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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科48巻6号

1993年06月発行

雑誌目次

特集 MRSA感染症対策の実際

<序>院内感染対策と教育

著者: 清水喜八郎

ページ範囲:P.707 - P.708

 病院感染予防と教育
 近年,MRSA感染症を中心に病院感染が種々議論され,テレビ,新聞にその話題が取り上げられることが多くなってきた.確かに,病院感染の歴史は長く,すでに18世紀頃から問題として取り上げられていた.しかし,20世紀における医療の進歩のなかで,特筆されるべきものの1つであるペニシリンの発見,そしてその後の素晴らしい抗菌薬の進歩が,伝染病をはじめとする微生物により惹起される疾患への対応に関する医療従事者の考え方に,安易性を持ち込んだことは事実である.その産物として,MRSA感染症を誘発したと考えて間違いはない.
 今日の病院の入院患者の多くは,compromisedhostであり,MRSAはブドウ球菌であることから,組織侵襲性が強いこと,対応できる有効な抗菌薬が少ないこと,現在存在する薬剤ではその投与すべき時期を失すれば必ずしも有効な治療が行えないことなどが相俟って,院内にて保菌者からcompromised hostへの感染が起こり,ひとたび感染が発症すれば重症かつ難治感染へと移行していくことが大きな問題であることもよく知られている.それだけに,病院感染予防対策が重要である.

MRSAを念頭においた抗生物質の使い方

著者: 品川長夫 ,   久田正純 ,   真下啓二 ,   水野章 ,   石川周 ,   鈴木克昌 ,   由良二郎

ページ範囲:P.711 - P.716

 いかなる抗菌剤であっても,いつまでもその有効性を保ち続けることは不可能である.薬剤の有効性を十分に引き出すことは最も重要であるが,同時に副作用や耐性菌の発現防止などを考慮した適切な使用が望まれる.耐性菌は抗菌剤の使用量に応じて増加してきた歴史的な事実がある.投与された薬剤と細菌の接触は,感染巣における起炎菌ばかりでなく,常在菌叢においてもみられるわけであるから,薬剤の投与期間には十分注意しなければならない.効果的な短期間の投与であれば,耐性菌を産み出す確立は低い.抗菌化学療法の原則は,抗菌剤の効果があげられる最少量投与を目指すことである.

MRSAを念頭においた抗生物質の使い方

著者: 花谷勇治

ページ範囲:P.717 - P.722

 消化器術後感染症237例中23.6%からMRSAが検出された.MRSA検出例の死亡率(33.9%)は,MRSA非検出例のそれ(8.84%)に比べ有意に高率であった.術後感染症の内容別にみると,腸炎(64.7%),腹腔内感染(48.8%)および呼吸器感染(48.8%)から有意に高率にMRSAが検出された.術後使用抗生物質別のMRSA検出率は,第1世代セフェム(0.0%),第2世代セフェム(18.9%),第3世代セフェム(56.5%)であり,各群間に有意差を認めた.1990年以降,術後感染予防薬としては第3世代セフェムの使用を控え,第1世代セフェムを多用するように規制した結果,術後感染症におけるMRSA検出率が31.6%から19.6%へと有意に低下した.

術前・術中・術後のMRSA感染症対策

著者: 炭山嘉伸 ,   草地信也

ページ範囲:P.725 - P.731

 術前から術中・術後を通してMRSA感染を予防する決定的な手段はなく,その対策の主眼は術後感染そのものの発症を抑えること,交差感染を予防すること,菌交代症を起こさせないことにつきる.このためには,術前から宿主の易感染状態を可能な限り改善しておくこと,十分な術前訓練をしておくこと,十分な院内感染対策を行うこと,確実な手術操作・術後管理を行うこと,必要以上の抗菌剤を投与しないことが要点となる.また,感染徴候のないMRSA保菌者は安易にバンコマイシン(以下「VCM」)などを投与せず,ムピロシン軟膏,ポピドンヨードなどで除菌をはかり,交差感染源にならないように注意する.また,MRSA感染予防のシステムを確立し,術後感染発症率,MRSA感染発症率,病棟内のMRSA分離状況を定期的に調査し,情報として医療従事者に提供することが望まれる.

