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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科46巻13号

1991年12月発行

雑誌目次

特集 院内感染—現状と対策

臨床細菌の立場からみた最近の院内感染

著者: 菅野治重

ページ範囲:P.1449 - P.1453

 院内感染の危険性は,細菌側の要因として,菌種固有の病原性,ヒトへの定着性,抗菌剤・消毒剤に対する耐性,などが重要であり,患者側の要因としては易感染性の程度が重要である.易感染性では,全身的な条件としては,基礎疾患,白血球数,免疫抑制療法などが,局所的な条件としては,熱傷,創傷,術創,慢性気道疾患などが重要である.院内感染対策を論じる場合,これらの因子を菌種別に考慮する必要がある.院内感染の原因菌として,S.aureus,P.aeruginosa, S.marcescens, P.cepacia,などが問題となってきたが,現在は再びS.aureus(MRSA)が問題となっており,強毒菌の新しい耐性獲得は臨床的に大きな脅威となる.

院内常在菌の検出と消毒剤の感受性に及ぼす繁用消毒剤の影響

著者: 白石正 ,   仲川義人

ページ範囲:P.1455 - P.1460

 グルコン酸クロルヘキシジン(CHG)と塩化ベンザルコニウム(BAC)が繁用されていた1987年当時,山形大学医学部附属病院の消化器系内科および外科病棟の流し場ならびに同内科に勤務している医師の手指から分離されたPseudomonas cepaciaの3株すべてがCHGに,Serratia marcescensの8株中5株がCHGとBACの2剤に抵抗性であった.しかし,CHGの使用量の減少に伴ってポビドンヨード(PVP−1)の使用量が増加しつつあった1989年になると,前記した対象のいずれからも消毒剤抵抗性の細菌はまったく検出されなかった.この成績は,院内感染症の起因菌として重要視されているSerratia属やPseudomonas属の院内環境からの除去には,PVP−1などの中水準消毒剤の繁用が有効であることを示している.

抗生剤の使用と耐性菌

著者: 那須勝

ページ範囲:P.1461 - P.1466

 抗菌薬の使用と耐性菌の出現は,常に密接な関係がある.耐性菌は,使用された抗菌薬に耐性の細菌が菌交代現象として増殖してくる場合と,細菌そのものが耐性遺伝子を獲得しそれを発現させて耐性菌となり院内感染のかたちで拡がっていく場合とがある.両者ともに抗菌薬の使用が適正に行われていないと,常に起こり得る現象である.特に抗菌力の強いセフェム,カルバペネム,モノバクタムなどのβ-ラクタム薬,ニューキノロンなどの不用意な使用は,耐性菌の出現とその蔓延につながりかねない.院内感染の予防上,適正な抗菌薬療法が必要である.

術前・術後の院内感染対策

著者: 品川長夫

ページ範囲:P.1467 - P.1471

 術後感染症とは,術後に発症する感染症を総称し,手術およびそれに必要な補助療法に基づくすべての感染症を含む.その病原微生物としては細菌,ウイルス,原虫あるいは真菌などすべての病原微生物が含まれる.細菌の侵入経路は,外因性汚染経路と内因性汚染経路に分けられるが,MRSA感染はいずれの汚染経路よりも侵入し得る.入院時の患者はMRSAの保菌者でないことより,入院より手術までの期間にMRSAが侵入し,手術を契機として内因性汚染経路をとりMRSA感染が発症することが多い.MRSAは乾燥状態では10日以上も生存し続け,乾燥した病室でも生き残ることより,院内感染菌として問題が大きい.院内感染対策委員会による院内感染対策を有効に実行してゆく必要があり,そのための教育と訓練が重要である.

術中の院内感染対策

著者: 小林寛伊

ページ範囲:P.1473 - P.1480

 手術中の汚染に起因する感染には,内因性感染と外因性感染とがある.手術の清浄度によって創感染率は異なるが,いずれにおいても,感染につながる諸因子を考慮して,それらによる汚染の機会を,少しでも少なくする努力が重要である.感染に関与する周手術因子としては,手術野除毛方法,創被覆方法,無菌操作の破綻,手術時間,手術時手洗い方法,ガウン・ドレープの質,手術野消毒方法,手術器械滅菌方法,空調,その他があり,これら個々の因子に対して,汚染経路を断ち切る対策を一歩一歩着実に遂行してゆくことが大切である.

