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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科5巻8号

1950年08月発行

雑誌目次

特集 蛋白・2

消化管術後生理と蛋白代謝

著者: 友田正信 ,   鶴丸廣長

ページ範囲:P.379 - P.383

1. 緒言
 外科医は胃に対して,その機能脱落を招来する樣な手術を日常行いながら,從来此等の手術に関し,手術手技に重点が置かれ,術後の消化機序. 延ては蛋白代謝の問題には殆んど考慮が拂われていない. 就中,胃全摘出後には胃機能が完全に脱落するから,術後代謝の変化を些細に観察し,その成績に基き,新しい立場から手術の檢討せらるべき事を強調するものである.
 然しながら,從来胃全摘後の消化吸收試驗に於ては,蛋白質を單にNとして定量し,此から計算せられたものであるから,N—平衡が正に保持せられていると云う成績が出ても,此等が果して正常な消化過程の下に蛋白質よりアミノ酸へと消化分解せられたNなのか又は腸内異常分解に依つて生じたインドール等の如き有害なNなのかが從来の報告では十分わからない. それで吾々は胃手術患者便の嚴密な分析を行うと共に,更に門脈血の分析を行つて精細な実驗をなし,蛋白代謝保持上,胃の有する重要な新しい意義を見出したのである.

外科領域に於ける蛋白代謝

著者: 砂田輝武 ,   弘中満 ,   塩田辨次郞 ,   小川新 ,   佐藤龜弘

ページ範囲:P.384 - P.390

I はしがき
 胃癌の外科に携わるものに今日なお2つの切実な悩みが残つている. その1は他の臟器癌にくらべ遠隔成績の芳しくないことであり,他は術後合併症や死亡例が胃十二指腸潰瘍等にくらべてはるかに多いことである. 永久治癒率の向上は今日の外科の水準から云えば早期診断に俟つより他に方法なく,從つて外科医のみに課せられた問題でない. これに対し直接成績の向上は手術法の改善もさることながら,どうしても術前術後の処置によるところが最も大きいと考えられ,しかもこれは外科医自身が解決してゆかなければならない問題である. 今日外科に来る胃癌患者は術前既にかなり栄養不全の状態にあり,しかも限られた日程の内に早期に手術を敢行しなければならない関係上,從来の術前術後療法では最近の日本の報告でも胃癌切除死亡率は15-20%という高い値になつている. ところが近着の米國文献ではこれが5%以下という驚異的数値をあげている. この良好な成績に至つた原因は種々あろうが,輸血及び蛋白を含めた手術前後療法の劃期的発達に負うところが一番大きいと考えられる. 日本の外科医が蛋白の問題に深い関心を傾けない限り米國の治療成績の域に到達出来ないのであつて,我々が胃癌患者の蛋白代謝について研究を始めた所以もこゝにある. 我々の研究の大要は本年4月第50回日本外科学会総会に共同研究として発表したが,こゝに紙面の都合上特に臨床家に必要な点を述べ御参考に供したい.

塩田先生を囲む会

アメリカの旅

著者: 塩田廣重 ,   大槻菊男 ,   都築正男 ,   金原一郎 ,   中谷隼男 ,   卜部美代志 ,   今田見信 ,   小林茂本

ページ範囲:P.391 - P.393

 塩田(卜部兵渡米の話から)專門家があちらへ往つて夫々の專門の方面を見学視察すれば大に得るところがあると考えるが僕は結核に就ては何も見て来なかつた. ト部君が結核の手術を見て来ることになつたことは悦ばしいことで收獲も多いであろう. 自分の樣にあちらに2日こちらに3日という工合なしかも臨床方面の視察が出来ないと云う状態の旅行ではこの方面の土産はない.

