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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科46巻2号

1991年02月発行

雑誌目次

特集 急性腹症の近辺—他科からのアドバイス

救急部門での急性腹症への対応

著者: 上田守三 ,   猪口貞樹 ,   池田正見 ,   大河原明美 ,   田島知郎

ページ範囲:P.151 - P.157

 急性腹症は,短時間に治療方針を決定し治療を進めていかなければならない腹部急性疾患群と考えられる.最近の器機の開発に伴って診断技術の進歩はめざましく,救急外来においてもそれらが日常使用されている.しかし,急性腹症の病因を究明し,早期に治療を進めることが困難な症例も多い.そこで,救急外来を受診した患者(13,905例)のうち腹痛を主訴とした患者(1,195例)の初診時診断,緊急入院(413例),緊急手術率,退院時診断を検討し,患者の動態および腹痛に対する対応の良否について述べた.さらに,合併症(特に意識障害)を伴った患者の対応について言及した.急性腹症に対しては,画像診断のみでなく,患者の病歴,臨床所見,経過観察が大切であることが確認された.

産婦人科領域における急性腹症

著者: 陳偉業 ,   深谷孝夫 ,   矢嶋聰

ページ範囲:P.159 - P.163

 激痛を主訴とする急性腹症の原因疾患を診断するのは,必ずしも容易ではない.しかし,従来の問診,視診,聴診,触診などの理学的所見や,血液検査などの一般臨床検査に加え,近年は補助診断としての腹腔鏡検査,超音波,CTなど画像診断の導入によって,診断精度が向上し,すばやく有効な治療を開始することができるようになった.
 産婦人科領域においては,急性腹症を来す疾患として,子宮外妊娠,卵巣嚢腫破裂,卵巣腫瘍や子宮漿膜下筋腫の茎捻転,卵巣出血,骨盤内炎症性疾患などをあげることができる.他科の急性疾患と同様,バイタルサインに注意しながら診察や検査をし,最適な治療を行う.

泌尿器系疾患による急性腹症

著者: 富樫正樹

ページ範囲:P.165 - P.171

 泌尿器系疾患による急性腹症ないしはその類似疾患は意外と多く,急性腹症では常にその存在を念頭におかなければならない.一般的に,泌尿器系疾患による腹痛は疼痛の部位,放散の方向など臓器に特有な性質があるため,注意深い病歴の聴取や診察を行えば障害臓器を推測することが可能である.さらに,尿所見の異常を伴っていれば他臓器疾患との判別も容易となる.
 日常診療上最も頻度の高い疾患として尿路結石症がある.尿路結石症では特有な疝痛発作とともに血尿の存在が大切な所見で,X線検査で結石陰影が確認されれば診断は容易である.尿路結石の大部分は緊急手術の適応とならず,保存的療法で経過をみてよい.一方,腎や尿管,膀胱,睾丸の損傷では障害が高度の場合には緊急手術が必要で,手術の時期を誤ると直接生命や臓器に危険がおよぶため,迅速かつ適切な判断・処置が必要である.
 診断上,尿所見,腎・膀胱部単純撮影,静脈性腎盂撮影(IVP)は貴重な所見を提供してくれる大事な基本的検査であるが,最近ではCTで詳細な病態をとらえられるために必須な検査となってきている.高度の腎外傷,腹膜内膀胱破裂,精索捻転症,睾丸破裂の診断がつけば,あるいはそれらが強く疑われる場合には躊躇なく手術療法へ移るべきである.

