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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科45巻7号

1990年07月発行

雑誌目次

特集 外科医のための整形外科

鎖骨骨折と肋骨骨折

著者: 小川清久

ページ範囲:P.809 - P.815

 鎖骨骨折は頻度が高く,若年者に好発する.介達外力により発生するものが多く,80%以上は骨幹部に生じる.骨癒合能力が高いので保存的治療が原則であるが,外側骨折II型は観血的整復固定を要する.また開放骨折と神経血管束損傷の合併例は緊急に観血的治療を要するので,速やかに整形外科医と連携をとるべきである.
 肋骨骨折は,外力により発生するものが多いが,自家筋力による骨折や疲労骨折もしばしば見られる.外力による骨折では血・気胸など合併損傷が多い.保存的治療が原則で,骨癒合を得ることもさることながら,胸郭の運動不全による無気肺・肺炎の予防が主目的となり,十分な鎮痛と生活指導が必要である.

前腕骨骨折

著者: 平山隆三

ページ範囲:P.817 - P.824

 肘関節,前腕部は上腕と手との間の機能的連結を行い,正確敏速な動きと繊細な感覚を有する手を,肩の運動を介して空間中に保持する役目をしている.前腕部の骨折の治療に際しては,前腕部の回旋の保持と肘関節,手関節の可動域の獲得が重要である.前腕骨骨折は日常しばしば遭遇する骨折であるが,その解剖学的特殊性を理解して正確な診断,適切な治療と早期の機能訓練を行わないと日常生活動作に著明な機能障害を残す.

指趾骨骨折と中手中足骨骨折

著者: 佐々木孝

ページ範囲:P.825 - P.831

 日常臨床において手・足の外傷を取扱う頻度は高く,救急外来や一般外科の診療所で,整形外科医のいない状態で初期治療が行われる可能性は高い.そのような場合にもっとも問題となるのは,整形外科もしくは手の外科の専門医に相談すべきなのはどのような病態の場合かという疑問であろう.本稿は,中手骨・中足骨を含む指・趾の骨折と関節外傷について,個々の部位の特徴を解説するとともに,保存療法中心でX線上の再転位について監視するのみでよいものと,経皮ピンニングや観血的整復が必要で専門医と相談しながら治療した方がよい場合を明確にすることを目的とした.

胸腰椎圧迫骨折と脊椎骨粗鬆症

著者: 芝啓一郎 ,   香月正昭 ,   植田尊善 ,   白澤建蔵 ,   村尾哲 ,   森英治 ,   大田秀樹 ,   吉村豊暢 ,   力丸俊一 ,   弓削至

ページ範囲:P.833 - P.839

 脊椎外傷のなかで,いわゆる圧迫骨折は日常よく遭遇する骨折型であるが,この診断のもとに画一的な治療が行われる傾向にある.なかでも,粉砕骨折との混同はきわめて問題である.椎体の後方骨皮質の骨折と骨片の脊柱管内嵌入を来し,しばしば麻痺を合併する粉砕骨折は圧迫骨折と明確に鑑別すべきである,軽微な外傷により,または誘因なく生じる脊椎骨粗鬆症に合併した椎体骨折例においても粉砕骨折例がみられ,高度の脊柱後彎変形や遅発性麻痺を合併することも稀でなく,骨傷型によって治療法を選択すべきである.

大腿骨頸部骨折

著者: 河内貞臣

ページ範囲:P.841 - P.846

 大腿骨頸部骨折は老人,特に女性に多く発生する骨折であり,高齢化社会の出現とともに日常の診療において遭遇する機会はますます増加している,この骨折を機会に動けなくなり,寝たきり老人になる危険も高いなど整形外科領域でも重要な骨折である.
 診断はさほど難しくはないが,治療は難しく,解剖学的,力学的条件からみても骨癒合の最も起こりにくい骨折の1つである.老人が多いために治療後の生活能力が骨折前の状態に戻ることも難しい.
 内側型(femoral neck fracture)と外側型(trochanteric fracture)の2つに大別され,外側型は比較的骨癒合が良いのに対し,内側型は骨癒合率が悪く偽関節を作ることが多い.また癒合しても治癒後1〜2年すると大腿骨頭の壊死を生じ,股関節の疼痛と機能障害を招くことが多い.

