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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科50巻12号

1995年11月発行

雑誌目次

特集 消化器癌手術における皮膚切開と術野展開の工夫

胸部食道癌手術—胸腔鏡下食道切除ならびにリンパ節郭清法

著者: 赤石隆 ,   金田巌 ,   樋口則男 ,   西平哲郎 ,   森昌造 ,  

ページ範囲:P.1401 - P.1404

 胸部食道癌の切除ならびに縦隔リンパ節郭清を胸腔鏡を用い行った.術野の展開にあたりつぎの工夫を行った.1)十分に左側まで操作を及ぼすために必要な侵入角を設定した.これを確保するため2)肺靱帯および縦郭胸膜に数針かけたのち糸をトロッカー以外の胸壁から誘導,牽引し肺の排除と縦郭の挙上を行った(Marionette Technique).結果として助手が有効に手術に参加することができた.初期の14例の胸部操作には平均3時間あまりを要し,得られた後縦郭のリンパ節は約20個であった.開胸に移行した例はなかった,術後の呼吸機能については長期的な検討を要するが,1か月で肺活量,1秒量ともに術前の84%であった.呼吸機能が従来の開胸手術を上回れば胸腔鏡下食道切除術は標準的手術となると考えられる.

胸部食道癌手術—胸骨切開を加える胸部食道癌切除術

著者: 三富利夫 ,   幕内博康 ,   町村貴郎 ,   水谷郷一 ,   島田英雄 ,   佐々木哲二 ,   田島知郎

ページ範囲:P.1405 - P.1410

 食道癌の外科的治療は歴史的に大きな流れがあり,1990年代に至るまで郭清術の拡大に向かったが,同時に侵襲を軽減する手術が模索された.診断機器についても,その能力,精度がきわめて向上したため根治性の強化を支持したが,このことは小病巣,表在癌病巣の診断,その病態の解析が進み,局所的治療を可能としつつある.しかし,本項のテーマの対象となる現在の臨床例の多くが,未だに進行癌が多いことから,胸部食道癌の進行例で,かつ頸胸腹3領域にわたる拡大郭清術式を対象とする皮切ならびに術野展開について述べる.

胸部食道癌手術

著者: 坂本隆 ,   清水哲朗 ,   榊原年宏 ,   斎藤光和 ,   山下厳 ,   藤巻雅夫

ページ範囲:P.1413 - P.1416

 胸部食道癌に対する教室の標準術式は,頸部リンパ節郭清・腹部リンパ節郭清・食道再建術をまず行い,その後胸部食道切除・縦隔リンパ節郭清を行う,いわゆる食道再建先行術式である.体位は仰臥位から左側臥位へ変換する.頸部ではU字型の皮膚切開を,腹部では正中切開をおき,2チームで手術を進行する.開胸は原則として右側としている.後側方開胸を第5肋骨を切除したうえで,第5肋骨床で行っており,この方法では胸部食道の全長にわたり十分な視野が得られる.気管内挿管には左右独立換気用チューブを用い,開胸後右肺を虚脱させると視野はさらに良好となる.皮膚切開及び術野の展開には局所解剖を熟知しておくことが重要である.

噴門部胃癌手術

著者: 沢井清司 ,   高橋俊雄

ページ範囲:P.1419 - P.1422

 噴門部胃癌に対する手術は,正碓な術前診断と適切な術前準備のもとに,個々の症例にあった皮膚切開と到達法を選択することが重要である.2cm以上食道浸潤がある例は,縦隔内リンパ節移転の可能性が高いので,胴切り法により十分な下部食道の切除と,縦隔内リンパ郭清を行う.すなわち,術前診断で2cm以上食道浸潤している可能性がある例には,右肋弓下切開で開腹し,開腹所見から,皮膚切開を左上方に延ばして胴切り法を行うか,左下方に延ばして山型横切開にするかを決定する.食道浸潤がほとんどない例,非治癒因子がある例,poor risk例は開腹のみとするが,痩せ型には上腹部正中切開,肥満型には山型横切開を行う.

