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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科47巻6号

1992年06月発行

雑誌目次

特集 いまイレウスを診療する A イレウスの診断

既往歴・現病歴のキーと腹部所見

著者: 蜂須賀喜多男

ページ範囲:P.701 - P.704

 ポイント:イレウスの診断では,①イレウスか否か,②機械的イレウスか麻痺性イレウスか,③閉塞の部位はどこか,④閉塞は完全閉塞か不完全閉塞か,⑤単純性イレウスか絞扼性イレウスか,を鑑別する必要がある.これらの鑑別には,各種画像所見のみならず,既往歴,現病歴,腹部所見も重要である.特にチェックする点は,既往歴では開腹術の有無,現病歴では腹痛,嘔吐,排便・排ガスの停止,腹部所見では触診,聴診所見である.

単純X線写真を読む

著者: 神崎修一 ,   福田俊夫 ,   平尾幸一 ,   森雅一 ,   林邦昭

ページ範囲:P.704 - P.709

 ポイント:イレウスの診断は,臨床症状や理学的所見でなされることが多いが,補助診断法として画像診断の果たす役割は大きい.各種画像診断の中でも腹部単純X線写真はイレウスの際,最初に行われる検査であり,これから得られる情報を十分に引き出せるか否かで以後の検査や処置が大きく変わってくる.また単純X線写真で診断ができ,すみやかに治療に移るべき疾患も少なくない.

USは診断に役立つ

著者: 平尾幸一 ,   小幡史郎 ,   神崎修一 ,   福田俊夫 ,   林邦昭 ,   永田凱彦

ページ範囲:P.709 - P.713

 ポイント:超音波検査(以下,US)はイレウスの診断に有用であり,その原因疾患を究明できることも少なくない.USの最大の特徴は,ベッドサイドで腸管の蠕動や腹水の性状をreal timeで観察できることであり,これは他の検査法では不可能である.Pseudo-kidney sign,multiple concentric ring sign,keyboard signなどは,USで明瞭に描出される画像である.特に絞扼性イレウスにおいては,USを経時的に行えばより早期に診断可能となり,緊急手術の適応の有無を決定できる.

CTで診断する

著者: 神崎修一 ,   福田俊夫 ,   平尾幸一 ,   麻生暢哉 ,   林邦昭 ,   川野洋治 ,   永田凱彦

ページ範囲:P.714 - P.718

 ポイント:CTは画質の向上と撮像時間の短縮に伴い,迅速な診断が要求される急性腹症にも積極的に用いられるようになった.イレウスにおいても例外ではなく,その原因や合併症の検索に際し,他の検査では得られない重要な所見が得られることがある.また,他の急性腹症と鑑別するうえでも情報量が多く有用な検査法である.

絞扼性イレウス診断の決め手

著者: 森山雄吉 ,   京野昭二 ,   有馬保生 ,   横山滋彦

ページ範囲:P.718 - P.721

 ポイント:絞扼性イレウスは即刻手術が必要で,ために早期に的確な診断が要求される.診断は,臨床症状と腹部単純写真所見を中心とする諸検査成績を総合判断して下されるが,最近は超音波検査をはじめとする画像診断の進歩も加わってより的確に下されるようになっている.しかし,絞扼性イレウスとしての決め手となる決定的なものはなく,診断に難渋することがある.そのような場合には,イレウスの病態を考慮して積極的に外科的治療を行うべきと考える.

大腸癌イレウスの診断

著者: 丸田守人 ,   黒水丈次 ,   宮島伸宣 ,   内海俊明

ページ範囲:P.722 - P.724

 ポイント:大腸癌イレウスを診断するには,症状および症候を正確に把握することである.腹部膨満,間欠的腹痛,嘔気,便秘傾向,排ガスの停止,心窩部不快感などの訴えから,他覚的腹部所見である膨隆した腹部,打診による鼓音,軽度の圧痛,金属性腸雑音の聴取があれば,腸閉塞を疑い,さらに手術既往がない場合は特に大腸癌など腫瘍性疾患を疑い,腹部単純X線撮影を行う.X線写真では空腸,回腸にniveauを認め,大腸にも拡張がみられ大きなHaustraがあり,閉塞部位より末梢で結腸が虚脱した状態と考えられる時は大腸癌イレウスを疑ってよい.このような場合は直ちに注腸透視を施行し,確定診断をつけることである.

