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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科49巻6号

1994年06月発行

雑誌目次

特集 静脈系疾患診療の新しい展開

下肢静脈瘤

著者: 折井正博

ページ範囲:P.671 - P.678

 下肢静脈瘤に対する治療法として,最近,硬化療法が関心を集めている.硬化療法は手技的に容易で,誰にでもできる方法と考えられがちだが,ストリッピング手術と同等の根治性を求めるなら,それほど簡単なものではない.その患者の静脈瘤の成因を正確に診断し,病態に即した治療を行わないと,早期に再発をみることになりかねない.したがって,ストリッピング手術と硬化療法の両治療法を技術的に完全にマスターし,それぞれの長期経過も見定めたうえで,個々の患者に対する治療法を選択することが重要である.今後は,高位結紮あるいは選択的ストリッピングと,硬化療法を組み合わせた治療が有用となるであろう.

深部静脈血栓症

著者: 石丸新

ページ範囲:P.681 - P.686

 わが国においても,生活様式の変化や高齢化に伴い,外科手術後や妊娠分娩,また原因の確定できないものも含め,静脈系における血栓症の発生は増加する傾向にあることから,日常診療において念頭に置くべき疾患となっている.最近における血液凝固学的研究の進歩により,凝固阻止因子や線溶因子の先天性欠乏や欠損,また抗リン脂質抗体症候群など,特異的な血液凝固線溶異常による静脈血栓症が注目されており,詳細な検査および家族調査を施行して原因を同定する必要がある.深部静脈血栓症の治療原則は,原因疾患の発見とその治療および適切な薬物療法,あるいは徹底した術後抗血栓療法を前提とした外科治療であり,これによって慢性期の静脈還流不全による後遺症の発生を予防することが重要である.

抗リン脂質抗体症候群

著者: 堤明人 ,   小池隆夫

ページ範囲:P.687 - P.692

 抗リン脂質抗体症候群とは,血中の抗リン脂質抗体により動静脈に血栓症をきたし,多彩な症状を呈する疾患群である.全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患患者に多くみられるが,原発性のものもまれではない.動静脈血栓症のなかでは,下肢の深部静脈血栓症が最も多く,再発しやすいといわれている.中枢神経症状,習慣流産もみられる.抗リン脂質抗体症候群の診断は,所見および検査成績により総合的に行われ,確立された診断基準はない.検査所見としては,最近は抗カルジオリピン抗体が重視される傾向がある.抗リン脂質抗体症候群急性期の治療は,通常の血栓症の治療に準ずるが,急性期ののち長期にわたり再発の予防措置をとることが重要である.

上大静脈症候群

著者: 岡田昌義 ,   石井昇

ページ範囲:P.693 - P.697

 上大静脈症候群は,種々の基礎的疾患により上大静脈が狭窄ないし閉塞して発症する一連の臨床症状である.したがって,治療の第一はその原因を除去することである.原因の多くは悪性腫瘍の上大静脈への浸潤であるが,この静脈を切除し血行再建術を行えば治療の根治性が得られ,ひいては延命効果が得られる場合に外科治療の適応となる.手術が最も効果的な治療法であるが,症例によっては補助療法が必須となるケースも存在する.以上のような治療手段は,適応を厳選しながら積極的に実施されてよい方法と考えられる.

Budd-Chiari症候群

著者: 上池渉 ,   清水重臣 ,   中尾量保 ,   宮田正彦 ,   松田暉

ページ範囲:P.699 - P.708

 Budd-Chiari症候群の病態の中心は,肝静脈血の流出障害による肝うっ血ならびにそれに起因する門脈圧亢進状態にある.われわれは,従来,肝部下大静脈における閉塞を解除するとともに,可能な限り肝静脈閉塞を解除するべく直視下手術を行ってきた.近年は,PTA(percutaneous transluminal angioplasty)などの非観血的治療法の発達により手術対象症例は若干減少してきていると思われるが,下大静脈閉塞がlong segmentの症例や,short segmentの症例でも肝静脈閉塞がcentral typeのものでは,直視下手術の適応になると思われる.直視下手術の術式選択においては,Senning法がより根治性の高い術式と考える.本法は肝静脈閉塞をより広範囲に解除しうるため,術後の血行動態の改善,組織像の改善に寄与し,ひいては生命予後の改善に貢献すると考えている.

