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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科47巻4号

1992年04月発行

雑誌目次

特集 静脈・経腸栄養のトピックス

静脈栄養か経腸栄養か

著者: 山川満

ページ範囲:P.429 - P.439

 現在,各種病態に対応できる栄養法として,高カロリー輸液(total parenteral nutrition;TPN)と経腸栄養法(enteral nutrition;EN)の2つの方法が確立されている.腸管が機能している場合には,原則的にENを選択することが推奨されている.これは,TPNにおけるtranslocation,肝障害,管理上の問題などの存在と,ENの有効性が実証されつつあるためである.しかし,ENの進歩のみならず,TPNもその欠点を克服しつつあり,両法の利点を有効に取り入れて,より精度の高い栄養管理をめざさなければならない.また,ENには成分栄養剤(elemental diet;ED)と低残渣食(low residue diet;LRD)も用意されており,この使い分けも重要な課題である.

実地臨床での栄養評価

著者: 田代亜彦

ページ範囲:P.441 - P.450

 種々の疾患,とくに消化器疾患がもたらす栄養低下状態は,呼吸筋力の低下から免疫能の低下までをも惹起し,疾患の治療予後に大きく影響する.一方,近年飛躍的な進歩をとげた臨床栄養療法は,低栄養状態を著しく改善し治療成績の向上に寄与している.実地臨床では,低栄養状態にある患者の拾い上げとこれに施行する栄養療法の効果のチェックが必要であり,そのため種々の栄養評価が行われる.それぞれの栄養評価法を解説し,その意義や相互関係などを概説した.

栄養素至適投与量の決め方

著者: 篠沢洋太郎 ,   相川直樹 ,   安藤暢敏 ,   小澤壮治 ,   小山恭正 ,   中川基人 ,   平田俊弥 ,   佐々木淳一 ,   北島政樹

ページ範囲:P.451 - P.458

 侵襲高代謝期の代謝動態の特徴は,エネルギー需要の増加,耐糖能異常,分枝鎖アミノ酸(BCAA)のエネルギー源・蛋白合成に対する必要性の増加である.また進行したsepsisでは脂肪の合成促進・代謝抑制がみられる.エネルギー投与はBEEの1.4〜1.6倍とし,グルコースを主体とし,インスリン投与にて耐糖能異常に対処する.グルコース投与量>7mg/kg・min,RQ>1.0となる場合にはエネルギー源として脂肪投与を考慮するが,血中トリグリセライド増加時では中止する.アミノ酸投与量は1.5〜2.5g/kg・dayとし35〜50%をBCAAで投与,非蛋白エネルギー/Nを100〜200とする.非経口栄養管理が長期となる場合には必須脂肪酸,微量元素の欠乏に留意する.

新しい栄養素材—脂肪(MCTを中心に)

著者: 標葉隆三郎

ページ範囲:P.459 - P.464

 脂肪は,長鎖脂肪酸(LCT)9.0 kcal/g,中鎖脂肪酸(MCT)8.0 kcal/gという高いエネルギーを有し,栄養素材として重要である.最近注目されているMCTは,LCTに比して代謝が速やかで,免疫への影響も少なく,侵襲下のエネルギー基質として有用である.また,安全性の面からMCT:LCTのphysi-cal mixtureが製剤として考えられ,さらに同一分子内にMCTとLCTを含む,structured lipidも研究されつつある.また,従来のω−6系LCT脂肪乳剤に対して,ω−3系のEPAやDHAを含む脂肪乳剤も研究され,臨床栄養において脂肪がますます栄養素材として発展していくと考えられる.

