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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科47巻12号

1992年11月発行

雑誌目次

特集 悪性腫瘍治療の現況—他科では今

耳鼻咽喉科における下咽頭・頸部食道癌の治療現況

著者: 村上泰

ページ範囲:P.1407 - P.1412

 下咽頭・頸部食道癌の予後は不良である.自験例330症例について,その予後不良の原因を探り,それに対応すべく基礎研究を行ってきた結果を基にして,現時点で最善と思われる治療法についてまとめた.各型に応じた進展特性を知った上で切除方針を決め,頸部郭清術と共に広範囲切除とするのが最もよいと思われる.

食道癌—形成外科では,今(遊離空腸移植による再建)

著者: 朝戸裕貴 ,   波利井清紀

ページ範囲:P.1413 - P.1419

 最近,食道癌の治療においてもチームアプローチがすすみ,手術の際にも消化器外科をはじめ胸部外科,頭頸部外科,そして形成外科のスタッフがチームを組んで携わる機会が多くなってきた.患者のQOLを向上させるためには,腫瘍切除後の食道再建における形成外科の役割も重要で,近年マイクロサージャリーを用いた遊離腸管移植が広く行われるようになった.遊離腸管移植は下咽頭・頸部食道癌切除後の典型的な頸部食道再建以外にも,現在種々の食道癌切除後の再建術に応用されている.本稿においては特に遊離空腸移植による再建手術手技の実際と,これらの応用について紹介する.

早期胃癌の内視鏡的治療

著者: 鈴木博昭 ,   増田勝紀 ,   藤崎順子

ページ範囲:P.1421 - P.1428

 内視鏡を中心とした早期胃癌の診断能が向上したことによって,早期胃癌例の胃癌例中に占める頻度が上昇したばかりでなく,粘膜癌(m癌)や微小癌(0.5cm以下の癌)の占める割合も増加している.また,電子スコープや色素内視鏡,超音波内視鏡の普及により,癌の深達度についてもかなり正確に診断できるようになった.一方,早期胃癌に対する数多くの手術例の切除標本による病理組織学的検討から,リンパ節転移の可能性を否定できる早期胃癌とはどんなタイプのものであるかが次第に明らかにされてきた.さらに,内視鏡的治療の手技としてポリペクトミーやレーザー照射法に引き続いて粘膜切除法も登場してきた.また2つの鉗子孔をもつ内視鏡も開発され,治療がより安全かつ確実に行われるようになった.高齢化社会の傾向に伴い,高齢や重症合併症あるいは手術拒否などを理由に手術不適と判定される症例が増加している.
 以上の諸点を背景として,多くの施設で早期胃癌の内視鏡的治療の適応が積極的に検討されている.当内視鏡科では1980〜1990年までに50例(絶対的適応22,相対的適応28例)にNd-YAGレーザー治療を,また1990年からは絶対的適応25例に対して粘膜切除法(EMR)を行い,ほぼ満足すべき成績を得ている.超音波内視鏡の活用や治療法の適応別選択などにより,癌の大きさや深達度などの点で「早期胃癌の内視鏡的治療はどこまで可能か」のテーマについて検討を進めているのが現状である.

肝臓癌に対するPEI療法

著者: 杉浦信之 ,   江原正明 ,   吉川正治 ,   北和彦 ,   篠崎正美 ,   大藤正雄

ページ範囲:P.1429 - P.1435

 経皮的エタノール注入療法(PEI)は侵襲が少なく腫瘍壊死効果が確実で,径3cm以下3病変以内の小肝細胞癌がPEI初回単独療法の対象である.治療後の累積生存率は1年94.2%,3年65.3%,5年37.8%であり,長期生存が期待できる治療法として普及している.問題点は治療後の他部位再発であり,早期に再発病巣を発見し治療することが予後の向上に重要である.
 また,PEIは腫瘍径3cm以上の症例にもTAEとの併用で治療効果の向上がみられ,初回治療後の再発病変に対する治療や,門脈腫瘍塞栓例に対する集学的治療の1つとしても有力な手段と考えられる.

肝臓癌—放射線科では今

著者: 永野徳忠 ,   打田日出夫 ,   吉岡哲也 ,   松尾尚樹 ,   西峯潔 ,   阪口浩 ,   本田伸行 ,   阪口昇二 ,   郭啓勇 ,   西村幸洋 ,   大石元

ページ範囲:P.1437 - P.1445

 手術不能肝臓癌に対するInterventional radiologyの最近の動向ならびに経カテーテル肝動脈塞栓術(Lp-TAE,特にSegmental Lp-TAE)と抗癌剤動注療法(TAI)の適応と治療成績について概説し,PHoT(percutaneous hot water injection therapy)にも触れた.肝細胞癌に対するLp-TAEは従来のGS-TAEよりも優れ,さらに1〜2区域に限局した症例では,Segmental Lp-TAEはLp-TAEよりも優れた治療成績を示し,非癌部への影響も少なく安全に施行できた.転移性肝癌に対するLp-TAEの適応はホルモン産生腫瘍などの腫瘍血管の豊富な腫瘍に限られ,腫瘍血管の少ない大多数の症例にはリザーバーが患者のQOLの向上に寄与する.PHoTでは,PEITに匹敵する治療成績がみられ,合併症もPEITより軽微で,今後の発展が期待される.