腸間膜静脈血栓症

著者: 重松宏 ,   武藤徹一郎

ページ範囲:P.709 - P.716

 腸間膜静脈血栓症は比較的まれな疾患であるが,原因となる凝固線溶系の異常や下肢の血栓性静脈炎などを伴うことが多く,診断の手掛かりとなる.原因が明らかでない腹痛,急性腹症や遷延する腸閉塞症状があるときには,本症を含め虚血性腸管障害を疑う必要があり,診断にはCTや動脈撮影が有用である.腹膜刺激症状がみられるときには開腹手術を必要とするが,腸管のviabilityの判定は困難なことが多く,second look手術もときに必要となる.抗凝固療法や線溶療法は有効で,凝固亢進状態にある例では長期の投与を必要とする.

肺梗塞症

著者: 星野俊一 ,   小野隆志

ページ範囲:P.719 - P.726

 肺梗塞症,肺塞栓症は,欧米において頻度が高く本邦では少ないとされていたが,近年,本邦においても決して稀ではなく,しばしば急死の原因となることが認識されつつある.本症には早期診断,早期治療が大切であり,診断には肺血流シンチ,肺動脈造影およびDuplexscanningなどが有用である.治療には,線溶療法や抗凝固療法を中心とした内科的治療と外科的な塞栓摘除術,さらに再発予防のための下大静脈フィルターが挙げられ,救命率を上げるために様々な工夫がなされている.

静脈血行再建

著者: 田辺達三 ,   西部俊哉 ,   岩代望 ,   武山聡 ,   本原敏司 ,   加藤紘之

ページ範囲:P.727 - P.734

 静脈血行再建は,静脈の解剖生理学的特異性,代用静脈など再建手技が難しいなどの理由から,その応用は制限されてきた.しかし,最近では静脈固有疾患のほか悪性腫瘍に対する合併手術において静脈再建が必要となり,また,自家静脈のほかに抗血栓性のexpandedpolytetrafluoroethylene(以下,EPTFE)血管が改良されて応用できる状態となってきている.グラフト使用による静脈再建は一部の症例に限られるが,上大静脈再建をはじめとして,下大静脈再建,門脈再建,腸骨大腿静脈再建にもリング付きEPTFE血管がかなり安全に応用できる段階となってきており,次第に応用が拡げられつつある.

カラーグラフ シリーズ・新しい内視鏡治療・22

胸腔鏡下の肺生検および肺気腫治療

著者: 白石裕治 ,   小松彦太郎 ,   福島鼎 ,   相良勇三 ,   毛利昌史 ,   片山透

ページ範囲:P.665 - P.669

 はじめに
 近年の胸腔鏡下手術器具の開発,改良により,自然気胸から始まった胸腔鏡下手術はその適応が拡大してきている1).ここでは,われわれの施設において行っている胸腔鏡下肺生検および肺気腫に対する胸腔鏡下炭酸ガスレーザー照射について述べる.

イラストレイテッドセミナー・3

はじめての成人鼠径ヘルニア根治術・LESSON3

著者: 篠原尚

ページ範囲:P.737 - P.745

 23.内鼠径輪縫縮(23〜28番):小児ヘルニアと違って,成人の場合には内鼠径輪が拡大伸展していることが多く,単に嚢を切除しただけでは再発をきたすので縫縮する必要がある.まず,前壁補強として内腹斜筋膜下縁→内精筋膜の両切離縁→iliopubic tract→鼠径靱帯の順に,3-0絹糸強彎角針で1針かける.シェーマではヘルニア嚢の中枢側断端が描かれているが,実際はすぐに奥に落ち込んでしまっているから,いわばヘルニア門に閂をおろすことになる.

