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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科47巻3号

1992年03月発行

雑誌目次

特集 再手術の適応と術式

食道・胃腸吻合部狭窄

著者: 磯野可一 ,   神津照雄 ,   佐久間洋一

ページ範囲:P.293 - P.300

 近年,食道・胃腸吻合部狭窄に対する外科的再手術症例は激減した.これは狭窄の原因の一つである縫合不全の発生頻度が減少したこと以外に,内視鏡的拡張術の大きな発展がある.体腔内に膿瘍形成がある縫合不全の症例でも,ドレナージが十分に施され,なおかつ将来のブジー療法に必要なガイドワイヤーさえ挿入されていれば,腸管粘膜の旺盛な再生で狭窄を残すことはなく治癒させることができる.本稿では以上の治療にも効果を示さない症例に対する頸部での食道・胃腸吻合部狭窄の外科治療手技について述べる.

食道アカラシア手術後の下部食道狭窄

著者: 福元俊孝 ,   島津久明

ページ範囲:P.301 - P.307

 現在,食道アカラシアの手術的療法では食道あるいは食道噴門筋切開術が多くの施設で基本術式として採用されている.筋切開を的確に行うと同時に,胃内容の食道内逆流防止に十分に配慮すれば,その術後成績はおおむね良好で,通過障害の再発のために再手術が行われることはごく例外的である.この場合の術後狭窄には,術直後からみられる持続性狭窄と術後しばらくの無症状期間を経たのちに起こる再発性狭窄の2種類がある.再発性狭窄の主な原因は筋切開創の瘢痕性収縮と逆流性食道炎である.治療においては,まず保存的に拡張術を試みるが,十分な効果が得られないために,最終的に再手術が必要になることが少なくない.再手術に際しては,なるべく侵襲の少ない手術方針を採用するのが望ましい.しかし,すでに手術操作の加えられている下部食道噴門部に繊細な手技を施行することは容易ではないので,やむなく下部食道噴門切除術を実施せざるを得ないことが多い.

食道離断術後の食道・胃出血

著者: 西村泰彦 ,   丸山俊朗 ,   中西亮 ,   渡邊勇 ,   児島邦明 ,   深澤正樹 ,   別府倫兄 ,   二川俊二

ページ範囲:P.309 - P.314

 食道・胃静脈瘤に対する経胸食道離断術後の再出血例について,その背景因子,再発形態,治療につき検討した.1979年から1991年までに314例の経胸食道離断術を行い,35例(11.1%)に術後出血をみた.出血源の内訳は,静脈瘤16例,食道炎8例,胃炎4例,その他7例であった,再出血時の血管造影所見では,肝硬変の進展や肝癌,門脈血栓などによる遠肝性血流の増大と消化管内外副血行路の再疎通の所見が認められた.再出血例に対する治療では,再手術の適応があれば,静脈瘤消失効果,遠隔成績が最も良好である経胸食道離断による再手術を考える.肝機能不良例や静脈瘤軽度再発例では内視鏡的硬化療法が効果的である.

胃切除術後の吻合部再発潰瘍

著者: 柏木秀幸 ,   青木照明 ,   秋元博

ページ範囲:P.315 - P.323

 広範囲胃切除術後に発生する吻合部潰瘍は,吻合により作り出された新たな粘膜境界とともに,残胃の不十分な減酸か成因として関与し,医原性の要素を含んだ病態である.臨床上の問題点として,出血を代表とする合併症潰瘍の頻度が高く,緊急手術における予後不良とともに再発を繰り返しやすいことがあげられる.薬剤治療によるコントロールは可能であるが,治療の継続が必要であり,吻合部潰瘍に対する手術適応は常に存在するものと思われる.Zollinger-Ellison症候群との鑑別診断が不可欠であるが,吻合部潰瘍に対する手術術式の選択は選択的胃迷走神経切離術が中心となる.また症例により,残存幽門洞の切除,潰瘍部の切除,吻合部形成,再建ルートの変更が適宜選択される.

