icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科49巻10号

1994年10月発行

雑誌目次

特集 自動吻合器・縫合器を使いこなす

〈エディトリアル〉器械吻合の歴史と進歩と問題点

著者: 中山隆市

ページ範囲:P.1223 - P.1231

 今日,臨床外科にて評価の確立した器械吻合の歴史を3期に分けると,まず1910年,アメリカのHalstedは12世紀来の叡智を集約しBulkhead anastomosisの理論を実験し,1924年,ハンガリアのPetzはドイツ製,銀のB型ステイプルにて胃腸縫合器を実用化した.第2の進歩は,1954年,ソ連における一連の縫合器械開発で,これらはRavitchによりアメリカにわたり改良され,10年後,臨床に適用された.第3期は,1958年,峯の画期的な2段階式環状吻合器の開発で,これはソ連にて1960年,Suture Gunとして簡略化され,1972年,筆者は彎曲型吻合器を開発した.1979年,EEA,GIAの本邦紹介を契機に次第に普及し,その評価は1990年,腹腔鏡下手術の導入とともに必須のものとなりつつある.患者のQOL向上のため,保険適用上の制約はあるが,今後,適用手術の拡大とステイプルの改良に一層の成果を期待したい.

頸部における食道・胃管/結腸器械吻合術

著者: 安藤暢敏 ,   小澤壯治 ,   三木浩栄 ,   諏訪達志 ,   篠沢洋太郎 ,   北島政樹

ページ範囲:P.1233 - P.1240

 頸部吻合では端(食道)・側(胃管,結腸)吻合を原則としている.胃管の小彎切離縫合線の最口側部を3〜4cm開き,ここより先端にトロッカー(着脱式のヤリ)を装着したEEAセンターロッドを胃管内腔へ挿入し,対側の穹窿部大彎線上にトロッカーを刺出する.フラットアンビルのアンビルシャフトを把持しながら食道内腔へ挿入し,タバコ縫合を緊縛したあとアンビルシャフトをセンターロッドに接続する.アンビルとカートリッジを接近させハンドル操作を行う.縫合不全率は10.4%,標準的な胸骨後胃管再建例では7.3%,吻合部狭窄率は8.4%とほぼ満足できる成績が得られ,吻合形態が創傷治癒的にベストではなくとも,全周均一で耐圧性に優れ,かつ手術時間節約効果が大きい器械吻合は,食道頸部吻合には適した手技といえる.

胸腔内食道空腸吻合術—器械吻合の応用

著者: 内田雄三 ,   野口剛 ,   平岡善憲 ,   村上信一

ページ範囲:P.1241 - P.1247

 胸腔内食道空腸吻合術の問題点は,①開胸および胸腔内操作に関するもの,②挙上空腸脚と腸間膜茎の作製に関するもの,③吻合手技に関するもの,に大別される.①は完全右側臥位に近い体位にする,片肺換気で左肺を虚脱させる,彎曲分解型自動吻合器を使用する,②は上腸間膜動脈を切離し血管弓を利用した茎を作製する,挙上空腸口側端より約4cmの犠牲空腸部位をつくる,などの工夫が必要であり,③は挙上空腸の腸間膜付着部口側縁より約3cmの部位にトロカーを出す,食道の口径を拡張するには組織を損傷しないようバルーンカテーテルを使用する,吻合時に組織を過度に圧挫しない,食道壁が肥厚しているものは層別に吻合する,ことなどで解決される.

自動吻合器を用いた胃全摘後食道空腸吻合術—吻合のポイントとトラブル脱出法

著者: 梶山美明 ,   鶴丸昌彦 ,   宇田川晴司 ,   堤謙二 ,   木ノ下義宏 ,   松田正道 ,   渡辺五朗 ,   早川健 ,   澤田壽仁 ,   秋山洋

ページ範囲:P.1249 - P.1254

 EEA自動吻合器は,正しく用いればその簡便性と吻合強度の安定性によって手術時間の短縮に役立ち,肥満例やpoor risk例の胃全摘後食道空腸吻合にきわめて有用である.われわれは,1979年以来,1,000例を越えるEEAによる食道空腸吻合施行例を有しており,この経験に基づいてEEA使用上のコツ,注意点および器械吻合時のトラブル脱出法について述べる.EEA使用にあたり最も重要な点は,器械の挿入,抜去をいかに損傷なく安全に行うかということであるが,同時にEEAの整備,装填が正しく行われているかどうかをチェックするのも,術者の責任であることを忘れてはならない.

