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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科50巻10号

1995年10月発行

雑誌目次

特集 多臓器不全—患者管理の実際

多臓器不全患者の病態生理

著者: 中村紀夫

ページ範囲:P.1259 - P.1263

 多臓器不全に対する新しい概念が示され,病態生理に関する進歩と相俟って集中治療の対象として考えられるようになってきた.新しい概念としてのSIRS/MODSは重症感染症や外傷などの侵襲に対する全身性の反応であり,血中のサイトカインのレベルが過剰に上昇することにより引き起こされる.この状態が持続することにより臓器障害としてのMODSへ至り,重篤な不可逆的障害をもたらすことになる.この過程でのエンドトキシンをはじめとするケミカルメディエーターの役割が明らかになり,好中球の活性化により遊離する活性酸素やエラスターゼが直接的に主要臓器の細胞障害をもたらすとされる.しかし,生体内に存在する様々なメディエーターのコントロールについては,治療面を含めて今後検討すべき問題も多い.

多臓器不全患者の評価

著者: 田中孝也

ページ範囲:P.1265 - P.1271

 多臓器不全では金身状態やその重症度を正しく評価し,すばやく治療に結びつける必要があるが,本病態が種々の原因で発生するため,これらを画一的にとらえるには因難な面がある.全身状態の評価としては本病態をSIRSの概念,すなわち循環動態,酸素代謝,ホルモン,エネルギー基質などの変動やhumoral mediatorの変動をもとにして考えると比較的評価しやすい.予後の危険因子としては,年齢,臓器不全数,出血量,感染,基礎疾患,施設の対応などが挙げられる.現在,多臓器不全の重症度を的確に評価する方法はない.臓器不全数や敗血症の評価法など,過去に報告された評価法をもとにして独自に評価する以外にない.

多臓器不全患者の呼吸不全対策

著者: 原口義座

ページ範囲:P.1273 - P.1278

 多臓器不全(MOF)では急性呼吸不全がしばしばみられ,呼吸器はMOFの重要な対象臓器(target organ)である.本稿では,急性呼吸器不全のなかでも特に重要な成人呼吸窮迫症候群(ARDS)を中心に述べた.ARDSの発症には,重度ストレス,エンドトキシン,生体内の好中球,微小血栓などの凝固因子が関与する.アラキドン代謝産物,サイトカイン・メディエーター,oxygen free radicals,NOなどが放出され,肺毛細血管,肺胞上皮の透過性が亢進し肺胞虚脱をきたし,最終的に低酸素血症を呈するものと考えられる.原因病態には,重症感染を合併するものと合併しないものがある.呼吸不全の対策に関しては,呼吸管理の実際を中心に述べた.

多臓器不全患者の循環管理—酸素需給バランスからみた循環管理

著者: 行岡哲男 ,   太田辰 ,   徳永尊彦 ,   肥留川賢一 ,   松田博青 ,   島崎修次

ページ範囲:P.1279 - P.1283

 正常では,酸素消費量(VO2)は酸素供給量(DO2)に依存しない.しかし,DO2が低下し臨界値以下となると,VO2はDO2に依存し減少し酸素負債が発生する.心原性や出血性ショックに伴う多臓器不全を回避するには,低下したDO2を増加させる循環管理がいる.これには,心拍出量,動脈血酸素含量を増加させる必要がある.多臓器不全の典型的な背景病変である敗血症では,DO2の臨界値とVO2がともに上昇する.このとき,DO2をできるだけ高く維持する積極的な循環管理は未だその効果に関し意見の一致はみられない.ただし,明らかなDO2の低下は避けるべきであり,循環管理を行うべきである.

