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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科46巻7号

1991年07月発行

雑誌目次

特集 熱傷治療のトピックス

熱傷の病態解析の進歩—熱傷ショックの病態を中心として

著者: 相川直樹 ,   堀進悟 ,   篠澤洋太郎 ,   若林剛

ページ範囲:P.789 - P.796

 近年の熱傷患者の治療成績向上は,熱傷後に起こる種々の病態の理解に基づいた治療法の開発に負うところが大きい.熱傷ショックは,熱傷創における血漿成分の血管外漏出による hypovolemia とhemoconcentrationが主要因であるが,フリーラジカルなどが関与する心筋機能障害も熱傷ショックの要因となる.熱傷後早期にはカテコールアミン,レニン・アンギオテンシン・アルドステロン,バゾプレッシンなどのストレスホルモンの作用により,血管収縮,乏尿がみられるが,同時に心房性ナトリウム利尿ホルモンの分泌も亢進し,ストレスホルモンの作用と拮抗して,腎臓,肺の保護作用をつかさどるとともに,利尿期における水,ナトリウムの排泄に関与している.

初期輸液療法—私はこうしている

著者: 鈴木敏彦 ,   前川和彦

ページ範囲:P.797 - P.802

 熱傷ショックにおける初期輸液療法の目的は,多量に喪失した細胞外液を正常に戻し細胞の機能と代謝を再開させることである.その理論に基づき数々の輸液公式が提唱されているが,われわれはParklandの公式に準じて広範囲熱傷患者の初期輸液を行っている.
 今回われわれは,北里大学病院救命救急センターで治療した過去5年間の広範囲熱傷患者のデータをretrospectiveに分析した.その結果,当院における初期輸液療法で臨床上特に問題はみられなかった.
 本論文では,熱傷の病態および初期輸液療法における最近の知見と問題点について検討を行い,われわれの考え方を述べる.

初期輸液療法—私はこうしている

著者: 鈴木幸一郎 ,   高須伸克 ,   岡部亨 ,   小濱啓次

ページ範囲:P.803 - P.811

 急性期輸液療法は,熱傷に特有の体液・循環異常を是正し,生体の各臓器機能を維持していくうえで非常に重要である.今日のわが国ではParkland formulaを使用している施設が圧倒的に多い.これは受傷後24時間は乳酸加リンゲル液(4×熱傷面積(%)×体重(kg)ml)だけを投与するものであるが,最近では受傷後6〜18時間でコロイド製剤(主に新鮮凍結血漿)を併用する傾向にある.輸液公式は,あくまでも受傷後24時間に必要になるであろう推定輸液総量を表す.実際には種々のパラメータをモニターしながら輸液量を調節する.特に,時間尿量(1.0 ml/kg)は簡便で信頼性のおけるパラメータとなる.輸液療法に反応しない場合は,心機能障害を疑う必要がある.

呼吸器系障害の管理

著者: 当麻美樹 ,   鵜飼卓 ,   太田宗夫

ページ範囲:P.813 - P.822

 熱傷に伴う呼吸器系障害には,顔面・頸部熱傷に伴う上気道閉塞,胸壁熱傷による胸郭運動障害,気道熱傷,ショック離脱期の体液再分布異常の結果生じるhydrostatic pulmonary edema,免疫能低下を背景にした感染に続発する呼吸器障害などがある.これらは,受傷後の経過とともに順次発症してくる.よって,治療としては,次に起きるであろう呼吸障害を予測し,対策を立てることが重要である.受傷早期においては,気管内挿管の時期を逃さないことが大切であり,その後は,病態に応じた呼吸管理を行う.しかしながら,それらの治療の前提として,適切な循環管理や,熱傷創面の管理,栄養管理などの全身管理が不可欠である.

感染の予防とマネージメント—外科療法

著者: 猪口貞樹 ,   田島知郎 ,   三富利夫

ページ範囲:P.823 - P.829

 近年,重症熱傷に対する外科治療は,受傷後早期に深い熱傷創を切除し,同時に創を閉鎖して感染を未然に防ぐ方法(早期熱傷創切除植皮術)が主流になってきた.しかし,熱傷が極めて広範囲に及ぶ症例では,切除後の創の閉鎖をいかにして行うかという課題が残されている.
 これに対して,過去10年余りの間に同種植皮,人工皮膚,培養表皮細胞などを用いた治療が試みられ,従来救命不可能であった広範囲III度熱傷の治療も可能となりつつある.これらの方法にはまだ改善の余地が残されており,今後の発展が期待される.

