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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科49巻2号

1994年02月発行

雑誌目次

特集 上部消化管の術後運動機能評価と病態

食道癌術後再建胃管の運動機能評価と病態

著者: 大森浩明 ,   旭博史 ,   石田薫 ,   斎藤和好

ページ範囲:P.145 - P.154

 食道癌術後のQOLを考慮した術式を検討する目的で,本邦で頻用されている再建胃管の機能を運動機能と幽門部付加手術,分泌機能と十二指腸胃逆流の両面から評価し,胃管における術後障害の病態解明を試みた.教室で行った24時間胃管内圧測定の検討から,術後2か月で不完全ではあるがphase III様の強収縮が観察され,胃運動の回復が示唆された.しかし,迷切胃,横切胃では幽門形成の有無にかかわらず正常機能を有せず,容易に排出遅延をきたしやすい状況が予想されたが,幽門部付加手術の有無では胃排出能に差がみられなかった.また,幽門部付加手術により十二指腸胃逆流が惹起され,胃粘膜抵抗の減弱が認められた.慢性的な十二指腸液逆流と胃管癌の密接な関係を考慮すると,長期生存が期待される症例では幽門部付加手術を併施する必要性は少ないと思われた.

食道アカラシア術後の食道運動機能評価と病態

著者: 今津嘉宏 ,   安藤暢敏 ,   小澤壮治 ,   佐藤道夫 ,   諏訪達人 ,   三木浩栄 ,   北島政樹

ページ範囲:P.157 - P.162

 食道アカラシアに対する手術の目的は,通過障害の改善と同時に,逆流防止機構の保持という相反する機能をもたせることである.Jekler&Lhotka法により,術前の形態および拡張の程度にかかわらず,いずれの症例においても術後に下部食道昇圧帯圧(LESP)および食道静止圧(RP)の低下と下部食道昇圧帯の幅(LESL)の延長が認められた.術後食道の機能が回復するか否かを食道陽性波発現型式の観点からより詳細に検討した結果,手術により伝搬機能の回復が期待し得ることが確認できた.また,術後24時間pHモニタリングにより,逆流防止機構が十分働いていることも確認できた.

食道裂孔ヘルニア術後の食道運動機能評価と病態

著者: 村上卓夫 ,   丹黒章 ,   林弘人 ,   草薙洋 ,   佐伯俊宏 ,   鶴見征志 ,   阿部俊弘

ページ範囲:P.165 - P.172

 噴門括約機構は,下部食道括約筋(LES),Willis胃斜走筋,横隔食道靱帯などにより構成され,このうちLES,Willis胃斜走筋が逆流防止に重要な働きをしている.噴門が横隔膜上に逸脱する食道裂孔ヘルニアでは,これら括約機構の協調性が失われ,内圧上は高圧帯の圧低下,幅の延長となって現われ,胃および十二指腸内容物が食道内に逆流し,逆流性食道炎を惹起する.犬ヘルニアモデルによる実験により,ヘルニア術式のうちNissen法が優れていることが示唆された.われわれの行っているNissen変法術後には,内圧上も逆流防止に十分な高圧帯の形成と,しっかりとした嚥下波の伝導を認めた.24時間pH測定でも逆流はほとんど認めず,臨床症状も著明に改善していた.

胃切除術後の食道運動機能評価と病態

著者: 中村正徳 ,   河野辰幸 ,   遠藤光夫

ページ範囲:P.175 - P.180

 胃の切除術後に,食道逆流や逆流性食道炎が発生する場合がある.その発生には,逆流防止機構としての下部食道括約部の機能,食道のクリアランス,攻撃因子としての食道粘膜障害性消化液の質と量,食道粘膜固有の組織抵抗性など,多くの因子が関与するものと考えられる.特に下部食道昇圧帯の機能低下と胆汁や膵液の逆流(アルカリ逆流)は重要であり,これらの病態や発生機序を理解することにより,的確な予防的処置や治療が可能となる.