B イレウスの薬物療法

水分・電解質補充の目安

著者: 中山夏太郎

ページ範囲:P.725 - P.727

 ポイント:イレウスの場合は,等張性脱水症のためショック準備状態にあることが多く,循環状態を正常に戻すことが第一の目標であり,利尿の回復を目安として乳酸加リンゲル液の急速大量輸液を行う.過剰輸液防止には中心静脈圧モニターが有効である.
 利尿回復後さらに保存的に経過をみる場合にはカロリー補給が必要で,経静脈栄養法を早期から開始するのがよく,電解質補給は実測値によって調節していくのが確実である.

腹痛に使う鎮痛剤

著者: 斎藤幸夫 ,   小西文雄 ,   永井秀雄 ,   金澤曉太郎

ページ範囲:P.727 - P.728

 ポイント:イレウスの診療では,イレウスの質的診断および基本的な治療がまず行われる.鎮痛剤の使用そのものがイレウスの病態を左右する可能性は少なく,本質的な治療とはなりにくい点に留意すべきである.イレウスの際にみられる腹痛は,イレウスそのものに起因する腹痛と,イレウスの原因となっている病態に起因する腹痛に大別することができる.鎮痛剤の使用に際し,鎮痛の対象がいかなる病態であるかを把握していることが大切である.

抗生物質を使う

著者: 中山一誠 ,   秋枝洋三

ページ範囲:P.729 - P.734

 ポイント:イレウスの病態生理は,腸管麻痺に付随する腸管壁透過性の亢進に伴うhypovolemic shock,拡張腸管内における細菌の増殖,bacterial translocationなどにより,最終的にはエンドトキシン,エキソトキシンによる細菌性ショックにより重篤となる.イレウスに対する抗生物質療法は術前より予防的投与の適応がある.したがって,大腸菌を主体とする好気性菌およびバクテロイデス群を主とする嫌気性菌の両者に対して有効な薬剤を選択することが重要である.

麻痺性イレウスに使う薬剤

著者: 斎藤幸夫 ,   小西文雄 ,   金澤暁太郎

ページ範囲:P.734 - P.735

 ポイント:麻痺性イレウスの診療のポイントは,麻痺性イレウスの原因となっている病態の診断にある.麻痺性イレウスの原因は,開腹手術後にみられる生理的なものから,直ちに開腹手術を必要とする重篤なものまで様々である.開腹手術後の麻痺性イレウスは通常2〜4日で自然に軽快することが多いが,時に遷延性の麻痺性イレウスがみられ,薬剤治療の対象となる.この場合も,麻痺性イレウスの遷延する原因が腹膜炎などの原疾患の持続でないこと確かめておくことが大切である.

C イレウスの処置と手術

イレウス管を進める

著者: 馬越正通 ,   赤岩順 ,   原一郎 ,   田崎博也 ,   田崎達也 ,   山口裕史 ,   吉田宏 ,   平野文也 ,   内藤英二 ,   荒川薫 ,   的場康徳

ページ範囲:P.737 - P.740

 ポイント:癒着による単純性イレウスに対しては,イレウス管を用いた保存的治療が広く行われるようになった.この吸引療法を続けるには,頻回に診察,腹部X線,超音波検査,また造影検査を行って病態を的確に診断することが必要である.特に複雑性イレウスとの鑑別が最も重要であり,吸引療法を続けることにより手術の時期を逸することがあってはならない.

