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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科47巻10号

1992年10月発行

雑誌目次

特集 形成外科から学び取る

皮膚母斑の切除

著者: 野﨑幹弘 ,   佐々木健司 ,   菊池雄二

ページ範囲:P.1271 - P.1276

 母斑は,まさしくbirthmarkといわれるだけに予防策がない.また,患者に与える苦痛は大きい.それゆえに改善を図る心理的メリットは大きい.本疾患に対する治療はレーザー照射療法などが開発され,今やその切除対象例は色素性母斑などの黒あざが主体となっている.母斑切除と創閉鎖方法には,従来から広く行われてきた切除縫合,遊離植皮術以外に,新しくエキスパンダー法が導入され注目されている.皮弁を利用することによっても,その工夫により優れた整容的効果が期待できる.したがって,母斑例への手術にあたっては,予め修復のプランを考えてから切除デザインを決める配慮が是非とも求められる.本稿では,母斑に対する手術の適応と切除後の修復方法の実際を中心に概要を述べた.

瘢痕拘縮の外科的治療

著者: 丸山優

ページ範囲:P.1277 - P.1283

 近年,瘢痕拘縮治療の臨床像には大きな変化が認められる.多数の新しい皮弁群の開発,tissueexpansion組織伸展法という方法論の登場やマイクロなど,技術の進歩,materialの向上なども相侯って,種々の修復法の選択が可能となった.本稿では,再建法の選択や適応について最新の知見も含め,皮弁,expansion,植皮や,これらのコンビネーションなどについて概説した.再建術式の多様化により,適応も変化しつつあることを認識し,治療のゴールへ向かって,機能,形態の両者を踏まえた修復法をQOLの観点をもって各個の症例に対応し選択することが必要である.

腋臭症の治療

著者: 秦維郎

ページ範囲:P.1285 - P.1291

 腋臭症の治療は年々増加する傾向にある.今回,一般外科系の医師のために,腋臭の基本的事項,各種治療法,筆者らの用いている術式,最近のトピックスなどにつき,以下の内容で述べた。
 【基本的事項】臨床的特徴は,①思春期に発現し,臭いは夏に強い,②20歳代にピークがあり,女性に多い,③軟耳垢を合併する,④月経時に増強する,⑤優性遺伝する,⑥高率で腋窩多汗を伴う,⑦アポクリン汗に起因する.組織学的特徴としては,①アポクリン腺数が多く,そのサイズが大きい,②アポクリン腺の機能亢進がある.
 【各種治療法】保存的治療もあるが,根治させるには手術的治療が必須である.手術法として,①汗腺層の掻爬,②汗腺層の吸引除去,③汗腺層の剪除④皮膚と汗腺層の一塊切除,⑤3,4の併用などの報告がある.
 【筆者らの用いている術式】各手術法のうち,汗腺掻爬法は操作が煩雑で効果が不十分なため,また腋窩皮膚を切除する方法は術後に瘢痕拘縮を生じるため問題が残る.そのため,筆者らは横切開剪除法を採用している.本法の利点は瘢痕が目立たないこと,直視下に操作するため効果が確実なことである.
 【最近のトピックス】最近,脂肪吸引法(リポサクション)が腋臭症の治療に応用されている.本法は脂肪吸引に使用する吸引管で汗腺層を吸引除去するもので,今後普及する可能性がある.

Pedicle flap, Free flap

著者: 田井良明 ,   清川兼輔

ページ範囲:P.1293 - P.1302

 flapを用いた手術を成功させるためには,flapの血行形態の解剖学的知識と皮弁壊死に対する予防および対処法を熟知しておくことが重要である.本論では,これらについての詳細を述べ,一般外科の先生方にflap手術の“こつ”を理解していただきたい.また,一般外科領域において特に有用と思われる3つのflapについて供述する.

遊離自家植皮術の基本的事項—Sheet graft, Patch graft, Mesh graft

著者: 塚田貞夫

ページ範囲:P.1303 - P.1311

 外科的基本手技として遊離自家植皮術(sheet graft, patch graft, mesh graft)の方法と適応をあげ,その手技の要点を解説し,併せて術後管理,移植皮膚の生物学的治癒像について付言した.遊離植皮術を施行するにあたって,その目的を十分考慮に入れた適切な方法を選択する必要がある.特に,術後の移植皮膚の整容的・機能的な障害はさらに精神的な苦痛や長期にわたるリハビリテーションを強いる.また,採皮部位の整容・機能的損傷の併発防止に十分留意しなければならない.

頸部食道の再建

著者: 朝戸裕貴 ,   波利井清紀 ,   中塚貴志 ,   海老原敏

ページ範囲:P.1313 - P.1319

 下咽頭・頸部食道癌に対し咽頭喉頭頸部食道摘出術が行われた場合,頸部食道の再建が必要となる.一期的再建の方法として遊離空腸移植と遊離前腕皮弁移植,二期的再建の方法として大胸筋皮弁移植による頸部食道再建の手技を紹介する.空腸は筒状で咽頭端や食道端での吻合が粘膜同士となり,瘻孔を形成しにくい.一期的再建の場合には遊離空腸移植が第一選択である.一方,遊離前腕皮弁移植は開腹操作を必要とせず,血管柄が長く咽頭端での手術操作も容易であるため,症例によっては有用である.大胸筋皮弁移植は,二期的再建や再発腫瘍切除時などで適当な移植床血管がない場合に有用な方法である.

