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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科5巻9号

1950年09月発行

雑誌目次

特集 蛋白・3

外科臨床に於ける蛋白質補給

著者: 堺哲郞 ,   坂田実 ,   宇佐美平八郞 ,   百井健二 ,   鳥居俊夫 ,   小熊盛茂

ページ範囲:P.457 - P.463

(1)
 生命の存する限り,生体の代謝は一刻も休止していない. 從つてこの代謝の問題は生理的條件下に於てのみならず,病態下に於ては尚ほ一層藥物療法や手術療法と同樣に重大である筈で,この方面の研究を無視したまゝ病態や治療を論ずることはいさゝか当を得ないと考えるのである. 周知の樣に生体の代謝には6つの要素即ち水,電解質,ビタミン,糖質,脂質,蛋白質が必要であることは申すまでもないが,これらの中,水や電解質は循環血量や心機能に顯著な影響を及ぼすため,その不足は特別な檢査をしなくても気付かれ,又補給も比較的容易であり,補給が合理的に行われゝば,それだけ効果は顯著であるため,少くとも吾々外科領域では実際問題としては不完全な点も絶無ではないが大体実用的に取扱われている. 又ビタミン,糖質の補給も容易で,且つかなりの充分量が與え得るのである. 脂質の非経腸的補給さえも最近少しづゝ成功しつつあるようであるが,一方生体には脂肪組織としての貯臟はかなり豊富であり,しかもこれをカロリー源として利用し,相当度消耗しても生体の生活機能には実際的の障碍をおこして来ない.
 これに反し蛋白質は組織細胞の欠くべからざる構成材であり,言いかえると生活現象の基盤でもある.人体の臓器組織の構成に蛋白質が相当にあづかり,その全保有量はなる程極めて大量ではあるが,それは生活機能の遂行に不可欠な要素として存するものであり,蛋白質が一旦欠乏して来ると,右から左えとあたかもカロリーの不足を脂肪組織の貯藏が直ちにそれを融通してくれる樣な同じ性質のものではない.ビタミンCの不足が2〜3ヵ月間持続していてもビタミン数mgを数日間も補給すればこの欠乏の状態は直ちに正常に恢復せしめることは可能であるが,かりに蛋白質が500gm不足しておつたとしたら,250gm宛蛋白質を2日間補給すればその低蛋白の状態を克服し得るかと云うと,決してその樣なことはあり得ない.即ち蛋白質は生体にとつて極めて大切なものである反面,一旦これが欠乏して来ると,他の代謝の要素と違つてその取り戻しは仲々容易なことではない.尤も極端な饑餓の状態が持続すると,その最惡の事態に應じて或る程度止むに止まれぬ危急な要求として血漿蛋白や赤血球も合成せられたりすることを裏付ける動物実驗1)はあるにはあるが,日常,蛋白質を間断なく補給しておらねば,正常の生活現象は合理的に遂行出来ないのである.

外科領域に於ける蛋白代謝

著者: 濱光治

ページ範囲:P.464 - P.467

緒言
 外科領域に於ける蛋白代謝の問題については古くより論議せられて居るが戰後アメリカ医学の動靜が判明すると共に我國に於ても此の問題について種々の研究が行われ,最近蛋白代謝と脳下垂体,副腎機との関係が判明するに及んで茲に新しい段階に達したものと考えられる. 私は実驗的及び臨床的低蛋白症について血漿蛋白の消長及び内分泌系(殊に副腎)並びに蛋白代謝に密接な関係があるものとみられる肝臟の態度を中心として外科的侵襲による影響を知らんとした.

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外科に於ける肝藏機能檢査法

著者: 福田保 ,   坂本馬城

ページ範囲:P.429 - P.440

 肝臟は,胆汁の生成・解毒・体全体の新陳代謝への寄與と云うような頗る広汎な分野の機能をいとなんでおり,他臟器の機能とも密接な関係があるので,肝臟の障碍は反映して他臟器に,他臟器の障碍は又逆に肝臟の障碍を引き起す樣になる.
 肝臟は又機能的余裕の多い臟器で,たとえ障碍を受けても,残された4分の1が正常に機能を営む間は,障碍が潜伏していて表面に現われない程代償力が旺盛である.

癌の診断

著者: 中川諭

ページ範囲:P.441 - P.444

 癌の診断は甚だ古くて而もまた常に新らたな問題である. 蓋し癌は現在の段階では全く致命的疾患であつて,早期診断に基く早期剔出以外は,これを助ける術策がないからである.
 癌の診断に対しては,從来二つの方向に向つて研究の歩が進められている. その一つは癌がどの臟器やどの部位に発生しているかという局所診断を問題としないで,身体の何れかに癌が発生しているか否かを決定しようとする努力であり,その二つは胃癌が発生していないか,発生しているとすればそれが確実に癌であつて,その発生部位は何処であるかと決定し,それと類似の所見を呈する他の疾患と鑑別するのに利用され得る診断法の発見への努力である.

