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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科5巻7号

1950年07月発行

雑誌目次

特集 蛋白問題・1

外科領域に於ける蛋白の問題

著者: 福田保

ページ範囲:P.329 - P.333

 今日外科手術の技術的方面は著しい進歩をとげた. 特に近年になつて,從来ならば敬遠されがちであつた困難な大手術などが,大した不安もなく進んで行われるようになつたことは,ペニシリンの出現や麻醉法の進歩などの外に,ショックと蛋白代謝などの問題が明かにされて来たことによるものと言える. 殊にショックと蛋白代謝とは密接な関係にあるので,出血の多い時間のかかる大手術を行われるようになつた外科領域では,特に蛋白代謝は重要な問題として探りあげねばならない現状である.
 これも戰時中に連絡のとだえていた間に進歩した欧米の蛋白に関する問題を,戰後一気に採り入れて発展を見たためでもある. 蛋白の問題は本年の日本外科学会では協同研究の課題として採用され多数の業績を得たように現下の外科領域での興味の中心ともなりつつある.

蛋白代謝中枢に関する諸実驗

著者: 吉田誠三 ,   坂野登 ,   柵木吉郞 ,   平松正吾 ,   林修一 ,   梶田武夫 ,   安藤次雄 ,   三河內武丸 ,   富川四郞

ページ範囲:P.334 - P.340

1. 緒言
 間脳に於ける自律神経中枢は,視神経床下部に集り,延髄自律神経中枢の高等中枢であつて,交感,副交感両神経の綜合中枢と見做されている. 而してこの間脳には古くより,糖代謝,水分及び塩類代謝,脂肪代謝及び蛋白代謝等の中枢があると云われ,間脳穿刺に依る種々の実驗的研究が行われているが未だ充分明かではありません. 殊に蛋白代謝中枢に関しましては未知の事が多く,且從来の研究は間脳穿刺前後の諸種の蛋白代謝産物には触れず唯血清蛋白,残余窒素等のみを測定して中枢破壞に依る蛋白代謝の全般に論及しているが,複雜なる蛋白代謝の一端を窺い知るにも不充分な研究方法と云わねばならない. かゝる見地より我々は蛋白代謝産物の種々なるもの例えば尿素,尿酸(くれあちにん),及び(くれあちん). (あみの)酸,酸化及還元(ぐるたちをん)並に血清沃度酸値等を血漿蛋白,残余窒素と共に間脳穿刺前後に測定して中枢破壞に依る蛋白代謝を綜合的に研究しその一端を知り得たのである. 尚Jisellius法に依り血清蛋白を分析し氣脳法,一般脳手術の蛋白代謝に及ぼす影響を知り,頸髄,胸髄,内臟神経切断に依り肝臟,脾臟等の蛋白代謝に於ける役割を研究した.

外科領域に於ける血漿蛋白と肝臟機能に関する臨床的並に実驗的研究

著者: 松倉三郞 ,   北岡義尊

ページ範囲:P.341 - P.347

 外科領域疾患の治療に当つては手術が重要なる部門を占めていることは云うまでもないが,手術と云う大なる侵襲,続いて行われる或る程度の制限食事の不可欠なる関係上術後の体力恢復或は合併症の防止は更に重要と云うべきである. 從つて古くから術前術後の療法に幾多の努力がなされ就中予後と肝臟機能とに関しては優秀なる業績が多数存している.
 近時蛋白代謝の研究が盛んになるにつれ外科領域に於ても術前術後の蛋白代謝が重要視され,この方面より術後の合併症の防止,体力恢復の促進等の処置が深く研究されるに至つた. 我が松倉外科教室に於ても本問題に関し研究を行い,その成績は即に発表し来た. 而してその研究の一端として血漿蛋白就中血清グロブリンと肝臟機能との関係に就て檢討を行つた.

