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文献詳細

雑誌文献

臨床外科48巻8号

1993年08月発行

Medical Essay メスと絵筆とカンバスと・8

旅のアクシデント

著者: 若林利重1

所属機関: 1東京警察病院

ページ範囲:P.1058 - P.1059

文献概要

 いよいよ明日は日本へ帰るという,1965年7月3日のことである.4か月近いヨーロッパ,アメリカの旅の帰途ハワイに立ち寄って1泊した.ロスアンゼルスを早朝発ったのだがホノルルもまだ朝だった.その日は午前中ホテルの窓から景色を画いたり,ワイキキの浜に出てベンチの老人をスケッチしたりした.午後は車で島のなかを観光し,途中パイナップル畑に寄って新鮮なパイナップルを食べた.ホテルに戻ると,旅の最後の大洗濯をし浴室一杯に紐を張って掛けた.夕食にはまだ間があったので野外ステージでフラダンスを見ながらコカコーラを飲んだ.
 ホテルの大食堂は2階にあった.私は一つのテーブルに1人で坐った.無事に終えた旅を祝うべく1人で乾杯と食事の前にビールの小瓶を1本たのんだ.旅の間ビールは殆ど口にしなかったのでその1口は久しぶりの味だった.ところがコップの半分も飲まないうちに急に嘔気を催した.すぐ椅子を離れ大急ぎでトイレへ向かった.気がついて先ず目に入ってきたのは真白な広い天井であった.そして私のすぐ傍には大理石の大きな柱が立っていた.私は食堂の柱の根元で絨緞のうえに倒れていたことに気付いた.これはいかんと立上がり,よろけながらトイレへ歩いた.倒れていたのはそう長い時間ではなかったようだ.トイレに入るや否や嘔吐した.吐物はコーヒー残渣様よりもっと赤味を帯びている.まさに消化性潰瘍の吐血である.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1278

印刷版ISSN:0386-9857

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