手術とMRSA

著者: 小棚木均 ,   高橋政弘 ,   小山研二

ページ範囲:P.1481 - P.1486

 MRSA感染症は,①臨床分離頻度が依然として高率であること,②第三世代セフェム系抗生剤の乱用が引金になって発生し,現行の大多数の抗生剤に対して耐性であること,③感染発症例はcom-promised hostに多く,外科領域では,術後感染症起炎菌となること,④院内感染症の原因菌となることなどから,臨床上,重要である.外科領域では,特にブドウ球菌性腸炎に注意すべきであろう.本感染症の予防と治療には,MRSAに対する十分な理解と把握が必要なことを強調したい.

外科病棟における感染対策

著者: 石引久弥

ページ範囲:P.1487 - P.1491

 院内感染の歴史は病院という医療形態の成立とともに古い.その定義は病院内での微生物汚染に由来するすべての感染症を意味しており,ウイルスから節足動物までも対象となるが,外科ではウイルス性肝炎,MRSAおよび緑膿菌感染症が注目される.前者は血液汚染によるもので,ワクチン投与による効果が期待できるが,後者は原疾患と外科療法の主体である手術侵襲により易感染性の高まった症例が対象であること,体内力テーテル留置や喀痰,膿などの菌源による病室,職員を含む患者の微生物環境汚染が発症要因である.発症患者の治療は化学療法剤耐性株による感染症であるため難しく,環境よりの汚染を防止する予防対策を地道に実行することが基本である.

ICUにおける感染対策

著者: 佐々木繁太 ,   妙中信之 ,   吉矢生人

ページ範囲:P.1493 - P.1499

 ICUにおける感染の背景には,患者の免疫能の低下だけでなく,各臓器不全に対しての種々の処置が一方では感染機会を増加させていることがある.ICUにおける基本的な処置のなかでも感染の原因となることの多いものとして,中心静脈カテーテルと呼吸管理をあげ対策を述べた.
 中心静脈力テーテル由来の感染対策としては,輸液の無菌的調整,専任スタッフによる刺入部の管理,および回路接続部へのI-systemの導入などが有効である.
 呼吸管理においては,カフ上部気管腔も含めた上気道の清浄化,気道の防御機能の維持,および呼吸回路や気管内吸引器具の無菌的な管理などが必要である.

カラーグラフ Practice of Endoscopy 大腸内視鏡シリーズ・Ⅳ

イレウス解除—S状結腸軸捻転・整復術

著者: 高橋俊毅

ページ範囲:P.1441 - P.1446

 はじめに
 S状結腸軸捻転症には図1のB,Cのごとく腸管長軸方向のみの軸捻で腸管の血流障害がなく,長軸捻転型や生理的軸捻転症ともいわれるものが含まれる1,2).これらは自覚症状に乏しく,注腸造影ではじめて診断されるが,容易に整復される.
 腸間膜型で通常型といわれる典型例ではS状結腸過長症があり,慢性的に繰り返されたために軸となる腸間膜が肥厚短縮しており,ガスの貯留などを契機として,主として反時計方向に180°から720°の捻転をみる(図1,2).捻転の強いものや長時間経過したものでは循環障害により腸壊死になる(図3,4).したがって,より早期の診断と整復がなによりも大事となる.