非絞扼性イレウスの手術に踏み切る

著者: 蜂須賀喜多男

ページ範囲:P.740 - P.742

 ポイント:非絞扼性イレウスでは保存的治療が優先するが,保存的治療によりイレウスが解除した指標としては,①腹部症状の改善,排ガス・排便の出現,②腹部単純X線撮影による小腸ガスの減少・消失,大腸ガスの出現,③吸引量の減少,④造影剤の結腸移行,があげられる.これらが認められない場合は,手術に踏み切る必要がある.長期にわたる保存的治療には問題があり,早期に手術適応の有無を判定することも重要である.それにはtubeによる小腸造影が有用である.

イレウスと高圧酸素療法

著者: 森山雄吉 ,   金徳栄 ,   京野昭二 ,   松田範子

ページ範囲:P.743 - P.746

 ポイント:イレウスに対する高圧酸素療法は麻痺性イレウスと癒着性イレウスに対して極めて有効であると報告されており,本症の保存的療法の1つとして広く用いられてきている.私どもはさらに,イレウスショックを来したような重篤なイレウス症例に対しても,術前術後高圧酸素療法を行って好成績をおさめており,本法はイレウスによる重篤なショックにも極めて有用な治療方法であると考える.

腸管Viabilityを術中に判断する

著者: 高橋愛樹 ,   石田康夫 ,   岡壽士

ページ範囲:P.746 - P.748

 ポイント:イレウスなどにより血行障害に陥った腸管のviabilityを的確に判断することは,短腸症候群や腸管穿孔による腹膜炎などを防止するために極めて重要であると考えられている.従来行われてきた腸管のviabil-ityの判定,すなわち腸管壁の色調,腸間膜動脈の拍動の有無,腸管蠕動の有無,腸管温度の回復などの経験的かつ主観的判定法に加えて,最近では,補助的診断法が数多く考案されている.fluorescein蛍光法,レーザードゥプラー法,wash out法,水素クリアランス法,組織反射スペクトル法などであり,術前,術中の腸管のviabilityの判定に有用と考えられる.

拡張腸管の内容を術中にどうする

著者: 高橋愛樹 ,   石田康夫 ,   岡壽士

ページ範囲:P.749 - P.751

 ポイント:術前にイレウス管などによって腸管内容の除去が十分に行えなかった場合,腸管の拡張が持続し,腸管壁の浮腫が顕著となり,吻合部の縫合不全の危険性が大きくなる.また,術前に全大腸の内視鏡的観察が行えない場合が多く,術中に閉塞部位より口側の腸管内容が完全に除去できないと合併病変を見落とす危険性も高くなり,術中腸洗浄法が有効な手段と考えられる.石田らの考案したプレパレーションセットによる臨床応用でも,術後の合併症を減少させた.術前に除去することのできなかった腸内容の除去は,術後の合併症を防ぐうえで極めて重要であり,この目的を達成するためには従来行われていた方法とともに,術中腸管洗浄法が有効であると思われた.

PlicationとSplinting

著者: 向井正哉 ,   野登隆 ,   田島知郎 ,   三富利夫

ページ範囲:P.752 - P.755

 ポイント:癒着性腸閉塞における plica-tionの報告はNobleらによって提唱され,その後種々の変法が考案された.しかし,この術式は手術手技が煩雑で,治療効果も一定の評価が得られていない.splintingはlongtubeの材料の改良もあり,現在も広く試みられている手技である.tubeの留置経路,留置部位,留置期間に工夫が必要である.ここで述べる各々の長所,短所を十分に理解して臨床応用することが肝要である.

再癒着を防ぐ

著者: 向井正哉 ,   野登隆 ,   田島知郎 ,   三富利夫

ページ範囲:P.755 - P.756

 ポイント:再癒着の防止には適切な薬物療法はなく,ステロイド剤をはじめ種々の検討が行われてきた.しかし,これらの薬剤の投与法,投与量,効果についての一定の評価は得られていない.ここでは,癒着防止剤に関する研究の概略を述べ,愛護的な手術操作と,凝血塊,異物の遺残除去などの開腹術中の注意点を詳述した.