噴門部胃癌手術

著者: 山村義孝 ,   小寺泰弘 ,   紀藤毅

ページ範囲:P.1423 - P.1427

 噴門部に限局した早期癌は噴門側胃切除の対象となるが,噴門癌の多くは進行癌であり,胃全摘が適応となる.また,リンパ節転移についての基礎的,臨床的検討から,最近はNo.16リンパ節も郭清の対象となる.食道浸潤が2cm以下の症例には開腹のみでよく,肩甲骨保持牽引鉤の使用と横隔膜縦切開により下部縦隔内リンパ節の郭清も容易である.浸潤が3cm以上の症例には左第7肋間における開胸・開腹が適応となる.患者を右半側臥位にすることで,術中の頻繁な体位変換も可能である.解剖を熟知し,発生学に基づいた層で剥離を行うことは,術野展開のうえでもっとも重要と考える.

噴門部胃癌手術

著者: 愛甲孝 ,   夏越祥次 ,   高尾尊身

ページ範囲:P.1429 - P.1432

 噴門部胃癌に対し根治性が得られる場合には,条件が許せば積極的に開胸する方針をとっており,そのアプローチとして斜め胴切り法を採用している.その際の皮膚切開と術野展開の工夫としては,左上肢を挙上して左背部に枕をおき約45度の右半側臥位とする.体位固定に際しては腹部と胸部とをねじるようにし胸部側をより強い側臥位とする.左肩甲骨下縁内側から,第7肋間に沿って前方へ肋骨弓に至り,上腹部を斜めに横切るように正中線に達する斜走皮切としている.本法は一般に行われている左開胸・開腹連続切開法と原則的には同じ到達経路であるが,左肩甲骨下縁背側から十分に切り込んでおり,あえて斜め胴切り法と称している.

大腸癌手術

著者: 洲之内広紀 ,   武藤徹一郎

ページ範囲:P.1435 - P.1438

 S状結腸切除や前方切除における三弁鉤を用いた術野展開について述べた.三弁鉤は小腸の上方への圧排を臍上部5cmにとどめる.術後イレウスの原因となる小腸の漿膜損傷防止,術野確保のための人手省略化などの利点がある.以上からこの三弁鉤はS状結腸,直腸の手術において有用な手術器具と考えられる.

大腸癌手術

著者: 久保隆一 ,   待寺則和 ,   藤本喜代成 ,   家田真太郎 ,   肥田仁一 ,   松村衛磨 ,   本田哲史 ,   進藤勝久 ,   安富正幸

ページ範囲:P.1439 - P.1444

 大腸癌は,結腸・直腸癌ともに手術療法に適した癌である.他の消化器癌と比較して術後成績は良好である.大腸癌の手術では第3群リンパ節の郭清を伴った腸切除術が中心であり,この手術手技が良好な手術野でできるような皮膚切開が必要である.結腸癌の手術では手術部位に腹腔内の広い範囲が含まれる場合が多く,手術する部位により異なった皮膚切開で術野展開を行い,広い術野での安金で十分な郭清を伴った手術を心掛ける.直腸癌手術では狭い骨盤内での手術操作が十分にでき,下腸間膜動脈の根部の処理が同時にできるような腹部皮膚切開をおく.腹会陰式直腸切断術では会陰操作の際の術野も重要である.体位は砕石位が中心であるが,施行する手術により砕石位のとり方が異なる.後方からのアプローチの手術の体位はjuck-knife positionである.腹腔鏡下腸切除術ではトラカールの挿入部位と切除大腸を取り出すための皮膚切開の部位に工夫が必要である.

肝臓癌手術—肝臓癌に対する肝右葉切除術

著者: 加藤紘之 ,   高橋利幸 ,   奥芝俊一 ,   西部俊哉 ,   本原敏司 ,   道家充

ページ範囲:P.1447 - P.1451

 肝切除,とくに肝右葉切除に際する皮膚切開と術野展開の工夫について述べた.皮膚切開については肋軟骨の切離とリトラクターの使い方がポイントになり,下大静脈面が直視できるような展開が必要である.術野展開の工夫については,間膜切離,脈管処理に際し,良視野下の確実な手術操作がポイントであり,とくに右肝静脈の露出に先立つ下大静脈靱帯の切離法に精通する必要がある.さらに肝実質切離を進めるにあたっては,マイクロウェーブとCUSAを併用した明視野下の脈管・胆管処理が肝要である.