蛋白代謝と肝機能

著者: 湯浅峻治 ,   佐藤勝

ページ範囲:P.348 - P.351

I. 緒言
 蛋白代謝は第二次世界大戰を境にして特に一般の注目を引くに至つたものであります. この蛋白代謝には色々の要素が関與するものでありますが,我々は肝臟機能との関係に就てこれを特に追求して来たので,其の一端を茲に述べる事とする

手術的侵襲と蛋白代謝

著者: 高山坦三

ページ範囲:P.352 - P.357

1
 生体内における蛋白代謝が二元論的にいとなまれているものであることについては,いまでは異論の余地はない. Voitはこの代謝をいとなむ蛋白を臟器蛋白と循環蛋白とにわけたがその後,Folinが外因性蛋白代謝と名ずけたところの,攝取食物中の蛋白に主として関與する代謝と,内因性蛋白代謝と名ずけたところの,前者と直接の関係なしにおこなわれる蛋白代謝との2種の代謝が嚴密にかつ判然と区別さるべきものであることが明らかになつた. しかして外因性代謝は,食物中の蛋白の分解によるところのもので,主としてエネルギー代謝に関係するものであり,これに反し内因性代謝は,一名組織物質代謝ともいわれるもので,エネルギー代謝とは直接の関係はなく,生活機能維持に必要なアミノ酸を供給することが主なる仕事であると考えられている.
 循環蛋白はまた一名貯藏蛋白ともいわれるがこれに対 し細胞内に包入された蛋白("Zelleinschlusseiweiss") であつて,しかも臟器蛋白でないところの貯藏蛋白の あることが,SeitzおよびBöhnによつて明らかにさ れた.

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Plasmacytomの1例

著者: 武井包夫 ,   白松三省

ページ範囲:P.358 - P.361

緒言
 遠くVirchowは純理論的に骨髓腫(Myelom)を想像したが,1873年V. Rustizkiは骨髓腫を初めて発見した.1906年Wrightは,「プラスマ」細胞がその腫瘍の大部分をしめるものを発見し,之をPlasmazelluläres Myelomと命名した.Wallgrenは,「プラスマ」細胞腫を,骨髓腫の中に分類している.以上のプラスマ細胞腫は,種々の名称を以つて呼ばれている.例えばPlasmacytom(Boit)Plasmacelluläres Granulom(Frankel und Kusunoki)regionäre plasmacelluläres Lymphogranulomatose(Kaufmann)Plasmom(Pscheff).我が國では形質細胞腫又は「プラスマ」細胞腫と云われている.余は最近「プラスマ」細胞腫の1例を経驗し,病理組織学的に之を明にし得たので,ここに報告する.

エフェドリン代用藥としてアドレナリン及びボスミンの作用を遅延せしむる方法

著者: 水谷洋二

ページ範囲:P.362 - P.364

緒言
 戰時中我々は諸藥品の欠亡を代用藥で補う外なかつた. 近時吾々は手術に際して,その無痛法として全手術の8割を腰髄麻痺法により施行して居るが,同法施行に際して最も危險なる点は手術中急激に血圧低下を来すことである. 田代が嘗て,日本外科学会に於てペルカミン高比重腰髄麻痺法により半身麻痺の高さを種々に変化せしめて,その血圧の変化及び年齢による同法の血圧の変化を観察したことがある. 同報告によれば,弱年者に於ては血圧の変化は甚だ少く,麻痺の高さの如何に拘わらず僅少である. これに比して,年齢30歳以上の大人に於ては男女を問わず血圧の変動が甚だしく,年齢を加うるにつれて,強度となり,50歳に於て最も著明なる下降を来し,その血圧下降は麻痺の高さに正比例している. 50歳男子の1例では,術前230m. m. Hgの血圧が腰髄麻痺腰椎第5に於て80〜90m. m. Hgに迄下降している. かゝる著明なる血圧下降は他の如何なる方法に於ても吾々が観察し得ないことで,腰髄麻痺法に於ける不慮の危險事である. この危險を未然に防止するために,吾々は腰椎麻痺施行前手術患者には必ず4%エフエドリン0.5-1.0c. c. を皮下注射し,更に予め25%ロヂノンにビタカンファーを混じたものを用意して,甚だしき血圧下降の患者に注射し危險を防止することにしているが,この処置により危險なしに腰髄麻痺による手術を遂行することが出来る.

第35囘年次米國臨床外科學會及び第6囘年次米洲外科學會

ページ範囲:P.372 - P.374

 昨1949年10月16日より同23日まで1週間に亘つてシカゴ市のStevensホテルを中心会場として,表題の樣な学会が開催された. 又これに附随して同時に第28回年次病院基準及び管理協議会(Twenty-Eighth AnnualHospital Standardization Conference)も開かれている.
 学会の模樣としては講演会,学術映画,テレビジョン,クリニック,医療器械の展示及び操作実演等が多彩に行われ,学会出席会員に同伴した家族の爲めにも種々の接待及び催し物,例えばシカゴ市内及び郊外回遊,衣裳及び装飾品の展示,博物館,動物園,絵画館等の見学及び見物なども実施されている.

