icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科5巻11号

1950年11月発行

雑誌目次

--------------------

「骨の銀行」並に同種保存骨移植に於ける移植片の組織特異性の脱却に就て

著者: 河村謙二

ページ範囲:P.525 - P.528

I 骨の保存と骨の銀行
 骨移植を行おうとする時,一々患者から骨片を採取しようとすると,その患者に何処か苦痛を與え,又充分都合のよい骨を採る事も難しい場合もある. 又患者は骨を採る事と移植する事との二種の手術を必要とするので二重の苦痛を味わせる許りでなく,手術が重くなり,感染の危險も多くなつて来る. そこで,予め別な骨片を採つて用意しておいて,それを入用の時取出して移植の役に立てる爲に不用な骨のあつた時それを採つて保存しておく. そしてこの保存しておいた骨を移植する. この樣な骨移植を私は「保存骨移植法」と命名(1941)したのであるが,同じ事が此度アメリカで行われている事が最近発表され. (Bush:J. B. & J. Surg. Vol. 29(626)1947).
 この方法で移植する骨を保存しておく「骨の銀行」必要性がと唱えられ,その活用が著目される樣になつた. この「骨の銀行」と云う云い表わし方はニユーヨーク整形外科病院のWilliam H. Von Lackumが始めて唱えたものであるが,これは取りも直さず,保存骨の事でそれを一般的に手術者に利用させようと云う意図のもとに判り易く名付けたものに他ならない.

生命保險より見た整形外科的疾患

著者: 兒玉俊夫

ページ範囲:P.529 - P.530

 「片腕5年」と云つて,一側上肢を切断すると5年壽命が短くなり,また切断側と同側,たとえば右側の切断者は右肺,右腎臟等の内臟が病気に侵され易い等のことが,半ば迷信的に身体障碍者の間に流布されている. このことが果して事実ならば重大問題で,統計的に調査研究する必要があるが,私は第一生命の医長稻田博士の御好意により,生命保險会社の統計を教えて戴いたので,こゝに御紹介しよう.
 生命保險会社は身体に欠陷あるものは死亡率が高いとの危惧の下に,從来はその契約を嫌つた傾向があつた. しかしそれでは生命保險の本来の使命に反するので,かゝる者に対する保險…專門語では弱体保險に関する統計学的研究が,1898年北欧スカンヂナヴイア諸國で行われたのが始めで,米國では1903年,1912年−1914年,1929年の3回に亘り大調査が行われた. 1929年には北米合衆國及びカナダの39生命保險会社が契約延件数2,100,000件について,共同的に身体欠陷者の死亡率調査をし,Medical Impairment Studyを同年報告した.

エパンス青による循環血液量測定の経驗に就て

著者: 折茂英吉 ,   宮尾直哉 ,   中村正巳 ,   澁澤喜守雄 ,   斎藤忠 ,   小出来一博

ページ範囲:P.531 - P.534

1
 生理状態では体内を循環する血液量はほゞ一定であるが,外科の臨床殊にショックでは著るしく減少がみられることは.Cannon(1918)以来多数先人の業績から明かとなつた,常にショックと斗はなければならぬ外科臨床に於ては,循環血液量の変化を覗うことは,GB,GPによつてその概略を推しうる血液の濃縮乃至稀釈,血漿蛋白値を,更に精確に知り得て,状態の把握並びに治療に確実な根拠を與えることになるであろう.然しながら循環血液量測定法には未だ完全な良法がないことは周知の如くである。一酸化炭素吸入法(Grehaut and Quinquard,1882;Van Slyke and Robscheit-Robbins,1927;Chang and Harrop,1928).色素法,血糖による法(Markowitz,1936).理化学的測定法,或いは放射性同位元素による方法等種々あるが,最も広く用いられているのは色素法であろう.即ちVital red又はBrilliant vital red法(Keith,Rowntree & Geraphty,1915;Smith 1925)Trypanrot法(Seyderhelm und Lampe,1925).Evans blue法等があり,米國文献によればEvans blueが專ら用いられているかにみえる.すなわちDawson,Evans and Whippleは1920年青色アゾ色素で1-8-amino-2-4-Sulphonic acidの2分子を結合したOrtho-toluidine(所謂T-1824)が循環血量測定に用いる色素として最も優秀であるとした.Gregerson殊にNoble & Gregerson(1945)はGibson & Evans(1936),Gibson & Evelyn(1938)の方法である光電比色計による10分値が,精確な値であることを詳論した.現在この方法が広く用いられでいるようである.
 Evans blueにはT-1824のほかにT-1836,D-1824,D-1836がある.

アメリカに於ける2,3の外科臨床(その一)

著者: 濱光治

ページ範囲:P.535 - P.536

 私はアメリカ外科の一端を見学する機会を得たので其の中から少しPick upしてこゝに御報告し御参考に供したいと思う.

