icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科46巻10号

1991年10月発行

雑誌目次

特集 胆石症の非手術的治療—現況と問題点

胆石症治療における外科の役割

著者: 鈴木範美

ページ範囲:P.1191 - P.1193

 今日わが国では大学ならびに各医療施設の外科部門,または内科部門でも胆嚢結石症の治療として積極的に腹腔鏡下胆嚢摘出術(Laparoscopiccholecystectomy:“ラパコレ”)を実施している.今や“ラパコレ”という一見聞き馴れない言葉が理解できないと時代遅れの感さえある.実に恐ろしいほどのスピードで普及したものである.
 従来胆石症,とくに胆嚢結石症の治療は「胆嚢を含めて胆石を摘出するのが妥当である」とした歴史的に有名なドイツ外科学会の論争以来,約1世紀にわたり開腹術による胆嚢摘出術が優先されてきた.

経口溶解薬療法

著者: 千葉俊也 ,   松崎靖司 ,   大菅俊明

ページ範囲:P.1195 - P.1200

 近年,胆汁酸による経口胆石溶解療法の有効性と安全性が確認され,胆石症の非手術的療法は大きく進歩した.しかし,実際には経口胆石溶解療法には適応の限界があること,適応症例においても完全溶解に至る患者が思ったほど多くないことなどの問題点が出現している,経口胆石溶解療法に際しては,超音波,CT検査などにより胆石の質的診断をより的確に行い,適応症例に本治療法を行うこと,胆石溶解に必要十分な投与期間を設け,また患者にも守らせること,などが肝要である.胆石溶解後の再発予防,ESWL後の補充療法としての胆汁酸投与の位置づけが今後の課題と考えられる.

直接溶解療法

著者: 梶山梧朗 ,   田妻進 ,   伊藤正樹

ページ範囲:P.1201 - P.1208

 近年臨床に登場したmethyl tert-butyl-ether(MTBE)による胆石直接溶解療法を紹介する.本法は,胆嚢ドレナージを必要とする,コレステロール胆石にのみ有効であるなどの制約があるが,経口溶解剤,体外衝撃波などに比べると,消失までの時間が短く,胆石消失率がきわめて高い(96%).

体外衝撃波胆石破砕療法(ESWL)—スパーク放電式による

著者: 跡見裕 ,   森俊幸 ,   元吉誠 ,   杉山政則 ,   松村健三 ,   武藤徹一郎 ,   森岡恭彦

ページ範囲:P.1209 - P.1214

 1986年,ミュンヘン大学グループよりスパーク放電式による体外衝撃波胆石破砕療法(ESWL)が報告され,これは新しい非侵襲的治療法として大きな期待をもって迎えられた.その後,圧電方式などによる機種が開発され,わが国においても世界に先駆けて広範な臨床応用が開始された.一連の検討から,治療成績が当初報告されたほどの胆石消失率を得るに至らず,成績の差が機種によるものでないことなどが明らかとなった,この間に腹腔鏡下胆摘術が考案されて,ESWLの存在価値に若干の疑問が投げかけられるようになった.本稿では,このような現況を踏まえ,胆石治療におけるESWLの役割を,特にスパーク放電方式の臨床結果を中心に報告する.

ピエゾ効果方式体外衝撃波治療—特徴と適応

著者: 西荒井宏美 ,   土屋幸浩 ,   夏木豊 ,   三上繁 ,   國行洋史 ,   大藤正雄

ページ範囲:P.1215 - P.1220

 ピエゾ効果方式の特徴は,鎮痛処置を必要とせず,治療を繰り返すことで治療成績が向上することである.胆嚢胆石症226例の治療成績は以下のとおりである.破砕無効は頸部嵌頓11/16例,IIb型含気胆石10/13例,III型分葉型5/5例,IIa型全体均一石灰化6/8例,二重石灰化2/2例であった.完全消失例の治療回数1〜11回(平均4±2回),破砕完了後平均3±5ヵ月で消失した.エコーI型非石灰化単数個胆石の完全消失率76%であった.la型の完全消失率は83%であり,20mm以下では92%であった.胆嚢収縮良好群の完全消失率は48%と不良例の17%と比べ有意に良好であった.重篤な合併症は認められなかった.

内視鏡的切石法—経肝的切石法

著者: 山川達郎

ページ範囲:P.1221 - P.1227

 肝外胆管結石の治療法として,経皮経肝的アプローチ法の適応は,経十二指腸的アプローチ法では困難な巨大胆管結石や,胃切除施行B-ll法再建例あるいはEST切石法失敗例に限るべきである.しかし肝内結石症では,肝切除不能例は無論,肝切除施行例においても結石が遺残することが多いので,経皮経肝的アプローチ法は不可欠な治療法であると同時に,術前に病態の正確な評価が可能であるため適切な治療方針の設定にも役立つ.一方,肝切非適応例においても,完全に切石することで良好な予後が期待できるので,結石が残存する時には繰り返し行い得る胆道鏡の利点を駆使して完全切石に努めるべきである.本稿では,それに必要な経皮経肝的胆道鏡と切石法の手技を併せ解説した.