新しい栄養素材—アミノ酸

著者: 宇佐美真 ,   大柳治正 ,   斉藤洋一

ページ範囲:P.465 - P.473

 最近開発されたBCAA液は,熱傷,敗血症,外科手術後などの侵襲下での栄養素材として有用であり,蛋白アミノ酸代謝の改善に有効である.肝不全用としては,BCAAを増やしAAAを減らした輸液および経腸栄養剤が有用である.腎不全用必須アミノ酸液はアミノ酸インバランスによる問題があり,新処方を検討中である.グルタミン液は消化管粘膜の栄養基質として侵襲下,放射線,抗癌療法に対して,また,アルギニンは,その多岐におよぶ生理的意義から各種病態への適応が考えられ,アミノ酸インバランス輸液も抗癌効果をねらい,いずれも基礎的,臨床的に検討中である.

新しい栄養素材—核酸成分輸液

著者: 岩佐正人 ,   小越章平 ,   韓相宗 ,   岩佐幹恵 ,   田宮達男

ページ範囲:P.475 - P.479

 Criticalな状態にある患者,高齢者あるいは大手術の術後にあっては生体内のいわゆる核酸プールが減少し,需要が高まっていることが示唆されている.小越らは,種々のnucleotide,nucleosideを配合した総合的核酸成分輸液(OG-VI)を開発し,実験的検討を重ね良好な結果を得,現在臨床的には第1相試験を終了し,近く第2相試験が開始される予定である.
 14C-leucineを用いた実験では,OG-VIをTPNに併用することにより肝臓,筋肉のfractional proteinsynthetic rateを有意に亢進させ,蛋白合成能,窒素バランスの改善に有用であった.また,NMRによるin vivoでの心筋のanoxiaからの回復過程でのエネルギー代謝の検討でも,PCr/Pi,ATP,energy chargeは対照群に対して有意に高値を示し,OG-VIの有用性が示唆された.今後,臨床的にも種々のcritical stageにおける核酸成分輸液の効果が期待される.

癌患者の病態と栄養管理

著者: 平松義文 ,   日置紘士郎

ページ範囲:P.481 - P.487

 高カロリー輸液法や経腸栄養法は,いまや癌治療の際の補助的手段として不可欠のものである.その目的は,担癌によるprotein calorie malnutritionへの対策,栄養状態の維持改善による化学療法や放射線療法の副作用を軽減すること,摂取栄養素をコントロールすることで直接癌の増殖・転移を阻止することなどがあげられる.とくにサイトカインや液性因子などに関する研究の急速な発展は,栄養療法の将来にとっても楽観的な見通しを抱かせる.
 癌治療の際の栄養療法における最近のトピックス,とくに癌患者の病態とそれに基づいた栄養管理はいかにあるべきか,またアミノ酸インバランス療法の現状について報告した.

在宅中心静脈栄養法の実際

著者: 福島恒男 ,   杉田昭 ,   原田博文 ,   瀧本篤

ページ範囲:P.489 - P.495

 在宅中心静脈栄養法は,中心静脈法が必要で社会生活が可能な患者に対して,大きな進歩をもたらした.本邦では法的にも認可され,本法を施行できる施設は1,084に達しており,1990年末までに本法を受けた患者は702名である.カテーテルはreservoir付きの完全皮下埋め込み式のものが用いられ,合併症も比較的少なく,長期の使用に耐えるものが実用化されている.本法の施行にあたっては,患者自身が,消毒,製剤の混合調整,穿刺法などをよく理解していることが合併症を低下させるうえで重要である.欧米では在宅療法が広く行われ,本邦でも今後,増加が見込まれている.

在宅経管栄養法の現況

著者: 酒井靖夫 ,   畠山勝義 ,   村上博史 ,   瀧井康公 ,   島村公年 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.497 - P.502

 在宅経管栄養法は1988年4月より医療保険の適用となっているが,現在限られた疾患で,かつ成分栄養を経管的に投与する場合に限定されている.一方,全国規模のアンケート調査によれば,全対象症例中保険適用疾患は45.7%であり,Crohn病が91.1%と大部分であったが,保険適用外の消化器疾患や脳神経疾患も54.3%と半数以上を占めていた.また,栄養剤も成分栄養剤以外に半消化態栄養剤も多く使用されていた.このように,実際の施行症例と保険適用との間にはギャップがあり,適応疾患,栄養剤の種類,投与経路および注入ポンプ,栄養チューブなど器具・器材の問題など在宅経管栄養法の現況について述べた.