乳房切断後の乳房再建—腹直筋筋皮弁による即時乳房再建

著者: 西村正樹

ページ範囲:P.1321 - P.1331

 乳房切断後の再建術は,従来,広背筋筋皮弁とシリコンインプラント,ティッシューエキスパンダーあるいは腹直筋筋皮弁などが用いられてきた.しかし,シリコンは製造中止になるとともに,乳房再建目的であっても使用不可能となった.1988年より,横軸型腹直筋皮弁(transverse rectus abdominismusculocutaneous flap=TRAM FLAP)あるいは縦軸型腹直筋筋皮弁を用いて,65例の即時乳房再建を行ってきた.以上の経験より,この即時乳房再建術につき,適応,筋皮弁の血行,手術デザインおよび一般的注意,手術手順,術後の注意点と代表的手術結果ならびに合併症につき詳細に述べた.

褥瘡の治療

著者: 梁井皎 ,   小坂義樹 ,   毛利隆広

ページ範囲:P.1333 - P.1340

 近年,わが国における諸病院の看護体制が充実されつつあるとはいえ,褥瘡形成がみられる患者も少なくない.褥瘡に対する治療は,古くから保存療法を中心に行われてきたが,約10年ほど前から形成外科の分野では筋皮弁による手術が行われている.褥瘡好発部位は殿部,特に仙骨部,大転子部,坐骨部で,これらの部位の再建には大殿筋皮弁を用いるのが最もよいとされている.大殿筋皮弁手術において重要なのは,個々の症例に応じた適切な皮弁の作図と移動である.本稿では,形成外科の分野で広く行われている褥瘡治療について大殿筋皮弁による再建手術を中心に述べ,代表的な症例を供覧する.

カラーグラフ シリーズ・新しい内視鏡治療・2

腹腔鏡下胆嚢摘出術(標準術式)

著者: 大上正裕 ,   北島政樹

ページ範囲:P.1263 - P.1269

 はじめに
 近年,腹腔鏡下手術は,欧米においてまさに爆発的な勢いで発達しており,外科領域,胸部外科領域,婦人科領域,泌尿器科領域において,次々に新しい試みがなされている1).その中でも,胆石症,胆嚢ポリープに対する腹腔鏡下胆嚢摘出術は,欧米では既に第一選択の手術になりつつある.
 本邦においても,腹腔鏡下胆嚢摘出術は,1990年5月に山川ら2)により初めて施行されて以来,胆石症,胆嚢ポリープの治療法として急速に普及しつつある.本年4月には健康保険適用となり,その拡がりは今後さらに加速するものと思われる.

外科系当直医のためのDos & Don'ts・22

血管外科疾患の救急処置(2)

著者: 髙本眞一 ,   鈴木篤

ページ範囲:P.1343 - P.1347

 本稿では,急性の血管外科疾患の中で,大動脈疾患を中心に,当直医が対処すべき初期診療について,超音波検査の新しい利用なども含めて述べる.

小児外科医の独白・22

続 小児の外そけいヘルニア(1日入院手術)

著者: 角田昭夫

ページ範囲:P.1348 - P.1349

 Alexander H.Bill外国で1日入院システムが奨励されはじめたのはもう20年も前になろうか.その目的の第一は高額な入院費用の節約にあるが,それ以上に母子別離の回避という利点も大きい.
 1971年,第4回のバンクーバーPAPS(太平洋小児外科学会)へ参加の途上でシアトル小児病院へ立ち寄った際,当時の外科チーフSandy Billが私を病棟に案内しながら,「こどもの泣き声が聞こえるか?」とたずねた.シーンとしていたので「何も聞こえない」と答えるとわが意を得たように,「ここは1日入院病棟で,母親が付き添っているからだ」と説明してくれた.

前立ちからみた消化器外科手術・18

胸部食道癌根治術における前立ちの基本操作(1)

著者: 早川直和 ,   二村雄次

ページ範囲:P.1351 - P.1356

 食道癌根治手術術式は,癌占拠部位によって大きく異なるが,今回からは教室で行っている胸部食道癌手術を中心に前立ちの基本操作について述べる.教室の胸部食道癌手術は,頸部,胸部,腹部の3領域郭清を基本術式としており,手術範囲が3領域に及び,3種類の異なった術野での手術操作が必要である.したがって,前立ちの基本操作もそれぞれの手術野によって臨機応変な対応が求められる.
 今回は,教室の胸部食道癌手術手順ならびに腹腔内操作における前立ちの基本操作について述べる.