自動吻合器・縫合器を用いた胃全摘後食道空腸吻合術—Double Stapling法

著者: 青木照明 ,   高山澄夫

ページ範囲:P.1255 - P.1260

 EEA,GIAを併用した食道空腸器械吻合における新しい工夫であるdouble stapling法について,その具体的な手技を器械操作のコツ,注意点とともに述べた.食道切離部にPurstring45をセットし,食道切離と断端巾着縫合を同時に行う.PCEEA anvil部を食道断端へ挿入固定する.つぎに,挙上空腸を作製し,挙上空腸断端より約40cm肛門側(Roux-en Y脚吻合部)に小切開を加え,PCEEA本体を挿入する.挙上空腸断端ステープルラインの腸間膜対側にトロカーを出し,anvil部と接合,吻合する.GIAによって処置された縫合線の1/2をEEAで打ち抜く形のdouble stapling法による吻合となる.腸間膜に吻合部がかからず,吻合部の血行が良好に保たれる.

自動吻合器を用いた噴門側胃切除術後の空腸間置術

著者: 三富利夫 ,   生越喬二 ,   宮治正雄 ,   岩田邦裕 ,   近藤泰理 ,   田島知郎

ページ範囲:P.1261 - P.1265

 一般的には,噴門部や胃上部胃癌に対して胃全摘術が行われてきたが,癌患者のQOLが注目されるようになり,臓器温存,縮小手術の方向に外科治療も変化してきた.空腸間置術は食物が十二指腸を通過する生理的な術式であると考えられているが,吻合部完成時の良悪の差異が術後の合併症に反映される術式でもある.特に空腸残胃吻合で,吻合口がいびつになったり,狭くならないように注意することが肝要であり,そのためにも器械吻合器を使用し,できればEEA 28 mmを使用することを勧めたい.以上,われわれが行っている噴門部や胃上部胃癌に対する噴門部胃切除術後の空腸間置術の概要を紹介した.

自動吻合器を用いたBillroth Ⅰ法再建術

著者: 鈴木博孝 ,   笹川剛 ,   喜多村陽一 ,   小熊英俊 ,   石塚直樹 ,   遠藤明彦

ページ範囲:P.1267 - P.1272

 われわれは,幽門側胃切除のBillroth−1法再建にPCEEA,DTA−90などの器械を応用し,積極的に器械吻合を試みている.その方法は,胃切除に先立ってPCEEAによって吻合を行ったあと,DTA−90を用いて胃を縫合閉鎖,切除するもので,切除と再建が一気に完了する.本法の特徴は,胃を切除後に残胃よりEEAを挿入する方法に比べて,EEAの挿入孔を閉鎖する必要がないため迅速に再建が完了する点にある.器械吻合の最大の利点は,迅速な吻合と普遍的な吻合が得られることにあり,今後は手縫い操作が困難な場合のみならず,多くの消化管吻合に積極的に使用されていくであろう.

機能的端々吻合法を用いた結腸吻合術

著者: 綿谷正弘 ,   安富正幸

ページ範囲:P.1273 - P.1278

 吻合器械の改良と吻合手技の進歩に伴い,熟達した外科医でなくとも結腸吻合が迅速にかつ安全に行えるようになってきた.器械吻合による結腸吻合の基本原則は,用手吻合による場合と同じで,①結腸の十分な授動により吻合部に緊張がかからないようにすること,②吻合腸管の血流を保つこと,が重要である.これらの基本原則を守りながら,吻合器械の構造を熟知するとともに,吻合手技についても精通し吻合操作を行わなければならない.本稿では,機能的端々吻合法とその変法である一期的機能的端端吻合法について述べる.さらに2/3外翻法や全外翻法による三角吻合法と輪状吻合法の要点を述べた.

自動吻合器・縫合器を用いた低位前方切除術—Double Stapling Technique

著者: 斎藤幸夫 ,   沢田俊夫 ,   洲之内広紀 ,   武藤徹一郎

ページ範囲:P.1279 - P.1283

 Double stapling techniqueによる吻合は,リニア型縫合器で直腸断端を閉鎖し,肛門より挿入した環状吻合器にて断端閉鎖ステイプルを打ち抜き完成する.本法による吻合は術野の汚染が少なく,迅速で確実に行われる.使用される器械の特徴をよく把握し,実際の吻合における各ステップ(巾着縫合,アンビル挿入,断端閉鎖,本体挿入,打ち抜き部位,本体抜去,dog ear処理など)を理解しておくことが肝腎である.吻合に際しては,生じうるトラブルに対する処置の知識と技術が必要とされる.