肝臓癌手術

著者: 小玉雅志 ,   小山研二

ページ範囲:P.1453 - P.1457

 肝切除において良好な手術野を得るための皮膚切開と術野展開の要点を示す.
 1.仰臥位で左右肋骨弓下に弧状の横切開を行い頭側に正中切開を加える皮膚切開をおく.
 2.開腹後,左右の腹壁創切離縁に1-0絹糸をかけ,男性なら乳輪外側,女性なら乳房の頭側外方の皮膚と結紮固定する.ついで,左右の肋骨弓下に吊り上げ式牽引鉤をかけ前方頭側に牽引する.
 3.肝十二指腸間膜内の肝動脈,胆管,門脈にこの順に到達しテーピングをする.
 4.肝鎌状間膜,肝冠状問膜,肝三角間膜の切離,肝と下大静脈との剥離,短肝静脈の結紮切離をし,肝を遊離する.
 5.肝上下の下大静脈をテーピングする.

胆道・膵癌手術—胆道・膵癌に対する上腹部横切開,吊上げ鉤,オクトパス鉤を用いた手術

著者: 高橋伸 ,   池田信良 ,   玉川英史 ,   富川盛啓 ,   北島政樹

ページ範囲:P.1459 - P.1464

 胆道・膵癌に対する手術は操作が多く複雑である.安全で確実な手術を行うには上腹部の広い視野を得ることが大切で,術野展開の工夫が必要となる.われわれは胆道・膵癌症例に対して上腹部横切開を行い,吊上げ鉤とオクトパス鉤を用いて良好な視野を得ている.横切開のため創の延長が容易であり,膵頭十二指腸の授動,肝十二指腸間膜への右方からのアプローチ,膵全摘となった場合の左方からのアプローチなどで効力を発揮する.今回は全胃保存膵頭十二指腸切除術今永法をモデルとして,開創法,到達経路,術野展開のポイント,閉腹法など手術の実際について述べる.

胆道・膵癌手術

著者: 杉山政則 ,   中島正暢 ,   森俊幸 ,   跡見裕

ページ範囲:P.1465 - P.1468

 胆道・膵癌手術における皮膚切開は上腹部横切開+正中切開を第1選択としている.横切開の部分は,左右前腋窩線から4cm尾側の点,剣状突起と臍の中点を結ぶ上方に凸の弧状の曲線とする.さらに剣状突起まで正中切開を加える.肋弓を吊上げ鉤で牽引する.膵頭部へのアプローチは,①右側結腸〜回盲部を授動し,膵頭部,十二指腸全長を露出する,②次にKocher授動術を行いTreitz靱帯を切離する方法で行っている.この操作によって膵頭部〜鉤部の剥離,下膵十二指腸動脈処理,大動脈周囲リンパ節郭清が容易となる.

胆道・膵癌手術—中下部胆管癌に対する膵頭十二指腸切除術

著者: 木下壽文 ,   中山和道 ,   今山裕康

ページ範囲:P.1471 - P.1476

 中下部胆管癌の根治術式としては膵頭十二指腸切除術が基本術式である.膵頭十二指腸切除術では膵臓を含めた消化管の大量切除と3か所以上の消化管再建を必要とする.最近では広範囲リンパ節郭清や血管合併切除などの拡大手術も多く行われており,術中偶発症にも時折遭遇する.副損傷は局所解剖の把握が不十分であったり,術野の展開が不徹底で剥離面が十分に露出されていない場合に起こり易い.膵頭十二指腸切除術では局所解剖の熟知と広い術野の展開が重要であり,安全な手術操作を行うためには重要血管を確認し,それぞれにテーピングを行い血管を完全にコントロールして手術を行うことが肝要である.

