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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科46巻5号

1991年05月発行

雑誌目次

特集 術前一般検査—異常値の読みと対策

心機能検査

著者: 森透

ページ範囲:P.537 - P.543

 一般外科術前検査として心機能を評価するための検査法としては,標準12誘導心電図と心4方向撮影による胸部X線写真が一般的である.しかし,これらに先立って問診および理学所見から心機能異常の存在を識別しておくことがきわめて大切である.そのため,ここでは問診,理学所見,標準12誘導心電図,胸部X線写真の4項目における異常が存在するときに行うべき特殊検査とその結果から,一般外科手術適応をいかに考えるかについて記述した.

肺機能検査

著者: 諏訪邦夫

ページ範囲:P.545 - P.550

 高齢肥満の上に喫煙歴があるという,ボーダーライン状態の肺機能患者に大手術を施行して,術中から術後の経過を提示しながら,スパイロと血液ガスを中心に施行する現在の術前呼吸機能評価法を説明し,その問題点を提示した.%FVCが指標としてだまされやすいこと,術中の肺の血液酸素化能は予測困難なこと,そのメカニズムなどを説明した.呼吸機能検査に加える情報の取り方なども説明する.

肝機能検査

著者: 田中明 ,   小澤和恵 ,   山岡義生 ,   森敬一郎 ,   嶌原康行 ,   森本泰介

ページ範囲:P.551 - P.557

 外科手術に際して肝機能が最も問題となるのは肝硬変合併肝癌の肝切除である,血清アルブミン値,血清ビリルビン値,ICG試験,プロトロンビン時間が通常その評価に用いられる.それに加えて肝ミトコンドリア機能の評価である経口糖負荷試験(OGTT),レドックストレランス試験をわれわれの教室では用いている.すなわち,OGTTがlinear patternを示す症例,血中ケトン体比の増分を血糖の増分で除した値0.5×10-2以下である症例は肝切除に伴う合併症が多いことが判明しており,注意が必要である.

腎機能検査

著者: 安村忠樹 ,   岡隆宏

ページ範囲:P.559 - P.566

 術後腎不全は,術中術後の病態の変動により,術前になんら異常を認めない患者にも発生するが,術前から腎障害を持った患者ではそのリスクが高くなる.近年の血液浄化療法の進歩に伴い,術後腎不全を発症した患者の管理は比較的容易となり,術前に腎障害が認められたからといって,手術適応を制限する必要はなくなった.しかし,患者の高齢化,糖尿病患者の増加など,術後腎不全発症の可能性は高まっている.したがって,術前に患者の病歴,身体的所見,一般検査結果などから腎疾患のスクリーニングを行うとともに,腎機能検査を正確に評価し術前管理を行っていく必要がある.

止血機能の検査

著者: 上林純一 ,   左近賢人 ,   森武貞

ページ範囲:P.567 - P.574

 出血は外科の歴史が始まって以来,外科医を悩ませ続けてきた合併症であり,手術に際して止血機構の必要かつ十分な評価が不可欠である.そのためには,まず注意深い問診・視診・理学検査により,unsuspected bleederとsuspected potential bleederに鑑別し,必要最低限のスクリーニングテストを行う.異常が認められた場合にのみ,精査を行い,原因を究明すればよく,不必要な検査を慎むべきである.

代謝・栄養の評価

著者: 横田憲一 ,   西平哲郎 ,   森昌造

ページ範囲:P.575 - P.582

 手術侵襲下の生体においては,内部環境の維持のために代謝動態は大きく変動する.この変動期を円滑に乗り切るために,術前の栄養評価および術前,術後を通した栄養管理は重要である.
 術前の栄養評価は一般に体重測定,上腕三頭筋部皮下脂肪厚,上腕筋囲などの身体計測に加えて,血清albumin,rapid turnover proteinなどの血液検査,および免疫学的検査を総合して行う.
 術前の栄養管理によって術後の重大な合併症が予防されることが期待されることから,われわれは,術前の栄養管理を積極的に行っているが,個々の症例ごとに栄養管理前後で栄養評価を行い,手術適応を検討するようにしている.

カラーグラフ Practice of Endoscopy 胃・十二指腸内視鏡シリーズ・ⅩⅣ

胃瘻造設術

著者: 花上仁 ,   奥村輝 ,   菅野公司 ,   上野文昭 ,   田島知郎 ,   三富利夫

ページ範囲:P.531 - P.534

はじめに
 経口摂取が不十分な患者に対する経管栄養(tubefeeding,Sondenfüttering)の歴史は古く,Pareiraら1)によると17世紀にさかのぼる.なかでも胃瘻からの経管栄養は最も好んで用いられた方法の一つであるが,経中心静脈的高カロリー輸液(IVH)が普及した結果,その適応は極めて限られたものとなった.しかし,近年における高齢者やhigh riskを有する患者の急激な増加は従来胃瘻造設術の代表的な適応症であった上部消化管の通過障害に加え,新たな適応ともいえる嚥下障害を伴う神経疾患や老人性痴呆などによる経口摂取不能例の急増をもたらした.その上,経管栄養食もelementary diet(ED)の開発など著しい進歩がみられたことや,IVHに比較すると管理が容易なため在宅治療が可能となり,医療費削減の面からも今日の高齢化社会に適した栄養管理法であることなどから,胃瘻による経管栄養は再び注目を集めるに至っている.
 ところが,高齢でhigh riskの症例においては,小手術である従来の開腹下胃瘻造設術でさえも合併症発生の頻度は予想外に高い2)のが現状である.そこで,Gaudererら3)およびPonskyら4)は開腹術によらない内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gas-trostomy:PEG)を考案した.

