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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科50巻8号

1995年08月発行

雑誌目次

特集 高齢者の外科—キュアとケア

[エディトリアル]高齢者の外科—キュアとケアに関する問題点

著者: 林四郎

ページ範囲:P.975 - P.977

新しい発展が期待される高齢者外科
 以前には,緊急避難的に考えられていた高齢者に対する外科もごく一般的なものとなり,最近では90歳代の高齢者も対象にされ1,2),手術の適応,その意義が検討されるようになった.高齢者の場合,high riskと判定されることが多く,いかにして手術の安全性を高めるかが大きな目標であったが,その目標は着実に達成され,1995年2月に開催された第45回日本消化器外科学会のパネルディスカッションでも,80歳代,90歳代における消化器外科の現状が報告され,食道癌に対する食道切除,肝癌に対する拡大肝切除,膵頭部領域癌に対する膵頭十二指腸切除(PD)などもかなり積極的に実施されていることが明らかにされた3).しかし,対象が90歳代,100歳前後になるとなお検討を要する問題も多く,新しい発展が期待される今日である.今後の高齢者外科について,重視したい点を挙げたい.

老年者の身体的特徴

著者: 片山弘文 ,   福地義之助

ページ範囲:P.979 - P.982

 各種臓器は,形態的老化に伴い様々な機能上の変化,機能低下をきたすが,すぐさま治療対象とならないことも少なくない.脳神経系では睡眠リズムの変調とともに種々の機能低下が,呼吸器系では気腫性変化に伴う呼吸機能上の変化と動脈血酸素分圧の低下が,循環器系では運動負荷時の心機能の低下が著しい.これらの加齢による変化を念頭において,日々の老年者診療を行うことが大切である.

高齢者のリスクアセスメントと術前管理

著者: 磯野可一 ,   坂本昭雄

ページ範囲:P.983 - P.989

 平均寿命の伸びとともに,高齢者の手術も数を増している.しかし,高齢であるがために諸臓器機能は低下していることが多い.高齢者の特徴として,蛋白代謝の不活発化,循環器疾患の増加,肺閉塞性疾患の増加および呼吸筋力の低下,肝腎機能の低下があり,また高齢者に特有な器質性脳症候群などの合併症を有する症例も認められ,これらは術後合併症発生の大きなリスクとなる.術前管理としては,適切な栄養管理の下に心機能の評価,肺理学療法を行い,特に脱水に注意して管理すべきである.特に高齢者に対しては,患者と家族の理解と協力を得られるように,パラメディカルとともに十分に意思の疎通をはかることが大切である.

高齢者における外科的疾患の特徴

著者: 横路洋 ,   百名祐介 ,   櫛引邦亮 ,   島田正 ,   中山夏太郎 ,   林四郎

ページ範囲:P.991 - P.994

 75歳以上の外科手術自験例990例より,高齢者における外科的疾患の特徴を術前評価,手術適応,周術期管理,主な疾患,超高齢者,在院死亡例から検討した,患者評価のうえでADL(日常生活動作)が重要な意味をもっており,特に胃癌ではADL非自立例の長期生存は困難であった.超高齢者の手術適応は,疾患の特性,平均余命などを考慮して慎重に判断する必要があると考えられた.在院死例の検討より,術後の重篤な肺炎例では術前に何らかの感染が先行する例があることが示されたが,手術の時期を判断するうえで参考にする必要があると思われた.

高齢者上部消化管癌に対する外科治療

著者: 夏越祥次 ,   愛甲孝 ,   馬場政道 ,   帆北修一 ,   石神純也

ページ範囲:P.995 - P.999

 70歳以上の食道癌切除例72例と胃癌切除例98例を対象として,上部消化管癌における高齢者の外科治療の現況と問題点について検討した.70歳以上では約50%に術前合併症を認め,80歳以上では複数臓器の合併症が85%にみられた.術式は,加齢とともにリンパ節郭清は控えられていた.術後合併症は50%以上,特に80歳以上では65%に認められた.手術直接死亡率は2.9%であったが,70〜74歳の拡大手術例や80歳以上の手術を契機として,続発する合併症死に対する術式の選択に関する再考および退院後の他病死と手術との関連性を検討する必要がある.術前の身体的状況と癌の進行度を十分に把握したうえで手術の是非を決定し,70〜75歳では絶対的治癒切除を,75〜79歳では相対的非治癒切除以上を基本方針と考え,80歳以上ではキュアよりもケアをより重視した治療方針を検討すべきである.

