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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科50巻7号

1995年07月発行

雑誌目次

特集 再発消化管癌を治療する

再発食道癌の治療(1)—胸部食道癌治癒切除症例の実態とその治療

著者: 平山克 ,   森昌造

ページ範囲:P.839 - P.846

 東北大学第2外科教室において,1986年4月〜1993年12月の間に治癒切除した胸部食道癌は255例である.このうちの64例が再発死亡となり,再発率は26.4%であった.再発のリスクは主占居部位Iu,mp以上,n2(+)以上で高率であり,特にa3,n4(+)例の再発率は50%以上であった.再発形式は,臓器再発39例(72%),リンパ節再発31例(57%)の順であり,再発臓器では肺,肝,骨が大部分を占めた.再発部位は,半数以上が2か所以上であった.再発例の86%は術後2年以内に死亡した.再発形式からみると,現行の術後補助療法のレジメンの成績は不十分であった.再発に対する治療は困難であり,ほとんどが放射線治療などの保存的治療に委ねられ,再発病巣の外科的切除が可能だったのは4症例のみであった.

再発食道癌の治療(2)

著者: 小玉正智 ,   田村祐樹

ページ範囲:P.849 - P.853

 食道癌の再発形式は,リンパ行性,血行性転移,局所再発,気道系再発と多岐にわたっている.各々に対して根治性ある治療を施行するのは困難である.初再発時すでに多発病巣として発見されることも多く,治療体系は化学療法,放射線療法の単独,併用療法が主体となり,外科的切除例は少ない.各治療法においても有効性は低く,再発後長期生存例はわずかである.しかし,再発病巣が小さく単発例の場合,長期生存例の報告が散見されるので,再発癌においても早期発見の重要性が示唆される.食道癌では,癌の浸潤が粘膜下層に達すると(sm癌)再発例がみられる.術後,sm癌以上の症例には,再発形式を念頭においた経過観察計画を組み立てる必要がある.

再発食道癌の治療(3)

著者: 桑野博行 ,   野添忠浩 ,   杉町圭蔵

ページ範囲:P.855 - P.859

 教室における再発食道癌の再発形式を検討し,その対策について示した.食道癌は,早期癌症例でも高頻度で再発をきたし,また治癒切除を行っても,術後早期に再発をきたすことも稀ではない.その再発形式により,放射線療法,化学療法,あるいは外科的治療を選択するが,再発癌患者は全身状態が良好でない場合が多く,また再発部位が複数にまたがっていることも多いため,その治療方針の決定が困難な場合も少なくない.その限られた生命に対して,最大限のQOLを維持しての延命治療を行わなければならない.再発予防の点では,3領域郭清に合併療法を加味した治療,および術後の厳重なフォローアップが重要であると思われた.

再発胃癌の治療(1)

著者: 池口正英 ,   貝原信明

ページ範囲:P.861 - P.865

 再発胃癌33例の治療効果につき検討を加えた.再発胃癌に対する治療後の生存期間は,再発から治療までの期間が短いほど良好であり,再発胃癌といえども早期発見,早期治療が重要と考えられた.対症療法のみに終わった症例(n=9)の生存期間中央値は3か月であった再発病巣を切除しえなくとも化学療法を施行しえた症例では,EAP療法(n=7)で奏効率33%(評価可能例6),生存期間中央値が6か月であったのに対し,FAP療法(n=5)では奏効率40%(評価可能例5),生存期間中央値が14か月と生存期間の延長を認め,FAP療法の有用性が示唆された.

再発胃癌の治療(2)

著者: 太田恵一朗 ,   中島聰総 ,   大山繁和 ,   石原省 ,   高橋孝 ,   西満正

ページ範囲:P.867 - P.873

 1946年から1990年までに癌研究会附属病院外科で切除された胃癌8,230例の再発死亡は2,638例(32.1%)であった.再発(再燃)形式は,腹膜再発が最も多く12.3%で,ついで血行再発7.9%,局所再発5.2%,遠隔リンパ節再発3.3%,残胃再発0.7%の順であった.初回手術と同様,再発例にも根治切除が可能か否か検討する必要があるが,実際には残胃再発,一部の腹膜再発や局所再発例などが外科的適応となった.再発胃癌に対する治療の中心は化学療法であり,投与経路を考慮した集学的治療が望まれている.