外科系当直医のためのDos & Don'ts・5

骨盤・下肢の脱臼・骨折の初期治療

著者: 野水眞 ,   鈴木篤 ,   露木靜夫 ,   高重義

ページ範囲:P.585 - P.589

 当直で遭遇する四肢外傷のうち,今回は骨盤・下肢の外傷について述べる.

小児外科医の独白・5

続・ヒルシュスプルング病(根治手術の各種)

著者: 角田昭夫

ページ範囲:P.590 - P.591

 Swenson手術(続き)Swensonは1975年に,自分の手術の総決算を発表1)している.その抜粋を読むと,1948年の術式発表以来,シカゴとボストンとで13人の小児外科医が483人のH病患児にSwenson手術を行い,5年以上経過した282人の90%が正常排便であり,10人(2.1%)に大便汚染(soiling)がみられたが,尿失禁者もインポテンツのものも一人もいないという.結腸の剥離操作による骨盤神経損傷のないことも,彼が自分の手術を自慢する根拠となっている.
 80人が結婚し,146人のこどもを作った.この中で医師になった2人から,性生活に関する調査が詳しく得られたという私の記憶があるが,今度読み直してその箇所が見当たらない.もしかするとアメリカン・カレッジで聞いた話なのかも知れない.

前立ちからみた消化器外科手術・1【新連載】

開腹・開胸術における前立ちの基本操作

著者: 早川直和 ,   二村雄次

ページ範囲:P.593 - P.597

 消化器外科手術手技に関しては万巻の成書があるが,これらの記載は術者の方からみた手術動作に関するものがすべてであり,どこをどのように切離するかというように記載されている.切るべき所を術者が切りやすいようにいかに術野を展開するかということについてはほとんど触れられていない.
 術野の展開は助手の最も大切な仕事であるが,助手の動作に関する手術書は見当たらない.今回からの連載では,第一助手(前立ち),第二,第三助手(鉤引き)の基本操作を中心に,助手の側からみた消化器外科手術のあり方について述べる.obenの先生についてもらって胆嚢摘出術や胃切除ができるようになった人に,一歩進んでuntenの先生を助手にして手術をしたり,untenの先生の前立ちをして手術の指導ができるようなテクニックを身につけていただくのを目的とした.

最近の話題

生体部分肝移植の経験—その2

著者: 北原修一郎 ,   幕内雅敏 ,   石曽根新八 ,   松波英寿 ,   河原崎秀雄 ,   岩中督 ,   鎌田直司

ページ範囲:P.601 - P.608

はじめに
 われわれの教室では,1990年6月以降今までに3例の生体部分肝移植を実施した.前回,『生体部分肝移植の経験—その1』において第1例を中心として主に術前管理と手術方法を中心に述べた(46(4):483-488,1991).第1例は軽度の肺水腫を合併したのみで,術後42日に退院できた。しかし,第2例では黄疸が遷延し,腎機能障害,高尿酸血症,高カリウム血症,アシドーシス,難治性胸水,腹水の貯留,軽度の拒絶反応,胆汁瘻,悪性リンパ腫の発生などのさまざまな合併症があり,治療に難渋し,術後7ヵ月の現在入院中である.
 本論文では第2例について,術後管理,特に合併症を中心に述べてみたい.

臨床研究

原発性上皮小体機能亢進症23手術症例の臨床的検討

著者: 清沢雷太 ,   松永浩明 ,   牧野剛緒 ,   千々岩一男 ,   鳥巣要道 ,   中山文夫

ページ範囲:P.609 - P.613

はじめに
 原発性上皮小体機能亢進症(以下HPT)は,上皮小体に生じた腺腫や過形成あるいは癌の産生する過量の上皮小体ホルモン(PTH)により,高カルシウム血症をはじめ様々な病態を呈する疾患である.以前は稀な疾患とされていたが,血清カルシウム値測定の簡便化と共に急激に増加している.本疾患は,手術による病的上皮小体の切除を治療の第一とするが,様々な症状,病巣の部位診断法の選択,術中での腺腫と過形成の鑑別など,多くの問題を含んでいる.
 今回,われわれは症状と血液生化学検査成績との関連性,術前部位診断法の診断率を中心に,教室で手術をしたHPT23例の検討を行った.