迷切後の再発潰瘍

著者: 田宮洋一 ,   武藤輝一 ,   松原要一 ,   松尾仁之 ,   佐藤賢治 ,   島影尚弘 ,   小野一之

ページ範囲:P.325 - P.330

 迷切術後の再発潰瘍の治療は,胃の内外分泌能検査により潰瘍発生の病態を理解して方針をたてる必要がある.再発潰瘍には原則として保存的療法を行う.選近迷切術後の十二指腸潰瘍再発の原因は,幽門洞ガストリン性酸分泌能の残存によるものが主であり,手術療法は幽門洞切除術を行う.

Crohn病の再手術

著者: 有馬純孝 ,   二見喜太郎 ,   吉村茂昭 ,   八尾恒良

ページ範囲:P.331 - P.336

 Crohn病初回腸管切除症例44例を対象に術後再発,再手術について検討した.平均観察期間は約5年で,X線学的再発率は72.7%であった.再発形態としては,吻合部および口側腸管のアフタ様潰瘍の出現が高頻度に認められた.再手術例13例(29.5%)はすべて吻合部にその原因があり,理由としては,11例は狭窄によるものであった.再手術術式としては,吻合部を含めた腸管切除11例,Bypass手術1例,回腸瘻造設術1例であった.再手術に際しての留意点としては,癒着が強く剥離に難渋することが多いが,若年例がほとんどであり,周囲臓器,特に血管系,尿路系の損傷に十分注意し,腸管切除は最小限にとどめることが重要である.

遺残・再発肝内結石症

著者: 梛野正人 ,   二村雄次 ,   早川直和 ,   神谷順一 ,   近藤哲

ページ範囲:P.337 - P.344

 当科で経験した肝内結石症96例(癌合併例と無治療例を除く)のうち,遺残・再発の状態で当科に来院したもの(他院遺残再発群)は28例(29.2%),当科治療後に遺残・再発したもの(当科遺残再発群)は11例(11.5%)てあった.他院遺残再発群28例のうち再手術を行ったのは9例にすぎず,他の19例は内視鏡的切石術のみで治療しえた.また,当科遺残再発群11例は,全例内視鏡的切石術のみで治療し,再手術例はなかった.
 遺残・再発例も含め肝内結石症に対する治療の原則は,PTCSによる切石を行った後に胆道系を十分精査し,その病態を正確に把握してから治療方針を決定することにある.不十分な診断のもとに安易に手術を行うべきではない.

術後胆管狭窄

著者: 田中淳一 ,   梅澤昭子 ,   小山研二

ページ範囲:P.345 - P.351

 術後胆管狭窄は偶発的胆管損傷,あるいは技術的失敗が原因で発症する.その症状は主に黄疸と繰り返す胆管炎で,胆管壁の慢性炎症と瘢痕形成が認められる.病悩期間が長いもの,合併症を有するもの,手術回数の多いもの,また肝門部に近い狭窄ほど手術が困難で予後不良例が多い.治療の基本は観血的または非観血的に胆道と消化管を交通させることである.一般にPTCによる閉塞部位の確認とPTBDを先行させる.その後に,可能性のある症例なら経皮的あるいは内視鏡的胆道拡張術を試み,不可能なら胆管空腸吻合術など再手術が行われる.胆汁性肝硬変,門脈圧亢進症など高度のリスクを伴う症例はその合併症の治療とともに,可及的非観血的治療法を選択する.

再発鼠径・大腿ヘルニア

著者: 黒須康彦 ,   古庄康志 ,   三宅洋 ,   天野定雄 ,   森田建

ページ範囲:P.353 - P.360

 鼠径・大腿ヘルニアの再発は現在10%前後と推定されており,再発の原因としては,一般的な事項として,併存疾患,コラーゲン代謝の異常,創感染など,また手術手技に関するものとして,内鼠径輪縫縮不全,ヘルニア嚢高位結紮不全,縫合部にかかる過緊張,不適切な手術手技,他ヘルニアの合併の見逃しなどがあり,実際にはこれらのいくつかが重なりあって再発が起こってくるものと思われる.治療にあたっては,何が再発の原因であったかを考慮に入れて手術法を選択することが大切であり,必要ならば積極的にprosthesisの使用を奨めたい.