「成人鼠径ヘルニア根治術」に対するコメント

著者: 武藤輝一

ページ範囲:P.746 - P.747

 はじめに
 かつては,成人のみならず,乳幼児の鼠径ヘルニアに対してもBassini法が施行されることが少なくなかったが,現在,成人と乳幼児ではかなり異なった考えで手術が行われているのは周知のとうりである.篠原 尚氏により初心者にわかりやすく記載されている術式は,Bassini法そのものと異なるところはあるが,根本的に異なるものではない.長年,成人の鼠径ヘルニア根治手術を手掛けてきた外科医からみると,記載された術式のなかでの特徴は,内鼠径輪縫縮とiliopubic tractrepairの2つにあるのではなかろうか.しかし,本稿は初心者向きに奨められている術式で,根本的に私自身の考えているところと異なるものではない.39年にわたる外科医としての経験から,“標準的な意見”といえるほどのものではないが,気がついたところを申し述べたい.

外科研修医実践講座・12

手術リスクを有する患者の術前準備

著者: 宇田川晴司 ,   鶴丸昌彦

ページ範囲:P.749 - P.753

 近年,社会の高齢化と周術期管理の進歩により,以前なら高リスクのために手術適応と考えられなかったような患者も外科治療の対象とされるようになった.われわれには,以前にも増してきめの細かい術前状態評価と各術式の侵襲の評価が必要とされている.

鴨川便り・6

電子カルテ

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.754 - P.755

 自分の住む世界の小ささなどを書いたついでに,知らぬ世界の大きさについて,最近経験したことを書いて見よう.医療上のトピックの1つでもあるのでちょうどよい.
 去る3月23日から26日まで4日間,アメリカの首都ワシントンで開かれた電子カルテの国際学会に出席してきた.ちょうどその1週間前に,国際病院連盟の会議がチェコ共和国のプラハであって,そこから帰国したばかりでまだ時差ぼけもとれず,続けての長路の旅は辛かったが,結果的には非常に啓蒙され有益だった.

病院めぐり

公立南丹病院外科/岡山済生会総合病院外科

著者: 小林雅夫

ページ範囲:P.758 - P.759

 当院は,京都市から国道9号線を北西に車で約40分走ったところにある,JR山陰線沿いの八木町にあります.八木町を含む9市町により構成される国民健康保険南丹病院組合により開設された病院であり,昭和11年4月1日に,病床数30床,9診療科(内科,外科,小児科,皮膚科,耳鼻科,産婦人科,眼科,放射線科,歯科)で診療を開始しました.
 その後,数度にわたる病棟の増改築ならびに診療科の新設を行い発展してきました.平成元年には新診療棟,病棟が完成し,現在14診療科,一般病棟332床,結核病棟28床,職員数377名(医師34名)の規模に達しています.当院を構成している市町の人口は約15万人であり,一般診療から高度医療まで,口丹波地域の中核病院としての役割を担っています.

臨床外科トピックス 消化器外科領域におけるサイトカインとその周辺・3

重症膵炎におけるサイトカインの役割

著者: 村田厚夫 ,   田中伸生 ,   登田仁史 ,   宇田憲市 ,   林田博人 ,   加藤健志 ,   松浦成昭

ページ範囲:P.761 - P.767

 重症急性膵炎の死因の多くは,循環不全,呼吸不全,腎不全,肝不全,DICなどである.言い換えると,重症膵炎とは多臓器障害を伴う全身疾患であると考えねばならない.われわれは従来から,この考え方に従って重症膵炎を多臓器障害(MODS:multiple organ dysfunction syn-drome)としてとらえ,その発症機序にサイトカインとそれによって活性化される好中球が重要な役割を有することを報告してきた.
 一方,最近,侵襲に対する生体反応を,感染,外傷,手術,熱傷などによってもたらされる全身性の炎症反応(SIRS:systemic inflammatoryresponse syndrome)としてとらえることが提唱され,このSIRSの病理病態にも各種サイトカインの関与が考えられている.