高齢者下部消化管癌に対する外科治療—高齢者大腸癌に対する手術術式と臨床上の問題点

著者: 貞廣荘太郎 ,   安田聖栄 ,   田島知郎 ,   三富利夫

ページ範囲:P.1001 - P.1005

 高齢者の大腸癌は非高齢者に比し結腸癌の割合が高く,多発癌の頻度が高いという特徴があるが,進行度,組織学的分化度には差がなかった.80歳以上の大腸癌患者自験例の94%には,術前何らかのリスクファクターが認められ,49%には術後合併症が発生した.高齢者の直腸癌に対しては,非高齢者に比しハルトマン手術が選択される頻度が高かった.“高齢”は単独ではリスクファクターにはならず,高齢者大腸癌に対する手術術式は,各々の患者の一般状態に応じて選択すべきである.緊急手術を可能な限り回避し,術前状態の把握と全身状態の改善に努めることが治療成績の向上につながる.

高齢者肝胆膵癌に対する外科治療

著者: 古井純一郎 ,   藤岡ひかる ,   東尚 ,   田島義証 ,   冨岡勉 ,   兼松隆之

ページ範囲:P.1007 - P.1011

 高齢者の肝細胞癌,胆嚢癌および膵癌に対する手術の現状を,教室で経験した切除例を対象として検討した.手術は,肝細胞癌においては1区域以上の肝切除,胆嚢癌においては肝膵同時切除,膵癌においては膵全摘術や門脈合併切除を伴う膵頭十二指腸切除などの侵襲の高い手術術式が高齢者においても行われたが,高齢者群と非高齢者群との間で根治度,術後合併症発生率および手術直接死亡率に差はなく,術後の累積生存率も肝細胞癌と膵癌においては差はなかった.高齢者では,慎重な術前評価によって症例を選択し,適切な術前・術後管理のもとに積極的に根治性の高い手術を行えば,今後ますます増加すると考えられる高齢者の肝細胞癌,胆嚢癌および膵癌に対しても,治療成績の向上が期待できると考えられた.

高齢者急性腹症の診断と治療

著者: 磯谷正敏 ,   山口晃弘

ページ範囲:P.1013 - P.1017

 過去23年間における,80歳以上の高齢者急性腹症394手術例を前期,後期に分け検討した.その結果,後期では人口の高齢化に伴い手術例が増加し,原因疾患の頻度はイレウス,胆道感染症,消化管穿孔,急性虫垂炎,腹部血管疾患の順であり,これらが90%以上を占めた.手術直接死亡率は,消化管穿孔,腹部血管疾患において高率で,前期に比べても成績の向上はなかった.手術直接死亡例の多くが来院時よりきわめて全身状態不良で,救命困難な疾患であったが,術式の選択,術後合併症の防止によって手術死亡を防ぐことができたのではないかと考えられる症例もあった.治療成績向上のためには,外科医相互の連帯と,外科医,麻酔科医,コメディカルらによる昼夜を問わないチーム医療が不可欠である.

高齢者に対する麻酔法の選択と術中管理

著者: 木村智政 ,   小松徹 ,   横田修一 ,   澤田圭介 ,   島田康弘

ページ範囲:P.1019 - P.1023

 高齢者の麻酔リスクは,心循環系と呼吸器系の予備力低下に関連している.術前回診では合併症と経口薬に注意し,術前状態を評価して,可能なら最善の状態で手術に臨む.麻酔前投薬は原則として投与量を減らす.局所麻酔と全身麻酔のどちらが高齢者に適切かは結論が出ていない.脊椎麻酔では,刺入困難なときは傍正中到達法で刺入する.脊椎麻酔で使用する局麻薬は高比重と等比重が使用されているが投与量は減らす.硬膜外麻酔は麻酔補助と術後鎮痛のため,麻薬と局麻薬が手術前,中,後にわたって使用されている.静脈麻酔薬と吸入麻酔薬はともに投与量を減らす.術中は体温低下が生じやすい.術後せん妄や老人性痴呆などの精神障害の合併に注意する.

周術期の精神障害とその対策—ライフ・クライシスとしての観点から

著者: 巽信夫 ,   小泉典章

ページ範囲:P.1025 - P.1028

 高齢者の周術期をライフ・クライシス(life crisis)の観点からとらえ,その際に,まず患者のたどる心理過程を「不安」→「不安に対する防御反応(否認,退行など)」→「現実への直面化」→「受容」といった段階に分け紹介した.ついで,精神障害発現をこの心理過程展開困難との相関でとらえつつ,諸病態を術前,術後に分け具体的に記述した.最後に,これら精神障害への対応につき,心理,身体,環境といった諸次元を踏まえての全人的接近を念頭に置き概説した.

