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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科46巻6号

1991年06月発行

雑誌目次

特集 食道静脈瘤治療の焦点

肝機能評価上の問題点

著者: 川崎誠治 ,   出月康夫

ページ範囲:P.663 - P.667

 食道静脈瘤症例のうち肝硬変症を原疾患とする症例につき,肝機能評価上問題になる点を一般生化学的検査,各種負荷試験などの個々の検査値について述べた.特に,①O-GTTにおけるlinear型は胃排出能低下に強く関係すること,②ICGK値は,算出法に問題のあるICGRmaxと比較し,肝予備能の指標として信頼し得ること,③antipyrineおよびaminopyrine ciearanceは,肝細胞総数そのものをかなり反映し得る数値であること,を強調した.また,食道静脈瘤直達手術の適応基準,術後における肝機能評価についても言及した.

Child C患者へのアプローチ

著者: 原田明生 ,   野浪敏明 ,   中尾昭公 ,   岸本若彦 ,   高木弘

ページ範囲:P.669 - P.675

 内視鏡的硬化療法(EIS)の普及に伴って,治療対象となるChild C症例が著しく増加してきた.教室では,適応基準を満たすChild C 18例に胃上部切除術を行ったが,その5年,10年累積生存率はそれぞれ64%,53%と良好であった.術後5年以降再発静脈瘤からの出血率が増加したが,EISの施行が予後の改善にきわめて有効であった.EIsを施行したchild C症例の3年累積生存率は23%であった.緊急出血例の96%が止血可能であったが,そのうちの34%が主に肝不全により死亡した.Child C症例に対しては,病態に応じたEIS、手術などの治療法の選択が可能となったが,予後の改善には肝不全対策も含めた検討が必要と思われる.

食道静脈瘤併存肝細胞癌症例へのStrategy—内視鏡的硬化療法とHassab手術を中心に

著者: 塚田一博 ,   吉田奎介 ,   長谷川滋 ,   加藤英雄 ,   富山武美 ,   白井良夫 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.677 - P.683

 食道静脈瘤併存肝細胞癌症例における緊急止血法として,内視鏡的硬化療法のみでの止血救命率は20%(1/5)にとどまり,止血し得ない場合,Hassab手術の追加は有効であった.肝切除とHassab手術併施例では長期に静脈瘤出血が防止された.待期的および予防的硬化療法では,肝癌進行に伴う静脈瘤出血を完全には防止できなかった.
 肝癌に合併する高度食道静脈瘤に対して,肝切除ないし肝動脈挿管など開腹手術の適応ある症例ではHassab手術と硬化療法を併用し,非開腹例では硬化療法による対処を原則とするが,非開腹例でもTAE等により長期生存可能と思われる症例ではHassab手術の併施を考慮すべきである,
 食道静脈瘤併存肝癌例でも,肝切除ができた症例の5年累積生存率は41.7%と良好であり,積極的な治療方針で臨むべきであると考えられた.

食道静脈瘤の薬物療法

著者: 豊永純 ,   岩尾忠 ,   谷川久一

ページ範囲:P.685 - P.694

 食道静脈瘤破裂の機序として,門脈圧の病的上昇以外に決定的なものは明らかにされていない.したがって,門脈圧低下作用を有する薬物は静脈瘤破裂の予防的見地から有効であるものと思われる.門脈圧降下剤はその機序から,vasoconstrictorとvasodilatorに大別される.前者は主として内臓血管抵抗を上昇させることで門脈血流量を減じ,後者は肝内血管抵抗を低下させることにより門脈圧を低下させる.この薬理作用から,vasoconstrictorの使用にあたっては肝機能への悪影響が懸念される.それゆえ,今後はvasodilatorを主体とした治療に成果が期待される.また,両者のcombination therapyも最近新たに試みられており,この面からも期待がもたれる.

予防的治療の評価と問題点—内視鏡的硬化療法

著者: 萩原優 ,   酒井昌博 ,   中野末広 ,   長岡至朗 ,   岡野亨 ,   猪狩次郎 ,   守屋仁布 ,   窪田倭 ,   片山憲恃

ページ範囲:P.695 - P.701

 食道静脈瘤に対する予防的内視鏡的硬化療法について,検討を加えた.予防的硬化療法の適応としては,①内視鏡的にどの程度正確に,静脈瘤出血の危険性を予知できるか? ②肝機能を中心とした全身状態からみた硬化療法の適応,③硬化療法の合併症の種類と危険性,④硬化療法により,静脈瘤出血率と予後が改善されるか? などを検討しなければならない.
 われわれの110例の予防的硬化療法の成績は5年累積生存率64%,治療後静脈瘤出血は7例(6.4%)であった.本邦では,risky varlcesから出血する率は40%位と高いといわれており,硬化療法による合併症も増大傾向になく,慎重な意見があるものの容認されてる.
 一方,欧米ではProspective controlled randomized trialの成績より,効果を認めている報告もあるが,最近では安易に施行せず,もし行う際には臨床研究を目的として施行されるべきであるという意見が多い.