カラーグラフ 内視鏡下外科手術の最前線・11 胃・十二指腸

十二指腸潰瘍穿孔に対する腹腔鏡下手術

著者: 長島敦 ,   吉川宏 ,   奥沢星二郎 ,   北野光秀 ,   土居正和 ,   茂木正寿 ,   山本修三

ページ範囲:P.1393 - P.1398

はじめに
 十二指腸潰瘍穿孔に対する手術は,腹膜炎と潰瘍症を別々に治療する目的で行う穿孔部閉鎖術と,同時に治療する広範胃切除術や迷走神経切離術などの潰瘍根治術がある.しかし,近年抗潰瘍薬が進歩したこと,潰瘍根治術後の潰瘍再発も決してまれではないこと1)が報告され,穿孔部閉鎖術を第1選択とする施設が増加する傾向にある.穿孔部閉鎖術は腹腔鏡下で開腹術と全く同様の手技が可能であり,その低侵襲性を考えると腹腔鏡下穿孔部閉鎖術が十二指腸潰瘍穿孔に対する第1選択の術式として広く普及する可能性がある.ここでは,われわれの行っている腹腔鏡下穿孔部閉鎖術(大網被覆術)の手技につき述べる.

病院めぐり

春日井市民病院外科

著者: 岸本秀雄

ページ範囲:P.1478 - P.1478

 愛知県春日井市は庄内川を挟んで名古屋市の北東部に広がり,東にたどっていくと美しい自然に恵まれた丘陵地帯となって岐阜県と接している.市の南の地域で庄内川越しに名古屋を望む平野部は活気ある商工業都市の趣で,岐阜県と隣接する丘陵地域は閑静なベッドタウンの風情を持っている.市内をJR東海の中央線が横断していて,順に勝川,春日井,神領,高蔵寺,定光寺の5つの駅が春日井市に属している.
 春日井市民病院の歴史は昭和26年に遡る.同年8月1日,春日井市議会の嘱望を受けて院長以下18名のスタッフで内科および外科の診療を開始,12月1日には産婦人科を開設した.当時の春日井市の人口は4万人台であったが,年を追って人口の伸び率は著しくなり,昭和40年以降は1年に1万人程度の人口増加を示した.市の唯一の公的医療機関として,春日井市民病院はそのつど増築・増床を重ね,現在の診療科16科,病床数500床,職員総数544名(医師数75名)となった.しかし,さらに増え続ける患者に対処しつつ,医療の高度化・多様化を吸収するためには現在の建築物では限界にきており,平成4年6月に市議会で移転新築することに決まった.平成10年度には,新しく142,000m2という広大な土地に550床の8階建ての新病院を竣工させ,診療科も増やして新時代に即応する診療を開始することになっている.

総合花巻病院外科

著者: 生垣久範

ページ範囲:P.1479 - P.1479

 岩手県のほぼ中央に位置する花巻市の中心に総合花巻病院はあります.花巻市は人口7万人弱で,北上川が流れ,市の西側には温泉も点在し,自然に恵まれた落ち着いた街です.また,宮沢賢治や高村光太郎にちなんだ観光スポットも多く,観光客で賑わっています.東北新幹線,東北自動車道が走り,空港も有し,交通の便には非常に恵まれたところです.
 当院は大正12年に花巻共立病院として佐藤隆房先生によって創立されました.昭和14年,花巻病院と改称,昭和24年,財団法人となり今日に至っております.現在は病床数348床(伝染病棟20床,結核病棟27床),診療科は15科,常勤医師数21名の総合病院に発展し,地域医療の中核を担っています.また,日本外科学会の認定施設にもなっています.病院の中庭には宮沢賢治設計の花壇が再現され,四季折々の花が見る者の心を和ませてくれています.

メディカル・エッセー 「残りの日々」・11

癌で死んだ友人

著者: 和田達雄

ページ範囲:P.1482 - P.1483

 癌専門病院の管理者をしていると,若い頃からの友人が何人も癌になって入院してくる.
 そのうちの一人,S君の話である.