全膀胱剔除術の最近の傾向,及びその自家経驗

著者: 楠隆光

ページ範囲:P.445 - P.449

 1940年以来アメリカを始め欧米各地で盛んに施行され出した主として膀胱癌の場合の全膀胱剔除術に就て,私は既に2,3の自分の経驗と共にその術式及び現状に就て発表した. 今回は主として1949年後半から後の文献的考察と共に,全膀胱剔除術を施行した私の15例の症例に就て述べて見度い.

術後の胃持続吸引法

著者: 梶谷鐶 ,   堀政登

ページ範囲:P.450 - P.454

 腹膜炎,イレウス等の際の胃,腸管膨満に対し,Wes—termann1)(1910),Kappis2)(1911)等一部学者は古くより胃のサイフォン吸引法を施行し,好成績を收めたことを報告した. 然し本法は胃内ガスのため吸引が中断され,注意を怠ると鼓腸の緩解は不充分となる恐れがあるとされ,又Kappisは吸引管による患者の苦痛,咽喉,食道の傷害を尚重大視している.
 当時は吸引管としてEinhornの十二指腸ゾンデ,Gutte管等が使用されたから,ゴム管が柔軟で細く,手術後の如く濃厚な胃内容の場合は殊に管の詰る危險が甚だ多い. Levine3)(1921)は吸引が容易で而も患者が長時間留置に堪え得る樣に吸引管を改良した. 之が今日Levineの十二指腸ゾンデとして一般に使用されているものである.

頭部外傷に因る視力障碍に対する療法

著者: 竹內幸孝

ページ範囲:P.455 - P.456

 頭部外傷時就中頭蓋底骨折に伴つて起る視力障碍は脳に於ける中枢より視神経索,視神経を経て眼球に至る間の何等かの変化によるものと考えられる. V. Hölderは法医学的立場から檢査の結果斯るものは頭蓋底骨折に因る視神経の損傷を其原因として考慮する要があるとした. 即ち剖檢に於て視神経管に骨折が認められた53例中42例に於て視神経の離断,挫滅,或は視神経鞘内出血を認めたのである. またBattleは頭蓋底骨折168例中8例(4.7%)に視神経損傷と考う可き所見があつたと云い,Graefe-Saenischによつても直後死亡せるものを除外せる頭蓋底骨折715例中26例(3.6%)に於て視神経萎縮即ち視力の障碍を認めたと称し,Uhthoffも亦臨床的にみた視神経萎縮の原因として頭蓋底骨折其の他の外傷性のものが3%あると云う. 即ち数字的に非常に近似している.
 視神経は狹い視神経管を通過する関係で頭蓋底骨折時には其の部に於て種々の程度の影響を特に受け易いことも考えられる. 更に解剖学上脳質の突出部と見做されている視神経は末梢神経と異り損傷に際して再生現象を期待し得ない. 從つて視神経の離断,挫滅によつて起つた視力障碍に対しては処置はないのであるが神経内の出血,神経鞘内の出血或は血腫に基く視力の障碍に対し加療の適應ある場合は有るまいと云う訳である.

基礎的外科問題講演及討論會

ページ範囲:P.470 - P.472

10月17日(月曜)午後 座長 W. H. Cole教授
主題 胆嚢及膵臟外科,泌尿器外科,整形外科,成形手術

米國外科

ページ範囲:P.473 - P.473

SURGERY GYNECOLOGY & OBSTETRICS
 Vol. 90. No. 2. Feb. 1950.
1. Fraoture of Ribs; A Logical Tratment. Coleman, F. P., & Coleman, C. L.……129

集会

ページ範囲:P.474 - P.475

斎藤教授追憶 東海外科集談会春季総会(第32回)
昭和 25.5.28
 ◎開会の辞
 ◎一般演題(午前)
1.吾が教室に於ける閉塞陸靜脈炎の統計          名大戸外 梶 田 武 夫
2.同       顎腫瘍の統計          同    白 谷 二 郎

今月の小外科・7

植皮術

著者: 植草實

ページ範囲:P.468 - P.469

 植皮術(遊離皮膚移植術)は創傷療法,成形術の一として重要な部分を占め日常屡々行われる. 即ち外傷殊に第三度熱傷,その他の大きな肉芽創に或は手術,瘢痕成形等による新鮮皮膚欠損創に広く應用される. 熱傷等大きな創傷では肉芽完成,表皮再生を待期する時は長時日を要し,或は体液め損耗を来し,又結合組織層の形成によつて創傷治癒が困難となる場合がある. 從つてこの際健康肉芽が形成されゝば直ちに皮膚移植を行つて治癒期間の短縮をはかり化膿を予防するのが合理的である. その他顏面醜形,関節特に手指の瘢痕攣縮の成形に際しては單なる成形術では不充分なることが多く,健康皮膚の移植によつて初めて目的を達するのが普通である.
 通常植皮術は同一個体に於て身体の一部から他の部分に行われる. 同種間では一旦成功しても間もなく剥脱消失するのが普通で一卵性ふたご間を除いては永久的には成功しない.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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