多臓器不全患者の血液浄化法—CHDFの有用性について

著者: 菅井桂雄 ,   平澤博之 ,   大竹喜雄 ,   織田成人 ,   中西加寿也 ,   北村伸哉 ,   松田兼一 ,   河邊統一 ,   上野博一 ,   貞広智仁 ,   當間雄之 ,   横張賢司

ページ範囲:P.1285 - P.1293

 血液浄化法(BP)は近年目覚ましい発展を遂げ,特に持続的血液濾過透析(CHDF)の確立はBPを単なるartificial supportからMOF患者管理の根幹を担う治療法へと変換せしめBPの概念を大きく変えた.MOF症例に対して施行されたBPは,血液透析,持続的血液濾過,CHDF,血漿交換,血液吸着,血漿吸着,腹膜透析,ポリミキシンB固定化fiberを用いたエンドトキシン吸着の8種類であり,患者の病態に応じて単独に,または組み合わせて施行された.なかでもCHDFは,機能不全に陥っている臓器のartificial support,homeostasisの維持,栄養管理,自己防御機能の賦活・維持,細胞障害の予防および治療,各種humoral mediatorの除去などを目的に施行され,MOFの治療の原則にかなうBPとしてきわめて有用である.

多臓器不全患者の栄養管理

著者: 山田裕彦 ,   遠藤重厚 ,   鈴木智之

ページ範囲:P.1295 - P.1299

 MOF患者を管理する場合,呼吸や循環の管理はもちろんのこと,代謝も破綻している場合が多く,栄養管理にも注意が必要である.そこで,基礎疾患,病態,間接熱量測定や生化学的指標などを参考にエネルギー消費量や消費エネルギー基質を的確に判定し,より生理的な方法で必要なエネルギーを投与することが重要となってくる.投与エネルギー量としては,BEEの1.5倍程度,REEの1.2倍程度が適当と思われ,カロリー/窒素比が200〜300程度が適当と思われる.脂肪の投与に関しては様々である.最近,様々なエネルギー基質や栄養に関する薬剤の効果が検討されており,今後の栄養管理に利用されることが期待される.

多臓器不全のメディエーター対策

著者: 若林剛 ,   島津元秀 ,   吉田昌 ,   唐橋強 ,   隈元雄介 ,   納賀克彦 ,   北島政樹

ページ範囲:P.1301 - P.1306

 多臓器不全の成因として,全身性の過剰炎症反応が注目されている.ひとたび全身性の過剰炎症反応が起こると好中球—内皮の相互作用から臓器の微小循環障害が惹起され,患者は臓器障害から死に至る.敗血症患者の生体反応として全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory re-sponse syndrome:SIRS)という概念が提唱されているが,これは重症膵炎,外傷,熱傷,移植,さらに過大侵襲手術後の病態をも包括する.SIRSにおける炎症性メディエーターの重要性が明らかになり,炎症性メディエーターを制御することによりこれらの病態を修飾・治療できる可能性がある.多臓器不全のメディエーター対策につき概説する.

症例報告:破裂性腹部大動脈瘤患者の治療経験

著者: 益子邦洋 ,   木村昭夫 ,   久志本成樹

ページ範囲:P.1307 - P.1310

 出血性ショックを伴った破裂性腹部大動脈瘤の術後に多臓器不全を合併し,集中治療により救命し得た症例を報告した.症例は71歳,男性.突然の背部痛,下腹部痛を主訴として近医入院したが,ショック状態に陥り当センターへ転送となる.破裂性腹部大動脈瘤の診断で緊急開腹し,人工血管置換術を行ったが,術後に心不全,呼吸不全,肝不全,腎不全が出現し治療に難渋した.しかし,カテコールアミン投与,人工呼吸管理,血漿交換,血液透析などの施行により全身状態は改善し軽快転院した.本症は全身の動脈硬化を基盤として発症するため,術後にしばしば多臓器不全を合併し予後不良の原因となる.それゆえ,血液浄化法やきめ細かな全身管理が重要である.

