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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科46巻3号

1991年03月発行

雑誌目次

特集 乳房温存療法の実践

EDITORIAL

著者: 阿部令彦

ページ範囲:P.277 - P.279

 外科療法発展の歴史をふり返ると,患者の安全性,疾患の根治性,手術後遺症の軽減,機能の回復・温存,患者のquality of life(QOL)の向上の順に達成目標は進展してきた,とくに近年では,社会的needに応じて発展してきた技術革新が,それ自体社会環境,医療経済に重大な影響を及ぼすようになり,生存の科学が注目され,人間の尊重が改めて問われるようになった.加えて,現代の不透明かつ流動的社会は価値観の多様性を形成した.
 この時代的趨勢は,乳癌の治療分野にも反映されている.すなわち,早期乳癌診断の進歩と相まってstage-oriented, individualized surgeryの実践を促進した.早期乳癌に対する保存的治療con-servative therapy for breast cancerは,このような経緯で発展してきた.その詳細は本特集の乳房温存療法の現状と問題点の項に述べられている.

乳房温存手術例における乳癌進展形式

著者: 妹尾亘明 ,   太田喜久子 ,   伊波茂道 ,   園尾博司

ページ範囲:P.281 - P.288

 40例の乳房温存縮小手術例における原発乳癌巣および隣接,周囲病変の病理形態所見と癌進展範囲の関連を検索した.癌が広域に進展しやすい傾向を示す形態的所見は,①原発癌巣が非浸潤癌,ことに単位癌巣の構成が散在性,②浸潤型原発癌巣では構成単位癌巣が非浸潤癌巣で占められる割合が多いほど広域に進展しやすい,③構成単位非浸潤型癌巣の組織型が面疱癌あるいは壊死を伴う類似癌では広域に進展し,その頻度が最も高い,④非浸潤型癌巣は原発癌が乳頭腺管癌の場合に最も随伴しやすい,⑤原発癌巣周囲の乳頭腫症と腺症の合併する高度増殖型乳腺症病変は非浸潤型筋状および充実癌の広域進展への関係を推定させるなどである.原発癌巣の構成単位非浸潤型癌巣所見は乳腺切除範囲決定に有用である.

乳房温存療法の適応と実際—私たちの術式

著者: 霞富士雄 ,   岩瀬拓士 ,   吉本賢隆 ,   渡辺進 ,   秋山太 ,   坂元吾偉 ,   山下孝

ページ範囲:P.289 - P.298

 たとえ乳癌であって治療は受けるにしても,乳房を失って悲しまない女性患者はいないであろう.乳房温存法はこの要求に応えるものとして欧米で古くからいろいろなものが工夫発表されてきたが,1970年代の後半に至って原発巣を局所切除して腋窩郭清を行い,創治癒後に残存乳房に障害の起こりにくい線量の放射線照射を加える乳房温存療法として定着した.
 わが国では,乳癌の頻度の低さからも,文化史的な面からも乳房温存法に対する社会的・医学的要求は少なかったが,近年の欧米の報告に接し,漸増する乳癌患者の声も起こり始め,乳房温存法に対する眼も開かれて来ている現状である.しかし,日本では放射線照射の歴史は浅く,乳房温存療法と共に手術だけで温存を解決する乳房温存術式も行われている.

乳房温存療法の適応と実際—私たちの術式

著者: 西常博

ページ範囲:P.299 - P.304

 Quadrantectomyによる乳房温存療法について,私たちの適応と術式を述べた.適応は乳腺内に遺残する癌の量ができるだけ少なくなるように,乳頭から3cm以上離れて位置する腫瘤径2cm以下の乳癌としている.また,手術術式は乳腺のquadrant(四分円)を大胸筋の筋膜をつけて切除し,リンパ節郭清はレベルⅠとⅡを確実に行っている.乳房の形を美しく温存するには,皮膚切開線の形,皮弁の厚さ,残存乳腺の縫合法が重要である,Lumpectomyによる乳房温存療法と比較すると,美容的にはやや劣るが,局所再発が少ない点で優れている術式であることを強調した.