MRSA肺炎の診断と治療

著者: 後藤元

ページ範囲:P.733 - P.738

 黄色ブドウ球菌は上気道に常在菌叢を形成しており,特に入院症例では,こうした黄色ブドウ球菌の過半はすでにMRSAで占められる状況となっている.したがって,気道由来材料からMRSAが分離される頻度は高くなっているが,こうしたMRSAの分離と実際のMRSA肺炎の発症との間には,明らかな乖離がある.MRSA肺炎の診断に際しては,菌側の要因に加えて,宿主側の感染防御機構の欠陥にも十分な注意を払う必要がある.治療には,塩酸バンコマイシンおよび硫酸アルベカシンが選択される.

MRSA腸炎の診断と治療

著者: 岩井重富 ,   田中日出和 ,   阿久津昌久

ページ範囲:P.741 - P.748

 外科領域でのMRSA感染症のうち,MRSA腸炎は最も重篤な病態を呈する.早期の的確な診断と治療が最も重要である.ほとんどが術後に発生し,臨床症状は術後早期に頻脈を伴う高熱と頻回な水様性下痢が発生する.経鼻腔排液管からの胃腸液の増加が認められ,悪心,嘔吐,腹部膨満,腹痛などのイレウス症状が出現する.腹部X線撮影では小腸ガスの増量を認める.白血球数は増多,減少の両者がみられる.胃腸液,水様便のグラム染色も有用である.コアグラーゼ型はⅡ型,エンテロトキシン型はAC型が多い,TSST-I toxinの産生株が多い.MRSAのmecA遺伝子の検出により,PCR法を用いての迅速診断もある.治療はvancomycinの経口投与が最も一般的である.

MRSA創感染の診断と治療

著者: 安田聖栄 ,   田島知郎 ,   三富利夫

ページ範囲:P.751 - P.756

 創感染は,術中の創部汚染程度にしたがって,頻度が高くなる.Clean, Clean—Contaminated, Contaminated, Dirtyそれぞれの創感染頻度は,1.8%,8.9%,21.5%,38.3%である.起炎菌としては黄色ブドウ球菌の頻度が高い.入院後,鼻腔内保菌者となり,創部に感染を来す感染経路も考えられる.また,病棟内にはMRSAの保薗者が多く,術後手術創部に感染を来す機会が多いことに注意する.創部膿瘍の診断は容易で,治療はその部位の抜糸をし,膿を排出する.開放創が大きいときは,創面がきれいになった時点で縫合閉鎖することで治療期間を短縮できる.現在のところ,創感染を確実に防ぐ方法はない.創感染に関する基本的事項を理解して診療にあたることが重要である.

小児外科におけるMRSA感染症対策

著者: 横山隆 ,   檜山英三 ,   竹末芳生 ,   児玉節 ,   山東敬弘 ,   市川徹 ,   宮本勝也

ページ範囲:P.759 - P.766

 小児外科領域におけるMRSA感染症の特徴は,新生児,乳児に多く発生し,新生児期にかなりの症例がすでに病院内環境細菌としてのMRSAの定着(colonization)を受けているために,入院時感染症からMRSAが分離されることが多いこと,重症化する疾患に特徴があり膿胸,皮膚軟部組織感染の敗血症化であることなどである.重症化する背景として,MRSAの薬剤耐性や外毒素よりも,MRSA感染であると認識し適切な治療を開始するまでの期間が問題で,幼弱小児の黄色ブドウ球菌感染症が疑われる場合には,できるだけ早急に起炎菌の検索を行うとともに,MRSAの可能性も考慮した抗菌剤を選択することが重要である.予防対策としては,環境内の細菌検査を行い,MRSAによる環境の汚染がある場合には医療従事者が手指につけて媒介する可能性が高く,医療從事者の認識と行動が最も重要である.また,術後におけるMRSA感染発症には,抗菌剤による常在細菌叢の攪乱が大きな要因であり,術後感染予防の抗菌剤の適正な使用は,小児外科領域では特に重要である.一般的には,小児外科では重症感染発生例は少なく,最も多く認められるのは付着である.しかし,重症化症例は新生児,乳児例であり,このことを考慮してMRSA重症感染の発症時には適切な抗菌剤の選択はもちろんであるが,小児の感染防御能の未熟性を考慮して,オプソニン蛋白の補充にも努めなければならない.