大腸癌—泌尿器科では今(腸管を用いた尿路変更)

著者: 田崎寛

ページ範囲:P.1447 - P.1453

 最近泌尿器科で行う尿路変更術は,導管造設術からContinent Urinary Reservoir:CUR(尿禁制腸管膀胱あるいは非失禁型尿路変更術)さらにNeobladder(腸管膀胱)造設術へ向けて急速な変遷を遂げつつある.
 ここでは最も代表的なCURとして,Kock Pouch,Mainz Pouch,Indiana Pouchの3方法について,導管造設術と対比解説した.
 しかしながら大腸癌など骨盤内の悪性腫瘍によって尿路変更術を余儀なくされる場合は,回腸導管,結腸導管にもCUR以上の利点も残されており,適応は術後のQOLを含め,個々の症例で総合的に検討のうえ決定されるべきである.

自己血輸血の考え方と消化器外科への応用

著者: 湯浅晋治

ページ範囲:P.1455 - P.1462

 輸血は大事な医療を支えてはいるが,それは一種の臓器移植である.したがって輸血ではウイルス感染,同種免疫などのリスクの他に,悪性腫瘍に対する輸血では免疫抑制作用や,さらに最近注目されているGVHDも胸部外科開心術に次いで担癌症例に多く認められている.これらのリスクに対しては厳重な検査およびフィルターや放射線照射等の対策が講じられているが,外科手術では安易な輸血を行うことなく,同種血回避のため自己血輸血が可能かどうかを常に考慮し,この安全である自己血輸血を推進していくことが必要である.
 ここでは自己血輸血の方法,特に消化器外科への応用について述べる.

カラーグラフ シリーズ・新しい内視鏡治療・3

腹腔鏡を用いた急性胆嚢炎の治療

著者: 木村泰三 ,   吉田雅行 ,   桜町俊二 ,   松田寿夫 ,   後藤秀樹 ,   高林直記 ,   和田英俊 ,   今泉強 ,   原田幸雄 ,   橋本治光 ,   金丸仁

ページ範囲:P.1399 - P.1404

 はじめに
 急性胆嚢炎を急性期に手術するかどうかについては,議論のあるところである.米国においては,患者の病悩期間の短縮,入院期間の短縮,早期社会復帰,経済性など急性胆嚢炎の急性期手術の利点が強調され,急性胆嚢炎は急性期に手術されるのが通常となっている.
 一方,わが国においては,保険制度の違いからか,上記の利点より,急性期手術を行った場合の診断の不確実さや手術の困難性を重視し,いったん保存的治療により炎症を消退させたあと,胆嚢摘出術を行う方針をとる施設が多い.特にPTGBDが用いられるようになり,炎症を比較的早く安全に消退させうるようになった今日,その傾向がまた強くなっているように思われる.同様の傾向は腹腔鏡下胆嚢摘出術(以下LC)においてもみられ,米国では,相当数の急性期手術が腹腔鏡下に施行されているのに対し,わが国では,急性胆嚢炎の急性期に行われたLC症例は少ない.
 しかし,わが国においても,積極的に急性期手術を行っている施設もある.筆者は,開腹胆嚢摘出術において,胆石・胆嚢炎の手術時期と手術成績について比較検討を行ったことがある1)

外科系当直医のためのDos & Don'ts・23

泌尿器科領域の救急処置

著者: 露木靜夫 ,   鈴木篤 ,   河村毅

ページ範囲:P.1463 - P.1467

 当直時の泌尿器科疾患の見方について述べる.

小児外科医の独白・23

胆道閉鎖症(手術)

著者: 角田昭夫

ページ範囲:P.1468 - P.1469

 カサイ手術 冒頭に「胆道閉鎖症に対する肝門部空腸吻合(カサイ)手術の成否は,索状物の肝門部(肝組織)からの切離面で決定される」という私の信念を述べる.独断的偏見かも知れないが,これは10年以上前からの,私の一貫した考え1)である.
 カサイ手術とカタカナで書いたのは,勿論その国際性を表現する意味からである.葛西森夫先生(当時,東北大学第2外科教授,現在,東北NTT病院長)が,「朝日賞」を受賞された1982年,東北大学の同窓会誌2)から依頼されて「ドーランド医学辞典のOperationの項にKasai o.とあるのを発見し,日本人として肩身の広い思いをした」と書いたところ,葛西先生ご自身もご存じなく,大変喜んだお手紙を後で頂いた.

