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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科46巻4号

1991年04月発行

雑誌目次

特集 癌のPalliative Therapy

EDITORIAL

著者: 島津久明

ページ範囲:P.411 - P.413

 癌の進展過程は臨床上,初期(early stage),後期(late stage)および終末期(terminal stage)の3つの病期に区分される.各病期における病変は非転移性癌(non-metastatic cancer),進行癌(advanced cancer)および末期癌(terminal can-cer)であり,治療に際しては,それぞれに応じた対策が要求されることになる.
 初期の癌は主として外科治療の対象になり,通常,これによるcurative therapy(治癒的治療)の実施が十分に可能である.とくに,いわゆる早期癌の範疇に属するものであれば,侵襲の少ない手術方針で済み,後療法を併用する必要もなく,再発の危険も少ないのであまり問題はない.これらの患者では,後述する術後のquality of life(QOL)の観点から縮小手術,機能温存手術,再建手術などにも多くの関心が寄せられ,これらによって患者は術前とほぼ同様の生活に復帰することができる.

食道癌による通過障害

著者: 田中乙雄 ,   武藤輝一 ,   鈴木力 ,   藍沢喜久雄 ,   西巻正 ,   片柳憲雄 ,   武田信夫

ページ範囲:P.415 - P.420

 切除不能食道癌患者に対し,経口摂取を可能にすることを目的として一般的に行われているバイパス手術および食道内挿管法の手技について述べた.最近の食道癌治療における手術適応の拡大化に伴い,バイパス手術,食道内挿管の適応になる症例はますますpoor risk例が対象となってきている.従来よりバイパス手術は繁用されているが,必ずしも侵襲が少ない手術ではない.食道内挿管は挿入方法や材質の進歩により,最近では安全に経口摂取の目的を達することが可能となった.バイパス手術,食道内挿管のいずれを選択するかについては,各々の治療法の利点,欠点を十分把握して治療法を決定することが重要と考える.

噴門部癌の通過障害に対する姑息的治療—バイパス術とプロテーゼ留置術

著者: 三重野寛喜 ,   嶋尾仁 ,   比企能樹

ページ範囲:P.421 - P.427

 噴門部癌のpalliative therapyとして,バイパス術とプロテーゼ留置術について述べた.バイパス術は,症状の緩和と,ある程度の予後と,quality of lifeの改善の期待できる症例に限るべきである.手術は大彎側分割胃管か,空腸によるRoux-Y再建が安全で簡便な方法である.プロテーゼは,食道癌のそれと比較して述べた.噴門部癌のプロテーゼは著効率56%で,食道癌の73%に比し必ずしも満足できる成績ではなかった.しかし,術後早期より常食摂取可能な例もあり,また,きわめて短時間で留置でき,安全な方法であるので,今後新しいプロテーゼの改良などで,手術不能の噴門部癌通過障害のpalliative therapyとして期待できる.

胃癌の腹膜播種再発と治療—イレウスに対する姑息的治療

著者: 太田恵一朗 ,   中島聰總 ,   西満正

ページ範囲:P.429 - P.437

 胃癌手術後の再発・再燃形式として,最も多いものは腹膜播種再発である.しかし,腹膜播種再発に対して外科的治療が可能であった症例は10数%に過ぎず,そのほとんどが姑息手術に終わっていた.腹膜播種再発に対する最良の治療はその予防が第一であり,初回手術の際に,腹膜播種再発高危険群に対して有効な補助療法が施行されなければならない.腹膜播種再発時の手術は,努めてreductionsurgeryに徹するが,遺残癌巣に対しては効果的な投与ルートを確保すべきである.CDDPをはじめとする抗癌剤の腹腔内投与法は,腹膜播種再発に対して有力な局所化学療法として注目されている.

膵頭部癌における胆道消化管通過障害

著者: 船曳孝彦 ,   落合正宏

ページ範囲:P.439 - P.447

 血管・他臓器合併切除を積極的にすすめ切除率を高めても,膵頭部癌の約半数はなお切除不能である.そのため,胆道および消化管の通過障害に対する姑息的治療の意義は大きく,従来より種々の術式が工夫されてきた.しかし,切除不能膵癌の予後はきわめて不良であるため,侵襲の程度と治療効果のバランスをどう求めるか,未だcontroversialな点も少なくない.また最近では,胆道閉塞に対して非手術的治療が普及しはじめているが,経皮経肝的手法と内視鏡的手法との間でも,優劣については意見が分かれている.これら姑息的治療の現況を総括的に述べ,検討を加えた.

