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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科47巻5号

1992年05月発行

雑誌目次

特集 腫瘍マーカーの理論と実際

腫瘍マーカーに何を期待するか

著者: 小川道雄

ページ範囲:P.563 - P.568

 腫瘍マーカーは,それをどのような目的のために使用するかによって,異なってとらえられるべきである.癌の生物学的特性を検討するためなら,腫瘍マーカーは癌組織に由来する物質(腫瘍関連物質)に限るべきであるが,癌の早期診断,スクリーニングに役立てることを目的とするなら,その物質が腫瘍組織に存在するか否かは問題とはならない.
 本稿では腫瘍マーカーの概念と限界を明らかにし,さらに血液以外の試料に対する腫瘍マーカーの応用の現状についてふれた.また,今後の腫瘍マーカーの研究はnegative tumor markerの検索に重点をおくべきであるという筆者の考えを述べた.

肝癌の腫瘍マーカー

著者: 間中大 ,   亥埜恵一 ,   山岡義生

ページ範囲:P.569 - P.571

 肝癌の腫瘍マーカーとして現在用いられているもののうち,感度および特異性の点で最も信頼性が高いと考えられるのはα—fetoprotein(AFP)であるが,AFP高値においても,慢性良性疾患や胎児性癌など鑑別すべき疾患は数多くある.このようにAFPを中心とした一元的なスクリーニング,あるいは診断には限界があり,かえって危険ですらある.AFPに関する多角的な知識が必要となることは言うまでもないが,他の様々な要素をも含めた総合的,多元的診断においてこそ,AFP値も真に有効な意味を持ちうるものと思われる.

胆道癌・膵癌の腫瘍マーカー

著者: 佐竹克介

ページ範囲:P.573 - P.579

 胆道癌,膵臓癌は消化器癌のなかでも予後不良の癌であり,その予後改善のためにはより早期の発見が必要となる.かかる観点より胆道,膵臓の癌を簡便にかつ的確に診断できる腫瘍マーカーが必要となる.胆道癌,膵臓癌の診断のためCEA,CA 19-9,CA 50,Span−1,DUPAN−2などの腫瘍マーカーが広く使用されているが,スクリーニングテストとして使用可能な満足すべき感受性と特異性を有するものは発見されていない.したがって,腫瘍マーカー測定単独では胆道癌,膵臓癌の診断は不可能に近い.しかし,症状を有し,腫瘍マーカーの上昇のみられた患者に対しては画像診断を用いて癌の発見に努めるべきで,癌の補助診断として役立つ.また,これら腫瘍マーカーは腫瘍の増大とともに増加するものが多く,患者の治療前後のモニターに有用である.腫瘍マーカー測定単独による胆道癌の早期発見は困難であるが,膵癌においては4.0cm以下の小膵癌で70%前後にCA 19-9,Span−1の上昇がみられ,早期診断の可能性も示唆される.本稿では,これら腫瘍マーカーの胆道癌,膵臓癌の診断に対する一長一短について現在までの知見を述べた.

大腸癌の腫瘍マーカー

著者: 小西文雄 ,   岡田真樹 ,   小島正幸 ,   富樫一智 ,   斉藤幸夫 ,   金澤暁太郎

ページ範囲:P.581 - P.588

 大腸癌の腫瘍マーカーの有用性としては,①スクリーニングによる大腸癌の発見,②術後再発の発見,③治療効果の判定,④radioimmunoscintigraphyなどがあげられる.大腸癌においては,CEAとCA19−9が特に重要であるが,その他の腫瘍マーカーとしては,NCC-ST−439,TPA,CA−50などがあげられる.大腸癌症例における陽性率は,CEAでは30〜60%,CA 19-9では20〜60%である.腫瘍マーカーは,手術後の再発発見を目的としたfollow upにおいて,特に有用である,われわれの結果では,再発発見においてCEAが最も有用であるが,CEAに加えてCA 19-9を測定することによって,より早期に再発が発見される症例が少なからずあることが示された.