高齢者における術後管理のポイント

著者: 平田公一

ページ範囲:P.1031 - P.1036

 高齢者の術後管理にあたっては,まず術前より存在する併存症の正確な診断,評価を行う必要がある.つぎに,手術侵襲の程度を判断し,重要臓器に生ずる負荷を想定して術直後からの管理対策,方針を,原則として決定しておくことが大切である.併存症については,専門医による診断に基づいて,あるいは患者さんの日常生活の応答能を聴取のうえ,あらかじめ麻酔医に報告すべきである.術後管理は,すでに術中から始まっていると考えられるからである.いったん生じた合併症については,重症化しないうちに治療すべきである.高齢者では,とくに無気肺とこれに合併する肺炎や心機能障害が多発することが知られており,とりわけこれらの問題について具体的に記述した.

カラーグラフ 内視鏡下外科手術の最前線・8

食道胃静脈瘤に対する腹腔鏡下経カテーテル的硬化塞栓療法

著者: 板東登志雄 ,   北野正剛 ,   吉田隆典 ,   首藤浩一郎 ,   御手洗義信 ,   小林迪夫

ページ範囲:P.967 - P.972

はじめに
 食道胃静脈瘤の治療における近年の内視鏡的硬化療法の進歩には目覚ましいものがあるが,いわゆる棍棒状ないし巨木型と称される巨大食道胃静脈瘤に対しては本法単独では難治であり,しばしば摘脾,血行郭清術施行後に硬化療法の併用が行われている.しかし,この併用療法は硬化療法開始までに術後2〜3週の回復期を要し,また手術により退縮した静脈瘤に対して静脈瘤内注入が不確実となりやすく,完全消失までに長期入院を要する欠点を有している.
 これに対して,われわれは開腹下の胃大彎側の血行郭清および摘脾,小彎側での左胃動静脈の結紮に加え,左胃静脈からカテーテルを挿入,術中および術後早期より経カテーテル的に硬化療法を施行し(開腹下経カテーテル的硬化塞栓療法),治療効果および入院期間短縮の点で良好な結果を得てきた.さらに筆者らは,近年,消化器外科の分野で急速に発展してきたminimally invasive surgery1)の観点に立ち,腹腔鏡下経カテーテル的硬化塞栓療法2)を考案,施行しているので,その手技と成績について紹介する.

メディカル・エッセー 「残りの日々」・8

歌は世につれ

著者: 和田達雄

ページ範囲:P.1040 - P.1041

紫に血潮流れて ふたすぢの剣(つるぎ)と剣(つるぎ)運命(さだめ)とは かくもいたまし
 昭和17年,清水健二郎作詞・大山哲雄作曲:「運(めぐ)るもの星とは呼びて」の一節,旧制一高の第53回記念祭寮歌である.毎年8月15日が近くなるとこの歌を口ずさむ.まして,今年は戦後50年になる.鼻歌まじりで歌っていると「お父さん,はずれるようになったわねえ」と家内がいう.NHKの朝のドラマの主題歌,松任谷由美:「春よ,こい」を歌っていると思っている.メロディが何となく似ているのである.

私の工夫—手術・処置・手順・12

小切開による胆嚢摘出術

著者: 平井淳一 ,   白髭健朗

ページ範囲:P.1042 - P.1042

 腹腔鏡下胆嚢摘出術(以下LCと略)は,今や胆石症に対する標準的な手術術式として定着してきたといえる.しかし一方では,開腹による胆嚢摘出術も,LCからの開腹移行例あるいは何らかの理由でLCが不可能または不適当と判断された症例に対して行われている.このような症例に対し,われわれはLCの利点であるminimally inva—sive surgical techniqueを取り入れた,小切開による胆嚢摘出術を行っているので,その手術手技について述べる.
 麻酔は原則として脊椎麻酔を用いる.手術体位は頭高位で,30度の右側挙上位とし,術者は患者の左側に立つ.皮膚切開は腹部正中線と鎖骨中線との中間線で肋骨弓下縁から2cm離れた下方で3cmの縦切開とする.この切開線の直下にCalotの三角がある.筋膜,腹膜ともに3cmの縦切開で開腹する.なお,腹直筋は線維の方向に鈍的に裂く.腹膜,腹直筋後鞘を4針の結節縫合で皮膚に縫合して視野を良くする.開腹創より5.0×5.0×15.0cmのスポンジを3個腹腔内に挿入し,開創器を使わずに細い腸ベラでスポンジ上から十二指腸,横行結腸,大網を圧排するとCalotの三角が直視下に入ってくる.

