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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科49巻11号

1994年10月発行

雑誌目次

特集 施設別/新・悪性腫瘍治療のプロトコール

[エディトリアル]悪性腫瘍治療のプロトコールによせて

著者: 小山研二

ページ範囲:P.6 - P.7

 1.本増刊号のねらい
 悪性腫瘍治療のプロトコールは1987年(第42巻6号)にも本誌で企画し,好評を得た特集であるが,今回の編集方針は前回とはやや異なる.前回の執筆者は殆どが大学附属病院の方であったが,今回はより幅広い視野のもとに執筆をお願いしている.もちろん,このような施設別のプロトコールを提示して頂けるのは,その領域で優れた成績をあげておられる指導的病院であることはいうまでもないが,施設の規模や診療のシステム,患者管理の方法などが大学病院と著しく異なる病・医院で診療に従事する広い読者層を考えたからである.そのまま,読者自身の日々の診療に役立てられるよう,各地のがんセンター,日本外科学会の認定医制度の認定施設,日本消化器外科学会専門医修練施設を含めて執筆者を選ばせていただいた.
 また,お願いした施設間の異同がより明らかになるように、共通の項目建てで,論文調よりも箇条書き形式にするなど,執筆者に無理なお願いをした.

Ⅰ.食道癌治療のプロトコール

(1)東京医科歯科大学医学部第1外科

著者: 遠藤光夫 ,   河野辰幸 ,   永井鑑

ページ範囲:P.8 - P.12

 食道癌治療の方針として,癌の深達度別にみてm癌で,リンパ節転移陰性としたものには,縮小手術(非開胸食道切除ならびに内視鏡的粘膜切除(EMR))を,また,sm癌以上のものは,開胸下食道切除・郭清を第1選択とし,術後集学的治療を行う方針としている.しかし,A3癌予測のものと,広範な転移リンパ節を診断したものでは,ネオアジュバント療法として,術前に化学療法または化学療法+放射線治療を施行し,治癒切除を行えるように考慮する方針としている.

(2)富山医科薬科大学第2外科

著者: 坂本隆 ,   清水哲朗 ,   田内克典 ,   黒木嘉人 ,   田沢賢次 ,   藤巻雅夫

ページ範囲:P.13 - P.19

 食道癌は現在なお,進行癌の状態で発見される症例が多く,そのような症例では、手術を含め各種の治療法を駆使しても治療成績は不良である1).一方,最近では,食道癌high riskグループの認識や早期発見のための内視鏡診断技術の向上により,汎内視鏡による上部消化管検査の際に粘膜内癌で発見されることも多くなり,内視鏡的粘膜切除により治癒が期待できる症例も増加してきている.
 食道癌に対する治療は外科的切除が中心であることは論を待たないが,食道癌は比較的高齢者に多く,定型的手術は通常,頸部,胸部,腹部の3領域にわたり侵襲が大きいので,患者の耐術可能性についても正確な判断が必要である.

(3)高知医科大学第2外科

著者: 土岐泰一 ,   小越章平 ,   岩佐正人 ,   大森義信 ,   岩佐幹恵 ,   高橋晃

ページ範囲:P.20 - P.25

 近年,診断技術の向上に伴い早期食道癌症例の増加は認めるものの,臨床の場においては進行癌に遭遇することが多く,このうち他臓器浸潤を認める根治切除不能例の占める割合も少なくない.現在,食道癌の治療は外科療法が主体となっているが,食道の広範囲で豊富なリンパ節は3領域郭清でもen blocに取り出すことは不可能であり,外科療法のみでは特に進行癌に関しては治療成績の向上をみていないのが現状である.当科においては,食道癌と同じ組織型をもつ子宮頸部癌に対して良好な治療成績を上げている高線量率腔内照射(remote after loadingsystem;RALS)に着目し,手術と併用して治療を開始し1)4年が経過した.重篤な合併症もなく良好な経過を得つつあり,当科における標準的な治療方法として定着したので,本稿において紹介したい.

(4)虎の門病院消化器外科

著者: 鶴丸昌彦 ,   宇田川晴司 ,   梶山美明 ,   堤謙二 ,   木ノ下義宏 ,   秋山洋

ページ範囲:P.26 - P.33

 食道癌は,胃や結腸などの他の消化器癌に比較して,まだまだ治療成績が芳しくない.以前に比べれば麻酔管理,周術期の管理が進歩して拡大手術が比較的安全に行われるようになり,また化学療法でもある程度の効果が期待できるようになったため,10年前に比べれば遠隔成績も向上した.しかし,種々の合併療法が行われるようになったとはいえ,現時点ではやはり根治を期待できる治療の主役は依然として外科手術であろう.食道癌手術は大きな侵襲であるので,その適応をよく吟味することが大切である.また,いわゆる合併療法を術前,術後にわたって,病状に即して逐次組み立ていくことが重要である.本稿では誌面の都合上,胸部食道癌に限って述べたい.