大腸癌イレウスの治療

著者: 内海俊明 ,   丸田守人 ,   黒水丈次 ,   宮島伸宜

ページ範囲:P.757 - P.760

 ポイント:大腸癌イレウスの特徴は,進行した癌であること,その多くが高齢者であり,さらに発症から診断までの時間が長く,全身状態が比較的悪いことである.したがって,治療は手術の安全性と癌の根治性が満足されなければならず,患者の全身状態により適切な術式を選択する必要がある.
 治療の原則は,右側結腸癌では緊急に一期切除吻合を行い,左側結腸癌では全身状態不良の場合は分割手術を行う.イレウス症状が比較的軽度の場合はイレウスチューブにより減圧した後,待機的一期切除吻合を行う.この方針による治療では合併症はなく,予後は根治手術ができればイレウスを呈した大腸癌でも,良好な5年生存率を示し,イレウスを呈さない大腸癌と差を認めない.

D イレウス:Selected Topics

癒着性イレウスといわゆるPolysurgery

著者: 天野純治 ,   久吉隆郎 ,   難波亨 ,   平田知巳 ,   木本洋一郎 ,   的場康徳

ページ範囲:P.761 - P.765

 ポイント:開腹による腸管の癒着は,回を重ねるたびにひどくなり,泥沼に入った心境になる.教室の開腹例ではほとんど初回で解除されるが,3回以上が3例あった.初回開腹手術を臓器別にみると,胃(36%),虫垂(28%)と上部消化管手術後に増加傾向がみられる.特に胃全摘脾合併切除,空腸間置術は5例で,腹膜の欠損した上腹部の大きな空間は,特殊なイレウス像を示す.今回2年6ヵ月にわたるpolysurgeryによる症例を呈示し,各ポイントを述べる.

血管病変によるイレウス

著者: 加藤紘之 ,   田辺達三

ページ範囲:P.765 - P.768

 ポイント:血管病変によるイレウスは原因疾患によって種々の病態を示す.動脈瘤の腹腔内破裂であれば軽度の麻痺性イレウス症状を示し,虚血性大腸炎であれば大腸の狭窄程度に応じた臨床症状を呈する.腸間膜動脈閉塞症では急激な経過をとり腸管虚血から壊死に陥るので,腹部所見が弱く,わずかに小腸ガスが認められる程度であっても血管造影などの検索を積極的に進め,手術の時機を逃さぬことが肝要である.イレウスを起こす疾患の1つに血管病変があることを常に念頭におく必要がある.

成人の小腸—小腸重積症:腹部CTによる診断

著者: 浦田尚巳 ,   笠原洋 ,   浅川隆

ページ範囲:P.769 - P.771

 成人において,イレウスの原因としての腸重積症は比較的稀であり,術前診断が困難である.われわれが経験した16歳女性の小腸腺腫を先進部とした空腸—空腸重積症では,腹部CTが術前診断に有用であった.腹部CT写真での特徴的な所見は,成人の小腸—小腸重積症の術前診断に非常に有用である.さらに,そのほとんどに器質的疾患を持つ成人腸重積症においては,常に腸管切除の可能性を念頭におく必要があると考えられた.
 腸重積症の乳幼児期での診断は比較的容易であるが,成人では発症が稀であることに加えて,症状も非定型的なことが多く,特に小腸—小腸重積ではしばしば診断が遅延する.ここでは,われわれが経験した空腸—空腸重積の1例の腹部CT所見をもとにして,考察を加える.

胆石イレウス:単純X線写真による術前診断

著者: 田島知郎

ページ範囲:P.771 - P.772

 わが国の約2万例の集計では,機械的イレウスの60.8%において癒着が成因になっている1).開腹手術の既往がないイレウスを大雑把にprimaryileus(virgin ileus)という枠でくくってみると,その代表的なものの1つが胆石イレウスである2)が,頻度がさほど高くないせいか,正しく術前診断がつけられることは少ない.
 腹部単純X線写真で典型的な所見が認められた自験例を供覧する.

