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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科48巻1号

1993年01月発行

雑誌目次

特集 消化器癌切除材料取扱いマニュアル

〈Editorial〉癌の外科病理取扱い・その現況

著者: 三富利夫

ページ範囲:P.13 - P.14

 はじめに
 癌の切除標本の取扱いについて,わが国においては長年にわたって取扱い規約に基づき病理組織学的に検索が行われてきたが,研究的には各施設で詳しい検討が加えられている.この取扱い方の規則は決まったものでなく,しばしば改定されつつ,ある方向を求めてきたものといえる.

消化器癌切除材料取扱いの基本

著者: 岩渕三哉 ,   渡辺英伸

ページ範囲:P.15 - P.21

 はじめに
 消化器癌の切除材料には,内視鏡的生検材料および切除材料と外科的切除材料とがある.前者は癌の質的診断と広がりの検査を主目的とし,後者はこれらの2目的に加えて,癌の深達度,脈管侵襲の有無とその程度,切除断端での癌の有無,切除材料内での病変の広がり,副病変の有無とその種類や個数などをも検査する必要がある.それぞれの臓器での臨床側からみた取扱いの要点は各論で述べられると思う.本稿では,上記の項目を検索する肉眼病理の立場からみた外科的切除材料,主に管腔臓器の取扱いの基本的事項について述べてみたい.
 消化器癌切除材料の取扱いには,切除材料の処置および肉眼観察とその切除材料の資料作成とがある(表1)1,2)

食道癌切除材料の取扱い(1)

著者: 小野由雅 ,   鶴丸昌彦 ,   宇田川晴司 ,   梶山美明 ,   海上雅光 ,   秋山洋

ページ範囲:P.23 - P.27

 はじめに
 胸部食道癌の外科治療は,今日では頸胸腹部の三領域にわたるリンパ節郭清と切除再建術が,標準術式として広く行われている1).また,その治療成績の向上も確認され,さらにこの術式の普及とより良好な成績を得るための工夫が行われている.すなわち,この術式の範囲を越えて進展した超進行癌や,この術式に適応したにもかかわらず再発をきたす高悪性度癌の症例に対して,いっそう根治性を追求した拡大郭清や他臓器合併切除の術式が開発されている.また一方では,色素法の開発により,内視鏡検査で早期または表在癌症例を多く見出すことが可能となり,内視鏡超音波検査法の導入により,深達度やリンパ節転移状況の術前診断までが詳細に得られるようになってきている2).そして三領域郭清より得られるリンパ節転移の実態と再発形成が検討され,リンパ節郭清範囲の合理化も進められている.
 今回私どもは,以上の認識のもとに現在行っている定型的三領域リンパ節郭清と切除を行った胸部食道癌症例の切除材料の検索のうち,特に切除直後に行う切り開きから伸展固定までの新鮮標本の取扱い法について,各過程で心がけている注意点と工夫について記述する.

食道癌切除材料の取扱い(2)

著者: 小澤壯治 ,   安藤暢敏 ,   佐藤道夫 ,   田村明彦 ,   篠澤洋太郎 ,   北島政樹

ページ範囲:P.28 - P.31

 はじめに
 食道癌の生検材料と切除材料の取扱いについて,教室で現在行っている方法を紹介する.若い外科医を主対象とし,検体を病理検査室へ提出するまでの手順に内容を絞った.

胃癌切除材料の取扱い(1)

著者: 中田英二 ,   岡島邦雄 ,   山田眞一 ,   磯崎博司 ,   西村淳幸 ,   一ノ名正

ページ範囲:P.33 - P.37

 はじめに
 切除標本は,外科医にとって貴重な財産であり,臨床病理学的研究の原点となるものである.その病理学的裏づけがなければ,われわれ臨床医が苦心して発見・治療しても,その医学的価値は皆無になってしまうといっても過言ではない.
 切除標本が病理学的検査に十分に耐え得るものであり,かつ臨床所見と組織所見が十分に対比し得るものであることが肝要である.われわれの施設では,常に臨床と組織とを対比させることに心がけ,切除標本の取扱いを行っており,新鮮切除標本の肉眼所見の記載から写真撮影,固定までを外科医が,切り出しは外科医と病理医が共同して行うシステムをとっている.
 本稿においては,教室における胃癌切除標本の取扱いにっいて,術中から切り出しまでの操作を「新鮮切除標本の取扱い方」「切除標本の切り出し」の2つに分けて述べる.

