icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科5巻1号

1950年01月発行

雑誌目次

結核

結核と外科

著者: 都築正男

ページ範囲:P.1 - P.5

 從來から,外科臨床で取扱う結核症を「外科結核症」と唱え,内科的に取扱うものと区別されている. 骨や関節の結核,淋巴腺の結核,皮膚の結核,結核性痔瘻等が主なるものであつた. 治療学の歴史を飜いて見ると,或る時代には「メス」を以てする切開又は切除手術が治療の主体をしており,又次の時代には保存的に固定繃帶,放射線等にょる治療が重視せられると云うように,治療術式は色々と移り変わつて行くが,何れにしても,病変の状況と治療法の主体とから考えて,外科臨床で病者を観察していた方が都合が良いと考えられるものを一括して「外科結核症」と呼んでいるのである. 從つて,現在では,多くの場合,特殊の專門分科で取扱われる眼の結核,耳の結核,口腔の結核,男女生殖器の結核等も広義の外科結核症である.
 近時,内臓の疾患に対して,外科治療が行われるようになつてからは,肺の結核,肋膜の結核,腸の結核,腹膜の結核,腎臓の結核等も屡々外科治療の対象となるようになつた. 然しながら,此等の疾病は常に治療法の主体をなすものが内科的治療であることが多いので,上述の意味での外科結核症とは少しくその趣を異にする.

関節結核症の早期診斷

著者: 石原佑

ページ範囲:P.6 - P.12

(I)まえがき
 早期診断は如何なる疾患にも重要である事は今更言うまでもないが,結核症の早期診断は特に重要視せられている.
 而して結核症といえば主に肺結核症を対象とされる事が多いが,肺外臓器結核も絶対に軽視出來ない問題で,整形外科領域から言えば,骨及関節の結核症が対象となり,吾々專門家のみならず,他科殊に小兒科,外科,内科方面の人々にも関心を持たれなければならない.

関節結核の治療

著者: 光安萬夫

ページ範囲:P.13 - P.16

 関節結核が極めて治癒し難く,長期にわたつて生活力をむしばみ,その上再燃をくりかえす機会が多い事は種々なる理由によると考えられる. その中でもわれわれの反省を要する事の一つとして,可動性を関節の主要なる機能の一つとしている関係上罹患関節の治癒目標を如何様に理解するかというその態度を決めて置く事ではないかと考える. 機能外科を目標としている整形外科学の立場よりしては,罹患関節に関節機能としての可動性を回復しての治癒こそ望ましい事は勿論である. 又その様に努力しなくてはならない. しかしそれには自から限界がある. 然らば現今のわれわれにそういつた事がどの程度に可能であろうか,あの長年月にわたり,しばしは生涯の大部分にも及ぶ関節結核にて,こういつた比判の材料として適切な統計が極めて乏しい. 本当に吟味檢討した統計と考えられている. M. Lange u. Becker(1932)の主として小兒に就ての股関節,膝関節の遠隔成績は表1の如くであつて,レ線像上略々変化なしと考えられるもの8〜10%を除いて相当度の関節破壞を残している. Smith & Walters(1928)の股関節の成績を見ても有効可動性をもつて治癒といい得るものは150例中2例(1.3%)に過ぎない.関節結核と診断された股関節結核208例中46例(22%)又膝関節結核77例中10例(13%)が非結核性の関節疾患であつた事は診断の困難さを物語ると共に関節結核の治癒に関する統計の観察が如何に深重でなければならねかを示しているかを知る事が出來る(表1).表1の示す如くに下肢関節結核の治療成績は惡い.しかも再発に対する最良の防壁と考えられている骨性強直はLa-nge u. Beckerによると股関節にて15%膝関節にて10%Hibbs & Lackum(1925)によると膝関節6例中3例(4.5%)しこ過ぎない.
 その他の大部分は高い再発の危瞼率をもつた疲痕組織によつて包まれているか,結核病集の活動が静止するに至つていないかである.臨床上関節結核の診断を確定し得た場合ではこういつた機能外科の立場より悲観的の結果であるので,結核に於ける化学療法の発見完結が殊に望ましい.現今ではそれ故,その病状を正しく判定し,そのために長い期間の観察も行つて,症例に應じた治療法を撰択する事が必要だと云う結論に達する.関節の可動性という事にのみ徒にとらわれる可きでない事は前述の如く完全な関節可動性をもつての治癒という機能外科の究極目的を守る事に困難な事が多いからである.しかしわれわれの肢体を構成する関節を個体全体として見る時には機能上関節の蓮鎖体を形成している.だから一関節の可動性の亡欠によつて必すしも佃休の機能喪失を意味するものではなく,代償作刀1が和当度に出現して來る.それも一関節機能の脱失が若年期に早く起る程,叉長期問を経過する程近接関師による機能の代償度が高い。殊にその場合に於ける関節の肢位の撰択によつては翻当高度の機能が途行し得られる.この良性(機能的)肢位は職業によつても,生活様式によつても多少補足が必要ではあるが,一般には表2の如き肢位である.即ち関節結核の大部分では関節結核病集の迅速なる静止,次いでその再燃の最良の防壁たる関節の骨性強直の発生を促進ししかも完了させる様な治療法を撰択する事が必要であると考えられる.