臨床研究

大腸早期癌症例の検討

著者: 王厳慶 ,   森脇誠司 ,   星野和義 ,   菅沢章 ,   木村修 ,   貝原信明

ページ範囲:P.1359 - P.1363

 はじめに
 近年,X線二重造影ならびに内視鏡診断技術の進歩につれて,大腸早期癌の発見率が年々増えている.早期癌のうち,m癌の治療に関しては異論は少ないが,sm癌では腸切除を行うべきか否かに迷わされることがあり,患者の年齢や社会的背景を考慮に入れて手術療法の選択がなされることも少なくない.今回われわれは,過去30年間に当教室で経験した大腸早期癌の臨床病理学的所見および治療成績を検討し,sm癌に対する外科治療の選択に関して若干の知見を得たので報告する.

臨床報告

悪性リンパ腫の化学療法中にcytomegalovirus直腸潰瘍を合併した1例

著者: 板東隆文 ,   豊島宏 ,   八巻隆 ,   磯山徹 ,   鈴木憲史

ページ範囲:P.1365 - P.1368

 はじめに
 Cytomegalovirus(CMV)感染症,すなわちcytomegalic inclusion disease(CID)は,健康人では稀な日和見感染症である.悪性疾患,血液疾患,膠原病,後天性免疫不全症(AIDS)などを合併するか1-4),臓器移植などで免疫抑制剤を投与されている患者では5,6),不顕性感染であったCMVの活性化によりCIDが発症する.CIDは中枢神経系,網膜,耳下腺,肺,腎,副腎,皮膚など全身の臓器でみられるが,最近では消化器CIDが増加している.消化器CIDとしては急性肝炎のほかに,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸,直腸の潰瘍などがある.消化器CIDの多くはAIDSに合併したものであるが1-4,7-9),著者らは,非ホジキン性リンパ腫(NHL)の化学療法中に大量出血を来した直腸潰瘍を経験したので報告する.

食道癌,喉頭癌,再建胃管癌の3重複癌の1例

著者: 熊之細透 ,   夏越祥次 ,   吉中平次 ,   馬場政道 ,   福元俊孝 ,   島津久明

ページ範囲:P.1369 - P.1372

 はじめに
 近年,早期食道癌の発見の増加と食道癌に対する外科治療や集学的治療の進歩により,食道癌の長期生存例が増加してきている.これに伴って食道癌術後の他臓器重複癌も増加傾向にあり,3重複以上の多重複癌の報告も稀ではなくなっている.また,食道癌術後の再建胃管に発生した胃癌の報告も散見される.今回われわれは,食道癌切除の6年後に喉頭癌が,さらにその1年後に再建胃管癌が発生した稀な症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Adenoma of the nippleの1例

著者: 新井利幸 ,   蜂須賀喜多男 ,   山口晃弘 ,   磯谷正敏 ,   坪根幹夫

ページ範囲:P.1373 - P.1375

 はじめに
 乳腺に発生する良性の乳頭状病変には,intraductal papilloma, adenoma of the nipple,duct papillomatosisなどがある.このうちadenoma of the nippleは,臨床的,組織学的に特徴的な所見を有する稀な病変である.今回著者らは,その1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Marfan症候群に合併した腋窩動脈瘤の1例

著者: 中野聡子 ,   氏家久 ,   三浦金次 ,   巷野道雄 ,   秋葉直志 ,   桜井健司

ページ範囲:P.1377 - P.1379

 はじめに
 Marfan症候群は結合組織に異常を来す先天性の疾患である.大血管系の異常を認めることは多いが,末梢血管の異常はきわめて稀で,本邦での報告例はない.われわれは,腋窩動脈瘤を主訴としたMarfan症候群と思われる1例を経験したので報告する.

サルコイドーシスに合併した甲状腺癌の1切除例

著者: 渡辺進一郎 ,   市橋匠 ,   呉哲彦 ,   関征夫 ,   寺崎敏郎 ,   寺田忠史

ページ範囲:P.1381 - P.1384

 はじめに
 癌の所属リンパ節にサルコイド結節を認めることがある.これは癌転移に対する免疫反応の1つであるサルコイド反応によるものか,サルコイドーシスの全身症状の1つなのか鑑別が困難である.一方,甲状腺疾患とサルコイドーシスが合併するということは以前より知られているが,甲状腺癌とサルコイドーシスが合併することはきわめて稀である.
 今回われわれは,サルコイドーシスに罹患した患者で,頸部腫大リンパ節を伴った甲状腺乳頭癌の1例を経験し手術を行ったので,若干の考察を加えて報告する.

後腹膜に発生した気管支性嚢腫の1例

著者: 小林達則 ,   藤井喬夫 ,   毛利宰 ,   牧佳男 ,   高田郁子 ,   松尾恵輔

ページ範囲:P.1385 - P.1388

 はじめに
 気管支性嚢腫は通常,縦隔や肺内に発生するものであり,後腹膜に発生した気管支性嚢腫の報告はきわめて稀である.今回われわれは,術前,後腹膜腫瘍の診断で手術し,術後,後腹膜の気管支性嚢腫と判明した1例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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