カラーグラフ シリーズ・新しい内視鏡治療・10

腹腔鏡下結腸切除術

著者: 宇都宮譲二 ,   吉川均 ,   柳秀憲 ,   西岡昭彦 ,   山村武平

ページ範囲:P.699 - P.704

 はじめに
 腹腔鏡下外科手術は,消化器外科領域においては胆摘術に端を発し,各種外科へとその応用の範囲を急速に広めつつある.最小の手術創と術後の疼痛緩和という患者サイドの利点とともに,外科医の立場からみると術野へのアプローチとしては理想的であり,筆者らの施設でも本法を積極的に導入し,その適応と可能性を検討しつつある.
 現在,腹腔鏡下腸管切除術には大きく2つの方法があり,1つはintra corporeal method,他方はextra corporeal methodである.前者では腸管遊離,切除,吻合など,すべての操作を腹腔内で行う真の意味でのlaparoscopic colectomyであり,後者は腹腔鏡下に腹腔内での腸管の遊離および腸管切除と小開腹による腹腔外での腸吻合を行う方法で,laparoscopic assisted colectomyと定義される.筆者らは後者を用いており,本稿でもこの方法に関して述べる.

病院めぐり

弘前市立病院外科/国立米子病院外科

著者: 町田清朗

ページ範囲:P.768 - P.769

 弘前市は,みちのくの果てに400年の歴史を刻んできた,静かなたたづまいの城下町である.周辺の農村地帯を背景とした人口17万の,お城と桜とリンゴの平和な街である.古くは,第八師団で栄えた軍都であり,戦後は弘前大学を中心とした学都となっている.
 わが弘前市立病院の前身は,昭和5年,付近の1町44か村の組合員4,191名の出資により発足した組合立病院で,近在の大鰐,黒石,浪岡に分院を持って創業した.昭和27年には病床数130となり,青森市から戦災により移転してきた弘前大学付属病院,陸軍病院からの国立弘前病院とともに,弘前市および近郷の医療の中心となった.

外科研修医実践講座・1【新連載】

連載を始めるにあたって

著者: 門田俊夫

ページ範囲:P.771 - P.775

 先日,『医学部教授3日やったらやめたくなる』(名古屋大学名誉教授・塩野谷恵彦著)という面白い本を読みました.現在の医学部や医療界の様々な問題点が,軽妙なタッチで描かれています.教授はこのなかで,特に学生教育について,「学生にとっての最も大切な救急医療は,24時間体制を前提としますから,大学病院で実習させることは不可能です」「医学部では解剖学,生理学,病理学といった基礎医学を教え,臨床医学はいくつかの教育病院で教えれば良いことになります」と述べておられます.実は,外科を目指す医師にとって最も重要な卒後研修に関しても同じことがいえると思います.従来から指摘されているように,大学の医局を中心とした日本の卒後研修体制では,とてもアメリカのレジデントなみの幅広い外科の知識と経験を得ることは不可能と考えます.これは,アメリカで外科レジデントとして卒後研修を受け,その後長い間,日本の大学の医局に身を置いた私の実感でもあります.
 はからずも,病院は違っても,同じような思いを抱いて首都圏で外科の臨床研修を担当している同世代の外科医が5人集まり,研修指導の苦労を話しあっているなかから,今回,本誌に『外科研修医実践講座』と題する連載を担当する話が出てまいりました.

Medical Essay メスと絵筆とカンバスと・6

リヨン回想(1)

著者: 若林利重

ページ範囲:P.776 - P.777

 リヨンを回想するときまず目に浮ぶのはパリーを発った飛行機がリヨンの空港に着陸する直前の眼下の景色である.高圧線を跨ぐようにして降下する機はさらに高度を下げて瀟洒な人家の屋根すれすれに飛んで滑走路に入る.空からみたのと同じようにリヨンは緑の多い美しい街である.
 私がリヨンを訪れたのは1965年の5月半ばで,その主な目的はエドワー・エリオ病院(HôpitalEdward Elliot)でマレー・ギー(P.Mallet Guy)教授の手術を見学することであった.リヨンには古田昭一君(現・三井記念病院顧問)が3か月前から留学していた.彼はサン・ジョセフ病院(Hôpital St.Joseph)病院のマリオン(P.Ma-rion)教授のもとで心臓外科の勉強をしていた.東大第二外科の後輩であり,大学の踏朱会という絵の会で一緒にヌードを画いた画友でもある.日本を出る前に私は彼に手紙を出しておいた.ところが不思議なこともあるもので私たち美術の旅の一行がニースに着き,モチーフを求めて海岸を歩いていたときにばったり彼に出会った.彼は留学先の病院の医師数名と南フランスへ旅行にきていたのである.私は改めてリヨン滞在中のことを頼むことができた.