自動吻合器・縫合器を用いたJ-pouchによる回腸肛門管吻合術

著者: 山村武平 ,   荘司康嗣 ,   楠正人 ,   柳秀憲 ,   野田雅史 ,   池内基浩 ,   宇都宮譲二

ページ範囲:P.1285 - P.1289

 大腸全摘術(proctocolectomy)の適応となる疾患には,大腸腺腫症(AC)および潰瘍性大腸炎(UC)が挙げられる.これらは良性疾患であり,しかも患者は若年者に多く,外科治療には良好なquality of lifeと長期にわたる治療効果が要求される.これらの条件を満たす大腸全摘術後の再建術式として,回腸肛門吻合術(以下,IAA)と回腸肛門管吻合術(以下,IACA)がある.これは一重に自動吻合器や縫合器の進歩によるところが大きく,肛門機能を温存しつつ手術することが可能となる.IACAでは少量の粘膜が残存するものの,手技的にはIAAより容易である.本稿では,この術式について詳しく述べた.

自動縫合器を用いた胃の腹腔鏡下手術—胃局所切除術,迷走神経切離術ならびに胃空腸吻合術の手術手技

著者: 大上正裕 ,   大谷吉秀 ,   才川義朗 ,   熊井浩一郎 ,   北島政樹

ページ範囲:P.1291 - P.1300

 内視鏡下外科手術用に開発された自動縫合器の登場により,腹腔鏡下手術は種々の消化管手術への応用が可能となってきた.教室ではこれらの自動縫合器を応用し,リンパ節転位がないと判断した胃粘膜癌に対して,われわれが考案したlesion lifting法を用いて腹腔鏡下に病変部の胃壁を確実に吊り上げ,病変の辺縁より十分に離れたところで全層切除を行う腹腔鏡下胃局所切除術を施行している.薬物治療が困難な十二指腸潰瘍症例に対しては,迷走神経後幹切離とともに胃小彎側前壁の胃角部より傍噴門部に至るまで自動縫合器を用いて切除する術式を導入し,良好な術後の減酸効果を得ている.癌性幽門狭窄症例に対しても,自動縫合器を用いて胃体部と空腸を機能的端々吻合法により吻合する胃空腸吻合術を施行している.いずれの手術も良好な手術成績を得ており,自動縫合器を用いることにより安全性の向上と手技の簡便化がはかられると考える.

自動縫合器を用いた大腸の腹腔鏡下手術—S状結腸切除術

著者: 大橋秀一 ,   余田洋右 ,   神野浩樹 ,   洪基浩 ,   鄭一秀 ,   笹岡英明

ページ範囲:P.1301 - P.1305

 腹腔鏡下大腸手術のうち,自動縫合器ならびに自動吻合器を併用したS状結腸切除術の実際における各種機材の安全な使用法,使用上の注意点ならびにコツについて述べた.現在市販されている各種機材の機能,特性を十分に理解し,機種に習熟したうえで機種ならびに症例を選択することが大切である.さらに,手術法(体内法,体外法)も状況により適宜選択することが肝要である.

カラーグラフ シリーズ・新しい内視鏡治療・26

腹腔鏡下副腎摘除術

著者: 東原英二

ページ範囲:P.1215 - P.1220

 はじめに
 副腎摘除術の歴史のうえで,腹腔鏡下副腎摘除術の開発は従来の副腎摘除術の欠点を補う画期的なものである1-6).本邦では世界に先駆けて腹腔鏡下副腎摘除術が行われたが,われわれの腹腔鏡下副腎摘除術の症例報告は1),学術雑誌に手紙の形式ではなく発表されたものとしては最初ではないかと考えられる.この術式は副腎摘除術の発展の歴史のうえから有意義であるのみならず,腹腔鏡手術のなかでも,腹腔鏡手術の利点をよく発揮している手術法である.それには以下のような点が挙げられる.
 (1)皮膚・筋肉切開が小さく,肋骨の切除を必要としない.4か所のトロカール孔のうち1か所は臍上縁であるので,術後創が目立たない.

病院めぐり

高知赤十字病院外科/静岡厚生病院外科

著者: 浜口伸正

ページ範囲:P.1308 - P.1309

 高知赤十字病院は,高知市内の北部にあり,JR高知駅のすぐ北に位置しています.当院は,昭和3年8月に日本赤十字社高知支部療院として,内科・外科・眼科の3診療科,72床で発足したのが始まりです.昭和18年1月には高知赤十字病院と改称され,その後,順次診療科も増し,昭和60年には現在の本館も増改築され,内容も充実し,地域の中核基幹病院として発展してきました.
 高知県では,現在まで救急救命センターがありませんでした.しかし,平成6年11月に当院が初めて救命救急センターをオープンすることになり,現在,新館を建設中です.すでに心臓血管外科が新設され,さらに救急部,健診部も設け,診療機能の充実を図るようにしています.