骨盤内臓器癌による排尿障害

著者: 平沢潔 ,   岩動孝一郎

ページ範囲:P.449 - P.455

 骨盤内臓器癌による排尿障害として問題となるのは,癌が尿管に浸潤し,尿管が閉塞されることにより生じる腎後性腎不全と,直腸癌における直腸切断術後の神経損傷による排尿障害があげられる.腎後性腎不全の対策としては,経皮的腎瘻造設術が超音波監視下に比較的安全かつ確実に施行できる方法である.ほかに,尿管内W-Jカテーテル留置,尿管皮膚瘻術,回腸導管術を症例により選択する.直腸切断術後の排尿障害は,リンパ節郭清など拡大手術ほど,出現頻度が高い.対策としては,術後,なるべく早期に間歇的自己導尿を開始することが重要である.これにより,尿路感染を予防し,膀胱機能の自然回復を期待できる.

癌性疼痛

著者: 花岡一雄

ページ範囲:P.457 - P.463

 癌の治療法の進歩とともに,延命期間が長期化し,quality of lifeが提唱されている現在,癌性疼痛対策は重大な問題となっている.本稿では,癌性疼痛の成因,その神経生理学的特徴や特殊性について述べた.また除痛方法として,薬物療法,神経ブロック,下垂体アルコールブロック,外科療法などについて説明した.癌性疼痛の治療には,身体的因子だけに目をとらわれないで,心理的因子のかかわりを常に念頭において,精神的ケアを含めた全人的立場に立った対策が必要である.

進行癌患者の栄養管理

著者: 日置紘士郎 ,   平松義文 ,   中川学 ,   山中英治 ,   山本政勝

ページ範囲:P.465 - P.470

 進行癌患者は様々な要因により低栄養状態を示すが,積極的な栄養管理によって各種癌治療の合併症や副作用の発現率を減少させることが可能で,治療成績への好影響が強調されている.栄養管理法に関しては,高カロリー輸液よりも経腸栄養法のほうがより合理的であることが明らかとなりつつある.本稿では,栄養アセスメントの重要性,栄養障害患者に対する栄養補助の効果と限界,至適エネルギー投与量決定における問題点,および代謝栄養学における最近の話題として,消化管におけるグルタミン投与の重要性,アルギニン添加による抗腫瘍効果と免疫賦活作用,食物繊維と短鎖脂肪酸の大腸粘膜へのtrophic action,中鎖脂肪酸のエネルギー基質としての重要性などについて教室における成績を中心として述べた.

カラーグラフ practice of Endoscopy 胃・十二指腸内視鏡シリーズ・ⅩⅢ

ポリペクトミーおよび内視鏡的粘膜切除法—適応と安全に行う手技

著者: 三隅厚信 ,   平田稔彦 ,   水本誠一

ページ範囲:P.405 - P.408

はじめに
 内視鏡的ポリペクトミーは,病変の完全生検および完全切除が可能であり,診断のみならず治療の面でも欠くことのできない手技となっている.従来,内視鏡的ポリペクトミーは良性の隆起性病変,いわゆるポリープに対して行われていたが,悪性病変に対しても適用され,有茎性または亜有茎性のポリポイド癌1)のほかに外科的切除不能例に対する姑息的治療としても行われ,現在ではリンパ節転移のないm癌に対して根治的目的で施行されるようになった.最近では,陥凹性病変に対しても切除可能な内視鏡的粘膜切除法2〜5)も開発されている.
 本稿では,内視鏡的粘膜切除法を含め,適応および安全に行う手技について述べる.

