icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科47巻2号

1992年02月発行

雑誌目次

特集 下肢循環障害の治療—適応と限界

下肢血行障害の診断法

著者: 岡留健一郎 ,   古森公浩 ,   杉町圭蔵

ページ範囲:P.155 - P.160

 下肢血行障害の診断に際しては,詳細な病歴の聴取やベッドサイドにおける視診,触診,聴診など日常の基本的診断法が重要であることはいうまでもない.検査法としては,従来用いられてきた血管造影に加えて各種無侵襲診断法をその目的に応じて組み合わせることにより,機能的診断を含むより正確な診断が得られる.

下肢急性動脈閉塞症

著者: 根本ひろむ

ページ範囲:P.161 - P.168

 下肢急性動脈閉塞症は緊急手術を要する疾患であり,救命・救肢のためには,早期診断・早期手術が必要である.選択すべき術式,手術成績,予後が大きく異なるので,動脈塞栓症と急性動脈血栓症とを鑑別することは重要である.動脈塞栓症はFogartyカテーテルによる塞栓除去術でよいが,急性動脈血栓症は血栓除去術ではまず救肢は困難で,血行再建術を選ぶべきである.下肢急性動脈閉塞症の代謝性合併症であるMNMSの本質は,虚血—再灌流障害であり,動脈閉塞レベル,虚血持続時間,来院時の所見,とくに患肢の激痛,筋硬直,血清カリウム値,血中・尿中ミオグロビン値および併存症を総合的に判断して重症度を決定し,手術術式を選ぶべきと考えている.

慢性動脈閉塞症の薬物療法

著者: 善甫宣哉 ,   江里健輔

ページ範囲:P.169 - P.174

 下肢慢性動脈閉塞症の薬物療法は,血行再建術を中心とした外科的治療成績が飛躍的に向上した今日でも,治療法の中で重要な地位を占めている.血栓形成を予防する抗血小板剤,抗血小板作用と血管拡張作用を有するプロスタグランディン製剤,血液レオロジー改善剤が臨床応用されてきたが,最近,閉塞性動脈硬化症では動脈硬化の進展予防や退縮を期待して,抗脂血症剤や各種の抗動脈硬化剤が研究開発されつつある.従来の薬物療法は主に虚血性潰瘍を治療対象としてきたが,今後間歇性跛行に対する薬物療法の発展が期待される.また,重症虚血肢では薬剤の効果予測と判定を適切に行い,血行再建の時期を失しないように注意すべきである.

慢性動脈閉塞症—レーザー血管形成術とPTA法との対比

著者: 岡田昌義 ,   吉田正人 ,   辻義彦 ,   森本真人 ,   中村和夫

ページ範囲:P.175 - P.180

 慢性下肢動脈閉塞症は近年,本邦においても増加の一途をたどっている.治療法として従来の手術を中心にバルーンを用いるPTAやレーザーによる血管形成術が病変の程度により適宜選択されている.ここではレーザー血管形成術の適応や手技を中心に述べるとともに,本法の成績をPTAによる成績と比較検討した.その結果,適応を厳選することによって,レーザー血管形成術の成績はPTAの成績よりも良好であることが明らかに呈示された.

腸骨動脈閉塞症—手術治療と術後管理

著者: 矢野孝 ,   錦見尚道

ページ範囲:P.181 - P.188

 腸骨動脈領域の閉塞性動脈硬化症に対しては,原則としてFontaine分類III期以上の症例に血行再建術を行っている.まず患者の全身状態を評価し,大動脈—大腿動脈間の人工血管による解剖学的バイパス術を第一選択としている.非解剖学的バイパス術は長期開存が得難いために,high riskの症例にのみ行う.大動脈への到達法として,下腸間膜動脈の温存がしやすい右腹膜外経路を用いているが,凝固・線溶系に異常のある症例では開腹している.中枢は端々吻合を行うことが多いが,端側吻合とする場合には,血流の乱れを極力少なくするようにSauvageのtrickを用いている.末梢吻合は,原則としてprofundaplastyを施行しているが,症例に応じてdouble tongueによる浅大腿動脈起始部の形成術を行うこともある.

大腿動脈閉塞症—手術治療と術後管理

著者: 内田發三 ,   杉山悟 ,   中井幹三 ,   花岡俊仁

ページ範囲:P.189 - P.197

 大腿動脈閉塞症は閉塞性動脈硬化症において最も多く認められ,大半の症例が大腿動脈—膝窩動脈バイパス術あるいは血栓内膜摘除術の適応となる.しかし,その大多数は高齢者であるため,術前から脳血行障害,冠血行障害,呼吸機能障害,腎機能障害や高血圧,さらに糖尿病などを随伴していることが多く,手術治療の応用には他の部位の下肢慢性動脈閉塞と同様に慎重を期さなければならない.術前からこれらの欠陥状態を可及的に是正したのち正しい術式を選択し,術中には細心な手術操作を進め,術中・術後の適正かつ迅速な全身管理と局所管理により手術成績をさらに向上させることができる.