小腸アニサキス症によるイレウス

著者: 松本伸二 ,   薬師寺浩之

ページ範囲:P.772 - P.773

 イレウスを呈する疾患の1つとして,小腸アニサキス症を銘記すべきである.今回,手術により確診し得た小腸アニサキス症例を経験したので,その診断・治療を中心に文献的考察を加えて報告する.

イレウス:これは何?

著者: 田島知郎

ページ範囲:P.774 - P.775

 ちょっと変わったイレウスのプラスアルファとして,現在では経験されることが極めて少ないと思われ,熟年の外科医のノスタルジアをかき立てるようなイレウスの自験例を,病名を伏せてここに供覧する.この症例では,1枚の腹部単純X線写真だけで診断できる可能性があり,そのほうが症例としての興味が増すので,この先の症例説明の項には進まずに,まず図1の腹部単純X線写真を読んでいただきたい.
 59歳,女性.早朝の午前3時頃,急激な腹痛と嘔気・嘔吐で目覚め,3時間後に来院した.来院時も激しい腹痛が続いており,顔面は苦悶状であった.嘔吐発作は頻回であったが,吐物は少量で血液を混じた漿液性で,食物残渣や胆汁は認められなかった.症状が激しいために身長,体重の測定は不能であったが,栄養状態ほぼ良好で,やや痩せ型と判断された.血圧136/84mmHg,脈拍整86回/分,呼吸やや浅く26回/分,体温37.0℃であった.腹部の触診では左上〜中腹部に小児頭大の圧痛のある腫瘤を触れたが,これ以外の腹部は平坦で軟らかく,圧痛や筋性防御は認めなかった.

処置を急ぐ小児イレウス

著者: 蛇口達造 ,   加藤哲夫 ,   小山研二

ページ範囲:P.776 - P.779

 ポイント:処置を急ぐ小児絞扼性イレウスの原因,診断および治療の概要を示し,うち頻度の高い中腸軸捻転合併腸回転異常症,腸重積症,外鼠径ヘルニア嵌頓の治療を詳述した.発症年齢が早いほど先天性イレウスを念頭におき速やかに診断することで,絞扼性イレウスでの腸管壊死による短小腸と穿孔性腹膜炎を防止することが患児の生命的予後をよくすることを強調した.

癌性腹膜炎による消化管通過障害症状の治療

著者: 高橋俊雄 ,   萩原明於 ,   谷口弘毅

ページ範囲:P.779 - P.782

 ポイント:癌性腹膜炎による消化管通過障害に対する治療では,まず外科的方法による通過障害の改善を考慮すべきである.外科的療法は奏効する場合が意外に多く,たとえそれがby-pass手術に終わっても,外科的治療が奏効した場合には,他の治療法よりも効果が確実である.また,その確実な症状改善効果により多少の延命効果も期待できる.化学療法などの他の治療法には,主にドラッグデリバリーシステムを利用した様々な方法があるが,癌性腹水の貯留している場合には,剤型を工夫した抗癌剤の腹腔内投与を,また腹水非貯留例では選択的動注療法が効果的であると考えられる.

E イレウス診療におけるpitfall

イレウス診療におけるpitfall—当院の重症化症例の検討から

著者: 鈴木篤 ,   露木静夫 ,   大倉哲朗 ,   岡村博 ,   高重義 ,   内村逸郎 ,   泉宏重

ページ範囲:P.783 - P.789

 ポイント:イレウス治療は,その原因に即応した手術療法の一方で,高カロリー輸液やlong tubeなどによる保存療法が普及し,癒着性イレウスの手術率は低下傾向にある.しかし,イレウス診療には時にpitfallがあり,特に保存療法例には注意が必要である.そこで,地域病院である当院の8年間のイレウス症例364例の中で,イレウス診療上のpitfallを検討した.当院の癒着性イレウスに対する手術率は17.6%まで低下しており,イレウス術後死亡率も4.2%であったが,死亡例の半数は血管閉塞性イレウスであり,この疾患のイレウス診療上の重要性が再認識された.また,開腹術直後例,進行癌術後例,薬物大量内服例,膠原病患者などのイレウスの中に,発症時考えられた成因とは全く異なる病態が存在した症例があり,全身状態に対する敏速な対応と腸管の検索の重要性が確認された.