胃癌切除材料の取扱い(2)

著者: 中島聰総 ,   石原省 ,   太田恵一朗 ,   山田博文 ,   西満正 ,   柳沢昭夫 ,   加藤洋

ページ範囲:P.38 - P.42

 はじめに
 手術切除材料の取扱いに際して重要なのは,臨床所見と組織所見が精密に対応するように心がけること,院内で標本整理の手順,記載をできる限り統一し,個人差をなくすとともに常に正確に過去の症例と所見が比較対比できるようにすることである,胃癌切除材料の取扱いは,胃癌取扱い規約改訂第11版第2部“胃癌の組織学的分類”の頁に詳しく定められている1)が,これはガイドラインであって強制的なものではない.
 ここでは,われわれが1940年代から続けている術中・術後の切除材料の取扱い方,写真撮影,手術記載,病理学的検索方法など2,3)をこの流れに沿って紹介したい.

肝癌切除材料の取扱い(1)

著者: 山本雅一 ,   高崎健 ,   宮崎正二郎

ページ範囲:P.43 - P.47

 はじめに
 実質臓器である肝臓の標本を取り扱うためには,標本切開の前に,肝全体における切除範囲,標本における腫瘍と切除断端,主要脈管との関係を正確に把握する必要がある.一度,標本を切開すると再構築は難しく,必要な情報の収集も困難となる.標本からどのような情報を得るかを十分に考えたうえで,切開線の方向を決定する必要がある.現在われわれが行っている標本の取扱い方を示した.

肝癌切除材料の取扱い(2)

著者: 島田和明 ,   山崎晋 ,   小菅智男 ,   高山忠利 ,   山本順司 ,   井上和人 ,   坂元享宇 ,   広橋説雄

ページ範囲:P.48 - P.50

 はじめに
 画像診断の進歩や外科治療の成績向上のためには,切除標本の一定のルールに従った取扱いが重要である.当センターでは1990年12月まで615例の肝細胞癌に対する肝切除が行われ,切除標本の検討がなされてきた.その実績にもとづいて,現在当センターにて日常臨床の場で行っている術中迅速標本,切除標本の取扱いについて紹介する.

胆嚢・胆管癌切除材料の取扱い(1)

著者: 佐藤泰彦 ,   田中淳一 ,   佐々木範明 ,   関仁史 ,   小山研二

ページ範囲:P.51 - P.53

 胆道癌切除材料の取扱い方の原則
 胆道癌の進展様式は,その解剖学的特異性から肝臓あるいは膵臓などの周囲臓器に容易に浸潤し,しばしばこれらの臓器をも合併切除する必要がある.したがって,切除材料の検索においては,胆道に発生した癌腫と周囲臓器との位置関係を明らかにしつつ,その進展度を精密に判定することが重要である.われわれは以上の観点から,胆道癌の切除材料の取扱いに際し,その解剖学的立体構築を保つために可能な限り切除された状態で標本固定を行い,顕微鏡下でも各臓器の相互の位置関係が理解しやすいような切片を作成するように努めている.

胆嚢・胆管癌切除材料の取扱い(2)

著者: 吉田奎介 ,   大橋泰博 ,   内田克之 ,   白井良夫 ,   塚田一博

ページ範囲:P.54 - P.58

 はじめに
 胆道癌切除標本の肝十二指腸間膜内の剥離面は複雑であり,断端は膵十二指腸あるいは肝内にあって,その詳細な検索には立体的な再構築を要することが多い.胆道癌取扱い規約1)には標本処理の原則が示されているが,病巣の条件や切除の術式などに応じて必要な病理学的所見が得られるよう柔軟に対応しなければならない.
 本稿では私どもの施設での手術標本について,術中操作,術中の肉眼観察,術後の標本整理を含めて概略を紹介する。

胆嚢・胆管癌切除材料の取扱い(3)