感染の予防とマネージメント—全身的抗生物質療法

著者: 緒方健一 ,   岡元和文 ,   安元正信 ,   佐藤俊秀 ,   黒瀬満郎 ,   岩越一

ページ範囲:P.831 - P.837

 熱傷患者では,感染防御バリアーとしての皮膚の障害と共に,広範囲熱傷では免疫系機能も低下するため,一旦感染症が起こると重症化しやすい.原則として,感染予防目的での全身的抗生物質の投与は行わないが,熱傷創部の汚染・気道熱傷・広範囲熱傷患者のSwan-Ganzカテーテル挿入例などは必要となる.抗生物質の投与に際しては,安全域の狭いアミノグリコシド系などの使用には,腎機能の評価が必要である.予防投与には,ペニシリン系や第一世代のセフェム系の抗生物質を投与し,次いで細菌培養および感受性テストの結果より抗生物質の選択を行う.この際,耐性菌の出現防止に心掛けるべきである.他に最近の話題と問題点について述べた.

感染の予防とマネージメント—局所抗菌剤療法

著者: 木所昭夫 ,   八木義弘

ページ範囲:P.839 - P.843

 重症熱傷を治療する際,これまで全身療法,特に熱傷ショックに対する処置が中心となっていた.熱傷初期における病態の解明から,現在,重症熱傷治療のポイントは感染症対策に移ってきている.感染症対策としては局所での感染予防をまず第一に考えるべきであり,早期の焼痂の除去および創傷被覆が感染症対策の重要な柱となる.局所抗菌剤として,①抗生剤含有軟膏,②サルファ剤系統のサルファマイロンおよびSSD,硝酸銀溶液,④最近のトピックである抗生剤含有創傷被覆材などがあげられる.日和見感染,菌交代現象の問題から局所における治療薬の選択は慎重に,また注意深く使用すべきであると考える.

感染の予防とマネージメント—理学療法

著者: 池上敬一 ,   島崎修次

ページ範囲:P.845 - P.849

 熱傷治療においては,創部感染対策の成否が予後を左右する.熱傷創部に対し非特異的で物理的な手段により,創感染を予防する方法を理学療法という.その目的は,創部への細菌の定着を防止すること,定着した細菌の増殖・侵入を阻止し局所感染成立を防止すること,そして創傷治癒過程を促進することである.本稿では,細菌の定着を阻止する病室やベッドの管理法,汚染され局所感染の可能性が高い創部を清浄化する温浴療法,そして壊死組織を保存的にできるだけ早く除去しようとする酵素的デブリードマンについて述べる.

高齢者熱傷の管理

著者: 池内尚司 ,   桂田菊嗣

ページ範囲:P.851 - P.857

 近年,老人層の増加に伴い熱傷患者でも高齢者を経験するようになった.重症熱傷治療の進歩にもかかわらず,高齢者の治療は困難で死亡率も極めて高いのが現状である.経時的にみると,搬入時には熱傷範囲や気道熱傷の有無の評価とともに,基礎疾患を掌握することが重要である.受傷初期では必要に応じ人工呼吸器を使用し,循環動態のモニタリング下,適宜昇圧剤を併用しつつ,Parklandの公式による総輸液量より若干dry sideに保ち,早期より膠質製剤を使用する.手術療法は,呼吸循環動態さえ安定していれば早期に施行する方針であるが,実際には7日目以後に初回手術が行われる場合が多い.栄養管理や感染症,基礎疾患の管理など解決すべき難問が山積している.

カラーグラフ Practice of Endoscopy 胃・十二指腸内視鏡シリーズ・ⅩⅥ

胃内計測法—円盤・方眼法

著者: 三橋利温 ,   横山靖 ,   大井田正人 ,   西元寺克禮 ,   岡部治弥

ページ範囲:P.783 - P.786

はじめに
 胃潰瘍面積の内視鏡的な計測は従来より試みられてきたが,内視鏡レンズの歪曲性により,その測定は容易ではなかった.岡部は,1980年M.Classenらにより発表されたゴム円盤法1,2)にヒントを得て,大井田,岡田とともに内視鏡レンズの光学的歪曲特性を考慮した胃潰瘍面積測定法を1982年に創案した3,4).その後,われわれはこの方法を臨床的に応用し,胃潰瘍の面積測定を行い,各種の抗潰瘍剤における潰瘍の縮小速度について検討を行ってきた5).本稿においては,この岡部・大井田により創案された円盤・方眼法による内視鏡的胃潰瘍面積測定法の原理および測定法について概略を述べる.

外科系当直医のためのDos & Don'ts・7

顔面外傷(1)—前額・眼瞼・耳鼻領域

著者: 鈴木篤 ,   露木靜夫 ,   野水眞 ,   高重義

ページ範囲:P.861 - P.865

 顔面の創傷処置に必要な形成外科的配慮と,眼科・耳鼻科などとの境界領域の外傷に対する一般外科医の初期治療を述べる.