予防的治療の評価と問題点—手術治療

著者: 別府倫兄 ,   大橋薫 ,   蔡鴻飛 ,   神田博司 ,   平出康隆 ,   中西亮 ,   林孝平 ,   渡邊勇 ,   児島邦明 ,   深澤正樹 ,   二川俊二

ページ範囲:P.703 - P.709

 食道静脈瘤に対する治療は現在,手術治療と内視鏡的硬化療法の2つに大別されるが,筆者らは経胸食道離断術の静脈瘤消失効果の高いこと,効果の永続性が認められること,長期遠隔成績も良好なことから手術治療を行うことを原則としている.しかし,予防手術では待期的治療より手術適応を厳密にしており,静脈瘤の内視鏡所見でR-C sign(+)のもので,肝機能が比較的良好なもの(Child A, B)を適応としている.特にF2RC(+)のいわゆるrisky varicesに対しては積極的に手術を施行している.ChildCは手術侵襲により肝機能の変動が大きく,手術リスクが高いので内視鏡的硬化療法の適応としている.

再発静脈瘤の病態と治療

著者: 加藤紘之 ,   金谷聡一郎 ,   中島公博 ,   奥芝俊一 ,   下沢英二 ,   田辺達三 ,   佐藤隆啓 ,   須賀俊博 ,   村島義男

ページ範囲:P.711 - P.720

 肝予備機能が比較的良好な食道・胃静脈瘤症例を治療法別に比較検討した結果,内視鏡的硬化療法施行の再発率・再出血率がシャント手術に比べ有意に高かった.しかし,硬化療法を繰り返し続けた結果,3年・5年累積生存率に差はなかった.硬化療法後の難治性食道・胃静脈瘤に対する手術を10例に施行したが,そのうち2例は門脈本幹に血栓を形成しており,今後注意すべき合併症と考えられた.シャント手術の再出血率は2.0%と低く,就労率74.2%と良好であることから,硬化療法施行例の中で,初回入院時に4回以上の治療が必要な症例には手術が適応されても良いと思われる,両者を適宜組み合わせたcombination therapyが今日的治療指針である.

食道静脈瘤治療におけるControversy

著者: 小林迪夫 ,   御手洗義信 ,   吉田隆典

ページ範囲:P.721 - P.728

 食道静脈瘤に対する治療は複雑多岐にわたり,緊急,待期,予防いずれの時期においてもcontro-versialな問題をもっている.緊急例に対しては安全に—時止血を得ること,また待期・予防例では確実かつ永続的な治療法を選択することが望ましい.近年の硬化療法の普及,成績の向上にはめざましいものがあるが,治療抵抗例のあること,効果の持続性に問題があることも事実である.このため,症例ごとに原疾患,肝機能,門脈循環動態などの正確な評価を行い,個々の病態に応じた治療法を選ぶべきであろう.すなわち,各種治療法の適応と限界を熟知し,これを合理的に選択あるいは組み合わせて用いる集学的治療の重要性について言及した,

カラーグラフ Practice of Endoscopy 胃・十二指腸内視鏡シリーズ・ⅩⅤ

胃マーキング法—点墨生検法

著者: 高木國夫

ページ範囲:P.657 - P.660

はじめに
 胃粘膜にマーキングする目的は,主として胃癌の粘膜内浸潤範囲の診断であり,また切除標本の病理検査で組織所見と肉眼所見ならびに内視鏡所見との対比である.とくに胃中部早期癌の噴門側への粘膜内浸潤を知ることは,切除断端癌陽性による残胃の癌遺残の防止に極めて有用である,
 かかる目的のために,胃マーキングの方法には,色素の胃壁内注射1),高周波メスによる粘膜凝固2),クリッピング3)などがある.これらの方法は粘膜のマーキングはできるが,マーキングした部位の組織所見を知ることができないのが最大の欠点である.マーキングと同時にマーキング部位の組織所見を知ることが重要である.われわれは,氏家ら1)の胃壁内注射法に準じて,直視下胃生検法を応用した点墨法を1971年来早期胃癌の噴門側浸潤範囲の決定に用いている4,5).更に早期胃癌の内視鏡的切除ならびに早期胃癌の縮小手術として検討される局所切除に際しても,癌の粘膜内浸潤範囲の組織学的判定に点墨生検法を用いていることを述べる.