(5)新潟県立がんセンター新潟病院外科

著者: 田中乙雄 ,   佐々木壽英 ,   梨本篤 ,   筒井光弘 ,   土屋嘉昭

ページ範囲:P.34 - P.38

 食道癌に対する外科治療も,症例の進行度に応じて手術術式を選択することが要求される時代となってきた.最近の画像診断の進歩に伴い発見される機会が増加した表在癌のなかには,内視鏡的粘膜切除術や非開胸食道抜去術といった縮小手術によっても十分根治性が得られる症例も判明してきた.一方,未だ大多数を占める進行癌では頸胸境界部を中心としたリンパ節郭清の重要性が認識され,両側頸部・胸部・腹部の3領域にわたる拡大郭清が多くの施設で行われている.しかし,リンパ節転移高度例では,拡大郭清術のみで治療効果があまり期待できないのも事実であり,放射線治療,化学療法を併用した集学的治療により治療成績の向上を目指しているのが現状である.
 本稿では,以上のような背景を基とした当科における食道癌治療のプロトコールの概要を述べる.

Ⅱ.胃癌治療のプロトコール

(1)慶應義塾大学医学部外科

著者: 久保田哲朗 ,   熊井浩一郎 ,   大谷吉秀 ,   大上正裕 ,   北島政樹

ページ範囲:P.41 - P.49

 胃癌は本邦においても減少傾向にあるものの,いまだに癌死亡の1位を占める重要な疾患である.しかしながら,胃癌を構成するstageについては変化がみられ,stage Ⅰ胃癌が全体の48%と増加する一方で,手術により治癒しがたいstage Ⅳ胃癌が依然として18%と1/5近くを占めている1).このstage構成の変化に対しては治療する側の対応も必要であり,教室では,粘膜内(m)胃癌に対しては内視鏡的粘膜切除2),腹腔鏡下胃局所切除3),縮小手術4,5)のオプションを用意し,stage Ⅲ,Ⅳ症例に対しては,手術に加えて化学療法を中心とした集学的治療による延命効果を図り,すべての胃癌症例に対してQOLを向上させることを目標として治療を行っている.
 本稿では,胃癌治療のフローチャートを示し(図1,次ページ),教室における胃癌治療の現況を胃癌取扱い規約(改訂第12版)6)に準拠して報告する.ただし,過去の文献中で旧分類で記載されているものは,正確を期するために改変しないで記載した.

(2)大阪医科大学一般・消化器外科

著者: 岡島邦雄 ,   磯崎博司 ,   中田英二 ,   豊田昌夫 ,   千福貞博 ,   野村栄治

ページ範囲:P.50 - P.57

 癌治療の基本は癌細胞を完全に除去することである.そのため外科的切除が第1選択になる.従来は癌の手術とは拡大郭清,広範囲切除の拡大手術が原則であり,これが広く行われ治療効果を挙げてきた.しかし近年,早期胃癌頻度が上昇し胃癌手術例の半数以上を占めるに及んで,従来の画一的な拡大手術の是非が見直されるようになり,それが結局は患者のQOLを考慮した手術を選択するということになったのである.従来は,癌の治療はまず根治性を優先し,これを施行した結果発現する種々の後遺症や愁訴は癌根治のために払われる代償としてやむを得ないものとされてきた.しかし,近年の術前診断の進歩と従来からの膨大な胃癌症例についての臨床病理学的分析データより,癌進展を正確に知ることができ,癌の進展に応じた適正な手術が可能となった.それがtype oriented surgeryの基本的概念になり,早期胃癌には縮小手術を行い,進行胃癌には必要に応じた拡大手術,場合によっては腹部大動脈周囲リンパ節郭清など従来以上の範囲の郭清まで行われるようになった.その基本には手術手技の習熟と進歩,周術期管理の向上が関与していることはいうまでもない.
 われわれの胃癌の外科治療の方針は症例に応じたtype oriented therapyを選択することが原則であり,対象症例の癌の進展に応じた胃の切除範囲,リンパ節郭清範囲を決め施行しているが,その根底には胃癌の進展についての十分な知識が必要である.

(3)大阪府立成人病センター外科

著者: 古河洋 ,   平塚正弘 ,   岩永剛 ,   今岡真義 ,   亀山雅男 ,   中森正二

ページ範囲:P.58 - P.63

 胃癌の外科的治療成績が向上してきたのは早期胃癌の診断に負うところが大きく,進行度別の治療成績はゆるやかな向上,または不変といったところである.このような状況を打開するために,まずStage Ⅳ(胃癌取扱い規約第11版)には術前化学療法や術中抗癌剤腹腔内投与などを試み,Stage Ⅱ-Ⅲに対しては,より有効な併用療法を行っている.手術法においても,スキルス胃癌に対する拡大手術(左上腹内臓全摘術)をはじめ,進行胃癌に対する拡大リンパ節郭清(D3-4)を積極的に行っている.
 一方,早期胃癌に対しては,すでに2,000例近くの経験から,転移がまずないと思われる症例を選び出し,内視鏡切除を行っている.また,内視鏡切除が困難,あるいは適応外の早期胃癌に対しては外科的縮小手術を行っている.
 このように,ほぼすべての胃癌症例に対し,何らかの試みが行われており,その臨床面での複雑さとともに,新しい時代にマッチした,患者に対する適切なインフォームド・コンセントが必要になっている.私たちの施設における胃癌治療に対する考え方を示すとともに,患者に対する情報の開示についての努力も述べたい.