カラーグラフ Practice of Endoscopy 大腸内視鏡シリーズ・Ⅹ

クローン病

著者: 佐々木巌 ,   舟山裕士 ,   松野正紀

ページ範囲:P.695 - P.699

 はじめに
 クローン病は,1932年Crohnら1)によって最初はregional ileitisとして報告された.回腸末端を好発部位とする非特異性炎症性腸疾患であるが,その後,小腸および大腸が病変の主たる発生部位であり,それ以外にも消化管全域にわたり病変が発生し得る疾患とされている.
 本疾患の頻度は,従来欧米において高く,本邦では少ないとされてきた.しかし,厚生省特定疾患難治性炎症性腸管障害調査研究班(井上班)の報告2)によれば,研究班にこれまでに登録された患者数は2,011例(1990年3月末の医療受給者数は5,715例)で,1987〜1989年の3年間の患者発生状況はそれぞれ93例,125例,150例と年々増加傾向にあり,わが国でも最近とくに注目されている疾患の1つである.

外科系当直医のためのDos & Don'ts・18

小児の外科的救急疾患(2)

著者: 河原崎秀雄 ,   鈴木篤

ページ範囲:P.791 - P.795

 本稿では,小児の外科的救急において頻度の多い消化管内異物・外傷・熱傷,緊急な処置を要する気道内異物・溺水・重症外傷などの初期治療と,小児のCPRなどについて述べる.

小児外科医の独白・18

先天性食道閉鎖症(日米手術成功第1例)

著者: 角田昭夫

ページ範囲:P.796 - P.797

 新生児外科の華 現在でもなお先天性食道閉鎖の治療成績で,ある程度小児外科チームの医療レベルを評価できると思う.未熟児,合併奇形,合併症(肺炎)と,リスクの高い新生児に加える開胸,食道吻合手術は,術者の高度の技術と,優れた麻酔や術前・術後管理が揃っていないと,うまく行かないからである.したがって,小児外科医学史上は手術成功第1例が大きいトピックとなる.
 わが国では1960年の暮,偶然2日違いで2つの施設で手術が成功.術者の1人である植田 隆氏(前大阪市立小児保健センター副所長→兵庫医科大学外科教授)が書かれた外国の歴史や,わが国の当時の回顧を含めた論文1)から抜粋したい.

前立ちからみた消化器外科手術・14

肝胆膵疾患での血管合併切除,再建における前立ちの基本操作(1)

著者: 早川直和 ,   二村雄次

ページ範囲:P.799 - P.805

 肝胆膵領域癌では,解剖学的特性より容易に門脈(PV),上腸間膜静脈(SMV)をはじめとした周辺血管への直接浸潤がみられる.切除率の向上と根治性の改善のためには周辺血管の合併切除が必要である.
 今回は膵癌での門脈およびSMVの合併切除と血行再建術式,ならびに前立ちの基本操作について述べる.