前立ちからみた消化器外科手術・2

胃癌根治術における前立ちの基本操作

著者: 早川直和 ,   二村雄次

ページ範囲:P.729 - P.738

1 大網の切離
 a.大網の左端の遊離
大網の切離のうちで難しい部位はその左端である.
 ①この場合,脾結腸曲を後腹膜より大網とと  もに少し授動して,大網の左端を結腸およ  び後腹膜から切離しておくと後の操作が容  易である.
 ②このときの第一助手(前立ち)は,下行結  腸にタオルをおいて左手で下行結腸を右  方,尾側へ牽引して,後腹膜と下行結腸付  着部に緊張をかける.

外科系当直医のためのDos & Don'ts・6

頭部外傷の初期治療

著者: 露木靜夫 ,   鈴木篤 ,   高重義 ,   野水眞

ページ範囲:P.743 - P.747

 頭部外傷患者の初期治療では,常に頭蓋内病変の存在を疑い,患者の意識状態や神経学的所見に注意しながら,創傷の処置をしなければならない.頭蓋内病変の有無が緊急度・重症度の判定を決定づけるため,CT検査がすぐにできる体制にあるかどうかで対応に違いはあるが,判断の基本は,あくまで意識障害・全身症状の程度とその時間的推移の観察にある.

小児外科医の独白・6

鎖肛(国際分類)

著者: 角田昭夫

ページ範囲:P.748 - P.749

 『神の汚れた手』『小児疾患と文学』の第6章「鎖肛」は曾野綾子作品の紹介である.1979年の朝日新聞朝刊に連載された『神の汚れた手』.三浦半島に居を構える産婦人科医を主人公にしたこの小説には,小児病院の場面もあるし,外科的先天奇形がたくさん登場する.ダウン症候群児の高位鎖肛で,その他尿道下裂,唇裂,口蓋裂,心室中隔欠損が合併,さらに親の折檻(虐待)で盲であり,まさに作者の言う「苛酷な状態にある」こどももいる.
 ただ第5章までは小児疾患が作品のモチーフだったり,題名に病名が使われたりしたものばかりを取り上げていたが,そうそう種も続かず,作品中に疾患が脇役的に登場するものも使わざるを得なくなったのが第6章であり,その後もこれを踏襲してしまった.

最近の話題

生体部分肝移植術におけるカラードプラの有用性

著者: 河西秀 ,   幕内雅敏 ,   西牧敬二 ,   北原修一郎 ,   石曽根新八 ,   川崎誠治 ,   河原崎秀雄 ,   岩中督 ,   高山忠利

ページ範囲:P.751 - P.757

はじめに
 最近,全肝移植後の移植肝の血流の評価に,カラードプラが有用であると報告されているが,術中に行ったとする報告はなく,また,生体部分肝移植でカラードプラを行ったとの報告もない.今回,われわれの経験した3例の小児の生体部分肝移植で,術中および術後の移植肝の血流評価にカラードプラがきわめて有効であったので報告する.

臨床報告

盲腸後窩ヘルニアの1例

著者: 三宅敬二郎 ,   三宅俊三 ,   幡慶一

ページ範囲:P.759 - P.761

はじめに
 腹腔内ヘルニアは比較的稀な疾患であるが,なかでも盲腸周囲ヘルニアはきわめて少なく,術前診断にも難渋する.
 今回,われわれはイレウスの術前診断で開腹した盲腸後窩ヘルニアの1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

術前に診断し得た閉鎖孔ヘルニアの1例

著者: 森本重利 ,   吉田明義 ,   仁木孝明 ,   高木雅代 ,   露口勝 ,   惣中康秀

ページ範囲:P.763 - P.766

はじめに
 閉鎖孔ヘルニアは比較的稀な疾患で,高齢のやせた女性に好発する.本疾患は術前診断が困難で治療が遅れやすいため,臨床上注意を要する疾患の1つである.高齢化が進みその発生率に増加傾向がみられる現在,本疾患を念頭において診断にあたることが重要である.最近われわれは,長期にわたるイレウス症状を呈していた症例に,小腸X線造影によって術前診断し得た症例を経験したので報告する,

原因不明の後腹膜・胸腔内慢性血腫の1例

著者: 篠原一彦 ,   粟根康行 ,   桜井裕之 ,   南智仁 ,   増子宣雄 ,   佐藤富良 ,   戸島洋一 ,   矢澤知海

ページ範囲:P.767 - P.769

はじめに
 今回われわれは,術前診断が困難であった,原因不明の後腹膜・左胸腔内血腫を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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