(4)癌研究会附属病院外科

著者: 太田惠一朗 ,   中島聰総 ,   大山繁和 ,   石原省 ,   西満正

ページ範囲:P.64 - P.72

 胃癌治療の原則は根治手術である.根治手術とは,ある程度進行した癌に対しても完全治癒を目指して,原発巣を除去し広範囲のリンパ節を郭清することを意味している.今日,胃癌の治療の対象は,約半数が早期胃癌となっている.早期胃癌は約9割が根治,すなわち完治できるのが現状である.しかし,一方で,極度に進行した症例に出会うこともまれならずある.
 外科手術手技が進歩し,周術期管理の発展に伴い,胃癌に対しては徹底した拡大根治術が可能となり,術式自体は完成されたといって過言ではない.これからは,根治性,安全性,軽愁訴,機能温存などを十分に考慮して,個々の症例の進行程度に応じた,不十分でもやりすぎでもない“適正手術”を行っていかなければならない(図1)1).そのためには,癌の部位,肉眼癌型,組織型,癌の広がり,深達度,壁外進展などを正確に把握し,全身所見の十分な理解が必要である.

(5)愛知県がんセンター消化器外科

著者: 山村義孝 ,   紀藤毅

ページ範囲:P.74 - P.81

 胃癌は日本人にとって最もポピュラーな悪性腫瘍であり,日本全国どこへ行っても,世界最高レベルの治療を受けることができる.しかし一口に胃癌といってもその病態は様々であり,すべての症例に対して同一の治療ということはあり得ない.“胃癌の生物学的特性に基づいた合理的な治療”が要求され,それを目指して多くの努力が払われつつあるが,これは簡単にできることではない.
 今回は,当院における胃癌患昔の流れ(胃癌治療のプロトコール)とそれぞれの分岐点における治療方針を紹介することで,“胃癌の生物学的特性に基づいた合理的な治療”とはどのようなものかについて,私どもの考え方を述べることにした.
 当院における胃癌の診断から治療までの大雑把な流れを図1に示した.これは当院独自のものではなく,現在の本邦における胃癌治療の主流でもある.以下,この流れの方向に従い,その各分岐点における治療方針を紹介する.
 なお,用語は胃癌取扱い規約1)に従った.

Ⅲ.大腸癌治療のプロトコール

(1)東京大学医学部第1外科

著者: 洲之内広紀 ,   沢田俊夫 ,   斉藤幸夫 ,   武藤徹一郎

ページ範囲:P.83 - P.91

 大腸癌治療の原則は癌の根治と機能温存を両立させ,患者の生活の質(QOL)を高めることである.しかし,患者のQOLのみに重点をおいて癌の根治性を失ってはならないことは明らかである.

(2)奈良県立医科大学第1外科

著者: 山本克彦 ,   中野博重 ,   藤井久男

ページ範囲:P.92 - P.98

 近年,大腸癌は増加の一途をたどり,21世紀には胃癌を逆転するといわれている.それゆえ,大腸癌に対する関心も高まり,集団健診も精力的に行われるようになってきた.それに伴って,いろいろなケースに対応するべく.手術を含めたスケジュールが重要となる.ここにわれわれ奈良県立医科大学第1外科で,日常行っている大腸癌に対する治療スケジュールについて系統的に述べる.

(3)神戸市立中央市民病院第1外科

著者: 梶原建熈 ,   藤家悟 ,   福原稔之 ,   橋本隆 ,   小西豊 ,   谷友彦

ページ範囲:P.99 - P.105

 近年,大腸癌は増加の傾向にあるが,さらに大腸内視鏡診断の普遍化に伴い,外科的対象となる早期大腸癌が重要な地位を占めつつある.その一方で,進行大腸癌の頻度も高く,また,ほかの癌の場合と比べ,大腸癌の肝転移巣に対する外科的切除成績が比較的良好であることから,病期による手術術式の選択と転移性肝癌に対する積極的な術式の導入が望まれている.本稿では,地域基幹病院としての当施設における実践的な大腸癌治療の流れをフローチャートに従い提示したい.

(4)癌研究会附属病院消化器外科

著者: 太田博俊 ,   上野雅資 ,   関誠 ,   中野聡子 ,   中島聰総 ,   西満正

ページ範囲:P.106 - P.111

 大腸は右側壁にある盲腸から直腸までをいうが,肛門管や虫垂をも含めた腸管にできる癌治療に当たっては,その占居部位によって,また主病巣の進行度によって大きく違ってくる.癌の状態を正確に把握し,初期の小さな癌であれば,内視鏡切除し,深く進行し,隣接臓器に浸潤していれば根治を目指し,他臓器合併切除をし,局所再発を極力防止した術式を選択している.本稿ではわれわれが最近行っている治療のプロトコールを示し(図1,表1),大腸癌に対するわれわれの治療方針を紹介する.なお病巣所見の表現,進行度,stage分類などは大腸癌取扱い規約に準拠した.