脊椎カリエスの治療

著者: 岩原寅猪

ページ範囲:P.17 - P.23

いとぐち
 脊椎カリエスは日常臨床で遭遇することの多い疾患で,慶大病院の統計についてみるも全結核性疾患中肺結核,肋膜炎,腹膜炎,淋巴腺結核に次いでその頻度は第五位にあり,一般によく知られている筈の疾患である. 然るに事実はこれに反し案外関心は稀薄,認識は低調で寧ろ寒心に耐えないものさえある. 茲に脊椎カリエスの認識を新にするよすがにならばと考え自家法を中心に脊椎カリエスの治療に就て誌してみたい.

淋巴腺結核の放射線療法

著者: 足立忠 ,   玉木喜一

ページ範囲:P.24 - P.31

I. 緒言
 淋巴腺結核に対しては放射線療法が最も効果的であると云うのは今日では常識である. 既に1902年にアメリカのWilliams等によつて應用せられその後は主として欧洲の学者によつて研究せられたがその効果は80〜90%以上にも及び中には100%と云う様な数値を発表する人もあつた. 之に対して外科的操作によればその効果の率も低く,75%と云い更に降つて25%等が挙げられる而も再発の割合も多く放射線療法の6〜9%に対して13.3〜36.8%と云う様な数字で手術による瘢痕なども残らぬ点から今日では淋巴腺結核と云えば放射線療法と云われる様になつて來たのである.
 併しこの様な効果に対して放射線の作用機轉に就いては当時は余り明かではなかつたがその後放射線生物学の知識の進展と,一方に於ては放射線量の單位の確立とによつて種々説明せらるる様になりそれに從つて放射線療法そのものの方式も大分改良せられて今日に及んだのである. 以下順を追つて淋巴腺結核に対する作用機轉を主として放射線生物学の見地から述べて見よう.

腦脊髄結核腫

著者: 淺野芳登

ページ範囲:P.32 - P.40

 中枢神経系の結核性疾患のうち,脳,神経外科領域の治療対象となるものは,限局性に肉芽性腫瘤を形成する所の所謂結核腫だけであるといえよう. これが脳や脊髄に発生して症状を現す場合は,臨床的には全く眞性腫瘍の像を呈する. 從つて結核腫は梅毒腫などと共に眞性腫瘍に準する扱いをされている. 結核腫そのものは決して惡性のものではないが,これに対する治療成績は非常に惡く,結核腫と言えば先づ絶望とされている位である. これが石灰化し或は瘢痕化して自然的治癒を営むことはその報告例がないこともないが,しかしこれは非常に稀なことと言つてよい. これが現在に於ける中枢神経系の結核腫に対する一般の考え方であろう.
 茲では今迄我々の教室で取扱つた脳結核腫の臨床経驗に重点を置いて述べることとする.

結核性腹膜炎の治療

著者: 北本治 ,   福原德光

ページ範囲:P.41 - P.44

I 緒言
 結核性腹膜炎の治療に関しては,過去に於て内科的治療或は外科的侵襲に就き数々の業蹟が発表せられ議論されて來たが,内科医は一般的結核治療及対症療法に終始し外科医は外科療法を称用した傾向にあつてその治療成績の統計を見るとまちまちである. 今回,「臨床外科」特集で結核性腹膜炎に就て,書けとの編輯者の依頼であるが,我々はその外科的療法については多くを知らない. 併し辞退することが出來ないので,茲では,内科的治療の最近の変遷,特にストレプトマイシン出現による内科的治療範囲の拡大状況を述べ,何時外科的療法を行うかの判断に対する一つの参考に供して責を塞ぐこととする.
 結核性腹膜炎は我々が日常遭遇する慢性腹膜炎の中で最も多く見るものであり又,結核屍の病理解剖の統計が示す如く腹膜は肺臓,腸管に次で屡々犯されるものである. Hertzlerに依れば,全例の10%に腹膜結核が存在する。そして此の腹膜の結核性病変は隣接臓器の結核より,或は他の病巣より血行性に,或は淋巴道を介しての傅搬に由來するものでそのうち腸結核より來る場合が最も多い. 我々は,結核性腹膜炎の治療を開始するに当り常に此の発生経路を考え,又常に他臓器の結核の有無或はその程度を念頭においておく必要がある.