一般外科医のための医療材料カタログ・3

縫合器,吻合器

著者: 高石聡 ,   尾崎正彦

ページ範囲:P.780 - P.781

 はじめに
 近年,消化器手術の手術適応が拡大されるに従い,一般病院においても手術件数が増加し,より安全確実で時間も短縮でき,さらに術者による差異の少ない消化管吻合術が要求されるようになってきた.器械吻合器は,古くは中山式胃腸縫合器のように胃切除術や消化管断端閉鎖に用いられてきたものもあるが,最近では食道空腸吻合術や結腸吻合術などにも使用されるようになった.また,感染症対策などの必要性からカートリッジタイプやディスポーザブルタイプが頻用されるようになってきた.今回は一般的な消化器外科手術に用いられる器械縫合器・吻合器を中心に,その長所,短所をまじえて使用上の留意点について述べる.

綜説—今月の臨床

内視鏡下外科手術—現況と今後の展望

著者: 大上正裕 ,   渡辺昌彦 ,   北島政樹 ,   出月康夫

ページ範囲:P.783 - P.792

 Ⅰ.はじめに
 1988年よりPerissat, Dubois, Reddickらにより始められた腹腔鏡下胆嚢摘出術は1-3),短期間に爆発的な勢いで普及し,欧米ではすでに胆石症に対する第1選択の治療法として定着した感がある.
 本邦においても,1990年5月に山川らにより初めて臨床応用が行われて以来急速に拡がり4),1992年4月の健康保険適用が契機となり欧米と同様に急速な普及がみられている.長い外科の歴史においても,全く新しい手術法がこれだけ短期間の間に全世界に普及するということは,かつてなかったことであろう.脳神経外科や形成外科などでは,すでに顕微鏡下手術が普及しているが,外科の領域において直視下手術ではなくモニター・スクリーンを見ながら手術を行うという全く新しい概念の手術法の登場は,外科の革命とも呼べる出来事である.本稿では,本邦におけるこの内視鏡下外科手術の現況とともに,今後の展望について述べてみたい.

総説

外科手術における赤血球M・A・P「日赤」輸血

著者: 横山繁樹

ページ範囲:P.795 - P.800

 はじめに
 日本赤十字社が新規に開発した赤血球M・A・P「日赤」(RC-MAPと略)は,従来の濃厚赤血球(CRCと略)に替わる新しい第2世代ともいうべき赤血球製剤である.1990年に全国各地で施行された臨床治験の結果,好成績が得られたことから,1992年4月には薬価に収載され臨床使用が可能となった.現状ではRC-MAP製造に必要な自動血液分離装置が一部の血液センター以外の大部分の血液センターには整備されていないためその普及が遅れているが,今後,全血液センターに分離装置が整備され次第,全国的に臨床使用されることが予測される.また,厚生省,日本赤十字社が目指す血液事業,すなわち輸血療法の適正化,献血由来血液製剤の有効利用,血漿分画製剤の自給自足体制の確立などの方針1)からみて,従来のCRCは全面的にRC-MAPに替わることも予測されている.
 京都府赤十字血液センターでは.1992年4月からRC-MAPの供給を一部医療機関を対象に開始し,10月からは供給する赤血球製剤をすべてRC-MAPに統一化してきた.そして,現在までに得られた京都府下の医療機関におけるRC-MAP輸血症例に検討を加えてみると,赤血球の補充を主目的とした症例では良好な輸血結果が得られているものの,外科領域,特に出血量の多い手術症例においては若干の問題点が見受けられた.

臨床研究

腹部内臓動脈瘤11例の検討

著者: 森田克哉 ,   大村健二 ,   浦山博 ,   水野洋一 ,   中川正昭 ,   渡辺洋宇

ページ範囲:P.801 - P.804

 はじめに
 腹部内臓動脈瘤は稀な疾患とされ,多くは破裂後に発見されてきた.しかし最近では,腹部computed tomography(以下「CT」),超音波検査,血管造影などの発達により報告例が増加している.れわれれは,過去13年間に11例の腹部内臓動脈瘤を経験したので,若干の検討を加えて報告する.