(5)埼玉県立がんセンター腹部外科

著者: 関根毅 ,   真船健一

ページ範囲:P.112 - P.118

 近年,大腸癌の増加とともに,診断技術の進歩により,早期癌をはじめとする比較的早期の癌も発見されるようになってきている.一方,外科的治療において,治癒切除症例の増加,術後のフォローアップ,さらに術後の補助化学療法をはじめとする集学的治療により,大腸癌の治療成績は向上してきている1-10).最近,癌治療,特に癌手術においては,手術による癌の根治性とQOLからみた機能温存が重視3-10)されるようになり,この観点から,著者らは大腸癌の治療において結腸癌と直腸癌に分けて手術適応と手術術式を検討している.
 本稿では,著者らの施設における大腸癌に対する手術を中心とした外科的治療のフローチャートを示し,治療方針について述べてみたい.

Ⅳ.肝癌治療のプロトコール

(1)旭川医科大学第2外科

著者: 葛西眞一 ,   紀野修一 ,   水戸迪郎

ページ範囲:P.121 - P.127

 現在,肝癌に対しては,手術,肝動脈塞栓術(TAE),経皮経肝的エタノール注入療法(PEIT),動注療法,マイクロ波凝固壊死療法など各種の治療手段を選択しうる.これら治療手段のうち,手術は,癌病巣を取り除くことが可能な唯一の治療法である.1977年に当科が開設されて以来15年間の肝癌治療成績を示す(図1).この期間に当科で治療した231例の肝癌症例中,消息不明38例を除く194例を対象とし,治療経過中に選択された治療手段別の累積生存率を示している.治療経過中に肝切除術が施行された症例は74例,TAEは75例,動注は85例,肝動脈結紮術は26例であった(総数が194例にならないのは,治療経過中に複数の治療手段を施行された症例があるため).肝予備力や癌の進展程度などの背景因子を考慮していないので,この成績から治療手段の優劣はつけがたいが,少なくとも肝切除を選択できた症例の予後は良好であるといえる.このように,当科では肝癌患者を前にしたとき,まず肝切除の可能性を考える.
 しかしながら,わが国の肝癌患者は,その約8割に慢性肝炎,肝硬変などを合併しており,全例において,術後の肝不全や術後QOLの低下などを引き起こすことなしに,根治的に癌を切除しうるとは限らない.そのため,肝癌の手術においては,術後の肝障害が最小限になるように,術前の肝機能(肝予備力)を的確に評価する必要がある.

(2)秋田大学医学部第1外科

著者: 佐藤泰彦 ,   浅沼義博 ,   小山研二

ページ範囲:P.128 - P.131

 肝細胞癌の多くは慢性肝炎あるいは肝硬変を合併しているため,過剰な切除に基づく過大侵襲による術後肝不全を招く一方,それを恐れるための切除範囲の縮小により,残肝再発の危険性を高める.最も重要なことは残肝予備能を的確に判断できる指標を確立することであり,各施設で様々な基準が提唱されているものの,コンセンサスは得られていない.
 一般にsurgical riskの判定は多くは経験に基づく.すなわち,その施設の症例の数と質,手術手技の熟練度,術後管理の巧拙などに依存するものである.当然,各施設の治療に対するプロトコールも各施設の経験の蓄積により,変貌していくものであり,これらを他施設にそのまま適用することは危険である.
 本稿では以上の点をふまえた上で,秋田大学第1外科の現在の肝細胞癌に対する治療プロトコールを紹介したい.

(3)京都大学医学部第2外科

著者: 田中明 ,   高田泰次 ,   山本雄造 ,   猪飼伊和夫 ,   森本泰介 ,   山岡義生

ページ範囲:P.132 - P.138

 本邦における肝癌患者の約80%に対し内科的治療が行われており,残りの20%に外科治療が行われているとされている.外科切除は限られた患者に対する治療ではあるが,その基本は,肝癌の進展,肝癌の局在,肝機能,肝切除量を考慮に入れ,術後肝不全をきたすことなく治癒切除を目標とすることにある.stage Iで治癒切除を行ったときは良好な結果が得られるが,治癒切除の全体からみると再発率は5生率で約50%と報告されている1).その再発をいかに低下させ,防止するか,再発した場合治療をどうするかが課題となる.一方,診断のついた時点ですでに治癒切除は期待できない症例も多くあり,これらの症例に対し,非治癒肝切除,肝動脈塞栓術(TAE),アルコール注入療法(PEI)を組み合わせ生存率を向上させることが課題となるが,われわれの教室では古典的外科切除の対象とならない進行癌に対しても積極的に外科治療に取り組み,QOLの改善,延命を計っている.
 肝癌に対する肝移植による治療は成績が不良であり,ドナー不足を考慮すると,脳死肝移植の適応とは容認されにくい.しかし,腹水,黄疸,肝性脳症を伴う肝硬変末期に小さな孤立性の肝癌が併発している場合は,肝硬変,肝癌に対する治療として,肝臓移植は適応となると考えられる.