最近の話題

小児肝移植の術後管理におけるG-CSFの有効性

著者: 石曽根新八 ,   幕内雅敏 ,   川崎誠治 ,   中畑龍俊 ,   河原崎秀雄 ,   岩中督

ページ範囲:P.807 - P.813

 はじめに
 近年,肝移植の治療成績は適切な免疫抑制療法と感染症対策の励行により飛躍的に向上している.しかし,肝移植の適応となる高度な肝障害をもつ患者では,約30%に脾機能亢進症状を認めており,移植術後に白血球減少症を合併する症例では,副作用として骨髄抑制の認められる免疫抑制剤を十分に使うことができずに,拒絶反応の発生頻度が高くなったり,また感染症の発生も高率に認められた報告がある.このことは肝移植術後管理上注目すべきことである.
 白血球減少症に対して腎移植例では摘脾術が行われたこともあるが,摘脾術を受けた症例の長期成績ではpatient and graft survivalの有意な低下があり,肝移植前後での摘脾術の適応が問題となっている.白血球減少に対し,従来から骨髄移植や抗癌剤の副作用による白血球減少症の治療にはrecombinant human Granulocyte-ColonyStimulating Factor(rhG-CSF)が使われ有効性を評価されている.今回,脾機能亢進症を伴う肝不全患者に生体部分肝移植を行い,術後の白血球減少状態にrhG-CSFを使い,拒絶反応の発生および感染症の予防に対する効果について検討した.

臨床研究

胸部食道癌に対する胸部食道亜全摘・右胸腔内高位食道胃吻合術の治療成績

著者: 高木巌

ページ範囲:P.815 - P.820

 はじめに
 消化器癌切除術後の再建経路は,切除した臓器の元の位置を通すのが最も生理的である.胸部食道癌切除術後においても,後縦隔または胸腔内による再建が理想的とされながらも,主に切除範囲に制約があると考えられてきたことと,縫合不全が発生した際の危険性のために,胸壁前または胸骨後経路による再建が優先されてきた.しかし,著者らは1975年以降ImEi食道癌に対する標準術式を上縦隔—腹部への広汎なリンパ節郭清を伴う胸部食道亜全摘・右胸腔内高位食道胃吻合術とすることにより切除の制約を除き,EEAによる器械吻合の採用をはじめとした手術手技,術後管理の工夫により吻合部縫合不全による危険を減少させた.また,本治療方針により切除再建を行った症例の術後quality of lifeが他の切除再建術式を行った症例に比べ良好なことを報告してきた1〜3)
 今回,著者は本術式を施行した症例の遠隔成績を中心とした治療成績を報告し,胸部中下部食道癌に対する胸部食道亜全摘・右胸腔内高位食道胃吻合術が他の切除再建術式と比べ,勝るとも劣らない術式であることを訴えたい.

臨床報告

子宮頸癌放射線照射後に発生した脂肪肉腫の1例

著者: 笹橋望 ,   野並芳樹 ,   大西一久 ,   田中洋輔 ,   小越章平 ,   田宮達男

ページ範囲:P.821 - P.824

 はじめに
 子宮頸癌は放射線治療により治癒が得られることの多い疾患の1つである.しかし,放射線照射後の長期生存例のなかには,何年かの潜伏期を経て悪性腫瘍が発生するいわゆる放射線誘発癌の症例もみられる.今回われわれは,子宮頸癌放射線照射後に発生した脂肪肉腫の1例を経験したので報告する.

寄稿

肝外科サロンのホストを無事終えて

著者: 長谷川博

ページ範囲:P.825 - P.827

 さる1月12日から14日までの3日間,水戸市の県健康科学センターで,ユニークな研究会がひらかれ話題を呼んだ.茨城県立中央病院院長・長谷川 博氏の呼びかけに全国から参集したのは県内外からおよそ150人.名古屋大学・二村雄次氏,東京女子医大・高崎 健氏,国立がんセンター・山崎 晋氏を話題提供者に,フランスのビスムート教授の主催するJHB(Journée de Chirungie Hépatobiliaire)を真似たというサロン形式の「肝臓外科を詳しく語り合う会」がそれ,県立中央病院の事務職員,技師,看護婦だけで,他からの応援・援助を求めずにやりおおせたという.サロン形式のこの会はプログラムなしの,いわば全員参加のシンポジウム.昨今,セレモニー化した学会や研究会が多くなったといわれるが,水戸で開かれたこのユニークかつ密度の濃い集まりは,斯界に一石を投じたといえよう.
 主催した長谷川氏は,その感動と印象を綴った一文を本誌に寄せた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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