時に,充実性癌胞巣部分,主に上皮内にとどまる扁平上皮癌あるいは基底細胞癌類似の部分も認められ,多彩な組織像を示した.患者は術後1年6ヵ月を経過した現在,再発の徴候もなく健在である.発生母地や予後に関する文献的な考察を加えて報告する.なお,所見の記載は食道癌取扱い規約1)に従った.

術前に診断し得た旁十二指腸ヘルニアの1例

著者: 町田純一郎 ,   青山公直

ページ範囲:P.1925 - P.1928

はじめに
 旁十二指腸ヘルニアは,Treitz靱帯周囲の腹膜窩に腸管が入り込む形をとる内ヘルニアであり,比較的稀な疾患である.
 また,本症はいわゆる急性腹症として発症する場合がほとんどで,その術前診断は困難とされている.今回,われわれは,小腸造影により,術前に診断し得た右旁十二指腸ヘルニアの1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

小腸結節形成による絞扼性イレウスの1治験例

著者: 日下貴文 ,   大久保哲之 ,   立石直 ,   中山至 ,   加藤紘之 ,   田辺達三

ページ範囲:P.1929 - P.1932

はじめに
 腸管の結節形成によるイレウスは稀な疾患であり,そのなかでも小腸結節形成は極めて少ないとされている.今回,われわれは,17歳女性の小腸結節形成による絞扼性イレウスの1症例を経験し,腸切除を施行することにより救命し得たので,文献的考察を加えて報告する.

腹壁再建を要した隆起性皮膚線維肉腫の1例—腹壁広範囲切除とTFL m-c flapによる再建

著者: 吉田秀也 ,   白井洋司 ,   百束比古 ,   文入正敏 ,   青木見佳子 ,   望月功 ,   土屋嘉哉

ページ範囲:P.1933 - P.1935

はじめに
 隆起性皮膚線維肉腫(Dermatofibaosaacoma pro-tuberans;以下DFSP)は,皮膚科領域では必ずしも稀な疾患とはいえないが,初期治療を誤ると再発をくり返し,治療に難渋する皮膚腫瘍である.今回われわれは,下腹部手術創瘢痕上に再発をくり返したDFSPの1例を経験し,広範囲摘出,および腹壁再建を施行したので,文献的考察を加え報告する.

手術手技

Buerger病に対する後脛骨静脈のarteriovenous reversal術式

著者: 陳立章

ページ範囲:P.1937 - P.1940

はじめに
 Buerger病は中国では頻度の高い疾患であるが,未だに理想的な治療方法がなく,特に膝窩動脈分枝閉塞では治療が困難である1,2)
 近年,自家大網移植術による良好な成績が報告されているが1〜4),多くの場合,Buerger病は両下肢動脈の閉塞性病変であるので,単一の大網移植術を採用しても治癒を図ることが困難である.これに対して,Gra-hamとSymesはarteriovenous reversa1術式を採用することによって下肢の虚血状態を改善することができることを報告した5,6)
 1987年2月より,われわれはBuerger病の膝窩動脈分枝閉塞に対して顕微鏡下に後脛骨静脈のarterio-venous reversalを行う術式を16例に施行し,非常に良好な成績を得た.この方法についてはまだ報告がみられないので,その手術法や治療効果などを紹介する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?