症例報告:重症広範囲熱傷患者の治療経験

著者: 奈良理 ,   今泉均 ,   浅井康文 ,   鹿野恒 ,   森和久 ,   伊藤靖 ,   金子正光

ページ範囲:P.1311 - P.1317

 熱傷は日常診療で遭遇する比較的頻度の高い疾患であるが,その程度は外来通院でよいものから集中治療管理を必要とするものまで様々である.特に重症広範囲熱傷患者の治療には,初診時における重症度の診断と適切な初期治療が重要となる.さらに,経時的に推移していく病態を理解したうえで,臓器障害に陥らないように先手を打つ治療が必要となる.そのためには,呼吸・循環管理のほか,代謝・栄養管理を含めた広範囲な知識と患者管理技術とともに,長期間におよぶ綿密な患者管理を行ううえで多くのスタッフの協力が必要である.

カラーグラフ 内視鏡下外科手術の最前線・10 胃・十二指腸

Hill法による腹腔鏡下迷走神経切離術

著者: 金平永二 ,   森明弘 ,   大村健二 ,   渡辺洋宇

ページ範囲:P.1251 - P.1256

はじめに
 開腹手術を受け,美容障害や疼痛,一定期間の社会活動制限という犠牲を強いられたにもかかわらず再発率が低くないという事実1)が,慢性十二指腸潰瘍に対する迷走神経切離術を消極的にしてきた.さらには,H2ブロッカーやPPIに代表される強力な抗潰瘍薬の出現はこの傾向に拍車をかけた.一方では,腹腔鏡下手術の技術を応用し,開腹手術に伴うデメリットを軽減し,外科手術に取り組む動きもみられる.われわれは,1994年7月15日から現在までに16例の慢性十二指腸潰瘍症例に対して,腹腔鏡下にHill法(後幹切離+前枝選択的近位迷走神経切離:図1)迷走神経切離術を行った.本稿では,われわれが行っているHill法による腹腔鏡下迷走神経切離術の術式と,現在までの臨床成績を呈示し考察を加える.

病院めぐり

千葉市立海浜病院外科

著者: 太枝良夫

ページ範囲:P.1318 - P.1318

 千葉市立海浜病院という名前が示すように,病院の敷地から道路一本隔てて海が広がっています.病室からは色とりどりのウインドサーフィンのセールが花を咲かせたように間近に見え,大都会の喧騒たる街中の病院に比べ周囲の環境は抜群で,病院のすぐ側には全国的に有名な幕張メッセ,高層ビルの建ち並ぶ幕張新都心があります.
 東京湾に面する千葉市の埋め立て事業により広大な海浜ニュータウンが誕生し,第二の市立病院(ほかに千葉市立病院があります)として昭和59年10月1日,千葉市立海浜病院が開設され,発展する千葉市の基幹病院として着々と充実・強化されてきました.

公立甲賀病院外科

著者: 井田健

ページ範囲:P.1319 - P.1319

 当院は,病院名が示すように甲賀流忍術発祥の地,甲賀(鹿深)の里にあり,琵琶湖の南東部に位置し,東に鈴鹿,西に遠く比良山脈を眺める風光明媚な田園地帯にあります.その滋賀も農業から内陸工業を兼ね備えた県へと次第に脱皮し,遅れていた高等教育環境も滋賀医大,国立および県立滋賀大,立命館大理工学部,龍谷大などにより次第に充実,このような県の変貌の結果は甲賀地方をも近年目覚ましく変えつつあります.
 さて,当院は昭和14年に70床の農業組合系の病院(内,外,眼科)として発足し,昭和56年に名称を公立甲賀病院と改め,現在では478床,診療科18科,常勤医師数44名の広域7町々立の病院です.最近では約14万人の甲賀郡全域と約2〜3万人の周辺部を診療圏に含み,地域の中核病院の役目を担っています.しかし,当地から比較的近くに滋賀医大や県立成人病センターなどの基幹病院があり,診療圏が一部重なり,したがって近年変貌の著しい医療技術を積極的に取り入れた内容の外科で,住民の要望に応えるべく努力しています.