胃切除術後の残胃および十二指腸運動機能評価と病態

著者: 金泉年郁 ,   中野博重 ,   朴秀一

ページ範囲:P.183 - P.192

 リンパ節郭清を伴う広範囲胃切除術では,gastro-pyloro-duodenal co-ordinationがなくなり,残胃に蠕動収縮が生じにくいことから,排出は重力の影響を受け,食後早期の急速排出と不消化物の遺残によるmucous ball形成の潜在性という2面性をもつ.幽門保存胃切除術では,迷走神経切離の有無にかかわらずgastro-pyloro-duodenal co-ordinationが保持され,急速排出が防止されるが,残胃に蠕動収縮は出現しにくく,mucous ball形成の危惧がある.分節的胃切除術では,幽門洞部に異常興奮が生じるため,排出障害防止のため幽門ドレナージが必要であり,選択的胃迷切兼幽門洞切除術では,大きな残胃に機能低下が出現するため排出障害が生じやすい.

胃切除術後の胆嚢,胆道運動機能評価と病態

著者: 佐々木巌 ,   内藤広郎 ,   柴田近 ,   伊勢秀雄 ,   松野正紀

ページ範囲:P.195 - P.202

 胃切除術後胆石症は最近注目されている疾患であり,教室での発生頻度は18.9%とわが国の胆石保有率の約2倍と高率であった.これらの病態には胃手術後に発生する胆道運動機能障害が重要な要因であると考えられるが,これらは胆汁組成の変化,胆嚢運動およびOddi筋運動障害とに分けることができる.最近,山里らは,幽門近傍の胃および十二指腸が壁内神経の非アドレナリン性ニューロンを介したOddi筋の弛緩作用調節機構の存在を示唆している.教室での実験的成績では,従来の遠位側胃切除術(B−1)に比べて,十二指腸が切離されない幽門保存胃切除術のほうが胆道運動の面からもより生理的術式であると考えられ,彼らの成績を裏づける成績が得られている.

胃切除術後の小腸運動機能評価と病態

著者: 佐藤賢治 ,   松尾仁之 ,   島影尚弘 ,   田宮洋一 ,   畠山勝義 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.205 - P.214

 胃切除後では,つかえ,もたれ,腹痛などの様々な愁訴がみられる.こうした術後愁訴の病態を運動生理学的に解明しようとする研究が進んできている.古くから漿膜筋電図やstrain gage force transducerを用いた実験的検討がなされてきたが,近年のME技術の発達から,腸管内圧測定,scintigram,経皮的胃電図などの臨床応用が急速に進歩している.しかし,病態生理の把握はまだまだ十分とはいえず,各測定法の利点や欠点,さらには限界も存在する.今後も適切な手段を選択したうえで症例を蓄積し,正確な病態の把握,ひいては愁訴の改善を図る必要がある.

カラーグラフ シリーズ・新しい内視鏡治療・18

胸腔鏡下縦隔腫瘍摘出術

著者: 立石雅宏 ,   濱武基陽 ,   福山康朗 ,   神殿哲 ,   石田照佳 ,   杉町圭蔵

ページ範囲:P.139 - P.142

 はじめに
 現在の外科療法は拡大手術の見直しの時期にきており,根治性を損なわないものであれば,美容的あるいは機能的にも,より障害が少ない手術が選択されるようになってきた.
 腹腔鏡下胆嚢摘出術の普及により,ビデオ内視鏡下手術に使用される器具の発達は顕著であり,ほぼ同じ器具が胸腔鏡下手術にも応用できることも相俟って1),呼吸器外科領域の手術にも内視鏡下手術が積極的に取り入れられるようになった.術式として,ブレブ切除術2-4),肺楔状切除術5),肺葉切除術6),胸壁腫瘍切除術7),縦隔腫瘍摘出術8)などが報告されている.これらのなかで,縦隔腫瘍は多岐の腫瘍があらゆる年齢層にみられる疾患である.大部分は嚢腫や良性腫瘍であるが9),周囲臓器への圧迫や穿破,悪性腫瘍の可能性10)により従来は開胸による手術が行われていたが,今後は胸腔鏡下腫瘍摘出術が増加すると思われる.