外科的腸結核

著者: 福田保

ページ範囲:P.45 - P.47

 臨牀外科から腸結核について執筆を求められていたが,本編は最近臨床講義で述べたものに多少筆を加えて御依頼に答えたものである.
 腸結核が外科領域で問題となるのは,主として結核性潰瘍による瘢痕性腸狹窄と廻盲部結核とであつて,單なる潰瘍性腸炎を目あてとして手術を加える場合は少い. これらは自然にも治ることがあるし,最近ではストレプトマイシン療法で効果があげられるばかりでなく,たとえ外科的処置を加えようとしても,結核性潰瘍は往々多発性で広範囲に亘り,たまたま開腹に際してその病巣が比較的小範囲に限局している場合に腸切除が行われるに過ぎない. 瘢痕性腸狹窄や腸閉塞では手術にたよる外はなく,廻盲部や結腸の結核では腫瘤をつくつて狹窄が加わり,自然に治ることは少いので手術的療法が適應している.

最近の病理から見た腎結核の治療

著者: 武藤完雄

ページ範囲:P.48 - P.51

 最近の腎結核の病理或は腎臓結核の病理に就ての最近の見解と云うのは腎結核とは腎実質の原発性疾患でなく腎盂結核に続発した二次的の病変即ち結核性腎盂腎炎であると解することである. 茲に腎結核とは慢性外科的腎結核と称せらるゝ外科療法の対照となる腎結核の事で,急性皮質粟粒結核を除外することは云うまでもない.
 然らば從來の腎結核病理に就ての見解はどうであつたか,吾々は最近度々腎結核の病理に就て吾々の檢索成績並に見解を発表したが,今日の印刷事情から文献の引用は最小限度に留め,必要な文献に就ても内容まで紹介して紙面を浪費することを避けて來た. 之は私自身が目下東北医学雜誌の編輯者であり,経済的にも1頁何百円を要することを知つているので論文の頁数を極度に制限する態度を取つているからである. 然し今回は從來の病理と現在の病理を了解して頂くために主として文献的解説を試みようと思う.

痔瘻

著者: 石橋幸雄

ページ範囲:P.52 - P.56

 痔瘻が結核症と言う病気に対して如何なる地位にあるかと言う問題は考え方によつては相当困難なものであります. 事実此の問題に関する諸氏の報告は極めて区々でありまして其の結核率を或は10%と言い或は60%と算しどうも未だ定説がありません. 又臨床上痔瘻の治癒率の高率である故を以て痔瘻の結核性を全面的に否定している人もあるようであります. 斯く諸説の分れる所以を考えて見ますと勿論檢索方法,材科等の相違が挙げられますが,主因は痔瘻の病理組織学的意義が充分に闡明されておらない点にあると思われるのであります. 私が從來やつて参りました痔瘻症の研究は新しい見地から痔瘻の組織像を見直したものでありまして,茲に其の所見を基礎としまして,「痔瘻と結核との関係」,「痔瘻の発病機轉」の二項目に就て私見を述べて見たいと思います.

--------------------

人事消息

ページ範囲:P.47 - P.47

 ◇天兒 民和氏 新潟大学新潟医科大学附属病院長和久井豊一教授(小兒科)は辞任Lたので同学整形外科教授の氏が後任病院長兼同学附属病院厚生女学部主事に就任。
 ◇渡邊 正毅氏 東京逓信病院整形外科部長飯野三郞氏が東北大学医学部教授に轉任したので氏がその後任に就任。

集会

ページ範囲:P.57 - P.57

 東海外科集談会 第25回 昭24・9・25.
1. 色素性乾皮症の癌変性について         山田栄吉,竹内莊治(名大斎外)
2.破傷風の統討的観察          工藤英夫,白石建郎(名大桐外)

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?