臨床外科交見室

公立病院管理者サイドからみた医師のあり方

著者: 小代正隆

ページ範囲:P.1320 - P.1320

 近年,国公立病院の存在意義から統廃合を含む将来のあり方が問題となっている.その背景には,経営面の問題が主な要因となっている.国公立病院の目的として,(1)政策的医療を地域分担する,(2)救急医療の後方病院として救急医療を行う,(3)無医・無床地域で,市町村や私立の医療機関では財政的に困難な僻地医療を行う,(4)伝染病,結核,重症精神病などの社会的防衛医療を行う(予防保健やリハビリテーションなど),(5)不採算な高度医療,地域医療研修センターや医師生涯教育研修の場として特殊・先駆的医療を行う,などを挙げることができる.
 しかし,わが国の医業は自由開業制が基本のため,公立病院は公営企業として独立採算制を旨とする.だが,実情は国庫や地方自治体の財政からの繰り入れ金で補填されている.にもかかわらず,自治体病院の7割強が赤字経営で,年々繰り入れ金が膨大となり財政を圧迫しており,病院の経営改善が急務となっている.この問題には多くの要因があるが,1つには,医師側にも問題がある.病院管理者として,勤務医に対して望むべき姿を思いつくままに記してみたい.

医師過剰時代と研修医

著者: 浅海秀一郎

ページ範囲:P.1321 - P.1321

 私たちが医学部を卒業した昭和40年代前半に,インターン廃止の青医連運動が起こりました.この運動は新しい研修医制度を生み,卒後2年間の研修期間に対して身分の保証をするという意味ではそれなりの役割はあったと思います.しかし,その研修方法は細部にわたり定められておらず,臨床経験がないまま卒後すぐに専門教育へと流れ,この間,各診療科を回る研修方式は一部の機関だけであり,明確な指針がないのをとても残念に思います.
 このことは,すべての医師が専門医となったとしても,広範な初期治療,あるいはこれからの高齢化時代における在宅医療などを考えると問題は解決しえないし,将来の医療二極化を推測すれば早急の対策が必要です.すべての制度は約30年経過すれば「制度疲労」として問題を呈示します.これは「歴史の理」のようです.ましてや,現在では施設により研修希望者と研修医枠にアンバランスがあるようです.この研修病院や予算枠は,国だけで無理ならば,研修施設審査基準を緩め,総合病院を称する地方自治体立病院なども考慮すればよいのではないでしょうか.また,医師過剰は当時の保険医総辞退運動から派生し,その後に導き出された各県1医大構想の結果ですが,今後は定員削減問題が必ず起こってくるでしょう.定員減については,当時の国立大学の定員は約60名でしたから,国立大学においてはある程度は可能でしょう.

メディカル・エッセー 「残りの日々」・10

久須利志

著者: 和田達雄

ページ範囲:P.1324 - P.1325

中学生の孫が急に言葉に興味を持ちはじめた.下手な駄洒落をとばしては悦にいっている.いいことだと思っていたら,いきなり
「お爺ちゃん.薬はなぜくすりというか」

私の工夫—手術・処置・手順・14

異時性原発性大腸癌切除における有茎小腸パッチによる修復

著者: 直江和彦 ,   熱田友義 ,   矢野諭

ページ範囲:P.1326 - P.1326

 本邦における大腸癌症例の激増は周知の事実であり,日本人の食生活の欧米化,診断技術の進歩,本疾患に対する認識の高まりなどが理由とされている.さらに,治療成績の向上ならびに平均寿命の延長にともない,異時性原発性大腸癌症例に遭遇する機会も増加傾向にあり,近年の大腸癌治療における大きな問題となっている.
 当科では,異時性原発性大腸癌に対する治療方針として,進行癌はもちろん早期癌においても,①内視鏡的切除にて癌の遺残が疑われた場合,②sm癌である場合,などの症例に対し積極的に腸切除を行う方針としている.しかしながら,初回手術時の広範なリンパ節郭清や縫合不全をはじめとする感染性合併症,さらに多数回におよぶ開腹既往などに起因する剥離困難な腹腔内癒着のために,腸切除すら十分に行えない症例が散見される.われわれは,そのような症例に対して,腫瘍部を切除したあとに近接する小腸を有茎に用いるパッチにて切除部を閉鎖し,良好な結果を得ているので紹介する.