膵臓手術の要点—血管処理からみた術式の展開・10(完)

膵内分泌腫瘍の手術

著者: 加藤紘之 ,   下沢英二 ,   児嶋哲文 ,   奥芝俊一 ,   田辺達三

ページ範囲:P.471 - P.473

はじめに
 膵内分泌腫瘍は稀な疾患ではあるが,適切な診断と治療によって多年の病悩がとれ,十分な社会復帰を果たし得る.初診医によっていかにこれらの疾患を疑われるかが鍵であることはもちろんであるが,外科医は,最少の侵襲と膵機能をできるだけ保持することに意を払う必要がある1〜6)

外科系当直医のためのDos & Don'ts・4

上肢・躯幹の脱臼・骨折の初期治療

著者: 野水眞 ,   鈴木篤 ,   露木靜夫 ,   高重義

ページ範囲:P.475 - P.479

 救急外傷の臨床の場で,四肢の骨折や関節脱臼に出くわす機会は少なくない.その中で,頻度が多い上肢・躯幹の骨折・脱臼で,外科医にできる初期治療について述べる,基本的には,骨折・脱臼の治療にはX線検査による正確な診断が必要だが,夜間当直などにおいては,X線検査なしでも,施設の状況や重症度・緊急度に応じた初期治療は可能である.

小児外科医の独白・4

ヒルシュスプルング病(Swensonの手術)

著者: 角田昭夫

ページ範囲:P.480 - P.481

 ヒルシュスプルング病(H病)この病気の診断・治療こそ,小児外科医の専門領域である.私の『小児疾患と文学』にも,H病をタイトルとした章こそないが,関連記事は3ヵ所ほどに顔を出す.
 1つは,第24章で紹介したコムロウ著(諏訪邦夫訳)『医学を変えた発見の物語』1)の中にある「新生児RDSの肺の病理組織に硝子様膜が発見されたが,これは原因ではなく結果である」というくだりで,「読んでいてH病の別名としての巨大結腸症を思い出しておかしくなった」という私の述懐がある.

最近の話題

生体部分肝移植の経験—その1

著者: 石曽根新八 ,   幕内雅敏 ,   川崎誠治 ,   松波英寿 ,   野口徹 ,   北原修一郎 ,   河原崎秀雄 ,   岩中督 ,   鎌田直司 ,   高山忠利

ページ範囲:P.483 - P.488

はじめに
 近年,日本でも末期の肝硬変症をはじめとした,保存的な治療では回復し得ない重篤な肝疾患の最終的な治療法として,肝移植が考慮されるようになってきた.特に,胆道閉鎖症の子供達が海外で肝移植を受けるようになって,更に注目を集めている.欧米では,成人と同様に小児でも,脳死者からの同所性肝移植が,すでに確立された治療法として行われている.小児に対する肝移植は,1984年,H.Bismuth1)が脳死肝の肝切除によりCouinaudの1-3区域を同所性に移植した報告以来,脳死肝から必要な大きさの移植片を切除して用いられるようになった.
 生体ではじめて部分肝移植を応用したのは,1988年12月,S.Raiaら2)のブラジルの移植チームである.その後,日本では島根医大,京都大学で実施された.死体からの肝移植は欧米において日常的に行われている診療行為で,臨床的安全性が確立された手技と評価されており,その手技をいかに正しく確実に実施するかが問題となっている.

臨床研究

胸部食道癌術後肺機能のmicrospirometerによる検討—とくにpeak flow測定の有用性

著者: 白尾一定 ,   草野力 ,   馬場政道 ,   吉中平次 ,   福元俊孝 ,   島津久明

ページ範囲:P.489 - P.493

はじめに
 胸部食道癌の術後患者では喀痰喀出力が低下し,しばしば長期の呼吸管理が必要となる.一般に気管内チューブ抜去(以下,抜管)の判定には,咳嗽反射の出現,肺活量などがその指標として用いられている.当教室においては咳嗽反射の出現,呼吸器離脱後の呼吸・循環状態の安定などを確認し抜管している.
 今回われわれは,最近のコンピュータ技術の進歩によって開発されたmicrospirometer1).を用いて胸部食道癌術後の肺機能の推移を測定し,その成績に基づいた喀痰喀出力の評価,抜管判定の有用性についてret-rospectiveに検討した.

最近5年間の虫垂切除術460例の検討

著者: 鈴木裕之 ,   中村隆 ,   加納正道 ,   鈴木知信 ,   高野亮 ,   飯島善之 ,   五十嵐幸夫

ページ範囲:P.495 - P.498

はじめに
 急性虫垂炎は日常遭遇する急性腹症の中でも最も頻度の高い疾患であり,1週間程度の入院ですむことが多いが,その診断,治療をひとたび誤ると重篤な事態を招くこととなり軽視できない.当院は山形県北部の中核病院として虫垂炎の全症例を外科で扱っており,幼児から老人までを含めた全虫垂炎症例に対して統計学的検討を行ったので報告する.