小児外科医の独白・7

続・鎖肛(国際分類—続き)

著者: 角田昭夫

ページ範囲:P.866 - P.867

 Hardy Hendrenのジョーク フロリダ州のボカ・ラトン(Boco Raton)で第7回米国小児外科学会(APSA)が開かれた1976年,ボストンのHendrenがMRIを使った鎖肛の診断方法を発表した.Hendren氏は折しも自ら結腸癌の手術を受けた直後で,「MRIルームの磁場の中で,俺の腸吻合に使われたメタルが踊り出して,いつ吻合部が破裂するかヒヤヒヤしどおしだった」というジョークがパーティーでの話題をさらった.
 Hendrenという人は,ボストン出身の看板を首からぶら下げたような高姿勢で,こちらの言うことなど鼻も引っ掛けない男である.鎖肛に関しては,女児総排泄孔(Cloaca—つまり直腸,腟,外尿道孔が1つに集まる病型)の根治手術に関する優れた論文1)を発表している.

前立ちからみた消化器外科手術・3

胃全摘術における前立ちの基本操作

著者: 早川直和 ,   二村雄次

ページ範囲:P.869 - P.875

 今回は,一部胃切除R3郭清で必要な操作も含まれるが,第2回ですでに述べ重複する操作については省き,膵後部,肝十二指腸間膜内郭清,十二指腸切断,脾臓,膵体尾部の脱転,膵切離,膵断端の処理,腹部食道の露出,切離,食道空腸吻合法について述べる.

臨床研究

原発性上皮小体機能亢進症症例における細胞核DNA量測定の意義

著者: 高見博 ,   城戸岡謙一 ,   四方淳一 ,   伊藤國彦

ページ範囲:P.877 - P.881

はじめに
 上皮小体腫瘤の病理診断は,他の内分泌腫瘍と同様に時に困難であり,特に腺腫と癌の鑑別は明確でないことがある1,2).したがって,病理診断基準の確立が望まれるが,一方ではこの形態学的指標の他に,機能的指標を追究し上皮小体腫瘤の性格を明らかにすることも重要である.著者らは原発性上皮小体機能亢進症における上皮小体腫瘤の細胞核 DNA量を flowcytometryにより測定し,本法が上皮小体腫瘤の生物学的悪性度を表現する指標の一つになりえるか否かを検討した.

臨床報告

Celestin dilatorの使用が有効であった食道癌術後頸部吻合部狭窄の3例

著者: 岩瀬和裕 ,   竹中博昭 ,   矢倉明彦 ,   西村好晴 ,   吉留克英 ,   大嶋仙哉

ページ範囲:P.883 - P.885

はじめに
 食道癌に対する食道亜全摘術後の頸部食道消化管吻合部狭窄への非観血的拡張術は,バルーン拡張術かブジー拡張術かに大別される1).これまで当科では,バルーン拡張術の安全性を重視して,原則としてバルーン拡張術のみで対処してきた.しかし,バルーン拡張術単独では拡張力が弱く,頻回かつ長期間にわたる反復施行によっても十分な吻合部内径が得られない症例も認められた.最近,かかる症例3例に対してCelestindilator2)を併用し,良好な成績を得たので報告する.

術前に診断しえた特発性上腸間膜静脈血栓症の1治験例

著者: 中尾達也 ,   佐々木襄 ,   角重信 ,   川口正晴 ,   藤川光一

ページ範囲:P.887 - P.890

はじめに
 特発性上腸間膜静脈血栓症は頻度が少なく,また,術後再発率も高いため,予後不良な疾患の一つとされている.さらに,特異的な症状に乏しく,術前診断が困難であり,開腹手術により初めて診断される症例が少なくない.
 今回われわれは,腹部超音波検査および腹部com-puted tomography(CT)検査が術前診断に有用であった特発性上腸間膜静脈血栓症の1例を経験し,救命しえたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

空腸原発の髄外性形質細胞腫の1例

著者: 飯田敦 ,   丸岡喬 ,   本間修 ,   中島良明 ,   堀内隆三 ,   中川原儀三

ページ範囲:P.891 - P.894

はじめに
 骨髄以外に発生する形質細胞腫である髄外性形質細胞腫は稀な疾患であり,なかでも消化管原発のものは稀であり,空腸原発のものは更に稀である.われわれは腸重積により発症した空腸粘膜下腫瘍の手術を施行し,切除標本の免疫組織学的な検索の結果,髄外性形質細胞腫と診断した1例を経験したので報告する.

脳転移巣切除後の腸重積手術で発見された回腸癌の1例

著者: 中野秀貴 ,   後藤田明彦 ,   中村健児 ,   西部学 ,   高田譲二 ,   今野哲朗 ,   宮田昭一

ページ範囲:P.895 - P.898

はじめに
 原発性小腸癌は稀な疾患で,全消化管癌の1〜3%を占めるといわれる1).特有の症状に欠け,また,小腸検査の難しさのため,術前の診断は困難であり,早期に発見されることは少ない.
 われわれは,脳転移症状で発症し,腸重積のための開腹術において発見された原発性回腸癌の1例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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