著者: 木下博明 ,   広橋一裕

ページ範囲:P.59 - P.62

 はじめに
 癌切除標本を取り扱うには,臓器の特殊性を考慮して,病変の進展範囲を診断することが重要である.胆嚢・胆管癌の手術で胆嚢・胆管の切除のみに終わることは少なく,肝切除や膵頭十二指腸切除あるいはこの両者が施行され,周囲臓器や組織も一塊にして切除されることが多い.したがって,切除標本を一平面で検索することなく,病変を立体的に把握して癌の進展範囲を決定する必要がある.胆道癌取扱い規約1)では,胆嚢は腹腔側で病巣を避けて長軸方向に,胆管は前壁を縦に切開,固定した後,切り出しは胆嚢では長軸方向,胆管では輪切り,肝合併切除例では肝内胆管が,膵合併切除例では総胆管と主膵管が輪切りとなるように行うことと記載されている.本稿では著者らの行っている胆嚢・胆管癌に対する術中の検索および術後切除標本の取扱いについて解説する.

膵癌切除材料の取扱い(1)—臓器全割法と三次元再構成への応用

著者: 古川徹 ,   高橋徹 ,   小針雅男 ,   松野正紀

ページ範囲:P.63 - P.65

 はじめに
 腫瘍の進展を外科切除材料から正確に把握することの重要性は今さらいうまでもないが,膵腫瘍の場合は,必要とされる情報が切離面・剥離面・膵胆管・脈管・神経叢における浸潤の有無と程度,また癌発生の過程を知る上では膵管における異型上皮の分布など,多岐にわたる情報が必要とされる.これに応えるには,病変の三次元的な広がりの検索が避けられず,実際,切除膵の幅5mm程度の粗な全割は多くの施設で行われている.しかしこの程度の全割では,腫瘍の広がりに関する詳細な情報,例えば膵管・脈管などの枝を巻き込み,あるいは管内に進展する様式を知ることはできない.このために切除膵全体を対象とした膵管・脈管系の構築解析が必要で,例えば膵管系を径1mmの枝まで復元するには,最低1mmの間隔で全割標本を作らなければならない.そこでわれわれは鈴木の“Macroserial”法1)に改良を加え,膵切除材料から厚さ1.5mmの連続スライスを作成して全割を細分化する方法を考案した.ここでは,この方法を応用した膵管系腫瘍の三次元画像化を供覧する.
 一方,全割のみを細分化しても,組織の形態そのものが原状に近い形で保存されていなければ意味がない.実際の外科の現場では膵切除材料の固定が適切に行われず,折角の材料も価値の低いものになっていることが少なくない.そこで今回は,標本の固定方法についてもあわせて解説する.

膵癌切除材料の取扱い(2)

著者: 上野桂一 ,   竹田利弥 ,   森和弘 ,   小林弘信 ,   萱原正都 ,   太田哲生 ,   永川宅和 ,   宮崎逸夫

ページ範囲:P.66 - P.69

 はじめに
 膵癌の外科的治療成績は他の消化器癌に比して不良であるが,その原因の1つは手術の根治性にあると考えている.膵癌切除材料を詳細に検討することによって,施行した手術の組織学的根治度を正確に把握することができ,後療法の適応決定や予後の推測が可能となる.本稿では膵癌切除材料の取扱いとして研究的アプローチに属する部分を極力避け,実地臨床に役立つ情報を得るための取扱い法を中心に述べたい.

膵癌切除材料の取扱い(3)

著者: 谷川寛自 ,   水本龍二

ページ範囲:P.70 - P.73

 管腔臓器とは異なり実質臓器である膵臓は,特に膵頭部領域では主膵管,総胆管,十二指腸乳頭部,さらに門脈や上腸間膜動脈,腹腔神経叢などと複雑な解剖学的位置関係にあるため,膵癌の切除標本を取り扱うに当たっては,病巣の肉眼的所見のみならず切除標本のX線造影を行って,これらと組織学的所見とを対応させて病変の3次元的な再構築を的確に行い,癌の原発部位や浸潤範囲の正確な把握に努めることが大切である.
 そこで本稿では,当教室で行っている膵切除標本の取扱い方法につき,特に膵頭十二指腸切除標本を中心に紹介する.

大腸癌切除材料の取扱い(1)

著者: 鈴木公孝 ,   武藤徹一郎

ページ範囲:P.75 - P.77

 はじめに
 外科的に切除された標本は,放射線医,内視鏡医,内科医,外科医にとって術前の診断上の諸問題の解答を提供すると同時に,病理医によるミクロの解析を通じ,患者の治療,予後を決める資料となるわけで,これに携わる外科医は標本に不自然な操作を加えないための努力を惜しんではならない.このような操作が加えられやすい大腸癌について,以下,その適切な取扱いについて述べてみたい.