(4)県西部浜松医療センター外科

著者: 内村正幸 ,   脇愼治 ,   木田栄郎 ,   甲斐信博

ページ範囲:P.139 - P.145

 ここ数年,超音波検査を主体とした画像診断の進歩と普及は,肝癌の診断をより正確に一歩前進させている.しかし,その治療成績をみると,依然として胃癌や大腸癌など他の消化器癌に比較して不良である.その第1の要因は宿主側にあり,これが合併する肝硬変であることに異論を唱えるものはいない.本邦における原発性肝癌追跡調査での肝硬変合併率は78%ときわめて高率である.この肝硬変の合併は,肝癌の外科治療において,過剰肝切除に基づく肝不全を招き,一方では,それを回避すべく切除範囲の縮小を余儀なく迫られ,残肝再発を高めるという癌治療のジレンマが存在する.また,肝硬変に合併する食道静脈瘤,胃潰瘍は合併疾患としての発生率が高く,山中ら1)によると,肝癌に合併した食道静脈瘤は14.5%,消化性潰瘍は20.0%である.第2の要因は腫瘍側の問題である.これは,肝臓癌の場合,門脈経由肝内転移が高率に存在することである.多中心性発育を特徴とする一面,肉眼的に治癒切除が行われていても残存肝の再発の頻度は高く,その大半が肝内転移と推定される.以上の観点から,原発性肝癌の外科的治療に際しては,肝機能を中心とした手術危険度の判定と形態面からみた腫瘍進展度に基づく治療法の選択が必要となる.
 今回,自験原発性肝癌治療のプロトコールを紹介し,その成績と対策を述べる.

(5)国立がんセンター中央病院外科

著者: 佐野力 ,   山崎晋 ,   小菅智男 ,   高山忠利 ,   山本順司 ,   島田和明 ,   井上和人

ページ範囲:P.146 - P.152

 当科では,肝臓癌に対して手術を主体とした治療を行っている.わが国の肝臓癌は,障害肝に発生することがほとんどであり,癌の解剖学的状況と同時に,肝機能を正確に把握して,手術適応と手術術式を決定することが大切である.また,病気の特性上再発率が高いが,再発に対しても,積極的に再切除を試みている.
 本稿では,当科における肝臓癌治療の基本方針について述べる.

Ⅴ.胆管癌治療のプロトコール

(1)名古屋大学医学部第1外科

著者: 梛野正人 ,   二村雄次

ページ範囲:P.153 - P.158

 教室における胆管癌治療の基本原則は,正確な癌の進展度診断に基づいた徹底的かつ合理的な手術療法を行うことにある.胆管癌に対する免疫化学療法や放射線治療の意義は科学的に確認されておらず,手術療法をなおざりにした名ばかりの集学的治療1)に安易に頼るべきではない.本稿では教室の胆管癌治療のプロトコールについて解説を行う(図).

(2)兵庫医科大学第1外科

著者: 山中若樹 ,   岡本英三 ,   安井智明 ,   田中渉 ,   安藤達也

ページ範囲:P.159 - P.166

 胆管癌は,発生部位の解剖学的および臨床病理学的面からみて外科治療が困難な疾患の1つである.近年,各腫画像診断技術が著しい進歩を遂げているにもかかわらず,早期胆管癌が発見されることは少なく,他の消化器癌に比べ治療成績は不良である.肝切除術に加え脈管再建を行うことにより胆管癌の切除率は向上したが,たとえ拡大手術が行われても非治癒切除となったり,術後合併症も多い.われわれは,腫瘍進行度と宿主背景を合わせて治療方針を決定していく一方,非治癒切除例や切除不能例に対して,患者のQOL(quality of life)を考慮しinterventional radiologyの技術を含めた集学的治療を行っている(図1).

(3)国立がんセンター東病院外科

著者: 竜崇正 ,   木下平 ,   小西大 ,   河野至明 ,   新井仁秀 ,   谷崎裕志 ,   趙明浩

ページ範囲:P.167 - P.172

 胆管癌は局所を中心として進展する癌であり,遠隔転移は比較的少ないとされる.このため,予後は癌の進展のみならず黄疸や胆管炎に左右される.われわれは,治療の主体は局所をいかに制御するかであると考え,肝切除や血管合併切除を併施して積極的に対応している.また,有効な局所療法である術中照射,体外照射,胆管腔内照射などを手術の補助療法もしくは切除不能例の治療に積極的に応用している.効果がありかつ延命に寄与する化学療法は現在のところないので,切除不能例や再発例で患者が希望する以外には化学療法は行わない方針としている.本稿では,われわれが実際に行っている胆管癌治療プロトコールについて述べる.

Ⅵ.胆嚢癌治療のプロトコール

(1)新潟大学医学部第1外科

著者: 塚田一博 ,   畠山勝義 ,   黒崎功

ページ範囲:P.173 - P.178

 当科では胆嚢限局型進行癌を対象に標準手術を設定している.この標準手術は腫瘍の進展に合わせ術中に拡大,縮小が比較的容易に行えるメリットがある.本稿では最近の胆嚢癌に対する標準手術を中心とした外科治療のフローチャートを示し(図1),この過程をたどりながら当科の胆嚢癌治療におけるストラテジーを紹介したい.なお,stage分類には TNM 分類を,また病巣所見の表現には胆道癌取扱い規約を適宜使用した.