内科的疾患における急性腹症

著者: 妹尾恭一 ,   塚本令三

ページ範囲:P.173 - P.179

 急性腹症を呈する全身的内科的疾患の鑑別のポイントについて述べた.急性腹症をみたら,常に外科的開腹を要する疾患を念頭において鑑別を進めるが,内科的急性腹症を呈する患者には一般的に以下の特徴がある.①内科的基礎疾患がある,②便が出ている,③心肺に理学的所見がある,④腹膜刺激症状に乏しい,⑤腸蠕動音がきこえる,⑥白血球増多2〜3万以上がみられる,等外科的疾患の開腹の時期を失しないことも重要であるが,開腹が禁忌となる内科疾患(特に心肺疾患など)にも留意する必要がある.そのためには,救急ではあるが,また救急であるからこそ,既往歴をはじめ問診を十分にし,理学的所見を正しく評価することが,一層強調される.

急性腹症の心身医学的側面

著者: 福永幹彦 ,   美根和典 ,   村岡衛 ,   中川哲也

ページ範囲:P.181 - P.189

 救急外来を受診する腹痛患者のうら,4割近くの患者の退院時診断が非特異的腹痛(non-specificabdominal pain;NSAP)である.これらの患者の存在は,救急外来担当医にとって重い負担となる.消化器外来を受診する腹痛患者のなかで機能障害を中心とする腹痛患者の割合はおよそ50%であり,その腹痛は激痛をももたらしうることを考慮すると,このNSAP中にはかなりの頻度で機能障害患者が含まれる可能性が高い.なかでも過敏性腸症候群・慢性膵炎・胆道ジスキネジーの3疾患は重要であろう.
 また術後愁訴症候群の患者も,腹痛を主訴として救急外来を受診することがある.これらの患者は,様々な心理的加重によって症状が修飾されており,機能障害を伴っていることも多い.
 そのほか,救急外来を受診する患者のなかには,不安性障害や抑うつ性障害の患者も存在する,これらの患者が腹部症状を訴える場合もあるが,その場合,基礎疾患の診断がなされなければ鑑別診断は困難であろう.
 急性腹症の診断は現在なお大きな問題である.心療内科で扱われるこれらの疾患は,緊急手術が必要でない疾患として除外されるべきものであるが,その病態についてはあまり知られていない.鑑別除外すべき疾患をよく理解していることは,救急外来担当医にとり有用であると考えられる.

狭義の急性腹症と鑑別を要する腹部大動脈疾患

著者: 川田志明 ,   四津良平

ページ範囲:P.191 - P.196

 腹部大動脈より分枝して実質臓器や消化管に分布する腹腔動脈や腸間膜動脈に,圧迫・狭窄・閉塞などが起こり側副血行が十分でないときは,機能障害のほか腸管の阻血・壊死・穿孔などを来すことになる.慢性の動脈硬化性閉塞や圧迫症候群によるものは,症状も緩慢で長期にわたる腹痛や通過障害をくり返し,腹部不定愁訴にとどまるものの,急性閉塞では腸管の壊死・穿孔などが起こりやすく,全身状態も重篤で,急性腹症として迅速な対応が必要となる.

小児腹部救急の実際

著者: 東本恭幸 ,   高橋英世 ,   大沼直躬 ,   田辺政裕 ,   吉田英生

ページ範囲:P.197 - P.208

 小児外科領域においては,近年の診断技術の進歩により,術前診断がつかぬまま開腹せざるを得えない症例(古典的な急性腹症)はこく少数例に限られてきている.小児の腹部救急症例の診療にあたっては,全身状態の把握,救急初期管理,的確な診断の3者が,常に同時に遂行されなければならない.特に幼若な児ほど病状の進行が速く,手術を要する割合も高率であることに注意すべきであり,本稿ではこの点をふまえ,教室における統計をもとにして,小児に特有な病態および代表的な疾患について言及した.

カラーグラフ Practice of Endoscopy 胃・十二指腸内視鏡シリーズ・ⅩⅠ

粘膜下腫瘍摘出術—高出力レーザー法

著者: 比企能樹 ,   嶋尾仁 ,   三重野寛喜

ページ範囲:P.145 - P.147

はじめに
 「粘膜下腫瘍で小さいものは,内視鏡的に治療できるのではないか」といったテーマが問題にされたのは,東北大学内科の内視鏡グループが,粘膜下にエタノールを注入することにより,数日後に粘膜が壊死に陥り,自然に粘膜下腫瘍が核出され,脱落することを発見したことに始まる。エタノール局注法で,消化管出血の止血法のoriginとなった仕事が,確か,粘膜下腫瘍の診断と治療法の研究であったと記憶する.