カラーグラフ Practice of Endoscopy 大腸内視鏡シリーズ・Ⅷ

レーザー内視鏡—大腸癌狭窄

著者: 二ツ木浩一 ,   山本邦男 ,   内田信之 ,   岡村治明

ページ範囲:P.423 - P.427

 はじめに
 消化管癌のレーザー内視鏡治療は,わが国では早期癌に対する局所根治を主な目的として行われてきたが,欧米においては進行癌に対する姑息的治療を中心に行われている.
 上部および下部消化管の進行癌に対するレーザー内視鏡治療の目的は,まず第一に狭窄改善,ついで止血,そして腫瘍縮小である.大腸癌に対するレーザー内視鏡治療は,欧米においてはイレウス解除と止血を目的として非常に数多く行われているが,わが国で積極的に行っている施設は非常に稀である.われわれも20数例の経験しかないが,大腸癌の狭窄解除(イレウス解除)について述べる.

外科系当直医のためのDos & Don'ts・16

皮膚の外傷と感染(その2)

著者: 安藤正英

ページ範囲:P.503 - P.507

 爪外傷
 外傷の中でも疼痛が激しいものの代表格である.
 1 爪剥離
 拇指,示指,第1趾にスポーツや事故で受傷しやすいが,処置は手指,足趾ともほぼ同じである.

小児外科医の独白・16

肥厚性幽門狭窄症(3)

著者: 角田昭夫

ページ範囲:P.508 - P.509

 疫学 肥厚性幽門狭窄症が東洋人に比べて白人に多いことは,Shimがハワイの多民族を比較して報告1)している.1942〜1966年の出生証明ファイルに基づく調査で,白人は1/530,プエルト・リコ人1/1,000,韓国人は1/1,250,日本人は1/1,920,の頻度であった.日系人の母数74,000人は,白人の83,000人に次いで多い.この論文でShimは出生順位まで調査し,第1子に多く,全体の36%を占めたという.
 また男性に多いことも,小児外科の教科書2)には必ず書かれてある.最近『先天異常を理解する』3)という本を寄贈され,一般向けにわかりやすく書かれているので愛用しているが,この中にも肥厚性幽門狭窄症が取り上げられている.すなわち唇裂,心臓奇形,内反足などとともに,多因子遺伝による先天異常に分類され,その特徴の6番目:男女間に発生頻度差がある疾患の例示として,男性の肥厚性幽門狭窄症,女性の先天性股関節脱臼があげられる.

前立ちからみた消化器外科手術・12

膵悪性疾患手術における前立ちの基本操作(2)

著者: 早川直和 ,   二村雄次

ページ範囲:P.511 - P.518

 今回は,前回に引き続き一般的な膵頭部癌に対する膵頭十二指腸切除術における総肝動脈,腹腔動脈周囲リンパ節郭清,大動脈周囲リンパ節郭清,膵空腸吻合術を中心に前立ちの基本操作について述べる.

臨床研究

超音波検査による充実型甲状腺腫瘤の診断

著者: 菊地洋一 ,   遠藤清次 ,   鬼満圭一 ,   鈴木真一 ,   土屋敦雄 ,   阿部力哉

ページ範囲:P.519 - P.523

 はじめに
 甲状腺腫瘤の診断には,触診のほか,軟X線撮影,CT,シンチグラム,穿刺吸引細胞診などが行われているが,超音波診断は無侵襲で最も簡単に行うことができる検査法である.しかし,超音波診断の甲状腺腫瘤に対する良・悪性鑑別の診断基準は,各施設によりさまざまで統一したものがなく,経験的,主観的なものに頼っているのが現状である.そこで,甲状腺充実性腫瘍の良・悪性の鑑別診断の向上を目的として甲状腺腫瘤の超音波診断基準を分析し,多変量解析を用いて診断基準の数量化を試みた.