肩関節脱臼

著者: 尾崎二郎

ページ範囲:P.847 - P.853

 肩関節脱臼は人体の関節の中で最も発生頻度が高く,整形外科を代表する疾患の一つである,外傷性肩関節脱臼は,①前方脱臼,②後方脱臼,③垂直脱臼に大別されるが,90%以上は前方脱臼で後方脱臼は少なく,垂直脱臼はきわめて稀である.外傷性肩関節前方脱臼は再発しやすく,初回脱臼徒手整復後の外固定は重要である.また,本症は骨傷の他に腋窩神経麻痺の合併や中・高齢者での初回脱臼で腱板断裂の合併の可能性があるので見逃してはならない.さらに肩の動的安定性を形成している多くの因子が障害されると,肩関節脱臼までには至らなくとも,さまざまな「ゆるい不安定な肩」を生じることになるので肩関節脱臼との鑑別上重要となる.

肘脱臼と肘内障

著者: 水関隆也 ,   大森啓司

ページ範囲:P.855 - P.860

 肘脱臼は救急診療において時に遭遇する疾患であるが,肘関節構築に与える損傷は甚大であり単に整復して治療が終わるものではない.整復操作から後療法,合併症に対する注意を含めて慎重な治療が望まれる.
 一方,一般的に「肘が抜けた」と呼ばれる肘内障は幼小児にはよくみられる疾患であるが,いわゆる「肘脱臼」とは異なりX線写真を撮っても脱臼などの異常所見は見あたらない.肘内障は整復のコツを心得ておれば整復も簡単で,肘脱臼とは後療法も予後も異なる.
 本稿では肘脱臼,肘内障それぞれについて病態,治療法,治療にあたっての注意点などを述べる.

膝内障

著者: 古賀良生

ページ範囲:P.861 - P.867

 膝内障は半月の損傷・障害,靱帯の損傷・障害,および関節軟骨や滑膜の障害や腫瘍など膝関節における損傷や障害の総称として用いられている.近年,わが国において青少年のスポーツ障害として膝関節障害は増加し,膝内障の正確な診断と適切な治療が必要とされている.受傷時の膝血症の有無は重要で,これを認めた場合は,膝前十字靱帯損傷と膝蓋骨脱臼との鑑別が重要となる.膝内障の診断において関節鏡検査が非常に有用であり,これを用いた鏡視下手術も一般化し術後治療期間が短縮された.半月損傷や膝前十字靱帯の手術適応は,スポーツなどでの活動制限の大きさと将来必要とされる膝機能についての総合的判断のもとになされる必要がある.

アキレス腱断裂

著者: 萬納寺毅智

ページ範囲:P.869 - P.873

 アキレス腱断裂の診断には,受傷時の動作・断裂音など現病歴の聴取がまず第一となる.診察では,陥凹の触知・Thompson�s squeeze testで足関節の底屈をみないことの2点が最重要である.ベタ足歩行ができるからといって軽率に見逃してはならない.クラブ活動レベル以上のスポーツ選手では筋力の低下・再断裂の面から考えて手術療法を選択する.術後の再断裂は5〜7週に多くみられる.この時期では注意を要す.予防として,以前からの慢性のアキレス腱痛をもっていた症例もあるので,同部の疼痛を有するものは完治するまで全力でのスポーツ活動は控えたほうがよい.

ばね指と腱鞘炎

著者: 荻野利彦

ページ範囲:P.875 - P.879

 腱鞘炎にはいくつかの原因があるが,最も多いのは繰り返しの手指の使用による機械的な刺激によるものである.この中には指の屈筋腱鞘炎やDe Quervain病と呼ばれる伸筋腱の腱鞘炎がある.指の屈筋腱腱鞘炎により腱に対する腱鞘の相対的な狭小化が起こると,指の屈伸の際に弾撥現象が起こる.これらは“ばね指”と呼ばれる.ばね指は,成人と乳幼児に発症し,両者は病態が異なっていると考えられている.その他に慢性関節リウマチによる腱鞘炎,結核性腱鞘炎や他の細菌による化膿性腱鞘炎などがある,腱と腱鞘の解剖および代表的な腱鞘炎の臨床症状,診断および治療について述べる.