乳房温存療法の適応と実際—私たちの術式

著者: 児玉宏 ,   平岡真寛

ページ範囲:P.305 - P.314

 乳房温存療法において,乳房温存の美容上の利点を損なわず,なおかつ局所再発の可能性を可及的に少なくする術式として,①リンパ節郭清は鎖骨下領域まで確実に行う,②乳腺切除範囲は比較的大きくする(quadrantectomy),③皮切線は乳房内側に入れないようにし,症例によっては腫瘤直上の皮膚は切除しない,④温存乳房には必ず十分な照射をする,という原則の必要性を述べ,それに従った術式の詳細を術中写真によって示し,過去3年間に施行した77例(その間の乳癌初回手術症例の16%に相当)の結果と,アンケート調査による患者側の受けとめ方を紹介した.

乳房温存療法の現状と問題点

著者: 阿部力哉

ページ範囲:P.315 - P.322

 乳房温存療法は手術を受ける乳癌患者の乳房喪失を避けたい美容上の要求から施行されるものである.従来から行われてきた定型あるいは非定型乳切に勝る生存率を得るための手術法ではない.この点が生存率の向上を目指して種々考案されてきた手術法の改善とは異なる点である.患者の美容上の要求,検診などによる早期乳癌発見の頻度が増してT0,T1乳癌手術の機会が増えたこと,乳癌のリンパ節転移に対する考え方の変化,定型乳切との無作為比較試験結果などの時代的背景があって,乳房温存療法が施行されるようになった.欧米では病期I乳癌に対しては照射を併用した乳房温存手術はかなり普及してきている,日本ではやっと試み始められたばかりであり,この内外の現状と問題点について考察をした.

乳房温存療法における放射線の役割

著者: 大川智彦

ページ範囲:P.323 - P.328

 乳癌は腺癌といえども放射線感受性の良い腫瘍であり,古くから乳癌治療に大きく貢献してきた.近年,縮小手術と照射を相補的に用いることにより乳癌の根治を図ろうとする乳房温存療法がわが国においても本格的に取り入れられようとしている.治癒率を下げなければ,切除範囲を小さくし,患者のquality of lifeを守ろうとする考え方は当然容認される.
 今後,局所再発や晩期合併症に十分留意し,日本女性のための乳房温存における最適手術と最適照射法の確立に努力していかねばならない.

乳房温存療法はQuality of Lifeを向上させるか

著者: 久保完治

ページ範囲:P.329 - P.333

 乳房温存療法後のQuality of Life(QOL)を,その支配的要因である心理面から考察した.その第一は疾病そのものに関わるもので,癌による個体維持機能の不全に対する本能的恐怖である.第二は治療方式に関するもので,手術による種族保存機能の侵害についての不安である,第三は身体的拘束に基づくもので,社会生活の障害による集団帰属本能の不安である.このようなことによる情動の不安定がQOLを劣化させる機序であろう.
 上述の視点から考えると,乳房温存療法後のQOLはPatey術式と比較して,実質的な向上はあまり期待できない.しかし,容姿や活力の心像では有利な点がある.

カラーグラフ Practice of Endoscopy 胃・十二指腸内視鏡シリーズ・ⅩⅡ

狭窄の治療

著者: 小西敏郎 ,   平石守 ,   真船健一 ,   三山健司 ,   平田泰 ,   吉田純司 ,   森潔 ,   出月康夫

ページ範囲:P.271 - P.275

手術不能進行胃癌の狭窄
 1.噴門部の狭窄
 食道癌や胃癌による噴門部の狭窄が高度の症例で手術不能の場合は,たとえ一時的であっても食物摂取が可能となるレーザー内視鏡による拡張治療は,患者にとって有意義な治療である.これまでに12例の進行食道癌・胃癌の狭窄例にNd-YAGレーザー治療を行った.癌浸潤による高度の狭窄部にNd-YAGレーザーを照射すると,組織は蒸散(vaporization)効果により脱落し,内腔の拡張が得られるので,ほとんどの症例で経口摂取の改善を認めている.