再発胃癌の治療(3)

著者: 古河洋 ,   平塚正弘 ,   岩永剛 ,   今岡真義 ,   石川治 ,   甲利幸 ,   佐々木洋 ,   亀山雅男 ,   大東弘明 ,   中森正二 ,   中野博史 ,   安田卓司

ページ範囲:P.875 - P.880

 再発胃癌の治療は多く行われているが,その病態が一定でないことから治療効果の判定は容易ではない.腹膜再発に対しては,EAP,CDDP+5—FU,FAPなどの全身療法が行われ,それぞれ有効であった.また,MMC, CDDP腹腔内投与も有効であった.また,後腹膜再発では尿管ステント,人工肛門は有用である.肝再発に対しては,局所のみならば切除も有効であった.しかし,多くは多発であり,動注化学療法やTAEが有効であった.さまざまな治療により,腹水の消失,腫瘤の縮小など「有効」例がみられたが,生存期間の延長につながったかどうか判定することは困難であった.

再発大腸癌の治療(1)

著者: 酒井靖夫 ,   畠山勝義 ,   岡本春彦 ,   滝井康公 ,   神田達夫 ,   須田武保 ,   塚田一博 ,   大和靖 ,   川上一岳 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.881 - P.887

 筆者らは,大腸癌の生物学的特性から,再発癌に対しても外科的切除が最も有効な手段と考え,切除可能な限り第一選択としており,これに免疫化学療法や放射線療法を適宜組み合わせている.血行性再発である肝転移,肺転移に対する外科的切除は,5年生存率が各々35.7%,36.9%と良好であったが,切除後の再々発が問題となる.再々切除や動注などのさらなる工夫が必要である.局所再発は発見が遅れやすく,結腸では腹膜播種のため,直腸では骨盤腔内のびまん浸潤のため,切除率,とくに治癒切除率が低い.切除できた例では非切除例に比し良好な生存率を示すが,非治癒切除例および再々発に対して集学的治療を加える必要がある.現時点では,骨盤内局所再発への拡大切除の適応は,症例を慎重に選択すべきと考えている.

再発大腸癌の治療(2)—再発大腸癌の治療方針と治療成績

著者: 赤須孝之 ,   森谷宜皓 ,   杉原健一 ,   藤田伸

ページ範囲:P.889 - P.897

 大腸癌の主たる再発形式である局所再発,肝転移,肺転移に対しては外科的切除の効果が最も高く,根治的切除が行われた場合には長期生存や治癒の可能性がある.局所再発に対しては腫瘍の広がりに応じて,括約筋温存術,直腸切断術,骨盤内臓全摘術などを行う.肝転移や肺転移に対しては原則として部分切除を行う.現在の手術手技はほぼ限界に達しており,さらに治療成績を上げるためには効果的な補助療法が必要である.外科的切除の適応のない場合には,palliativeな手術,化学療法,放射線治療などを行う.これらは症状の軽減などには一定の効果があり,QOLの改善にある程度役立つものの,延命や治癒に寄与することは少ない,このなかで,肝転移に対する肝動注は比較的効果が高く,延命に役立つことがある.

再発大腸癌の治療(3)

著者: 森田隆幸 ,   今充

ページ範囲:P.899 - P.905

 大腸癌の局所再発,肝・肺の血行性再発,リンパ節再発などの治療について述べた.直腸癌局所再発の手術適応は吻合部近傍の再発に限られ,根治も期待できるが,手術侵襲が大きいため慎重に対処すべきである.鼠径リンパ節再発や隣接臓器再発では,最小限の切除と照射の併用により長期生存が得られる例もみられた,一方,血行性再発のなかでも孤立性の肝転移では,肝切除により根治する例も少なくないが,肺転移例は再々発や肝転移をきたしやすく,手術適応の難しさが痛感される.化学療法や照射療法の進歩により延命する症例も増えつつあるが,患者のquality of lifeを十分に考慮し,きめ細かな治療法の選択が望まれる.