閉塞性動脈硬化症における下肢多区域動脈病変と血行再建術

著者: 野村進二 ,   清水将之 ,   公平一彦 ,   鈴木宗平 ,   鯉江久昭 ,   田中正彦

ページ範囲:P.615 - P.618

はじめに
 近年の高齢化社会を背景にして,閉塞性動脈硬化症は増加しており,当科でも閉塞性動脈硬化症患者に対する下肢血行再建術症例が年々多くなっている,それにつれて,下肢の多区域動脈病変に対する術式の選択に苦慮する症例も増えてきた.
 閉塞性動脈硬化症の下肢動脈病変の広がりを知ることは,術式を選択するうえで重要であり,グラフトの開存率にも影響すると考えられる.

臨床報告

鈍的腹部外傷による右総腸骨動脈急性閉塞の1例

著者: 山口敏之 ,   臼井健二 ,   三輪史郎 ,   北澤慎次 ,   清水蔵一

ページ範囲:P.619 - P.623

はじめに
 鈍的外傷に続発する急性動脈閉塞は,比較的稀な疾患である.本症はしばしば他の臓器損傷を伴うため気づかれるのが遅れたり見逃されることが多い.しかし,放置されれば患肢の壊死または永久的な機能廃絶を来すことになり,迅速な血行再建が必要である.今回われわれは,鈍的腹部外傷に続発した急性右総腸骨動脈閉塞症を経験し,血行再建術を行う機会を得たので,若干の文献的考察を加え報告する.

術前に診断しえた十二指腸多発カルチノイドの1例

著者: 宮本伸二 ,   内田雄三 ,   久保宣博 ,   葉玉哲生 ,   得丸佳秀 ,   横山繁生

ページ範囲:P.625 - P.628

はじめに
 近年,消化管内視鏡の日常化に伴い十二指腸カルチノイドの報告例が増えつつあるが,早期に術前診断されることは依然稀である.
 今回,われわれはポリペクトミーにより術前に確定診断を得ることができた十二指腸球部多発カルチノイドを経験したので,若干の文献的考察を含めて報告する.

虫垂重積症の1例

著者: 篠原一彦 ,   吉野吾朗 ,   柚本俊一 ,   佐藤紀 ,   出月康夫 ,   名富仁美

ページ範囲:P.629 - P.631

はじめに
 虫垂は外科臨床の中で扱われる頻度の多い臓器の一つであるが,そのほとんどは急性虫垂炎とその合併症である.
 しかし,稀ながらも他の消化管と同様に腫瘍や重積などの病態が存在する.虫垂重積症も,McKiddにょり1858年に報告されて以来,これまでに200例弱が内外の文献に報告されているにすぎない稀なる疾患である.Collinsの71,000例の虫垂の検索では,良性腫瘍4.61%,悪性腫瘍1.35%であり,それぞれに上皮性,非上皮性,リンパ系,カルチノイドなど,多彩な種類を有している.そして,重積症は0.01%にすぎなかった1〜3).虫垂の腫瘍や重積症はそれぞれが臨床の中で頻度も少なく特徴的な症状や所見に乏しいことから,虫垂が諸検査の及びにくい大腸の最深部に位置するという解剖学的条件も相まって,術前の質的診断が困難であることが多い疾患である.

盲腸動静脈奇形の1例

著者: 北山健 ,   中江遵義 ,   塩谷昭子 ,   片山裕之 ,   坂口輝夫 ,   横山彰介 ,   土橋重隆 ,   森下久 ,   松本勉

ページ範囲:P.633 - P.635

はじめに
 最近,内視鏡検査,血管造影などの進歩,普及に伴って消化器分野における動静脈奇形arteriovenous mal-formation(以下AVM)が増加している.しかし,その数は現在でもまだ稀であり,1982年,小山ら1)は本邦で28例,欧米で218例にすぎないと報告している.
 今回,著者らは,著明な下血を主訴に来院し大腸内視鏡検査にて盲腸の微細な病変を認めたため,選択的上腸間膜動脈造影を施行した後に,下血の原因が盲腸のAVMからのものと診断し,直ちに回盲部切除術を施行した。以降,下血もなく順調な経過をたどっている1症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

多発性の原発性非特異性小腸潰瘍の1穿孔例

著者: 光吉明 ,   中上美樹夫 ,   三好賢一 ,   浮草実 ,   西嶋義信

ページ範囲:P.637 - P.640

はじめに
 原発性非特異性小腸潰瘍は,従来より穿孔を起こしやすいといわれているが,大部分は単発性の潰瘍の穿孔によるものであり,多発性にみられることは稀である.
 今回,われわれは直腸癌手術後の経過観察中に多発性の原発性非特異性小腸潰瘍の穿孔による腹膜炎を起こした症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

先天性直腸肛門狭窄症の1例

著者: 宇野武治 ,   田中厚志 ,   餅田良顯 ,   原田幸雄 ,   宮本礼子

ページ範囲:P.641 - P.644

はじめに
 先天性直腸肛門狭窄症は直腸肛門奇形の分類上,特殊な例として諸家の報告がみられる1〜3).また,本症には仙骨前腫瘍や仙骨奇形の合併率が高いとされており,診断治療上注意を要する4).われわれは,高度の体重増加不良を主訴として来院し,仙骨部分欠損,片側肥大,右水腎水尿管症,左重複腎盂重複尿管症を合併した先天性直腸肛門狭窄症の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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