イラストレイテッドセミナー・17

はじめての腹会陰式直腸切断術 Lesson 2

著者: 篠原尚

ページ範囲:P.1043 - P.1049

 10.直腸前方剥離に移る.先に切開したダグラス窩の翻転部腹膜を2本のコッヘル鉗子で把持し,助手に挙上してもらう.白い綿のような後前立腺間隙にクーパー剪刀で入っていくと,やがて左右の精嚢(女性では腟後壁)が現われる.剥離の層が正しければ,直腸側にはDenonvil-liers筋膜が付着しているはずである.後前立腺間隙の両サイドは膀胱の側方靱帯につきあたり,それを強引に切離すると骨盤神経叢からの膀胱枝が損傷される.せっかくの自律神経温存術式も水の泡になってしまうので,できるだけクーパー剪刀を直腸壁に沿わせて剥離する.

病院めぐり

大阪鉄道病院外科

著者: 赤見敏和

ページ範囲:P.1052 - P.1052

 大阪鉄道病院の歴史は古く,前身は大正4年に設立された神戸鉄道病院であり,昭和3年に現在地に新病院が建設され,神戸鉄道病院から大阪鉄道病院と改称されました.昭和57年には永らく続いた職域病院をオープン化し,昭和62年4月からは国鉄の分割民営化に伴い西日本旅客鉄道会社の直営医療機関となり,320床の総合病院として再出発しました.大都市,大阪の南部人口密集地帯をヒンターランドにもつ好立地条件,良好な地区医師会との関係などにより,地域医療に重点をおいた医療を行っています.
 現在の外科は,田中副院長をはじめ7名のスタッフで一般・消化器外科,呼吸器外科,血管外科,および乳腺・内分泌外科の診療に当たっており,厚生省の研修病院,外科学会の認定医修練施設,消化器外科学会の専門医修練施設に指定されています.手術症例は年々増加してきており,昭和61年度では全身麻酔症例が161例,腰椎麻酔症例が86例でしたが,平成6年度にはそれぞれ360例,92例となっています.全身麻酔症例の約60%が悪性腫瘍症例であり,平成6年度の主な悪性疾患は,胃癌76例,大腸癌66例,乳癌23例,肝臓癌15例(HCC 8例,転移性7例),肺癌14例,胆道癌および膵臓癌12例,食道癌3例などです.平成4年度より,時流にしたがい腹腔鏡下胆嚢摘出術,胸腔鏡下ブラ切除術を導入し,腹腔鏡下胆嚢摘出術は現在までに100例を越えています.

鹿児島徳洲会病院外科

著者: 飯田信也

ページ範囲:P.1053 - P.1053

 晴れた日には遠く天孫降臨の高千穂連峰を望み,間近には噴煙になびく雄大な桜島を仰ぐ鹿児島市.この人口50万の都市は,かつて明治維新を担った数多くの偉人を輩出した輝しい栄光につつまれています.
 そんな鹿児島市のちょうど真ん中にあるのが,わが徳洲会鹿児島病院です.当院は,徳洲会グループ31病院の第16番目の病院として昭和62年4月に開設され,徳田虎雄理事長の「生命だけは平等だ!」「年中無休24時間オープン」を合言葉にスタートし,また徳洲会の発祥の地である徳之島病院を含めた多くの離島病院の親元病院としてもスタートしました.

臨床外科交見室

老健法癌検診に対する福井県外科医会の取り組み

著者: 田中猛夫

ページ範囲:P.1054 - P.1054

 福井県の対がん検診システムは,県行政のもと福井県がん委員会があり,胃・大腸・子宮・乳・肺の各専門部会を設けて総括的事項を担当している.実務的事項は財団法人福井県健康管理協会(各がん委員会が設置されている)によって運営されている.医学的事項は,県下の各医会(日母県支部,外科医会)や各疾患の研究会など(胃腸疾患懇話会,胸部疾患研究会)が受け持って,研修会などを通じて精度向上に努めている(各検診ごとに年2回の県費補助がなされている).
 当県での癌集団検診の歴史は古く,胃・昭和41年,子宮・昭和47年に始められ立派な成果が挙がっている.全県での組織だった各種の検診は,昭和62年の老健法実施まで待たねばならなかった.一方,子宮癌を除けばこれら検診への外科医の貢献度は高く,上記のがん委員会でも委員の半数以上を占めている.その反面,各検診相互の整合性は必ずしも満足できるものではない.