カラーグラフ 内視鏡下外科手術の最前線・7

胸腔鏡下胸部食道粘膜下腫瘍切除術

著者: 長山正義 ,   寺岡均 ,   西口幸雄 ,   大平雅一 ,   石川哲郎 ,   吉川和彦 ,   曽和融生 ,   西森武雄

ページ範囲:P.831 - P.836

はじめに
 良性の胸部食道粘膜下腫瘍は,隆起性で,浅い層に存在して,径が小さいものであれば食道内視鏡下での摘出が可能なことがある.しかし,このような方法での摘出が困難な病変では,開胸下手術が多く行われている.食道の良性腫瘍に対する開胸手術では,手術創は大きくなり,開胸操作のために美容的にはもちろん,術後の創痛などが持続することがあり,quality of life(QOL)に問題が残る.
 最近,ブラなどに対して胸腔鏡下手術が行われているが,術後のQOLが良好で,回復も早く,従来からの開胸操作を必要とせずに良好な成績が得られている.胸部食道の良性腫瘍に対しても,胸腔鏡下に手術を行えれば,術後QOLは良好であると思われるが,報告例はきわめて少なく,またその手術方法などは現在確立されておらず,検討すべきことは多い.

綜説・今月の臨床

Crohn病手術適応の変遷

著者: 更科廣實 ,   横山正之 ,   斉藤典男 ,   布村正夫 ,   幸田圭史 ,   滝口伸浩 ,   早田浩明 ,   芝崎英仁 ,   中島伸之

ページ範囲:P.907 - P.913

I.はじめに
 20年前にはまれとされていたCrohn病も,多くの症例報告と臨床的・病理学的研究により,次第にその疾患概念が確立し,病態の解明が進んでいる1,2).WHOのCIOM(Council for Interna-tional Organization of Medical Sciences)は,1973年に,「Crohn病は口腔から肛門に至る消化管のすべての部位に起こる肉芽腫性炎症性病変」と定義し,肉眼的に病変のみられない部位にもすでに小病変や生化学的変化が認められることが報告されてきた3,4,5).このように,全消化管に病変の発生しうる本疾患に対し,外科的治療のみで根治させることは不可能であり,このことは,これまでの手術予後の惨憺たる成績が物語っている6)
 一方,Crohn病に対する保存的治療として,最も有力視されているのはIVHとED(elemental diet,chemical defined diet)である7).このような栄養管理の進歩に伴い,これまで手術適応と判断されていたCrohn病の多くに,保存的治療による長期観察が可能となってきた.さらに,病態の解明に伴う術式の変化とも相俟って,現在のCrohn病の手術適応は大きな変遷をたどっている.

病院めぐり

戸田中央総合病院外科

著者: 西川孝戒

ページ範囲:P.914 - P.914

 埼玉県戸田市は荒川を隔てて東京都に接し,東北・上越新幹線に伴走して敷設された埼京線の開設で交通至便の地となり,近年,にわかに居住者激増の地域になりました.戸田中央総合病院は,昭和37年,未だ人家まばらなこの地に,わずか29床の小規模病院でオープンしました.開院当初から地域密着,24時間診察,「愛し愛される病院」をモットーに努力を重ねて急成長を遂げ,地域中核病院に発展してきました.病院規模は過去30年間に増改築を重ね,現在,診療17科,389床,外来患者数1日1,900人,常勤医53名の総合病院になっています.
 当院外科の歴史をみますと,当初は数名の外科医で腹部外科を中心に行っていましたが,昭和40年代の急速なモータリゼーションの状況下で,多発する交通外傷への対応に迫られ,脳神経外科を分離し専門診療を始めました.昭和47年から西川現副院長の赴任を機に,埼玉県では未開拓の心臓外科への取り組みを始め,岩手医大第3外科と麻酔科の協力で超低体温麻酔による乳幼児先天性心疾患の開心根治術を50余例行いました.