海外だより ボストン留学記・4

クリニカルカンファランスとSSO学会

著者: 小西敏郎

ページ範囲:P.1501 - P.1503

 病院でのカンファランス ニューイングランド・ディコネス病院の外科では,毎週月曜日の夕方5時半から術後合併症のカンファランス,水曜日朝7時15分からサージカルオンコロジーのカンファアンス,引き続き8時15分から外科全体での講演会,その後10時からSteele教授の研究室でのリサーチカンファランスが行われていた.木曜日の正午からは内科・放射線科・病理と合同で腫瘍カンファランスが毎週行われていた.いずれのカンファランスも前半は全例を提示してから,後半は2例ぐらいの特定例に限定して治療方針について熱心に議論をしていた.早朝のカンファランスでも居眠りをする人はまったくいない.医者に限らず企業社会でもそうであるが,アメリカでは日本でよく行われている夜の会合の習慣はほとんどないので,日中のこれらのカンファランスで徹底的に議論する.症例提示や講演が終わると,待ちかねていたように数人が手をあげて発言をもとめ討論が始まる.質問者も演者も,話し相手に憚ることなく,遠慮会釈なく自分が思っていることを滔々と述べていた.
 ニューイングランド・ディコネス病院の外科では,術前の症例検討を行う会合はなかった.胃癌・食道癌や大腸癌の症例検討は,毎週月曜日の夕方の術後合併症のカンファランスや,水曜日朝のサージカルオンコロジーのカンファランスで提示されていた.

外科系当直医のためのDos & Don'ts・12

婦人の外科的救急対応—妊娠女性の扱いを中心に

著者: 鎌田周作 ,   鈴木篤 ,   露木靜夫 ,   高重義 ,   野水眞

ページ範囲:P.1505 - P.1509

 若い女性の腹痛の診断,妊娠女性の外傷時X線撮影・薬物投与の注意など,妊婦または妊娠している可能性のある女性に対する救急時の基本的注意は,十分わきまえておく必要がある.

小児外科医の独白・12

小児がんの包括医療(1)

著者: 角田昭夫

ページ範囲:P.1510 - P.1511

 小児がん国際シンポジウム 1989年12月,「がんの子供を守る会」主催のシンポジウムの第3日目“小児がんのトータル・ケア”で強い感銘を受けた.1991年5月になってその記録輯1)が出版され,当時の感動を新たにしたので以下紹介する.

前立ちからみた消化器外科手術・8

肝切除術における前立ちの基本操作(1)

著者: 早川直和 ,   二村雄次

ページ範囲:P.1513 - P.1519

 今回から2回にわたり肝切除術について述べる.肝切除術式は疾患の種類,進展範囲あるいは残存肝機能などによって核出術から3区域切除,あるいはこれらに胆道の切除,再建が加わるものまで様々な術式が考えられる.
 今回は,皮膚切開,肝の授動,脱転,下大静脈靱帯の切離,短肝静脈の処理での基本操作について述べる.

臨床研究

乳頭異常分泌症例の乳管内観察

著者: 内田賢 ,   篠崎登 ,   山下晃徳 ,   長原修司 ,   南雲吉則 ,   武山浩 ,   中野聡子 ,   桜井健司

ページ範囲:P.1521 - P.1523

 はじめに
 内視鏡はこれまで胃や大腸などの消化管,あるいは気管支などの診断用と考えられてきた.最近の光学機器の進歩により極小の内視鏡の製作が可能となり,さまざまな臓器の観察に利用されつつある.
 著者らは極小内視鏡を用いて,乳頭の異常分泌を起こした症例の乳管内の観察を行った.乳管内の観察結果と組織学的所見を対比し,乳管内視鏡の診断の可能性について検討を行った.またあわせて,乳管内視鏡の問題点につき検討を加えた.

臨床報告

肝に発生した血管筋脂肪腫の1切除例

著者: 渡邉至 ,   加藤栄一 ,   木村幹 ,   山口正人 ,   佐藤智 ,   葛西森夫 ,   渡部信之 ,   斉藤春夫

ページ範囲:P.1525 - P.1528

 はじめに
 血管筋脂肪腫(angiomyolipoma)の多くは腎に発生する腫瘍で,その40〜50%は全身性の結節性硬化症を有し,また結節性硬化症の随伴症として現れることも多い(60〜80%)1〜3).しかし,これが肝に発生することは極めて稀で,Goodman&Ishak(1984)4)が肝の本腫瘍12例を報告する以前には,英文の文献上に3例の記載しか認められていない5〜7)
 X線学的に極めて奇異な所見を呈するが,腎に発生したものとの類似性から画像診断が可能である3,8)