所謂腰部筋肉ロイマチスムスの病理とその手術的療法

著者: 諸富武文

ページ範囲:P.537 - P.540

1
 所謂筋肉ロイマチスムスの病理に就ての業績は到つて少く,Eroriep,Müller,Graeff氏等は筋腱等に特殊なる結節をみたと云い,F. Lange,A. Shmidt, Bing, Schade氏等は筋肉に何等の変化もみなかつたと云う. 一方米國に於てはGra—tz,Steindler氏等は筋膜癒着による腰痛例に於て,その筋膜にMrosinovitisの組織像をみている. 更にGratz氏等は筋膜のBiomechanicalStudyを行い,罹患筋膜の伸展性並に彈力性の減退により,運動時筋膜が皮神経を圧迫して疼痛を発するものであると述べている. 一方我邦に於ては内藤博士の肉眼的観察が特記すべきところであるが,氏も組織的所見に就いては何もみなかったと述べている. 以上の如く本疾患の病理に就ての報告をみると関節,心臟等のロイマに就いての病理に比し,著しく研究の立遅れを感じさせる,又その故にその本態に対する考察,研究も著しく遅れている事がわかる. 私は先きに第21回日本整形外科学会に於て本疾患の臨床的方面に就き綜括的な所見と新知見とに就いて述べ,更に病理組織等に就いて述べ,又綜合医学(第5卷第18号)誌上にこれ等に基いた本態に関する考察の一部を述べた. 尚本問題に就て研究中であるが,こゝでは臨床病理と手術的療法に就き述べ,諸氏の御追試を希わんと思う次第である.

橈骨神経麻痺に対する腱成形術

著者: 甲賀熹六

ページ範囲:P.541 - P.543

序言
 各種の術式が,橈骨神経痲痺に対する腱成形術として挙げられているが,術式の煩瑣なるために,兎角簡便術式に走り,簡便術式に走るがために手術成績惡く,從て本成形術は敬遠せられ勝ちであり,各種多樣の裝着用具の考案もある. 実際問題として,使用せられる事は殆ど稀で,不自由な患肢として諦めている患者は敗戰後はなはだ尠しとせぬ.
 患者個人の問題としても又生産的,心理的社界問題としても,該機能障碍に対しては今後大いに積極的治療法が講ぜらる可きである.

所謂淋巴性甲状腺腫に就て

著者: 津下健哉 ,   津下逸雄

ページ範囲:P.544 - P.546

 1896年Riedelは非常に硬い甲状腺腫を有する患者の手術に於て,癒着が高度の爲に試驗的切除のみに止まつたが,其の後の経過が良好であつた1例を報告し,組織学的に実質の甚しい破壞を共う甲状腺の慢性炎症であることを認めて,之をeisenharte Strumaと命名した.
 其の後同樣の疾患は相次で発表されeisenharteStruma,Riedel'sche Struma或はThyreoiditis chronica,chronic productive thyroiditis等種々の病名の下に報告されたが,其の特長とする所は甲状腺は鉄樣硬度を有し,隣接組織との癒着が強度で,屡々惡性甲状腺腫と誤認されるものである.

織維素溶解に関する研究(第2報)—血液凝固との関係に就て

著者: 豊田建一 ,   天野龍生

ページ範囲:P.547 - P.551

 前論文1)の如くして纖維素溶解の実驗中,Macfarlane& Pilling2)が2,3分で固まると言つた所謂血漿擬固時間(以下C. T. )は必ずしもそうでなく2,3分で固まるのは健康人であつて3),身心の障碍ある場合は多く延長するようである4). 余等は纖維素溶解と尿及び乳汁との関係についC. T. てを利用し,2,3の実驗を試み且つPlasminが現代血液凝固学説に重大なる役割を演じている事を知つたので,これらに関し2,3の知見を述べようと思う.

運動知覚障碍に対する脳脊髄液搖動療法の効果に就いて

著者: 圓山一郞

ページ範囲:P.552 - P.555

 運動知覚障碍に対しては從来電気療法温熱療法,マツサージ,温浴療法等の理学的療法並びに沃度加里の藥物療法を施行していたに過ぎない. 最初プロスチグミン(ワゴスチグミン)の連用による小兒麻痺に対する治驗例の報告は散見するがその他の神経麻痺に対する治驗例の報告はない樣である. 最近余は脳脊髄液吸出注入による脳脊髄液搖動療法を此等疾患に施行し著効を治めたので茲に報告し大方の御批判を仰ぐ次第である.

扶桑鋼管に於ける災害の統計的観察

著者: 赤星義彥

ページ範囲:P.556 - P.559

1. 緒言
 工場災害の実態の把握は我國戰後の課題たる生産力増強並びに災害予防,延いては災害者補償の問題に対して基礎的資料を提供するものとして重要視されて居る. 余は今回我國有数の鉄銅工場たる扶桑銅管の診療所に於て現場と直結する診療に当り,公傷カルテ並びに安全管理室の現認書を基礎として可及的正確なる災害統計を行う機会に惠まれたので,此処にその概略を報告して諸家の叱正を乞う次第である.