膝関節水症

著者: 水島斌雄

ページ範囲:P.881 - P.884

 膝関節水症は,いわゆる「膝に水がたまっている」状態で,膝関節疾患にしばしばみられる病態であるが,その本態は何らかの原因によって生じた滑膜炎による関節液の過剰な貯溜である.その原疾患としては,ほとんどの膝関節疾患が原因となり得るが,なかでも変形性膝関節症と慢性関節リウマチが頻度も高く,臨床的に重要な位置を占めている.
 したがって,関節水症の診療に際しては,漫然と関節穿刺やステロイド注入を繰り返すことなく,原疾患の正しい診断とそれに対する処置を行うことが肝要である.

外反母趾

著者: 山本晴康

ページ範囲:P.885 - P.890

 外反母趾は足の第1趾が第1中足趾節関節で基節骨が外反・内旋し,第1中足骨が第1足根中足関節で内反し,中足骨骨頭が内側に突出している変形である.症状として中足骨骨頭の内側に圧痛と腫脹(滑液嚢炎)があり,足底に腓胝が生ずる.成因としては,遺伝,性,扁平足,第1中足骨の内反,履物,炎症,麻痺,関節弛緩などがある,靴や自動車の普及のせいか,近年外反母趾は増加している.保存的療法としては適切な靴を覆くことと,足部の筋肉を鍛えることや装具などがあり,観血的療法としては第1中足骨内側の骨膨隆部の切除と内側関節包の縫縮と母趾内転筋腱の移行や骨切り術(基節骨,中足骨)や関節形成術(基節骨底部切除,中足骨骨頭切除,人工関節置換術)や関節固定術などがある.

腰痛症—診断を中心に

著者: 中野昇

ページ範囲:P.891 - P.894

 腰痛患者が来院すると,患者が訴えている症状と成書に記載されている症状とを比較し,X線写真の変化に比べて,それに似た病名を探して診断をつけがちである.しかし,治療はその原因が何であるにせよ,一般には局所注射,湿布さらに骨盤牽引などがまず行われる.これらの治療法があまり効果なくても,そのまま長期間続けているか,あきらめて整形外科に転医させることが多い.その結果,腰痛の治療は困難であると思っている.何がその原因になっているか考え,適切に対処するならば,腰痛の治療はそれほど困難なものではなく,保存的療法で十分効果をあげることができる.

カラーグラフ Practice of Endoscopy 胃・十二指腸内視鏡シリーズ・Ⅳ

急性出血と内視鏡像

著者: 鈴木茂 ,   笹川剛 ,   春木宏介 ,   橋本洋 ,   光永篤 ,   勝呂衛 ,   村田洋子 ,   長廻紘

ページ範囲:P.803 - P.806

 胃十二指腸という臓器からのあらゆる出血を総称して胃十二指腸出血というが,その出血源や出血形態はさまざまである.そこで,ここではどんな病変が出血源となるか,その出血の状況はどんなものかを,緊急内視鏡検査や通常の内視鏡検査の像を通して供覧してみたい.

イラストレイテッドセミナー 一般外科手術手技のポイント

Lesson 23 食道アカラシアに対する外科手術(Esophagocardioplasty for Esophageal Achalasia)

著者: 小越章平

ページ範囲:P.897 - P.901

食道・胃接合部における7つの生理的逆流防止機構
 食道アカラシアの原因は,現在でも不明である。食道筋層は内輪・外縦層ともに肥厚し,筋層にあるべきAuerbach神経叢細胞が変性または消失している病態である。

心の行脚・10

エントロピーの法則

著者: 井口潔

ページ範囲:P.902 - P.903

 私は大学を出て約10年間程,理学畑の研究室で過した.医学部出身者が理学部の研究室にいるのだから,先方も何となく客分扱いである.こちらも好き勝手なことをしていればよいので,まず旧制高校時代の物理の教科書を引っ張り出して,そこに出ている数式の誘導を自分でコツコツとやってみた.学校時代は試験のための勉強だったが,今は誰から要求されているわけでもない.時間がかかっても構わない.微積分のやり方も思い出し,理学部学生の講義も後の席で聴講した.
 そのとき,熱力学の法則に妙に心を惹かれた.