新しい手術器具

新しい切開器具Harmonic Scalpelの腹腔鏡下胆嚢摘出術への応用

著者: 窪川敬一 ,   万代恭嗣 ,   大友裕美子 ,   伊藤精彦 ,   渡辺稔 ,   出月康夫

ページ範囲:P.807 - P.810

 はじめに
 現在,腹腔鏡下胆嚢摘出術(以下「本術」)は急速に普及し,胆石症に対する第一術式になりつつある.本術式施行上,胆嚢床切離を確実かつ安全に施行することが重要であり,主に電気メスまたはレーザーメスが用いられている1).確かに電気メス,レーザーメスは本術式を安全に施行するうえで有用であるが,煙の発生による視野の障害,操作上の困難性など,おのおのに問題も残されている.最近新しく開発されたHarmoic Scalpel(Ultra Cision社製,以下「HS」)は,超音波の発生と同様の原理でメスの先端を振動させることにより切開,凝固能を有するものであり,本術式に応用可能な電気メス,レーザーメスに次ぐ第三の器具として期待されている.
 今回,本術式を中心にHSを臨床応用し,使用に際しての利点,欠点を検討したので報告する.

臨床報告

胃外性に発育した巨大胃平滑筋肉腫の1例

著者: 佐々木愼 ,   小西富夫 ,   根岸征示 ,   渡辺春子 ,   中島利子 ,   森一博

ページ範囲:P.813 - P.816

 はじめに
 胃悪性腫瘍のなかで胃平滑筋肉腫の占める割合は0.1〜1.0%1)といわれており,胃癌に比べてその発生頻度ははるかに低い.膨張性に発育して,ときに巨大化することが知られており,文献上,最大径15cm以上に発育したものを巨大胃平滑筋肉腫と称している2)
 今回われわれは,その1例を経験したので,これまでの本邦報告例と合わせて集計し,その臨床病理学的特徴を中心に検討したので報告する.

真性下殿動脈瘤の1治験例

著者: 松本三明 ,   八木孝仁 ,   中島明 ,   林俊秀 ,   大江新野 ,   橋本雅明

ページ範囲:P.817 - P.820

 はじめに
 殿部動脈領域の動脈瘤は非常に稀で,全動脈瘤の1%以下であり1),欧米で約100例,本邦で5例程度の報告をみるに過ぎない2,3).そして,そのほとんどが外傷1,3-5)や手術6)に由来する偽性動脈瘤であり,殿部腫瘤を主訴とするものが多い.真性動脈瘤は,検索し得た限りでは家村ら2)が報告した1例のみであった.
 今回われわれは,両側総腸骨動脈瘤を併発し骨盤腔内に発生した真性下殿動脈瘤を経験したので,文献的考察を加え報告する.

卵巣転移大腸癌切除後6年生存の1例

著者: 中野一郎 ,   船木芳則 ,   生垣茂 ,   河原栄 ,   村上信也 ,   渡辺洋宇

ページ範囲:P.821 - P.824

 はじめに
 転移性卵巣腫瘍は,1896年,FriedrichKrukenberg1)がfibrosarcoma ovarii mucocel-lulare carcinomatodesなる組織像をもつ卵巣腫瘍をKrukenberg腫瘍と提唱したのが最初である.1902年,Schlagenhaufe2)は,Krukenberg腫瘍と原発性卵巣腫瘍について,前者がしばしば消化器系よりの二次性転移を示す卵巣腫瘍であると報告した.現在では胃のみなすらず,そのほかの腹腔内外臓器の原発巣から卵巣転移した腫瘍をKrukenberg腫瘍と呼ばれる傾向にある.
 著者らは,卵巣転移を合併した大腸同時性重複悪性腫瘍6年生存の1例を経験した.卵巣転移を合併した大腸悪性腫瘍で,5年以上生存の報告はきわめて稀であり,本邦において本症例が8例目の報告である.大腸癌の卵巣転移経路および卵巣同時切除の適応の考察を加えて報告する.

Edwards Ⅲ B型血管輪の成人1治験例

著者: 浦上淳 ,   諸国眞太郎 ,   山中正康 ,   石田数逸 ,   河島浩二 ,   三原康生

ページ範囲:P.825 - P.827

 はじめに
 血管輪には種々の型があり,その臨床症状の程度によって乳児期に手術が必要な症例から,生涯,無症状の症例まである.そのなかでも,成人になって症状が出現または増強し,血管輪と診断される症例は少なく稀である1,2)
 今回われわれは,42歳・男性のEdwards Ⅲ B型血管輪の1例を経験し手術を行ったので,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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