病院めぐり

社会保険横浜中央病院外科/東京警察病院外科

著者: 仁木基裕

ページ範囲:P.216 - P.217

 社会保険横浜中央病院は,全国社会保険協会連合会傘下の病院で,昭和23年に横浜市山下町に創設されました.病床数350床の総合病院で,診療科13科.医師数53名を擁し,日常診療はもとより,地域医療の一端として健康管理センターでは健診が行われ,また24時間の救急医療体制が敷かれています.
 病院は横浜市の中央部に位置し“みなとみらい”都市計画で近代化が進む一方で,中華街,山下公園,関内など異国情緒の漂う街並みの一郭にあり,独特の風情を醸し出しています.

外科研修医実践講座・8

胸腹部外傷の診断と処置

著者: 笹壁弘嗣 ,   門田俊夫

ページ範囲:P.219 - P.223

 外傷治療の背景
 “救えたはずの命”という過ちをなくすため,外傷医療は病院外を含めて役割分担をはっきりさせ,組織化される必要がある.受傷直後の死亡は予防以外にないが,搬送後早期の死亡は治療可能な出血死によることが多い.“救えたはずの命”の多くがここに含まれる.これをいかに減らすことができるかが,外傷医療の組織化の意義である.搬送数日後からの死亡は,敗血症と多臓器不全によるものが80%を占める.この死亡を減らすことが真の外傷学の意義である.

鴨川便り・2

医療の質の保証

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.224 - P.225

 私の鴨川行を決定的にしたのは,亀田病院でクリニカルインディケーターを実施していることだった.私の知る限り日本でこれを実施している病院はここだけである.耳慣れぬ人が多いかもしれぬので,言葉の意味をまず説明しよう.そのためには,まず医療の質という問題から入らないとわからない.短い誌面で難しいことだが,できる限りの説明を試みることにする.
 アメリカから帰国して以来30年あまり,「医学教育」と「医療の質」の問題は常に私の関心の的であった.アメリカでこの領域の進んでいることに驚き,それに比べてわが国での悲惨なまでの立ち遅れを否応無く知らされたからである.その後,医学教育の改善にはかなりの進歩が見られるものの,後者の質の評価に関しては,わが国ではつい最近まで欠落していた分野といってよく,幼児の歩きに似た試みがやっと最近始まったばかりなのである,尚,ここで取り上げる医療の質とは,わが国の現行の保険点数の審査制度とはおよそ次元の異なるものであることを断わって置こう.

一般外科医のための医療材料カタログ・11

ストーマ用品

著者: 有我隆光 ,   尾崎正彦

ページ範囲:P.227 - P.229

 はじめに
 現在でも直腸切断,膀胱全摘などの手術の結果としてストーマを造設される患者は多く,その管理の優劣によりその人のQOLは大きく異なる.しかし,その管理の行いやすさを大きく左右するのはストーマ造設の位置や形状(ストーマの高さ,腹膜外法)であり,外科医は現在のストーマ造設の原則について熟知していなければならない1).一方,その管理に用いる道具は種々開発され,現在では多くの製品が使用可能となっている.ストーマ用品の役割は,排泄物を収集する機能だけでなく,ストーマの保護と同時にストーマ周囲の皮膚をも持続的に保護することであるが,それぞれの特徴を把握し病態に合った製品を選択することで,多少のストーマに関する合併症は管理可能となってきている.今回はストーマ用品の概略について簡単に述べてみたい.

手術手技

腹腔鏡を用いた人工肛門造設の試み

著者: 池田陽一 ,   橋爪誠 ,   原口幸昭 ,   梶山潔 ,   鴻江俊治 ,   杉町圭蔵

ページ範囲:P.231 - P.233

 はじめに
 腹腔鏡下外科手術は,1989年にReddickら1)が胆嚢摘出術に応用して以来,その有用性が広く認められ急速に全世界に普及してきている.また,他の腹部外科領域においても積極的に利用されるようになり2-5),大腸においては腹腔鏡を用いたS字状結腸切除の試みをFowlerら6)が報告している.
 今回われわれは,切除不能癌により大腸閉塞症状を示した3症例に対して,腹腔鏡を用いた人工肛門造設術を試みたので報告する.