脳死問題に思うこと

著者: 仁木基裕

ページ範囲:P.1055 - P.1055

 昨年の4月に臓器移植法案が国会に提出されたが,以来,審議入りのめどが立たないまま暗礁に乗り上げ等閑されている.この間,国内では,脳死移植の道が開かれないために末期肝疾患患者の親子間での生体肝移植が行われ,その数も140症例を越え,最近では血縁者同士の成人間の生体肝移植やABO血液型不適合間での生体肝移植が積極的に施行されている.その4年生存率は約80%と良好で,幸い提供者の死亡例はない.一方では,国内での治療の見込みがなく,国外での脳死臓器移植に救いの道を求める患者もあとを立たないのが実状である.いまや,脳死あるいは生体のいかんを問わず,移植医療は代替のない,社会的にも必要とされる治療であることは衆目の一致するところである.
 しかし,わが国では,生体肝移植という生身の体から臓器を摘出し移植する危険をはらんだ,そのため欧米では一般に回避されている手術が定着・普及し,先進国はもとより,いまでは東南アジア諸国でも容認され,日常の治療体系としてすでに確立されている脳死臓器移植は受け入れられないという特異な風景がある.ではなぜ,臓器移植行為そのものは是認されるが,脳死になると拒絶されるのだろうか.脳死臨調の最終答申では,医学的に脳死をもって人の死とみなし,その脳死を「脳幹を含む全脳髄の不可逆的停止」と定義し,その判定はいわゆる竹内基準によって行うものとしている.

シリーズ 早期癌を見直す・1 早期胃癌・4

早期胃癌の縮小手術の理論と実際—縮小手術の目指すもの

著者: 小玉雅志 ,   小山研二

ページ範囲:P.1057 - P.1063

はじめに
 早期胃癌患者は,早期に発見されたという理由で,長期生存と良好な術後状態という両方の利点を亨受できてよいはずである.かつて,早期胃癌に対しては,2群リンパ節郭清を伴う非癌部組織の広範な切除を行うのが一般的であった1,2).しかし,これまでの多数の症例の蓄積とその分析から,どのような胃癌がリンパ節転移を有するか,再発しやすいか3,4),を知ることが比較的容易になった現在,根治性を損なわないかぎり,進行程度や占居部位に応じて術後状態の向上を目指した術式を工夫,適用するべきである.
 早期胃癌に対する縮小手術の利点は,(1)標準術式で廃絶される機能が温存され,術後後遺症が減少する,(2)手術侵襲(時間,出血量など)が小さく,合併症が少なく,術後の回復が早い,の2点に集約される.表1に現在行われている縮小手術を示したが,縮小手術と機能温存とは必ずしも一致せず,切除量の多寡,胃のどの部位を切除するか,あるいは温存するかによってその利点が大きく左右される.

臨床研究

多発性内分泌腫瘍症を伴わない家族性甲状腺髄様癌の2家系

著者: 東泉東一 ,   高見博 ,   古田凱亮 ,   小坂昭夫 ,   覚道健一

ページ範囲:P.1065 - P.1069

はじめに
 甲状腺髄様癌はカルシトニンを産生する甲状腺傍濾胞細胞(C細胞)に由来し,約1/3の症例は常染色体優性遺伝の形式を示す遺伝性群で,多発性内分泌腫瘍症(multiple endocrine neoplasia:MEN)2a型(甲状腺髄様癌,副腎褐色細胞腫,上皮小体病変)または2b型(甲状腺髄様癌,副腎褐色細胞腫,粘膜神経腫など)を呈することが多い1,2).しかし,この家族性に発生する遺伝性群のなかで,1986年にFarndonら3)はMENを合併しない家族性髄様癌の家系を報告し,以後,新しい疾患群として分類されるようになった.この非MEN髄様癌はきわめてまれで,学問的にも貴重な疾患群と考えられる.
 筆者らはこの新しい疾患概念に該当する2家系を検索してきたので,その臨床像,治療成績などを報告する.