町田市民病院外科

著者: 橋本慶博

ページ範囲:P.915 - P.915

 町田市民病院は,昭和18年に旧町田町の南部共立病院として発足し,その後,増築・増床を重ね,昭和33年,町田市の誕生によって町田市立中央病院となり,昭和52年には310床の公立総合病院として承認されました.一般病床数は272床,うち一般外科専用は36床で現在に至っています.外科医の派遣母体は,当初,慈恵医大第1外科でしたが,昭和63年,池内前院長の就任により同大第2外科となりました.現在の外科スタッフは貴島院長,岩渕外科部長をはじめ総勢8名で,すべて第2外科の出身です.診療の中心は消化器,乳腺で,併せて呼吸器の外科も行っています.外科の平成6年度の年間外来患者総数は20,447人,入院総数は472人で,患者数は年々増加し,地域住民の信頼の高まりであると自負しています.
 手術に関しては,大手術は月・火曜日に,比較的短時間のものは木・金曜日に行っています.最近3年間の手術件数は,年間でおよそ500件です.胃・大腸をはじめ消化器の癌が多く,特に直腸癌の増加が目立ちます.さらに,最近の特徴として,乳癌,肺癌,胆石症の増加が挙げられます.当院における手術症例のもう1つの特徴は,高齢の患者と病状の進行した症例が多く,拡大手術も増加し,それに並行して厳重な術前・術後管理を要することの割合が多くなったことです.

臨床外科交見室

鼠径部の解剖

著者: 川満富裕

ページ範囲:P.916 - P.916

 鼠径部の解剖にはまだ未解明なところがあり,私にはいくつかの疑問がある.柵瀬先生が「鼠径ヘルニア手術のコツ」にお書きになった「鼠径部の解剖についての新しい知見」(臨外50:220,1995)はその意味で非常に有益なものであったが,私の疑問はむしろ深められた.そこで,その疑問と私見を述べ,柵瀬先生をはじめとする碩学のご意見を賜りたい.
 私は小児外科医なので単純高位結紮術を宗としているが,内精筋膜に包まれたままのヘルニア嚢を内鼠径輪まで剥離した経験が少なくない.このとき,内精筋膜は精巣挙筋や鼠径管の後壁から容易に剥離され,鼠径管の後壁と腹膜の間に存在する筋膜に続くのが観察される.AnsonとMcvayの解剖書は,腹膜と腹横筋との間には横筋筋膜しかなく,鼠径管の後壁はおもに横筋筋膜からなると説く.では,内精筋膜に続く腹壁の筋膜は何なのだろうか.また,精巣挙筋は内腹斜筋の続きだと説き,鼠径管の後壁と精巣挙筋との関係には言及していない.鼠径管の後壁と精巣挙筋が連続していないとすれば,ちょうど長袖の腋が破れたように,精巣挙筋の筒は内鼠径輪の内側で開いているのだろうか.

輸血血液管理について—T & S(Type & Screen)採用の試み

著者: 新井元順

ページ範囲:P.917 - P.917

 平成4年の厚生省医療指導の際,血液製剤の管理体制の不備を指摘され,改善計画書を呈示してご勘弁いただいたことがある.当時,血液製剤は薬局が窓口業務を行っていたのだが,薬局は在庫機能をもたず,主治医管轄のもとで各病棟が保管していたので,きわめて非合理的な体制で,指導官の指摘はもっともであった.薬局事務は各病棟からの注文を新規発注,返品再配分で帳尻を合わせるのに超勤の連続であった.
 計画は,輸血センターを設置して血液製剤の中央集中管理を行うというものであった.計画が遅々として進まない理由は,薬局,検査部のどちらが担当するかなどの見解がまとまらなかったためである.結局,検査部の血液関係職員の協力を得ることができ,中央検査部に輸血室を併設することになったが,24時間体制とするための当直問題でさらにもめ,当院の輸血管理中央機構は昨年7月に発足したばかりである.