腹壁瘢痕ヘルニア

著者: 柵瀨信太郎

ページ範囲:P.361 - P.371

 腹壁瘢痕ヘルニア50例に対し,腹壁単純縫合閉鎖41例,Mayo法6例,Marlexmesh補綴術2例,広筋膜補綴術1例を施行し,再発率は4.5%であった.
 手術適応決定には患者の年齢,原疾患の予後,併存疾患の重症度,症状の有無,ヘルニアの状態,感染巣の有無などを考慮する必要があるが,原則的には全例手術適応と考えてよい.手術の原則は①健常な腱膜組織を用いた修復,②縫合部に過度の張力のかからない修復,③非吸収性縫合糸を用いた修復,④創感染の予防,である.①,②が可能であれば出来るだけ腹壁筋腱膜層縫合閉鎖を行うべきであるが,ヘルニア門が大きく縫合に過度の張力がかかる場合には,ヘルニア門部を組織欠損と考え人工膜補綴術を行うのがよい.

痔核・痔瘻の再発

著者: 穴沢貞夫 ,   又井一雄 ,   尹太明 ,   大塚正彦 ,   高尾良彦 ,   石田秀世 ,   河井啓三 ,   桜井健司

ページ範囲:P.373 - P.379

 痔瘻は治療が難しく再発率の高い疾患であるが,難易度は痔瘻の種類によって異なる.粘膜下および低位筋間痔瘻では再発率を数%におさえることができるが,難治性痔瘻では再発率は20〜30%台にあり,依然として肛門外科の解決課題である.痔瘻再発が明らかになった時は創全体の鎮静化を待つためにしばらく推移をみたい.再発痔瘻は,程度の差こそあれ肛門の正常構造を失っており,初発痔瘻よりもさらに手術が困難となるので,開放術式をとることもやむを得なくなる.
 痔瘻の再発は主痔核のみではなく,副痔核の処置を行えば低下せしめることが可能である.再発痔核の治療方針は前回の治療によって残された瘢痕の程度により異なってくるが,基本的にはそれ以上の瘢痕を肛門に残さないようにできるだけ愛護的な治療を行うべきである.

カラーグラフ Practice of Endoscopy 大腸内視鏡シリーズ・Ⅶ

超音波内視鏡による大腸癌診断

著者: 小林清典 ,   勝又伴栄 ,   五十嵐正広 ,   大谷剛正 ,   三富弘之 ,   中英男 ,   木田光広

ページ範囲:P.285 - P.289

 はじめに
 超音波内視鏡(endoscopic ultrasonography:以下EUS)は,大腸癌を中心とした下部消化管疾患にも応用され,良好な診断成績をあげている1,2).EUSは管腔内より垂直方向での病変の描出が可能であり,病変の深部方向への広がりや,隣接臓器への浸潤の有無について判定が可能である.大腸癌においては,癌深達度診断や傍腸管リンパ節転移の判定に有用であり,術前検査として不可欠なものとなっている.今回は大腸癌に対するEUS診断を中心に述べる.

外科系当直医のためのDos & Don'ts・15

皮膚の外傷と感染(その1)

著者: 安藤正英

ページ範囲:P.381 - P.385

 どの疾患も重症に至ることがほとんどないため,臨床上はあまり重要視されていない.しかし,当直で適切な処置を行えば,翌日には症状が軽減するため,手技を十分に習熟すべきである.代表的なものに擦過創,刺創,咬創,虫刺症などがある.受傷するといずれも局所に強い発赤や疼痛を伴うが,障害が全身に及ぶことはきわめて稀である.