膵臓手術の要点—血管処理からみた術式の展開・9

急性膵炎の手術

著者: 加藤紘之 ,   下沢英二 ,   児嶋哲文 ,   奥芝俊一 ,   田辺達三

ページ範囲:P.337 - P.339

はじめに
 急性膵炎の手術適応をめぐる議論は多い.原因が胆石症,副甲状腺機能亢進症などにある場合には,それらに対する治療が奏効する.しかし,アルコール性あるいは原因不明例が多く,また急激な経過をたどるものがあるため,一定の治療指針を立てるのはなかなか困難である.
 最近では,Ransonの重症化クライテリアにCT所見を組み入れたフローチャートが組み立てられつつあり,膵周囲に液体の貯留が認められれば早期手術の適応とする考え方が広がっている.今後は,CT所見がアミラーゼ値をはじめとする生化学的検査結果とともに有用な指針となるものと思われる1〜3)

外科系当直医のためのDos & Don'ts・3

足部・下腿の外傷

著者: 鈴木篤 ,   野水眞 ,   露木靜夫 ,   高重義

ページ範囲:P.341 - P.345

 足部・足関節や下腿の創傷・打撲・捻挫は,手の外傷とともに,日常最も多く接する救急処置の1つである.足部・下腿に特徴的な創傷処置とともに,捻挫・靱帯損傷など,整形外科につなぐまでの外科当直医の基本処置について述べる.

小児外科医の独白・3

続・結合体双生児(坐骨結合体)

著者: 角田昭夫

ページ範囲:P.346 - P.347

 Ravitchらの小児外科教科書1)5人の小児外科医(Ravitch.Welch, Benson, Aberdeen, Randolph)が編集したこの教科書は,われわれの間では好まれている.私の持っている本の発行は1979年だから,これももう10年も昔だ,同じ本のそれより古い版の編者には,私がロス・アンゼルス時代に師事したW.H.Snyderも名を連ねていた.この教科書の“結合体双生児”の項は,下巻の初めのほうにあり,“元祖シャム兄弟”の写真こそないが,歴史的な絵画2点が載っているので紹介する.
 1つは女児臀部結合体(Pygopagus)の絵画で,ハンガリーの姉妹,ヘリナとジュディスという注釈が入っている.また,これはエール大学の医学図書館収集のポスターの1枚であり,教科書への転載許可を得たと断ってある.

臨床研究

静脈瘤症例における弾力ストッキング選択についての検討

著者: 平井正文 ,   内木研一 ,   中山龍

ページ範囲:P.349 - P.353

はじめに
 下肢一次性静脈瘤の治療に用いられる弾力ストッキングには各種の圧迫力や形態の異なるものが市販されており,病態などにより選択されることになる.しかし,欧米では患者数も多く,その需要のため弾力ストッキングに対する研究も進んでいるが1〜3),日本における詳しい検討は皆無に等しい.欧米人と日本人とは体型も異なり,また日本における静脈瘤頻度も決して少なくないことから4),日本人を対象とした検討が必要と考えられる.われわれはすでに中圧タイプ(足関節部での圧迫力30〜40mmHg)のストッキングにより,逆流量減少とうっ滞減少の効果が生ずると報告してきた5).今回は圧迫力の異なる各種ストッキングを用い,それぞれの静脈機能に与える影響について検討し,いずれのストッキングが静脈瘤治療に適しているか,文献的考察を加え検討した.

末梢動脈閉塞症に対するTranscutaneous Oxygen Tension測定の意義に関する検討

著者: 左野千秋 ,   神代龍之介 ,   ,   松元輝夫

ページ範囲:P.355 - P.357

はじめに
 末梢動脈閉塞症に対する血行再建術の効果判定を,迅速かつ的確に侵襲の少ない方法で行うことはきわめて重要なことであり,従来,血行再建術の効果判定の指標としては,ドプラー血圧計などによって計測されたankle arm index(AAI)が主に用いられてきた.しかし,糖尿病患者などのように動脈硬化性変化や石灰化の強い動脈を有する患者では,下肢の血圧が正確な血圧ないしは血流量に比例し難いうえに,皮膚潰瘍のある患者や術直後の創を有する患者では,創の近傍で血圧を測定しにくいことが多いため,血行再建術の効果判定にAAIが用いられる例はおのずと制限されていたと考えられる.
 また,動脈造影は血行再建術の効果判定にとって侵襲が強い検査であり,特に腎不全患者や腎機能の低下した老人などにとっては腎に対して造影剤が悪影響を及ぼす可能性を否定することができず,容易に行える検査法とはいい難い.