前立ちからみた消化器外科手術・19

食道癌根治術における前立ちの基本操作(2)

著者: 早川直和 ,   二村雄次

ページ範囲:P.1471 - P.1475

 胸部食道癌根治術において頸部リンパ節あるいは頸胸境界部リンパ節郭清の重要性は衆目の一致するところである.しかしながら,食道の領域リンパ節系は広範囲に及び,その徹底的な郭清は過大な手術侵襲となる.頸部郭清における最適な郭清範囲については未だ統一された見解が得られていないのが現状である.
 今回は,教室で行っている胸部食道癌根治術における頸部郭清術式ならびに前立ちの基本操作について述べる.

手術手技

腹腔鏡下胆嚢摘出術において胆道損傷を避けるポイント

著者: 吉田和彦 ,   松田実 ,   河野修三 ,   三澤健之 ,   小林進 ,   桜井健司

ページ範囲:P.1479 - P.1483

 はじめに
 当科で1990年11月より1992年1月までに腹腔鏡下胆嚢摘出術(laparoscopic cholecys-tectomy:LC)を施行した初期315例において,4例(1.3%)の胆道損傷を経験した.これらの胆道損傷はLCに特有なもので,その原因を明らかにし,対策を立てれば避けられると考えられた.そこでこれらの4例を報告するとともに,LCの際の胆管損傷の機序,その予防法,さらに対処法に関して文献的報告を加え考察した.

臨床報告

鈍的外傷による左総腸骨動脈急性閉塞の1例

著者: 仁科雅良 ,   荻野隆光 ,   藤井千穂 ,   小濱啓次 ,   今井茂樹 ,   山根尚慶

ページ範囲:P.1485 - P.1487

 鈍的外傷による腸骨動脈の急性閉塞はまれな損傷である.今回われわれは,腸間膜損傷を伴った左総腸骨動脈の急性閉塞の1例を経験し,血管造影ののち開腹術およびfemoro-femoral bypass術(以下F-Fbypass術)を施行したので報告する.

右側腹部に巨大後腹膜血腫を形成した急性膵炎の1例

著者: 森岡敬介 ,   河内護

ページ範囲:P.1489 - P.1492

 急性膵炎の後期合併症の1つである後腹膜血腫を経験した.膵とは隔たった右側腹部に形成されていたこともあり診断に苦慮したが,術中確診を得,ドレナージ手術を行い良好な経過であった.

保存的に解除しえた腸石イレウスの1例

著者: 松田哲朗 ,   赤木重典

ページ範囲:P.1493 - P.1496

 緒言
 回虫,胆石,腸石,硬便などの腸管内腔の異物による閉塞も単純性イレウスの原因になりうるが,その中でも小腸内に生じた腸石によってイレウスが引き起こされることはきわめてまれである.
 最近,われわれは,小腸腸石症によりイレウスを発症し,保存的治療により軽快し,腸石の排出を確認しえた1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

冠状動脈病変ならびに一側虚血肢にバイパス術を併施した1例

著者: 長江恒幸 ,   山崎徹 ,   清水剛 ,   平山哲三 ,   石丸新 ,   古川欽一

ページ範囲:P.1499 - P.1502

 はじめに
 下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)の冠状動脈病変(CAD)合併率は高く,血行再建術のリスクファクターとして適切な対応が必要である.今回,左足の潰瘍,壊死を主訴とし,冠状動脈に多枝病変を認めたため,冠状動脈バイパス術(CABG)と上行大動脈—左大腿動脈バイパス術を一期的に施行した症例を経験したので報告する.

腹部大動脈瘤人工血管置換術後の大動脈十二指腸瘻の1治験例

著者: 増田宏 ,   豊平均 ,   山岡章浩 ,   梅林雄介 ,   下川新二 ,   平明

ページ範囲:P.1503 - P.1506

 はじめに
 腹部大動脈人工血管置換術後の大動脈消化管瘻(aorto-enteric fistula,以下AEF)の発生頻度は少ないが,予後はきわめて不良である.今回われわれは,腹部大動脈瘤術後の人工血管感染が原因と考えられるAEFの1治験例を経験した.

胸骨正中切開手術後に発生した胸骨骨髄炎の大胸筋弁充填術による1治験例

著者: 山下和城 ,   伊達洋至 ,   安藤陽夫 ,   清水信義 ,   寺本滋

ページ範囲:P.1509 - P.1512

 はじめに
 胸骨正中切開手術にまれに発生する胸骨骨髄炎は非常に難治性の合併症である.われわれは広範囲浸潤型胸腺腫に対し,放射線療法を施行したのち,胸骨正中切開により腫瘍摘出術を施行した.手術後に胸骨骨髄炎を起こしたが,大胸筋弁充填術を施行し治癒させることができたので報告する.

膵microcystic adenomaの1例

著者: 山口敏之 ,   臼井健二 ,   田中聡行 ,   牧本充生 ,   清水蔵一

ページ範囲:P.1513 - P.1516

 はじめに
 膵のmicrocystic adenomaは膵嚢胞性疾患中でもまれな腫瘍とされているが,今回われわれはその1例を手術する機会を得たので若干の文献的考察を加え報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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