(2)杏林大学医学部第1外科

著者: 新川定 ,   跡見裕

ページ範囲:P.179 - P.184

 胆嚢癌は近年の各種検査法,特に画像診断技術の進歩により比較的早期に発見されるようになり,術前の診断率も確実に向上してきている.しかし,進行癌の症例が多く,その治療成績は決して満足いくものではなく,各施設ごとにさまざまな方針に基づいた手術療法が行われているのが現状である.教室でも胆嚢癌の進行度,特に進展様式に応じた術式を選択している.本稿では最近の教室における胆嚢癌に対する治療方針,特に手術々式を中心としたプロトコールを紹介する.

(3)国立病院四国がんセンター外科

著者: 横山伸二 ,   高嶋成光

ページ範囲:P.185 - P.192

 胆嚢癌の治療成績は未だ不良であり,その治療法も施設間により異なっているのが現状である.本稿では,当科におけるインフォームド・コンセントを含めた治療方針をフローチャートに沿って具体的に呈示しながら(図1),一部その治療体系に至った背景について述べる.なお,Stage分類,病巣所見の記載は胆道癌取扱い規約によった.

Ⅶ.膵癌治療のプロトコール

(1)東北大学医学部第1外科

著者: 松野正紀 ,   遊佐透 ,   島村弘宗 ,   砂村眞琴 ,   小針雅男

ページ範囲:P.193 - P.198

 わが国の膵癌の発生頻度は10万人あたり,1960年1.8人,1985年5.2人,1991年10.9人と近年増加傾向にあり,しかもその切除率と予後は消化器癌のなかで最も悪いものの1つである1).その理由としては,診断時にはすでに進行癌の症例が多いこと,たとえ小膵癌であっても転移を伴うなど早期癌とはいえないこと,切除可能であっても術後再発率が高いことなどが挙げられる.そのため,膵癌に対しては切除範囲の拡大など外科的療法のみでは現在以上の予後の改善は期待できず,切除例も含めて放射線治療,化学療法,免疫療法などを併施する集学的治療が必要である.本稿では,教室で行っている膵癌に対する集学的治療のプロトコールを紹介する.

(2)東京女子医科大学附属消化器病センター外科

著者: 羽生富士夫 ,   羽鳥隆 ,   今泉俊秀 ,   中迫利明 ,   原田信比古 ,   小澤文明

ページ範囲:P.199 - P.203

 最近の各種画像診断の進歩により膵癌の診断技術は著しく向上し,比較的早期の小膵癌症例も散見されるようになってきているが,それでもなお大多数の症例は診断時すでに進行癌である.また,膵癌全国登録調査報告をみても,5年生存率は非切除例で1.6%,切除例で17.5%ときわめて不良といわざるをえないのが現状である1).現在の膵癌治療は外科的切除を軸に,放射線治療,各種抗癌剤や制癌剤を使用した化学療法,免疫療法などを併用した集学的治療が主として行われており,教室でも積極的に拡大手術を行い,膵癌外科治療成績の向上に邁進してきた結果,少数ではあるものの5年生存例が得られてきている2-4).本稿では,自験例を中心に膵癌(通常型浸潤性膵管癌)治療のプロトコールを述べることとする.

(3)山口大学医学部第1外科

著者: 江里健輔 ,   守田信義

ページ範囲:P.204 - P.209

 膵癌の切除率は画像診断および手術手技の進歩した現在においても低く,かつ予後は他の消化器癌に比し非常に不良である1).当科では切除率向上のために術中アンスロンチューブ®を用いてシャントを作製し,積極的に血管合併切除を施行している2).生存率向上のためには肝転移を防止することが必須と考え,術中,術後を通じ経門脈,経肝動脈的に化学療法を施行している.これらの方法を用いることにより良好な結果を得ることができた.また,切除不能症例に対しては疼痛を除去することができなければ患者のQOLは望めないと考え,除痛のため積極的に術中および体外照射を行っている.これらの過程を示しながら,当科における膵癌症例に対する術前,術中,術後のプロトコールを紹介する(図).

(4)栃木県立がんセンター外科

著者: 菱沼正一 ,   尾形佳郎

ページ範囲:P.210 - P.216

 われわれは,膵癌治療において集学的治療を重視し,予後の向上とともに患者のquality of life(QOL)の改善を目指すという基本姿勢で治療に臨んでいる.患者の状態が許す限り局所進行膵癌に対して外科的切除を試み,術中・術後照射を追加する方針をとっている.また,広範な後腹膜リンパ節・神経叢郭清と,必要があれば血管合併切除を行う一方で,根治性が損なわれない限り全胃温存術式を積極的に取り入れ,術後の栄養状態の改善とQOLの向上を目指している.当施設における膵癌の診断・治療から長期フォローアップまでをフローチャートに示した(図1).