乳癌の腫瘍マーカー

著者: 鈴木眞一 ,   阿部力哉

ページ範囲:P.589 - P.596

 最近のモノクローナル抗体作製の進歩によって多数の腫瘍マーカーが測定されるようになった.乳癌の診断におけるスクリーニングやモニタリングマーカーになりうるかを検討する目的で,自験例を用いCEA,CA15-3,TPA,NCC-ST−439,SLX,IAP,BCA225,Laminin,IV型collagen,P lll NPの10種類のマーカーの陽性率を比較検討した.基本的にはCEA,CA15-3,TPA,NCC-ST−439の4種類を,更に転移部位別には各々の特性を生かしたマーカーを使用するべきであり,先の4つの組み合わせ診断率は原発40.5%,再発88.5%であった.これらのマーカーは各々再発の早期発見や治療効果判定および癌の進行などのモニタリングマーカーに有用であり,その実例も呈示した.

肺癌の腫瘍マーカー

著者: 横井香平 ,   宮沢直人 ,   森清志 ,   斉藤芳国 ,   富永慶晤

ページ範囲:P.597 - P.603

 1986年9月〜1991年11月までの肺癌切除例162例の各種腫瘍マーカー(CEA,SCC,SLX,TPA,NSE,CA 19-9,CA125,NCC-ST−439)の測定結果と,現在までに報告されたこれらマーカーの結果とを比較検討した.CEA,TPAは組織型スペクトルも広く,病期にも比較的無関係に高い陽性率を示した.SCCは扁平上皮癌に特異性があり,扁平上皮癌例では1,II期でも陽性率は高かった.その他のマーカーは一般に病期の進行とともに陽性率が上昇した.また,組織型特異性のあるマーカーとしては小細胞癌に対するNSEがあり,SLX,CA 19-9は腺癌に比較的陽性率が高かった.本稿ではこれらの結果を踏まえて,腫瘍マーカーの臨床的役割について考察した.

小児固形癌の腫瘍マーカー

著者: 石黒士雄

ページ範囲:P.605 - P.612

 悪性腫瘍の治療に最も重要なことは早期発見であることは論を待たない.最近の生化学的な手法による多くの腫瘍マーカーの開発は,予後の改善に大きな役割を果たすことが期待される.特に,小児固形腫瘍は胎生期の組織を起源としているので,癌胎児性蛋白の最も良き標的である.小児固形腫瘍における代表的腫瘍マーカーの種類,測定値の読み方,臨床的意義を中心に,今後期待されるマーカーの予測など,筆者の経験を中心に概説した.

骨転移の腫瘍マーカー

著者: 田島知郎 ,   久保田光博 ,   徳田裕 ,   三富利夫

ページ範囲:P.613 - P.619

 癌の骨転移の検査には原腫瘍に比較的特異性の高い腫瘍マーカーを選択するが,この病態では骨代謝関連の各種マーカーも変動する.アルカリフォスファターゼとアイソザイム,血中カルシウム,オステオカルシン,プロコラーゲンペプチド,尿中ハイドロキシプロリンなどの骨代謝関連マーカーは骨のturnoverを反映し,骨転移がなくてもPTHrP産生腫瘍などで変動することがあるので留意しておきたい.骨転移に対する治療は姑息的ではあるが,その効果は通常の癌姑息的治療の場合よりも大きく,症状,画像診断なども含めた広い意味での腫瘍マーカーに注意して診療にあたりたい.

腫瘍マーカーによる治療効果の判定

著者: 大倉久直 ,   菅野康吉 ,   島田安博 ,   斎藤大三 ,   白尾国昭 ,   岡崎伸生 ,   岡田周市 ,   吉森正喜

ページ範囲:P.621 - P.628

 種々の癌治療の効果判定における血清腫瘍マーカーの利用方法とその有効性を,国立がんセンターの症例で提示して概説した.
 腫瘍マーカーには,再現性のある定量値として追跡でき,目にみえない転移や浸潤が観測でき,体内の腫瘍全体の動向が反映されるなど,画像診断や外科的診断よりも優れている部分がある,しかし,特別なマーカーを産生しない癌があり,腫瘍塊中のマーカー産生細胞は一部分であり,治療中に癌細胞が変異して腫瘍マーカーの産生が変化する場合もあり,非特異的マーカー産生もあるなど欠点も少なくない.個々の腫瘍でのマーカーの特性を知って,画像と共に臨床評価に利用したい.