最近の話題

腹腔鏡下胆嚢摘出術

著者: 伊藤徹 ,   出月康夫

ページ範囲:P.209 - P.213

はじめに
 欧米では近年,開腹手術によらず腹腔鏡下に胆嚢切除を施行する方法が急速に普及しつつある1〜3).腹腔鏡下胆嚢摘出術は従来の開腹による胆嚢切除と比較し,①侵襲度が少なく,入院期間の短縮と日常生活への早期復帰が可能,②手術創の瘢痕がほとんど残らない,③手術に起因する腹腔内癒着が生じにくい,などの利点がある.この新しい外科手術は今後,本邦においても急速に普及していくことが予想される.
 当教室においても,昨年の9月より本法による胆嚢摘出術を開始している.本稿では,著者らが現在施行している手術の手順について,手術に必要な器械類・処置具の解説を加えながら報告する.

末梢動脈閉塞症に対するlaser angioplastyの現状

著者: 松元輝夫 ,   左野千秋 ,   ,   神代龍之介

ページ範囲:P.215 - P.219

はじめに
 下肢の末梢動脈閉塞症に対する血行再建術は,現在のところ主としてバイパス術が行われているが,自家静脈移植バイパス術の治療成績が最も優れていることは周知の通りである.しかし,すでに大伏在静脈が抜去されていたり,大伏在静脈が移植に適当な大きさでなかった場合,あるいは静脈瘤の存在下では自家静脈移植バイパス術を行うことは困難であり,膝窩動脈以下のバイパス手術に対して理想的な人工血管が未だ開発されていないことと相まって,transluminal angioplastyを行う意義は大きいと考える.また,バイパス手術に耐えられないような重篤な全身疾患を有する患者では,より侵襲の少ない治療法を選択しなければならず,このような患者にもtransluminal angioplastyが良い適応になると思われる.

外科系当直医のためのDos & Don'ts・2

手・上肢の外傷

著者: 鈴木篤 ,   野水眞 ,   露木靜夫 ,   高重義

ページ範囲:P.223 - P.227

 手を含む上肢の外傷の大部分は消毒・皮膚縫合ですむが,腱・神経・血管に及ぶ外傷や骨折は,整形外科的判断が必要となる.今回は,外科医が処置できる範囲,整形外科医に依頼するまでの処置法,上肢外傷の診断法・麻酔法など,外科当直医として必要な処置について述べる(「手指末端損傷」は前号参照).

小児外科医の独白・2

結合体双生児(チャンとエンの物語り)

著者: 角田昭夫

ページ範囲:P.228 - P.229

 チャンとエンの物語り 拙著『小児疾患と文学』1)では,4章と5章とを「結合体双生児」にあて,後のほうで1941年のSGOに載ったLuckhardtの論文2)を紹介した.純然たる医学論文なのだが,「チャンとエン生涯のスケッチ」という副題からもわかる通り,物語としても大変面白いので,拙著との重複をご勘弁願ってさわりを書くと…….
 この有名な胸腹結合体双生児は,1811年バンコックの南にある部落で生まれたため,英語では小説や教科書にまでも良く使われる「シャム双生児」の語源となった.しかし正確には,3/4は中国人の血が流れていたという.赤ん坊の頃,双生児をつなぐバンドは短くて,お互いに寝る姿勢にも窮屈だったが,これが次第に伸びてきて,後ろ向きになれるまでになった.