Ⅷ.甲状腺癌治療のプロトコール

(1)信州大学医学部第2外科

著者: 菅谷昭 ,   小林信や ,   春日好雄 ,   増田裕行

ページ範囲:P.219 - P.225

 甲状腺に発生する悪性腫瘍は他臓器の固形腫瘍とやや趣を異にし,その病像はきわめて多彩である.なかでも,ホルモンの産生・分泌能を有する濾胞細胞や傍濾胞細胞(parafollicular cell:C cell)を発生母地とする甲状腺癌は,病理組織型や患者の年齢あるいは性別などの因子により,生物学的悪性度を含めた臨床病態に特徴的な差異を認め,それらは当然のことながら治療経過や予後に大きな影響を及ぼしている1).さらに,甲状腺の解剖学的位置関係より,その近隣には気管,上皮小体,反回神経,総頸動脈,内頸静脈,迷走神経,食道などの重要な器官が存在している.また,近年,臓器の機能温存や手術に伴う後遺症・合併症の予防,さらには美容上ならびにQOL(quality of life)の立場からみた外科療法の在り方などに関する論議も深まりつつある.したがって,このような状況を踏まえたうえで,甲状腺悪性腫瘍に対する治療を考える必要があり,本稿では教室における甲状腺癌の外科的治療を中心に,さらに治療方針に関連する種々の注意すべき問題点についても述べる.

(2)川崎医科大学内分泌・甲状腺外科

著者: 原田種一 ,   片桐誠

ページ範囲:P.226 - P.232

 甲状腺癌は,分化癌,髄様癌,未分化癌に大別されるが,それらの生物学的性質はまったくといっていいほど異なるため,それぞれに適応した手術法,治療法を選択する必要がある.また,同じ組織像を示す癌,例えば分化癌についても,その術式については片葉切除で十分とする意見と,全摘術をすすめる意見とがあり,必ずしも統一した見解はない.未分化癌,甲状腺原発の悪性リンパ腫の治療にしても,手術を適応とするものと,手術は行わず放射線治療のみで十分とする派がある.生物学的態度のまったく異なる各種の甲状腺癌を同一に論じることは到底不可能であるので,組織別に述べていきたい.図1〜4はそれぞれの癌治療に対するわれわれのフローチャートである.

(3)医療法人・野口病院

著者: 野口志郎

ページ範囲:P.233 - P.239

 甲状腺に発生する結節性(腫瘍性)の病変のうち悪性腫瘍は1/3〜1/4である.したがって,甲状腺に結節を見い出したときには,良性であるか悪性であるかの鑑別が重要である.甲状腺の悪性腫瘍の85%以上は,非常に増殖の遅い予後良好な乳頭癌である.つぎに多いのが乳頭癌と同じ甲状腺の濾胞細胞由来の濾胞癌である.これも増殖が非常に遅いものが多く,大部分の症例では予後は非常に良好である.しかし,術後早期に血行性転移を起こす例がまれにある。この2つを合わせて分化癌と呼ぶこともある.これに比較して,傍濾胞細胞由来の髄様癌と未分化癌は生物学的な性質が著しく違うので,術前に少なくともこれらのうちのどれであるかをはっきりさせておく必要がある.未分化癌は非常に増殖が早く,予後はきわめて悪い.甲状腺癌の治療は第一に外科的に完全に切除すること,つぎに,切除が不十分な部分があるかも知れないと予想されるときには放射線外照射を行うことにより完治を目指す.大部分の症例ではそれが可能である.術前照射は行わない.

Ⅸ.乳癌治療のプロトコール

(1)福島県立医科大学第2外科

著者: 浦住幸治郎 ,   阿部力哉 ,   君島伊造

ページ範囲:P.241 - P.246

 1970年代になって,Halsted以来の定型的乳房切除は過大な手術と考えられて次第に減少し,代わって非定型手術が行われるようになった.その後,早期乳癌発見の機会が増加したこと,さらには乳癌に対する生物学的考え方の変化1,2)などがあって,わが国においても原発乳癌に対する手術法に大きな変化がもたらされた.そして,1980年以降,欧米では早期乳癌に対して乳房温存手術が施行されるようになり,1990年代に入ってからわが国でも乳房温存手術の割合が増加してきている.当科においても,最近は非定型手術以下の縮小手術の割合がほとんどすべてを占めるようになっている.本稿においては,当科における原発乳癌に対する治療の実際とその背景となっている考えを述べる.

(2)東海大学医学部第2外科

著者: 徳田裕 ,   田島知郎 ,   奥村輝 ,   太田正敏 ,   久保田光博 ,   三富利夫

ページ範囲:P.247 - P.251

 当施設における乳癌治療の基本方針は,limited diseaseの段階にあるものについてはQOLを第一に考えて手術療法を計画していく 一方,systemic diseaseに対しては集学的な治療戦略で臨み,手術療法はその一環としてとらえている.私どもは従来より,進行乳癌症例,再発乳癌症例,さらには術後症例に対して自己造血幹細胞移植を併用した大量化学療法を治療戦略に組み入れてきたが1),欧米でも多数のpilot studyがなされ2),現在,標準的治療とのprospectiveな比較試験が行われている.したがって,当施設での乳癌治療のプロトコールはトライアルの要素を多分に含んでいる.limited diseaseであるのかsystemic diseaseであるのかの判断は,今後の詳細な予後因子解析の結果を待つ必要があり,本稿ではTNM臨床病期にもとついて当施設での治療方針を紹介する.