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先天性肺動脈狹窄(Fallot氏4主徴型)に対するBlalock-Taussig氏手術及びPotts-Smith氏大動脈肺動脈吻合術

著者: 井深健次

ページ範囲:P.398 - P.406

 胸腔内の臟器として肺臟は勿論縱隔洞内の胸腺,食道或は迷走神経,交感神経に対する外科手術は既に相当多数行われている. 又それ等はそれぞれ一定の手術として既に認められ且つその適應症も定まつて来ている.
 心臟に対しては,從来主として,その外傷或は心臟壁内異物(例えば留彈)に対する外科手術が施され,それに関する症例報告も可成の数に昇つておる. しかし,心臟自身の疾患の変化に対する心臟手術に外科医が直接に手を下すことは,既に多少は試みられてはいるが,未だ一般に認められるまでには至つてない. 勿論これまでに僧帽弁口狹窄などに対しては種々の手術が相当古くから試みられ,現在でもこれに対して,選択的閉鎖不全形成或は弁膜成形術などの手術法が考えられている1). しかし,これ等も現在のところでは未だ十分に発達してはをらないで,将来の研究に待つている状態である.

ボタロ氏動脈管開存に対する閉鎖手術

著者: 井深健次

ページ範囲:P.407 - P.413

 ボタロ氏動脈管(Ductus arteriosus Botalli)は胎兒の子宮内生活に於ては重要な意義を有しているが,ひとたび出生して母体外の生活に移り,肺臟の機能が開始されると,その必要性を失つて,退化閉塞する運命を持つに至るものである. しかし,この動脈管が時として出生後に於ても永く開存することがある. 即ちその場合には,これは心臟隣接大血管の1つの畸形に数えられる.
 その頻度は,Murrey氏が取扱つた心臟及び隣接大血管畸形患者60名中には11例(18.2%)が見られた. Bullock氏はLos Angeles County Hospitalの先天性心臟畸形症屍133例(21,000剖檢例中)に於てボタロ氏管開存のあつたもの36名(22.2%)を見出した. 更にBuroh氏1)はNew York Nursing and Child Hospitalの先天性心臟畸形症屍152例(54,842体の剖檢例中)中に16名(10.5%)あつたと報告している. Shapiro及びKeys氏2)は北米合衆國では約2万人に1人位の割合でその患者があるものと計算し,しかも大部分は小兒科で見受け,成人の患者を見受けることは非常に稀であるとしている. この動脈管開存は,先天性大動脈狹窄症の場合と異つて,女性に多く,その3分の2を女性が占めていると云われている.

手術後の発汗異常について

著者: 高木健太郞 ,   廣川潔 ,   細野耕爾 ,   島田久八郞

ページ範囲:P.414 - P.417

 I. 緒論
 久野1)により発見され,緒方2)はにれを系統的に研究して,鬱血又は鬱血の消散がその動機であると結論された半側発汗反射現象は,最近高木3)により,その動機は体部圧迫による反射であることが,種々の実驗により立証された. 著者等はこの温熱性半側発汗反射現象を臨床上に應用して種々の疾患又はその経過中に於いて,本反射の消失する場合を見出してその疾患の程度及び経過を知らんとし,又健康者については疲労と本反射の消失が何か関係があるかも知れないと云う予想をもつて,7月,8月の盛夏を利用して,広川・細野は本学桂内科,皮膚泌尿器科,外科の入院患者及び本教室員,学生,市内某小学校兒童の健康者について,又島田は國立柏崎療養所入所患者について発汗檢査を行つた.

大動脈鞍状塞栓の剔除

著者: ,  

ページ範囲:P.418 - P.419

 最近動脈塞栓症の診断,症状,治療が非常に進歩し,ここ10年間に塞栓剔除による四肢又は生命の救助例が多数報告1)されている. しかしこれは実地上それ程多いものではなく,1人で多数例を経驗することはない.
 最初に本手術に成功したのは1911年Lahey2)であるが,同年引続いてKeyによつて行われた. 既に1895年Abanejewがこの手術を試みたが不成功に終り,更に1895年から1911年の間にMoynihan,Stewart,Dober—auer,Murphy,Carell等の経驗がある. この分野に於てはScandinaviaで色々研究されたが,本式に米國,英國,カナダなどの外科医がこれを取上げたのは1927年である.