私の工夫—手術・処置・手順・15

幽門輪温存膵頭十二指腸切除

著者: 伊関丈治

ページ範囲:P.1484 - P.1484

 幽門輪温存膵頭十二指腸切除に際しては,幽門輪及び十二指腸球部を温存することにより,胃の容積が保持されるとともに,十二指腸球部からの消化管ホルモン分泌能が温存される.その反面右胃動脈領域のリンパ節郭清は不十分となり,また迷走神経幽門枝を切離する場合には,幽門機能の低下が懸念される.
 当科では1985年にVater乳頭部癌2症例に対し,幽門輪温存膵頭十二指腸切除を行った.この際右胃動脈を根部から胃壁に至るまで切除し,5番リンパ節の郭清を徹底したためか,術後3か月を過ぎても高度の胃内容停滞症状に悩まされた.その経験に基づき1990年以降は右胃動脈を根部で切離するのみにとどめている.また十二指腸空腸吻合は一層で行うようにしている.現在では乳頭部癌,下部胆管癌のみならず膵頭部癌に対しても本術式を基本術式として採用し良好な結果を得ているので,その手技の要点について述べる.

イラストレイテッドセミナー・20

はじめての直腸低位前方切除術

著者: 篠原尚

ページ範囲:P.1485 - P.1493

 1.腹腔内の直腸剥離操作は,腹会陰式直腸切断術の場合とまったく同様に行う.ただし,(1)吻合に無理がかからないようにS状結腸を長めに残す.(2)口側端はトリミングのあと切離せずにおく.

「直腸低位前方切除術」に対するコメント

著者: 武藤輝一

ページ範囲:P.1494 - P.1494

はじめに
 直腸低位前方切除術のなかで行われる直腸剥離操作については,腹会陰式直腸切断術とまったく同様ということで省略されている.まったく同様とはいかないが,要領はほぼ同様ということでコメントも割愛させていただく.
 筆者の篠原尚氏が行っている手技と著しく異なるところはないが,些か気づいたところと,ここでは記述されていない器械吻合について簡単に述べることとする.

臨床外科交見室

ドクターカーと救急救命士

著者: 村上穆

ページ範囲:P.1496 - P.1496

 わが国におけるDOA(来院時心肺停止状態)患者の救命率が欧米諸国に比べてきわめて低いことから,平成2年8月,厚生省の救急医療体制検討小委員会より「DOA患者を中心に緊急に取り組むべき方策について」という中間報告が,また自治省消防庁の救急業務研究会小委員会より「救命率向上のための方策について」という中間報告が出されたのを受けて,茨城県では茨城県救急医療対策協議会のなかに「茨城県DOA患者救命対策専門会議」を設けました.DOA患者の救命対策や施策の在り方について協議し,平成2年11月5日,『茨城県におけるDOA患者の救命率向上対策についての答申』が県知事あてに提出されました.このなかに「できる限り早い時期に試行可能な地域においてドクターカーモデル事業を導入すべきである」という一節があり,当時の渡辺 晃国立水戸病院長(現・名誉院長)が専門会議議長であったこともあって,平成3年1月16日より,国立水戸病院の医局を挙げての協力により,ドクターカーの試行運用が開始されました.
 事前調査では,水戸市消防本部管内における平成2年1月1日から7月31日までの7か月間のDOA患者は67名で,1週間後の生存者は3名,救命率はわずか4.5%でした.それがドクターカー試行運用後の平成3年には,1週間後の救命率が13.3%と飛躍的に改善され,ドクターカーの有用性が証明されました.

研修医の指導に関する私見

著者: 並川和男

ページ範囲:P.1497 - P.1497

 外科医として何とか一人前になるには最低10年は必要と考える.毎年,若い医師が研修医あるいはレジデントとしてわれわれの施設に派遣され,2〜3年の間研修を積み,さらに他の施設へと移っていく.この間,医師として最も大切な時期を教育するものとして非常に重大な責任を感じている.なぜならば,この時期に経験したこと,教えられたことが,のちの医師としての成長に大きな影響を及ぼすといっても過言ではないからである.
 すべての診療科についていえることであるが,特に外科系では手術を修得するのは一朝一夕でできることではない.長い年月をかけて先輩から厳しく叱咤されながら,手取り足取り少しずつ上達するもので,そこには昔から脈々と受け継がれてきた従弟制度にも似た教育があると思う.したがって,決められたカリキュラム以外に,日常生活を通じて種々雑多な教育が行われている.初心者はともすると手術の上達,諸検査技術の習熟のみに目が向いてしまい,医師として最も必要な人間形成のための修練がおざなりにされがちである.