大腸癌切除材料の取扱い(2)

著者: 小平進 ,   三重野寛治 ,   三浦誠司 ,   梅田潤一郎 ,   青木久恭 ,   三吉博

ページ範囲:P.78 - P.80

 はじめに
 大腸癌に関する臨床統計学的および臨床病理学的研究の基本となるものは,手術切除標本の所見である.したがって,少なくとも大腸癌取扱い規約1)に記載されている種々の因子に関する所見は漏れなく記録しておかなければならず,そのためには切除標本の取扱いはきわめて重要である.ここでは私たちが注意しているいくつかのポイントに関して述べる.

大腸癌切除材料の取扱い(3)

著者: 神代龍之介 ,   隈本正人 ,   前川隆文

ページ範囲:P.81 - P.84

 はじめに
大腸癌は本邦では増加しつつあり,大腸癌検診の普及や大腸内視鏡の進歩により,診断や治療で得られる標本も細胞診・生検・ポリペクトミー材料・手術切除標本と多種多様となってきている.また治療方法の多様化に伴って,ポリープ摘除標本の取扱いや摘除標本断端陽性例の大腸切除標本の取扱いも問題になってきている.
 患者から得られた切除標本は患者自身の治療のために正確に診断し活用することはもちろんであるが,今後の診断と治療という臨床の場で活用できるように標本を整理することを,日常業務の一環として習熟しておく必要がある.実際には大腸癌取扱い規約1)を基本とし,目的によりそれぞれの施設で様々な工夫が行われていると思われる.

カラーグラフ シリーズ・新しい内視鏡治療・5

胆嚢結石症—癒着高度例に対するアプローチ

著者: 大友裕美子 ,   万代恭嗣 ,   窪田敬一 ,   伊藤精彦 ,   渡辺稔 ,   ナイーム ,   出月康夫

ページ範囲:P.5 - P.10

 はじめに
 いずれの施設でも腹腔鏡下胆嚢摘出術の開始当初は炎症所見の軽い症例を選択して本法の適応とするが,経験を重ねるに従い,操作困難の予測される症例へも適応が拡大されてくる.
 本法を困難にする局所の要因としては,①高度の癒着(慢性胆嚢炎,急性胆嚢炎の既往,既往手術によるもの),②結石充満,胆嚢水腫の状態,③胆嚢管への結石の嵌頓,④急性炎症の存在,⑤胆道,血管の破格,⑥肝硬変などが挙げられる.これらに対しては,基本的には外科手術の常識を守って対処してゆけばよいわけであるが,腹腔鏡下であることによる特有な状況もあるので,本稿では,主に高度の癒着のある場合の操作上のコツや注意点につき,手術手順に沿って述べることとする.

綜説—今月の臨床

進行胃癌に対するMTX/5-FU時間差投与療法

著者: 小西敏郎 ,   島津久明

ページ範囲:P.85 - P.92

Ⅰ.はじめに
 近年,消化器悪性腫瘍の化学療法は多剤併用療法が主流となってきているが,最近biochemicalmodulation1,2)の考えに基づいた多剤併用療法が注目されている.従来の多剤併用療法では,薬剤の相互の効果増強の作用機序を理論的に説明できる薬剤の組み合わせは少なかった.これに対しbiochemical modulationは,作用機序が生化学的あるいは薬理学的に明らかな薬剤(modulator)を併用投与することにより,制がん剤(effector)の抗腫瘍効果の増強や副作用の軽減を図る多剤併用療法であり,biomodulation3)とも呼ばれている.modulatorには制がん剤以外の薬剤も含まれるが,理論的に合理的な療法である。
 biochemical modulationに基づいた化学療法は,1966年Djerassiらにより白血病の治療に提唱された大量メソトレキセート(methotrex-ate;MTX)の投与後に,MTXの拮抗剤であるロイコボリン(leucovorin;LV)を投与する救援療法(rescue therapy)4)が最初であると考えられている.