臨床報告

穿孔性虫垂炎術後に発症したヘルペス食道炎の1例

著者: 木附久雄 ,   城崎洋 ,   光石和夫 ,   中山吉福 ,   村山寛 ,   志村秀彦

ページ範囲:P.499 - P.502

はじめに
 ヘルペス食道炎は,剖検時に偶然診断されることが多く,生前診断の報告例はきわめて稀である1〜14).今回われわれは,穿孔性虫垂炎術後に黒色便,難治性吃逆を主訴として発症し,内視鏡所見および生検病理組織所見よりヘルペス食道炎と診断した症例を経験したので報告する.

腸間膜原発Paragangliomaの1例

著者: 田中千凱 ,   大下裕夫 ,   加地秀樹

ページ範囲:P.503 - P.506

はじめに
 腸間膜腫瘍は症状に乏しいため,発見が遅れることが多い.この腫瘍の診断には腸管X線造影,超音波検査,CTスキャン,血管造影などが有用ではあるが,これらの術前検査によっても確定診断が困難なことがある.
 最近,われわれは術前検査では発生部位の確定診断が困難であった腸間膜原発のparagangliomaの1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

食道癌手術時に発見された小腸間膜異所性膵組織の1例

著者: 斉ノ内良平 ,   金城明 ,   永田文雄 ,   中川洋寿 ,   中根佳宏 ,   小玉正智

ページ範囲:P.507 - P.509

はじめに
 異所性膵組織は発生頻度が数%と比較的稀な疾患であるが,特に腸間膜に発生したものは現在までにその報告がほとんどなく,きわめて稀であるといえる.今回われわれは,食道癌に合併した空腸間膜の異所性膵組織の1症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

胆嚢・総胆管結石症に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術と内視鏡的乳頭切開術による治療

著者: 木村泰三 ,   松井直樹 ,   桜町俊二 ,   吉田雅行 ,   原田幸雄 ,   渡辺文利 ,   金子栄蔵

ページ範囲:P.511 - P.513

はじめに
 腹腔鏡下胆嚢摘出術は,腹腔鏡の観察のもとに非開腹で胆嚢を摘出する術式である1〜4).しかし,この術式では現在のところ,総胆管切開を行うことは不可能で,総胆管結石症には不適応とされてきた5,6).一方,内視鏡的乳頭切開術による総胆管結石除去は,すでに一般的な術式となっているが,胆嚢結石をも合併している場合は,その後胆嚢炎を引き起こす可能性があり,胆嚢を外科的に摘出するのが望ましいといわれている.その場合,一期的に手術により胆嚢を摘出し,総胆管結石を除去する方法との優劣が問われる.
 今回われわれは,胆嚢結石と総胆管結石の合併例に対し,まず内視鏡的乳頭切開術にて総胆管結石の除去を行い,その後,腹腔鏡下胆嚢摘出術にて胆嚢摘出を行った2例を経験した.結果はきわめて良好で,この組み合わせにより,胆嚢・総胆管結石症の治療は非開腹で短期間に根治的に行い得ると思われたので報告する.

手術手技

腹腔鏡下胆嚢摘出術における術中胆道造影の手技と意義について

著者: 伊藤徹 ,   出月康夫 ,   下村一之 ,   石崎陽一 ,   野家環 ,   S.A.ナイーム

ページ範囲:P.515 - P.518

はじめに
 欧米では1988年頃より,開腹手術によらず腹腔鏡下に胆嚢切除を施行する方法が急速に普及しつつある1〜3).特に米国では,この新しい手術手技を訓練するための講習会も各地で企画され,盛況を呈している.本邦においても1990年5月の山川らの第1例目を皮切りに4),いくつかの施設で本法による治療が行われている5,6)
 教室でも1990年9月より本法による胆嚢摘出術を開始しているが,従来の開腹による胆嚢切除に比べて患者に与える侵襲が少ないため,入院期間の短縮と日常生活への早期復帰が可能になっている.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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