外科研修医実践講座・16

術後合併症を防ぐために

著者: 笹壁弘嗣 ,   門田俊夫

ページ範囲:P.1311 - P.1315

 はじめに
 手術には,常に合併症の危険がつきまとう.合併症を予防するためには,個々の患者の持つriskfactorを把握し,できるだけ術前に改善させることが肝要である.本稿では,合併症の頻度を少しでも減らすために,われわれが日常実践していることを紹介する.
 まず,手術に臨むにあたり,当院では「術者の十戒」(表1)を掲げ,日々の戒めとしている.

鴨川便り・10

看護婦

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.1316 - P.1317

 医師生活の30数年,臨床の場では看護婦とは常に一緒であった.振り返ると彼女たちとの憶い出が走馬灯のように駆け巡る.多くの顔が浮かんでは消える.優しい人,綺麗な人,明るい人,利かぬ気の人,てきぱき仕事をする人,厳しい人,たくさん出てくる.歳月が追憶をきれいにするためか,出てくるものは洗い流されたきれいな憶い出だけである.皆いい人達だった.
 看護婦と医師の関係は今日でこそ職場のパートナーとしてだが,過去に遡ると看護婦は単なる医師の下働きのようなものだった.彼女たちが今日の社会的地位を得るまでにはそれなりの年月と歴史がある.筆者が働いていた聖路加国際病院の創設者トイスラー先生が日本の看護婦に「雑巾と箒を捨てなさい」と言ったのはつい60年ばかり前のことにすぎない.彼は日本に看護教育の導入を計った先達だった.60年さかのぼる必要もない.筆者がまだ若く大学医局にいた30数年前でさえ,看護婦の名は呼び捨てだったし,医局では,医師と看護婦の恋愛はタブーであった.結婚しようとして教授から破門された話もあったし,逆に医師と看護婦の結婚の媒酌をしたという教授のことが信じ難い美談として話題になったこともあったのだ.

私の工夫—手術・処置・手順・2

胃全摘に対する二重腸管形成移植術

著者: 紙田信彦

ページ範囲:P.1318 - P.1318

 胃全摘後,十分に食べられることと,逆流性食道炎症状が少ないことは,患者のQOLの面から大事な問題である.そのために1980年より,食道との吻合に少し工夫をこらした小腸二重腸管形成移植術を行っている.
 まず,Treitz靱帯より約25cmのところから,約45cmの有茎移植空腸を作成する.その口側30cmを折り曲げて,図-Ⅰのごとく腸管膜付着部より約1.5cm離れた側面で15cm長の吻合をしリザーバーとする.3-0バイクリル糸を用い,手縫いでAlbert-Lembertの連続2層縫合を行うが,前壁に設けた食道との吻合口は,最初から開けたままにしておく.この吻合口は,口側端から食道の口径ぐらい離したところに設けるようにする.(1987年までは,前壁縫合の口側端に吻合口を置いていた.)こうすることにより,二重腸管を食道に挙上固定するとき,余裕をもって行うことができる.また,食道端は患者側の右側をやや長めに残すように斜めに切る.結腸後に移植腸管を挙上し,食道と二重腸管との吻合を行う(図-Ⅱ).後壁はAlbert縫合を行うが,予め糸を8〜9針通してから結紮する.前壁も同様に行う.

イラストレイテッドセミナー・7

はじめての右半結腸切除術・LESSON 1

著者: 篠原尚

ページ範囲:P.1319 - P.1328

 1.術者は右に立ち,肋骨弓下から始まる傍腹直筋切開を加える.右半結腸切除術は,むしろ上腹部の手術である.
 2.腹腔内を精査したのち開創器をかける,まず,右半結腸の脱転操作から始める.盲腸外側で壁側腹膜と腸管漿膜との移行部を確認し,その約1cm壁側腹膜寄りをメッツェンバウム剪刀で切開する,そのまま盲腸下縁を回って回腸末端から約3cmの腸間膜根(後腹膜)を切開し,さらに回腸切離予定線へ向かって切り上げておく.症例によっては,回盲部が後腹膜から遊離していることもある.