外科系当直医のためのDos & Don'ts・25

耳鼻咽喉科領域の救急対応

著者: 宮野良隆 ,   北嶋整 ,   鈴木篤

ページ範囲:P.93 - P.97

 耳鼻咽喉科領域の救急疾患はきわめて専門的なため,専門医に依頼するほうがよいケースが大多数である.しかしながら,耳鼻科で夜間の救急を扱っている施設はきわめて少ないのが現状である.そこで今回は,救急疾患の代表的なもののみに限定し,翌日の専門医への受診を前提として記載する.

Medical Essay メスと絵筆とカンバスと・1【新連載】

日展と私

著者: 若林利重

ページ範囲:P.98 - P.99

 電話口へ出たら「医学書院の大島です.」瞬間,頭から水をあびせられたというか,逃げ場のない窮地に追いこまれたというか,そんな絶望感に陥った.「誠に申し訳ありません.」とだけ言ってあとの言葉がでなかった.弁解のしようがなかったからである.しかし,大島氏はすぐ「今日は別のお願いです.」と言った.救われたと思った.「臨床外科の随筆の欄に登場していただきたいのですが,先生でないと書けない絵のことについての……」である.「そういうことであれば書かせていただきます。」と即座に答えた.こんな開放感は滅多に味わえない.実は大島氏には大分前から本の執筆を依頼されているのであるがなかなか手がっかず約束を果たしていないのである.
 今年,私は日展で二度目の特選をもらった.上野の精養軒での日展洋画の懇親会で10名の特選受賞者を代表して挨拶をさせられた.「……私は48年間外科医の仕事に全力投球してきましたが今年の3月外科医の第一線から身を退くことになりました.全くメスを捨てたわけではありませんが,やっと画業に専念することができるようになったわけでして……,」この席ではこういわざるをえなかったのである.

臨床外科トピックス がん遺伝子の基礎と臨床・1【新連載】

癌遺伝子の基礎

著者: 中西幸浩 ,   野口雅之 ,   広橋説雄

ページ範囲:P.101 - P.106

 癌遺伝子,癌抑制遺伝子の種類とその性質
 1.癌遺伝子の種類とその性質
 癌遺伝子とは,細胞を癌化し,その状態を維持する蛋白質の産生を指令する遺伝子のことである.1969年,レトロウィルスの1つであるRoussarcoma virusの細胞癌化に関する変異株が単離され,癌遺伝子の存在が推定された.その後,1982年,ヒト膀胱癌の培養細胞から膀胱癌の原因遺伝子(H-ras)が単離されて以来,50種類以上の癌遺伝子が単離されている.癌遺伝子は,宿主の動物種に限定されず,ヒトから少なくとも脊椎動物に,さらに,ある種の癌遺伝子では酵母に至るまで広く保存され,細胞の増殖や分化に重要な機能を果たしている.癌遺伝子単離の途上で,既知の癌遺伝子に類似した遺伝子が単離されたことが契機となって,多くの既知の癌遺伝子がそれぞれ高い相同性を示す複数の遺伝子と遺伝子群を形成することがわかってきた.表1に現在までに知られている代表的な癌遺伝子をその機能に基づいて分類した.これらの癌遺伝子は,染色体転座,点突然変異あるいは遺伝子増幅といった機構により活性化する.

前立ちからみた消化器外科手術・21

胸部食道癌根治術における前立ちの基本操作(4)

著者: 早川直和 ,   二村雄次

ページ範囲:P.107 - P.112

 前回同様に胸腔内操作について述べる.特にIm領域食道癌根治術における気管分岐部郭清,左迷走神経食道枝切離,胸管切離,横隔膜上部等の気管分岐部以下の中・下縦隔郭清を中心に,前立ちの基本操作について述べる.

病院めぐり

佐久総合病院外科/沖縄県立中部病院

著者: 大西一好

ページ範囲:P.114 - P.115

 長野県の東側,北を浅間山,西を八ヶ岳に囲まれたところを佐久平といいます.元来,農村色豊かな地域ですが,今春には信越自動車道が開通し,また長野冬季オリンピックを目標に新幹線建設も具体化し,交通事情は一大変貌を遂げようとしております.その中央やや南,人口1万6千の臼田町に,千曲川に接して佐久総合病院があります.
 当病院は昭和19年1月,産業組合(現在の農業協同組合〉の病院(20床)として発足し,早くより農村医学の提唱と実践に取り組み,農村医学のメッカとして知られています.現在991床のほかに老人保健施設94床をもち,同時に臨床研修指定病院,僻地中核病院,救急救命センター,がん診療中核病院,心疾患基幹病院などの指定を受け,さらにいくつかの研修,研究教育施設を併せもつ,常勤医120余名を有する総合病院であります.