広筋膜移植に依り全治せる右下腿外傷性筋肉ヘルニアの1例

著者: 大川弘

ページ範囲:P.560 - P.561

症例
 28歳 男子
 〔主訴〕右下腿前面に於ける鈍痛性腫脹

米國外科

ページ範囲:P.564 - P.564

THE AMERICAN JOURNAL OFSURGERY
 Vol. LXXIX. Nom. 6. , June. 1950.
1)Choice of Procedure in Acture Cholecystitis.  ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥Moses Behrend‥‥p.753

第99回A. M. A. 年次大會に於ける外科(一般及び腹部外科)分科會演題

ページ範囲:P.567 - P.567

 去る6月26日から同30月までサンフランシスコ市で,American Medical Associationの第99回年次大会が開催され,その21分科会中に外科(一般及び腹部)分科会,整形外科分科会及び麻醉学分科会があつた. それ等の分科会の演題のプログラム並に開催の模樣のニユースが入つたので,以下述べる. なお学会全体としては從来の大会と同樣に非常に盛会で,総参加者18,000名以上,各科の講演,報告などの他に器械や藥品の展示等があり,又種々の手術の天然色テレビジヨンや映画などもあつた由である.
 外科及び整形外科に関係ある講演及び報告で,例えば肺臟外科手術の成績は呼吸器病分科会で発表されてる樣に他の分科会の方で行われたものも多少ある. 又大会総会の特別講演中にも外科問題に関係あるものが講演されている. 例えば次の樣なものである.

集会

ページ範囲:P.568 - P.568

第189回東京整形外科集談会 昭和25.9.30
1)脊椎カリエスと腎臟結核殊に腎剔との関係に  ついて    慶大整形外科 森田盛綠 昭和4年から最近までの脊椎カリエス入院患者5%例申腎臓結核の合併症14例にっき観察.10例剔出手術を受け,中2例ほ腎剔後の手術創痕に流注膿瘍の穿破を見たと.
 2) ペルテス病二題         横浜医大整形 岩 平  倫 先天股脱の整復以前に見られた片側ペルテス病,両側ペルテス病の各t例につき報告.成因につき体質というものを考えた方が良いという点を述べた.

第3囘日本胸部外科学会次第

ページ範囲:P.569 - P.572

日時 昭和25年10月29日,30日の2日間
場所 千葉市千葉大学医学部本館講堂

臨床講義

ゼミノーム

著者: 斎藤眞 ,   吉田誠三

ページ範囲:P.562 - P.563

 本日の例は左側鼡蹊睾丸より「ゼミノーム」が発生して後腹膜淋巴腺に,大なる轉移を来したものであります.
 〔患者〕亭○市○郎,47歳,♂,鉄工職,

外科醫のノート

膀胱内の凝血除去法

著者: 土屋文雄

ページ範囲:P.565 - P.566

 普通の尿閉はたゞ尿が膀胱内にたまるのであるから尿道狹窄とか前立腺肥大症の特種の場合等を除けば容易にチーマン或はネラートソカテーテルを挿入して膀胱内を空虚になし得るか,さもなくば恥骨直上から長針を刺入する所謂膀胱穿刺によつの容易に膀胱内容を除去し得る. 然し膀胱内容が凝血である時には同じ尿閉でもそう簡單には行かない.
 膀胱内に大出血を起すものは往々膀胱内に血塊を生じ,之が見る見る中に大きくなつて膀胱は血尿と云うよりは凝血を以つて充されるに至る. 一般尿閉の場合と同様に下腹部は半球状に膨隆して膀胱濁音は臍部の近くに迄逹し少しの圧迫でも烈しい尿意を誘発する. 尿意促迫は著しく且つ疼痛にかわり腹壁筋肉は緊張,顔貌苦悶状を呈し顏面潮紅,粘膜充血し冷汗淋漓,苦悶呻吟轉々反側し往々狂暴性となつて暴れ廻つたり,叉脱肛を来したり,甚だしきは虚脱に陷ることさえある. かゝる際には膀胱部に外力が作用すると膀胱破裂を起す危險があるから鎭靜剤を與えて鎭圧することが必要である.

外科と心臟

著者: 樫田良精

ページ範囲:P.566 - P.566

 戰時中減少しつゝあつた高血圧症や心臟病などの循環器疾患が最近再び著しく増加の傾向を示している. 私は外科領域の方にも心臟病についての関心をもつと高めて頂きたいと思う.
 最近こんな例があつた. 45歳の男が突然心窩部に激烈な痛みを覚え,鎭痛剤の注射で中々とまらず,なお惡心嘔吐,冷汗,蒼白などのシヨツク症状を呈し,発熱,白血球増多のあるため腹部の急性疾患の疑で開腹手術を行つたが何の所見もなくそのまゝ閉ぢた. 其後或は気管枝炎,或は気管枝喘息などと診断されて治療をうけたが軽快せず,疼痛と呼吸困難の発作が連日おこるようになつたので来院した. 心電図檢査をしたら心筋梗塞であつた. この患者は直に入院治療をうけ,幸には軽快して退院した.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?