経十二指腸的切石法

著者: 田中雅夫 ,   小川芳明 ,   池田靖洋

ページ範囲:P.1229 - P.1236

 891例の胆石症に内視鏡的乳頭括約筋切開術による非手術的治療を行い,99.3%の切開,93.6%の結石除去に成功した.早期合併症は73例(8.2%)に生じ,2例(0.2%)が死亡した.89%では先端の長いナイフの胆管内挿入に成功したが,残りはプレカットを要し,その場合の急性膵炎の発生率は選択的挿管ESTの約4倍であった.37%が傍乳頭憩室を有したが,穿孔は経験しなかった,結石摘出困難例では,機械式(79例)または電気水圧(8例)砕石術を,またPTCSの併用を5例に行った.5年以上経過例の11.2%に胆管結石の再発がみられた.胆嚢温存例の急性胆嚢炎は有石例のみで20%に生じた.ESTは胆管結石の安全な治療法となり,長期予後もほぼ満足できるものであるが,胆管内挿管不能例の克服,再発の予防,巨大結石の処置などに問題が残されている.

カラーグラフ Practice of Endoscopy 大腸内視鏡シリーズ・Ⅱ

ポリペクトミー カルチノイドの取扱い

著者: 曽我淳 ,   工藤進英 ,   大坂道敏

ページ範囲:P.1185 - P.1188

はじめに
 消化管カルチノイドは,浸潤性の上からも,また統計学的に転移率の上からも,いわゆる通常癌に劣らない悪性性格を持っている1)とされている.近年,通常癌でも早期のものに対して,ポリペクトミーの適応が拡大されてきており,粘膜内に限局する小病変に対しては内視鏡的粘膜切除法の適応さえ検討されている2)
 消化管カルチノイドに対する治療は通常癌に準じて行われるとされる論拠は早期のものについても例外ではない.カルチノイドの生物学的悪性性格の実態を理解し,適応を誤まらないことが重要であろう.

外科系当直医のためのDos & Don'ts・10

腹部外傷

著者: 露木靜夫 ,   鈴木篤 ,   高重義 ,   野水眞

ページ範囲:P.1241 - P.1245

 腹部外傷患者ではさまざまな臓器の損傷が考えられるが,見逃してはいけない病態として,次の2つをまず念頭に置く.
 1)腹腔内出血…出血性ショック(=実質臓器損傷)
 2)汎発性腹膜炎…敗血症性ショック(=管腔臓器損傷)

小児外科医の独白・10

続・神経芽細胞腫

著者: 角田昭夫

ページ範囲:P.1246 - P.1247

 英国の小児がん包括医療 先月号から紹介している“Children First and Always”より.
 精神的重圧 Annaが入院したがん病棟“3AB”に入院中のほとんどのこどもが禿頭であり,輸液チューブと点滴瓶をつけているのを見て,まず両親はショックを受ける.この病棟は重症病棟として知られ,入院したこどもの半分が死亡するという事実は,そこに働く看護婦にとってすら精神的重圧である.

海外だより ボストン留学記・2

アメリカ留学者の苦悩

著者: 小西敏郎

ページ範囲:P.1249 - P.1251

研究室での実験
 留学中の8ヵ月間の短い期間ではあるが,ニューイングランド・ディコネス病院の外科および放射線科の研究室でbiochemical modulationの基礎実験を行うことができた.ヒト大腸癌培養細胞を用いてメソトレキセートによる5フルオロウラシルの効果増強について,最新のサルフォローダミンB法を用いて基礎検討を行った.これまでのわれわれの臨床研究では,胃癌ではメソトレキセート/5-FU時間差療法は未分化型の組織型を有する胃癌に有効であるとの結果を得ているが,大腸癌培養細胞でも未分化型癌に対してメソトレキセート先行投与が5-FUの効果を増強する実験結果が得られた.
 新しい手法を学びながら,幸い今回の留学期間中にまとまった実験結果が得られたのであるが,しかし,最初に実験を始めるまでが紆余曲折の連続であった.私の留学期間は8ヵ月と,研究室で新しいテーマで実験を始めるにはやや短く,また私の留学したSteele教授の外科の研究室は診断や転移のメカニズムに関する基礎研究を中心に取り組んでおり,化学療法の基礎研究はまったく行われていなかった.それでニューイングランド・ディコネス病院の外科研究室の実務責任者であるJessup助教授に,私がSteele教授の研究室で実験することを承諾してもらえなかった.

前立ちからみた消化器外科手術・6

胆道良性疾患手術における前立ちの基本操作

著者: 早川直和 ,   二村雄次

ページ範囲:P.1253 - P.1259

 胆嚢結石症,総胆管結石症をはじめとする胆道良性疾患の手術は,結石の状況,炎症の程度などにより様々な病態を呈し,一方ではCalotの三角部付近には解剖学的なvariationが多いため,その手術の難易度は一様ではない.各症例の病態,および解剖学的知識をしっかり把握した上で手術に臨まなければならない.
 今回は,胆嚢摘出術,総胆管切開,胆管空腸吻合術を中心に前立ちの基本操作について述べる.