膵臓手術の要点—血管処理からみた術式の展開・8

慢性膵炎に対する膵頭部分切除術の応用

著者: 加藤紘之 ,   田辺達三 ,   下沢英二 ,   児嶋哲文 ,   中島公博 ,   奥芝俊一

ページ範囲:P.231 - P.233

Ⅰ.膵頭部分切除術の応用と損傷対策
 慢性膵炎はさまざまの病態を呈し,手術時の局所変化も一様ではない1〜3).したがって,この理想的術式と考えられる膵頭部分切除兼残膵神経叢切断術も,症例に応じて種々の工夫と応用手技が必要である4,5).また,炎症に伴う癒着や胆管損傷対策など,機に応じた対応が肝要である.

臨床報告

切除後長期生存し得た胆嚢扁平上皮癌の1例

著者: 竹内勤 ,   宮崎幸哉 ,   皆木真一 ,   貞光信之 ,   向栄二 ,   山崎郁雄

ページ範囲:P.235 - P.239

はじめに
 胆嚢癌における扁平上皮癌の頻度は,文献的には2〜5%ぐらい1〜3)で,比較的稀なものであり,その治療成績も,腺癌と同様に不良であるとされている.しかし,胆嚢扁平上皮癌は,大腫瘤を形成し,隣接臓器に連続性に浸潤しやすいが,限局した発育を示し,遠隔転移やリンパ節転移が少ないという際だった特徴があるため,たとえ腫瘤が大きくても,手術により治癒せしめる可能性がある.
 今回われわれは,おもに肝内に進展していたが,切除後長期生存し得た本腫瘍の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

粘膜下腫瘍様形態を呈した上行結腸癌の1例

著者: 久瀬雅也 ,   五嶋博道 ,   山碕芳生 ,   松本勝 ,   苔原登 ,   太田正澄

ページ範囲:P.241 - P.245

はじめに
 粘膜下腫瘍様形態を呈した大腸癌は比較的稀で,報告例も少ない.今回われわれは,肉眼的に腫瘍頂部に膀窩を認める粘膜下腫瘍様の特異な進展形態を呈し,病理組織学的に腺癌と診断された上行結腸癌の1例を経験したので報告する.

骨形成を伴った下行結腸癌の1例

著者: 山田貴 ,   本郷三郎 ,   渡部高昌 ,   桑原和一 ,   増井義弘 ,   松森武

ページ範囲:P.247 - P.250

はじめに
 悪性腫瘍中に骨形成を伴った例はこれまで甲状腺癌1),胃癌2),乳癌3),肺癌4)などで報告されているが,いずれもきわめて稀である.大腸癌においても,本邦報告例はこれまでわずか10例にすぎない.今回,われわれは下行結腸癌組織中に骨形成を伴った症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Winslow孔ヘルニアの1例

著者: 前川宗一郎 ,   原口幸昭 ,   嶺博之 ,   池田哲夫

ページ範囲:P.251 - P.253

はじめに
 イレウスの原因として,内ヘルニアは稀な疾患であるが,なかでも,Winslow孔ヘルニアはきわめて稀な疾患である.本疾患の症状はイレウス症状が主体で,これに特有なものはなく,術前診断はしばしば困難である.今回われわれは,急性腹症で緊急手術を施行し,Winslow孔ヘルニアの診断を得た1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

乳房外Paget病に対する骨盤内臓器全摘術の経験

著者: 遠藤隆志 ,   中山凱夫 ,   近森文夫 ,   青柳啓之 ,   岡村隆夫

ページ範囲:P.255 - P.257

はじめに
 乳房外Paget病は皮膚科・形成外科領域ではときに遭遇する疾患であるが,微小浸潤癌の範疇に入るものであり,比較的予後良好な疾患である.
 今回われわれは,陰部に発生した乳房外Paget病で,膀胱,腟,直腸まで広範囲に腫瘍が浸潤していたため,微小浸潤癌にもかかわらず骨盤内臓器全摘術を施行せざるを得なかった1例を経験したのでここに報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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