臨床研究

結節形成によるイレウス7例の検討

著者: 近藤真治 ,   蜂須賀喜多男 ,   山口晃弘 ,   磯谷正敏 ,   堀明洋 ,   新美教弘

ページ範囲:P.117 - P.120

 はじめに
 結節形成によるイレウスは,移動性に富む2つの遊離腸係蹄が互いに結ばれるように纏絡した状態にあるもので,double volvulusともいわれ,2つの腸係蹄は互いに,または一方が他方の腸管を絞扼して腸管の強い血行障害を伴うものである1).われわれは7例の結節形成によるイレウスを経験し,全例に手術を施行し多くは良好な予後を得た。結節形成によるイレウスについて自験例に若干の文献的考察を加えて報告する.

臨床報告

虫垂重積症を伴った虫垂子宮内膜症の1例

著者: 小出直彦 ,   伴在隆 ,   河原勇 ,   朝日竹四

ページ範囲:P.121 - P.125

 はじめに
 子宮内膜症は異所性に子宮内膜の増殖が認められる疾患で,内性器に多くみられ,腸管に発生することは少ない.中でも虫垂子宮内膜症はまれである.しかも著者らが調査した限りでは,本邦において虫垂重積症を発症した報告例はみられない.著者らはその1例を経験したので報告する.

石灰化副腎嚢胞の1例

著者: 久貝忠男 ,   砂川恵伸 ,   池村栄作 ,   与那覇俊美 ,   福里吉光

ページ範囲:P.127 - P.130

 はじめに
 最近の画像診断の発達により副腎腫瘤の診断,発見が比較的容易となっているが,副腎嚢胞の報告例は少ない.今回,われわれは腹部単純X線写真および腹部CT scanで特徴的な石灰化を有し,手術にて副腎嚢胞と判明した1例を経験したので報告する.

脂質分泌乳癌の1例

著者: 中川国利 ,   豊島隆 ,   桃野哲 ,   佐々木陽平 ,   古沢昭 ,   佐藤寿雄

ページ範囲:P.131 - P.134

 はじめに
 脂質分泌乳癌は,癌細胞の細胞質内に豊富な脂肪滴を有する非常にまれな疾患で,本邦では未だ7例1-5)しか報告されていない.最近著者らは,脂質分泌乳癌の1切除例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

特発性間質性肺炎にてステロイド内服治療中に—胸部食道癌切除を行いえた1例

著者: 加納正道 ,   中村隆 ,   鈴木知信 ,   天満和男 ,   大橋洋一 ,   斉藤浩幸

ページ範囲:P.135 - P.138

 はじめに
 特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pmeu-monia,以下IIPと略す)は,原因不明のびまん性間質性肺炎で予後不良の疾患であり,その治療には主としてステロイドが使用されている.われわれはIIPにて長期間ステロイドを内服治療中に食道癌が発見された症例に対して手術を行い,良好な経過をたどり退院した症例を経験したので報告する.

総胆管結石が自然に排石した胆嚢・総胆管結石症の1例

著者: 三宅敬二郎 ,   三宅俊三

ページ範囲:P.139 - P.142

 はじめに
 総胆管結石が小さい場合,内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)施行後に結石が自然排石されることはしばしば経験されるが,今回,われわれは胆管造影にて確認された大きさ7〜10 mm,数20個以上の総胆管結石が,造影後5日目に行った手術時に消失していた症例を経験し,胆石の治療法の選択のうえで示唆に富む症例と考えられたので報告する.

術後早期に肺再発を起こした巨大乳腺悪性葉状腫瘍の1例

著者: 笹橋望 ,   中島晃 ,   佐藤四三 ,   鍋山晃 ,   岡田康男 ,   荻野哲也

ページ範囲:P.143 - P.145

 はじめに
 乳腺悪性葉状腫瘍(malignant phyllodestumor)はまれな腫瘍であるが,時に巨大に発育し,遠隔転移を起こして死亡することがある.今回われわれは,巨大な乳腺悪性葉状腫瘍切除後早期に肺再発により死亡した1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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