臨床報告・1

特発性脾梗塞と考えられる1手術例

著者: 望月文朗 ,   冨岡一幸 ,   窪田信行 ,   水野泰彦 ,   佐藤史井 ,   小張淑男

ページ範囲:P.1071 - P.1074

はじめに
 脾梗塞はまれな疾患であり,そのなかでも基礎疾患を有しない特発性脾梗塞の報告例は少ない.今回われわれは,左側腹部痛で発症した特発性脾梗塞の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

腹部アンギーナの1例

著者: 西田豊 ,   櫛渕統一 ,   野々山明 ,   香川潔 ,   柴田純祐 ,   小玉正智

ページ範囲:P.1075 - P.1078

はじめに
 腹部アンギーナは慢性に生じた腸管虚血が原因となって発症する疾患で,食後の腹痛,体重減少,便通異常を特徴とする1).今回われわれは,腹部アンギーナにより汎発性腹膜炎をきたした1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を合併した胃癌の1例

著者: 増子洋 ,   坂本隆 ,   日野浩司 ,   斎藤素子 ,   藤巻雅夫 ,   森岡尚夫

ページ範囲:P.1079 - P.1084

はじめに
 特発性血小板減少性紫斑病(以下,ITP)は,それ自体治療に難渋する疾患であるが,ITPを合併する症例に対し,外科的手術侵襲を加える場合,術中・術後の出血,創傷治癒の遅延に対し,十分な管理が必要である.また,脾摘はITPに対する治療として確立している.
 今回われわれは,20年以上に及ぶステロイド療法にて管理されたITPに合併した胃癌に対し,術前免疫グロブリン大量療法を行い,脾摘および幽門側胃切除術を施行し得た1例を経験したので報告する.

限局性壊死により穿孔した胃切除後胆石症の1例

著者: 山本隆嗣 ,   枝川篤永 ,   首藤太一 ,   森本義彦 ,   広橋一裕 ,   木下博明

ページ範囲:P.1085 - P.1088

はじめに
 胃切除後の急性胆嚢炎は,胆嚢壁全体の炎症性肥厚を伴うため,術前に診断されることが多い1).今回われわれは,胃切除後の胆石合併胆嚢穿孔症例を経験したが,本例の胆嚢壁は限局性に肥厚,穿孔していたため,術前診断に苦慮した.本例をもとに,胆嚢穿孔の機序を中心に若干の文献的考察を加え報告する.

発病が気づかれなかった,虫垂炎に続発したと思われる自覚症状に乏しかった腸腰筋膿瘍の1例

著者: 田中洋輔 ,   松本康久 ,   高橋晃 ,   小越章平 ,   久直史 ,   木俵光一

ページ範囲:P.1089 - P.1093

はじめに
 腸腰筋膿瘍は,本邦では脊椎カリエスの減少により,認識がないと鑑別診断から抜け落ちてしまう稀な疾患となっていたが,近年,CT,超音波断層診断などの画像診断装置の普及により非結核性化膿性膿瘍の報告が増加している1,2).それらの報告は,整形外科,内科,外科,泌尿器科,婦人科領域に分散し,高熱,疼痛,腸腰筋肢位(Psoasstel-lung)の明らかな自他覚的症状があり,画像診断所見と合わせて診断されている.
 今回われわれは,右下腹部腫瘤を主訴として来院し,上記症状に乏しかったため診断に苦慮した症例を経験したので報告する.

後腹膜に発生した傍神経節腫の1切除例

著者: 田原一樹 ,   大畑佳裕 ,   千々岩一男 ,   佐久本操 ,   梶原正章 ,   田中雅夫

ページ範囲:P.1095 - P.1097

はじめに
 後腹膜腫瘍は比較的稀な疾患であり,Packら1)は,全腫瘍数に対しその発生頻度は0.2%と報告している.そのなかでも,後腹膜原発の傍神経節腫(paraganglioma)の報告例は150例にも満たず,本邦報告例は54例にすぎない3-6)
 今回われわれは,後腹膜原発の傍神経節腫の1切除例を経験したので報告する.

臨床報告・2

シスプラチン,5-FU併用療法によりCRの得られた再発胃癌の1例

著者: 津金恭司 ,   紀藤毅 ,   白井正人 ,   山村義孝

ページ範囲:P.1098 - P.1099

はじめに
 再発胃癌にcisplatin(以下,CDDP),5-fluoro-uracil(以下,5-FU)併用化学療法を行い,CRとなった症例を経験したので報告する.本症例は,化学療法終了後,1年あまり経過したが,再発の徴候なく生存している.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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