イラストレイテッドセミナー・19

はじめての腹会陰式直腸切断術 Lesson4

著者: 篠原尚

ページ範囲:P.1327 - P.1337

 27.腹壁を3層に縫合閉鎖し,創ガーゼをあてたあとストマを固定する.リニアカッターの針部分を切り落として開放し,皮膚との間で3-0 Vicryl detachを1〜2針ほどかける.皮膚固定の際,腸壁の一部に一度針をかけると突出型のストマができる.

「腹会陰式直腸切断術」に対するコメント

著者: 武藤輝一

ページ範囲:P.1338 - P.1339

はじめに
 本稿は腹会陰式直腸切断術の手術手技であるが,神経温存術式であることをご承知おきいただきたい.手術手技の大要については異なるところはないが,細かい点では異なるところがあるので,この点について申し上げたい.

綜説・今月の臨床

再発乳癌の治療

著者: 元村和由 ,   野口眞三郎 ,   稲治英生 ,   小山博記

ページ範囲:P.1341 - P.1352

I.はじめに
 乳癌の再発に対していかなる方法で治療を行おうとも再発後の平均生存期間は2〜3年で,10年以上の生存が得られるものは10%程度に過ぎないとされ,治癒にいたる例はごく少数である1).この事実を踏まえ,各々の病態によりいかに最小の毒性で最大の効果を得て症状の軽減とquality of life(QOL)の向上をはかることができるかが治療法を選ぶ鍵となる.また,単一の治療法で仮に効果が得られても,多くはいずれprogressive disease(PD)となるためにsecond line,third lineの治療を念頭に置いてfirst lineの治療を選択すべきである.
 治療法選択の重要な因子の1つに再発初発部位がある.再発後の化学療法の有効率は軟部組織で55%,内臓病変で40%と再発部位で差を生じる.これについてKambyら2)は,(1)再発診断時の腫瘍量は軟部組織のものでは少なく,内臓病変で多い.癌細胞は指数関数的に増殖し,宿主の栄養供給が減少すれば休止する.したがって,増殖の盛んな時期にある軟部組織の小腫瘍に対し化学療法はより効果的で,細胞増殖がplateauになりつつある内臓病変には効きにくい.(2)軟部組織の再発病巣の計測は内臓病変に比べ容易であり,したがって有効率が内臓病変より高めに評価されるため,と説明している.

臨床研究

当科における乳癌標準術式としての乳頭温存手術—その短期治療成績について

著者: 尾浦正二 ,   櫻井武雄 ,   吉村吾郎 ,   玉置剛司 ,   梅村定司 ,   粉川庸三

ページ範囲:P.1355 - P.1360

はじめに
 本邦における乳癌標準術式は,この10数年の間に定型的乳房切除手術から非定型的乳房切除手術に変化を遂げた.さらに,早期乳癌の一部の症例には,乳房温存治療が一定の比率で行われるようになってきている1).われわれの施設でも,これまでに乳頭ないし乳房温存手術を積極的に施行してきた.特に乳頭温存手術に関しては現在までに400例以上を経験し,すでに当科における原発性乳癌の標準術式となっている.
 当科において手術可能乳癌の8割以上の症例に乳頭を温存するようになってほぼ5年を経過したので,標準術式としての乳頭温存手術の意義および問題点を,短期ではあるが治療成績に基づいて検討したので報告する.