一般外科医のための形成外科手技・19

乳房への整容的アプローチ

著者: 山田敦

ページ範囲:P.905 - P.910

はじめに
 乳房は女性のシンボルとして注目される部位であり,先天的あるいは後天的原因により変形または喪失を来すと,外観的な問題のみでなく精神的苦痛も大きい.以前より欧米においては乳房縮小術,本邦では乳房増大術は美容外科的に行われていたが,乳癌切除後の乳房再建は組織切除量が大きいため困難であった.近年,形成外科における皮弁の概念の進歩により,大きな筋皮弁が採取可能となり,安全確実に乳房再建が可能となった.これに伴い,乳癌切除後,社会復帰する女性も増え,さらに積極的に術前と同じ社会生活をおくるため,乳房再建を希望する女性も増加している.
 現在では,乳房および胸壁軟部組織の欠損状態に応じて種々の再建術式が選択できるようになり,良好な結果が期待できるようになっている.しかし,乳房再建は形態の再建であり,再建結果に対する術後評価が医者と患者の間で異なることがある,術後不本意なトラブルを起こさないように,再建前に各術式の方法,利点欠点,手術のために新たに生じる瘢痕など十分説明しておくことは重要である.

膵臓手術の要点—血管処理からみた術式の展開・1【新連載】

膵臓手術に必要な血管の走行と変異

著者: 加藤紘之 ,   田辺達三 ,   下沢英二 ,   児嶋哲文 ,   奥芝俊一 ,   中嶋公博

ページ範囲:P.911 - P.914

はじめに
 膵臓手術が極めて困難とされた時代から,比較的身近な臓器として扱われるようになるまでの間には,多くの先達の絶え間ない努力の積み重ねがあったことを忘れることはできない.超音波検査,CTスキャンなどの進歩と普及に伴い膵臓疾患の診断能は格段の進歩をとげつつあり,精密な血管造影は疾患の鑑別能をさらに高めている.その背景にある生化学的検索が,機能面からみた治療法の選択に大いに寄与していることはもちろんである.このような診断部門の発達に伴って,外科医に要求される膵臓手術の難易度も変わってきており,より的確な術前・術中判断と,術後の機能をも考慮した術式の選択が課題となってきている.
 このシリーズでは,多種多様な膵臓手術に対応しうる手技上の課題を,特に血管処理面からとらえ,手技の実際と損傷時の対処法などについて述べる1〜5)

臨床報告

ネフローゼ症候群を合併した第3群リンパ節転移陽性の多発早期胃癌の1例

著者: 山根祥晃 ,   菅沢章 ,   万木英一 ,   阿部重郎 ,   大東恭子 ,   松井克明

ページ範囲:P.915 - P.919

はじめに
 ネフローゼ症候群が発症してくる程の大量の蛋白尿の病態の裏には,しばしば悪性腫瘍が潜んでいることがある.そのうち,ネフローゼ症候群を合併した胃悪性腫瘍の本邦報告例は1969年から1988年までの20年間に24例であった.今回,われわれはネフローゼ症候群の経過中に発見された,第3群リンパ節転移陽性の多発早期胃癌の1例を経験したので報告する.

術前局在診断にbolus computed tomographyが有効であったインスリノーマの1例

著者: 近藤秀則 ,   河田憲幸 ,   近藤正美 ,   柏野博正 ,   三村久 ,   折田薫三

ページ範囲:P.921 - P.924

はじめに
 インスリノーマは膵Langerhans島B細胞原性のインスリン自律分泌を来す膵内分泌腫瘍である.本腫瘍は小さいものが多く,外科手術においては確実な局在診断が重要である1).最近,われわれはインスリノーマの1例を経験し,その術前局在診断にbolus computed tomography(以下,bolus CT)が有効であったので報告する.

歩行困難を来した巨大腹壁瘢痕ヘルニアの1例

著者: 二村学 ,   田中千凱 ,   深田代造

ページ範囲:P.925 - P.927

はじめに
 外科手術に伴う医原性合併症のひとつに腹壁瘢痕ヘルニアが挙げられる.最近著者らは,下腹部手術後47年を経た巨大な腹壁瘢痕ヘルニアによりこれを支えきれず,歩行困難を来した1症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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