救急救命士に期待する

著者: 三田三郎

ページ範囲:P.918 - P.918

 救急救命士(以下,救命士)法が制定され,救命士が世に誕生してから4年が経つ.制度が先行し内実が伴わない感は否めなかったが,年ごとに実質的にも少しずつ整備されつつあるようだ.救急医療のさらなる飛躍の一翼として期待される救命士だが,一般的にはもちろん,医師をはじめ医療従事者にもまだ必ずしもよく理解されていない.昨年度,わが市でも救命士が誕生し,今回,高規格救急車が配備された.今日は,私なりに理解している救命士の現況と問題点,今後の展望などについて述べてみたい.
 救命士は各自治体消防救急隊員のうちで,250時間の救急2課程を修了したものが,養成機関で1年の修学のあと国家試験に合格して与えられる国家資格である.なお,看護婦免許のある者はこの受験資格がある.一般の救急隊員の行える救急処置に加えて,救命士は重度傷病者のうち心機能停止状態の傷病者に対し,以下の特定行為を行うことができる.(1)厚生大臣の指定する器具(食道閉鎖式エアウェイおよびラリンゲルアルマスク)による気道確保,(2)厚生大臣の指定する薬剤(乳酸加リンゲル液)を用いた静脈路確保のための輸液,(3)半自動式除細動器による除細動,以上の3点であるが,いずれも医師の具体的な指示のもとに行うという条件がある.

外科研修医実践購座・25

乳癌に対する温存療法の実際

著者: 福内敦 ,   西常博

ページ範囲:P.919 - P.923

はじめに
 筆者が1982年に三井記念病院で外科研修を始めた当時,乳癌に対する標準術式はHalsted法であり,縮小手術といえばPatey法やAuchincloss法のことを意味していた.さらに切除範囲の少ない温存手術などは,癌に対する治療とはおおよそ成りえず,「もってのほか!」との風潮であった.
 こうしたなか当院では,1983年,イタリアのVeronesiらの方法に準じ,厳密な適応にもとづき温存療法quadrantectomyを慎重に開始した.現在,早期乳癌の対して温存療法が全国的に普及しつつあり,先駆的施設としては喜ばしいかぎりであるが,わずか10数年の間の急速な適応の拡大に,いささかの戸惑いを禁じえない.

メディカル・エッセー 「残りの日々」・7

田舎医者

著者: 和田達雄

ページ範囲:P.924 - P.925

 郷里の静岡県東部の小都市では,会社員の父が定年で退職したうえに,病気がちであった.
 長男である私は30歳に近くなっても大学病院の無給副手で,東京で下宿住まいをしていた.

私の工夫—手術・処置・手順・11

膵腸吻合法

著者: 黒田豊 ,   本郷碩

ページ範囲:P.926 - P.926

 膵頭十二指腸切除術が比較的安全に行われるようになったが,その再建手技のうち膵空腸吻合には,端々吻合である膵嵌入法と端側吻合の膵管空腸粘膜縫合法,膵管嵌入法があり,後者の2方法は漿膜切開を加える場合と加えない場合がある.漿膜切開を加えると,脆弱な粘膜と膵管の吻合となり,困難をきわめることが多い.漿膜切開を加えない場合は,腸管壁の厚さのため膵管粘膜吻合が不十分となりやすい.そこでわれわれは,各々の欠点を補うべく,漿膜擦過吻合方法を考案し良好な結果を得たので,その方法について述べる.

イラストレイテッドセミナー・16

はじめての腹会陰式直腸切断術 Lesson1

著者: 篠原尚

ページ範囲:P.927 - P.934

 1.術者は左に立ち,臍上5cmから恥骨上部に至る腹部正中切開を加える.皮膚切開をストマから遠ざけるために,臍の右側を回る.腹膜切開時には,S状結腸切除術のときと同様,下方で膀胱を損傷しないように気をつける.
 2.S状結腸間膜および動静脈の処理を,先に連載した『はじめてのS状結腸切除術』に準じて行う.続いて,大動脈右縁に沿う後腹膜切開を下方に延長し,ダグラス窩の腹膜翻転部まで達せしめる.前半は大ケリー鉗子を,ダグラス窩を回るときは大動脈瘤鉗子を腹膜下に入れ,前立ちに電気メスで切ってもらう.総腸骨動脈から内腸骨動脈内縁に沿うコースをとると,腹膜欠損部が大きくならず後腹膜の修復が可能である.ダグラス窩では直腸の2〜3cm前方(膀胱側)を切開したほうが,後前立腺間隙(Denonvilliers筋膜の前面の層)に入りやすい.時には,腹膜を切開しただけで後前立腺間隙の白い綿のような組織か顔を出すことがある.大動脈瘤鉗子は先が強く彎曲していて,しかも榊原直角鉗子に比べて頑丈なので,Miles手術の際には非常に有用である.