臨床研究

術後メチシリン・セフェム耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)腸炎の検討—塩酸バンコマイシン経口投与の効果

著者: 岩瀬和裕 ,   竹中博昭 ,   西村好晴 ,   矢倉明彦 ,   吉留克英 ,   大嶋仙哉

ページ範囲:P.1261 - P.1264

はじめに
 消化器外科手術後のメチシリン・セフェム耐性黄色ブドウ球菌(以下,MRSA)腸炎はしばしば治療に抵抗性で,重篤化する場合も多い1〜3).本症に対しては迅速な対応が望まれるが,便中細菌培養ならびに抗生剤感受性結果を得るためには1週間近くを要し,治療開始が遅れる症例が存在することが懸念される.本症に対する十分に有効な治療方法は今なお確立されていない.
 最近当科では,術後早期の重症下痢に対して,便培養結果を待たずに塩酸バンコマイシン(以下,VCM)を積極的に経口投与している.最近の消化器外科手術後のMRSA腸炎症例について,VCM経口投与の効果を中心に検討した.

腎性上皮小体機能亢進症—術後再発例の検討

著者: 神保雅幸 ,   佐藤孝臣 ,   三浦一章 ,   前山俊秀 ,   天田憲利 ,   岡崎肇

ページ範囲:P.1265 - P.1271

はじめに
 近年,種々の患者管理の進歩により慢性腎不全患者の長期生存が可能となっている.これらの患者の避けがたい合併症の1つに腎性上皮小体機能亢進症(sec-ondary hyperparathyroidism;II゜HPTと略す)がある.本症の治療の原則は内科的保存的治療であるが,高度の場合には,患者のquality of lifeの障害ともなるため外科的治療が必要であり,その適応症例も増加している.しかし,本症における外科的治療が根本的治療でないゆえに,術後再発が1つの問題となる.1施設における手術症例に,術後再発の面より検討を加え報告する.

臨床報告

胃楔状切除を施行したDieulafoy潰瘍の1治験例

著者: 林裕之 ,   森善裕 ,   川瀬裕志 ,   龍沢泰彦 ,   橋本琢生 ,   藤岡重一 ,   石田一樹 ,   山田哲司 ,   北川晋 ,   中川正昭

ページ範囲:P.1273 - P.1276

はじめに
 近年の出血性胃潰瘍に対する内視鏡技術の飛躍的進歩により,胃体上部を中心に発生するDieulafoy潰瘍1)の診断例が著増し,また外科手術に替わり内視鏡的治療の有用性が広く認められるようになった2).しかし,内視鏡的治療無効例や止血後再燃を繰り返す症例もときに認められ,それらのほとんどが胃切除術の対象となっている3).今回われわれは,保存的療法に抵抗して出血を繰り返すDieulafoy潰瘍に対し,術前のマーキング後,楔状切除を確実に施行し得た1例を経験したので報告する.

胃十二指腸Crohn病の1例

著者: 小林達則 ,   藤井喬夫 ,   毛利宰 ,   岡信孝治 ,   松岡佳子 ,   粟井泰通

ページ範囲:P.1277 - P.1281

はじめに
 Crohn病は全消化管を侵す原因不明の慢性炎症性疾患であるが,上部消化管病変の報告は極めて少ない.今回,われわれは難治性胃十二指腸潰瘍と球後部狭窄の診断のもとに胃切除術を施行し,術後,胃十二指腸Crohn病(以下,本疾患)の確診を得た1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

虫垂Crohn病の1例

著者: 中川国利 ,   桃野哲 ,   佐々木陽平 ,   古沢昭 ,   氏家紀一

ページ範囲:P.1283 - P.1286

はじめに
 Crohn病は消化管のどの部位にも発生しうる疾患であるが,虫垂に限局したCrohn病の報告例は非常に稀である1)
 最近われわれは,虫垂切除後に判明した虫垂Crohn病の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

大腸平滑筋腫の2例

著者: 田中千凱 ,   大下裕夫 ,   加地秀樹

ページ範囲:P.1287 - P.1290

はじめに
 消化管に発生する腫瘍の多くは上皮性腫瘍であり,非上皮性腫瘍は少ない.非上皮性腫瘍である平滑筋腫は,その大部分が上部消化管に発生し,大腸にみられることは比較的稀である.われわれは,腹部腫瘤で発見された盲腸平滑筋腫の1例と,肛門部疼痛により発見された直腸平滑筋腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Proliferating trichilemmal cystの1治験例

著者: 芳野裕明 ,   鎌谷正博 ,   黒川賢 ,   辻昭 ,   桑原秀樹 ,   小林庸次

ページ範囲:P.1291 - P.1293

はじめに
 Proliferating trichilemmal cyst(以下,PTC)は比較的稀とされるが,近年その報告は増加してきている.PTCは,主に中年以後の女性の被髪頭皮に好発する角化性腫瘍であり,組織学的には外毛根鞘への分化傾向を示す特徴がある.今回われわれは典型的なPTCの1例を経験したので,若干の文献的考察とあわせて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?