小児外科医の独白・15

肥厚性幽門狭窄症(2)

著者: 角田昭夫

ページ範囲:P.386 - P.387

 幽門筋切開手術 こども医療センターが始まって20年を経過,現在までに200人以上にRamstedt手術を行ったから,平均1年に10人の割になる.
 あとで述べるように,この手術は小児外科の初歩的手術で新人の恰好の教材であるから,スタフには回って来ない.元外科部長の私でも第一例こそは手術させてもらったが,それっきりである.賛育会病院や東大での経験も加えて言うと,幽門部漿膜にメスで縦切開を加え,ベンソン鉗子で肥厚した幽門筋を鈍的に開く時には,まさにdivulsion(後述)という言葉がピッタリの,一種の快い手ごたえがある.十分切開すると粘膜下層が切開面に盛り上がってくるから,それを漿膜と同じ高さにするのが,手術のコツとレジデントには教えている.

前立ちからみた消化器外科手術・11

膵悪性疾患手術における前立ちの基本操作(1)

著者: 早川直和 ,   二村雄次

ページ範囲:P.389 - P.395

 膵悪性疾患根治術は癌占居部位,進行度,組織型などによって切除術式やリンパ節郭清術式が異なる.
 今回は,一般的な膵頭部癌に対する膵頭十二指腸切除術における膵と門脈の剥離,膵切離,空腸切離,腸間膜根部リンパ節郭清を中心に前立ちの基本操作について述べる.

臨床研究

肝細胞癌切除術後の腹腔内感染症

著者: 久保正二 ,   木下博明 ,   広橋一裕 ,   岩佐隆太郎 ,   藤尾長久 ,   中田浩二

ページ範囲:P.397 - P.400

 はじめに
 近年,肝予備能の評価,術中・術後管理の向上により,肝切除術は比較的安全に行われるようになった.しかし,肝細胞癌症例の多くは肝硬変症を併存することや,いわゆるcompromized hostであることから,肝切除術後の感染症は肝不全や多臓器障害(MOF)の誘因にもなりうる重要な問題である1,2)
 今回,著者らは肝細胞癌切除後の合併症のうち比較的多い腹腔内感染症(本症)について検討を加えた結果,若干の知見を得たので報告する.

臨床報告

横隔膜上食道憩室を伴った食道アカラシアの1例

著者: 竹之内直人 ,   田中千凱 ,   種村広巳 ,   大下裕夫 ,   加地秀樹

ページ範囲:P.401 - P.404

 はじめに
 最近当科で,横隔膜上食道憩室を伴った食道アカラシアの1例を経験し,手術(①憩室切除,②下部食道胃接合部粘膜外筋層切除,③胃底部縫着,④胃後方固定,⑤胃底部横隔膜固定)により良好な結果を得たので報告する.

画像と手術時の診断でdiscrepancyを示した成人鎖肛の1例

著者: 内藤真一 ,   岩渕眞 ,   大沢義弘 ,   内山昌則 ,   広田雅行 ,   近藤公男

ページ範囲:P.405 - P.407

 はじめに
 近年,鎖肛に対する産科医,小児科医の認識は向上し,新生児期,乳児期に適切な診断がなされ,小児外科において適切な治療が施されるようになったが,今回われわれは,幼児期に人工肛門造設術のみを受け,成人に至ってから治療された鎖肛の1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

手術手技

肺癌に対する右肺上葉切除・気管分岐部領域拡大楔状切除の手技

著者: 高木巌

ページ範囲:P.409 - P.412

 はじめに
 肺癌の中で気管分岐部に最も浸潤しやすい位置にあるのは右上葉原発の肺癌である.これら気管分岐部に浸潤した右上葉原発の肺癌に対する切除再建術式は,右肺上葉・気管分岐部切除後にBar-clay型1)や2連銃型2)の分岐部再建が主に行われてきたが,手術成績は不良3,4)であった.その主な原因は,これらの手術により吻合部に生ずる緊張の発生と血行の低下と考えられている5)
 著者は,気管分岐部を健常部に一部連続した状態で残すよう襖状に切除し,この健常部を利用して分岐部再建を行うことにより,これらの問題点を除去し安全で確実な術式とする試みを行った.本法を実施した2症例の手術手技と臨床経過を報告し,本術式の利点と問題点につき考察した.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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