シリーズ 早期癌を見直す・2 早期大腸癌・1

早期大腸癌の病理—表面型大腸癌を中心に

著者: 池上雅博 ,   山田哲也 ,   劉鉄成 ,   野尻卓也

ページ範囲:P.1499 - P.1507

はじめに
 1977年,狩谷らの初めての報告1),1980年代後半の工藤らを始めとする多数例の報告2)を経て,多数の表面型大腸腫瘍が発見,治療されるようになってきた.近年ではその解析もすすみ,表面型癌の中には,きわめて小さい病変でsmに浸潤する例が存在すること,従来のポリープ型癌に替わり表面型癌が進行癌の初期病変として重要な病変であることも判明してきている3,4).これら表面型癌の発見は,大腸癌の診断,治療,発育進展に関する既成の概念を根本から変える,臨床的,病理学的に重要な出来事であると考えられ,とくに診断,治療にあたっては従来のポリープ型癌との相違を明確に認識してあたる必要がある.本稿では表面型大腸癌を中心に,大腸上皮性腫瘍の組織診断上の問題点,大腸癌の発育進展,病理学的立場からみた表面型癌のsm浸潤度診断,治療上の注意点などについて,筆者らの考え方を交えつつ述べる.

手術手技

後腹膜膿瘍に対し腹腔神経叢ブロック後方接近法を用いたドレナージ法

著者: 佐藤善一 ,   中落琢哉 ,   榎本小弓 ,   辻村茂久 ,   中筋正人 ,   緒方章雄

ページ範囲:P.1509 - P.1512

はじめに
 腹腔内膿瘍の治療方法としては,超音波下やCT下の穿刺による非手術的なドレナージの方法がある1,2).しかし,これらの方法でも腸管の損傷の恐れがある場合などは施行することはできない.今回,超音波下でも手術下でもドレナージできなかった後腹膜膿瘍に対し,腹腔神経叢ブロック後方接近法3)の要領でドレナージを行うことができたので報告する.

外科医の工夫

腹腔鏡下胆嚢摘出術における細径ファイバースコープを用いた術中胆道精査法

著者: 田中一郎 ,   小森山広幸 ,   守屋仁布 ,   生沢啓芳 ,   金杉和男 ,   萩原優

ページ範囲:P.1513 - P.1515

はじめに
 腹腔鏡下胆嚢摘出術は本邦では1990年より始められ1),その後急速に普及し現在では胆嚢摘出術の標準術式となってきている.腹腔鏡下胆嚢摘出術における術中の胆道精査は,遺残結石の有無,胆道損傷の確認などに関して議論があるところである.今回われわれは,細径ファイバースコープを用い,術中に胆道を精査したところ有用であったので報告する.

臨床報告・1

十二指腸球部に嵌入した胃体部早期胃癌の1例

著者: 大西秀哉 ,   玉江景好 ,   西原一善 ,   中原昌作 ,   安部隆二 ,   豊島里志

ページ範囲:P.1517 - P.1522

はじめに
 胃癌の十二指腸嵌入は比較的稀であり,本邦では90例あまりが報告されているにすぎない.そのほとんどは2cm以上の早期癌で,占拠部位は前庭部から幽門部に多い.今回,十二指腸球部に嵌入した胃体下部より発生した早期胃癌を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

上腸間膜動脈再建を行った悪性褐色細胞腫の1治験例

著者: 小杉郁子 ,   浦山博 ,   川上健吾 ,   笠島史成 ,   原城達夫 ,   宮森勇

ページ範囲:P.1523 - P.1526

はじめに
 褐色細胞腫は二次性高血圧の代表的疾患であり,放置すれば心不全や脳出血で死亡する危険性も大きく,また各種の内分泌疾患で神経系疾患の合併など病因論的にも興味深い腫瘍である.今回われわれは腹部大動脈前面に再発したと考えられる悪性褐色細胞腫に対し,腫瘍指出術を施行し完全切除をなしえたと思われるので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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