胆嚢壁内異所性膵組織の1例

著者: 中川国利 ,   土屋誉 ,   桃野哲 ,   佐々木陽平 ,   古沢昭 ,   佐藤寿雄

ページ範囲:P.1529 - P.1532

 はじめに
 異所性膵組織は手術時あるいは剖検時に,胃,十二指腸,空腸などに偶然発見されることが多いが,決して稀な疾患ではない1).しかし,胆嚢に発生した異所性膵組織の症例は極めて稀で,いまだ本邦では10例21〜11)しか報告されていない.
 最近われわれは,胆嚢結石を伴った胆嚢腫瘍の診断で摘出した胆嚢の病理組織学的検索により,胆嚢壁内異所性膵組織と判明した1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

膵癌術後に発症したOgilvie症候群の1例

著者: 赤松大樹 ,   亀頭正樹 ,   大川淳 ,   吉龍資雄

ページ範囲:P.1533 - P.1536

 はじめに
 大腸の機能的イレウスであるOgilvie症候群(Acute preudo-obstruction of the colon)は,欧米では比較的多く報告されているが,本邦での報告例は少ない.
 今回われわれは,膵癌の術後に発症したOgilvie症候群の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

回腸inflammatory fibroid polypの1例—本邦報告例の検討を含めて

著者: 里見昭 ,   辻美隆 ,   石田清 ,   小林雅朗 ,   林修

ページ範囲:P.1537 - P.1539

 はじめに
 Inflammatory fibroid polyp(以下IFPと略す)は消化管に発生する炎症性腫瘤で,大部分は胃に発生し,小腸にみられることは極めて稀である.
 今回,われわれは回腸に発生し,腸重積を来した本症の1例を経験したので,調べえた本邦における成人の小腸IFP症例(48例)と併せ,その臨床像について検討を加えた.

後腹膜原発粘液嚢腫の1例

著者: 高畠一郎 ,   中泉治雄 ,   村上真也 ,   木原鴻洋 ,   伊藤廣 ,   石川義麿

ページ範囲:P.1541 - P.1544

 はじめに
 後腹膜原発の嚢胞は稀な疾患であるが,最近の画像診断の発達につれてその頻度も増加しつつある.しかし,そのなかでも粘液嚢腫の報告は少なく,また,悪性病巣を伴うことが多いため臨床上重要である.
 われわれは,後腹膜原発の粘液嚢腫の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

後腹膜嚢腫様形態を呈した巨大重複尿管の1例

著者: 坂口秀仁 ,   中島信一 ,   横田博志 ,   宮崎実 ,   大山朝賢 ,   鈴木庸之

ページ範囲:P.1545 - P.1547

 はじめに
 尿管由来の腫瘍は,後腹膜に発生する腫瘍の2.6%と少ない1).今回,われわれは巨大重複尿管の遠位端が盲端で終わり,distal ureteral atresia(DUA)と呼ばれる,非常に稀な尿路奇形の手術例を経験したので報告する.

多発性神経鞘腫の1例

著者: 大野耕一 ,   大久保哲之 ,   長谷川直人 ,   岡安健至 ,   田辺達三 ,   中林武仁

ページ範囲:P.1549 - P.1552

 はじめに
 神経原性腫瘍は神経鞘腫,神経線維腫,神経節細胞腫,神経節芽細胞腫,神経芽腫に分類される.本邦では神経鞘腫の報告が多いが,神経鞘腫は通常単発性であり,多発することは稀とされている.
 今回われわれは,胸腔内および後腹膜腔に多発した神経鞘腫の手術例を経験したので報告する.

外科医の工夫

乳児人工肛門の腸管脱出防止用ドーム型格子付きフランジ

著者: 東崇明

ページ範囲:P.1553 - P.1555

 はじめに
 腸管脱出は,ストーマ周囲皮膚炎に次いで多くみられる小児の人工肛門合併症である。多くは用手的に還納し得るが,いったん脱出が始まるとその回数が頻繁となりやすく,放置すれば腸閉塞や粘膜のびらんを生じることもある1〜4).したがって,脱出すればそのつど還納する必要があり,頻回の還納整復に悩まされることが多い.
 今回われわれは,横行結腸人工肛門造設後頻回に腸管脱出がみられた鎖肛患児に,腸管脱出防止用ドーム型格子付きフランジを使用し,手術療法に頼ることなく腸管脱出を防止できたので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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