大動脈塞栓剔除—経腹腔式鞍状塞栓剔除の成功例

著者:

ページ範囲:P.420 - P.421

 そのままでは殆ど常に速かに致命的となる大動脈塞栓の剔除手術が劇的効果を挙げ得ることは一般に理解されている所である. 最近大動脈に対する手術操作が非常に進歩したが,塞栓除去に成功したのは1943年Keenley1)によるとまだ21例を数えるのみで,氏はこれに1例を追加している. 私はここに1例を報告してその稍々特異な点を考察し,早期診断並に治療に一つの新しい注意を加えたいと思う.

肺動靜脈瘻—文献的考察並に2例報告

著者: ,   ,  

ページ範囲:P.422 - P.425

 最近先天性且つ屡々家族的に発生する肺動靜脈瘻が多数発見されるようになり,臨床的に診断され外科的に治療された症例報告が文献に散見される,本症は血管腫,海綿状血管腫,動靜脈瘤(Arteriovonous Varix or Aneurysm)などとも呼ばれ,恐らく広汎な轉移を来す稀な肺惡性血管腫とは無関係のものと思われる,良性先天性肺血管腫は総てRendu-Osler-Weber氏病即ち遺傳性出血性血管拡張症,或はむしろ遺傳先天性血管腫症と呼ぶべきものとその本態は同じもののようであるが,唯皮膚並に粘膜の病変を欠く場合がある,家族的発生は隔世遺傳のため証明し得ないこともあり,遺傳的関係に就ては最近Moyer and Ackerman1)により檢討されている,
 肺動靜脈瘻(瘤)は剖檢上既に古くから注意され,1897年Churton2),1917年Wilkens3),1923年de Langeand de Vries Robles4),1932年Readings5),1938年Rodes6)などの記載が見られる,臨床的に診断されたのは1939年Smith and Horton7)が最初であり,又1942年Hepburn and Dauphinee8)により始めて手術治療として肺剔除が行われた,吾々が文献上蒐集し得た報告例は41例,手術施行例は23例であるが,ここにその2例,手術施行例1例を追加報告する,なお外に吾々の知つている未報告例数例だけでも.Dr. Brian Bladesの2例その他数例がある.

集会

著者: 編集部

ページ範囲:P.427 - P.427

◇第489回東京外科集談会 昭和25.7.21
 1. 老人性膝関節部の巨大な結核性嚢腫         東京女子医大 永瀬十郞
 71歳,男,2年前よむ右膝関節部に大なる嚢踵性の腫瘤を生じ,穿刺液は粘稠黄色. レ線像に脛骨粗面部破壤像. 切断術後の檢索によるに関節に無関係なる結核であつて冷膿瘍の内容は150ccである.

外科醫のノート

眼医者の希望

著者: 中島実

ページ範囲:P.426 - P.426

 眼科もやはり外科の一部と考えてよいのであるが,一般の外科と異るところは手術の時の仕事か甚だ細かいことと,割合に化膿しにくいが一度化膿したら全く取返しのつかぬ眼球の潰滅を来すということ,常に機能の恢復ということに重大な関心をもつて居なければならぬということなどであろう.
 特に眼科では,此の機能の保存ということが量も大切なことであるということは,眼科そのものの目的が視覚の葆存であるという点を考えて見てもわかるであろう.然るに時々外科で眼部まで手術せられた場合に眼の機能とい5ことに殆ど考慮が拂われていないかに見えることがあるのは誠に残念だと思う.最近邁遇した例にも,顔面の表皮癌の手術の時に眼瞼から眼窩まで充分に切除された後に,この欠損部を埋めるのに,大きな無根皮弁を移植してあつたが’この皮弁が直接眼球に癒着して,眼球は全く動かなくなつて,眼を開けると複親が起り且つ眼球を動かそらとすると引つ張られる感じが起り,甚だしい苦痛を訴えていた患者があつた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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