カラーグラフ Practice of Endoscopy 大腸内視鏡シリーズ・Ⅸ

潰瘍性大腸炎—内視鏡検査を中心に

著者: 中野博重 ,   山本克彦 ,   藤井久男 ,   佐道三郎 ,   渡邉巌 ,   吉川周作

ページ範囲:P.557 - P.560

 はじめに
 潰瘍性大腸炎は主として粘膜を侵し,しばしばびらんや潰瘍を形成する原因不明の大腸のびまん性非特異性炎症と定義される.病変の範囲により全大腸炎(total colitis),左側大腸炎(left-sided colitis),直腸炎(proctitis)に分類される.また,病期としては活動期(active stage)と緩解期(remission)にわけられる.その診断,病型,病期の判定には大腸内視鏡検査は不可欠ともいえ,治療方針の決定において重要な位置を占める.

外科系当直医のためのDos & Don'ts・17

小児の外科的救急疾患(1)

著者: 河原崎秀雄 ,   鈴木篤

ページ範囲:P.629 - P.633

 小児の外科的救急疾患は,①新生児の先天性外科的疾患,②乳幼児や学童期のイレウス・消化管炎症性疾患と穿孔,③外傷・熱傷,④異物誤嚥などに分けられる.本稿では,小児外科を専門としない外科当直医が,新生児・乳児の腹部の外科的救急疾患に対処する際の基本的鑑別診断と応急処置について述べる.

小児外科医の独白・17

肥厚性幽門狭窄症(4)—Ramstedt論文

著者: 角田昭夫

ページ範囲:P.634 - P.635

 Ramstedt論文の序論 「乳児肥厚性幽門狭窄症の治療を内科的に行うべきか,手術すべきかの答えは,今日まだ得られていない.食餌療法も効果があるが,重症例の場合,内科治療には限度がある.
 小児科医にとっても外科医にとっても,手術が乳児に大きな侵襲を与え,危険を伴うことは大問題である.外科医はできるだけ,乳児に抵抗力のある早い時期に手術することを望む.乳児の手術を可能な限り簡単に,また時間を短くすることは術者の義務である.」

前立ちからみた消化器外科手術・13

膵悪性疾患手術における前立ちの基本操作(3)

著者: 早川直和 ,   二村雄次

ページ範囲:P.637 - P.644

 今回は,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PPPD)および膵頭十二指腸切除後のドレナージを中心に前立ちの基本操作について述べる.

臨床研究

腹腔鏡下胆嚢摘出術に際しての気腹による循環動態の変化—小切開胆嚢摘出術との比較

著者: 岩瀬和裕 ,   竹中博昭 ,   矢倉明彦 ,   石坂透 ,   大畑俊裕 ,   大嶋仙哉

ページ範囲:P.645 - P.650

 はじめに
 欧米においてのみならず1,2),最近本邦においても腹腔鏡下胆嚢摘出術が普及しつつある3,4).本法は,入院期間の短縮,社会復帰に要する期間の短縮,術後疼痛の軽減,ならびに手術瘢痕の縮小の面から,従来の開腹胆嚢摘出術に比べて有利である1,5,6).術中操作に起因する特殊な合併症を除いて本法は安全であるとされているが,一部では初回気腹に伴う不整脈出現の報告もみられる7)
 全身麻酔下に輸液管理が行われる臨床例において,気腹が全身血行動態にいかなる変化をおよぼすかはいまだ明確でない.今回,同一麻酔方法で施行された小切開胆嚢摘出術における開腹前後の変化と比較することにより,腹腔鏡下胆嚢摘出術における気腹前後の循環動態の変化の特徴を明確にすることを目的とした.