外頸動脈,内頸静脈を用いた遊離空腸移植下咽頭頸部食道再建術

著者: 磯谷正敏 ,   蜂須賀喜多男 ,   山口晃弘 ,   堀明洋 ,   前田正徳

ページ範囲:P.235 - P.238

 はじめに
 遊離空腸移植は,従来の胃管や結腸,空腸による有茎腸管を用いた下咽頭食道再建に比べ,これらの重要臓器を犠牲にして頸部まで挙上するという過大侵襲と煩雑さが避けられる利点がある.しかし,欠点としては血管吻合にマイクロサージャリーという特殊技術の修得が必要とされていた.これは,血行再建に利用される頸部の動脈に鎖骨下動脈の分枝が一般に用いられ,その外径が2〜3mmと細いためと考えられる.
 そこでわれわれは,移植床血管に直径が4〜5mmと大きい外頸動脈と,ドレナージ効果のよいように内頸静脈を用い,裸眼による血管吻合によって遊離空腸移植を試みた.この方法(以下,本法)は,マイクロサージャリーのトレーニングを受けていない一般消化器外科医にも安全に行うことができ,手術成績も良好であったので,特にその手術手技について報告する.

臨床報告

S状結腸憩室炎によるS状結腸膀胱瘻の2例

著者: 吉田禎宏 ,   中田昭愷 ,   斎藤恒雄 ,   今冨亨亮 ,   真鍋靖

ページ範囲:P.239 - P.242

 はじめに
 近年,大腸憩室症の増加に伴い,本邦では比較的まれな合併症とされていたS状結腸憩室炎に起因するS状結腸膀胱瘻も報告例が増加している.今回われわれは,S状結腸膀胱瘻の2例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

急性虫垂炎として手術した虫垂憩室病変の2例

著者: 内藤明広 ,   佐々木信義 ,   柴田和男 ,   丹羽篤朗 ,   大和俊信 ,   角岡秀彦

ページ範囲:P.243 - P.246

 はじめに
 虫垂憩室症は,欧米では多数の報告がみられるが,本邦での報告例は比較的まれである.今回われわれは,急性虫垂炎の術前診断で手術を行い,術中所見より虫垂憩室症と診断された2例を経験したので,本症の診断,治療方針につき若干の文献的考察を加え報告する.

経肛門的内視鏡下マイクロサージェリーにより直腸全層切除を追加したポリペクトミー断端陽性早期直腸癌の1例

著者: 広瀬宏一 ,   金平永二 ,   菊地誠 ,   林外史英 ,   牧野哲也 ,   奥田肇

ページ範囲:P.247 - P.249

 はじめに
 近年,早期大腸癌を内視鏡的切除にて治療する機会が急激に増加している.しかし,従来の内視鏡的切除法では,病変の大きさ,形態によっては切除不能あるいは不完全となる症例も多い.このような症例に対しては,当然,追加手術が必要である.しかし,癌腫の占居部位が直腸の場合,低位前方切除術や腹会陰式直腸切断術は侵襲が大きく術後のquality of life(以下,QOL)が損なわれる.経肛門的切除,経仙骨的切除,経括約筋的切除などは比較的侵襲が小さいが,視野不良,術後瘻孔形成の可能性など欠点も多い1,2)
 今回われわれは,ポリペクトミー施行後,断端陽性と判明した早期直腸癌に対し,Bueβ式直腸鏡を用いた経肛門的内視鏡下マイクロサージェリー(transanal endoscopic microsurgery:以下,TEM)にて追加切除を施行し,良好な結果を得たので報告する.

外科医の工夫

われわれが考案した改良型腹腔穿刺針とその特長

著者: 田中一郎 ,   藍田浩 ,   守屋仁布 ,   生沢啓芳 ,   金杉和男 ,   山口晋

ページ範囲:P.251 - P.253

 はじめに
 近年,腹部超音波検査やCT scanを中心とした画像診断技術の進歩に伴い,急性腹症,腹部外傷(特に腹部臓器損傷)の診断はより正確に行われるようになった.しかし,少量でも腹水がある場合には,より直接的な診断方法として腹水の吸引を行い,検査することが必要な場合がある.
 われわれは,臨床上,手術的治療か保存的治療かに迷い,かつ少量の腹水が認められる症例に対し,われわれが考案した改良型腹腔穿刺針を用い,超音波ガイド下に腹腔穿刺を施行したところ臨床上有用であったので,改良型腹腔穿刺針を紹介し,その特長を述べる.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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