シリーズ 早期癌を見直す・1 早期胃癌・3

早期胃癌の内視鏡的治療—現況と将来—2)胃m癌に対する腹腔鏡下手術—EUSによる術前深達度診断と手術適応

著者: 栗原直人 ,   大上正裕 ,   村山良彦 ,   大谷吉秀 ,   久保田哲朗 ,   熊井浩一郎 ,   杉野吉則 ,   北島政樹

ページ範囲:P.935 - P.940

はじめに
 早期胃癌の治療においては,根治性の追求はもとより,術後のquality of life(以下,QOL)の向上も重要な課題である.教室では,以前より縮小手術(D1リンパ節郭清+2/3幽門側胃切除)や内視鏡的粘膜切除術(EMR)などの縮小治療をその妥当性と合理性を十分検討したうえで導入してきている1,2)
 特に胃m癌では,教室ならびに他施設における胃癌切除例の検討から,リンパ節転移率が2〜4%であり,かつ転移陽性群の選定もほぼ可能であることから3-5),1992年から低侵襲性と根治性を併せ持つ新しい治療法として,腹腔鏡下胃局所切除術や腹腔鏡下胃内粘膜切除術などの腹腔鏡下手術6-9)を導入している.これらの治療法選択にあたり,従来の上部消化管X線検査,上部消化管内視鏡検査に加えて,より高い正診率を期待して周波数の高い超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasonography:以下,EUS)を導入してきた.

臨床研究

Open “tension-free” hernioplastyの成績

著者: 山本俊二 ,   加賀野井純一 ,   入江明美 ,   徳永行彦 ,   中山昇 ,   大隅喜代志

ページ範囲:P.941 - P.944

はじめに
 メッシュを用いたopen“tension-free”hernio-plasty1)が,成人鼠径ヘルニアや大腿ヘルニアに対する再発の少ない手術として広く行われているが2),2年9か月間の58例の本手術3,4)の成積について報告する.

癌告知と患者の受けとめ方

著者: 古川聡 ,   吉見富洋 ,   小泉澄彦 ,   小野久之 ,   雨宮隆太 ,   長谷川博

ページ範囲:P.945 - P.950

はじめに
 われわれは,患者がより良い医療を受けるためには,患者自身が病気を詳しく理解していることが必要と考え,癌の患者に対して,原則として家族の了承が得られた場合に癌の告知を行ってきた.ただし,患者が「知りたくない」という意志表示をしている場合には告知はしなかった.
 この癌の告知を,患者およびその家族がどう受けとめているかを確認し,われわれの方針を再考する目的でアンケートを実施した.

臨床報告・1

紅皮症の治療中に発見された早期食道癌の1手術例

著者: 戸沢香澄 ,   阿保七三郎 ,   北村道彦 ,   石岡知憲 ,   佐藤俊樹

ページ範囲:P.951 - P.954

はじめに
 経皮症の治療中に悪性腫瘍が発見されることがあり,このため腫瘍性紅皮症とも呼ぼれるが,一般には間葉系悪性腫瘍に併発することが多く,内臓固型癌併発の報告は非常に少ない.私どもは今回,紅皮症治療中に早期食道癌を発見し,その治療により紅皮症の改善もみたので,主にその経過を報告し,若干の文献的考察を加えたい.

胃切除術後toxic shock syndrome合併例の1治験例

著者: 五十嵐幸夫 ,   千葉昌和 ,   渡部修一 ,   稲葉行男 ,   林健一 ,   飯沼俊信 ,   橋本透

ページ範囲:P.955 - P.959

はじめに
 今回われわれは,胃切除術後にMRSAによるtoxic shock syndrome(以下,TSS)を合併した1症例を経験した.透析を施行することにより救命し得たので,若干の文献的考察を加え報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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