腹腔鏡下胆嚢摘出術に必要な高周波・マイクロ波可変装置の開発

著者: 永井祐吾 ,   谷村弘 ,   柏木秀夫 ,   瀧藤克也

ページ範囲:P.651 - P.656

 はじめに
 腹腔鏡下胆嚢摘出術はわが国でも1990年からわずか1年の間に急速に普及している1,2).当初は,①胆嚢が造影されないもの,②胆嚢炎の強い症例,また③上腹部手術の既往があり強い癒着があるものは禁忌とされていたが,次第に適応が拡大されつつある.
 とくに胆嚢炎については,胆石症の症状を有する患者を対象とする限り,程度の差はあるものの何らかの炎症が存在し,なかには術前の予想に反して強い炎症のため,胆嚢床の剥離が困難な症例に遭遇する.したがって,胆嚢を剥離する際に生じる可能性のある肝実質からの出血に対する止血対策をあらかじめ講じておく必要がある.

臨床報告

Degos病の1例

著者: 佐久間晃 ,   釼持俊明 ,   田辺淳

ページ範囲:P.657 - P.661

 はじめに
 特徴的な皮疹を初発とし,消化管穿孔を伴う極めて稀な疾患であり,予後不良とされているDegos病(malignant atrophic papulosis悪性萎縮性丘疹症)の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

巨大な十二指腸Brunner腫瘍の1例

著者: 下田倖嗣 ,   朔元則 ,   平山善章 ,   池尻公二 ,   前川宗一郎 ,   村中光

ページ範囲:P.663 - P.666

 はじめに
 十二指腸Brunner腫瘍は比較的稀な疾患であるが,診断技術の向上に伴い,その報告も近年増加傾向にある.
 今回われわれは,腫瘍からの出血によると思われる急激な貧血で発症した巨大Brunner腫瘍の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

バイオポンプを使用した門脈合併膵頭十二指腸切除術の1例

著者: 松井直樹 ,   木村泰三 ,   吉田雅行 ,   桜町俊二 ,   滝浪實 ,   原田幸雄

ページ範囲:P.667 - P.671

 はじめに
 膵頭十二指腸切除術における門脈合併切除例の増加により,門脈遮断による腸管血流の鬱滞や,阻血性肝細胞障害がしばしば問題となる.このため,これまでに様々なバイパス法が考案されている.また肝臓移植手術では,無肝期の門脈血,下大静脈血をBiomedicus centrifugal pump(以下バイオポンプ)を用いて能動バイパスし良好な結果を得たとの報告がある.
 今回,われわれはバイオポンプを用いて体外循環回路を作成,門脈合併膵頭十二指腸切除術を施行したので報告する.

腹腔内出血を伴った外傷性胆嚢破裂の1治験例

著者: 藤勇二 ,   弓削静彦 ,   橋本憲三 ,   福田雅之 ,   志田誠一郎

ページ範囲:P.673 - P.675

 はじめに
 胆嚢は外的損傷を受けにくいため,外傷性胆嚢破裂は極めて稀な疾患である.われわれは,腹部外傷で救急入院した症例を術前検査により腹腔内出血と胆嚢破裂の診断で手術を行った1症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

脾彎曲部における結腸軸捻転症の1例

著者: 伊藤研一 ,   久米田茂喜 ,   岩浅武彦 ,   井之川孝一 ,   堀利雄 ,   牧内正夫

ページ範囲:P.677 - P.680

 はじめに
 結腸脾彎曲部軸捻転症は結腸軸捻転症のなかでも稀であり,現在までに海外で26例,本邦では1例が報告されているにすぎない.
 最近われわれは,約8年間にわたり頻回に腹痛発作を繰り返したのち,外科的治療により改善が得られた結腸脾彎曲部軸捻転症の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

痔瘻癌の2例

著者: 出口浩之 ,   中本光春 ,   山下修一 ,   多淵芳樹 ,   中村毅 ,   湯川雅彦

ページ範囲:P.681 - P.684

 はじめに
 最近,われわれは,慢性痔瘻に続発したいわゆる痔瘻癌1〜12)と考えられる肛門粘液癌の2切除例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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