綜説—今月の臨床

膵頭十二指腸切除後の再建術式の選択

著者: 上野富雄 ,   鈴木敞

ページ範囲:P.1331 - P.1336

 Ⅰ.はじめに
 膵頭十二指腸切除後の再建法は,今なお学会においても議論され,統一した見解が得られていないのが現状である.それぞれの施設の伝統や哲学に裏づけられた成績,その術者のさまざまな経験による考えの集大成が再建に表現されるからであろう.
 膵頭十二指腸切除後の消化管再建法を論じる際,従来の縫合不全や胆管炎の発生を中心とした術後合併症の問題に加え,現在では術後の消化吸収状態,消化管ホルモン動態,酸分泌状態(吻合部潰瘍の問題),胃内容排出状態を含めて,より良い術後のQOLを配慮した再建法を選択することが時代の要請となりつつある.

臨床外科トピックス 消化器外科領域におけるサイトカインとその周辺・7

癌悪液質とサイトカイン

著者: 川上正舒 ,   早田邦康

ページ範囲:P.1337 - P.1343

 はじめに
 悪性腫瘍,慢性感染症,慢性心不全,慢性呼吸器不全などでは,しばしば著しいるい痩をともなう極度の消耗状態を示し,悪液質と呼ばれている.悪液質は一見して明らかに重篤な状態であり,癌患者においては生存期間を有意に短縮させるといわれているにもかかわらず,その病態の基となる代謝異常の生化学的な機序については不明な点も多く,したがって,治療についても今日の医療をもっても容易ではない1-3).最近,悪液質の成因におけるサイトカインの役割が明らかになりつつあり,このサイトカインの産生や作用を抑制するような治療が有効ではないかと考えられるようになってきた4,5)

外科医の工夫

折り紙式簡易肝内門脈構造模型の考案

著者: 大野義一朗 ,   佐藤務 ,   森正道 ,   岡野滋行 ,   継篤 ,   中田友也

ページ範囲:P.1345 - P.1348

 はじめに
 肝のグリソン系の解剖構造の理解は,肝外科はもちろん画像診断検査の読影にも欠かせない知識である.しかし,その立体的な構造は難しく,これまでも多くの解説書1)や鋳型模型2)が工夫されてきた.われわれの施設では,とくに初心者を対象に簡便な折り紙式肝内門脈モデルを考案し利用しているので紹介する.

新しい手術器具

内痔核に対する新しい治療法—ドップラー血流計を応用した痔核動脈結紮器の開発

著者: 守永和正

ページ範囲:P.1349 - P.1352

 はじめに
 内痔核の外科的治療としては,根治手術として痔核に流入する痔核動脈の高位結紮と痔核の切除を組み合わせたいわゆる結紮切除術が行われ,よい成績をおさめている.しかし,この手術を行うには入院と麻酔が必要で,術後に若干の疼痛を伴うことも多い.そのため,外来でできるような低侵襲治療法として,凍結療法,硬化療法,赤外線凝固療法,ゴム輪結紮療法などが試みられてきた.これらは結紮切除術における痔核切除の部分に対応した治療法といえる.これに対し,結紮切除術における痔核動脈の高位結紮は,これまでは麻酔下にのみ施行可能で,低侵襲治療法としては行うことができなかった.
 今回,低侵襲下に痔核動脈の高位結紮を行うことを目的として,ドップラー血流計を応用した痔核動脈結紮器を開発した.本器は,前処置,麻酔なしに外来で安全に施行できるので,本結紮器の説明とその使用結果について報告する.

臨床報告

腹部鈍的外傷により十二指腸破裂および胆管狭窄をきたした1例

著者: 山崎泰男 ,   三毛牧夫 ,   阿保七三郎 ,   北村道彦 ,   橋本正治 ,   泉啓一

ページ範囲:P.1353 - P.1356

 はじめに
 交通外傷,労働災害などの腹部鈍的外傷の増加に伴い,外傷性十二指腸破裂は増加の傾向にある1,2).しかし,腹部外傷による肝外胆管狭窄例の報告は少なく,診断の遅延,発生機序の解明など多くの問題を含んでいる.今回われわれは,十二指腸破裂に加えて胆管狭窄を伴った症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

MRI検査が診断に有用であった巨大胃平滑筋肉腫の1例

著者: 竹内賢 ,   西科琢雄 ,   津屋洋 ,   西脇勤 ,   高橋親彦 ,   川島靖彦

ページ範囲:P.1357 - P.1360

 はじめに
 胃平滑筋肉腫は,胃肉腫の201)〜252)%,全胃悪性腫瘍の0.11)〜0.5%2)を占める比較的まれな疾患である.5cm以上の大きな腫瘤を形成する症例が多く,筆者らは最大径23cm,総重量4,100gにおよぶ巨大胃平滑筋肉腫を経験したが,術前診断にMRI検査が有用であったので,その概要を報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?