臨床報告・1

脾類上皮嚢胞の1例

著者: 大内慎一郎 ,   瀬戸泰士 ,   花岡農夫 ,   工藤保 ,   李力行 ,   田中雄一

ページ範囲:P.1361 - P.1364

はじめに
 脾嚢胞は稀な疾患であるが,近年の日常診療における超音波検査,CTスキャンなどの画像診断の向上により容易に診断され,今後増加するものと考えられる.したがって,脾嚢胞性疾患の特性を把握し,鑑別診断を行い,さらに手術適応を決めることが重要である.
 今回,脾類上皮嚢胞の1例を報告するとともに,他の脾嚢胞性疾患との鑑別点と手術適応について文献的考察を加え検討した.

ソマトスタチン産生十二指腸カルチノイドの1例

著者: 加藤博久 ,   梅北信孝 ,   大島武 ,   宮本幸雄 ,   真栄城剛 ,   山田福嗣

ページ範囲:P.1365 - P.1369

はじめに
 ソマトスタチン産生腫瘍(somatostatinoma)1)は稀な疾患で,主に膵,十二指腸が発生母地である2).本邦では,十二指腸原発例の報告は11例2-6)のみであるが,カルチノイド症候群を伴った報告はみられない.今回われわれは皮膚紅潮発作・糖尿病を呈し,術前診断し得たソマトスタチン産生十二指腸カルチノイドを経験したので報告する.

上大静脈症候群に対し右内頸静脈—大腿静脈間バイパス術が奏効した1例

著者: 岡本哲也 ,   錦見尚道 ,   桜井恒久 ,   池沢輝男 ,   矢野孝 ,   二村雄次

ページ範囲:P.1371 - P.1374

はじめに
 上大静脈症候群は,悪性疾患や縦隔炎,血栓症によって上大静脈が外因性・内因性に狭窄または閉塞した結果,静脈還流障害をきたし,上半身のうっ血が惹起される徴候を示す1).今回われわれは,原因不明の上大静脈症候群で脳浮腫をきたした症例に対して,緊急手術としてリング付expanded polytetrafuluoroethylene(ePTFE)グラフトを用いた内頸静脈〜総大腿静脈間バイパス術を施行したところ,著明な臨床効果を得たので報告する.

肝区域欠損を伴い,癌を合併した肝内胆管拡張症の1例

著者: 小森山広幸 ,   岡田孝弘 ,   及川博 ,   橋詰倫太郎 ,   井原朗 ,   萩原優 ,   山口晋

ページ範囲:P.1375 - P.1379

はじめに
 胆管拡張症に癌が発生することはよく知られている.今回われわれは,肝外側区域欠損を伴い,胆管癌を合併した左胆管枝嚢胞状拡張症を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

臨床報告・2

左外鼠径ヘルニアに併存した子宮内膜症の1例

著者: 橋本良造 ,   鈴木勝一 ,   中山隆 ,   渡辺治 ,   原川伊寿 ,   小栗久典

ページ範囲:P.1380 - P.1381

はじめに
 骨盤外子宮内膜症は多彩な部位に発生しうるが,そのなかでも鼠径管に認められることは稀とされている1,2).鼠径部腫瘤にて手術を行ったところ,外鼠径輪に相当する部位のヘルニア嚢部に発生した子宮内膜症の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

手術手技

小児腹腔鏡補助下卵巣奇形腫摘出術

著者: 腰塚浩三 ,   武藤俊治 ,   中込博 ,   高野邦夫 ,   神谷喜八郎 ,   多田祐輔

ページ範囲:P.1383 - P.1385

はじめに
 腹腔鏡下手術はminimally invasive surgeryで,患者のquality of lifeからも多くの施設で行われている1,2).小児外科領域においては最近になって応用が試みられるようになってはいるが,その適応や手技についていまだ確立されていない点も多く,当科では小児卵巣奇形腫に対し妊孕性を考慮し腹腔鏡補助下に卵巣を温存する奇形腫摘出術を行っており,きわめて有用と考えられたので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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