臨床報告

縦隔内上皮小体嚢腫の1例

著者: 成田吉明 ,   岡安健至 ,   大久保哲之 ,   長谷川直人 ,   田辺達三

ページ範囲:P.525 - P.528

 はじめに
 上皮小体嚢腫は稀な疾患であるが,そのほとんどは頸部に発生し,縦隔内に進展,発生した報告は極めて少ない.われわれは最近,縦隔内上皮小体嚢腫の治療を経験したが,その術前確定診断は困難であった.非機能性であったことと,局在が縦隔で異所性であったことによる.本邦報告例は検索しえた範囲で自験例が7例目であり,文献的考察を加え報告する.

成人腸間膜嚢胞の2例

著者: 田中千凱 ,   竹之内直人 ,   大下裕夫 ,   種村廣巳 ,   加地秀樹

ページ範囲:P.529 - P.532

 はじめに
 腸間膜の内部や表面にできる嚢胞は,炎症性癒着による偽膜性嚢胞,良性の嚢胞性中皮腫,嚢胞性リンパ管腫,発生途上に分離した腸管憩室などがある1).この腸間膜の嚢胞は,本邦では378例が集計されているが2),その大多数は小児のリンパ管腫であり2〜5),成人の嚢胞性リンパ管腫や嚢胞性中皮腫は稀である.
 今回,われわれはこの2例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

腸間膜原発平滑筋肉腫の1例

著者: 酒井弘典 ,   清利省三 ,   片岡和彦 ,   浜崎啓介 ,   三村久 ,   折田薫三

ページ範囲:P.533 - P.537

 はじめに
 腸間膜の原発腫瘍は比較的稀とされるが,なかでも平滑筋肉腫はさらに頻度が低く,われわれが検索し得た範囲では本邦で28例の報告をみるにすぎない.
 最近われわれは,腸間膜原発平滑筋肉腫の1例を経験し手術的に切除しえたので,自験例とともに本邦集計例に文献的考察を加えて報告する.

副腎の大結節性過形成によるCushing症候群の1例

著者: 橋本雅司 ,   柴崎正幸 ,   国土典宏 ,   万代恭嗣 ,   北村成大 ,   小原孝男

ページ範囲:P.539 - P.542

 はじめに
 糖尿病の加療中に,糖尿病のコントロール不良にて発見された,副腎の大結節性過形成によるCushing症候群を経験した.副腎の結節性過形成によるCushing症候群は本邦では約40例が報告されているが,本例のように結節が巨大なものは少ない.
 本例は,身体所見で中心性肥満などのCushing症候群に特徴的な身体所見は伴わなかったが,画像診断にて副腎病変が発見された例である.本症はその成因を考えるうえで重要と考えられたので報告する.

血管病変を伴った慢性膵炎の2手術症例

著者: 榎忠彦 ,   守田信義 ,   平岡博 ,   野島真治 ,   小林哲朗 ,   江里健輔

ページ範囲:P.543 - P.546

 はじめに
 食生活の欧米化とアルコール摂取量の増加に伴い,慢性膵炎は増加傾向にある.慢性膵炎は膵内・外分泌機能低下症状および頑固な疼痛を主症状とするが,その臨床病態は複雑で,種々の合併症を伴うことがある.1980年から1990年末までに教室で経験した慢性膵炎症例は20例で,男女比は18:2,年齢は27歳から64歳まで,平均47歳であった.成因別の内訳はアルコール性12例,特発性7例,胆道原性1例と,アルコール性慢性膵炎症例が過半数を占めた.手術が施行されたのは18例で,このうち3例が膵周囲の血管病変を続発していた.既に報告した1例1)を除く2例(脾動脈瘤兼脾静脈閉塞,脾静脈閉塞)について,その診断および治療に関して,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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