(3)神奈川県立がんセンター外科第2科 同 形成外科

著者: 河原悟 ,   吉田明 ,   青木文彦

ページ範囲:P.252 - P.258

 乳癌診療の技術的進歩に伴い手術法は縮小化され,非定型的乳房切除術がその主座を占めるようになってすでに久しい.さらに,最近では乳癌に対する新しい考え方から乳房を切除しない温存療法が盛んに試みられている.また,乳癌は発病後の早い時期から全身病であるという考えから,全身的治療である薬物療法の併用が不可欠となっている1).そして,かっては癌根治性の追求のために犠牲にされていたQOL(quality of life)は,現在では治療目標の一環として重要である.特に乳癌治療においては,術後,胸部の整容,精神的な問題などQOLに関しては課題が多い.しかし,このような集学的治療の効果を科学的に正確に評価するためには,大規模な前向き(prospective)臨床試験が行われねばならない.乳房温存療法には常に乳癌の多中心性発生と乳管内進展のリスクがつきまとう.実際,臨床上,外科医本来の立場として術後の局所再発をみるのはつらいことである.本稿では,与えられた主題「乳癌治療のプロトコール」について,われわれの臨床的見解を述べたい.

Ⅹ.肺癌治療のプロトコール

(1)東北大学加齢医学研究所附属病院外科

著者: 佐藤雅美 ,   斎藤泰紀 ,   近藤丘 ,   谷田達男 ,   藤村重文

ページ範囲:P.261 - P.269

 本稿において扱う当科の肺癌治療のプロトコールは,治療効果が確立された一般的な標準治療のプロトコールと,未だ治療効果に関しては研究の領域にあるclinical trialが含まれる.clinical trialには,①ほかに最もよいと思われる治療法がないが,現在までの成績では良好な成績が確認しえないもの,あるいは若干の改善が期待されるが検証中のもの,②早期肺癌に対する区域切除術のように良好な成績が期待できるが,現在,効果が検証作業中のもの,などが含まれる.症例ごとの適応に関しては,標準的治療かclinical trialかに分けて考える必要があると思われる.表1にこれらを示す.一方,肺癌患者の治療法を決定するには,肺癌のbiologicalbehaviorからの諸因予と,機能的に耐術可能かを同時に評価しなくてはならない.したがって,実際の治療法決定はこの両者を考慮したうえで行われる.

(2)千葉大学医学部附属肺癌研究施設外科

著者: 山口豊 ,   鈴木洋人

ページ範囲:P.270 - P.276

 癌の治療では,外科療法,放射線治療,化学療法,いわゆる免疫療法といった4つの治療法が単独あるいは組み合わされて行われている.肺癌においては,組織型,進行度により治療法が異なってくる.本稿では,われわれの施設における外科療法を中心とした肺癌に対する治療方針について述べる(図1).

(3)東京医科大学第1外科

著者: 加藤治文 ,   高橋秀暢 ,   斎藤誠 ,   斎藤雄二 ,   平良修 ,   石井正憲

ページ範囲:P.277 - P.283

 肺癌による死亡数は年々増加し,1994年6月には男性で遂に胃癌を抜き全癌死の第1位となったことがマスコミによって大きく報道された.当科においても,新たに肺癌と診断される患者教は年間200数十名と増加しつつあり,そのうち約半数が手術の対象となっている.肺癌の組織型のうち約80%を占める非小細胞肺癌は,化学療法や放射線治療に対する感受性が一般的に低く,切除不能な場合にはその生存中央値は約10か月,2生率で約10%と決定してしまい,長期生存は望めないのが現状である2).したがって,非小細胞肺癌に対しては,可能な限り手術を中心とした集学的治療法が行えるように配慮している,一方,小細胞肺癌は早期に遠隔転移をきたすため全身病と認識される.しかし,化学療法や放射線治療に感受性が高く,治療の中心は化学療法であるが,限られた症例では手術もその補助的な治療方法の一手段となり得ると考えている.本稿では,当科における手術を中心とした非小細胞肺癌治療のストラテジーについて述べる.

(4)国立病院九州がんセンター呼吸器部

著者: 矢野篤次郎 ,   一瀬幸人

ページ範囲:P.284 - P.288

 肺癌治療は,基本的には臨床病期と組織型(小細胞癌か非小細胞癌か)の診断を行い,Ⅰ〜ⅢA期の非小細胞癌に対しては外科切除を,小細胞癌に対しては化学療法を中心とした集学的治療(I期例には外科切除も適応)を選択する.それ以外はすべてトライアルの域を出ないと考える.すなわち,当科ではこれまでに20年を越える肺癌診療の実績を持っているが,その間,免疫療法に主体を置いた時期や化学療法に主体を置いた時期などいろいろと治療法の変遷はあったものの,結局,結論は以上のとおりであった.よって,本稿で述べる内容は現在試行中の診療法が多く含まれている.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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