臨床報告

脾血管外皮腫の1例

著者: 桃井寛仁 ,   細谷亮 ,   小縣正明 ,   青山博 ,   林雅造 ,   石川稔晃 ,   内田博也 ,   岡部純弘 ,   藤堂彰男

ページ範囲:P.359 - P.363

はじめに
 脾臓は腫瘍性病変の発生し難い臓器であるとされてきたが,最近の画像診断の普及により脾腫瘍性病変が多く発見されるようになり,治療対象となった報告が増えてきた.われわれは,その中でも非常に稀な,画像診断上,多発結節を呈した脾臓原発の血管外皮腫(hemangiopericytoma)の1例を経験したので,ここに報告する.

乳房の発赤を呈した乳腺悪性リンパ腫の1例

著者: 小林英司 ,   佐藤信昭 ,   島影尚弘 ,   谷川俊貴 ,   江村巌 ,   本間慶一

ページ範囲:P.365 - P.368

はじめに
 乳腺原発の悪性リンパ腫は比較的稀な疾患とされている.本邦文献上には120例以上報告されているが1),臨床所見および術中迅速を含めた術前術中診断に苦慮している場合が多い.
 今回,乳房に発赤を来し術前炎症性乳癌と誤診した乳腺原発悪性リンパ腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

大腸悪性リンパ腫の3例

著者: 田中千凱 ,   大下裕夫 ,   芥子川逸和 ,   加地秀樹

ページ範囲:P.369 - P.373

はじめに
 大腸に発生する悪性腫瘍は癌腫が大部分を占め,悪性リンパ腫は稀である.本症は術前の確診率が低く,術後の組織学的検索によりはじめて診断がなされることが多かったが,最近では術前の確診率が高くなりつつある.
 著者らは18年間に3例の大腸悪性リンパ腫を経験したが,術前の生検で確診できたのは1例のみで,他の2例は術後の組織学的検索によりはじめて確診が得られた.この3例を免疫組織学的検討と文献的考察を加えて報告する.

18年間にわたり発生した胃(2病変)・大腸(4病変)多発重複癌の1例

著者: 梅田貴之 ,   山村義孝 ,   紀藤毅 ,   中里博昭

ページ範囲:P.375 - P.378

はじめに
 近年,各種の癌に対する診断技術・治療手段の向上により,悪性腫瘍の術後長期生存例が増加しつつあり,それに伴って重複癌や多発癌の症例も増加する傾向にある.今回18年間にわたって5回の手術を行った6重癌(胃と大腸の異時性・同時性の重複および多発癌)の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

再発性の壊死型虚血性大腸炎の1例

著者: 牧本伸一郎 ,   仲本剛 ,   松尾吉郎 ,   上江洲朝弘 ,   圓尾隆典 ,   川崎正 ,   片岡伸一 ,   大地宏昭 ,   広岡大司

ページ範囲:P.379 - P.383

はじめに
 虚血性大腸炎は,近年本邦でも報告例が増加しているが,特に壊死型は急激な経過をたどり緊急手術の対象となる.われわれは,狭窄型虚血性大腸炎の治癒後6年9ヵ月目に壊死型虚血性大腸炎として再発し緊急手術を行った1例を経験したので報告する.

長期ステロイド剤投与中に発生した気腹を伴う腸管嚢腫様気腫症の1例

著者: 井久保丹 ,   中村賢二郎 ,   藤井輝正 ,   佐藤和洋 ,   増田弘志 ,   井上強

ページ範囲:P.385 - P.387

はじめに
 腸管嚢腫様気腫症(pneumatosis cystoides intes-tinalis)は腸管壁に多発性にガスが貯留する稀な疾患であるが,その成因については未だ明らかではない.
 今回,われわれは6ヵ月間ステロイド剤を投与されていた高齢女性の1例を経験したので報告し,同症の成因および臨床像について検討を加える.

癌化を伴った虫垂絨毛腫瘍の1例

著者: 真弓俊彦 ,   蜂須賀喜多男 ,   山口晃弘 ,   磯谷正敏 ,   久世真悟

ページ範囲:P.389 - P.392

はじめに
 大腸の絨毛腫瘍は,欧米に比べて本邦では少ないといわれてきたが,近年,報告例は増加している.しかし,その多くは直腸,S状結腸に発生し,虫垂の絨毛腫瘍は稀である.最近われわれは,虫垂粘膜全面に広がる絨毛腫瘍を経験したので,若干の文献的考察とともに報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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