綜説—今月の臨床

胃癌のNeoadjuvant chemotherapy—意義,適応,現状

著者: 中島聰總 ,   太田惠一朗 ,   石原省 ,   山田博文 ,   大山繁和 ,   西満正

ページ範囲:P.769 - P.773

Ⅰ.はじめに/Neoadjuvant chemotherapyの定義
 Neoadjuvant chemothrapy(以下NACと略称する)という用語は,ほぼ術前化学療法と同義語として使用される.また,放射線治療前の化学療法という意味が込められることもある.すなわち,この用語には腫瘍の局所治療手段に先立つ化学療法という意味合いが込められている.Freiら1)によれば,術前化学療法をNACと規定する根拠として,①原発巣をcontrolしてstage reductionする,②微小転移巣のcontrolを容易にする,の2点をあげている.すなわちNACは,治癒を目指した集学的治療を意図している.ことさらに“Neo—”という接頭語を付する意味は,化学療法を局所療法に先行することにより,治癒の可能性を高めるということである.
 従来のadjuvant chemotherapyがほとんど術後補助化学療法を意味していたことから,治癒を目指した術前化学療法をNACと定義するのは妥当な考え方であろう.このためには,あらかじめprotocolに手術をすることが明記され,手術の施行率が高率である必要がある.術後補助化学療法の場合と同様に考えれば,手術施行率は95%以上あることが必要であろう.他方,従来内科領域で進行癌に化学療法を施行して著明な効果があり,結果的に手術が可能となった場合もあろう.

臨床報告

腹腔内再発病巣の切除により10年間生存中の胃平滑筋芽細胞腫の1例

著者: 大橋龍一郎 ,   横山伸二 ,   栗田啓 ,   高嶋成光 ,   神野健二 ,   万代光一

ページ範囲:P.775 - P.778

 はじめに
 胃平滑筋芽細胞腫は,1962年,Stout1)により命名された比較的まれな腫瘍で,その多くは良性の臨床経過をとるが,一部に悪性例があることが知られている.放射線療法や化学療法に対して感受性が低く,再発例の治療にはしばしば難渋するが,今回われわれは,腹腔内の再発病巣を2度にわたって切除し,初回手術から通算10年間の長期生存が得られ健存中の胃平滑筋芽細胞腫の1例を経験したので報告する.

Peutz-Jeghers型過誤腫性小腸ポリープの1例

著者: 田中雄一 ,   瀬戸泰士 ,   花岡農夫 ,   工藤保 ,   小野巌

ページ範囲:P.779 - P.782

 はじめに
 Peutz-Jeghers症候群は,消化管の過誤腫性ポリポーシス,色素沈着,常染色体優性遺伝の3つの特徴を有し,全体の55%にこれらすべてがみられるとされているが1),まれに色素沈着や遺伝歴のない不完全型Peutz-Jeghers症候群ともいえる過誤腫性ポリープの単発例の報告がある2-7).今回われわれは,Peutz-Jeghers型過誤腫性小腸ポリープによる腸重積症のまれな1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

67Gaの高度集積を認めた乳腺原発悪性リンパ腫の1例

著者: 広瀬宏一 ,   今井哲也 ,   安田保 ,   河北公孝 ,   野田暉夫 ,   今村好章

ページ範囲:P.783 - P.786

 はじめに
 乳腺原発悪性リンパ腫はきわめてまれな疾患であるが,術前67Gaシンチグラフィーを施行した症例はさらに少ない1).今回われわれは,67Gaの高度集積を示した乳腺原発悪性リンパ腫を経験したので,その意義につき若干の文献的考察を加え報告する.

食道残胃衝突癌の1例

著者: 松本正隆 ,   白尾一定 ,   吉中平次 ,   馬場政道 ,   福元俊孝 ,   愛甲孝

ページ範囲:P.787 - P.791

 はじめに
 衝突癌は,重複癌のなかでも病理組織学的にきわめて特異な癌の1つである1).なかでも食道癌と残胃癌の衝突,つまり食道残胃衝突癌は非常にまれである.今回われわれは,食道残胃衝突癌の1症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

癌結節および静脈腫瘍栓にまで自然壊死をきたした肝細胞癌の1例

著者: 林俊之 ,   高崎健 ,   山本雅一 ,   清水泰 ,   羽生富士夫 ,   武雄康悦 ,   笠島武

ページ範囲:P.793 - P.797

 はじめに
 肝細胞癌は壊死を起こしやすい腫瘍といわれており1),TAEなどの治療が施行されていない症例にも自然壊死がしばしば認められる.しかし,壊死率90%以上の高度な自然壊死となるとその報告例は少ない2,3)
 今回われわれは,2つの癌結節および肝静脈腫瘍栓まで高度な自然壊死に陥った肝細胞癌の切除例を経験したので,切除標本の組織像および画像診断について若干の考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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