下腿の動脈閉塞症—手術治療と術後管理

著者: 佐藤紀 ,   多田祐輔

ページ範囲:P.199 - P.204

 下腿の慢性動脈閉塞症はBuerger病に典型的にみられてきたものであるが,近年,糖尿病症例を中心に脛骨・腓骨動脈の閉塞性動脈硬化症をみる機会がふえてきている.糖尿病性壊死をみた場合には,常に閉塞性動脈硬化症の存在の有無を念頭におかなければならない.この領域の動脈閉塞症に対する血行再建術は近年著しく手術成績が向上した分野であるが,足部の阻血が高度であるにもかかわらず,いまだに血行再建不能として薬物療法が継続される傾向もある.脛骨・腓骨動脈の血行再建術には手技的配慮が必要であり,教室ではエスマルヒ駆血法を採用し,宿主動脈の剥離を最小にとどめることにより良好な開存成績を得ている.

血栓性静脈炎の診断と治療—その問題点

著者: 土光荘六 ,   勝村達喜

ページ範囲:P.205 - P.210

 血栓性静脈炎患者では,遊走性,再発性や両側性のもの,若年者に発生したものや血栓症の家族歴をもつものでは,原因症患の診断のための精査が必要である.浅在性静脈炎の診断は簡単であるが,深部静脈血栓症の診断には非侵襲的な方法が有効で利用すべきである.
 深部静脈血栓症の主な治療法である外科的治療,血栓溶解療法と抗凝固療法の適応,方法や成績について述べた.

下肢静脈瘤の手術治療

著者: 佐藤彰治 ,   岩井武尚

ページ範囲:P.211 - P.216

 下肢静脈瘤は静脈疾患のうちでは最も頻度の高い疾患である.成因として伏在静脈系の静脈瘤では,SFJ・SPJ・穿通枝における逆流が直接の原因であるが,先天性素因としてSFJより中枢側深部静脈の弁不全・弁欠損,静脈壁伸展性の亢進などの要因が強く疑われている.手術治療の基本は高位結紮とストリッピングである.再発例の多くは不完全な手術によるが,他に内腸骨静脈系よりの逆流や先天性素因の関与も考えられ,手術治療によるこれらの予防は難しい.近年,超音波診断法の向上により,個々の症例で逆流部位やその範囲が異なることが明らかになり,症例にあわせた選択的切除術が,より合理的手術術式として試みはじめられている.

下肢リンパ浮腫治療の現状

著者: 沼田稔 ,   西牧敬二 ,   浦山弘明 ,   橋本晋一

ページ範囲:P.217 - P.223

 リンパ浮腫は,リンパの還流障害に起因する疾患とされており,これまでにも数多くの治療法が報告されてきたが,いまだ決定的な方法をみない.筆者らは,これまでに各種の方法をこれらリンパ浮腫の症例に試み,必ずしも満足できる成績は得られなかったが,原発性ならびに続発性リンパ浮腫に対しての手術術式に関して若干の成績が得られたので,リンパ浮腫に関する一般的な知識の解説とともにその成績を報告する.

下肢の動静脈瘻

著者: 進藤俊哉

ページ範囲:P.225 - P.230

 動静脈瘻(AVF)とは,動脈と静脈の間に異常な交通をもつ疾患であり,先天性と後天性に分類することができる.先天性のものは,複数の流入動脈をもつことが多いが,短絡量は比較的少なく,重い心不全症状を示すことは稀である.外科的切除が治療の第一選択となるが,限局した腫瘤型動静脈瘻を除いて一般に難治性である.—方,後天性動静脈瘻は外傷を契機とすることが多く,原則的に動静脈瘻は単一である.シャント量が多いため,時間の経過とともに心不全症状を示す.治療は外科的に瘻孔の閉鎖を行う.

カラーグラフ Practice of Endoscopy 大腸内視鏡シリーズ・Ⅵ

末梢血管外科からみた腸血流—術中ドップラーと内視鏡粘膜所見との対比

著者: 桜沢健一 ,   岩井武尚 ,   佐藤彰治 ,   遠藤光夫

ページ範囲:P.147 - P.151

 はじめに
 腹部大動脈瘤(AAA)や大動脈腸骨動脈領域の閉塞性動脈硬化症(AIOD)に対する血行再建手術では,骨盤内血行,ことに遠位結腸の血流を温存することが重要である.周術期管理の充実に伴い,これら手術の成績は向上しているが,術後の腸管虚血壊死は致命的となることも多く,依然としてその予防は大きな課題である.
 図1はAIODに対し行った大動脈—両側大腿動脈バイパス術後に新鮮血下血を来した67歳,男性患者の大腸内視鏡所見である.浮腫状粘膜にpunch outされたような潰瘍が縦走している.この例はその後も下血が続き,結腸切除を要した.

外科系当直医のためのDos & Don'ts・14

凍傷・電撃傷

著者: 安藤正英

ページ範囲:P.235 - P.239

 原因はそれぞれ低温と電気で,まったく異なっているが,分類上はいずれも物理的損傷に含まれる.外傷の中では発生頻度が低く,外来で遭遇する機会は比較的少ない.しかし,初期には病変の境界がはっきりしない,時間の経過とともに障害の範囲が拡大する,予想外に深い壊死を伴う,受傷は四肢に多いなど,両者には他の外傷にみられない共通点がある.