集会

ページ範囲:P.375 - P.376

◇第478回東京外科集談会 25.5.20
 1. 巨大なる大網膜嚢腫の1例            鎌倉 佐藤七郎他 46歳男,大網より生ぜる多房性腫瘤(2450g)を摘出,嚢胞状淋巴管腫の所見を呈する,本邦交献に4例を数えうる.
 2.胆嚢捻韓症の1例         慈大 大井外科 川村雅俊 68歳女,術後急性胃拡張を起せるものに右肋骨弓下に腫廣,疵痛を呈し死亡,胆嚢の捻韓を認めた本邦交献5例をみる急性胃拡張との間に何等かの関係あるものか.

今月の小外科・6

癤(疔)及び癰

著者: 大槻菊男

ページ範囲:P.365 - P.366

 毛嚢,皮脂腺,時に汗腺から起る皮膚の急性化膿性炎症である. 單一の腺に起るのを癤と云い,隣りあう多数の腺に群がり起る時に癰と云う. 起炎菌は葡萄状球菌で稀に連鎖状球菌である. 起炎菌がこれ等の腺内に侵入しておこるのだが,この侵入は器械的刺戟をうけ易いところ,即ち摩擦をうけ易いところに起り易い. 例えば項部,顏面,脊部,臀部などが好発部位である.
 これ等の体部は汚れ易いところであるから細菌も多く存在する. 種々な原因で衰弱してる時,又は糖尿病患者等細菌感染に対する抵抗力の減弱してる時は殊に起り易い. かゝる人には散在性に多数に相次て生ずる傾きがある. これを癤瘡症(Furucunlosis)と云う.

外科と病理

蛔虫症は腸閉塞を介して肝変化と如何に結びつくか

著者: 所安夫

ページ範囲:P.367 - P.369

 蛔虫症が実質性臟器に及ぼす影響は,例えば虫卵の迷入による慢性異物性炎の型式をとつて膵臟の腫大を招来するような場合に,最も容易に吾々剖檢者の眼に映ずるのであるが,それ似外にはさして顯著な器質的障害をもたらすことなく,本邦に於ける夥しい蛔虫症の割合には実際の所,日常注意をひかれる機会にめぐまれないのが有態である. 一口に蛔虫症といつても,少数の寄生では勿論問題とはならぬし,又多数の寄生でも虫卵迷入や虫塊の腸閉塞でもない限り,常識から見ても重篤な変化を予期するのは無理なのかもしれない. 寄生虫の体力に分泌された毒性因子が一体どのようなものであるか,恐らくはたいしたものではないからなのであろう.
 最近私は蛔虫症による腸閉塞なる診断の下に生前手術を受け,術後解剖に廻つた1例に於て,予期せざりし肝の目ざましい変化を見出したので,かねて虫卵迷入による典型的な膵の炎症性肥大例の経驗を加味させて,こゝに蛔虫症と肝障害との関係にふれる目的で該例を参考に供したいと思う.

最近の外国外科

胸部手術後の合併症とストレプトマイシン—Belgium—,他

著者:

ページ範囲:P.370 - P.371

 ド・ウィンター氏は肺臟手術に於て乾酪樣変性を起している組織を挫滅する場合に,恐らくツベルクリン樣毒素が出されるものと考えている.從つてこの毒素が患者に吸収されると,活動性病巣の周囲に病巣周囲反應と云うべき〜その程度には大小の差はあるが〜重大な反應を生ずる.この反應は丁度ツベルクリンの大量を注射した後に起る病巣周囲反應と比較することが出来る.即ちこの反應は,Graucher氏が脾樣肺炎(Splenopneumonia)として最初に記述した相当成長した小兒に起る肺炎性病変に一致し,又最近更にEliasberg及びNeuland氏が唱えるepituberculosisに一致する.しかし,著者のド・ウィンター氏はこの病巣周囲反應に対して肝樣変化,或は脾樣変化と云う言葉を使用している.それは肺実質が強い充血によつて充実されるからである.この変性自身はそれ程惡性ではないが,しかし手術後の合併症としては肺浮腫或は心臟機能失調を起し得る.この充血による肺の病変及び病巣周囲の脾樣変化は胸廓成形術及び肺尖遊離術後には劇しく発生し得る.しかし気胸や癒着切離を合併した胸腔鏡檢査の場合には,それ程劇しく起ることはない.ストレプトマイシンの生体内作用はこの結核の病巣周囲充血を減少する働を持つているようである.即ちストレプトマイシンのみが病巣周囲充血を起すツベルクリン樣毒素に対して中和する生化学的作用を有するものと信ぜられる.(De Winter, L.: Acta tuberculosa Belgica 4018〜48 Feb. 1949)

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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