小児外科医の独白・14

肥厚性幽門狭窄症(1)

著者: 角田昭夫

ページ範囲:P.240 - P.241

 “Surgery”1960年 この頃のSurgeryには“Medical History”という欄があり,6月号にMark M.Ravitchが「肥厚性幽門狭窄症物語り」1)を執筆している.
 その翌1961年は,私が賛育会病院に勤めはじめた年,つまり駿河敬次郎先生(後の順天堂大学外科教授・現葛南病院院長)に師事して小児外科の勉強を始めた年である.着任時は3〜4人の少人数の外科チームだったが,抄読会は必ず開かれていた.つまり駿河先生は常に勉強する姿勢をわれわれにも求められたわけで,私が先生から教えられた大切なことの一つである.

前立ちからみた消化器外科手術・10

膵良性疾患手術における前立ちの基本操作

著者: 早川直和 ,   二村雄次

ページ範囲:P.243 - P.250

 慢性膵炎手術を中心に膵良性疾患手術,特に膵の周囲臓器からの授動,膵頭神経叢切断術,両側腹腔神経節切除術,膵管空腸側々吻合術における前立ちの基本操作について述べる.

最近の話題

乳房温存療法の意味するもの—厚生省助成「乳がんの乳房温存療法の検討」班2年間の成果

著者: 霞富士雄 ,   三浦重人 ,   小山博記 ,   橋本省三 ,   梶原哲郎 ,   福富隆志 ,   高嶋成光 ,   久松和史 ,   羽田良洋 ,   渡辺騏七郎 ,   西常博

ページ範囲:P.251 - P.257

 はじめに
 近年,欧米からの乳房温存療法の報告は数多く,その華々しい成績に接し,温存療法という考え方に全く伝統をもたない日本の乳癌外科医の多くは戸惑い,基盤を失うように感じたり,鼻白むように感じたり,あるいはある種の嫌悪感を抱いたりしているものの,同時に大きな興味をも感じているのが現況である.
 確かに,乳房切除の範囲の中では各種のmodifica-tionは進み,縮小化がはかられてきた.これらのmodi-ficationは容認されるとしても,縮小化の行き着く所はつまるところ「乳房温存」である.しかし,乳房切除から乳房温存療法への移行は大きな断層を成していて,簡単に踏み込めるものではない.癌の手術の広範切除という原則に反して,癌に接近して局所切除するlumpectomyと,それに効果の実体がぼんやりしている残存乳房照射は,「乳癌の初回治療は乳房切除」という 言ってみれば鉄則に従って来た日本の乳癌外科医にとっては簡単には受け入れられるものではなかろう.

臨床研究

膵体部良性病変に対する膵分節切除・尾側膵空腸吻合の有用性

著者: 松本伸二 ,   廣吉元正 ,   田渕正延 ,   今泉暢登志 ,   池田靖洋

ページ範囲:P.259 - P.262

 はじめに
 一般に,膵体尾部の病変においては良性疾患であっても,術後の縫合不全や膵液瘻といった合併症を危惧して安易に膵体尾部・脾合併切除術が行われる傾向にある.今回,良性と診断した膵体部の限局性病変に対して,膵および脾機能温存を目的として,病変部の膵分節切除・尾側膵空腸吻合術を行い,良好な膵機能を温存し得たので,その有用性について報告する.

臨床報告

胃原発T細胞性悪性リンパ腫の1例

著者: 大藪久則 ,   松田昌三 ,   栗栖茂 ,   橘史朗 ,   児玉和也 ,   斎藤雅文

ページ範囲:P.263 - P.266

 はじめに
 胃原発悪性リンパ腫は胃悪性腫瘍の1〜4%と比較的稀な疾患であり,そのほとんどがnon-Hodgkin Iymphoma(以下NHLと略),B細胞性であって,T細胞性はきわめて稀である1〜3)
 今回われわれは,von Recklinghausen病にT細胞性胃原発悪性リンパ腫が併存した症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

出血性ショックを呈した胃Glomus腫瘍の1例

著者: 杉野達也 ,   八木啓一 ,   呉教東 ,   小林久 ,   高木大輔 ,   興梠隆

ページ範囲:P.267 - P.270

 はじめに
 胃に発生する非上皮性腫瘍の中で,glomus腫瘍は稀なものであり,われわれの検索し得た範囲で本邦報告例は56例であった.今回われわれは,術前に大量出血から出血性ショックに陥った胃glomus腫瘍の1症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

内翻したMeckel憩室が先進部となった腸重積症の1例

著者: 平井伸司 ,   松村豪晁 ,   丸山高司 ,   表原多文 ,   香河哲也 ,   田原浩

ページ範囲:P.271 - P.274

 はじめに
 腸重積症は小児に多くみられる疾患であるが,内翻したMeckel憩室による腸重積は,よく知られている割に頻度は少なく,術前診断も困難といわれる.今回われわれは,Meckel憩室内に迷入した組織を先進部とし,憩室が内翻して発症した腸重積症を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?